【街の解体屋】魔物解体配信、はじめます【初見歓迎】   作:解体新書が泣いている

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【第二回】アシッドスライムの解体手順【腐食性素材あり】

 

 早川がギルド本部の管理業務課のデスクに戻ると、田辺がスマホ画面を見ながら首を傾げていた。

 

「早川さん、これ見た?」

 

 早川はスマホ画面を覗き込んだ。映っていたのは配信サイトのアーカイブだった。タイトルは「【初配信】スライムの解体手順を見せます【解体屋の仕事紹介】」。チャンネル名は街の解体屋。

 

「昨日たまたま見つけて、なんか最後まで見ちゃったんだよね」

 

 流し見するつもりで再生してみた。

 

 解体台の前に立つ男が、スライムに千枚通しを差し込んだ。スライムは崩壊せず、ゲルがぷるりと揺れて静止した。

 

 意味が分からなくて、もう一度再生した。

 

 しかし先ほどと内容は同じだった。

 

「これ、普通じゃないよね」

 

「普通じゃないです」

 

 田辺が画面を閉じた。

 

「まあ登録者少ないし、誰も気づいてないんじゃないかな」

 

 そう言って、お茶を飲んだ。

 

 そうかもしれない。ただ、なんとなく気になった。

 


 

 同じ日の午後、地方のギルド支部。

 

 朝イチで松田さんに今日の依頼を渡された。アシッドスライムが二件、ゴブリンラットが一件、ホーンビートルが一件。全部で四件だ。

 

「アシッドスライムが二件で十体入ってるけど大丈夫かね」

 

「大丈夫です」

 

「そう。じゃあいつも通りよろしく」

 

 松田さんはそれだけ言って受付カウンターに戻った。アシッドスライムを二件受け付けた時点で、普通の支部なら解体師の確保から始まるはずだが、ここの職員はそういう顔を一切しない。「いつも通り」という言葉が、本当にいつも通りの態度で出てくる。

 

 慣れてもらっているのはありがたいけど、たまに不思議な気持ちになる。

 

 作業の準備を始めようとしたら、カウンターの方から中村さんが声をかけてきた。最近やたらと話しかけてくる。

 

「田中さん、アシッドスライムって解体難しくないんですか」

 

「慣れれば難しくないですよ」

 

「へぇ」

 

 中村さんは少し考えるような顔をしてから、「そうなんですね」と言って戻っていった。

 

 何が気になったのかは、よく分からなかった。

 

 ゴブリンラットとホーンビートルを片付けてから、アシッドスライムに取りかかった。アシッドスライムは解体師が敬遠しがちな魔物で、ギルドの窓口でも受け付けを断る支部があると聞く。

 

 今日持ち込んできた冒険者も、受付で少し申し訳なさそうな顔をしていたらしい。

 

 解体自体は難しくない。手順通りにやれば問題ない。ただ、それを言っても伝わらないのは分かっているので、今日の配信でやって見せようと思いつく。

 

 作業台を拭いて、最初のアシッドスライムを置いた。

 

 配信をする為にスマホのスイッチを入れた。

 



 

【第二回】アシッドスライムの解体手順【腐食性素材あり】

 

「こんにちは。街の解体屋です。第二回です。今日もよろしくお願いします」

 

>きたーー

>待ってたよ

>先週の配信見て来ました

>アーカイブ見て登録しました

>今日も楽しみにしてました

 

 先週より明らかにコメントの流れが速い。視聴者数は五十三人。先週の最終人数が十六人だったから三倍以上だ。

 

「前回より人が増えていますね。ありがとうございます。今日の素材はアシッドスライムです」

 

>アシッドスライム?

>あの腐食性のやつか

>え、どうやって解体するの?

>こいつ装備溶かすから嫌い

 

「アシッドスライムはゲルに腐食性があります。触れたものを溶かす性質があるので、通常の道具では解体できません。標準手順ではミスリルコーティングの専用道具を使い、仮死状態にしてから作業を行います」

 

>やっぱり専用道具いるんだ

>仮死状態にするのも大変そう

>これ解体できる人ほぼいないんじゃ

 

「今日は専用道具を使わずにやります。腐食性には活性化する条件があるので、その条件を外せば通常の道具でも問題ありません」

 

>は?

>条件?

>そんな話聞いたことない

>専用道具いらないの??

 

「腐食性はゲルへの強い横方向の刺激で活性化します。垂直方向の衝撃では発動しません。表面を撫でる程度なら手袋で十分で、張力の低い部分を真上から叩けば、普通の道具でも処理できます」

 

>え、そんな仕組みがあるの

>それ知らなかった

>冒険者やってるけど初耳

>ギルドの講習でそんな話一切出なかったんだが

>本当にそんな条件があるの?

 

 コメント欄がざわついているのは画面の端で確認できたが、今は手元に集中する。

 

 アシッドスライムを作業台に置いた。通常のスライムより色が濃く、表面にわずかな光沢がある。ぷるりと揺れ、生きていることがわかる。解体用の手袋をはめたまま表面をゆっくりと撫でる。腐食性は今は発動していない。指先でゲルの張力の変化を拾いながら核の位置を探す。先週のスライムより核が深い位置にある。

 

 見つけた。

 

「核の位置がわかりました。叩きます」

 

>もう分かったの?

>叩くって本当にやるの

 

 手のひらで、ゲルの表面を核の真上からピンポイントで叩きつける。

 

 解体室に鈍い音が響く。

 

 アシッドスライムは崩壊しない。腐食性も発動しない。ゲルがぶるりと大きく揺れて静止する。核が砕けたのだ。

 

>え???

>腐食しなかった

>本当に垂直に叩いただけ?

>条件の話、本当だった

 

「腐食なし、ゲルは無事です。力加減に少し慣れが必要ですが、仕組みを理解してしまえば専用道具は不要です」

 

>慣れが必要←

>「慣れれば」って言えるのこの人だけでは

>専用道具いらないって解体屋の常識が変わる話じゃないの

>これ知ってる解体師どのくらいいるんだろ

 

 砕けた核を小皿に移す。ゲルは形を保ったままだ。

 

 二体目から十体目まで、手順は同じだ。個体ごとに核の深さが違うので、その都度撫でて探し、叩く角度と力加減を調整する。特別なことはしていない。視聴者数が少しずつ増えていく。

 

>全部崩壊してない

>十体全部成功してる

>解体師の知り合いに見せたら無言になってた

>そもそもどこから見てどこが垂直方向?

>「慣れれば問題ない」って本気で言ってるんだこの人

 

 十体目が終わった。視聴者数は六十八人になっていた。

 

「アシッドスライム十体、全個体ゲル無事、腐食なしで完了です。コーティングの維持費が抑えられるので、解体業務の効率が上がると思います。この方法は核が一つのスライムに応用できます。スライム表面の張力が低い部分を探す必要がありますが、慣れれば問題ありません。ぜひ活用してください」

 

>ぜひ活用してって言われても

>これ再現できる解体師どのくらいいるんですか

>「ぜひ活用してください」←言葉の重みが違う

>この人本当に自分のすごさわかってないんだ

 

「次はスライム以外を解体する様子を配信する予定です。お楽しみに」

 

 配信を終了した。

 

 腐食性の仕組みについて、もう少し丁寧に説明すべきだったかもしれないと思う。垂直の衝撃で腐食が発動しない理由を最初にきちんと説明しておけば、視聴者が応用しやすくなる。次回以降で取り扱う魔物では魔物の持つ特性について補足してみよう。

 

 チャンネル登録者数、百二十三人。

 




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