ハル先輩は恐れない   作:3DS大将

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ハルとのデート その2

 

 

ネコが指差した先――そこには、最新の美少女フィギュアが厳重にアームの間に鎮座するUFOキャッチャーの筐体があった。

 

ハル先輩は筐体のガラスに近づき、中の景品をじっと見つめる。

 

「フィギュアかぁ……これ、いわゆる『橋渡し』ってやつだよね?箱を少しずつずらして落とす、結構難しいタイプになるけど、本当にいいの?」

ハル先輩の言う通り、ただアームで掴めばいいという単純なものではない。

景品を落とすための緻密な角度の計算と、繊細なレバー操作――つまり、ハル先輩が最も苦手とする「精密なコントロール」が必要不可欠なゲームだった。

 

「いいんです! こっちの方が、お互いにフェアじゃないですか?」

ふふん、とネコは少し得意げに胸を張った。ハル先輩の超人的なパワーが通用しないこの領域なら、絶対に勝機はある。

 

「ふふ、そうだね。じゃあ、勝負しよっか」

ハル先輩はネコの思惑をすべて分かった上で、楽しそうに笑った。

「じゃあ私、先攻で」

ハル先輩はそう言うと、筐体の投入口に迷いなく100円玉を次々と滑り込ませていく。

チャリン、チャリン、と音が鳴り止まず、画面に表示されたクレジットは一気に【10回分】になった。

 

「わ、ちょっと待ってくださいハル先輩! 交互にお金を入れないと、先輩ばっかりお金が……!」

慌てて止めようとするネコに、ハル先輩はレバーに右手を添えたまま、いたずらっぽく振り返った。

「いいんだよ。この勝負、私が言い出したんだから、お金は全部私に払わせて」

ハル先輩はそこで言葉を一度区切り、ネコの顔をじっと見つめると、声音を少し低くして妖しく微笑んだ。

「それにさ……もし私が勝ったら、このゲームセンターの料金以上のことをネコちゃんにしてもらうつもりだから」

「ひゃいっ……!?」

料金以上のことって、一体何をさせるつもりなのか。ハル先輩の口から出たその言葉の響きに、心臓がバクバクと音を立て始める。

ネコは顔を真っ赤にしながら、震える。

 

そんなネコの様子を見て、ハル先輩は声を上げて笑った。

 

「冗談だよ、ネコちゃん。ほら、そんなにガタガタ震えてたら狙いが定まらないでしょ?……じゃあ、私の1回目、いくよ」

ハル先輩はそう言ってレバーを慎重に動かし始めた。

ネコはハル先輩の「冗談」という言葉にホッと胸をなでおろしつつも、ハル先輩の横顔から目が離せなくなっていた。

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

「あー、またちょっとズレちゃった」

ハル先輩が操作したアームは、フィギュアの箱の角をかすめただけで、虚しく空を掴んで戻っていった。

これでハル先輩もネコも、お互いに数回ずつ失敗して、箱はビクともしていない。

 

ハル先輩は苦笑いしながら、再びレバーに右手をかけた。集中して横移動のボタンを長押ししながら、ハル先輩は前を見つめたまま、ぽつりとネコに話しかけた。

 

「……ネコちゃん、ありがとね」

「え? ……あ、いえ、お礼を言うのはこっちの言葉ですよ! こんなすごいところに連れてきてもらって、ゲーム代まで出してもらって……」

ネコが慌てて両手を振ると、ハル先輩はレバーから手を離し、今度は奥移動のボタンを押しながら、優しく目を細めてネコを振り返った。

 

「ううん。体育祭のご褒美なんて言って誘ったけどね……本当は、私もネコちゃんとただ遊びたかったからっていうのもあるんだよ」

 

ウィィィン、とアームが奥へと進んでいく。

 

「だから……今日、こうして一緒に来てくれて、すごく嬉しい」

いつもどこか一歩引いてみんなを見守っているハル先輩が、真っ直ぐに伝えてくれた「嬉しい」という本音。その言葉が、ネコの胸の奥にじんわりと温かく染み渡っていく。

ネコは少し照れくさそうに俯き、それから、ずっと胸の中に大切にしまっていた思い出を取り出すように、ぽつぽつと話し出した。

 

「……ハル先輩。初めて先輩と2人で遊んだ時のこと、覚えてますか?」

ハル先輩が「ん?」と小首を傾げる。アームはまたしても箱の上をスカッと通り過ぎていくけれど、もう2人ともゲームの勝敗なんてどうでもよくなっていた。

 

「あの時も、今みたいにUFOキャッチャーの前にいたんです。……ハル先輩が、小さな猫のぬいぐるみを、私のためにとってくれたの……覚えてますか?」

「あぁ……うん、覚えてるよ。取れたね、あのぬいぐるみ」

 

ハル先輩は懐かしそうに目を細めると、ちょっと照れくさそうに笑った。

 

「でも、あれは本当にたまたまだよ。あの時はさ、ちょっと格好つけてたから、心の中では『取れなかったらどうしよう』ってハラハラしてたの。だから綺麗に落ちてくれた時は、実はものすごくホッとしたんだよね」

「…でも、私はあの時ハル先輩がしてくれたこと、絶対に忘れません」

ネコが真っ直ぐな瞳でそう告げると、ハル先輩は「もう、大袈裟だなぁ。ぬいぐるみ一つ取ったくらいで……あ」と言いかけたところで、またアームが箱の横を虚しくすり抜けた。

 

「はい、失敗。じゃあ、ネコちゃんの番だよ」

ハル先輩に順番を譲られ、ネコはレバーの前に立った。

ボタンに手をかけながら、ネコはさっきの言葉の続きを口にした。

 

「ぬいぐるみを取ってくれたことも、もちろん嬉しかったです。だけど……何よりも嬉しかったのは、あの日の帰り際、私なんかに『明日、一緒に帰ろう』って言ってくれたことです。それが、本当に嬉しくて……」

 

ネコが操作するアームが、静かにウィィィンと動き出す。

ハル先輩はそれを横で見守りながら、ふっと柔らかく目を細めた。

 

「それは私のわがままに付き合ってくれたんだよ。こっちこそ、付き合ってくれて感謝してる」

ハル先輩はそう言ってくれるけれど――ネコは、心の中で静かに首を振った。

 

(違う。わがままなんかじゃない。あの時のハル先輩の言葉には、私を引き上げてくれるような、言葉にできない温かさがあったんだ……)

家での息が詰まるような地獄の生活。

自分の存在を全否定したくなるような、呪いたい毎日。

だけど、そんな暗闇の中に、ハル先輩が光を灯してくれた。

そして今は、うるさくて、お節介で、だけど誰よりも味方でいてくれるユイもいる。

 

(ハル先輩と、ユイのおかげだ。おぞましいことばかりの毎日だったのに、最近……私、生きてて楽しいって、本当に思えてる。2人には、心の底から感謝してるんだ……!)

胸の奥から湧き上がる熱い感情。ネコは様々な感情が出そうになるのをグッとこらえ、レバーを握る手に力を込めた。ハル先輩に、この感謝の気持ちを形にして伝えたい。

 

「だから……このフィギュアは、私が絶対に取ります!」

ネコは全神経を集中させてボタンを離した。

計算通り、アームの爪がフィギュアの箱の絶妙な隙間にガシッと引っかかる。そのままアームが持ち上がると同時に、箱のバランスが劇的に崩れ、滑り台を滑るようにして――

 

ゴトンッ!!!

 

信じられないほど鮮やかに、フィギュアの箱が取り出し口へと転がり落ちた。

「……えっ!?」

ずっと苦戦していたはずのフィギュアが一発で落ちたのを見て、あのハル先輩が、見たこともないほど丸く目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。

「と……取れた……取れました、ハル先輩!」

ネコはパァッと顔を輝かせて、勝利の笑顔をハル先輩に向ける。

 

「すごい…本当に一発で落としちゃった……うん、私の完敗だよ」

ハル先輩は驚きから一転、 潔く両手を上げて降参するように笑った。そして、一歩、また一歩とネコの方へ歩み寄ってくる。

 

「じゃあ……何して欲しい? 負けたからネコちゃんの言うこと何でも聞くよ」

ハル先輩の綺麗な顔がすぐ近くまで迫り、ネコを見下ろす。

勝つことに全神経を集中させていたネコは、勝った後のご褒美のことなんてこれっぽっちも考えていなかった。

 

「え、あ、ええっと……! 何して欲しい、ですか……!?」

『何でも言うことを聞く』。その言葉の重みと、ハル先輩のゼロ距離の美貌に、ネコの脳内は一瞬でキャパシティを超えて煙を吹き出し、完全に頭をパンクさせてしまった。

オロオロと視線を彷徨わせ、真っ赤になって考え込んでいるネコを見て、ハル先輩はさらに楽しそうに、からかうような低めの声で囁いた。

 

「なんでもいいよ? ……たとえば、ここでキスでもする?」

「な、ななな……っ! い、いま真剣に考えてる最中なんですから、静かにしてくださいッ!!」

心臓が破裂しそうになったネコは、顔を茹でダコのように真っ赤にして思わず叫んだ。ハル先輩はネコの初心すぎる反応に心底楽しんでいる。

 

「……き、決めました!」

ネコはポカポカと熱い顔のまま、意を決してハル先輩の目を真っ直ぐに見据えた。

「ハル先輩、また明日も、私と遊んでください!」

それが、ネコが絞り出した最大の『わがまま』だった。

しかし、それを聞いたハル先輩は、一瞬きょとんとした後、片手をそっと自分の額に当てて「はぁ……」と深いため息をついた。

 

「ハ、ハル先輩……?」

ハル先輩は呆れたような、だけどどこか愛おしそうな眼差しをネコに向けると、取り出し口からフィギュアの箱を拾い上げてネコに手渡した。

 

「ネコちゃんってさ……ここぞって時にバシッと決めるけど、外す時は思いっきり外すよね」

「ええっ!? 外すって何ですか!…もしかしてこのフィギュアいらなかったですか?」

「ううん、そういうことじゃなくて……ほら、行くよ」

ハル先輩はネコの背中を優しく押してゲームセンターの出口へと歩き出した。リゾート地の心地いい潮風が、火照ったネコの頬を撫でていく。

 

「あの、ハル先輩、どうかしたんですか? 私、何か変なこと言いました?」

納得がいかなくて、ハル先輩の顔を覗き込みながらトコトコと隣を歩くネコ。

ハル先輩はそんなネコの頭をポンと軽く叩くと、呆れと優しさが半分ずつ混ざったような笑顔で、小さく呟いた。

「……おバカ」

「ええーっ!? おバカってひどいです!」

 

 

○○○○○

 

ゲームセンターを後にした2人は、リゾート地ならではの美味しそうな匂いに誘われて、クレープや唐揚げをつまみながら賑やかな通りを楽しく食べ歩きしていた。

平和で甘い時間――しかし、それは唐突に破られた。

 

「Excuse me! Can you help us?(すみません! ちょっと助けてくれませんか?)」

「Where is the... Oh, wait! Do you know this place?(ここはどこでしょう……あ、待って! この場所って分かりますか?)」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

突然、ガタイのいい何人もの外国人の観光客に囲まれ、ネコは一瞬でパニックに陥った。

目の前で激しい身振り手振りとともに対流するネイティブな英語の嵐。元々押しに弱いネコは、完全に頭が真っ白になってオロオロと慌てふためくことしかできない。

 

すると、その困惑するネコの前に、スッと一本の影が割って入った。

「May I help you? What's the problem?(どうされましたか? 何かお困りですか?)」

 

ハル先輩だった。

淀みのない、驚くほど流暢で綺麗な発音の英語。ハル先輩が瞬時に状況を察して応対する。

 

ハル先輩はフムフムと頷きながらその地図を覗き込み、細い指で特定の場所を指差しながら、再びサラサラと英語で説明を加えていく。

 

「Go straight down this street, and turn left at the second corner. You'll see it on your right.(この道を真っ直ぐ行って、2つ目の角を左に曲がってください。右側に見えてきますよ)」

「Oh, thank you so much! You saved us!(おお、本当にありがとう! 助かったよ!)」

 

外国人たちは去っていった。

嵐が去った後のように呆然としていたネコは、ようやくハァと深い息を吐き出し、ハル先輩を見上げた。

 

「は、ハル先輩……! ありがとうございます、本当に助かりました……! あの人たち、一体なんて言ってたんですか?」

「ん? ああ、『バス停はどこですか?』って」

ハル先輩はジュースを一口すすると、何でもないことのように淡答えた。

(あんなに英語で喋りかけられてたのに、要するにバス停の場所だったんだ……!)

異国の言葉をいとも簡単に捌いてしまったハル先輩のクールな横顔を見て、ネコは改めてハッと思い至る。

 

(そういえば……確かハル先輩って、学校のテストで学年1位の秀才だったっけ。そりゃあ英語くらいペラペラだよね、すごすぎるなぁ……)

ハル先輩のに内心で深く感心していると、ネコの脳裏にふと、もう一人の先輩の顔が浮かんだ。

 

「そういえば、コトモ先輩も前に英語をペラペラ喋ってて、すごく上手だった記憶があります」

「あー、コトモね」

ハル先輩はコトモの名前を聞くと、少し意外そうな、それでいてどこか納得したような表情で口元を緩めた。

「コトモはさ、ああ見えて学年3位だからね。普段はあんな感じでちょっと抜けてるっていうか、おバカなことばっかり言ってるけど、実は結構勉強できるんだよね」

「ええっ、コトモ先輩がですか!?」

 

ネコが素っ頓狂な声をあげていると…

 

「あ、それとね、ネコちゃん。これ」

ハル先輩はそう言って、ポケットから見覚えのある小さな小物を差し出した。

「えっ……? あ、私の財布!?」

ネコは自分のポケットやバッグを慌てて確認し、ハル先輩の手のひらの上にあるのが間違いなく自分の財布であることに気づいて驚愕した。

 

「う、嘘、いつの間に……! どこかで落としちゃってたのかなぁ……」

「ううん、違うよ」

ハル先輩は首を横に振ると、去っていった外国人たちの方向を冷ややかな目で見つめながら言った。

「さっきの人たちね、道案内にかこつけて、ネコちゃんの財布を取ろうとしてたんだよ」

「ええっ!? ス、スリですか……!?」

ネコが驚いて自分の通学バッグを見ると、確かにチャックが少しだけ開いたままになっていた。

「そう。大勢で一気に押し寄せて、大声の英語でパニックにさせて注意を逸らしている間に、後ろからこっそり手を伸ばして盗るやり方」

 

ネコは戦慄した。

 

テレビとかでたまに見る手口だけど、まさか自分に今日やられるとは思いもしなかったのだ。

 

「……そもそもね、見た目的に私の方が英語を話しそうに見えるはずなのに、わざわざ気弱そうで隙だらけなネコちゃんの方に群がってきた時点で、最初から怪しかったんだよね」

ハル先輩の観察眼と分析に、ネコは背筋が凍りつくのを感じた。

あの緊迫した数分間の間に、ハル先輩は道案内をこなすだけでなく、相手の行為を完璧に見抜いて、ネコの財布をスマートに奪い返していたのだ。

 

「何から何までありがとうございます…」

「ううん…それよりも怖い目に遭ったね…よしよし」

 

頭を撫でられながら、ネコは本当にハル先輩には頭が上がらないと思い知らされる。

 

 

それから2人は食べ歩きの通りを抜け、海風が通り抜ける少し静かな公園へとやってきた。

さすがに丸一日遊び回ったせいか、どっと心地いい疲労感が押し寄せてくる。

 

「ハル先輩、ちょっとだけ……休んでもいいですか……?」

「うん、あそこのベンチで休もうか」

2人で並んでベンチに腰掛けると、ネコの瞼は急激に重くなっていった。波の音とハル先輩の隣の温もりが、最高の守り神のようにネコを包み込む。

 

「……」

ネコは抗いきれず、コテンと頭を傾けてハル先輩の肩に寄りかかるようにして、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

 

ハルはネコが起きないよう、そっとその体を抱き寄せ、自分の膝の上に頭を乗せるようにして横に寝かせてあげた。

ネコの寝顔を優しく見つめながら、ハルは左手の袖を少し引きずり、右手でネコの黒髪をさらりと撫でる。

 

そして――。

 

ハルの指先が、目にも留まらぬ速さでネコの髪の奥へと潜り込み、何かを「サッ」とつまみ上げた。

ハルの指先に挟まれていたのは、うねうねと蠢く一匹の大きなムカデだった。

 

「ふふ、やっぱりいた」

ハルはネコを起こさないよう、極めて静かな、だけど氷のように冷たい声で囁いた。

「どうも、ムカデさん」

捕らえられたムカデは、まさか一瞬で捕まるとは思っていなかったのか、慌てふためくように多脚をめちゃくちゃにバタつかせて暴れ狂った。

しかし、ハルの強靭な指先から逃れられるはずもない。

 

ハルはムカデをベンチの木製の腰掛け部分に持っていくと、逃げられないように右手でグッと強く押し付けた。

ミシミシ、と木が軋むような圧力がムカデに加わる。

 

「降参する?」

ハルが微笑みながら問いかけると、ムカデは何本もの足を激しく動かして地面(ベンチの板)をめちゃくちゃに叩き、必死に降参の意思を示した。

 

「よろしい」

ハルが指の力を緩めて解放してあげると、ムカデは這うようにしてハルと向き合い、ちょこんと直立に近い姿勢をとった。

その姿はどこか、怒られた小学生のようでもある。

ハルは膝の上のネコを優しく撫でながら、ムカデをジッと見つめた。

 

「……コトモのムカデだよね?」

図星を突かれたムカデの触角が、ピシッと固まる。

 

「なんでここにいるの?」

問い詰められたムカデは、喋る口を持たないため、前足を一生懸命に動かして必死にジェスチャーでアピールした。

 

要は「話せない」と言っている模様。

 

するとハルは、聖母のような慈愛に満ちた笑顔のまま、とんでもないことを口にする。

 

「あ、話せないんだ。じゃあ、意思疎通ができないなら生かしておく意味もないよね。とりあえず……その立派な触角、もぎ取ろうか?」

 

ハルの右手の爪が、ムカデの頭部に向かってスッと伸びる。

「……なんてね。冗談だよ」

クスクスとハルが笑うと、ムカデは冗談に全く聞こえなかったのか、全身の毛を逆立てるようにしてガタガタと震え、しどろもどろになって右往左往し始めた。

この片腕の美少女がどれだけ規格外の怪物であるかを、その本能が察知して完全に怯えきっているようだった。

 

「ネコちゃんはムカデ嫌いなのに、よく見つからずに隠れられたね。大したものだよ」

ハルは感心したように言うが、その瞳に温度はなかった。

 

「だけど、いくらコトモの知り合いだからって、このまま帰してあげるわけにもいかないんだよね」

ハルはネコの寝顔からムカデへと視線を戻す。

 

「コトモの命令? ――ネコちゃんの様子を盗み見るように言われたの?」

そう問いかけると、ムカデは焦ったように多脚をうねらせ、必死に「違う、違う!」と否定するような仕草を見せて事実を隠そうとした。

 

ハルから笑みが消え、すっと平坦な真顔になる。

 

「……コトモから直接頼まれたの?」

「…………」

ムカデは気まずそうに動きを止め、沈黙した。

 

「答えないんだ…まぁ、いいけどね。コトモ以外にムカデと友達になれるような物好きなんてネコの周りにはいないから、なおさら怪しくてこのまま帰せないんだけどな……」

ハルが静かに圧をかけていた、その時だった。

 

公園のすぐ近くにある特設ライブ会場らしき場所から、突然、大地を揺らすような重低音と大歓声が巻き起こった。

 

「――いくぞオラァァァ!!!」とバンドのボーカルが爆音で叫び出す。

ハルはその瞬間、膝の上で眠るネコが起きないよう、すぐに右手で優しくネコの耳を塞いで守ってあげた。

 

ハルの一瞬の隙を突き、ムカデはベンチから飛び降りて、一目散に近くの草むらへと逃げ込もうと猛ダッシュをかける。

 

だが、ハルはネコの耳を塞いだまま、冷ややかな声でポツリと呟いた。

 

「――コトワリ様」

 

ガッッッ!!!

 

逃げようとしたムカデのわずか数ミリ手前、乾いた地面に、深紅に染まった巨大なハサミが凄まじい風切り音とともに勢いよく突き刺さった。

硬い土が弾け飛び、ムカデは恐怖でその場にピタッと硬直する。

ハルはネコの耳から手を離すと、いつの間にか出現したその禍々しい赤いハサミを静かに従え、フッと妖しく微笑んだ。

 

「逃げられないよ。……おとなしくこっちにおいで?」

 

ムカデは観念したようにハルの前に移動し、向き合う形で身体を震わせながらも触覚を動かす。

 

「……まぁ、やっぱりコトモのムカデなのは間違いないみたいだね」

突き刺さった巨大な赤いハサミを見つめ、泡を食って震え上がっているムカデを見下ろしながら、ハルは小さく息を吐いた。

 

「いつもならね、コトモを裏で思いっきり締め上げて、ついでにあなたにもそれ相応のお仕置きをするところだったんだけど……」

ハルはそう言うと、膝の上で無防備にすやすやと眠るネコの、愛らしい寝顔に視線を落とした。

 

その表情が、ふっと柔らかいものに変わる。

 

「今日はさ……私、すごくいい気持ちなの。ネコちゃんと一日楽しくデートできて、すごく満たされてるから」

ハルは再びムカデに向き直ると、クスッと微笑んだ。

 

「だから、今回は特別に許してあげる。……ネコちゃんに感謝してね、ムカデさん」

ハルがそう言って赤いハサミを消し去ると、ムカデは信じられないほどのスピードで、這うようにしてその場から逃げ出そうとした。

 

「あ、待って」

その冷ややかな一言に、ムカデの多脚がピシッと凍りつく。

ハルは逃げるムカデの背中に向けて、静かに、けれど逃れようのない警告を投げかけた。

 

「――私を監視するのは別にいいよ。好きにすればいい。だけど、もし次、ネコちゃんに何か変なことをしたり、怖がらせたりするような真似をするなら……」

ハルは右手をすっと持ち上げ、指先をゆっくりと、力強くすぼめてみせる。

 

「次は本気で、跡形もなく握り潰すからね」

その言葉に完全に恐れおののいたムカデは、まるで返事をするように触角を激しく上下させると、今度こそ脱兎のごとく草むらの奥へと全力で逃げ帰っていった。

 

ザザザッ……と草木が揺れる音が遠ざかるのを見届けると、ハルはふっと小さく吹き出した。

 

(ふふ、なーんてね。いくらなんでも本当に握り潰すつもりなんてないけど……。まぁ、あそこまで脅しておけば、しばらくは大人しくなるよね)

そんなハルの内心の企みも知らず、膝の上のネコは「うにゅ……」と小さく声を漏らし、ハルの太ももに気持ち良さそうに頬をすり寄せている。

 

「おやすみ、ネコちゃん」

ハルは愛おしそうにネコの頭を撫でながら、静まり返った夕暮れの公園で、もう少しだけこの幸せな時間を引き延ばすことにしたのだった。

 

 

 

 





この小説はAIを利用しております。


↓ここからは自分語りですので読む必要は全くございません。
 






なぜ利用してますかというと今、社会人で働いていて、尚且つ正直うまくいっていないからです。
詳しくは言えないのですが、楽しくないことと興味のないことをやっておりまして、毎日辛すぎて小説を書ける時間が全然ないです。

過去に3作品ほど執筆してまして、どれも書き続けることが難しく、さらに内容的にも面白くもないので、結局最後は打ち切りにして自分で消してしまいました。

仕事に関しては辞めれば全部済む話なのですが、辞めるにしても次働く場所もなくて、僕みたいな役に立たない人間は行き場所がないんです。

なので続けているわけですが、辛いものは辛いですし、興味のないことを続けていると、やがて仕事のそれが嫌いになっていき、怖くなっていきました。
怖くて帰ったら部屋からずっと出れないですし、会社で怖い人の顔が定期的に出てきて頭が痛くなってきて、書けても誤字脱字使い回しの文章のオンパレードで見るに堪えないレベルに陥っています。
鬱とかではないですが、この先の未来の不安がすごくて、自分がどうなるのか予想がつかず、最悪なことも想像してしまいました。

結果、AIに頼って文章の訂正をしてもらったり、表現が曖昧でわかりづらい箇所を修正してもらいました。

もっと早く告知してれば良かったのですが、前置き等にわざわざ告知して小説を読みに来られてる人に水刺すのもどうかと思ってまして、なあなあにしておりましたら、ハーメルンの方からAI利用してるのに、タグつけてないことに警告飛んでくるという自業自得な結果になりました。

書くのをやめればいいと思われる方もいると思いますが、今まで読んでくれた方達に、途中で放棄するのは申し訳ない気持ちがありまして、僕も最後までやりたい気持ちがあります。

もし、まだAIを利用しているとご理解していただけた上で見ていただける方がおられれば、どうか今後ともよろしくお願い致します。

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