L vs ルルーシュ   作:stein0630

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数日後、ユーフェミアの名は噂ではなく、政策用語として街に降りてきた。

 

特区。

行政上の特例。

名目は限定自治。

実態は、ブリタニア支配の骨格を崩さずに、名誉と日常の一部だけを返す折衷案。

 

だが民衆は、制度の骨格よりも言葉の響きに先に反応する。

“日本”という二文字が、消されていた呼称の代わりとして再び口に乗るだけで、空気は変わる。

メディアは慎重に報じ、軍は警戒し、行政局は混乱し、黒の騎士団の内部でも意見が割れた。

 

「罠だろ、そんなもん!」

 

玉城が机を叩いた。

「ブリタニアが今さら名前だけ返して、何が変わるってんだよ!」

 

「名前だけじゃない」

 

扇が低く言う。

「少なくとも、ゼロの掲げてきた“奪われた側の尊厳”には刺さる。

一般市民は武装蜂起より、明日の生活が少しでも楽になる方を選ぶ」

 

「だからこそ罠なんだろ!」

 

「そうだな」

 

ゼロの声が、部屋の温度を一段下げた。

全員が黙る。

 

仮面の奥で、ルルーシュは部下たちを見ていた。

怒り。困惑。希望。猜疑。

この場にいる誰もが、特区構想の正体を完全には測れていない。

だがそれでいい。問題は、読めるかどうかではない。どう反応するかだ。

 

「これは、軍事的には悪手ではない」

ゼロは言った。

「黒の騎士団の存在意義を“武力による対抗者”から“平和に反対する勢力”へ塗り替えられる。

民衆の支持は割れる。行政は時間を稼ぐ。軍も表向き強硬に出にくくなる」

 

「じゃあ、どうするんだよ」

 

カレンが腕を組んだまま問う。

「潰すの? それとも乗るの?」

 

ゼロは即答しなかった。

その沈黙が、かえって全員に“今、最も重要な分岐にいる”と理解させる。

 

「まだ決めない」

 

「は?」

 

「相手が本気かどうかを見る」

ゼロは続ける。

「特区は制度だ。制度は、理念より手続きで本音が出る。

誰が警護に立つ。誰が反対する。誰が譲歩を許される。

そこを見るまでは、賛成も反対も宣言しない」

 

ディートハルトが嬉しそうに呟いた。

「実に良い。期待を煽り、答えは与えない。物語の主導権が保てる」

 

「黙れ」

 

だがルルーシュ自身、内心では分かっていた。

これはただの制度戦ではない。

ユーフェミアが前に出た時点で、盤面は政治から“個”へ触れ始めている。

特区は政策であると同時に、ユーフェミア個人の願いだ。

だから厄介だ。

だから、Lが放っておくはずがない。

 

放っておかなかった。

 

「警護を強めてください」

 

Lは対策室でそう言った。

総監が鼻で笑う。

 

「皇女殿下の政治イベントに、そこまで大袈裟な対策が必要か?」

 

「はい」

Lは平然と答えた。

「ゼロにとって、これは最悪の盤面です。

武力で潰せば民衆を敵に回す。黙認すれば自分の正当性が痩せる。

利用するにしても、皇族の善意を土台にする以上、主導権を奪い切れない」

 

「なら何もしない可能性もある」

 

「あります」

Lは頷く。

「でも“何もしない”には二種類あります。

本当に手を出さないか、手を出さないように見せながら別の意味付けを上書きするか」

 

ワタリが資料を開く。

「黒の騎士団側の通信では、公式な反対声明はまだ出ていません」

 

「それが一番怖いです」

 

Lは机の上で指を組んだ。

「ゼロは今、特区それ自体より“特区にどう反応する自分が見られるか”を気にしている。

つまり彼は、まだ迷っている」

 

「迷っている?」

 

「はい。珍しいことです」

Lの声は静かだった。

「彼は普段、迷っても見せません。

でも今回は見せざるをえない。

ユーフェミア皇女は、彼にとって政治だけでは片付かない相手だから」

 

総監が顔をしかめる。

「その読みは危ういぞ、竜崎。感情論に寄りすぎてる」

 

「いいえ」

Lは即座に否定した。

「感情が絡むからこそ、論理の歪みとして使えるんです。

彼が本当にルルーシュ・ランペルージなら、特区は“ゼロとして潰すべき障害”であり、同時に“ルルーシュとしては壊したくない願い”でもある。

両立しません」

 

「だから?」

 

「だから、会いに行くはずです」

 

「誰に」

 

「ユーフェミア皇女に」

 

ワタリは黙っていた。

その黙り方で、Lが確度をかなり上げていることが分かる。

 

「もう会ったかもしれません」

Lは付け加えた。

「でも、一度では足りない。

彼は、結論を出す前にもう一度会います。確認のために。

相手の本気を見て、自分の迷いを切るために」

 

「なら、その場を押さえる?」

 

「いいえ。今はまだ」

Lは目を伏せた。

「押さえた瞬間、彼はゼロとして逃げるだけです。

必要なのは、彼がルルーシュとして踏み込んだ痕跡を積ませることです」

 

その夜、ルルーシュは二度目の面会に向かった。

 

離宮ではない。

今度はユーフェミア側が指定した、小さな礼拝堂の裏庭だった。

皇族が表立って政治会談に使うには不向きだが、個人的な会話にはちょうどいい。

月は薄く、石畳は夜露を含んでいる。

 

ユーフェミアは先に来ていた。

護衛は遠巻きだ。

警戒はしているが、彼女自身が壁を高くしないよう命じたのだろう。

 

「また来てくれたのですね」

 

「あなたのほうが、来させたんでしょう」

 

「そうとも言います」

 

少し笑う。

無理に明るくしているわけではない。

相手の緊張を解こうとする時の、彼女の自然なやり方だ。

 

ルルーシュはその柔らかさに、かえって苛立ちを覚えた。

こういう人間は、理屈で止めにくい。

 

「特区を本気でやるつもりですか」

 

「はい」

 

即答だった。

迷いがない。

 

「軍が反発します。行政も混乱する。

しかも民衆は、最初こそ喜んでも、少しでも裏切られたと思えば一気に反転する」

 

「分かっています」

 

「分かっていない」

ルルーシュの声が鋭くなる。

「あなたは“善意が届かなかった時の反動”を甘く見ている。

特区が失敗すれば、今よりもっと深く絶望する人間が出る」

 

ユーフェミアは静かに彼を見る。

その視線には反論より先に、理解しようとする意志がある。

 

「では、何もしない方がいいのですか?」

 

「そうは言っていない」

 

「でも、あなたはずっと、“危険だからやめてほしい”と言っているように聞こえます」

 

ルルーシュは口を閉ざした。

図星だった。

政治的に危険だから。

Lに見られているから。

ゼロにとって不都合だから。

その全部が本当だ。

だが、一番大きい本音はもっと単純で、もっと言えない。

 

あなたには、そういう場所に立ってほしくない。

 

「ルルーシュ」

ユーフェミアが一歩近づいた。

「あなたは、私が傷つくのが嫌なんですね」

 

返答が遅れた。

その遅れが、もう十分に答えだった。

 

「……あなたは昔からそうだ」

ルルーシュはやや荒く息をついた。

「勝手に人の沈黙を都合よく解釈する」

 

「都合よくではありません」

ユーフェミアは微笑んだ。

「嬉しく解釈しているだけです」

 

その一言に、ルルーシュはほんの一瞬、完全に言葉を失った。

ゼロならこの場で主導権を取り返せる。

だがルルーシュは、こういう瞬間に弱い。

 

「……そんなことを言いに来たわけじゃない」

 

「では、何を言いに?」

 

「あなたが本気かどうかを確かめに来た」

 

「本気ですよ」

 

「なぜ」

 

ユーフェミアは少しだけ目を伏せた。

言葉を選んでいる。

だが彼女の選び方はLともルルーシュとも違う。

相手を崩すためではなく、相手に届くよう削る選び方だ。

 

「私は、正しいことをしたいわけではありません」

彼女は静かに言った。

「ただ、もうこれ以上、誰かに“仕方がない”と言わせたくないんです。

奪われた人にも。奪った側にも。

もちろん、そんなに簡単じゃないのは分かっています。

でも、だからといって最初から諦めたら、本当にそれで終わってしまうでしょう?」

 

礼拝堂の鐘が、遠くで一度だけ鳴った。

 

ルルーシュは目を閉じた。

最悪だ。

これでは、ゼロとして切れない。

 

彼女の言葉は甘い理想ではない。

甘いのに、現実を知ったうえでなお捨てていない種類の意志だ。

そういうものは、革命家にとっていちばん厄介だ。

力で否定しにくく、論理でも潰しにくい。

 

「……Lが動いています」

 

ユーフェミアの表情が僅かに変わる。

 

「Lさんが?」

 

「あなたを守る。だが、それだけじゃない」

ルルーシュは言った。

「あなたを中心に、ゼロがどう出るかを見ている。

あなたに近づく者、あなたを止める者、その全部を観察線に載せている」

 

「それで、あなたは今ここにいるのですね」

 

「そうだ」

隠しても意味がなかった。

ここまで来たら、半端な嘘の方が危険だ。

 

ユーフェミアは少し困ったように笑った。

「それは、私を守りに来たのですか。それとも、私を止めに来たのですか」

 

「……両方だ」

 

「やっぱり、優しいのですね」

 

「違う!」

 

思わず強く否定した声が、夜の石壁に反響した。

 

遠巻きの護衛が僅かに身構える。

だがユーフェミアは動じない。

むしろ、ほんの少しだけ悲しそうに笑った。

 

「そうやって、ずっと自分の優しさを怒りに変えるんですね」

 

ルルーシュの喉が詰まる。

言い返せない。

そして、その“言い返せなさ”こそ、Lが見れば最も欲しがる種類の情報だ。

 

「今すぐ特区をやめろとは言いません」

ルルーシュはやや低く、押し殺すように言った。

「だが、ゼロとの直接接触は考えないでください。

あの男は、あなたが想像するような相手じゃない」

 

「あなたは、その人を本当に嫌っているのですね」

 

「……ああ」

 

嘘ではない。

だが真実でもない。

それが、いちばん苦しい。

 

ユーフェミアはしばらく彼を見ていたが、やがて小さく頷いた。

 

「分かりました。少なくとも、今は私から会おうとはしません」

 

「約束できますか」

 

「はい」

 

ルルーシュはわずかに息をつく。

だが、その瞬間だった。

 

裏庭へ続く回廊の暗がりから、声がした。

 

「それは助かります」

 

二人が同時に振り向く。

 

Lだった。

 

猫背。

いつもの気だるげな立ち姿。

だがこの場に現れたこと自体が、最悪の一手だった。

 

護衛が一斉に動くより先に、Lは両手を軽く見せる。

 

「武器は持っていません。

ただ、会話の終わり方があまりに綺麗だったので、少しだけ補足したくなりました」

 

ルルーシュの全身が、一気に冷える。

 

――いつからいた。

 

礼拝堂の構造。回廊の角度。

護衛の配置。足音の死角。

計算できなくはない。

だが、嫌だ。

この男は“取れたから来た”のではない。

“ここに来れば取れる形がある”と踏んで来ている。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな、L」

 

「ありがとうございます」

Lは平然と答えた。

「でも、あなたも今、それを本気で責めたいわけではありませんよね。

問題はそこではないので」

 

ユーフェミアが戸惑いながら二人を見る。

「Lさん、これは……」

 

「申し訳ありません、皇女殿下」

Lは礼を崩さず言った。

「ですが、あなたが今この場で交わした会話は、エリア11の情勢に対してかなり重要です」

 

「どういう意味ですか」

 

Lの視線はユーフェミアではなく、ルルーシュを向いていた。

 

「ルルーシュさんは、あなたにゼロとの接触を避けるよう求めました。

理由は単なる警戒ではありません。彼は、ゼロの危険性を“知りすぎている”」

 

「飛躍だな」

 

「そうでしょうか」

 

Lは一歩だけ近づいた。

距離はまだある。

目を合わせるには遠い。

だが会話の圧は十分近い。

 

「あなたは今、“ゼロと直接会うな”と言いました。

普通の人間なら、“テロリストに近づくな”くらいの抽象で止まります。

でもあなたは違う。

“あの男は、あなたが想像するような相手じゃない”と言った。

対象の危険性を、行為ではなく“本質”として知っている言い方です」

 

ルルーシュは表情を崩さない。

だが内心では高速で盤面が回っていた。

否定。

怒り。

茶化し。

どれも半端だ。

この場で最悪なのは、ユーフェミアの前で取り乱すこと。

 

「推理ごっこは結構だ」

ルルーシュは冷ややかに言う。

「皇女殿下の前で披露する趣味は理解できないがな」

 

「ごっこではありません」

Lは首を傾げた。

「私は今、あなたが“ゼロの行動原理を外から見ている人間”ではなく、“内側から知っている人間”である可能性を確認しています」

 

ユーフェミアが小さく息を呑む。

ルルーシュはその音だけで、これ以上この場を引き延ばせないと悟った。

 

「皇女殿下」

彼は視線を彼女へ向けた。

「この男は、相手の言葉を真実のためではなく、疑いを育てるために使います。

今夜はもうお下がりください」

 

Lが即座に言葉を重ねる。

 

「それは正しいです。私は疑いを育てます。

でも、あなたは違いますか? ルルーシュさん。

あなたは今、皇女殿下を守りたい。だが同時に、彼女の構想が成った場合、自分の立場が崩れることも知っている。

守ると利用しないの中間に、ずっと立っている」

 

「黙れ」

 

空気が凍った。

 

ルルーシュの声は低く、短かった。

怒鳴りではない。

それがかえって危うい。

 

Lはそこで止まらない。

止まる理由がない。

 

「黙りません」

Lは静かに返した。

「今のあなたは、ゼロとしてもルルーシュとしても中途半端です。

だから、どちらかを選ばされる場が来たら必ず失敗する」

 

その一言は、刃より鋭く入った。

 

ユーフェミアが、二人の間に入るように前へ出た。

 

「やめてください!」

 

彼女の声は大きくはない。

だが、この場で最もまっすぐだった。

 

「お二人とも、まるで相手を壊すことだけが答えみたいに話している。

そんなの、おかしいです」

 

ルルーシュは口を閉ざした。

Lもまた、すぐには返さない。

 

ユーフェミアはLを見る。

「Lさん。あなたは真実を知りたいのでしょう。

でも、そのために人を追い込んで、本当に守りたいものまで壊してしまったら、何のための真実なんですか」

 

次に、ルルーシュへ向く。

「ルルーシュ。あなたは私を心配してくれている。

でも、自分だけが全部背負って決めるみたいな顔をするのは、もうやめてください。

あなたが誰を知っていて、何を隠していても、それで私が何も選ばない人間になるわけではありません」

 

二人とも、返せなかった。

 

それは論破ではない。

もっと厄介なものだ。

善意が、正論よりも先に場を止めてしまう瞬間。

 

Lが最初に口を開く。

 

「……申し訳ありません、皇女殿下」

 

珍しく、本当に謝っていた。

 

ルルーシュは視線を落とす。

謝る言葉が出ない。

出せば崩れる。

だから代わりに、短く言った。

 

「今夜は失礼します」

 

そして振り向く。

それ以上ここにいれば、Lに取られる。

ユーフェミアにも見抜かれる。

どちらも、今は避けたい。

 

「ルルーシュ」

 

呼び止める声。

だが彼は止まらない。

 

回廊へ出たところで、Lが横に並んだ。

追ってきたのではない。

最初から、ここで二人きりの数歩を作るつもりだったのだ。

 

「あなたは今、逃げました」

 

「戦略的撤退だ」

 

「違います」

Lは淡々と言った。

「皇女殿下がいる場では、あなたはゼロになり切れない。

それが分かった」

 

「だから何だ」

 

「大きいです」

Lの声には、いつもの平坦さの下に確かな手応えがあった。

「あなたの急所が、ただの人質候補ではないと確定しました。

ユーフェミア皇女は、あなたの思考速度を落とす」

 

ルルーシュは立ち止まった。

回廊の半ば。

月明かり。

礼拝堂の影。

 

「L」

彼は低く言った。

「それ以上踏み込めば、お前は本当に後悔することになる」

 

「たぶんしません」

Lは首を傾げる。

「でも、あなたは後悔するかもしれません」

 

「何を」

 

「守りたいものを守るために、守りたいものを壊す選択をした時です」

 

ルルーシュの瞳が、冷たく細まる。

 

「勝った気になるには早いぞ」

 

「はい」

Lはあっさり頷いた。

「まだ全然です。

でも今夜、私は一つ得ました。

あなたはユーフェミア皇女を“利用できる対象”としては、もう見切れない」

 

「……」

 

「つまり、特区はあなたにとって、政治問題ではなくなった」

 

それだけ言って、Lはそれ以上追わなかった。

追えば壊れる。

壊したいわけではない。

まだ、使える歪みとして残しておきたい。

 

ルルーシュは何も言わず、そのまま闇へ去った。

 

残された礼拝堂の前で、ユーフェミアは一人、長く息を吐いた。

 

護衛たちは距離を取り、Lもまた沈黙している。

しばらくして彼女は言った。

 

「Lさん」

 

「はい」

 

「あなたは、ルルーシュを疑っているのですね」

 

「かなり」

 

「危険な人だと?」

 

Lは少しだけ考えた。

そして、いつになく慎重に答えた。

 

「危険です。

でも、それだけでは足りません。

彼は、危険であることと、守りたいものがあることを両立させている。

だから厄介なんです」

 

ユーフェミアは目を伏せる。

悲しんでいるのか、怒っているのか、Lにもまだ読めない。

 

「では」

彼女は静かに言った。

「その二つのうち、どちらが本当の彼なのですか」

 

Lは即答しなかった。

しばらくしてから、ほとんど独り言のように返す。

 

「両方です。

だから私は、彼がどちらか一方だけでいられなくなる瞬間を待っています」

 

「それは……」

ユーフェミアはゆっくり顔を上げた。

「とても残酷ですね」

 

Lは否定しなかった。

 

「はい」

 

ただ、その一言だけだった。

 

一方、学園へ戻る車内で、ルルーシュは一度も目を開かなかった。

 

Lは見抜いた。

ユーフェミアが急所だと。

それだけではない。

急所であるがゆえに、自分がゼロとして冷徹に処理できないことまで読まれた。

 

最悪だ。

ここまで来ると、特区の成否以前に、Lが“自分に迷わせるカード”を手にしたことになる。

 

C.C.が助手席から振り返る。

「顔がひどいぞ」

 

「分かっている」

 

「どうする」

 

「……決めるしかない」

 

「何を」

 

ルルーシュは目を開いた。

そこには疲労と、怒りと、覚悟の前段階だけがあった。

 

「ゼロとして特区を利用するのか、潰すのか。

ルルーシュとしてユーフェミアを守るのか、距離を置くのか。

もう両方は無理だ」

 

C.C.が静かに言う。

「遅かったな。気づくのが」

 

「黙れ」

 

だが否定はしない。

もう分かっている。

Lはこの数日で、証拠ではなく“選ばせる状況”を作るところまで来た。

次に盤面が大きく動けば、自分はどちらかを切ることになる。

 

そして、その“次”は遠くない。

 

特区宣言の日程が、正式に発表されたからだ。

 

街は、希望と不信で揺れていた。

黒の騎士団は結論を待ち、軍は包囲網を整え、Lは観察線を張り、ユーフェミアは前に進む覚悟を固める。

 

その中心で、ルルーシュだけがまだ立ち位置を決めきれていなかった。

 

だが、もう猶予はない。

 

次に会う時、

Lは探偵としてではなく、裁定者のように踏み込んでくる。

ユーフェミアは善意のまま、後戻りできない位置へ出る。

そしてゼロは――。

 

ルルーシュは窓の外の夜景を見つめた。

光が流れ、都市が遠ざかる。

そのすべてが、まるで自分に決断を急かしているようだった。

 

盤面は、もう中央では戦っていない。

次の一手は、制度でも、軍事でも、推理でもなく、

たった一つの選択が誰を壊すか、という場所にまで来ている。

 

そして、その場所では、

Lの冷たさも、ゼロの計算も、

ユーフェミアの善意一つで、簡単に形を変えられてしまうのだった。

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