恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい 作:うちっち
魂が体から抜け出しているという今の汐音ちゃんの状態はすっごくヤバいらしい。よく考えてみたら当たり前の気もする。
「ということは、すぐ捜さんといかんよね」
「ええ。一刻も早く、隅々までっ」
「……これ結局、誰を捜すの? ねえ高宮城、わかった?」
「はい。だいたい」
「嘘!? あんたいっつも思ってたんだけどねえ! 真顔で嘘つくのも大概にしときなさいよ!?」
騒いでいる上級生組も置いておいて、俺はリネットを引っ張り、こそこそと廊下の隅まで移動した。どうも外野がいる状態だとちゃんと話せなくていかん。あのままだと色々バレそうだったし。
「で、リネットは汐音ちゃんの居場所とかわかんないの?」
「わ、わかんないです」
「魔女なのに?」
「な、なんでそれをっ……ていうかだからあなた、だ、誰なんですか?」
「言ったじゃない。夜桜汐音ちゃん高校2年生(仮)だって」
「い、言いましたっけ?」
「うん。それで、わかんないの? 居場所」
「それが、汐音さんはなぜかはっきり見えなくて……会った時からそうでした。そこにいるけど、そこにいない、みたいな。何を考えているかも正直よく……まるで……」
リネットはそこではっとしたように口をつぐむ。だが俺にはその続きがわかった。……「まるで、既にこの世の者ではないような」。おそらく、そう言いかけたのだろう。
……いや、しかしなぁ……。リネットの感想もわかるっちゃわかるんだが、なんか俺の中の汐音ちゃん像とまだしっくりこないっつーか……。だってゲームだと病弱だけど世話焼きでよく笑い、他人のために一生懸命になれる、そんな子だったぞ。しかもうっかり属性の。
しかし俺は、同時に母上殿の怪談を思い出す。
——「無表情でいつの間にか後ろにいる、そんな子だったわ」。
果たしてどちらが、本当だろう。
「でもっ、私も責任を感じますのでっ。なんでもできることがあれば教えてくださいっ」
「おお……」
これはありがたい。だってリネットって、万能っていうか。いや今さっそくできないことあったわけだけどな。それはともかく、メンタルが揺れてない時の彼女ほど頼りになる人間はいない。対抗できるのはやる気モードの高宮城先輩くらい。ただ問題はすぐにパニックに陥ってしまうことだが……。
「ありがとう。思いついたらまたお願いするね」
どっちにしろ、黒い石が関係してるっぽいのは間違いない。とすると不思議担当のリネットに聞かないといけないこともきっとあるだろうし。あ、そうだそうだ。さっき途中で記憶が切れてたから気になってたことをまず聞いてみよう。
「そういえば、なんで崇高くんを怖がってたの?」
「……あの人は呪いなんてものでなく、もう存在そのものが歪んでいますから」
「んん? どゆこと?」
「とにかく周りを巻き込む不幸を呼び寄せやすい体質というかっ」
「うん」
「一言で言うと、生きて動くブラックホールみたいな存在ですっ」
確かにそれはヤバい。近くにいればいるだけ巻き込まれる可能性も高いんだろうし。…………ん? これ……汐音ちゃんの体調不良ってもしかして……。
俺はふとある疑問を抱き、そーっと後ろを振り返った。
……あ、よかった。崇高の野郎、窓からなんかグラウンド眺めてるわ。そのままでいてくれ。今俺が思いついた仮説を聞いたらあいつ自殺しかねん。
「ちなみに、ブラックホールを鎮めるにはどうしたらいいのかな?」
「世界規模の力が要ります。私にはちょっと……む、無理です……」
マジかよ。ゲームだと誰ルートでもいいからグッドエンドに進んだら誰も不幸にならなかった気がするぞ。あいつの恋愛成就って世界規模なのかよ。さすがゲームの世界の俺。
……ということは、皆が幸せに暮らすためにはやはりあいつに誰か彼女ができることが必要なわけか……。汐音ちゃんを見つける、崇高に恋人を作る。両方やらないといけないのが辛いところだ。オリジナル汐音ちゃんが崇高の奥さんに納まってくれたら全て解決なのだが、なんか望み薄そうだったし……。うーん。
「あの、あの、な、何でもしますので。言ってくださいっ」
考え込んでいる俺が不機嫌になっていると思ったのか、リネットは慌てたように声を上げた。俺は考えを止め、彼女をあらためて見つめる。……ん? 今、何でもするって言った……?
「……。ほんとに?」
「え、ええ。どうぞっ」
ちょこんと姿勢を正すリネット。うむ、かわいい。合格。俺は優しく微笑みながら、逃げられないよう彼女の肩にそっと手を掛ける。
「ちなみにリネットって今さ、恋人募集中だったりしないかな?」
「い、いえ……特にはっ。ひ、必要だと思ったことがありませんし……。で、でもなんでいきなりそんなことを?」
「実はね、リネットにぴったりのいい話があるんだよぉ。聞きたい? 聞きたいよね」
「えっ……えっ?」
「こらセンパイ。めっ」
ぺしっと突然頭を軽く叩かれ、俺は隣を振り返る。そこには貝森ちゃんが腰に手を当てて呆れたような顔をしていた。いつの間に。
「な、なんで邪魔するの貝森ちゃん。今いいところなのに。……聞いてた?」
「いや、お2人の話が長すぎるんですって。で、すみません、途中から聞いてましたが……正直何言ってるのかはさっぱりでした」
「……途中って、ちなみにどのへん?」
「ブラックホールを鎮めるには、みたいな。どういうジャンルの話ですか。……にしても駄目じゃないですか、また知らない人に竜造寺先輩を押し付けようとしてたでしょ」
「リューゾウジセンパイ……? ワカラナイ……シラナイ……」
これはまずい。リネットに俺の前科がばらされると、成立するものも成立しなくなってしまうではないか。ふるふると首を振り、俺は全力で猫を被って回避行動を開始した。
「なぜにいきなり片言ですか。いやそんなつぶらな瞳で見返してもさすがに無理ありますって。ほら、ごめんなさいは?」
ところが俺の渾身のしらばっくれを貝森ちゃんは普通にスルーしてくる。うーむ、だんだんと慣れられてしまっているような……。
俺はリネットに誠心誠意、頭を下げた。崇高を押し付けていると受け取られるような行動をとってしまったことは大変遺憾であります。
「はい、よろしい。……で、次は誰を捜すんです? たぶんそういう話なんですよね?」
やれやれ、という感じで首を振る貝森ちゃん。どうやら手伝ってくれるらしい。俺は真剣な顔で、我が頼もしき右腕を見つめた。
「じゃあ貝森ちゃん、早速だけど私を捜そう」
「……まーた真顔で変なこと言ってる……一応確認しますけど、それってさっきの教室での話ですか?」
「ちなみにリネット、どのくらい過ぎるとヤバいの?」
「さ、3週間が限度だと思いますっ……」
あれもうヤバいじゃん。俺が起きたら汐音ちゃんだったのが、だいたい2週間前。それからずっと汐音ちゃんは体に戻ってないわけだから、あと残り1週間しかない。…………ん? あれ?
「じゃあ私は……? 本来の体から思いっきり離れちゃってるんだけど。これってヤバくないの?」
「……。さ、さあ……?」
俺の質問に対し、リネットは遠い目をしてすっと不自然に顔をそらした。……あ、了解。ヤバいんだ。じゃあ俺も戻らんといかんわけだが、そもそもある日起きたら汐音ちゃんだったんだぞ。どうやったら戻れるかなんてさっぱりわからん。
「と、ともかく汐音さんに聞くしかないと思いますっ。あなたをどこから呼んだのかも不明ですしっ」
「ならここにいるセンパイはそもそも誰なんですか。さっきも思ったんですけどこれ」
「そういえばさ、なんでリネットはここに?」
「あ、もう。無視しないでくださーい」
「SNSでたまたま文化祭の写真が流れてきたんですが、黒い石が写っていたので回収しに来ました」
「……黒い、石?」
俺の隣で話していた貝森ちゃんは、ぴたりと動きを止めた。俺と貝森ちゃんの視線が宙で交錯する。『アレですか?』というアイコンタクトが飛んできたので、『うん。だから何も聞かないで』と依頼を送っておいた。
「リネットさん、それってまずいものなんですか?」
「あ、こら貝森ちゃんってば」
「はいっ。……世界を改変する力を持つので、下手に放っておくと危ないんですっ」
いい子なので聞かれたことには素直に答えてしまうリネット。貝森ちゃんはそれを聞いて、すごい目でこちらを見てきた。いやちょっと待った。気持ちはわかる。わかるんだが、頼むからそんな目で見ないで。
「道理であんなに欲しがってたと思った……」
「いや、違うの」
「言ってたやりたいことって実は世界征服ですか……」
「うん、それはマジで違うかな」
貝森ちゃんの中の俺ってどんな存在なの? 魔王か何か? ……しかし制限時間が付いてしまった以上、ぐずぐずしている暇はないな。
さて、汐音ちゃんはいったいどこにいる? そもそも母上殿が見たんだから、その辺にいるのは間違いないはずなんだが。街にもいたし。なんか「私を捕まえて」とか言ってた。でもなあ…………あれ? そもそも。
「そういえば貝森ちゃんってさ、私見てないの?」
「今見てますが」
「そういうことじゃなくって! ほら、北辻さんのお店に初めて行ったとき! ベンチで休憩したときに、もう1人の私が出てきたでしょ!?」
すると、貝森ちゃんは「何言ってんだこいつ」みたいな表情で俺を見つめた。心なしかちょっと引いてる気もする。
「いえ……全くもって見てませんけどぉ……」
でもそういや確かにあの時って、誰も周りにいなくなってたもんな。だから貝森ちゃんは見ていない。なら、何で……母上は見た? ……これは何かのヒントにならないか?
「貝森ちゃん! 教室に戻るよ! ……リネットもついてきて!」
俺がダッシュで廊下を走り出すと、後ろから貝森ちゃんの焦ったような声が聞こえる。
「ちょ、センパイってば! 待っ……遅っ!?」
全然進まない俺を見かねたのか、高宮城先輩が俺をすっと抱き上げる。いかん、俺の内臓がヤバい。すると、俺の不安が顔に思いっきり出てしまっていたのか、先輩は静かに俺を見つめる。そこに「任せて」という意思を感じ、俺はおそるおそる頷いた。
「お願いします。私の教室まで」
それから30秒で教室には到着した。今度は新幹線もかくやというくらいに揺れなかった。先輩の進化の速度恐ろしいな。どうなってんだろ。
「あら我が娘。今度は綺麗なお姉さんにおんぶなんてしてもらっちゃって。しかしモテモテねあなた」
「お母さん! さっきの話なんだけど!」
俺が先ほどの話を突き詰めると、母上殿は困ったような顔をした。
「詳しく、って言っても……」
「何か気づいたことはある!? 気になったこととかでも!」
「んー……そうねえ……。あ、そういえば」
ふと、何かを思い出したように母上殿は上を見上げた。
「服」
「……服?」
「なぜか夏服だったわ。寒そうね、って思った覚えがあるから」
「夏服……?」
「ごめん、でも見間違いかもね。お母さんたまにおかしなもの見えちゃうから」
「おかしなもの、って?」
「何か物事が起こった時に、ああ知ってた、ってなっちゃうのよ。ほら既視感ってあるじゃない。あれのはっきりした版みたいな。初めて見るはずなのに、もう知ってた感じがしちゃうの。そんなこと、あるはずないのにね」
「リネット、どう思う?」
「おそらくですが、お母上は過去の汐音さんを見たのではないでしょうか。力が血筋だとすれば説明が付きますっ」
普通にリネットは汐音ちゃんの特殊能力についても理解していたらしい。まあそうでもないと黒い石も渡さないだろうしな。汐音ちゃんには扱えると確信があったみたいだったし。
「とすると何の手掛かりにもならないか……」
「いえ。……汐音さんが何を見ていたのか、ということが分かれば、手掛かりにはなるかとっ」
教室の扉のあたりから中を見ていたって母上殿は言ってたけど。試しに俺が汐音ちゃんが見ていたであろう視線を辿ると、そこは俺の席だった。……自分の席を、見ていた……?
「席が分からなくなった、とかではないよねぇ」
「よくわかんないですけど絶対違うでしょ」
「確かに、これだけだと確かに手掛かりにはちょっと……」
いまだについて来れていない貝森ちゃん含め、俺たちは顔を寄せ合って話し合った。そこで出された意見としては、情報不足。とするとここからもっと集める必要があるわけだが……。
「リネット、私も見られないかな? だってオリジナルは未来も過去もバリバリ見てたわけじゃない。追いかけるならせめてまず同じ土俵に立たないと」
するとリネットは、ポンと手を叩いた。おお、これはひょっとして……俺も開花してしまうか。なんたって同じ体だもんな。
「では……呪文を書きますっ。汐音さんの意思が強く残っている場所なら、きっと姿を浮かび上がらせることができますからっ!」
「ん? いやいや、そういうのじゃなくって。未来とか過去を私も見られるようになりたいなって」
「ではっ、行ってきますねっ」
リネットはぴゅーっと走り去ってどこかへ消えてしまった。3歩ほど追いかけ、即座に諦める俺。なんかさ、俺の話聞かない人多くない?
「あれ、じゃあセンパイは未来や過去を見られない……? もうわからないや、どっちだろこれ……」
リネットは小一時間ほどして戻ってきた。なんでも、学校をぐるっと結界で囲ったので、その中で汐音ちゃんの意思が残ってる場所があれば、彼女の姿が浮かび上がるようになったらしい。その結界とやらで汐音ちゃんを見つけられないのかという疑問をぶつけようか俺は一瞬迷い、結局やめた。目の前にいても読めないって言ってたし。
「それって普通の人にも見える?」
「はいっ。結界が続いている限りは!」
「ちなみにその結界とやらは、どれくらいもつの?」
「だいたい日没くらいまででしょうかっ」
俺は窓の外を見た。差し込んでくる光は大分傾き、空は既に青からオレンジに半ば変わりつつある。日没まであと、1時間ないくらいだろう。……いやいやいや。
「駄目じゃん。学校内そんな素早くうろつけないでしょ」
「……はっ!」
口に手を当て、しまったという顔をするリネット。大変かわいい……じゃなくて。ドジっ子属性がこんな肝心な時に。……しかしどうする。高速機動する高宮城先輩に乗ったとしても、あてもなく探し回るのに1時間は厳しい。この学校やたら広いし。
「なになに、どうしたのよ。そんな暗い顔しちゃって」
北辻さんと柚乃ちゃんも輪に加わってくれた。これで全員。俺はかいつまんで事情を説明する。リネットの魔法のこととか、俺の中身については当然伏せて。そっちを説明するだけで日没なんて過ぎるだろう。
しかし、うーん……と皆考え込むも、あまり良い案は出てこなかった。
「なるほど。日没までに、あちこちに浮かび上がった夜桜先輩の映像を捜したいわけですかぁ。……さっぱり原理がわかりませんけど」
「昨日今日となんか捜し回ってばっかりね」
「……昨日? あらぁ?」
柚乃ちゃんがふとそんな声を漏らした。……来た! 来たよぉ! 参謀来た!
「はい柚乃ちゃん! 発言を許可します!」
「夜桜先輩の姿って、昨日の鬼ごっこでみんな知ってるわけですよねぇ」
「うん。……それが?」
「じゃあ、目撃情報を広く募ったらいいんじゃありません?」
俺たちは互いに顔を見合わせた。……なるほど。普通の人にも見えるわけだもんな。手当たり次第に見回るよりはそっちの方がよさそう。問題は俺に友人がほとんど全くもっていないことだが……。
しかしそこは、北辻さんと貝森ちゃんが立候補してくれた。2人とも人脈を生かして、知人に片っ端から当たってくれる。すると、昨日の鬼ごっこのおかげか、汐音ちゃん目撃情報が次々に飛び込んできた。
「中庭と昇降口、あと屋上に続く階段か……よし、行くよぉ!」
一刻も惜しいので、俺は高宮城先輩にひょこっと乗っかった。北辻さんも負けじと柚乃ちゃんを背負う。「なんでわたしは背負われてるんだろう」みたいな顔をした柚乃ちゃんだったけど、何も言わずに背中にしがみついた。あと残りはリネットと貝森ちゃんだが……。
「じゃあ、せっかくだから貝森ちゃんも崇高くんに背負ってもらう?」
「断固として! お断りさせていただきます!」
結局、高宮城先輩が俺を抱きかかえつつ貝森ちゃんを背負う+北辻さんがリネットを抱きかかえつつ柚乃ちゃんを背負う+崇高が1人で走る、という編成に落ち着いた。信じがたいことだが、おそらくこれがこの集団の最速移動方法だろう。
まず、中庭。
来てみると確かに、壁沿いに佇む汐音ちゃんの姿があった。夏服だ。広場に設置されているベンチの方を見ているように見えるが……?
「あそこって、あたしたちがいっつもお昼食べてる場所、ですよね?」
昇降口。
出入口からすぐ横辺りに汐音ちゃんは立っていた。……ここ、なんかあったっけ?
「そういえば、あたし達っていっつもこのあたりで待ち合わせしてましたけど……」
屋上まで続く階段。
その途中に佇み、無表情で扉を見つめる汐音ちゃん。その先には……。
「高宮城先輩と会ったりしたよねえ」
どうやら汐音ちゃんは、未来の俺達の行動を見ていた……? 何の、ために?
カンカンカンカン、とやけに響く足音とともに、俺たちは屋上への階段を上がる。途中で追い越す時に見えた彼女の顔には、どんな表情も浮かんでいなかった。
先頭にいた高宮城先輩が、屋上の扉に手をかける。
重そうな鉄扉が、ぎ、と低く軋んで開いていく。
次の瞬間、閉じ込められていた外気が一気に流れ込み、俺の頬を撫でていく。少し乾いていて、少し冷たくて、どこか遠くの土と金網の匂いが混じっている。
そして、視界が、ぱっと開けた。
夕暮れの屋上だった。
世界の輪郭が、すべて夕焼けの赤に染められていた。フェンスも、給水塔も、ひび割れた床も、端に寄せられた古い清掃道具も。
そして、広い屋上の端、落ちていく夕陽を背にしながら。
汐音ちゃんは、ただ一人で……金網越しにグラウンドを見下ろしていた。風が吹くたび、長くふわふわとした髪が細く揺れる。半袖の白いブラウスは赤い光を受けて薄桃色に染まり、紺のスカートの裾もまた、夕焼けを吸い込んだように暗い朱を帯びていた。
そうして、彼女は振り向き、目を細める。夕日の逆光のせいか、それともこちらを見るのが眩しかったのか、あるいは本当に眩しいものでも見るみたいに。
バタン、と。
俺の背後で扉が閉まる音が聞こえた。
『へえ……これはまた、随分と大勢で来たんだね』
汐音ちゃんの声は、夕暮れの色に似合わず、ひどく澄んでいた。
……これ、本物か? いや、この汐音ちゃんも半袖だしな。たぶんこれも本物じゃない。
俺はいちおう周りにも確認しようとして左右を見回し、ついでに後ろも振り返る。……あれ?
誰も、いない。
高宮城先輩も、貝森ちゃんも、北辻さんも、柚乃ちゃんも、リネットも、崇高も。
屋上に出たはずの全員が、綺麗さっぱり消えていた。
風が吹く。
フェンスがかすかに鳴る。
赤い光のなか、広い屋上には俺と、汐音ちゃんだけ。
……なんで? 俺ハブられちゃってる? さっきまであんなに一緒だったのに? ……ええい。構うか!