好きな女の子を守るために強くなった結果、何故か彼女を曇らせてしまった 作:えしゅろん
「――ねぇ、ライル! 2人でヒーローになる約束しよう!」
幼い頃、セリアは澄み渡る青空みたいな髪を靡かせながら僕と約束をした。どんな約束かと言うと、これがまた壮大なのだが……この世界に蔓延る殺人機械を倒して、人類を救うヒーローになるという夢なのだ。
「で、出来るかな……僕、君みたいに勇気がある訳じゃないのに……」
対する僕はそんな彼女と違って地味な見た目をしてる。
黒髪、顔は……普通、でも不健康そうな顔色してるからいつも元気なさそうだねと言われる。
「ひどーい! 幼馴染の約束ぐらい守ろうよー!」
「んーなんか実感なくて……」
物心ついた時――というか、それ以前の話だが……この地球は人類に反旗を翻した機械によってめちゃくちゃになってしまった。残された人類はシティという、全部で7つあるでっかい都市で暮らしている。
つまり結構やばい状況なのだ。
他人事みたいに言うけど、本当にギリギリだ。
機械は強いし、人類より数が多い。
なのにセリアがヒーローになろうと、こんな堂々と言えるには理由があった。
「私たちがセンチネルを着て、機械を倒すの。今も活躍してる先輩たち……大人たちみたいに」
「センチネル……ね」
センチネル――簡単に言えばパワードスーツだ。
空飛んだり、レーザー撃ったり、ミサイル撃ったり、あとは機械と殴り合えるぐらいは出来るようになるスーツがある。
もっとも特定の脳波のパターンがどうとか、色々才能が必要になる。ヒーローになれるのは一握りである。
「私――いや私たち2人でエースになるの、ライル」
「セリア……」
「そうすれば……お父さん、お母さんも……喜んでくれる」
僕の両親も、セリアの両親も死んでる。
でもそんなのはありふれた話だ。
この世界はあまりにも死が近いのだから。
「それにさ……1人だと心細いし、ライルがいたら……嬉しいなって」
「お、おう」
急にデレるなよ……ドキッとしただろうが。
でもそう言われたら嬉しくなるのは当たり前だ。
僕も君がいてくれたら嬉しいと思うし、絶対死なせたくない。正直人類のためとかいうけど……僕の力なんてたかが知れてる。
でもせめて……セリアだけは。
セリアだけは、死なせたくない。
だってこの子は僕にとって世界より大切なんだから。
「やっぱり……無理?」
「何言ってるんだよ、セリア」
だから僕は誓った。
人類のヒーローなんて大層なものにはなれないけど――
「そこまで言われたらさ、約束するしかないじゃん」
「……! ありがとうライル!」
「どわ! いきなり抱きつくな!」
せめてこの女の子のために存在するヒーローになりたいと、僕は誓った。
◆
《ライル・カリスト――不合格》
「……おぅふ」
そんな風に思っていた時期が僕にもありました。
センチネルを着て、人類を守る戦士になるには18歳以上かつ、アカデミーという中央政府管轄の養成機関に合格しなきゃいけないのだが、僕は晴れて不合格でした。
クソったれ……恥ずかしいじゃねえか、18歳になっていきなり挫折かよ……。
セリアにめっちゃカッコつけた手前、クソ恥ずかしい。
あと端末にデカデカとホログラムで不合格って表示させるの、人の心がないとしか思えない。
「ライル……」
沈黙が痛い。
慰めの言葉より、その間の方がずっときつかった。
「セリアはどうだった?」
「…………受かってはいるよ」
「ちょっと見せて」
適正値……900オーバー……おいお前現役の人たちより高いじゃねえか! 才能マン――いやウーマンか……やばいな、セリアそんな天才だったのかよ。
ちなみに合格ラインは500。
神経伝達速度、空間認識能力、センチネル内蔵AIの同期適正値や負荷耐性値などなどの項目のスコアを合計した値で試験する。
僕は470、一般人レベルらしい。
セリアが主人公なら僕はモブみたいなもんだ。
あーちょっと普通に辛い。
「ライル……あの」
セリアは何て言おうか迷ってる。
バカだなぁ……そんなこと気にしなくていいのに。
才能がない僕が悪いんだから、セリアはそのまま進むべきだ。
「セリア、まさか入らないとか言わないよな?」
「へ……? あ、いや」
「見くびるなよ僕を。センチネル着れなくても同じ戦場に立つ方法はあるんだぜ?」
仕方ない――僕は割り切った。
確かにショックだけど、一般兵だってセンチネル部隊に着いていく事は出来る。ヒーローみたいな活躍は出来なくても、彼女の側にいられる事がまだ出来る。
何なら整備士とかもありだな……付きっきりだな、段々と気持ちが前向きになってきたぞ。
「セリア、
「……うん、うん!」
そう言うとセリアはちょっと涙ぐみながら笑って、僕に抱きつ――おいバカやめろ、他の人がニヤニヤしながら見てんだろ、恥ずかしい!
「絶対、絶対だよ!」
「おう」
悲しいけど僕は一般兵科を選んだ。
そこから成り上がればきっとセリアと同じ部隊に――
◆
「――いいか、我々はあくまでも小さな歯車に過ぎない、センチネル部隊と並べると思うな」
はい、知ってました。
現実は甘くない事を。
「センチネルは人を超えた強さを持つ、忌まわしきヘラルド共を倒し、戦場にもよるが単騎で戦況すら変える」
髭を蓄えた厳ついオッサン――ゲイズ教官は僕達新兵に、何か熱い演説をしている。典型的な軍人って奴だ。
ちなみにヘラルドというのは絶賛人類をぶち殺しまくってる機械の名前だ。通常はなんか虫みたいな形をしてるが、強い奴になってくると山よりデカい奴がいる。あとはごく稀に人型の奴が現れる。そいつが1番やばいから早く逃げろと言われている。
「お前たちの役割はセンチネル部隊を支える事だ、必要なら身代わりに死ぬ事もある!」
(いやー……仕方ないけど、そう言われると辛いなぁ)
センチネル部隊が重要なのはわかる。
だけど代わりに死ねというのはやはり怖い――でもそれを承知して、僕達は入ってる。気が滅入るなぁと思っていると――
「だが俺はそうはさせん、俺はお前たちを生かす術を教える! 歴史に名を残せなくても、命は残せるように鍛えてやる」
訂正――この人めっちゃ熱くていい人じゃん。
「訓練はクソ漏らすほど厳しいが、乗り切って見せろ!」
クソは漏らしたくないけど頑張るぞ!!
◆
さて入隊して早々――ゲイズ教官の言う「クソ漏らすほど厳しい訓練」は、比喩でもなんでもなかった。
朝5時起床、ランニング10キロ、戦闘訓練、体力作り、座学、また体力作りという地獄めぐりが続くのだ。
初日で僕は死にかけた。
2日目も死にかけた。
3日目は本当に死ぬかと思った。
でもまあ――慣れるもんだ、人間って怖い。
「カリスト、腕立て止まってんぞ!」
「ひぃぃ……ま、まだ……いけます……!」
「いける顔じゃねえ! 次からは笑ってやれ!」
「ぎぇぇ……!!」
ゲイズ教官はよく見てる。
サボろうとした瞬間に必ず声がかかる。どんな感知センサー積んでんだこの人。
そんな地獄の1週間を乗り越えた頃、隣のベッドの住人と仲良くなった。
「ねえ、まだ足動く?」
「……辛うじて」
「私も辛うじて。良かった、同士がいた」
紺色の髪をきっちりと結んだ、背筋のシャンとした女の子だった。見た目は凛としていて、セリアの次ぐらいにかわいい――そう次ぐらいに……と言わないと浮気した気になってしまう。
「イリン・ファウスト。よろしく」
「ライル・カリスト。こちらこそ」
それがイリンとの馴れ初めだ。
彼女は口数が少なくて真面目で、でも追い詰められると素が出る。訓練中に小声で「もう嫌だ……」と呟くイリンを、僕は何度見たか分からない。その度に笑いを堪えるのに必死だった。
他にも仲間が出来た。
やたら前向きで体力おばけの金髪イケメンのディオ、物静かで射撃だけ異常に上手い女の子のシェイ、口は悪いけど面倒見がいい快活な女の子のノラ。気づいたら5人でつるむようになっていた。
「カリスト、また顔死んでるぞ」
「ディオ、お前は元気すぎるんだよ……」
「元気は才能!」
「うるさい……」
イリンが呆れた顔でため息をついた。
ノラが「ディオ黙れ」と一言で切り捨てた。
シェイは何も言わずにスポーツドリンクを差し出してくれた。
悪くない、全然悪くない。
何か仲間って感じがして素晴らしい。
そうやって泥みたいに眠って、また朝5時に叩き起こされる日々を繰り返しているうちに、気づいたら1年が経っていた。人間の適応能力、本当に怖い。
《――じゃあ、今のところ順調そう?》
「うん、これじゃあっという間にスーパーソルジャーだぜ」
《あはは! 何それ!》
それとたまに夜はセリアと話したりする。
向こうも結構厳しいらしいけど、セリアはすぐ使いこなしたらしい――チートじゃん……すごいな。
《ねぇライル》
「ん……?」
《……お互い頑張ってさ、必ず一緒に戦おうね》
「勿論……約束だもんな」
この世界を救う――そうすればセリアは守れる。
たかが一般兵に何が出来るかわからないけど……。
「絶対……お前を守れるぐらい強くなるからな」
《……ありがとう、本当に嬉しいよ? でも……無理はしないでね。死んだら嫌だよ?》
「僕は死なない、定めだからね!」
僕はいつも通り振る舞う。彼女を不安にさせたくないから。
もうすぐに実戦が迫っていると考えるだけで、怖くなってしまう気持ちを押し殺して、僕は備えた。
そして1年が経ち、実戦配備の辞令が出る2週間前――
珍しく自由時間が与えられた夜、食堂の隅でディオがニュース映像を見ていた。
「おい、セリアってお前の幼馴染って言ってた子じゃなかったか?」
「ん……?」
画面の中には、見慣れた青い髪が映っていた。
白いセンチネルを纏ったセリアが、ヘラルドの群れを単騎で蹴散らしている。周りにはセリアと同じ部隊のセンチネルが空を舞って戦っていた。
センチネルに関しては素人だが、それでも動きに無駄がないのは何となくわかった。
(……すごいな)
ついつい見惚れていると興奮気味に叫ぶアナウンサーの声が耳に入った。
「センチネル部隊の新星、セリア少尉――わずか1年でエース候補と目される――」
「……やっぱすごいな、セリア」
自然とそう呟いていた。
本当に誇らしかった――けど胃の底の方に、重い何かが沈んでいくような感覚もあった。
(遠い、遠いよ、セリア)
約束したはずだ。一緒にエースになると。
でもこう見せつけられたらやっぱり悔しい。
「幼馴染……エースなんだ、すごいね」
「……おう」
イリンが隣に座って、画面を一瞥して、それから僕の顔を見た。
「やっぱり……悔しい?」
「……うん、いやーあの隣にいるのが僕だったらって思うとさ」
セリアの他には7人ぐらいの同い年と見られる男女がいた。
ニュースでは何か仲睦まじくやってるのが見えた。
あー…………何か脳が焼ける。おいイケメンの奴は近づくなって言いたいけど、それを言ったら惨めな気持ちになるからやめた。
「ライル」
「ん……?」
「大丈夫だ、センチネル着れなくても……君の幼馴染はちゃんと君を見てくれる」
ちょ、こいつの顔面が強すぎる。
イリンの美人すぎる顔から逃れようと顔を逸らしたが、グワシィと効果音つく勢いで掴まれて、無理矢理むかされた。
「私たちは確かにセンチネルは着れない、でもそれで君の価値が決まるわけじゃない」
「イリン……」
「私たちだってすごいんだぞって、成果で示してやろうじゃないか」
何だこいつ……イケメンすぎる、女の子だけど。
セリアいなかったらガチで惚れてるわ。
「イリン、熱い告白してフラグなんか立てるなよ」
「だ、黙れディオ! か、勘違いするなよ!? 私はあくまでも友人として言ったんだ! 友人として!」
「あ、うん……」
そんな念押ししなくてもいいじゃん……。
でもちょっと気が滅入っていたのがマシになったのは事実だ。
「なぁイリン」
「な、なんだ……ライル」
「僕達……絶対生き残ってやろうぜ」
「……ああ、勿論だ」
フラグなんざ知らねー。
僕達は必ず皆で生き残る。
約束を果たすまで……僕は死ぬわけにはいかない。
そして2週間後――僕らは通信が途絶えた部隊の救出任務を任せられた。
◆
小型輸送機の中は、思ったより静かだった。
エンジン音と、たまに誰かが装備を確認する金属音。
それだけだ。
僕の隣にはイリン、向かいにはディオとシェイとノラ。奥には先輩方が5人、腕を組んで目を閉じている。慣れてる人間ってのはこういう時に寝られるらしい。すごい。僕には無理だ。
するとオペレーターの声が機内に流れた。
「改めて任務内容を説明する。山岳地帯C-7区画で消息を絶った調査隊、6名の捜索および救助だ。最終通信から72時間が経過している」
3日経過してるのか……うーん、厳しそう。
「現地はヘラルドの活動が確認されているが密度は低い。戦闘は極力避けて行動しろ。遺体の確認が取れた時点で即時退避を優先する」
つまり生きてる可能性は低いけど、一応確認しに行きますってことだ。
初めてにしちゃ胸が重くなる任務だなと思った。
「万が一……強力なヘラルドと交戦状態になった場合は、即座に救難信号を発信しろ。最短で8分以内にセンチネル部隊が到着する」
1番低級のヘラルド――スワームなら全然大丈夫だ。
ただ僕達は新兵……低級でも死に至る可能性は高い。
「各自、慎重に行動しろ。以上だ」
通信が切れて静寂が戻ってきた。
窓の外は雪が積もった綺麗な山が見える。
なんか嫌な感じがする……って言ったらやばいか?
「ライル」
「ん?」
「約束、忘れてないよな」
「忘れるわけないじゃん」
イリンは小さく頷いて、また前を向いた。
絶対全員で帰るのだ。
「――到着した」
輸送機が着陸すると、冷たい空気が一気に流れ込んできた。
いやーめっちゃ寒い、装備に防寒仕様が入ってて本当に良かった。
すると先輩方はさっさと動き出した。
新兵の僕らはその背中を必死に追いかける形だ。
先頭を歩く班長のガーヴィス先輩が振り返った。
「新兵ども、離れるなよ。2メートル以上空けるな」
「「「はい!」」」
声を揃えて返事をしたら、ガーヴィス先輩が少し口角を上げた。怖い顔してるけど悪い人じゃなさそうだ。
雪を踏みしめながら30分ほど歩いたところで、地図上のC-7区画に入った。
「……嫌な静かさだな」
イリンが小声で言った。
同感すぎて頷くしか出来なかった。
「あそこの奥か……」
目的地に近づくと岩肌に大きな洞穴が口を開けていた。
高さは10メートルくらいあるだろうか。まるで山そのものが噛み砕かれたみたいな形をしている。明らかに自然に出来たものじゃない。
「……ヘラルドが掘ったのか?」
「可能性が高い」
ガーヴィス先輩が静かに答えた。
「ブラスター安全装置解除。全員、中に入るぞ」
洞穴の中は暗かった。
ライトを点けても先が見えないくらい奥まで続いている。足音が反響して、自分の心臓の音まで聞こえそうだった。
お調子者のディオですら黙っていた。
それだけで状況の異常さが分かるというものだ。
10分ほど進んだところで、先頭のガーヴィス先輩が右手を上げた。全員が足を止める。
「壁が……動いて――!?」
あっけに取られていたからわからなかったが、よく見たら壁じゃなかった。無数の小さな機械が壁一面を覆っていた。虫みたいな形をした、金属の塊である。六本足で壁を這い回り、こちらに気づいた瞬間、一斉に向かってきた。
「スワームだ、撃て!」
ガーヴィス先輩の声と同時に、僕は引き金を引いた。
ブラスターの光が洞穴の中を照らす。全員が一斉に撃ちまくる。訓練と違って手が震えたが何とか倒した。
30秒くらいだったと思う。
気づいたら床に金属の残骸が散らばっていた。
「……全部か?」
「センサー反応なし」とシェイが淡々と言った。
生きてる。
全員生きてる。
僕は息を吐くと隣でイリンも同じタイミングで息を吐いたのが分かって、少し笑いそうになった。
更に奥へ進むと、急に空間が広がった。
天井が見えないくらい広い上に、壁一面に金属のパネルが張り巡らされ、無数のケーブルが蜘蛛の巣みたいに張り渡っている。かすかに青白い光が点滅していて、何かが今も動いているのが分かる。
「これ……ヘラルドの巣とか?」
「こんなのは見たことない……」
何故かはわからない。
でも僕の本能が全力で逃げろと告げている。
ここは
するとシェイが静かに言った。
「……奥、見てください」
光の届く範囲の一番奥で何かが倒れていた。
人の形をした、何かが。
「通信が途絶えた部隊だな……」
ガーヴィス先輩が近寄る。
僕も遠目から見ていたが、多分ズタズタにされて原型ない。
近くには内臓みたいなのが散らばってる。
「一体何が――」
ガーヴィス先輩がそう言った瞬間――首が飛んだ。
「は……?」
わけわからん。
いきなり血飛沫を出して先輩が死んだ。
「……人間……」
やけに静かな声が上から聞こえて、見上げたら――僕らの心臓は爆発しそうなぐらい暴れ回った。
「人型の……ヘラルド……?」
イリンは歯をガチガチ震わせながら言った。
天井に冷たい目をした女が張り付いていた。
だけど身体のあちこちが黒い装甲に覆われていて、手にはブレードみたいなのを生やしていた。
「新兵!!! 俺たちが食い止める!!! 救難信号を!!!」
「先輩たちは――」
「逃げるぞイリン!!! 全力で逃げろ!!!」
「走れ走れ走れ!!!」
ディオが叫ぶ。
後ろから先輩達の怒号と、それから悲鳴が聞こえた。
振り返るな、振り返ったら死ぬ。
「救難信号は発信した!!!」
「8分耐えろ!!!」
8分……長い、めちゃくちゃ長い。
勘弁してくれ、背後で音がしてる。
金属が岩を引っ掻く音が近づいてる。
「はぁ……はぁ……はぁ!!」
横目に見えてしまった。黒い触手が洞穴の壁を掴んで、天井を掴んで、あの女がまるで蜘蛛みたいに追いかけてきてる。
「ああああ!!!」
追いつかれてたまるか。
僕はグレネードランチャーを天井に撃ち込んだ。
「――――!!!」
金切り声と共に岩盤が崩落、奴を押し潰した。
「ナイス!! ライル!!」
「今のうちに逃げるぞ!!」
背中をバシバシ叩くノラの目には涙が浮かんでる。
いや僕も泣きそうってか、もう泣いてる。
「外まで少しだ!」
イリンが叫んだ。
走り続ける事……多分5分以上。
何とか明るい世界に出れた。
「よし、あとは――」
センチネルの誰かが来てくれるまで――そう言おうとした瞬間、僕の隣から鮮血が舞った。
「あ……」
ズプッ――という音がしてイリンが声を失った。
腹から黒い先端が生えていた。
「イリン――あ――ぐぅえ……」
次の瞬間、僕の腹にも衝撃が来た。
痛みより先に、力が抜けて口から血が大量に出る。
視界の端でディオ、シェイ、ノラも貫かれてるのが見えた。
「お前たちはどうかな」
僕のすぐ後ろで奴の声がした。
まだ……死ねない。
――約束だよ――
約束……した、破れない。
セリアを守りたいんだ。
「――そいつから離れろ」
「――――――!!」
次の瞬間、赤い光が視界を焼いて触手が焼き切れた。
ヘラルドの黒い血が飛び散り、それが僕の肉体に流れ込むのを見た後、センチネルを着た女と目が合った。
「――――」
女は知らない奴だった。
白髪の赤い目をして、何か人間離れしてるな――と感想を抱いて僕は意識をなくした。
◆
――肉体が変異して――
何か知らない人の声が聞こえてくる。
――だが……それは――
――彼らは……新たな希望に――
断片的すぎて意味わからない。
僕は……生きてるのか?
――時が来るまでは……秘密に――
もし……生きてるなら……僕は起きなきゃいけない。
◾️◾️◾️を守らなきゃ。
守らない……と。
あれ……?
誰を守りたいんだっけ。
◆
「――目が覚めたかね……」
「…………ぅ……ぁ……?」
何かぼんやりしたまま僕は起きた。
目の前には何か知らない爺さんがいる。
「……僕……生きて……ますか?」
「……ああ、ただ落ち着いて聞いて欲しい」
すると爺さんは深刻そうな顔をして言った。
「君はあれから3ヶ月間意識を失った」
「…………はい」
3ヶ月……期間はわかる。
長い期間眠っていたはずなのに、
爺さんはそんな僕を見てやはりか……と呟いた。
「そして君――いや君たちの部隊は生きている、ただ一部の記憶が喪失している事に加えて……君たちの肉体に変化が起きてる」
すると爺さんはモニターを眼前に出すと、僕の体を写した。
身体の一部が機械化していた。
髪色は白い――が、前の自分がよく思い出せない。
「肉体が変質している、今はまだ一部だが……もしかしたら侵食が進行する可能性もある」
「するとどうなりますか」
「わからない……ただはっきりと言えるのは、今の君は半分機械になった新しい人間であり、下手したらセンチネルに迫る力を持ってるかもしれない。これからより詳しく調べる必要はあるがな」
センチネル……もよく思い出せない。
多分兵器のことだろう。
だけど……何だろう、それ以上に強烈な何かが脳に焼き付いて離れない。
――2人でヒーローに――
大事な約束があった。
命より守りたい人がいた。
誰かは思い出せないけど、この
「いきなりで悪いが、君ら5人は対ヘラルドの研究機関で――」
「……僕って強くなれますか?」
「何……?」
強くならなきゃいけない。
守らなきゃいけない。
名前の知らない大切な人を守るために、きっと僕は存在しているのだ。
「僕……守りたい人がいたみたいです、その守りたい人を守れる力が欲しいです」
とにかく力がいる――忘れてしまった大切な何かを守る力が。
「……可能性はある、だがこれから君たちに施す処置は痛く、苦しいものになる」
「痛いだけでしょう、それだけなら大丈夫です」
例えその果てに人じゃなくなったとしても。
◆
3年後――北米大陸、シティ・アルタ。
その中にあるブリーフィングルームは、いつもより緊張感があった。
「――失礼する」
冷たい雰囲気を感じる女の声が響くと、白いローブを羽織った軍服姿の若い女と男――7人が入ってきた。その先頭には
「……星殺しのセリア……!」
「……本物だ」
現れたのはセリアだった。
しかし新人の頃の彼女はもういない。
人を惹きつける笑顔は3年前を最後に消え失せ、今やただヘラルドを殺し続ける殺戮兵器となっていた。
「時間通りだな」
彼女達を呼びつけたブレイン中将が口を開いた。
重苦しい雰囲気をものともしていない辺り、さすがと言えた。
「今日呼んだのは他でもない。諸君らブルー・コメットに新たなサポートメンバーを加えることが上層部で決定した」
室内が微かにざわめく中でセリアだけが動かなかった。
「サポートメンバー」と彼女は繰り返した。
抑揚のない声だった。
「私たち7人じゃ不服ですか、正直言って弱い奴を配属させられても困ります」
セリアは呆れた様子で言った。
今いるこの7人はセンチネル部隊の中でも、若手でありながらトップクラスに食い込む実力はある。あと2年すれば最強に手が届くとさえ言われてる。
なのに今更サポートとはどういうつもりなのか。
「戦術補佐及び近接支援を担う特殊枠だ、政府肝入りの――」
「知りません、そんなの必要ないです」
セリアの声に感情はなかった。怒っているわけでも、反発しているわけでもない。ただ事実を述べているだけだという口調が、かえって室内の者たちを委縮させた。
「我々ブルー・コメットは現状の編成で全任務を遂行できています。余剰人員を加えることは連携の乱れに繋がる。合理的ではない」
「少佐——」
「そのサポートメンバーとやらが、人型のヘラルド相手に単独で10分耐えられるなら話は別です」
それだけ言って、セリアは中将から視線を外した。議論を続ける気がないという意思表示だった。
「……彼らはセンチネルに匹敵――いや超えると期待されている新しい兵器を扱う者だ」
「……?」
なんだそれは――聞いたことがない。
「彼らは……人類の新しい希望になる可能性を秘めている。新規のプロジェクトと言ってもいい」
そう言う割にはブレインは苦々しい表情をしてる。
気になったセリアは思い切って問う。
「何故私たちの部隊ですか? 一体何なんですか……新規のプロジェクトって」
「……使用者との……相性を考慮したそうだ、今から彼らを呼ぶ」
そしてブレインが入りたまえと言うと、セリアの向かい側のドアからゾロゾロと5人入ってきた。黒いローブを着た彼らはゆっくりとセリア達に近づく。
「……お前たちが――――ッ!?」
そしてセリアが彼らに視線を向けて――目を限界まで見開いた。
「セリア?」
ブルー・コメットのメンバーが心配になって、セリアの顔を覗き見ると、顔を真っ青にしながら震えていた。
「う…………そ…………だ、な…………んで…………」
明らかにショックを受けてる状態だったが、向かい合っていた人物はセリアを無視する勢いで自己紹介した。
「プロジェクト・ドレッド……ナンバー1、ライル。今回からブルー・コメットに所属する。どうやらセリア少佐は
そこにはいたのは髪が真っ白になり、感情が抜け落ちて光のない目をしたライルだった。
瞳孔が開いたまま動けなくなったセリアに近づいたライルは、機械的に言った。
「……所で何故そんな曇った顔をしてる? 同じ部隊になるのが夢だったみたいだが」
この時セリアはこう思った。
簡単な登場人物紹介
ライル・カリスト
幼馴染のセリアを死なせないために、文字通り身も心も捨てて強くなった元一般人。なおセリアの精神状態は考慮しないものとする。
セリア・クリステス
対ヘラルド用機動兵器であるセンチネルを着用し、20代前半という若さで戦果を挙げてきた新世代の英雄。3年前に長かった髪をばっさり切ってショートカットにしてイメチェンしたあと、ヘラルドぶっ殺しマシーンと化した。