恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい   作:うちっち

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結成! 凡人同盟!

 高宮城先輩と北辻さんのペアは、その後も体育会系のチャレンジ企画を手当たり次第に荒らし回った。身体能力のゴリ押しで全てを解決する高宮城先輩と、執念でそれにくらいついていく北辻さん。

 

 

 

 高宮城先輩が瓦割りの際、掌底で瓦を全て粉々に粉砕してしまうという心温まるハプニングがあったものの、おおむね騒ぎにならずにチャレンジは終了した。特に、校内腕相撲選手権の準決勝で当たった高宮城先輩と北辻さんの5分を超える熱戦にはギャラリーも大いに沸き、歓声の中で非常に大盛り上がりを見せた。あれは後世にも語り継がれるのではないだろうか。……あれ? こうしてみると、北辻さんも結構な人外では?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし無事に体育会系部門は突破した。とするとここからは文科系部門、なのだが……。正直、どんな関門があるかもさっぱりわからない。だがこうなったら突っ込むしかない!

 

 

 ということで、順調に進む俺たちは、続いて美術室にやって来た。ここからは、文科系チャレンジ。主に屋内が主戦場となる。訪れた部屋には、いくつかの絵が展示されており、なぜか分厚いガラスと警報装置のようなものが取り付けられていた。

 

 えーっと、なになに? ……ここでのお題は、部員が描いた絵が飾ってある中に本物の画家の絵が混じっているのを見分ける、か。本物の絵は市内の美術館から借りてきたらしい。道理で厳重に警備されてるわけだ。それにしても、よく貸してくれたな……。

 

 

 

 

 さて、俺が見ても本物の画家の絵とやらはさっぱりわからなかったので、まずは我らがエース、高宮城先輩にお伺いを立ててみた。先輩は絵を真剣な目でじっと見つめている。

 

「高宮城先輩、どうですか?」

「全部絵だわ」

 

 ……あっ……無理っぽい……。やはり高宮城先輩は知識としては知っていてもこういう感性を問われる物には疎いか……。まあゲームでも無理だったし。

 

 

 

 俺はちょっぴり肩を落とし、その隣にいる北辻さんにもついでにご意見を聞いてみた。

 

「北辻さんはどうですか?」

「あたしもパスね」

 

 うん、北辻さんがこういうのわかんないのはなんか知ってた。

 しかし俺があっさり次に行こうとしたのが気に食わなかったのか、北辻さんは何も言わなかったものの、大いに不服そうな顔をした。いや、だってわかんないなら粘っても仕方ないじゃん……。

 

 

 

 

 

 それとも北辻さんが芸術的感性に目覚める可能性に賭ける? でも突然そんなの目覚めないよな。いきなりすぎる。そういや俺って野球ゲームとかでもいきなり試合前に球速20キロ上げるとかするんだけど、あれ周りのチームメイトはどういう目で見てんだろ……。

 

 

 

 

 

 俺はゲーム世界と現実の差異について思惟を深めつつ、貝森ちゃんにも話を振ってみる。ただこっちも望み薄かな……。だって貝森ちゃん、確か美術の時間中落書きしてて怒られたエピソードとか持ってた気がする。明らかに駄目そう。

 

「貝森ちゃん、わかる?」

「あたしも全部上手いなあ、としか……はは、ごめんなさい」

 

 

 

 

 俺がさらに視線をスライドさせ、貝森ちゃんの隣にいる崇高をスルーして最後の一人に聞こうとすると、崇高は慌てたように自分を指さし、口を開いた。

 

「いやいや汐音、俺は⁉」

「崇高くん、さっき立ったままちょっと寝てたでしょ。もう聞くことは何もないんだよ」

 

 そうなんだよ。こいつ器用なことに寝てやがった。まあある意味一番素直に芸術を受け止めているのかもしれんが、今はそういう素直さは必要ないんだ。

 

「だって文化祭が楽しみで昨日全然眠れなかったんだよ!」

「小学生なの?」

「まあまあお二人とも、夫婦喧嘩しないでください」

「夫婦喧嘩って次言ったら怒るからね貝森ちゃん! ……それより、柚乃ちゃん。どう思う?」

「あれですねぇ」

 

 柚乃ちゃんがすっと指さしたのは、端の方に飾られている地味な絵だった。窓辺に飾られた花瓶に咲く一輪の花。周りの絵が色とりどりに鮮やかなのに対して、その絵はどこか質素で慎ましやかに見える。間違いかと思い、俺は念のため確認を取ってみた。

 

「……ほんとにあれ? 隣のレインボーな壺の絵の方じゃなく?」

「ええ。筆遣いが明らかに違いますから」

 

 さらりと言って微笑む柚乃ちゃん。それを貝森ちゃんはどこか微妙な顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからいくつか芸術系の部活を回り、いずれも柚乃ちゃんの活躍により撃破することに成功する。しかしエース柚乃ちゃんの顔にやや疲れが出てきたので、華道部を出た後、中庭で休憩を取ることになった。歩き回って俺の足も結構限界だったし、正直ありがたい。

 

 

 息をついて、俺はどっかり芝生に腰を下ろしながら、他のみんなを見渡してみた。崇高はちょうどトイレで席を外しているので、この場にはいない。

 

 

 

 北辻さんと柚乃ちゃんは何かを話しながら笑い声をあげている。

 高宮城先輩は中庭の真ん中に立ち、いつも通りに空を見上げて静かに佇んでいる。

 貝森ちゃんはなんかちょっと離れた階段のところに腰掛けてぼーっとしてるのが目に入った。

 

 ……ふむ。これがゲームなら選択肢が出ている気がする。

 

 

 

(1)高宮城先輩に話しかける

 

(2)北辻さんと柚乃ちゃんに混ざる

 

(3)貝森ちゃんに声をかける

 

 

 

 

 みたいな。俺は貝森ちゃん推しなので、当然最後の選択肢。ゲームではこんな風に一堂に会するのはもっと後なので、どれが正解かは分からない。とすると、自分の心に従うとしよう。

 

 貝森ちゃんはこちらに背を向けていたので、死角から近づいてみる。……そうだ!

 

 

 

 

 俺はついつい芽生えた悪戯心から、自販機で缶ジュースをガコンと買った。そしてひんやりとしたそれを、貝森ちゃんの首元にぴたりと当ててみる。「ひゃっ!」という声を上げて振り向く貝森ちゃん。しかし怒られるかなと思いきや、彼女は黙ってふいっと再び前を向いた。え、無視? い、いやいや。そんなまさか。

 

 ……ひょっとして、前方にそんなにいいもの見えるの? 徳川埋蔵金とか?

 

 

 

 しかし、俺も貝森ちゃんの視線を追ってみたものの、特に何も気になるものはない。正確には、灰色の校舎の壁しか見えなかった。あれに夢中になるほど貝森ちゃんが精神に闇を抱えていた記憶はないが……。

 

 

 何かわかるかと思い、よいしょ、と貝森ちゃんの隣に腰掛けて同じように前を向いてみた。角度が大切なのかと思ったが、こうして見てもやっぱ何も見えないな……。もういいや、直接聞いてみよう。貝森ちゃん、なんで元気ないの?

 

「いえ、こうしてみると、あたしだけ何もないなあって……」

 

 頬杖をついたまま、ふーーっと深い溜息をつく貝森ちゃん。まあ確かに、高宮城先輩は言わずもがなだし、柚乃ちゃんは華道、美術、音楽、書道と何でもござれ。

 

 

 

「……まさか柚乃にあんな特技があったなんて……今まで聞いたことなかった」

「そりゃ柚乃ちゃんは自分からはあんまり言わないだろうねえ」

「なんでですか」

「ほんとは、美術も音楽も書道も、別に好きじゃないから」

 

 俺の言葉に、貝森ちゃんはやっと顔を上げ、こちらを向いた。その顔には、訳がわからないよ、と全面に書いてある。彼女は柚乃ちゃんの方をちらっと目だけで振り返った。

 

「じゃあなんであんなに詳しいんですか」

「柚乃ちゃんの家はちょっといいお家柄というか、子どもはみんな、教養の一環として一通りの稽古事を強制的に受けさせられるんだよ。だから柚乃ちゃんは家でもずっと気が抜けないの。学校に自分だけの秘密基地を見い出すくらいにね」

 

「……本当ですかそれ? だってそんなこと……」

「言うと思う?」

「あいつは言わないですね。……あーそっかぁ……そうですか……」

 

 

 

 

 やっとこっちを向いたと思ったら、また貝森ちゃんは前を向き、何やらアンニュイな感じで遠くを見つめ始めてしまった。それどころかそのまま膝にゆっくりと顔を埋める。

 

「なんかさらに元気ないね」

「いや、あたしって最低だなあって。しかも一番の役立たず」

「……どういうこと?」

 

 俺がまじまじと見つめたままなのを感じたのか、しばらくして、根負けしたようにそろそろと貝森ちゃんは顔を上げた。しかしこちらの方は向かないまま、おずおずと口を開く。

 

 

 

「……いえ、あたし、さっき……羨ましいなって思ったんですよ。高宮城さんも……柚乃も。あたしいっつも『特別な自分』に憧れてたみたいなとこ、実はありまして」

 

 お恥ずかしい、と苦笑しながら貝森ちゃんは頬をかき、また半分だけ顔を隠す。その頬と耳は確かに真っ赤になっていた。……ただ俺にはどうもよくわからない。

 

「それが恥ずかしいから最低なの?」

「そうじゃありません。柚乃は誇らしいなんてきっと全然思ってなかったのに。……ただ外から見て羨ましがってたさっきまでのあたしって、一体なんだろうなって」

「いいじゃない。単に知らなかったからだよ」

 

 ぽんぽん、と貝森ちゃんの頭を軽く叩きながら、俺はまだ隠れたままの彼女をフォローする言葉を口にしてみる。そう、何も問題なぞ起こっていないのだ。ゲームなら追加の台詞の選択肢が出ていることだろう。こんなの言う一択に決まってる。

 

 

 

 

「まあ柚乃ちゃんは頼られること自体は好きな子だってことも知ってるし。あの子ね、実はそういう、善意で動く人、みたいなのに憧れてるところあるからねえ」

 

「……うわ怖っ。マジで怖いこの人」

 

 なぜか貝森ちゃんが体育座りをしたまま、ずりずりと俺との間を少し開けた。そして腕の間から見えている目が、さっきまでより少し俺のことを怖がっている気がする。……どうやら俺の選んだ選択肢は失敗だったらしい。

 

「あ、ひどいんだ。それあからさまないじめだからね! 私、泣いちゃうよ」

「解決手段がまるで幼児みたいな……でも汐音先輩が泣いたら怖い人が一人、いますねえ」

 

 

 

 

 やれやれ、と苦笑しながら貝森ちゃんは首を振った。しかしその顔は、さっきまでよりは少しだけ明るいように見える。ちょっとは気が紛れたらしい。

 

「柚乃ちゃんが一番自然体でいられるのは、貝森ちゃんをいじってる時なのかもね」

「……うわ、それは聞きたくなかった……」

「でも、たぶん、柚乃ちゃんの件で凹んだなら、きっとどこかで気にしてるんだよ。それに貝森ちゃん、高宮城先輩とも関係悪くないでしょ?そういうのも立派な力だと思うけど」

 

 だって先輩と関係構築できるのって結構レアだよ? 現に崇高は全然できてないから。

 

 

 

 

 

 だが俺の台詞を聞いて貝森ちゃんは再び頭を抱え、ぐしゃぐしゃっと頭を掻きむしった。

 

「いや、だからその中であたしだけ明らかに普通なんですって……!」

 

 なんと、俺の迂闊な台詞によって貝森ちゃんが5分前の状態に逆戻りしてしまった。これなんてループ物? えー? 普通なのが嫌なの?

 俺が知る限り貝森ちゃんのその特性ってむしろ利点よ? アドバンテージよ? だって真っ当な社会人になれそうなのって主要キャラの中で貝森ちゃんしかいないからね。

 

 いや柚乃ちゃんは……ギリギリ……でもなれてもそのうちキレちゃいそうだし。さすがに勤務中に机の下にごそごそ潜り込むのを良しとする会社はそんなにないだろう。たとえあったとしてもそんな会社はヤバいのでそんなもんどっちみち一緒である。

 

 

 

 

 

 しかし、そうか。「あたしだけ」か……。

 お、我ながら非常にいいことを考えついてしまったかもしれん。これですべて解決じゃね? なにせ俺ってゲームの登場人物じゃないから、中身は根っからの凡人。

 

 俺はすっと貝森ちゃんの方に手を差し出した。意図が伝わらなかったらしく、貝森ちゃんは不思議そうな顔をして俺を見つめる。なので、パチンとウインクしてみた。

 

 しかし貝森ちゃんは、困惑したように俺の手を見つめるだけだった。

 

「え、なんですかこの手」

 

「ふふふ、わからない? ね、貝森ちゃん! 私と、『凡人同盟』を結成しない? ……あれ? え……な、なに、その顔……? どういう感情それ?」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 とてもいいことを思いついたと思ったのだが、なぜか貝森ちゃんが手を取ってくれず謎の沈黙がひたすらに続いてしまったので、俺はしばらくして手を引っ込めた。俺が自分の手をまじまじと眺めていると、貝森ちゃんはどこか気まずそうにそれを見つめる。

 

「いえ、嫌なんじゃなくて……そのぉ……」

 

 もごもご、と口の中で呟いたので、貝森ちゃんの言ってることはよく聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 ま、しょうがないか。同盟というのは相互の了解があってこそ成り立つものなのだ。それに俺と比べたら貝森ちゃんでも十分特別だし。「一般市民のお前なんぞと一緒にするな」とそういう意味かもしれない。いいよいいよ、そういう自覚とっても大事よ貝森ちゃん。

 

 

 

 

 

「それより貝森ちゃん、ここからは注意ね。私にも何が起こるかわからないんだから」

「汐音先輩にも⁉ わからない⁉」

 

 お、おう。叫びながら顔をのけぞらせるという貝森ちゃんの大袈裟なリアクションに内心ちょっと引いてしまったものの、頷く。だってゲームでスタンプラリーって制覇できないもん。高宮城先輩と回ったら芸術系でアウト、柚乃ちゃんと回ったら体育会部門か途中で貝森ちゃんと遭遇したらアウト。柚乃ちゃんは貝森ちゃんの後を追ってデートをエスケープしてしまうからな。

 

 

 

 

「でね、だいたい制覇したからいったん大会本部のテントに戻ろうと思うんだけど」

「なんでテントに?」

「だってほら、見て。他の全ての項目を制覇したら来てください、って書いてあるでしょ」

 

 俺が指さしたスタンプラリー台紙の一番真ん中には謎の空白があり、その言葉だけが書いてあった。とっても怪しい。そりゃ貝森ちゃんに注意喚起もするってものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺たちが固まってグラウンドにある大会本部へ移動を開始していると、道中、何やら見知らぬ人たちからパシャパシャとやたらに写真を撮られた。「何あれかわいい!」「俺の目が正しければ、今奇跡が歩いてる……!」「天使に足があることを初めて知った*1」なんて声も聞こえる。

 

「汐音先輩の恰好が人目を惹きすぎるんですよ。腕相撲大会の時も、美術部でも、さっきの華道部でも撮られてました。気づいてなかったんですか?」

 

 

 

 なんと、俺はいつの間にか、撮られることに慣れきってしまったらしい。精神が自衛を働かせた結果だと思うが、絶対いらん能力だなこれ。というか一般生徒を無断で撮るんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大会本部の受付の子は、俺が差し出したほぼ全てが埋まった台紙を見てさっと顔色を変えた。そのまま、奥に座っているいかにも偉そうな上級生の所に駆け寄っていく。

 

「会長! た、達成者が出ました! 十五年ぶりです!」

「……ほう。おや、君たちか。今日は何かある気がしていたよ。……さて」

 

 ニヤリと笑ったその上級生は、ふぁさっと学ランを羽織って立ち上がった。なんだか絵になっている。いかにも生徒会とかで権力を奮ってそうな奴だった。

 

「あなたを倒したらクリアですか?」

「いや俺なんかが相手になる訳がない。俺もさっきの瓦割りは観戦させてもらったからね」

 

「ということは……もう達成ですよね? でないとこちらの高宮城先輩が『次は会長を割ってみたい』と言い出しかねませんよ。この方はとても気が短いのです」

「残念ながら最後にひとつ。突破してもらわないといけない最大の関門があってね」

 

 俺がけっこう強気に攻めてみたにもかかわらず、会長とやらは全然残念じゃなさそうに肩をすくめた。こやつ、なかなか肝が据わっておる……。

 

 一方、先輩も、俺の言葉を聞いても見事に表情を変えなかった。なかなかいい勝負だと言えよう。にしても、最大の関門とは……?

 

 

 

 

 

 

「簡単さ。二時間、鬼が追いかけるから、逃げ切れば勝ち。いうなれば『鬼ごっこ』だよ」

「あれ、確かに簡単な……?」

 

 だって誰が鬼だろうが、こっちには高宮城先輩がいるんだ。この人3階から飛び降りても「痛っ」くらいで済むぞ。わが校がいかに大きいとはいえ、そんな生徒が何人もいるわけがない。一人いる時点でそもそもおかしい気もちょっぴりしなくもないが。

 

「君たちのリーダー、班長、まあ何でもいいが、代表者は誰かな? ルールの説明をしたい」

「ケチらずみんなにしてくれたらいいのに」

「まあそう言わずに。……君、ということでいいかな?」

 

 なにやら俺の後ろを見ながら俺に向かって話す会長。その視線を追って振り向くと、みんなは一斉に俺を指さしていた。まあ、別にいいけど……。確かに俺が誘ったし。

 

 

 

 

「じゃあ私が代表者で」

「では、君が逃げ切れば勝ちだよ。ルールとしては二つ。まず、隠れるのは禁止。もう一つは、学校の敷地内から出るのも禁止だ。以上」

 

「……へっ?」

 

 

 

 

 

 そして、会長は黙って俺に背を向け、スタスタと元の席に向かって歩き始めた。同時に、あちこちのスピーカーから、アナウンスが鳴り響く。

 

 

 

 

 

『今から三十分後に、イベント"鬼ごっこ"を開始します。校内を逃げ回るターゲットを捕まえると、大会本部から豪華賞品を差し上げます! ぜひご参加ください! ターゲットの姿は校内に掲示しますので、見かけたらご一報を!』

 

「言い遅れたが、鬼は君たち以外の全員だ。健闘を祈る。では、三十分後にスタートだよ」

 

 

 

 

 

 元通りテントの奥の席に座った会長が、皮肉気な笑いを浮かべ、注釈を付け加えてくる。

 

 ……あーはい了解。これ交渉しても聞いてもらえないやつね。覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 

「高宮城先輩! 私を背負って走ってください! 全力で! みんな、崇高君に聞いて! 『先輩のいつもの場所』に私たちは行ってるから。そこで作戦会議!」

 

 間髪入れずに俺をひょいと背に乗せ、走り出す高宮城先輩。場所を告げなくとも先輩には伝わったらしい。さすがあそこの主だけある。

 

 

 

 

 

 

 視線を感じたので後ろを振り向くと、顎を撫でつつ会長はニヤリと笑っていた。いかにも余裕がありそうである。このやろう。賞品をあの黒い石じゃなく、お前と高宮城先輩のボクシング無制限一本勝負にしてやろうか。

*1
たぶん幽霊と混同していると思われる

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