恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい 作:うちっち
そして、先輩との交流も無事終わった帰り道。俺はお菓子屋で買ったスイーツを貝森ちゃんに手渡した。だって貝森ちゃん全然関係ないのに付き合わせちゃったから。というか崇高を奪い合うという意味ではライバルですらある。いや、早く二人が崇高を争う場面を見たいね!
「はい、良い子の貝森ちゃんにはチーズタルト!」
結局、貝森ちゃんは遠慮してお菓子屋で何も買わなかったので、代わりに俺が好物をセレクトしておいた。俺も伊達に貝森ちゃんとのデートをゲーム内で繰り返してはいない。
ところが、俺の隣を歩いていた貝森ちゃんは、受け取りつつ、少し怪訝そうな顔になる。
「……チーズタルト? シュークリームじゃ、ないんですか?」
「え、うん。あれは先輩用。貝森ちゃんはこっちが好きでしょ?」
「……えっ?」
「あれ、嫌いだった……?」
……マジか。俺としたことが。いやでも今はシュークリームな気分なの? 確かに他人が食べてるところ見たら自分も食べたくなるか。申し訳ない。次は挽回させてくれ。
考え込みながら、それでも受け取ってくれる貝森ちゃん。なんていい子なんだろう。
そして一方、崇高はプリンを嬉しそうに鞄に入れていた。ごめん、主人公の好みってゲームに出てこないから、それレジ横で安売りしてたやつ。……じゃあ、今日は解散!
その後、一目散にマイホームに帰った俺は、さっそく明日のシュークリームを作る作業に入ることとした。ところが、ここで早くも問題が発生する。
というのも、何が必要なのかがさっぱりわからない。……カスタードクリームってあれ何でできてるんだろう? 栗か?
しかし、考え込んでいると、何やら必要なものがポンポンと浮かんできた。おそらくこれが汐音ちゃんレシピなのだろう。見た限り冷蔵庫には生クリームが足りないな……。
というわけで。俺は帰ってきて五分で、再び玄関の扉を開け、次なる目的地、近所のスーパーに急いだ。
本来ならこんなに忙しくはないはずなのだが、今の俺って同時攻略を手伝ってるようなものだ。せめて崇高の奴が誰かヒロインと結ばれてくれたらこの苦労も報われるというものだが……。
「あ、汐音先輩。買い物ですか?」
「貝森ちゃん! 今日はよく会うね」
俺が買い物かごを下げてスーパーをうろうろしていると、さっき別れたばかりの貝森ちゃんと遭遇する。そういや結構近所に住んでたっけ、貝森ちゃん。ただ彼女の方は別に同時攻略とかではなく、普通に買い物だろう。
それを示すように、かごの中には割引シールの貼られたお惣菜の数々。きっと彼女は、あれを一人で家で食べるのだろう。うーん……。どうにか貝森ちゃんの寂しさを解消するいい方法はないものか。
その時「私にくれるのはシュークリームじゃないんだ……」という帰り道の貝森ちゃんの台詞が、俺の脳裏にホワホワと蘇った。そうだ、いいこと考えた。
「ねえ貝森ちゃん。この後、時間ある? 実はちょっと手伝ってほしいことがあるんだよ」
「まあ、ありますけど。……え、次も誰かのところに行くとかじゃないですよね」
さっそくちょっと逃げ腰になっている貝森ちゃん。いや、まあわからなくもない。先輩の攻略には大きな精神力を消費するから。でも今回は違う。明日先輩を釣るための獲物を作成しないといけないのだ。
「私、今からシュークリーム作るつもりなんだ。そこで、生クリームを的確に混ぜる係に貝森ちゃんを任命したいの。これは大役だよ」
「それ誰でもできません?」
「……崇高くんでも?」
「あの人はできなさそうですね……いえ、はい。いいですよ、暇ですから」
苦笑しながら、やれやれと首を振り、貝森ちゃんは俺の誘いに頷いてくれた。仲間に加入してくれた彼女に、俺はさっそく最初の任務を依頼する。
「じゃあ混ぜる係の貝森ちゃんにさっそくお願い。私を生クリーム売り場に連れて行って」
「そこからですか? 何これ不安しかない……。いつもお弁当は汐音先輩が作られてるんです、よね? 別に私、そうじゃなくてもがっかりなんてしませんよ? ほら、少し正直になってみましょうか」
「貝森ちゃんが執拗に何かを自白させようとしてくる……怖い……。もう! 行くよ!」
俺は貝森ちゃんのかごを引っ張って行こうとしたものの、どっちに行っていいかわからずすぐに立ち止まった。貝森ちゃんはそれを見て、呆れたようにそっと溜息をつく。
「ほら、もう……こっちですよ。汐音、先輩」
彼女はそっと俺の手を取り、優しく引いた。そしてお互いの手で繋がったまま、俺たちは店内を歩く。温かくしっとりとした彼女の手の感触は、何だかやけにくすぐったかった。
「まるで貝森ちゃんが先輩みたいだねぇ」
「外見だけならそうですよね。汐音先輩が下げてると買い物籠もやたら大きく見えますし」
「あ、こら! 私はね、これから40センチは伸びるんだからね。晩成型なんだから」
「汐音先輩は晩成型という言葉にいくら何でも夢を持ちすぎです」
……火にかけた鍋にバターと水を入れ、塩をぱらぱらと少々。薄力粉を振るい、卵を加え、硬さが生まれるまで混ぜ続けると皮の生地は出来上がり。カスタードクリームは、ボウルに入れた卵黄と砂糖を勢いよくかき混ぜ、温めた牛乳と追加の砂糖をさらに投入。鍋に移し、温めながらとろみをつける。それを冷やし、生クリームを投入して、完成。
生地をオーブンに入れ、しばし焼きあがるのを待つ。うーん……でも見ててもオーブンって焼けてるのかどうかよくわからない……。中が暗いからか生のままにしか見えない……。
一方、貝森ちゃんは俺の後ろから同じようにオーブンを覗き込みつつ、ぶつぶつと何かを呟いている。なぜかその目は少しうつろだった。
「これ絶対詐欺だ……」
「どうしたの貝森ちゃん? ああそうだ、混ぜ具合よかったよ。GOODだよ」
「いや汐音先輩、生クリームの売り場が分かんない人の手つきじゃないでしょ。……売り場分からなかったなんて絶対またこれ嘘だ……連れ込まれた……」
「いやマジでわからなかったよね。あれ牛乳と同じ扱いなんだ。端っこにあるから気づかなかったよ。確かに色は似てるけど……。私、甘いもの売り場に売ってるのかとばかり」
「それがわからない人間は卵を片手で割りませんて。それに甘いもの売り場ってなんですか。……もうこの人なんなの……あたし全然わかんない……」
「昨日も言ってたよねそれ。……私、よく分かりやすいって言われるけどなぁ」
今まで言われた一番ヤバい表現としては『裏表なさすぎて気持ち悪い』だったっけ。……いやいや君たち。裏表なかったら何言ってもいいって訳じゃないんだぞ?
すると、俺の返事を聞いた貝森ちゃんはなぜかちょっぴり引きつった笑顔を見せ、それ以上話を続けることなく、さらりと話題を変えた。
「そういえば、今日はチーズタルトもありがとうございました。あたし好きなんですよ。味噌ラーメンも、チーズタルトも。……しかし汐音先輩なら何でも作ってくれそうですね」
「えー、そんなことあるかも。作ってほしいものある? 今ならリクエスト聞いちゃうよぉ」
「……そうですね……なら、かぼちゃの煮つけとか!」
「おお、旬だね! 通だね! 明日のお弁当、期待してくれていいよ!」
冷蔵庫にかぼちゃ入ってた気もするし。かぼちゃの旬が晩秋かどうかは知らないが、ハロウィンで頭にかぼちゃかぶってる奴もいるわけだし。あれもきっと旬だからだろう。
俺がそんな風に納得していると、続いて何やら妙な台詞が貝森ちゃんから発せられた。
「あと……ブロッコリーとかも入ってるとテンション上がります」
……あれ? 唐突に何言ってるの貝森ちゃん。君はブロッコリー嫌いでしょ。『内緒なんですけど、牡蠣とブロッコリーだけは愛せないのがあたしのアイデンティティなんです』ってゲームで言ってたじゃないか。いったいどうした。いきなり自我崩壊してますやん。
「じ、じゃあ……それもそのうち入れよっかぁ」
「……いやもうこれどこまで知ってるか気になってきますよね」
「ど、どこまで、って?」
「……好き嫌い限定? そんなわけ……でもペンダントのことを考えると……」
「貝森ちゃん? おーい?」
独り言のようにぶつぶつ言う貝森ちゃんは次第に返事もしなくなってしまった。俺が貝森ちゃんの周りをくるくると何周かしてみたものの、これも見事に無視される。
沈黙に耐え切れなくなった俺は、オーブンの方に行き、焼き具合を静かに見守ることとした。俺を無視しないのはお前だけだよ……。しかし今日は先輩といい貝森ちゃんといいまったく。……人という字は支え合ってだな……おお。なんだか生地が膨らんでる! やったやった! これ成功じゃないか?
「はい! ということで、お待ちかね、シュークリーム! 今日の貝森ちゃんはこっちの気分だもんね」
「え……? いえ別にそうでも……」
「……そ……そうでも……?」
「いや! こっちの気分です! ありがとうございます! だからそんな悲しそうな顔しないで……あー、た、確かにわかりやすい、かも……?」
そしてシュークリーム量産にも見事成功し、俺と貝森ちゃんが台所を片付けていると、母上殿がひょいと戸口から顔を出した。
「あら友達? もうご飯作るわよ。せっかくだから食べて行ったら?」
「いえ、あたし、ご飯買ってありますから……」
「それはそのお惣菜のことかね貝森ちゃん」
「あらまあ! もう! 食べていきなさい食べていきなさい」
「いえ……その……帰ります」
ところが、あくまで夕食を固辞する貝森ちゃんの台詞を聞くと、母上殿はいきなりガクンと床に崩れ落ちた。そのままチラッチラッとこちらを見つつ、そっと顔を覆う。
「……そうよね……私の料理なんて食べたくないものね……」
「ああいえ! 喜んでいただきます! だからそんな……あ。……これまさか血筋……?」
いや母上殿はさっきの俺たちのやり取り見てただけだ。この人結構そういうお茶目なとこある。というか貝森ちゃんはいいのかな?ほら、1人で食べたい主義の人もいるし。
俺が腕組みをしてどう出ようか考えていると、貝森ちゃんは笑って、俺の手をくいくいと引いた。どこか恥ずかしがっているような、喜んでいるような、不思議な表情だった。
「別に、汐音先輩が気にしなくていいですよ。あたし、誰かと一緒に食べるの、嫌いじゃないです。慣れてないから……どうしていいか、わからなくなる時はありますけど」
その晩、我が家の食卓には貝森ちゃんが臨席した。どこかそわそわしてる場面もあったけれど、貝森ちゃんはおおむね楽しそうに笑っていた。
その後、夜なので貝森ちゃんを母上殿が車で送って行ってくれることになり、俺たちはそれまで俺の部屋でのんびりと時間を過ごすこととした。
俺に続いて我が部屋に入った貝森ちゃんは、ぐるりと室内を見回して、開口一番呟く。
「……ファンシーな部屋ですねえ……いえ、汐音先輩にピッタリではあると思いますけど」
「その台詞はもはや私にとっては一切誉め言葉じゃないんだよ貝森ちゃん」
「可愛い、っていいじゃないですか。汐音先輩はじゃあどんな誉められ方がいいんです? 私機会があればやってみますよ」
「……そうだねえ……男らしいとか。大人っぽいとか。そういうのがいいなぁ……」
「……思ったよりはるかに難易度高いのが来た……」
目を閉じ、眉間にしわを寄せて俯く貝森ちゃん。そんなに……? でも後者って別に性別関係なくない? 俺ってそんなに大人じゃないの……? まあいいけど。
貝森ちゃんに座布団を薦めた後、俺はせっかくなので、ここでしかできない話を始めることとした。部屋で女子二人きりでする会話。すなわち恋バナである。
さて、今の時点での好感度はどんなものかな? 貝森ちゃんもそろそろあいつと結婚したくなってきた?
「ところでさ、貝森ちゃん! 突然なんだけど。……崇高くんのこと、どう思う?」
「ヤバい人だと思います。……でも汐音先輩のことは大好きだと思いますよ」
「その台詞は私にとって一切嬉しい言葉じゃないんだよ貝森ちゃん。……そういうのじゃなくて! 恋人としてどう? ってことだよ!」
「……え。嫌ですけど……」
「なんで! 即答しないで! せめてもっと悩んで! 『友達からなら』とかあるでしょ!」
ベッドに腰掛けたままぶんぶんとクッションを振り回して不満を表明する俺を、貝森ちゃんは困ったような表情で見返す。なんだ、いったい何が気に入らないと言うんだ。
「いや、だって……そもそも竜造寺先輩はもう汐音先輩のものじゃないですか」
「その認識は全く違うし今後もそうなる予定は絶対にないんだよ」
「……照れ隠しですか?」
「だからそうなったら死ぬと! 言ってるじゃない! いい加減にしないとぶち殺すよぉ!」
「……うわ、情緒不安定な子供だ……。いえ、汐音先輩はともかく、少なくとも相手は明らかにそのつもりじゃないですか」
「あ、うん。それはそうだね。だから困ってるんだよ」
すると、貝森ちゃんはちょっとびっくりした顔になった。そして、しばらくの沈黙ののち、おずおずと口を開く。
「……てっきり気づいてないと思ってました」
「貝森ちゃんは私の目を節穴とでも思ってるの? 今がギリギリ共通ルートだってことくらい、私にはお見通しなんだよ」
「……共通ルート……? じゃあなんで気づかないふりしてるんですか」
「めんどくさいから」
「あ、意外にそこドライなんですね。……めんどくさい、っていうと?」
「生理的に無理なんだけど、それをそのまま伝えると傷つけちゃうんじゃないかと思って」
「そりゃ傷つきますよ!『じゃないか』とか言う余地ありませんて! その真顔で今の台詞絶対言わないでくださいよ! ……ていうかちょっとあの人が気の毒になってきました……」
「じゃあ?」
「付き・合い・ませ・ん」
「ちぇっ、なーんだ。貝森ちゃんのけちー。……でも崇高くんって条件はそんな悪くなくない? ほら、人生って時に多少の妥協は必要だと思うんだよ。だって理想の人が自分の目の前にいつか現れる保証なんて、結局誰もしてはくれないんだし」
「……あの、喋ってる途中で子供から大人に変貌するの止めてください。はっきり言って不気味です」
まずい、結局貝森ちゃんの説得に失敗してしまったようだ。ただまあ、俺が崇高とそういう関係ではない、ということが説明できただけでも良しとしておく。
「でもほんと、凄いですよね汐音先輩。幼馴染を押し付けようとしてる時すら可愛いとか……ていうかベッドに座って足ぶらぶらさせるの止めてください! 見えてます!」
言われて俺は足をさっと閉じる。まずい、つい無意識に。これでは汐音ちゃんの風評が下がってしまう。今からなんとか埋め合わせできないかな? 無理?
手遅れかもしれないが俺はそっと目をそらし、部屋の中にある家具に興味津々です、みたいな顔でお上品に眺めることとした。
……お、このイルカの形の目覚まし、汐音ちゃんルートで水族館で行った時に俺が買ったやつだ。さすが俺。
澄ました顔でベッド脇の目覚まし時計を眺める俺をしばし見つめた後、貝森ちゃんは「はぁ……」と大きなため息をついた。そして髪をぐしゃぐしゃっとかきむしる。
「なんかですねー、色々聞きたいことはあるんですけど。分からなさすぎて……」
「なんかわからないけど、悩みがあるの? 今聞くよ?」
「そう言っていただけるのは嬉しいんですけど。悩みの元はその汐音先輩なんですよねぇ」
そんな人を元凶みたいに言わないでほしい。でもどうやら、俺は推し№3たる貝森ちゃんを悩ませてしまっているらしい。それはいけない。これは猛省しなければ。
俺は反省するため、目を閉じ、貝森ちゃんルートのラストの会話を思い出した。転校の危機を乗り越えた後、俺と彼女は一緒に海に行き、笑い合いながら大事な話をした。そうだ、俺はあの時。これから先、ずっと貝森ちゃんの隣に立つことを誓ったんだ。
俺は心の中で、あの時彼女が言ってくれた台詞を思い出す。
『……なんだか夢みたいです。いえ……あたし、小さい頃からずっと、思ってたっていうか、いつか自分にも起きたらいいなって、憧れてたことがあって。……ちょっと、耳貸してください。こっそりセンパイだけに教えてあげます。笑わないでくださいね――』
「――いつか誰かと一緒に……そう、二人で同じ夢が見たい、って」
「……ちょっ! な、な、な、な……! それっ……?」
バタバタ、と音がして、目を開けると、俺の前には、茹でられたように真っ赤になった貝森ちゃんがいた。……ん? 目の錯覚かと思ってもう1度目を閉じ、開けてもやっぱり茹で森ちゃんは変わらずそこにいる。
……え、なにこれ……。目閉じて開けたらそんなに顔色変わってるとかヤバくない? 餅を喉に詰めた人でももうちょいタイムラグあるぞ……。
「貝森ちゃんどしたの……? た、体調大丈夫?」
「あの、ちょっとそれ、どこから……! いやそもそもあたし誰にも言ってないのに……!」
「――そろそろ行くわよー! 準備してー!」
「あ、出るみたい。…………行ける? 体調悪いならうちに泊まっていったら?」
「……いえ、ちょっと今ここに泊まるのはほんと怖いっていうか……色々整理したいことがあるので……お願いですからそっとしておいてください……」
背中を丸めて元気なさげに部屋を出ていく貝森ちゃん。その背中はなぜか煤けていた。整理したいことというのが崇高との将来であることを願いたいところだが……。
そして、それを見送ったのち、俺はさっそくさっきの恋バナの一人反省会に入った。
貝森ちゃんの崇高に対する今の感情を確認できたことは良かったが……あらためて、崇高に恋人作る作戦難しい……。「嫌ですけど」だって。もう完全拒否じゃないか。貝森ちゃんルートが一番可能性が高いと思っていたのに、俺の勘違いだったのか……?
……いや、待て。ひょっとしたらこれは。女子によくある照れ隠しというやつではないだろうか。それが証拠に、彼女自身が言っていたではないか。汐音先輩それ照れ隠しでしょ、みたいな。人は自分に当てはまることを意識せず相手に投影してしまうものだ。よし、貝森ちゃん=照れ隠し。
おお……その概念を導入するだけで、全てうまくいく気がしてきた。「嫌ですけど」も意味が全然変わってくる。あれはつまり「あの人を愛しています」ということだ。……なんてことだ。新しい公式を閃いた数学者もきっと今の俺みたいな気持ちだったのだろう*1。
……しまったな。貝森ちゃんのけち、とか的外れなことを言ってしまった。俺としたことが。……いやーしかし、こうなると明日が楽しみになってきた!
安心した俺は、遠足前日の小学生のように、ワクワクしながら早めに床についた。布団に入った時に目に入った枕元のイルカの目覚まし時計も、笑って俺を祝福してくれている気がした。