ホモ、現代ファンタジー世界にTS転生したので異性愛者です 作:稲光結音
ひとしきり親子のスキンシップを楽しんだところでパパが冷静になった。
「で、魔導司書だったか。どんなクラスなんだい?」
EXランクの初めて聞くジョブだというのに、その一言が出るまでだいぶかかった。そういう愛に狂ってるところ好き! ボクの事を好きな男と、好きになってくれる男が好き!
「ええとねー」
ボクは自分の職業について説明をした。
大量のスキルツリー、その習得と習得したスキルの貸し出しと返却。
そういえばスキルの説明ってしたっけ? 簡単に言えば魔力を消費して発動する必殺技みたいなものかなあ。いやでも、常時発動型のパッシブスキルってのもあるし一概に必殺技とは言えない気がする。職業に就いた事で発動できる超常現象の一環?
勿論、魔導天書にはパッシブスキルも掲載されている。
「なるほどなあ。確かに悪い大人も欲しがる能力だ」
悩ましそうに唸るパパの様子を見てると、本当に苦悩してるのが分かる。困った顔もかっこいいね。
「うーん、パワーレベリングが出来るならしてやりたいところだが……出来ないようになってるからなあ。うちの団には新人育成枠なんてないから、乙子のパーティを揃えてやる事も出来ない」
この独り言に対して補足しておこうか。
パワーレベリングが出来ない、というのは例えばパパみたいなたくさんの魔物を倒してきた高レベルのキャラクターは、彼にとっての雑魚魔物を倒した時に経験値が多く配分されてしまう。
雑魚がちょうどいいボク達は経験値が少なくなるし、パパも雑魚の経験値をたくさん貰っても雀の涙。これはレベル差が大きくなればなるほど顕著になるんだ。
経験値……魔物を倒した時に手に入る魔力はパーティの人数割りみたいなシンプルなシステムになってないって事だね。
「逆に乙子を最上級ダンジョンに? いや入れないだろオレ。うーん、何かいい方法は」
「諦めましょうよ竜星さん」
溜息混じりに糸目の男、忍野さんが苦言を呈した。
「諦めるってなんだ! 乙子を諦めろっていうのか!」
「そんな事言ってませんよ! 育成に裏道なんてないからそれを諦めろって言ってるんです! 今までどれだけの人間がレベリングの裏道を探したと思ってるんですか。ないんですよ邪道なんて。あるのは王道のみ。つまり……」
「ギルドで囲ってやるのが限界って事か。あー、キミタチ。茨城騎士団に興味はあるか?」
そう問いかけると、皆は頷いた。
「あの茨城騎士団の団長が俺達に直接スカウト!? もちろんあるぜ! あります!」
須藤くんは元気に。
「守谷をほっとけないので、俺も入りますよ」
白部くんは冷静に。
「ふふふ、俺が県内最高ギルドに、か。悪くない」
与謝野くんは不敵に。
「茨城騎士団ならお給料はいいはず。いい就職先が見つかりましたね」
渡辺さんは打算で。
それぞれの思惑を胸に、ボク達はギルド『茨城騎士団』に入るのだった。
ボク? パパと同じギルドに入れるってだけでお釣りがくるよ。もちろんオッケーした。
「とりあえず言っておくと、うちのモットーは人々を守るために、だ。だがお前らは新人育成枠だ。そんな事は考えなくていい。自分の身を守れ。……いや、違うな。乙子の身を守れ」
そんな親馬鹿の言い草にみんなが苦笑する。ごめんねー、ボクのパパがボクの事大好きでさー。
「ま、それはともかくとしてだ。本格的にうちに入るなら親御さんの許可は貰ってきてくれ。お前らまだ中学一年生だろ? 自分の意志だけじゃ決められねーよ。
それが終わったらギルドに登録する」
「今日の所はまたこの二層でイージースライム狩りでもしてるといいですよ。他の新人達は基本的に追い返すので」
「いい時間になったらお前らも連れて帰るけどな。ま、ギリギリまでやってていい。帰りはドラゴンに乗せて連れて帰ってやる。うちのマルフは速いぞー」
喜びと驚きの入り混じる様子のパーティの面々。
「ドラゴンに!?」
つまりここに来るまでにマルフ……うちで飼ってるドラゴンに乗って空を高速で来たというわけだ。そりゃうちから近いとはいえ二分かからずここまで来れるわけだね。
空を飛んで移動する生き物はこの世界でも多々いる。その中でもやはり最高の生き物はドラゴン。
ダンジョンにいる魔物なのだが、竜騎士、もしくは高ランクのテイマーだけが手なずける事のできる選ばれし者の証。
なのだが。
ここにいないという事はギルドの外に放置しっぱなしである。ボクの為に急いでたんだろうけど扱いが雑!
「よっしゃ! それじゃギリギリまでスライム狩りしようぜ! 俺の剣が火を噴くぜ!」
「ナイフだけどな。ともかく、ただ倒すだけじゃなくて俺達との連携の練習も頼むぞ」
「須藤くんだけで倒してたらそれはパーティじゃない、な」
「今はそれでいいのかもしれないけど、そのうち頭打ちになりますよ。なんせ私達は茨城騎士団のメンバー。そのうち色んなダンジョンに派遣される事になるでしょうからね」
楽しそうな面々に、しかし口を挟んだのは糸目の男、忍野さんだった。
「ちょっと待ってください。さっき倒したスライムのドロップ品を拾ってませんよ」
そう言って、青色のついた半透明の石をこちらに差し出してきた。
「この面子でポーターは……与謝野くんだな」
「ポーター?」
相変わらず無知な須藤くんに白部くんは呆れ顔だ。大丈夫? 義務教育受けた? ってレベルだ。
なにせこの世界の小学校は国数社理ダンジョンを学ぶのが基本だからね。
「ばっかおめー、魔物が落としたアイテムを運んだり、ダンジョンを深く潜る時に必要な道具を運んだりする人材だ」
「なるほど。でもなんで与謝野くんなんだ? 俺達がやってもよくね」
「やりたきゃやってもいいぞ。ただ、魔物を倒し続ければ当然嵩張る訳だ」
「でもそれは与謝野くんも同じだろ? 押し付ける訳にはいかなくね?」
馬鹿だがいいやつ、という印象であるね須藤くん。
とはいえ当然、白部くんが与謝野くんをポーターに推薦するのには理由がある。
「安心してくれ。俺は簡素だがアイテムボックスのスキル持ちだ」
「アイテムボックス! なんでも収納と取り出しの出来るあれか!」
「弓兵は兵士職だからな。重い荷物を持って行軍するイメージなんだろう。ただ、アイテムボックスの容量はそこまでないし、ついでに言えば兵士職のアイテムボックスは重さも感じる……らしい」
らしい、というのはまだ使った事がないからだろう。なんせ、ボクらは職業を手に入れて一日目。自分の事でさえ知らない事はたくさんある。
「では与謝野さん……でしたか。貴方に渡しておきます。ただ、斥候もやってるようですので、あまり簡易アイテムボックスに頼り切らないように。いざという時困りますよ」
「はい、気を付けます」
そんなやり取りを交わした後、忍野さんは与謝野くんに半透明の石……魔石を渡していた。
魔石、それは魔力の籠もった石。大昔はともかく、今はここから魔力を取り出す専用の装置が存在するので、魔石から魔力を取り出し、それを様々なエネルギーに変換している。
とはいえ、一般家庭で使うものではなく、発電所なんかに持っていくものだ。そしていちいちそこに売りに行くのは面倒なので、ギルドに売るわけだ。
ここで言うギルドは茨城騎士団などではなく、ダンジョンの入口を保護する方のギルドだ。どっちもギルドでややこしいー、というのはあるのは仕方ない。
ダンジョン保護ギルドは国営の組織。茨城騎士団のような民間ギルドはどこまで行っても個人の作った組織でしかない。どれだけ県内で力を持っていたとしても、それは変わらない。
昔は国営ギルドと民間ギルドは仲が悪かったとか。でも今は基本的にはそういう事も無く、持ちつ持たれつやってるらしい。
「よっしゃ! それじゃ行こうぜ!」
「俺も試してみたい事があるからな」
「俺も、だ」
「私もです」
次にやってみる事を相談しながら、ボク達は手頃なイージースライムを探していた。
「む、あそこに一匹でいるイージースライムがいる、な」
そう言って、遠くの魔物を発見する与謝野くん。
彼は矢を番えると、一撃を放った。
「的中」
冷静に、その一言を呟くとパーティメンバーが距離を詰める。
そして渡辺さんが大盾を持っていない利き手では無い方の手でイージースライムに刺さったそれを引き抜く。
ナイフだ。
須藤くんが新しく生成した鉄のナイフを、与謝野くんは矢として使ったのだ。
そしてそれをそのまま渡辺さんが武器として使うというエコな作戦。
倒しきれる訳では無いが、弾かれている様子もない。
「やはり、木製の装備と鉄では性能が全然違うか! で、もし相手が素早くて刺さったナイフを回収出来ない場合は……こう!」
冷気を放つ白部くんは、その氷の魔法をスライムの足元だけに放つ。別にイージースライムは素早くないのだが、そこは新しい魔物との戦いを想定したものなので。
「っしゃあ! 後は、任せろ!」
最後に剣使いの須藤くんが一撃を加えてフィニッシュ。なかなか連携らしいことが出来たのではないだろうか。
そうして連携を高めていく彼らを尻目に、ボクは本に魔力を注ぐ。
みんなが新しいイージースライムをどんどん倒していく。魔力が増える感触がする。魔力を注ぐ。
ちょっと寂しい感じだ。連携には参加できない。
魔力を本に込める仕事が大事なのもそうだけど、貸し出し中のスキルは自分では発動できないので、結局やる事がないのだ。
でも。
「やっぱ守谷さんのスキルは凄いな!」
「ああ。鉄製の武器がナイフだけとはいえ使い放題なのは大きい」
「攻撃がまともに入るのは精神衛生上いい、な」
「他の生徒達よりも一歩も二歩もリードしてますよ。守谷さんのおかげですね」
みんながそう言ってくれた。
そして最後に連携も何もなしのただの職業の暴力。須藤くんがナイフで二層のイージースライムをがんがんに狩りまくってくれて、より魔力を吸収させてもらう。
レベルも上がって基礎性能が高まった感じがする。皆もその感触を味わっているようで、にっこにこだ。
「守谷。新しいスキルツリーの解放はどうだ?」
「うん、何回か本が光ったよ」
「てことは、スキルも複数覚えられるのか!?」
「うーん、複数から選べるだけでたぶん一個だけだよ」
「そう、か。でも選べるのはいい、な」
「うん!」
帰ったら魔導天書をよく読みこんでみよう、そう決めた。
「乙子ー! ガキどもー! そろそろ帰るぞー!」
パパが大声をあげる。もうそんな時間かあ。
「俺達、今からドラゴンに乗って帰るのかあ。楽しみだな!」
「じゃあ須藤くん、ボクのスキル返してね」
そう言って、魔導天書を向ける。
須藤くんの体内から小さな本が浮かび上がり、魔導天書の中に還っていく。
「ああっ、俺のスキル」
キミのじゃないが?
「本当に返すと使えなくなるんだな……辛いぜ」
「ほら、ドラゴンに乗るの楽しみにしてたんでしょ?」
「おお! そうだった! クラスの奴らにも自慢できるぜ!」
うーん単純。好ましいね。
そうしてボク達はドラゴンに乗って帰宅した。それぞれの家に学生達を送りながら。
住宅地でドラゴンが降りれないところに家がある人のところはパパがジャンプして高所から降ろして、またドラゴンの高さまでジャンプして戻ってきた。
「ただいまー!」
「ただいま」
そして全員を送った後に、我が家へと戻った。
「母さんはまだ帰ってきてないか」
「パパが今日休みっていう事はそういう事だよね」
「じゃ、風呂でも入るか」
「うん」
ボク達は未だに一緒にお風呂に入る仲だ。洗いっこもしてる。
女になったので無くなった愛棒を見れる数少ない機会なのでいつもじっくり観察させてもらってる。
「乙子は本当にこれが好きだなあ」
「うん、触りたい。舐めたい」
「はっはっは――母さんには内緒だぞ」
「うん」
そんな家族の団欒が、そこにはあった。