ホモ、現代ファンタジー世界にTS転生したので異性愛者です 作:稲光結音
ほぼ全ての一年生が自分の職業を身に付けた有意義な時間。
いや、有意義なんてものじゃない。人生の転機となった瞬間だったと言っていい。
そんな時間も終わりを迎えてそわそわと浮足立つボクら生徒は学校という縛りから解放された。
つまりは放課後である。
まるでずっと発売を待っていたゲームがプレイできる事になった時のような喜び。
そんな希望に満ち溢れた生徒達はそれぞれ最下級ダンジョンに向かった。併設されたギルドにはボクら新人、中学一年生がいっぱいだ。
早足で先にギルドに着いていた前衛職はお互いの職業なんかを確かめながら、仲の良いメンバーでパーティを組み、ダンジョンへ入場していった。
それすら待てないせっかちさん達はソロでダンジョン攻略に向かったとか。
ちなみにギルドから何らかの説明を受けたりなんかはしない。そんな事は小学生の授業内容に含まれているからだ。
「守谷、こっちだ」
安全マージンを取るためか、少しでもいいパーティを組もうとする慎重派の前衛は運動能力に劣る魔法職や補助職なんかがギルドに辿り着くのを待っていた。
ボクとしてもそういう人達の方が安心だけどね。
で、声をかけてくれたのは白部くん。ハグを交わした須藤くんも一緒にいる。
「おっす守谷さん! 俺も一緒についてくぜ!」
「いいよ! よろしくね!」
「ちなみにこの白部茂野太郎、念願の魔法使いになった。Cランク」
「須藤隆樹、一応前衛職……Dランクだけど。あ、剣士な」
そう言って落ち込む彼に、白部くんが呆れたような声を出す。
「ばっかおめー、Dなんて平均ランクだ。それだけあればあとは努力次第でなんとでもなる。実際、もっと低ランクの職業でも活躍してる上位探索者だっている」
「それはレア職とかの話だろー? 俺、探索者で食っていきたいと思ってたのに」
ちなみにCランクまでの職業ランクの人が人口の九十パーセントほどだと言われている。だから本当に落ち込む事はないんだけど……自分が特別な存在だという全能感を持っている多感な男子中学生には辛い現実ではあるか。
「そう落ち込む事ないよ。それ言ったらボクなんか今日たぶんまともな戦闘できないし」
「あー、サポート系? でも、それはそれで役割ってもんがあるだろ?」
「いや、本当に何も出来ない。出来るのは――」
魔導天書の召喚し、片手で持つ。だいたい縦幅と横幅が学校の机サイズ。六十五センチってところかな。厚みは……かなりとしか。といっても辞書ほどじゃない。重みも結構あって、少なくとも僕の筋力ではこの本を持ちながら戦闘したりはできない。
「この本に魔力を注ぐ事だけ」
「なんだそりゃ? 聞いたことないぜ」
「ばっかおめー、つまりレア職って事だろ。守谷。お前の職業は?」
「魔導司書。白部くん何かこの職について知ってる?」
考える素振りを見せる彼は、しかし思いつかなかったようで首を横に振る。
「すまん。まったく知らん。帰ったら調べてみる」
「ありがと。自分でも調べてみるからね」
「物知りっぽい白部が知らないレベルか。よっぽど貴重な職業なんだろうな。うらやましー」
それを聞いて、ボクは苦笑する。
「でも、出来るのは本に魔力を注ぐだけだよ? 本当に羨ましい?」
「うーん」
そう聞いてなお、特別な職業という言葉に惹かれるらしい。
「だが、それだけじゃない。だろ」
落ち着いた声がこちらに届く。背中に矢筒を担ぐ男が近づいてくる。
「同じクラスの与謝野くん!」
「ああ、与謝野与一。弓兵、Dランク。悪い、な。弓使いは耳が良い。話を聞いてしまった」
「いいよいいよ! 本当に秘密だったらもっとちゃんとしたところでするべきだしね! その矢筒と弓はギルドでのレンタル? かっこいい!」
「……ありがとう。それより、守屋さんの職業について知りたい」
頷き、説明をしようと三人と距離を詰めて本を見せたところでまた一人、闖入者が現れる。
「守谷さんが男を集めてなにかしようとしています! いやらしい事じゃないでしょうね!?」
眼鏡の三つ編み。性別について体育館で絡んできた渡辺さんだ。
「違うよー。職業の説明」
「なんで職業の説明にそんな近づく必要があるんですか! 不潔です!」
「あーもう。疑うなら渡辺さんもこっちきて」
ボクらは五人でぎゅうぎゅう詰めになりながら、一冊の本を開いた。最初のページに描かれたそれは。
「樹形図か?」
「そうだね、いわゆるスキルツリーってやつ。これは白のページ」
「ふむふむ。隣のページにも樹形図があるな。というか樹形図しか書いてないな」
「そっちは青のページのスキルツリーだね。ここには妨害系の魔法について書かれてるよ」
「本の持ち主である守谷にしか読めないのか」
次のページを捲る。
「ここが黒のページ。隣が赤のページ」
「それぞれ樹形図だけ書かれてて……これが全部スキルツリー? まさか!?」
「そう、ボクはこの本に魔力を込める事でスキルを解放させて習得する事ができるんだ。白のページの第一章を選択したなら、次は白のページの第二章AにするかBにするか、それとも青のページの第一章や黒のページの第一章を選んでバランスよく習得するか。それは自由」
「守谷さん……? この本、どれだけページがあるんだ……?」
「まあ、少なくとも百はあるよね。はは……」
気が遠くなるような話だが、もし全部のスキルを覚えられたらそれはもう強いだろうね。
「さて、ここで問題です。この魔導書は名前をライブラリといいます。そしてボクの職業は魔導司書。ここから連想される能力は?」
「!」
「まさか!」
与謝野くんと白部くんは予想がついたみたいだ。
話についていけないのは渡辺さんと須藤くん。
「なあ白部。どういう事だ?」
「ばっかおめー、つまり守谷の覚えたスキルが本、このでかい本が図書室! そこに図書委員の守谷がいたとしたら、何ができる?」
「?」
それでもなお察しが悪い須藤くんと違い、渡辺さんは答えに辿り着いた。
「スキルの……貸出……!?」
「はあ? って事はなんだ? 守谷さんが覚えた火炎魔法スキルを貸して貰えば剣士の俺でも火炎魔法が打てる?」
「ばっかおめー、そういう話をしてるんだよ!」
「うおおおお! すっげー!」
と、まあ。ここまではいいところ。問題があるとすれば。
「欠点もあるんだけどね。主に魔力供給で」
「ああ、そういえば変な事言ってたな。本に魔力を込める事しか出来ないだっけ」
「そうなんだ。まだ一個もスキルを解禁してない、すっからかんの図書館なんだよ。今のこの本は」
図書館に本が無ければただのハコモノ。
将来はおそらく最強。仲間のサポートだって出来る。その代わり最初は何も出来ない。そんな極端な性能をした職業が魔導司書というものらしい。
「スキルは使えない。身体能力も上がってない職業なしの一般人みたいなか弱いボク。だから……お願い! キャリーして?」
可愛い子ぶりっ子炸裂。俺は男だが男に好かれる為なら女の真似だって出来るのだ。
自宅で魔力を注ぎ続けてもよいのだが、ダンジョンなどの魔力の濃い場所、特に深層なら魔力の溜まりがよいのだ。
そして、魔力をたくさん得る事でいわゆるレベルアップができる。ただしステータス等は不明。なんとなくの感覚でしか強くなったかが分からない。
「ま、守谷をほっとくと何やらかすか分からないからなあ。しばらく付き合うさ。お目付け役として」
白部くんがそう言ってくれる。
「魔法使ってみたいからな! 今手伝うけどそのうち魔法貸してくれな!」
須藤くんも自分の好奇心のためとはいえ乗り気だ。
「面白い話だったから、な。その借りは返そう」
与謝野くんは話を聞いてしまった引け目から手伝ってくれるようだ。
「男子三人と女子一人で潜るのは健全とは言えませんからね。見張らせてもらいます」
渡辺さんも話の分からない人だ。ボクは男だって言ってるのに。
「みんなありがとー!」
そう言って白部くんにハグ。須藤くんにもハグ。
与謝野くんに避けられて……避けられた?
「与謝野くんなんで?」
「い、いや、女子に抱き着かれるとか恥ずかしい、し」
うーん、仕方ない。徐々に距離を詰めていこう。これはこれで年頃って感じでかわいいね。
最後に渡辺さんにハグ。
「あ……あ……」
顔真っ赤にしてフリーズしてしまった。初心な女の子も可愛い。
「よし、じゃあいこっか」
「待った、だ」
「どうしたの与謝野くん」
ボクが問うと、彼は自分の弓を指差した。
「守谷さんはともかく、他の面子はまだ武器のレンタルしてないだろ。借りていくべきだ無料なんだし」
なるほど、確かにそれはそう。
ボク達パーティは与謝野くんに連れられてレンタル所に向かう。
それぞれ須藤くんが木の剣、白部くんが木の杖、渡辺さんが木の大盾を借りていた。
「……盾?」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。渡辺花子、盾士。Bランクです。よろしくお願いします」
Bランク! 平均から抜け出した上位ランクだ!
須藤くんが与謝野くんに絡んでいる。Dランク同盟だ。とか何とか言って。
そこに白部くんがばっかおめー、自己紹介をきちんとしろと言われてフルネームと職業、ランクを伝えている。他の二人もだ。
「そういえば守谷さんの職業は分かりましたけど、ランクはいくつなんですか?」
「あ、うーん。EX、だねえ……」
「EX!?」
まあ驚くよね。EXは歴史上で現れた事がある、程度の存在だから。
「つ、強くなったら堂々と言えるんだけどさ。今ほら、職無しみたいな能力だからむしろ恥ずかしくて」
ああ、と納得する面々。
「確かに。今そんな事言ったら悪い大人にいいようにされそうだ」
悪い男にいいようにされるのは悪くないかも……などと思いつつボク達はギルドからダンジョン入場口を通ってダンジョンへと侵入した。