ホモ、現代ファンタジー世界にTS転生したので異性愛者です   作:稲光結音

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03ホモ、友達とダンジョンに潜る

 磯浜最下級ダンジョン。それがこのダンジョンの名称。

 小さく、五階層までしかないうえに弱いモンスターしかいないダンジョン。だからこそこうして中学一年生のニュービー達がこぞってこの場所でその力を試す様がそこかしこで見られた。

 特にボクらは希少クラスの説明で出遅れてるから余計にその様子を見る事になる。そしてそれはそのまま、このままでは狩る獲物がいない事を意味していた。

 

「おそらく、だが。とりあえず自分の力を試したい奴が多い。だからこの辺で待っていたところで結局は魔物の取り合いだ。あまりにも効率が悪すぎる」

 

 与謝野くんの言葉に、白部くんが同意した。

 

「そうだろうね。だとすれば……やっぱり?」

「ああ。この階層は無視して次の階に進むべきだと思う。みんなの意見を聞きたい」

 

 魔導天書を片手に、魔力を流し込み続けながらボクは賛成の意を示した。

 

「深い階層の方が魔力も多いしね、スキルツリーの解放のためにはちょうどいいよ」

 

 ちなみに体内の魔力というのは回復していくもので、空気中に含まれてる魔力が体内に取り込まれて自分の魔力になる。

 その魔力をそのまま魔導天書に送り込んでいるのだが、まるで反応がない。

 

「なあ、守谷さん。その本に注ぐ必要のある魔力ってあとどのくらいかとか分かんねーの? 例えば白部なら、魔法の撃てる限界は三発みたいにだいたい感覚で分かるって聞いたぜ」

「ばっかおめー、全力なら三発だ。間違えないでくれ。ある程度魔力が調整できればもう少し撃てるはずだ」

「その辺の調整も込めて、私達はダンジョンに来てる訳ですからね」

 

 眼鏡のフチをくいっと持ち上げる渡辺さん。

 

「学校側も一回はダンジョン行っておくようにって言ってたしな。まあそうじゃなくても普通にダンジョン来てた。というか禁止されてたとしてもこっそり侵入してただろうけど」

「ばっかおめー、禁止される理由がないだろ」

「そりゃそうだ。ははは」

 

 そんな風に楽しそうな彼に対し、ボクは問われた疑問に答える。

 

「必要魔力は全然分かんない。ただ、何らかのスキルが習得できるようになるだけの必要魔力が溜まった時は魔導天書が光って教えてくれるって」

「ふむ。戦力を増やす為にも俺も二階層にいくのは賛成だ」

「俺も。というか、なんでわざわざ採決取るんだ? 行けばいいだろ」

「ばっかおめー、ダンジョンってのは階層が深くなるほど魔物が強くなるんだよ」

「ああ、なるほど。んじゃ尚更賛成だ。こっちにゃBランククラスの渡辺さんがいる」

 

 突然水を向けられた渡辺さんは狼狽えた様子を見せた。

 

「え、私ですか!?」

「おう。なんたってそうそういないBランクだ。頼りにしてるぜ?」

「え、いや私は二階層は反対というか……もっと堅実確実に一階層で戦いたいです」

「大丈夫だって! いけるいける! わーたなべ! わーたなべ!」

 

 須藤くんの渡辺コールに乗っかる馬鹿な男衆。

 

「わーたなべ! わーたなべ!」

「わーたなべ! わーたなべ!」

「わーたなべ! わーたなべ!」

「わーたなべ! わーたなべ!」

 

 その数三名。つまりボクも参加している。囲まれた渡辺さんは顔を真っ赤にしてあわあわと大盾を振る。

 

「や、やめてください! 行きます! 行きますから! やめてください! 恥ずかしい! ほら向こうの人が何事かって見てます! やめて!」

 

 ひとしきりバカ騒ぎをしたところで、ボク達は戦う同級生を尻目に二階層へと向かった。

 迷うという事も無い。なぜなら一本道だから。

 平原、その左右には森。そんなシンプルなダンジョンだ。だから平原の道を進むだけ。わざと森に入らなければ迷う要素も無く。

 何の問題もなく次の階層へ到達した。

 

「……おかしいな」

 

 辿り着いた二階層で白部くんが呟く。

 

「ん? 何がおかしいんだ?」

「人がいなさすぎる。俺達と同じ考えで二階層に来るやつは絶対いるはずなんだ。それなのに、人がいない。これは何かあるぞ」

「おいおい、脅かすなよ。なんかやばい魔物とか出たんじゃないかって不安になるだろ」

「それはない。このダンジョンに出るのはイージースライムのみだと決まっている」

「イージースライム?」

 

 須藤くんの疑問に答えるのも、やはり白部くんだ。本当に彼は人に物を教えるのが好きだなあ。

 

「ばっかおめー、イージースライムってのは普通のスライムより固いスライムだ」

「イージーなのに固いのか? 普通逆じゃね?」

「スライム特有の液状の体ではないんだ。殴りやすい。それでいて動きも遅くまともに殴ってこない。ついたあだ名がサンドバッグ」

「なるほどなあ……で? なんでそんな魔物しかいないのに誰もいないんだ? 手頃な相手だろ」

「ばっかおめー、それがおかしいって話だ」

 

 この状況下で挙手して意見を出す与謝野くん。

 

「ちょっと森側に寄ってくれないか。高い所、木の上から遠くの様子を見たい」

「なるほど、弓を使う職業は目がよくなると聞いたことがある。与謝野くん頼めるか」

「任せてくれ」

 

 要望通り、木の近くに寄るとその大きな体に似つかわしくない俊敏さで木の上に登る与謝野くん。

 ちなみにボクはずっと本に魔力を込め続けているが、まだ魔導天書からの反応はない。

 実はもう光ったのではないか? とページを何枚か捲ってみるが特に変わった様子もなく。

 

「スライムは、あちこちに、いる。人も……奥の方にはいる。だがあれは俺達中学生じゃない。大人だ」

「大人がいるのか。ならスタンピードの心配はない。いや、イージースライムがわざわざダンジョンから外に出たところで誰かが怪我する心配はほぼないし、そもそも外に出るだけの機動力もないな」

「一匹ではぐれてるやつが近くにいる。試しに戦ってみないか」

「そのつもりで来たんだ、やってやろうぜ」

 

 与謝野くんは木の上から、弓を構える。

 

「ソロのイージースライムを狙って矢を当てる。皆はその矢の方向に向かってくれ、スライムの速度じゃこっちが接敵した方が早い。というかむしろ向こうはほぼ近づいて来れないだろう」

 

 そう言って彼は木の矢を一本射出した。

 一番早く駆け出したのは須藤くんだ。なんせ彼は低ランクとはいえ近接職の剣士。身体能力の高さには定評がある。木剣を片手に飛び出した。

 それを追うのは盾士の渡辺さん。しかし須藤くんの独走を追うというより、後衛職であるボクや白部くんを気遣って速度を落としてくれている。

 一番後ろは与謝野くんだ。彼はしんがりを務めてくれているようだ。

 この二人に挟まれているのがボクと白部くんの後衛職コンビ。

 平原を走るボク達はなんとか須藤くんに追いつくと、戦闘は始まっていた。

 

「だあっ! どりゃ! ていっ!」

 

 やたらめったらと木剣で斬り付ける彼だがまるで効いている様子がない。

 

「はあ、はあ……くそっ、さっきからこの調子だ。固いんだよこいつ」

「イージースライムはその耐久性からもサンドバッグと呼ばれてるからな」

「そういう事は先に言えー! はあーっ」

 

 白部くんに対し、そんな文句をつける剣士は全力疾走でこちらに向かったのもあってか息切れをしてしまっている。

 

「須藤くん、ここは私が出ます!」

 

 そう言って大盾を構える渡辺さんは、その木の盾を全身で押し込むようにしてイージースライムに叩き付ける。

 

「やあー!」

 

 シールドバッシュ、世間一般でそう言われている技だ。

 ぐしゃりという音を立て、しかしそれでもなおスライムは倒れた様子がない。

 

「Bランクの渡辺さんの攻撃でも……そういう事か」

 

 納得した、というように白部くんが独り言ちる。

 

 それをボクが拾い上げた。

 

「何か分かったの?」

「固すぎるんだ。他の新人達も、一回は二階層に来た。でもこいつらの耐久力の上り幅が凄いんだろう。一階層で通用した攻撃でも普通に耐えられる。それが美味しくない」

「なるほどね。例えば仮にだけど、一階層降りた事で能力が十パーセント上がるものとする。そうだとすれば、耐久力全振りのこいつらはめちゃくちゃ耐久力が上がるってワケだね」

 

 白部くんは笑う。その通りだと言うように。

 

「だが魔法耐性はどうかな? 本当は消費魔力の調整がしたかったけど、とにかく倒すのが優先だ! 凍れっ!」

 

 周囲を冷気が包み込み、そして一瞬にしてスライムを凍り付かせた。

 だが……

 

「まだ動くのか!?」

「しかもこれ、氷を纏って余計に硬くなってない?」

「試してみるか」

 

 そう言って、また一本の矢を消費する与謝野くん。

 結果はお察しの通り。

 

「コアを狙ったつもりだったのだが、な」

「体が硬くてコアに当たってないですね」

 

 須藤くんの剣は駄目。

 渡辺さんの職業ランク任せの盾の一撃も駄目。

 白部くんの氷結魔法も駄目。

 与謝野くんのコア狙いの弓矢も駄目。

 となれば――

 

「もういっそ五階層までいかない?」

「守谷!?」

「どうせイージースライムしかいないんでしょ? だったら深層で魔力溜めればいいじゃん。それでレベルアップしてさ。また挑戦すればいいよ」

 

 悔しそうにする男衆の顔を見ていると、なんだか間違った事を言った気がしてしまう。

 

「そうはいかないんですよ」

 

 糸目の男、成人男性がいつの間にかボク達に近寄っていた。

 

「この二階層は新人の壁。ここで魔物を倒せないようなニュービーに三階層以降を荒らされては困ります」

「荒らす? ただ居座るだけのつもりですけど駄目? というか貴方は誰?」

「私の事はどうでもいいとして、ここの奥ではサンドバッグ相手に新しい戦術を試したりするパーティなんかもいてですね。むしろ人の方が危ない。自衛できない新人は立ってるだけで邪魔なんですよ」

「なるほど……あ」

 

 本が、光った。

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