【街の解体屋】魔物解体配信、はじめます【初見歓迎】   作:解体新書が泣いている

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感想欄にて「無断で職場の備品使った配信するのヤバくね?」という指摘を受け、これは流石にマズいと思い本編一話に配信の許可を得る描写を追記しました。

重ねて言い訳になってしまいますが、この小説は細かいプロットや設定を作っておらず思い付きとその場のノリで書いており、現実の法律や常識、また過去の話と整合性が取れていない場合が多々あります。

作品ジャンルは「現代」になっていますが現実ではないフィクション世界の話だということ、頭の足らない作者が書いているということを念頭に作品を楽しんでいただけると幸いです。


【幕間】まだ百万人程度なので【続けます】

 

 配信が終わったのを確認し作業室に入ると、田中が片付けをしていた。

 

「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。本部の件というのは何でしょうか」

 

「はい。田中さんの配信についてお話があって来ました」

 

「配信の依頼ですか」

 

 早川は一瞬止まった。この人はまた同じ言葉を使った。

 

「いえ、依頼ではなくて。田中さんが配信されている内容についてです。本部として正式にお話したいことがあります」

 

「内容についてですか」

 

「はい」

 

「何か問題がありましたか」

 

 早川は慎重に言葉を選んだ。

 

「問題というわけではありません。むしろ、田中さんの配信が多くの方に見られていて、業界への影響も大きいということで、本部としても関心を持っています」

 

「そうなんですか」

 

 田中悠一は依頼書を手に取って次の依頼の確認をし始めた。話を聞きながら次の作業の段取りを考えているようだった。

 

 早川は続けた。

 

「登録者数も非常に増えていますし、今後についてご意向を伺いたいと思っています。配信は続けていかれるご予定でしょうか」

 

「はい、続けます」

 

「今後の方針などはお決まりですか」

 

「まだ百万人程度しか見ていないので、もう少し頑張る必要があると思ってます」

 

 早川の思考が一瞬止まった。

 

 百万人程度。もう少し頑張る必要がある。

 

 謙遜ではない。比較対象があるわけでもない。この人の中に何らかの目標数値があって、それに対して百万人はまだ途中という認識なのだということは分かった。ただその目標が何なのかが全く見えなかった。

 

 田辺から言われていた言葉が再び頭をよぎった。「この相手には想定通りの説明が通じない可能性があります。現場で判断してください」。判断しようとしているが、判断の材料が足りない。この人物の基準が見えない。

 

「百万人程度というのは、どういった目標に対しての数字ですか」

 

「解体師のなり手不足の解消です。まだ全員には届いていないようなので続けます」

 

 早川はメモ帳を取り出した。今度は迷わず書いた。

 

 なり手不足の解消。そのために配信を続けている。百万人では足りないと思っている。

 

 報告書の想定していた欄が全て埋まった気がした。同時に、想定していなかった欄が新しく開いた気もした。

 

「分かりました。続けていただけるということで、改めて本部との連携についてご提案があります」

 

「連携ですか」

 

「はい。詳細はまた改めてご説明しますが」

 

「依頼は松田さんを通してもらえれば対応できます」

 

 早川は少しの間、目の前の人間を見た。

 

 この人は本部との連携という話を、依頼の窓口の話として処理した。悪意も困惑もない。

 

「ありがとうございます。また改めて伺います」

 

「はい」

 

 田中悠一は道具の手入れを始めた。早川はもう視界に入っていないようだった。

 


 

 廊下に出ると松田という支部長が待っており、早川に声をかけた。

 

「少しよろしいですか」

 

「なんでしょうか」

 

 松田に声をかけられた早川は足を止めて返事をした。

 

「田中くんと話しましたか」

 

「はい。配信を続けていただけるという意向を確認しました」

 

 松田が頷いた。廊下を少し歩いて、誰もいない場所で立ち止まった。早川もその隣に並んだ。

 

「一つ確認させてください」と松田が言った。「本部は田中くんが解体した魔物素材の流通経路を調べましたか」

 

 早川は一拍置いて返事をした。

 

「調査の過程で確認しました。一部の取引に不明な点があります」

 

「そうですか」松田が言った。「実は、私が直接卸していました」

 

 その答えに早川はペンを持ち手帳を構えた。

 

「どちらに」

 

「口の堅い企業です。三社あります。私が支部長になる前からの付き合いで、余計な話を外に出さない会社です。本部の流通経路を使うと情報が広まる。素材商経由でも同じです。田中くんが回収した希少素材の価値が知れ渡れば話が複雑になる。それを避けたかった」

 

「いつ頃からですか」

 

「田中くんがここに来て半年ほど経った頃からです。グロテスクワームの絹糸腺を初めて無傷で回収した時に、通常の流通に乗せるとまずいと判断しました」

 

 松田の言葉を一言も逃すまいと早川は書き留めた。

 

「まずいというのは」

 

「田中くんの根底にあるのは、解体技術を極めようとしていることです」松田が言った。「本当にそれだけです。他に理由はない。ただそれだけの人間が希少素材を次々と回収し始めると、外から見ればただの技術者ではなくなる。本部が把握する、企業が動く、都合よく使いたい人間が出てくる」

 

「都合よく使うというのは」

 

「難しい依頼を押しつける、囲い込もうとする、田中くんが望んでいない仕事をさせようとする」松田は少し間を置いた。「田中くんは断れない人間です。依頼として来れば受ける。それが問題です」

 

 早川は手を止めた。

 

「断れないというのは、断る理由がないと判断するということですか」

 

「そうです。依頼として来れば問題ない案件だと判断する。そこに誰かの意図が入っていても気づかない。だから私が間に入って管理していました」

 

「それで流通経路を迂回していたと」

 

「はい。三社は信用できます。情報を外に出さないという条件で取引しています。本部の監査に引っかかるような形にはしていません。ただ不自然な点があることは分かっていました」松田が早川を見た。「調べていたということは、本部はある程度把握していたということですか」

 

「調査の過程で気になった点はありました。ただ詳細は掴めていませんでした」

 

 松田が頷いた。

 

「配信を許可したのは私です」

 

 早川は再び手を止めた。

 

「田中くんから配信をやりたいと言ってきたとき、正直迷いました。ただ迷ったのは一瞬だけです」松田が言った。「迂回路を作っていた頃から、限界は感じていました。田中くんの技術はいずれ外に出る。私が隠し続けることができる規模じゃなくなってきていた。どこかで誰かが気づく。気づいた人間が動く。その時に一番まずいのは、特定の誰かが田中くんを独占する形になることだと思っていました」

 

「それで配信を許可したということですか」

 

「大々的に公開してしまえば、誰か一人が独占することはできなくなる。配信という形で全部出してしまえば、特定の企業も本部も、田中くんを自分たちだけで囲い込めなくなる。そう考えました」

 

 早川はしばらく黙っていた。

 

「結果として想定通りになりました」松田が続けた。「ただ想定していなかったことが一つありました。田中くん自身が本当にそれだけの理由でやっていたということです。なり手不足をどうにかしたい。それだけです。私が計算していたこととは全く関係なく、田中くんはただそのために配信を続けていました」

 

「その動機はいつから知っていましたか」

 

「来た頃から言っていたことです」松田が言った。「技術を磨くことと、その技術で誰かの役に立てることを、同じ重さで考えている人間です。だから余計に守りたかった。そういう人間が外に出ると、利用しようとする人間が必ず出てくる」

 

 松田が早川を見た。

 

「本部が正式に動いてきた以上、私だけではもう守れません。ただ一つだけ確認させてください」

 

「何でしょうか」

 

「本部は田中くんが望まない依頼や仕事を回しませんか。田中くんは断れない人間です。依頼として来れば受ける。それが問題です」

 

 早川は少し考えた。

 

「本部の方針として、田中さんの意向を尊重する形で連携する予定です。田中さんに無理な依頼を押しつけることは想定していません」

 

「想定していない、ではなく、しないという約束はできますか」

 

 早川は一瞬止まった。

 

「私個人としてはできます。ただ本部全体の約束として今ここでお答えすることは私の立場ではできません」

 

 松田がしばらく早川を見つめた。

 

「正直な答えですね」

 

 それだけ言って松田は早川に向き直った。

 

「協力します。本部と一緒にやっていきましょう。ただし田中くんが望まない形になりそうなときは私から言います。それだけ了承してください」

 

「分かりました」

 

 松田は事務室に戻っていった。

 

 早川は廊下に一人残った。手帳を見た。書き留めた言葉が並んでいた。

 

 純粋すぎる。断れない。利用しようとする人間が出てくる。

 

 本部が田中悠一に接触しようとしていることが、松田の言う「利用」に該当するかどうか。その問いの答えを持たないまま、早川は支部の玄関を出た。

 

 早川は帰りの道で手帳を開き、先ほど書いた田中が言った言葉のメモを読み返した。「なり手不足の解消のために配信を続けている。百万人では足りないと思っている」

 

 田辺に何と報告するべきか考えながら歩いた。事実を書けばいい。解釈は田辺が判断する。早川の仕事は観察と報告だ。ただ今日の報告書には、想定外の内容が一行増えることになりそうだ。

 



 

【街の解体屋】配信感想・考察スレ Part.15【初見歓迎】

 

901:名無しの冒険者

本部が某支部を訪問したという話

別の筋からも聞いた

 

902:名無しの冒険者

>>901

前に出てた情報か

複数のルートから出てきた

かなり確度が高い

 

903:名無しの解体師 Lv.6

本部が直接動くのは相当なことがないと起きない

現地配信とランページボア、業界への波及が続いたからな

 

904:名無しの冒険者

>>903

本部が動かない方がおかしい状況ではある

 

905:名無しの冒険者

問題は本部が訪問したとして

当の本人は何のために来たのか理解していないかもしれないという可能性がある

 

906:名無しの冒険者

>>905

 

907:名無しの冒険者

>>905

その発想がなかった

 

908:名無しの解体師 Lv.5

>>905

配信の話をしに来た人間に対して

解体の依頼として処理しそうという懸念がある

根拠は今までの配信の挙動全て

 

909:名無しの冒険者

>>908

否定できない

「本部からの依頼であれば上司を通してください」と言っていそう

 

910:名無しの冒険者

>>909

笑えない

笑えないが笑った

 

911:名無しの冒険者

>>910

本部の職員が何を思ったかを想像すると気の毒になる

 

912:名無しの冒険者

仮に本部が「配信を続けてほしい」と伝えたとして

この人はどう受け取るんだろう

 

913:名無しの解体師 Lv.7

>>912

「続けます、まだ全員に解体師についての話が届いていないので」とか言いそう

 

914:名無しの冒険者

>>913

本部の意図と全然違う文脈で返事をしそう

 

915:名無しの冒険者

>>914

でも結果として「続ける」という答えは一致している

 

916:名無しの解体師 Lv.7

>>915

そこが厄介なところだと思う

意図が噛み合っていないのに結論だけ一致している

本部としては何とも言えない状況になりそうだ

 

921:名無しの冒険者

本部が次にどう動くかという話をしたい

 

922:名無しの冒険者

>>921

正体特定が完了して公式に接触してくるという線が一番自然だと思う

 

923:名無しの解体師 Lv.6

>>922

ただ公式に接触したところで

この人が本部の意図を正確に理解するかどうかという問題が残る

 

924:名無しの冒険者

>>923

理解しなくてもいつも通り配信するだけだからな

本部にとってはそれで目的が達成される可能性もある

 

925:名無しの冒険者

>>924

意図が伝わらなくても結果が一致していれば

本部としては問題ないという判断になりそう

 

926:名無しの解体師 Lv.8

この配信者が本部の思惑を知っていても知らなくても

やることは変わらないと思う

解体して配信するだけだ

 

927:名無しの冒険者

>>926

それがこの配信者の一番厄介で一番信頼できるところだ

 

931:名無しの冒険者

本部がどう動こうとこの人はいつも通り配信すると思う

 

932:名無しの冒険者

>>931

それは確信している

 

933:名無しの冒険者

>>931

本部が来ようと業界が動こうと

次の配信では「今日の素材は」から始まる

 

934:名無しの冒険者

>>933

それ以外の始まり方を想像できない

 

935:名無しの解体師 Lv.5

次が何かという話をそろそろしたい

Aランク以上が来る気がしている

 

936:名無しの冒険者

>>935

本人はそんなこと何も考えていないと思うが

 

937:名無しの冒険者

>>936

考えていないからいつも通りの配信になる

それでいい

 




お気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。


来週から週二更新なので金土に更新します。
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