東方深空録   作:・落ち葉・

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奈良編のボスは鬼神
尚、一話で倒される模様


第三十二話 宿儺

「っ…はぁっ!」

 

「そっちはどうっ?…うらっ!」

 

「ふう……だいぶ片付いたよー」

 

私達は紅月に頼まれて雑魚どもの相手をしている。

当初、予想していた量よりも遥かに少ない物だったので思ったより簡単に蹴散らすことが出来た。

 

「思ったよりも少ないわね?」

 

小梅もそう思ったらしく、少し息切れしてはいるがあまり疲れてはいないようだった。

 

「うん…切り込み隊?…ってわけじゃなさそうだけどね。わざわざこんな人気の無い所に仕掛けてきて」

 

「目的がはっきりしないわね…今回の妖もいつも通り?」

 

「うん」

 

いつも通りというのは雑魚妖達がいつも通り頭が悪い行動をしている、という意味である。

 

妖もいつも人気のある所を狙って襲ってくるのだが、その時は大抵すぐに私達退治屋、若しくは陰陽師に片付けられてしまうので、頭が無くても流石に少しは学習したのか、今回は人気の無い所を選んだらしい。しかし、それも無意味なことなので、結局この地面に散らばっている妖供は頭が悪い。

 

「紅月が言うほど親玉も大物じゃなさそうね?」

 

少し引っかかることはあるが、

 

「…まあ、取り敢えずアイツの所に行く?」

 

「場所は分かるの?」

 

「大丈夫だよ、ほら見て?」

 

私は小梅の手を引いて、少々散らばってはいるが山の方へ伸びている妖供の屍骸の列を指差した。恐らく紅月がやった物だろう。

 

それを見て納得した様で、紅月が散らかした妖供の屍骸を頼り山の方へと向った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「オラァっ!」

 

「キシャァッッ…ァ!」

 

俺は紅月狐狛、詳しい自己紹介は今はできないが、種族は妖怪だ。訳あって妖共を相手に一人突っ込んでいるが流石は頭無し、協調性も無くただ飛び掛って来るだけなので素手でどうにかなる。

それでもやはり数が数だから、

 

「キシャァ!」

 

見た所、数十の妖供が目の前、木の上、草陰から一斉に飛び掛ってくる。これはいい機会だ。

 

「っ!」

 

俺の能力は『拡大と縮小を操る程度の能力』、

 

「キシャッ?」

 

こうやって妖の背後までの距離を『縮小』して、

 

トンッと一歩、そして足下の小石を蹴り上げてやる。

 

「!…キシィ!」

 

妖供は気付いた様だが、もう遅い。

 

「『拡大』」

 

宙に舞い上がった小石は岩程度の大きさとなり、

 

「ッシャ!」

 

有無を言わさず一気に押しつぶした。

この間、僅か五秒程。それでもまだ長い方だ。

 

「…さて」

 

アイツらは終わっただろうか。

何にせよ頂上は近い、奴は其処にいるだろう。

 

 

 

少し歩くと、声が聞こえてきた。

近づくと更に声は大きくなり、川が近いため少し聞き取りにくいが、

 

「そ…た等は…う向か…くてよいぞ、…う充分だ」

 

「ギュイッ!」

 

と、聞こえてきた。

恐らく今回の親玉だろう。

 

今回の、と言ったがこれ程大掛かりな仕事は今まで無かったが。

 

「裏に回り込むか」

 

広場の隅を出来るだけ物音を立てず、慎重に進むと番人らしき妖が巡回していた。

 

ここまで来ればもうこそこそする必要は無い。

俺は雑魚妖の背後に付き、肩をチョンっと啄いてやった。すると、妖は振り返り俺は更に背後に『縮小』して回り込む。

そして一気に

 

「オラァッ!」

 

「ギュエッ!」

 

殴ってやる。

妖は文字通り広場へと吹っ飛んでいった。

 

すると、藁藁と何事かと先程と同じ種の妖が集まってきた。

砂埃が晴れると、押し潰した際の妖より遥かに多い数の妖が群がっていた…でも考えていたよりもずっと少ない。

そうこう考えている間に妖供は藁藁と襲い掛かってきた……が、

 

「キシャ!」「ギュイァッ!」

 

と、私だ、いや我だ、と言わんばかりに詰まっているようだった。

次いでに川原がすぐそこだった。

これはいい機会だ。

 

俺は妖を引き付けると同時に川原の丸い石を拾った。

ここまで来れば予想はつくだろう。

ではその予想通りの事を…

 

俺は藁藁と走ってくる妖供に向かって

 

「…窮屈だろう?直ぐに開放感あふれる空間にしてやるよ」

 

そうして俺はその丸石を群れに向かって投げる。

瞬間、

 

「『拡大』」

 

丸石は放物線を描きながら、再び岩程度の大きさになり、ゴロゴロと転がっていく。

 

ブチッ、「キシャッ!」ブチッ、「ギュアッ!」

 

子気味良い音に断末魔の叫びを混じらせながら。

 

漸く停止した白かった筈の丸石は妖供の血で緑色に染まっていた。

辺りは死屍累々としており、木々は倒れ、述べた様にすっきりとした空間になった。

 

それでも、避ける雑魚妖は居る様で残った妖は再び次々に飛び掛ってきた。

しかし、

 

「圧縮」

 

の言葉と同時に地面へ急降下し潰れた。

 

「紅月!」

 

「…来たか」

 

「粗方終わったわよ」

 

「それにしても、そらはやっぱり強いわね」

 

「…えへ、ありがと」

 

俺はその能力が強いだけだろう…とは思ったが、思えば俺も殆ど頼りきりではあったので言わないでおく。

 

「じゃあ、行くか。頭は直ぐ其処だ」

 

「そうね」

 

そして、俺達は死体の山を回り、広場へと向った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

着いた時は少し驚いた。

だってアイツの目の前には妖供の死体が山を造っているのだから。

それも全部アイツがやったのだろう、やはりアイツは強いな、と思う。

 

私達はその死屍累々を抜けて、本拠地であろう広場へ侵入した。

まあ開けた土地なので侵入というほどではなく堂々と入る形となったのだが。

 

その広場の中心には小屋の様な建物があった。

私達が近付こうとしたその時、

 

「…来たか、儂の手下供を薙ぎ払って殺しおって…」

 

そう言って小屋から出て来たのは二本の角が生えた、正に『鬼』。ただ何故か首の後ろ側の付け根辺りに違和感を感じる。

 

「まあいい。儂の名は『宿儺』、鬼神…と言いたい所だがただの鬼に成り下がってしまってな。」

 

宿儺という名前は私には特に引っかからなかったが、

紅月は

 

「『宿儺』……確か飛騨の辺りだったか、武振熊命に討たれた筈ではなかったのか?」

 

「…お主、よく知っておるな…確かに儂は討たれた、ただそれはもう一つの頭のみだったがな。奴は強かったが儂は逃げ切った。」

 

倭の神側だったためか、よく知っているようだった。

 

「それも今ではどうでもいいのじゃ…」

 

すると、宿儺は四本の腕に四つの鉄の剣を構えた。

自然に私達も構える。

 

「…目的は何だ」

 

それはこの事件で最も気になる所であった。

 

宿儺は、

 

「…直に分かる」

 

と言う。

少々意味深な言葉ではあったが、今考えている暇は無い。第一、相手がどんな手を使ってくるか分からなかった。

 

「ではこちらから行くぞ!」

 

と宿儺が口にした瞬間、

 

「キエエッ!」

 

「なっ!?」

 

宿儺は目にも止まらぬ速さで紅月に対して間合いを詰めてきた。

 

「ッ…避けおったか…」

 

間一髪だったが、流石は紅月だった。

 

「何仕掛けて来るかと思ったら……行くぞ、空神、多野!何でもいいから叩け!」

 

「分かった」

 

「分かったわ」

 

私は取り敢えず、久しぶりに新技に挑んでみようと思う。

 

だってさ?あの裏拳もどきとかの攻撃技の仕組みを小梅に教えてやったら、

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ふーん…そらって空間を操るのよね?でも何か、空気を利用した技しか使っていない様な…空間自体は…」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

と、言われてしまったので…

 

そんな言葉への挽回の為に宿儺の動きを止めようと思う。

 

まずは風向き!

 

…うん、宿儺向き。

 

続いて芝生の乾き具合を…うん、これも大丈夫!

 

 

ではでは…

 

「小梅っ!宿儺を囲む形で炎出せる?あ、火力強めね?」

 

「行けるわよ!」

 

「紅月!一旦退いて!」

 

宿儺と格闘中の紅月が退いた瞬間、

 

「小梅、今!」

 

小梅が払う様に手を振り、ボウッと辺りに炎が巻き上がった。炎は高く高く燃えているため、飛び越えるのは難しいだろう。

 

「小癪な…この程度では儂は倒れんぞ!」

 

「そら!どうするの?」

 

「宿儺の言う通り、倒すことはできないぞ?」

 

解ってる、でも大丈夫。

これは準備だから!

 

そろそろ説明しよう。

今までは小梅の言う様に空間そのものでは無く、そこに存在する物体をそのまま、主に空気を扱ってきた。しかしこれから試すのは空間に存在する物体の概念を変える、と言ったもの。

 

この場合、言うは難し行うも難し、となるので実際やってみようと思う。

 

「紅月と小梅は待ってて…この火が開けたら、瞬間やるから」

 

「何をする気だ?」

 

「ちょっと新技をね?」

 

 

 

炎が少しずつ弱くなっていく…

 

「キエエエエ!!待っているがいいぞ、この炎もじきに消える」

 

「えっ、ちょ、そら?大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって…」

 

「……おい、そろそろ見える頃だ」

 

弱くなった炎は私達の身長程になる………

 

 

 

 

 

見えたっ!

 

 

 

 

私は目を瞑り、瞬間的に相手の立っている位置を確定する。これは能力の内だが、相手の姿が少しでも見えないと出来ないものだったので待っていたのもこれの為だった。

 

ここまで来れば準備完了!

 

新技行くよっ!

 

まず、宿儺の周りの乾いた土の概念を、火を爆発的に燃やす『可燃性のある物体』に変更。

次に宿儺の周りにある毎度お馴染み空気さんを『不可視だが質量のある物体』に変更。

 

そして最後に、

 

「小梅!もう一度、今度は宿儺に向かって一発炎をお願い!」

 

「?解ったわ?」

 

あ、そうか、余りにも瞬間的且つ解りにくいから何が変わったか解らないのか…

 

 

それはあちら側にも言えることで

 

「そんな炎、避けてくれるわ!」

 

だがしかし、無様にも頭上にある空気様に当たって落ちる。

 

「なっ!?」

 

そして、着火!

 

可燃性の土により宿儺はキャンプファイアーの如く強く強く燃えている。

 

「何がっ!何が起きたっ!グアアア!!」

 

小梅も突然のことに驚いて、紅月はいつも通り落ち着いている。

 

「グアァッ!…仕方無い、儂もこの辺で諦めるとするか…」

 

「燃え盛る炎の中でも声は発せるんだな、だが無様だな、鬼神よ」

 

「まあいい、この身ももう直ぐ朽ち果てる。貴様らに話すことは無い。」

 

「…」

 

「あえて言うなら……朽ち果てるのは身だけ、そう忠告しておこう…」

 

そうして宿儺はドサッと燃えながら倒れた。

 

 

「…結局、何が目的だったか聞き出せなかったわね。意外と最後は呆気なかったし」

 

目的?

まあいいや、取り敢えずは成功すると思ってなかったから良かったと思う……え?Cheat?嫌だなぁ、有効活用と言って欲しい所だよ。

 

「……朽ち果てるのは身だけ?どういうことだ?しかもこんないとも簡単にヤツがやられるわけ………まるで倒されることを望んでいたかの様な………」

 

また、何か独り言を呟いている、いつも通りだった。

 

「そんなことどうでも……」

 

そう言った時だった。

 

「…まさか…ッ!」

 

「え?」

 

「おい!空神!多野!急いで都に戻るぞ!」

 

「どういうこと?」

 

「説明は後だ!空神!都まで空間跳躍しろ!」

 

そう言われて私達は都まで跳んだ。

 

真っ白な視界が開けて、そこに広がっていたのは……

 

「……嘘…え?」

 

 

口を開いたのは小梅だった。

私と言えば、絶句していた。

 

「遅かったか…」

 

 

 

私達の周りには人々が血を吐いたのか、大量の血液と見られる赤い液体が溜まり、人々はぐったりとしてピクリとも動かない。

 

私達が見たのはそんな死屍累々としている地獄絵図だった。




奈良編終わりそうです。
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