独裁官と転移者の憤り   作:匿名

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第一話

 

劇場版展開、あるいはサプライズニンジャ理論。

 

それらに共通して、『唐突に強いキャラクターが敵味方問わず出現する』ということが挙げられる。

 

しかしサプライズニンジャ理論には大きな穴がある。

 

突然現れた忍者が手裏剣を投げ、敵がサヨナラと言いながら爆散したり……確かにめちゃくちゃな展開だが、面白いとは思えないだろうか。

 

私は、サプライズニンジャ理論はデウス・エクス・マキナとは少し違うと思っている。なぜなら、作品を強引に終わらせる存在であるデウス・エクス・マキナと比較して、ニンジャはとても誠実だからだ。

 

キャラクターとして存在しながら、圧倒的な強さを見せつける。

 

ニンジャは、ただの一人のキャラクターでありながら敵をばったばったと薙ぎ倒すだとか、そういったピンチの展開を打開してくれるお手軽なキャラクターなのだ。

 

ここで敵を主人公または仲間が倒すのだろうという時、ニンジャが再登場したのならば、もはやそのニンジャはサプライズニンジャ理論に則った唐突なキャラクターではなく、仲間を助けようという【意志】が、宿るのだ。

 

決して、ただの舞台装置ではない。一度目はデウス・エクス・マキナ的存在であったとしても、二度目に登場した時、そのニンジャのアイサツはとても【人間味溢れる】ものであると感じられる。

 

さて、長々と語ってきたが……私が言いたい事は。

 

 

 

 

「唐突に沸いてくる強者とか震えが止まらんが?」

「早期発見しないとヤバい上に、できなかった場合のリスクがデカすぎる存在がさ……バナー広告レベルの頻度でポップする。」

「あー、もう面白いね。うん、面白い。」

 

 

「対処する側じゃ無かったらなあ!!!!」

 

 

パナータリー・シンセンス。現在35歳。今のあなたの名前だ。

元老院議員から駆け上がって、今は独裁官の身である。

 

 

身の上話をすると大変長くなるが、新貴族の家に生まれ、執政官を目指して公職に着き、三十歳前後で元老院入りを果たし、見事に執政官の座に付いた。

 

二頭政治は、このシンセンス共和国の最大の特色だが……三頭政治などとは一線を画するスピード感をもたらす。

 

政策の意思決定が極めて迅速で、都市貴族など封土を持たない富裕層が民会に入り、その資本力が民会で議論される法の力を決定付ける。

 

司法を変えるというのは議論だけではダメなのだ。

民会で上がってきた法が元老院によって監察され、二人の執政官によって承認される。

 

共和制であるこの世の祖国は、あなたのかつての故郷である地球とは掛け離れている技術を保有している。

 

 

 

(政治体制こそ、おおよそ共和制期のローマに近しいが、この世界にはとてつもない脅威が定期的にポップする。)

 

(転移者がいい例だ。インチキレベルにとんでもなく強い特殊能力を持っている上に、知識が非常に恐ろしい。大半の転移者はリスキルできるが、能力を持ったやつは転移してきた瞬間に殺ることができない。)

 

あなたは、その状況に激しい憤りを感じた。

 

(転移者は潜在的に国を乱す分子であり、異常者の集まりだ。)

 

(社会的な常識を何一つとして知らずしてやってきて、強い能力を持ったら胡座をかいて贅沢三昧。)

 

大抵のやつらは遠くから弓矢でひょいっと殺せるけれど、それでも殺せない特殊能力者が紛れているから、あなたは怖いのだ。

 

もしも見ただけであなたを殺せる能力をもった転移者がいたら、その転移者は誰にも止められないし、誰も逆らうことができなくなる。

 

 

(地球の知識を持ってても再現出来るとは限らないけれど。しかし、持っているというだけで潜在的な危険分子だ。)

 

 

例を上げるとするなら電話。

遠隔地で素早く情報を伝えるという概念が来てしまえば恐らくすぐに郵便の祈祷は淘汰される。

 

あなたは、その状況に対して本当に有り得ないと言いつつ、視線を扉に移す。

大声を出して叫んでもいいように、この部屋は作られた。石綿の壁は防音性が非常に高い。

 

大理石の床は夏は灼熱かつ冬は激寒で、足を刺激してくるが……あなたはズレてきたブランケットを膝にかけつつ、誰か入ってくるのか警戒した。

 

 

 

(日々、対応に追われて、気軽に危機を巻き起こす奴らのせいでとてもじゃないが休める気がしない。)

 

(民主主義とかそういうヤバい思想を広めようとしてくる忌々しい転移者どもが、また満月になるたびこの地上にやってくる。)

 

(やつらを根絶しなければこの世に平和は訪れない!)

 

(この世の神は終わっている。いや、そんな滅多なことを口には出来ないが……本当に終わっている。)

 

(たまたま対応出来ただけで、とてもじゃないが対応できる気がしない。これが任期が終わるまで残り4ヶ月も続く。)

 

(本当に、今の今まで……たまたま、周期的にそういう奴らがやってくるから対応できているだけだ。)

 

 

あなたはそんな長い思考をしつつも、【祈祷】をした。

 

人に齎された神の奇跡、祈祷。

祈ることで人は複数の神から恩恵を授かり、古来から祈祷を用いたサービスや社会体制が確立されてきた。

 

誰もが神に祈れば、死にさえしなければ生き残れる。そんな医療環境において、"大規模な動乱さえなければ"死者は少なくなる。

 

 

自らの運命が良くなりますように、とあなたは祈りを捧げた。

あなたを中心として小麦色に光る波が部屋へと広がってゆき、しかし何も起こらなかった。

 

あなたは、ただ漠然と思った。開拓地の悪しき集団はなぜ転移者を擁立するのか? と。

 

(転移者は素晴らしい力を持っている。軒並みとてつもない能力を、たしかに持っている。)

 

しかし、しかしだ。

 

(社会的知識に当然ながら乏しい。そんな転移者に嘘を当然のように吹き込み、私のインペリウムを否定するような思想を撒き散らすだけではなく……争わせる。)

 

(たかが開拓民の一派が大きな土地を得たからなんだと言うのだ。人が伴わなければ、その場所は法の支配下に無い!)

 

(そもそも前の執政官が悪い。墾田永年私財法に近いものになりかけるような、とんでもない法律を実行させるから悪いのだ!)

 

参政権を持ち、相応の資産を持つ者。

 

(貴族の条件に確かに合致するが、それに見合う責任を彼らは持たない。)

 

(開拓民による横暴な反乱を抑えるために、国民の税金が使われる。なんと悪しき法律だろうか。)

 

(いまだ開拓民の中には、私を侮る者がいると聞く。)

(客観的に見て内乱寸前ではないか、この国は。)

 

(私が謀を行っているなどと、公然と発言する無礼な者に加え、開拓民が勝手に作った教会は保護した転移者を集金装置として使っている。)

 

(なんと堕落した聖職者だろう。ああ、なんと悪しき教会だろう。)

 

本来あるべき姿をしているところは少なく、

"民間による祈祷を使えるものの相互扶助組織"という教会が教会として成り立つための体をなしていない。

 

 

そんな開拓民の教会は正直に言って、認めていない。

なぜなら鎮圧命令を下したとて、転移者を抱えている可能性がある。

もし兵士が負け、職業軍人の壊滅などの風評を垂れ流されたら威信は地に落ちる。

 

それは同時にあなたの死を意味するからだ。

 

転移者が居るかもしれない。それだけの理由があれば、あなたは開拓地の教会のことを潰せる。しかし、それはできない。

 

いくら自分の作った法律を遡及的に適応できるとしても、そのようなことをしたらまず間違えなく大反乱が起きる上に元老院たちも一斉に追放へと動き出す。

 

権力基盤は充分に固めたが、元老院議員の中でも盟友たりえる人が少ないのだ。

盟友とはざっくり言うと支持を失ったら致命的になる人達のことである。このシンセンス共和国に限っていえば、それは元老院議員にとっては市民全員、あなたにとっては元老院議員の過半数だ。

 

 

「ああクソ!本当に腹立たしい……開拓民を率いた軍団長に百年間の土地所有を認めたのが先輩の間違いだった。」

 

「執政官の役割を軍団長に期待するべきじゃなかった。」

「真面目な開拓民は納税をしているとも、真面目な開拓民たちは。」

 

 

 

あなたはすっと息を吸い、叫ぶ準備をした。

 

 

 

「もはや地方軍閥じゃないか!クソが!!」

「祈祷は資本主義で売り買いできるものじゃねえんだよ……持てるものが分け与える慈悲の力だ!」

 

「どいつもこいつも腹立たしい……全員を一掃できたらどんなに喜ばしいことか。」

「普通は!!もう片方の政務官が!クソ法律を実行できねえようにするんだよ!チクショー!」

 

 

部屋のステンドグラスが、声で揺れたような気がした。

 

 

(軍団長は本来任期が終われば、ただの市民になる。もちろん補償などなどはあるが、それでも市民になる。)

 

(しかし、しかしだ。百年くらい自分のものになるかもしれない、だなんてクソ法律を提案されたら、たしかにそいつらは開拓民になる。)

 

(そいつらが市民になるわけがない!)

(属州の総督なんて地位にふさわしくない。没収!)

 

(ほとんど独立した国の市民として振る舞い始めてしまう。)

(行政権以外の全権を認めていないけれど、金融的な従属に置けているだけで安心した執政官はバカかと思う。)

 

(それを止めるために執政官を私が毒殺して、全権を掌握してから二ヶ月。たった二ヶ月でこうなっている。)

 

(クソ法律の実行からは、ちょうど十年。十年だ。)

 

「ああああああ!」

「もう遅い!改革しても間に合わないいい……!」

「市民の国を僭主たちの国にする転移者どもは目下の脅威だけどそれよりも、腐敗した軍団長どもが煩わしい……!」

 

「クソがクソがと叫べど解決しないね!?でも叫びたいんだ!あーはははははははははは!!!」

 

 

あなたは叫ぶ。酸欠になりそうなほど、叫ぶ。

なぜ叫ぶか。不満があるからだ。

 

叫ぶことでその不満は解消されないと、頭の中では分かっている。

しかし叫ぶ。

 

 

 

【二世開拓の法】。

悪しき法の名前が、あなたの頭の中で反響する。

 

 

(成人者の寿命は約50年。夭折した人数を含めずに統計をとると、だいたい70歳で死ぬ。)

 

(そんな期間、私有を認めたなら公地公有が崩れるどころか地方軍閥化しない訳がない!)

 

(墾田永年私財法みたいな感じになる可能性がめちゃくちゃチラつくぜ……クソがよ。)

 

 

 

内心で悪態をつきつつも、大きな溜息と共に机を見た。

版図は大きく広がった。耕作地も大きく広がったし、気候帯を縦に横断した。

 

だが開拓地に送った【変換貴族】の動向が、どうにも気になる。

 

金の貨幣を使うということはこの世界において0から信用を生み出すようなもの。

 

簡素に話せば、ミスリルの硬い印を金に押し付け、その凹んだ表面に描かれた数字の価値に相当する価値を与える。

 

つまるところ重い小切手のようなものが大量に作られ、それで開拓地の経済を回している。

 

「あーあ、もう多分……この国は終わりだねえ。頑張ってどうにかできる次元に存在してねえわ。」

「青銅の供給をカットしてやれば丸ごと滅びるかな?」

「ああ、それをした瞬間に独立されるか。」

 

「転移者たちが、発明をしようとしてくれるのはいいんだけど。だいたい共通して銃火器とか作りたがるからさあ、本当に危うい。」

 

「どうしてだよおおおお!!!!!!!」

 

 

 

あなたは机を殴った。木の机の衝撃は大理石の床へと伝わり、微細なひび割れが放射状に足から広がる。

 

ブランケットがズレて床に落ちるも、あなたは拾わない。

 

いや、正確には拾う人がいないと言うべきか。

執政官二人分の権限を持つあなたは、およそ百人の従者を従え、身の回りの世話をさせる。

 

それは当然だ。

 

高貴な者は自ら落とした物を拾うなど、貧民のこどき行為を働いてはならない。

落とした物は拾わず、新しく買う。それこそが美であり、それこそが優雅さ。

 

感情に任せつつも、【この世界の作法】は忘れてはいなかった。

 

マナーに非常に厳しいが、そのマナーの方向性はだいたい平安時代の日本のようなもの。

貴族の女性は絶対に結婚の日まで家から出ないし、貴族の男性もまたその然り。

 

公務も当然、政をするための庁舎が置かれるような仕事でもない限り自宅だ。

 

あなたは政庁舎で政務をすることを誇りに思っている。なぜならそれは自ら獲得した地位だからだ。

 

新貴族の家に生まれたという点で執政官候補になれる上、公職にも簡単に就けた。

やろうと思えばあなたはこの世に存在する全ての役職に就任できる頭脳を持っている。

 

しかし、その頭脳が発揮されることは長らくなかった。

 

 

「地球の知識を持ってやって来てるのに加えて、特殊能力も使えるのがおかしいだろ。」

「バランスをどうにかしてくれや……農民に力与えたら職業軍人の意味が無くなるじゃんかよ!」

 

 

あなたは、唐突に机を蹴って移動させ、部屋のシャンデリアに照らされつつ、足を机に叩きつけた。

 

続け様に繰り出される殴打は足の指を折ることなく、机の上にある様々なインテリアをめちゃくちゃにしていく。

 

 

あなたがここまで感情的になる原因。

 

 

その全てはたった二年前。二年前から始まった……

 

 

 

 

 

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