【街の解体屋】魔物解体配信、はじめます【初見歓迎】   作:解体新書が泣いている

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【第十四回】グラベルゲッコーの解体手順【竜結石採れるかも?】

 

 田辺が書類を一枚、机の上に置いた。

 

「今日、改めて行ってください」

 

「はい」

 

 早川は書類を手に取った。本部の公式書式で作成された協力依頼書だった。宛先は田中悠一。差出人はギルド本部。内容は二項目に分かれていた。一項目々が正式な協力関係の締結。二項目々が本部保管の未回収素材の現地解体配信依頼だった。

 

「前回の件を踏まえて内容を調整しました」と田辺は言った。「文書で渡す形にしています。口頭では伝わらない可能性があるので」

 

「口頭で伝わらなかった場合は」

 

「文書も伝わらない可能性があります」

 

 早川は一瞬止まった。

 

「その場合はどうすれば」

 

「早川さんの判断に任せます」田辺は書類に視線を戻した。「ただし今回は文書を渡すところまでは必ず行ってください。相手がどう解釈するかは別として、本部として正式な形を踏んだという事実が必要です」

 

「分かりました」

 

 早川は書類を封筒に入れた。前回は言葉を探しているうちに依頼が入って終わった。今回は文書を渡すという一点に絞る。渡した後のことは渡してから考える。

 

 封筒を鞄にしまいながら、前回の悠一の言葉を思い出した。

 

 まだ百万人程度しか見ていないのでもう少し頑張る必要があります。

 

 どう伝えるかという問いの答えはまだ出ていなかった。ただ田辺が「正式な形を踏んだという事実が必要です」と言ったことは分かった。本部にとってこの接触は記録として残す必要がある。相手がどう受け取るかとは別の話として。

 

 部屋を出る前に田辺に一つ確認した。

 

「本人が文書の内容を別の意味で解釈した場合はどうしますか」

 

「その場合も文書は渡せています」と田辺は言った。「本部の記録上は正式な接触が完了したことになります」

 

 早川は頷いた。田辺の言葉の意味を考えながら廊下に出た。

 


 

 本部の早川さんが支部に来たのは午前中だった。

 

 作業室の扉が開いて顔を出した。前回と同じ顔だったが、今回は大きな鞄を持っている。前回より少し表情が固い気がした。

 

「田中さん、お時間よろしいですか」

 

「はい」

 

 道具の確認を一時中断すると、早川が作業室に入ってきた。

 

「本部として正式にお願いしたいことがあります」

 

 早川さんが封筒を取り出した。差し出されたので受け取り封を開けて中身を確認する、本部の書式で作成された文書が入っていた。

 

 正式な協力関係の締結、と書いてある。その下に高難度素材の現地解体配信依頼、と続いていた。

 

「魔物の種類は何ですか」

 

 早川さんが止まった。

 

「魔物解体ではなく」

 

「では現地配信の依頼でしょうか」

 

 早川さんがまた止まった。今度は少し長かった。

 

「そうです」

 

「場所と日程はそちらで松田さんと調整できますか。現地の状況によって必要な道具が変わるので、事前に情報をいただけると準備が早くなります」

 

「それは追って連絡します」

 

「分かりました」

 

 文書を持って事務室に向かう。松田さんが受付カウンターで書類を整理していたが、早川さんから渡された文書を差し出した。

 

「本部から依頼が来ました。調整お願いします」

 

 松田さんが文書を受け取り内容に目を通した。途中で一度視線が止まったが、それからゆっくりと読み進めて最後まで読んだ。受け取ってから読み終えるまで、いつもより時間がかかった気がした。

 

 松田さんが文書を置いた。それから引き出しを開けた。何かを探している様子だった。別の書類を取り出して並べた。それからまた本部の文書に目を戻した。

 

「田中くん」

 

「はい」

 

「今日の依頼は何件だっけ」

 

「五件です」

 

「今日の分は全部こなせそうかな」

 

「問題ありません」

 

 松田さんがまた文書に目を落とした。しばらく間があった。

 

「分かった。戻っていいよ」

 

 何を確認していたのか聞こうとしたが、松田さんの顔が書類に向いていたのでやめた。いつもより考えている顔だった。俺には関係ないのだろう。

 

 作業室に戻った。早川さんがまだ立っていた。

 

「上司に渡してきました。日程と場所の連絡をお待ちしています」

 

「あ、はい」

 

「自分は今日の依頼の準備があるので失礼します」

 

 早川さんが小さく頷いたのを確認すると、道具の確認に戻る。しばらくして早川さんの足音が廊下に向かっていく。作業室の扉が開いて閉まる音がした。

 

 今日の依頼書を確認し魔物を確認する。グラベルゲッコーが七体。道具の並びを整えた。スマホを開いて登録者数を確認した。百六十二万人台になっていた。

 

「また増えてるな」

 

 そう呟いてスマホをしまった。松田さんのことが少し気になったが、深追いする理由もなかったので配信を始めた。

 



 

【第十四回】グラベルゲッコーの解体手順【竜結石採れるかも?】

 

「こんにちは。街の解体屋です。第十四回です。今日もよろしくお願いします」

 

 作業台の上にグラベルゲッコーを七体並べた。黒褐色の鱗。光沢もなく特徴もない個体が七体、横一列に並んでいた。

 

>きちゃー

>地味な魔物が七体並んでる

>タイトルに竜結石って書いてあったけどこれから取れるの

 

「今日の素材はグラベルゲッコーという、Cランク下位の爬虫類系魔物です。ダンジョン鉱山の坑道に群れで生息しています。単体では弱いですが群れで行動するのでCランクに指定されている竜種の劣等種です」

 

>竜種の劣等種なのか

>見た目からは全然分からない

 

>冒険者です。坑道で群れに遭遇したことがあります。単体は弱いですが数が多くて厄介です。討伐報酬目当てで倒すことはありますが素材として持ち帰る人間はほぼいないです

 

>じゃあなんで七体も持ってきたの

 

「グラベルゲッコーは竜種と同じように鉱物を含んだ岩石を主食としているからか、竜種から採取される竜結石に類似した結石が稀に見つかることがあります。今まで解体した肌感覚だと十体に一体程度の確率で結石が採取できます。七体あれば一個は取れると思います」

 

>十体に一体か

>七体で一個取れればいい方か

>でも確率だから七体全部ない可能性もある

 

>魔法薬師です。竜結石は鉱物由来の成分を含む魔法薬の原料として使われます。本物は竜種の体躯に見合う大きさがあり非常に高価です。類似品でも成分が近ければ代替原料になる可能性があります

 

>魔法薬師さんが来た

>本物より小さくても代替になるのか

 

>素材商です。竜結石は入手経路が限られているため流通が安定しません。類似品でも安定供給できれば流通の平準化に繋がります

 

>素材商さんまで来た

>業界への影響が出そうな話だ

 

「他の竜種の近縁種や劣等種も確認した事がありますが、食性からかグラベルゲッコー以外だと竜結石を見つけることが出来ませんでした。では一体目から確認します」

 

 一体目の腹部に手を当て、竜結石が生成される胆嚢に相当する器官の位置を確認する。竜種の構造から逆算する。通常の爬虫類より少し前方にある。指先で位置を特定してから解体に入る。器官を取り出して確認するが、硬い感触はなかった。

 

>触診で器官位置の確認→開腹→器官取り出しまでが早すぎる

>なさそう?

>十体に一体だからな

 

「一体目はありませんでした。二体目に移ります」

 

 二体目、三体目と続けた。いずれも結石はなかった。

 

>三体連続でなかった

>このまま七体全部ない可能性もある

 

>竜種専門の解体師です。竜種の構造を近縁種に応用するにしても胆嚢に相当する器官の位置特定が一体ごとに速い

 

>毎回知らない発想が出てくる

 

 四体目の器官を取り出した。硬い感触があった。

 

>あった?

>四体目で出た

 

「四体目、あります」

 

 器官を開き確認すると、中の襞から小さな石が出てきた。小指の爪ほどの大きさで、淡い光沢がある。

 

>小さい

>でもきれい

>本物の竜結石と比べるとどのくらい違うの

 

>魔法薬師です。本物の竜結石は竜種の体躯に見合う大きさがあります。成体の竜から採取されるものは握り拳ほどの大きさになることもあります。今日のものはその数十分の一ですが光沢は同じです。成分の近さは実際に分析してみないと分かりませんが期待しています

 

>握り拳と小指の爪か

>大きさは全然違うが光沢が同じなのは興味深い

 

 五体目、六体目は結石がなかった。七体目に入った。

 

>残り一体

>今日は一個で終わりか

 

 七体目の器官を取り出した。硬い感触があった。

 

「七体目もあります」

 

>二個目出た

>七体中二個

>確率より高かった

 

 器官を開くとまた竜結石が出てきた。光沢は同じだが先ほどのものより僅かに大きい。二個の竜結石を作業台の上に並べる。どちらも小さいが形状はそれぞれ微妙に異なっていた。

 

>並べると個体差があるな

>この地味な魔物からこれが出てくるのか

 

>冒険者です。今まで討伐後にそのまま置いてきた個体が無数にあります。少し複雑な気持ちです

 

>知らなかっただけだから仕方ない

 

>素材商です。グラベルゲッコーはダンジョン鉱山で大量に生息し討伐されています。十体に一個という確率でも個体数が多ければ供給量の計算が変わります。今まで全部廃棄されていたものが流通に乗れば市場が変わります

 

>大量に討伐されてる魔物から希少原料が取れる

>今まで全部廃棄されてたのか

 

>竜種専門の解体師です。グラベルゲッコーの解体依頼は価値が無いとされ今まで敬遠されてきました。結石が取れるなら依頼を受ける解体師が増える可能性があります。ただし器官の位置特定ができる解体師がどれだけいるかという問題は残ります

 

>また再現の問題か

>毎回ここに戻ってくる

>開腹して全部の器官の確認をすれば確実だけど、手間はかかるな

 

「竜結石は本物より小さいですが成分は近い筈です。個体数が多い魔物なので供給が安定すれば使い道があると思います。今回は七体中二個取れましたので、確率より少し良かったです。次回もよろしくお願いします」

 

>七体中二個という結果を「確率より少し良かった」で終わらせた

>この人にとっては確率の話でしかない

>業界が動く話をした後にこの締め方

 

>竜種専門の解体師です。今日の配信でグラベルゲッコーの解体依頼が増えると思います。対応できる解体師がどれだけいるかという問題はありますが

 

>また業界が変わる

>本人は次の配信のことしか考えてなさそう

 

 チャンネル登録者数、百八十九万六千四百二十二人。

 



 

 配信を終える。

 

 今日は竜結石が二個取れた。七体中二個は確率より少し良い。個体差があるので次は一個かもしれないし三個かもしれない。数をこなせば平均が出る。

 

 素材を分類して棚に戻しながら、今日の作業を振り返った。本部からの文書のことを少し考えた。現地配信の依頼だった。場所と日程の連絡が来れば準備ができる。特に問題はない。

 

 事務室の方から松田さんが作業室に顔を出した。

 

「田中くん」

 

「はい」

 

「本部の件、私の方で確認することがあるから片付けた後に少し時間をくれ」

 

「分かりました」

 

 それだけ言って松田さんは戻っていった。何を確認するのかは聞かなかった。松田さんが動いているなら問題ないはずだ。

 

 道具を一本ずつ拭い、棚に戻していく。

 




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