L vs ルルーシュ   作:stein0630

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スザクを使うと決めたのは、Lではなく状況の方だった。

 

きっかけは、軍の護送記録だった。

特区虐殺以降、スザクの配置が不自然に“皇族・政治案件の近辺”へ寄せられている。

功績ゆえの重用。

だが同時に、壊れた騎士をいちばん都合のいい場所へ置く配置でもある。

 

Lは資料を見て、即座に言った。

 

「来ます」

 

「誰が」

ワタリが問う。

 

「ルルーシュです。

直接ではなくても、スザクの視界に何かを置く。

彼はもうシャーリーを切った。

次に周辺から中心へ届く線は、スザクしかありません」

 

「なら先に会いますか」

 

「会います」

 

今度は迷わない。

Lは立った。

この局面で遅れると、ルルーシュは“スザクが自分の意志で動いた”形を作る。

それが一番面倒だ。

 

スザクは訓練場ではなく、格納庫の裏にいた。

 

夜。

人が少ない。

機材の唸りだけが遠くに響く。

そういう場所を選ぶ時点で、彼も少しずつ追い詰められている。

 

Lはまっすぐ入った。

 

「こんばんは」

 

スザクは振り向き、露骨に顔をしかめた。

「今は会いたくない」

 

「知っています。だから来ました」

 

「最悪だな」

 

「よく言われます」

 

間を置かず本題に入る。

 

「ルルーシュさんとまた会いましたね」

 

スザクの目が冷える。

否定しない。

その時点で十分だ。

 

「それが何だ」

 

「あなた、彼から“ナナリー”という名前を聞きましたね」

 

一瞬。

ほんの一瞬だけ、スザクの呼吸が止まる。

 

「……」

 

「ありがとうございます」

 

「ふざけるな」

スザクの声が低くなる。

「今の沈黙で何が分かる」

 

「たくさんです」

Lは平坦に返す。

「彼はあなたに、渡すなと言った。

そして渡されると困る名前として、ナナリーさんを出した。

違いますか」

 

スザクは数秒黙ったあと、吐き捨てるように言った。

 

「お前、やっぱり最悪だ」

 

「はい」

 

「でも、正しいことを言ってる顔をするから、なお最悪なんだよ」

 

Lはそこで押し込まない。

一拍置く。

スザクに、自分の怒りの形を選ばせるための間だ。

 

「ルルーシュを止めたいですか」

 

「当たり前だ」

 

「殺したいですか」

 

スザクの顔が強張る。

その問いは真ん中を貫きすぎていた。

 

「……分からない」

 

「それでいいです」

Lは即答した。

「分からないうちは、あなたはまだ彼の道具でも私の道具でもありません」

 

スザクの目がわずかに動く。

その言い方は予想外だったはずだ。

 

「じゃあ何しに来た」

 

「警告です」

Lは言う。

「ルルーシュは、あなたを“最後にまだ介在できる人間”として見ています。

だから、いずれまた来ます。

今度はもっと分かりやすく、あなたの正しさを使う形で」

 

「正しさ?」

 

「はい。

あなたは、“自分が苦しんでも止めるべきものは止める”側の人です。

彼はそこを知っている」

 

スザクは歯を食いしばった。

図星だ。

そして、それをルルーシュが知っているのも事実だ。

 

「ならどうしろって言うんだ」

 

「簡単です」

Lは低く言った。

「ルルーシュに会っても、一人で結論を出さないでください。

誰かに見せる。

誰かに聞かせる。

それだけで、彼のやり方はかなり崩れます」

 

スザクは笑った。

乾いた、ひどく嫌な笑いだった。

 

「お前、僕に監視カメラになれって言ってるのか」

 

「半分は」

Lは認める。

「残り半分は、生き証人です」

 

その言葉の重さに、スザクは少しだけ目を伏せた。

やがて言う。

 

「……ルルーシュは、お前のことも読んでる」

 

「はい」

 

「ワタリも」

 

「はい」

 

「それでも来たのか」

 

「来ました」

Lは一切の迷いなく答えた。

「あなたをルルーシュの独白室にしたくないので」

 

その一言は、スザクに深く入った。

独白室。

まさにそうだったからだ。

ルルーシュは、自分にだけ“説明ではなく、言い訳の一歩手前”を置きに来る。

そこに乗れば、いつの間にか一緒に沈む。

 

スザクは長く息を吐いた。

 

「……全部は渡さない」

 

前と同じ言葉。

だが今回は続きがある。

 

「でも、一人で抱えないようにはする」

 

Lは少しだけ頷いた。

それで十分だった。

 

ルルーシュは、その接触を翌日には察知した。

 

スザクの動きが変わったからだ。

連絡の切り方。

視線の散らし方。

“自分だけで抱える不安定さ”が少し減っている。

 

「Lめ」

 

吐き捨てる。

速い。

思ったよりずっと。

 

C.C.がソファで脚を組みながら言った。

「出し抜かれたな」

 

「まだだ」

ルルーシュは即答する。

「Lはスザクに“抱えるな”と言った。

つまり逆に言えば、まだスザクは抱えられる位置にいる」

 

「会うのか」

 

数秒。

逡巡は短い。

 

「会わない」

 

C.C.が少し目を上げる。

 

「ほう」

 

「今のスザクに触れば、Lへそのまま抜ける」

ルルーシュは言った。

「なら、逆に一度切る。

スザクからはこちらへ来られない状態を作る」

 

「どうやって」

 

ルルーシュの目が冷える。

 

「ゼロとして、公に一線を引く」

 

それは速かった。

翌日には、黒の騎士団名義で新声明が出た。

 

『ブリタニア軍所属の個別兵士との私的接触を一切認めない。

例外なく、交渉は組織対組織で行う』

 

表向きは普通の方針だ。

だが、Lにもスザクにも意味は明白だった。

ルルーシュは“個人として会いに来る線”を切ったのだ。

 

Lは声明文を見て、小さく言った。

 

「速いですね」

 

ワタリが頷く。

「スザクの線を遮断しましたか」

 

「はい。

彼は今、“スザクを使えない”ではなく、“使うと自分が損をする”形へ変えました」

 

「痛いですか」

 

「少し」

Lは素直に認めた。

「でも、これで確定したこともあります。

彼にとってスザクは、切れるけれど切りたくない周辺でした。

だから公的理由を被せて、私的に切った」

 

「次はナナリー」

 

Lはすぐには答えなかった。

だが、もうそこまで来ている。

逃げ場はない。

 

「はい」

やがて言った。

「次は、ナナリーさんです」

 

ワタリが静かに問う。

 

「直接ですか」

 

Lは窓の外を見た。

少しの沈黙。

そして答える。

 

「直接ではありません。

ナナリーさんへ行く前に、“ナナリーさんに起こりうること”を彼に見せます」

 

「何を」

 

「喪失の予告です」

Lの声は冷たかった。

「奪うのではなく、“奪われる可能性を現実として置く”。

そうすれば、彼は自分から動く」

 

それは、明らかに次の段階だった。

中心を直接刺さず、中心が傷つく未来だけを置く。

その未来に、ルルーシュがどれほど速く、どれほど不自然に反応するかを見る。

 

ワタリはもう反対しなかった。

反対しても、止まらない局面だと分かっているからだ。

 

数日後、ナナリーの通う福祉支援施設に、匿名の脅迫文が届いた。

 

内容は曖昧。

だが十分に悪質だった。

 

――次は、ブリタニアの犬に守られている偽りの平和を壊す。

――優しい妹も、例外ではない。

 

施設側は一時騒然となった。

警備が増えた。

学園にも連絡が入る。

表向きには、“特区虐殺後の模倣犯脅迫”として処理される。

 

だがルルーシュには分かった。

Lだ。

 

ナナリー本人へ触っていない。

だが、“ナナリーに何かが起こりうる世界”を公式手続きの中へ置いた。

これで自分がどう動くかを見るつもりだ。

 

「いい度胸だな」

 

ルルーシュの声は低かった。

だが怒りより先に、寒気があった。

Lはついに、ここまで来た。

 

C.C.が横から文面を見て言う。

「どうする」

 

「……予定通りだ」

ルルーシュは言った。

「表面上は動かない。

警備増強にも、同行変更にも、兄として過剰反応はしない」

 

「本当に?」

 

「するしかない」

だが、その答えの後にある沈黙が長かった。

 

本当は、今すぐナナリーをどこかへ隠したい。

学園も施設も全部切って、誰にも触れさせない場所へ移したい。

だがそれをやった瞬間、答えになる。

 

Lはそれを待っている。

 

「代わりに?」

C.C.が促す。

 

ルルーシュは目を細めた。

 

「脅迫文の出所を追う。

Lの線か、Lが泳がせている別線か。

そして、それが“本物の危険”に見える程度には現実味を持っているなら、逆利用する」

 

「どうやって」

 

「ナナリーを守るふりをしない」

ルルーシュは言った。

「代わりに、“誰でも守られるべきだ”という形で警備を広げさせる。

ナナリー個人への反応を、一般論へ溶かす」

 

速い。

そして冷たい。

だが今必要なのは、それだ。

 

その日のうちに、ルルーシュは生徒会を通じて、福祉施設全体への支援強化提案を出した。

警備だけでなく、送迎、導線、記録管理、施設職員の連絡体制。

ナナリー個人の話ではない。

あくまで“誰にでも起こりうる脅威”への対策。

 

Lはその報告を受け、すぐに理解した。

 

「上手いですね」

 

「反応しましたか」

ワタリが問う。

 

「はい。

でも、ナナリーさん個人ではなく、施設全体へ広げた。

つまり、“守りたいのはナナリーだが、そうは見せない”形です」

 

「それで十分では?」

 

「まだです」

Lは首を振った。

「今のは予防線です。

本当の反応は、この後ナナリーさん本人と対面した時に出ます」

 

そこで、Lは次の一手を打った。

 

「会いに行きます」

 

「誰に」

 

「ナナリーさんに」

Lは静かに言った。

「もちろん捜査ではありません。

福祉施設への聞き取りと安全確認という名目で。

彼女本人がどう反応するかではなく、ルルーシュが“その事実”にどう反応するかを見る」

 

ワタリは少しだけ目を閉じた。

とうとう来た。

中心に最も近い場所だ。

 

「危険ですね」

 

「はい」

 

「あなたも」

 

「知っています」

 

「彼も」

 

「知っています」

Lは答えた。

「だからこそです」

 

ナナリーは、その訪問を穏やかに受け入れた。

 

応接室。

お茶。

施設職員同席。

Lはいつもより言葉を柔らかくした。

彼女には何も聞き出す必要がないからだ。

必要なのは、ここへ来たという事実だけ。

 

「最近、怖い思いをされましたか」

 

「いいえ」

ナナリーは微笑んだ。

「周りの方がよくしてくださるので」

 

「そうですか」

 

「でも、お兄様が少し無理をしていないか心配です」

 

その一言に、Lの目がほんの少し細まる。

 

「どのあたりが」

 

「うまく言えないのですが……」

ナナリーは少し考えたあと、静かに言う。

「お兄様、何かを守ろうとしている時ほど、逆に優しくなることがあるんです。

でも今は、その優しさが少し疲れている気がして」

 

Lは一拍置いた。

シャーリーと似た表現。

だが、もっと深い。

ナナリーは“見ている”のではなく、“知っている”のだ。

 

「あなたは、お兄様のことが好きなんですね」

 

「はい」

ナナリーは即答した。

「誰よりも」

 

そこに迷いはなかった。

だからこそ、Lにはよく見えた。

ルルーシュがこの子を中心に置く理由が。

 

短い面談はすぐ終わった。

Lは必要以上に話さない。

話した瞬間に、自分がここへ来た意味が濃くなりすぎるからだ。

 

だが外へ出た時点で、目的は果たしていた。

ルルーシュにはもう伝わる。

Lがナナリーに会った。

しかも、穏やかに。

何もしていないように見える形で。

 

それが一番重い。

 

その報告を受けたルルーシュは、珍しく即座に立ち上がった。

 

「どこへ」

C.C.が問う。

 

「会いに行く」

 

「ナナリーに?」

 

「違う」

彼の声は低い。

「Lだ」

 

一歩早かった。

そう思い知らされた。

脅迫文の段階ではまだ距離があった。

だが、Lがナナリー本人へ会った時点で話は変わる。

もう“触れていないからセーフ”の段階ではない。

 

Lは今、言葉ではなく事実で示したのだ。

必要なら、私はここまで入る、と。

 

「また交渉か」

 

「違う」

ルルーシュは外套を取った。

「今回は牽制だ」

 

「効くか?」

 

「効かせる」

 

C.C.はそれ以上止めなかった。

止めても行く顔だったからだ。

 

会ったのは、前と同じ地下ではなかった。

今度は、都市の上。

高層ビルの屋上。

夜風。

フェンス。

遠くの灯り。

 

Lは先にいた。

まるで分かっていたみたいに。

 

「来ると思っていました」

 

「だろうな」

 

ルルーシュは数歩手前で止まる。

以前より距離がある。

それだけで、今回が交渉ではないことが分かる。

 

「ナナリーに会ったな」

 

「はい」

 

「何を見た」

 

「あなたが来る程度には、価値のあるものです」

 

ルルーシュの目が冷たくなる。

 

「L」

声が低い。

「次にナナリーへ近づいたら、お前を殺す」

 

風が止まったように感じた。

 

だがLは表情を変えない。

 

「たぶん、本気ですね」

 

「試してみるか?」

 

「いいえ」

Lは平坦に言った。

「あなたは今、本当にそう思っている。

だから試しません。

でも、その脅しで私が引くと思ったなら外れです」

 

ルルーシュは一歩も動かない。

その静止が、逆に危うい。

 

「ナナリーは盤上に載せるな」

彼は言った。

「軍でも行政でも国家でもない。

あれは関係ない」

 

「関係あります」

Lは即答した。

「あなたが世界をどう動かすかの中心にいるなら、関係ないとは言えません」

 

「屁理屈だ」

 

「そうですね。

でも、あなたの言う“関係ない”も、結局は“そこだけは触るな”という意味でしかない」

 

その一言で、ルルーシュの目がさらに冷える。

Lは本当に嫌な場所で止まらない。

 

「私はナナリーさんを傷つけたいわけではありません」

Lは続けた。

「でも、あなたを止めるために必要なら、観測から外しません」

 

「……観測だと?」

 

「はい。

少なくとも今は。

まだ私は、彼女を“使って”はいません」

 

「まだ、か」

 

「あなた次第です」

 

その返しは、挑発だった。

あえてそうしている。

ルルーシュがここでどこまで切れるかを見るために。

 

だが今回は、ルルーシュも乗らなかった。

乗れなかったのではない。

乗れば本当に終わると、もう理解しているからだ。

 

「分かった」

 

「何がですか」

 

「お前がもう、本当にそこまで来たってことだ」

 

Lは何も言わない。

言い返す必要がないからだ。

 

「なら俺も、次からは一段上げる」

ルルーシュは静かに言った。

「L。

次に俺が動く時、お前は“ルルーシュ・ランペルージの急所”を読むんじゃない。

“ゼロが、お前から何を奪うと一番遅れるか”を考えろ」

 

Lの目が、ほんの少しだけ細まる。

それはいい警告だった。

だからこそ本物だ。

 

「ワタリですか」

 

ルルーシュは薄く笑った。

 

「さあな」

 

それだけ言って背を向ける。

今回はそれで十分だった。

脅しは届いた。

そして、自分もまた次の線を宣言した。

 

Lは追わない。

ただ、去っていく背へ静かに言った。

 

「一つだけ」

 

足は止まらない。

だが聞いてはいる。

 

「ナナリーさんは、あなたが思っているよりずっと強いですね」

 

その一言に、ルルーシュの足がほんの一瞬だけ止まった。

 

「……何が言いたい」

 

「あなたが守っているつもりの相手は、もうあなたを支える側にも回っている、ということです」

Lは言う。

「だから、そこを失うことを恐れているだけでは足りません。

あなたは、彼女にどう見られるかも恐れている」

 

ルルーシュは振り返らなかった。

だが、その沈黙だけで十分だった。

 

図星。

しかも、ひどく深いところの。

 

Lはそこで初めて、ほんのわずかに息を吐いた。

届いた。

今の一言は、確かに届いた。

 

そしてルルーシュもまた、理解していた。

この探偵はもう、急所の位置だけでなく“急所がどういう意味を持っているか”まで読み始めている。

 

だから次は、もっと速く、もっと深く動かなければならない。

 

夜風の中で二人は別方向へ去っていく。

どちらも振り返らない。

 

だが、互いに分かっていた。

 

次の局面は、もう牽制で済まない。

ナナリーとワタリ。

その二つの名前が、ついに盤の中央へ引きずり出されかけている。

 

そして、そこまで来た時、

Lもルルーシュも、

もう“まだ切っていないもの”を守るために戦うのではなく、

“切られる前に相手を折る”戦い方へ変わる。

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