ハル先輩は恐れない   作:3DS大将

1 / 10
私の名前はノラと言います

私の名前はノラと言います。

 

◯△高校の一年生で、偏差値は50ぐらいです。

 

都会ではないにしろ割と低いところに通学しています。

 

 

私の通う高校はごく普通。

珍しい部活はないし、他の学校より抜きん出た特徴や魅力も正直ない。

優秀な学生も輩出したこともないし、現れることもないとも思う。

 

あ、でもひとつ違うことはある。

 

輩出したことはないけど、輩出されそうにはなってる。

 

「ノラー」

私の「あだ名」を呼んできたのは友達のハナコ。

そうあだ名。

 

ノラは私の本名じゃない。

なぜなら自分の名前が好きじゃない。

はっきり言ってキラキラネームとかそんな次元じゃない。

私の親は頭がおかしい。

自分の娘にどんな名前をつけとるんじゃい。

 

「ノラってば」

友達は哀れんであだ名を考えてくれて、そのあだ名は私は気に入ってる。

名前だけじゃなく、私は赤いリボンをつけて登校しているが、正直外したい。

外せないのは行くたびに母がわざわばつけてくる。

外したい。

 

「なに?ハナコ」

「今日もハル先輩すごくない?中間テスト総合1位で2位と100点差もあるんだよ!」

「はいはい」

私がさっき言った優秀な学生、そう、ハル先輩だ。

高校2年生のハル先輩はどの学科でも満点かそれに近い成績を出している。

 

近寄りがたい雰囲気もなく、優しい人で男にも女にもモテてる。

 

「ハル先輩イケメンだよね〜私が男子だったら絶対告ってるもん!」

「女なのに告ったアンタが言うそれ」

そう、こいつ告白したのだ。

クラスどころか学校全体のマドンナに気持ち告白していくほどのメンタル。

私は見習えない。

 

まぁ結果は撃沈だが、ハル先輩優しいから気持ちだけ受け取るみたいな相手を傷つけない振り方をした。

 

「わたしこそ、ハル先輩の良さっていうか色気を知ってんのよ色気を」

「お、おう…」

男子達も「俺だけがハル先輩の魅力を知ってる」って大盛り上がりしてるけど、この話こいつ知ってるのかな?

 

「まぁ、先輩はすごい人だから私なんかじゃ付き合いないと思うけどね」

…それはそう。

 

ハル先輩はすごい。

成績は常にトップだし、身体能力も高い。

 

100m走なんてこの前は10秒だったらしいし、握力なんて80キロいってたっけな?

 

ボール投げも毎回白線超えてるらしいし、シャトルランも1人だけ残ってて200超えたあたりから先生に止められて終わる。

 

なんなら隣町から走って通ってるらしいし、体力も走力もやばい。

左腕がないハンデをものともしないで、トップを駆け抜ける。

でもそれを鼻にかけたりしないし、自慢もしない。

性格も成績も良くて顔も良くて可愛くてモテるって最強かよ。

 

その影響でたくさんの運動部から勧誘されてるけどハルさんは断ってる。

 

 

告白された時もそうだったらしいけど、ハルさんが関係を迫られると必ず言うことがあるらしい

 

 

『私のせいで落ち込ませたくない』

 

 

 

 

私は校舎を歩いていると、グラウンドの端のベンチに座っているハル先輩の姿を見た。

別にこれは私だけが知ってる情報じゃないけど放課後ハル先輩は大体いつもそこにいる。

 

本を読んでいたりするけど、大体は周りを見てるだけの方が多い。

 

「…ホント、いい顔してるよなぁ」

散々ハナコからハル先輩の武勇伝を聞かされて興味は出てる。

この提出物を出した後、話しかけてみよう。

 

「・・・・・」

 

と思ったけど近づくと何故か無言になる。

話しかけられるわけなかったわ。

だって相手は全生徒の頂点だべ。

 

 

「…帰ろ」

先輩に背を向けて帰ろうとすると

 

「・・・」

「…え」

ハル先輩が目の前にいた。

 

(な、なんで…ベンチに座って…)

私は先輩がいた場所に目を向けるとそこに先輩の姿はなかった。

だとしたら目の前にいる先輩ってどう移動したの?

 

「・・・」

ハル先輩はめっちゃ距離を近づけてきた。

私の顔を観察し、髪まで触ってきた。

 

「せ、先輩?」

「え、あっ!ご、ごめん!触っちゃって!」

「い、いえ私は大丈夫ですけど、私ってなんか…変でした?」

「…?…っ!ううん!とっても可愛いリボンだなって」

 

先輩は顔を赤くして笑顔でそう答える。

やっぱりめちゃくちゃ可愛いなこの人

 

「それよりも…」

先輩は右手で私の頬を触ると

 

「もっとお顔よく見せて…」

私の顔をじっと見つめる。

 

そこからはしばらく会話は続かなかった。

先輩は私の顔を目を輝かせて観察し、本当に至る所まで見られた。

先輩からといえど、流石の私も恥ずかしくなってきて、ついそろそろやめてほしいと声が出そうになる

 

「もう少し」

「え?」

「お願い…あと少しだから」

先回りして答えるように先輩は呟き、私の顔を一通り観察したあと、涙を流した。

 

「えぇ!?ちょ、大丈夫ですか!?」

私はハンカチを取り出して先輩の涙を拭うと、先輩は笑顔で「ありがとう」と言い、私をベンチに座らせる

 

「貴方のお名前は?」

「あ、えっと…ノラと言います」

咄嗟にあだ名で答えてしまった。

だって自分の名前嫌いなんだもん

 

 

「・・・・フフッ」

ハル先輩は笑い、私の耳元で私の心臓を潰すようなことを言ってきた

 

「嘘はダメだよ」

その一言に私はなんだろうか…恐怖じゃない。

心の奥底まで見られた上での言葉みたいで人と会話してる感じがしなかった。

でもはっきり言えることはもう一度嘘なんてつけるほど空気がいいものではない

 

「…ネコ」

「…?ごめん、なんて言ったの?」

「わかってますって!!普通ならありえない名前だってわかってんですから聞き返さないで!!!」

 

思わずハル先輩に怒鳴ってしまった。

そう、私の名前はネコ。

理由は猫みたいに可愛い子に育ってほしいかららしいけど一言で言わせて貰えばフザケンナだ。

先輩にとて2度私に言わせてほしくはない名前で、私はこの名前をからかってきた人間と縁を切り続けてきた。

 

正直こんな名前なんて嘲笑の的になることは確実だ。

だからみんなあだ名でノラと呼んでくれる。

 

「ネコちゃんか…私は嫌いじゃないよ」

「先輩は優しいですね。慰めてくれなくてもいいですよ」

「ううん、本当。可愛い貴方を表してるいい名前だよ」

ハル先輩はそう言って頭を撫でてくれる。

 

「ねぇ…このあと時間ある?」

いや…

 

「えっと…暇ですね」

「よかった!えっとね…そのね」

 

これは…

 

「急な話で迷惑な話だと思うんだけど」

 

まさか…

 

「今日、私に付き合ってくれるかな…貴方のこともっと知りたいな」

「えゅ…ちょっ」

 

こりゃ

 

「ごめんね、嫌だよね」

「行きます」

 

行くしかないだろ!行く一択だよこんなもん!!!

 

「あぁ良かった…!じゃあついてきて」

先輩は私に対して手を差し伸べてきた

 

え、これもしかしたら手を繋いでいいってこと?

 

「は…はい…」

私は先輩に連れられて町へ出た。

 

 

……いや。

 

ちょっと待て。

 

落ち着け私。

 

今の状況を整理しよう。

 

さっきまで私は、学校のグラウンドにいた。

そして今は——

 

学校一の美少女と二人で下校している。

 

しかも。

 

手を繋いでいる。

 

「……」

 

「……」

 

やばい。

 

どう考えてもやばい。

 

手、柔らかい。

めちゃくちゃ柔らかい。

あと近い。

近い近い近い。

 

顔がいい人が近くにいると心臓に悪い。

 

「ネコちゃん」

 

「ひゃい!?」

 

思わず変な声が出た。

 

先輩はクスッと笑った。

 

「緊張してる?」

 

「そ、そりゃしますよ!」

 

「どうして?」

 

どうして!?

 

「だって先輩ですよ!? 学校一の有名人ですよ!?」

 

「そうなの?」

 

いや自覚ないのかこの人。

 

「みんなの憧れですよ…だって顔もいいし頭もいいし…運動神経だってそこらの男子よりも上で…!」

 

私が言うと、先輩は少し困った顔をした。

 

「そんなにすごくないよ」

 

「いやすごいです」

 

即答した。

 

先輩は少し笑って、私の手を軽く引いた。

 

「こっち行こう」

 

「え?」

 

連れてこられたのは——

 

クレープ屋。

 

「クレープ好き?」

 

「え、あ、好きです」

 

「よかった」

 

先輩は店員さんに注文する。

 

「いちごチョコクレープ二つください」

 

……二つ?

 

「え?」

 

「ネコちゃんの分」

 

「え!? い、いいんですか!?」

 

「うん」

 

さらっと言う。

 

いやこの人、モテる理由わかるわ。

 

「はい、どうぞ」

 

先輩はクレープを私に渡した。

 

「ありがとうございます……!」

 

一口食べる。

 

甘い。

 

めちゃくちゃ甘い。

 

「美味しい?」

 

「はい!」

 

先輩は嬉しそうに笑った。

 

そのあと、しばらく歩く。

 

ゲームセンターの前を通ったとき。

 

先輩が止まった。

 

「ネコちゃん」

 

「はい?」

 

「これやりたい」

 

指差したのは——

 

猫のぬいぐるみのクレーンゲーム。

 

……猫。

 

いやタイミング。

 

「……」

 

先輩は真剣な顔で台を見る。

 

「この子、ネコちゃんみたい」

 

「どこがですか!?」

 

「なんとなく」

 

なんとなくかい。

 

「ちょっとやってみるね」

 

先輩は100円を入れる。

 

右手だけでレバーを動かす。

 

アームが降りる。

 

ぬいぐるみを掴む。

 

そして——

 

一発で取れた。

 

「え」

 

「取れた」

 

「え?」

 

店員さんもびっくりしている。

 

先輩はぬいぐるみを取り出して、私に差し出した。

 

「はい」

「え、いやいやいや!」

「ネコちゃんに」

「えええ!?悪いですよ!先輩がとったやつですよ!」

「こんなのすぐ取れるよ、ほら』

 

でも。

 

と言う前に受け取ってしまった。

 

ふわふわの猫ぬいぐるみ。

 

「……」

 

「可愛い」

 

先輩が言う。

私じゃなくてぬいぐるみを見て。

 

……いや。

 

たぶん。

 

半分くらい私を見ている。

 

心臓がまた変な音を出した。

 

少し歩いたあと。

 

先輩が急に立ち止まった。

 

「ネコちゃん」

 

「はい?」

 

先輩は、じっと私を見た。

 

さっき学校で見たときと同じ目。

 

観察するような目。

 

でも今は少し違う。

 

少し——

 

嬉しそう。

 

「やっぱり」

 

先輩は小さく呟いた。

 

「え?」

 

「会えてよかった」

 

「え?」

 

意味がわからない。

 

すると先輩は少し照れた顔をした。

 

「変なこと言ったね」

 

「い、いえ……」

 

私は首を傾げる。

 

すると先輩は言った。

 

「ネコちゃん」

 

「はい」

 

「明日も一緒に帰ってくれる?」

 

……え?

 

「えええ!?」

 

「だめ?」

 

「だめじゃないです!!」

 

むしろ大歓迎です!!

 

「よかった」

 

先輩は安心したように笑った。

 

その時。

 

私は気づいていなかった。

 

この出会いが——

 

普通の高校生活をぶっ壊す始まりだったことに

 

●■

 

私は久しぶりに心から楽しいと思えた。

幸せだった。

密かに憧れていた人と一緒に遊べて、デートして、あんなに美味しいスイーツを食べて、こんなおっきなぬいぐるみを貰えて

 

先輩には感謝してもしきれない。

嬉しかった

 

 

「…ふふ」

自分の名前のせいで猫嫌いだったけど、私はあまりにも幸せで猫のぬいぐるみを抱きしめる。

 

ハル先輩は変な行動してた時もあったけど、あんなの誤差。

優しくてかっこよくて…

 

また行きたいなぁ

 

「…あ」

 

そうだったよ…ここ、家だ。

 

「・・・」

家に着いてしまった。

 

大嫌いな…家に

 

私は重い足取りでドアノブに手をかける。

気分が乗らず、もう一周して帰ろうかと思ったけど門限はすぐそこなんだ。

一分でも超えるとアザが増えてしまう。

 

「ただいま…」

「お姉ちゃん、おかえり」

「おかえりネコ」

 

私が帰ると妹と母が迎えてくれた。

顔の至る所に絆創膏を貼っている妹と、頭に包帯を巻いている母。

 

「ネコ…今日はお父さん…もうすぐ帰ってくるから」

「うん…」

 

妹は震えてガクガクと無言で、椅子の上で丸くなって縮こまる。

 

「大丈夫だよユリナ…私が守るからね」

そう言ってるうちに時間だ。

 

迎えないと。

 

私と、妹と、母は玄関の前で正座する。

 

そして父が帰ってくる。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。