「THE SABUROUTA ~太平プロレス興行日誌~」 作:八意あまつ
関東圏に位置する中規模イベント会場。その奥深く、熱気と喧騒が壁を隔ててくぐもった重低音となって響くオトギプロレス側の選手控室には、試合前の独特な緊張感と、どこか間延びしたような奇妙な空気が同居していた。部屋の片隅では、前座試合を終えたばかりのアサルが、パイプ椅子に深く腰掛けて首にタオルを巻きつけ、これ以上ないほどに頬を膨らませて不貞腐れていた。対戦相手であるグレート・イカサマの口八丁と盤外戦術に片っ端から翻弄され、見事に丸め込まれて敗北したのだ。その純粋すぎる精神構造ゆえに嘘をすべて真に受けてしまった彼女を、マネージャーや数人の練習生たちが必死に囲んでなだめている。そんな騒がしくも微笑ましい光景を背に、部屋の中央では、かつての自分を完全に捨て去った一人の少女が、静かに己の内に渦巻くどす黒い感情と向き合っていた。
久我雫。いや、今の彼女は「オディール久我」だ。黒髪のショートボブに、冷たい光を宿す紫色の瞳。彼女が身に纏うのは、黒と深い紫を基調とし、鋭い金色の縁取りが施された露出度の高いハイレグレオタードである。両手首には黒鳥の羽を思わせる漆黒のファーが揺れ、脚を包み込む網タイツが、彼女がもはや清廉潔白なベビーフェイスではないこと、危うい色香と深い闇へと堕ちたことを雄弁に象徴していた。足元を固める黒いリングシューズの紐をきつく締め上げながら、彼女は自らの胸の奥底で燻る重い情念を確かめる。三郎太への届かぬ想い、抗いようのない敗北の絶望。精神のどん底で泥水をすすった彼女は、オトギプロレスリングへの出向という運命の糸に導かれ、御子柴の世話とエディ・ダンテスの苛烈な指導を受け、ついにこの姿へと変貌を遂げたのだ。
「さて、舞台は整った」
静寂を破るように、力強くも威厳に満ちた声が響く。声の主は、オトギプロレスリングの社長兼トップレスラーである女傑、エディ・ダンテスであった。彼女は鋭い眼差しで、生まれ変わった黒き後進を見据える。
「雫、お前の太平プロのマットへの殴り込みの時は今だ。以前に話した通り、同期を見せしめて三郎太とその周囲の女どもへ挑戦する第一歩。覚悟はいいか?」
エディの問いかけに、久我は一切の躊躇なく顔を上げた。その紫の瞳には、かつての「ライジング雫」が持っていた迷いや甘さは微塵も存在しない。あるのは、ただ一つの狂おしいほどの目的意識だけだった。
「はい、もう迷う意味も必要もありません。やります。……わたしがあの人に、わたし自身を焼きつけるために」
自らの深淵から絞り出すように告げたその言葉は、やもすれば身勝手な邪悪な欲望の響きを帯びていたが、本人の真剣さは本物であった。彼女にとって、これはただのプロレスの試合ではない。己の魂を削り、愛しい人の記憶に消えない爪痕を残すための儀式なのだ。
「いい返事だ」
エディは満足げに頷き、腕を組んだ。
「私もファイナルに出るからセコンドにはついてやれん、不安ならフックを付けるが……」
「要りません。大丈夫です」
即座に拒絶する久我の言葉には、確固たる自信が満ちていた。デビュー戦でアサルに勝利し、続くフックとの悪役対決でも実戦形式でヒールとしての心得を学び取り、見事に勝利を収めている。今の彼女には、一人でリングという名の暗闇に立つ覚悟があった。
「そうか、存分にやって来い。ケツはもってやる」
エディの頼もしい言葉に、久我は深く頭を下げる。
「ありがとうございます。……ところで」
ふと、久我は顔を上げ、エディの背後へと視線を向けた。そこには、先ほどからずっと気になっていた異様な存在がそびえ立っていたからだ。
「その明らかに怪しいフードにマント姿で、クォックォッとか首まわしながら変な笑い方してるでっかい人、誰です? フック船長じゃないですよね?」
久我が指差した先には、まるで会場の光そのものを拒むかのように、白いフード付きの厚手のローブを深くかぶった巨漢が立っていた。布地はわずかな照明すらも吸い込み、輪郭だけが淡く浮かび上がっている。漫画の悪役が正体を隠すためによく使う古典的なギミックそのものであり、現実の控室に存在するにはあまりにも浮きすぎている。
エディは少し気まずそうに咳払いを一つした。
「私のファイナルでのタッグの相棒……えーと、あれだ。ミステリアス・パートナーだ。美樹にバレると面倒くさいことになるから、こうやって怪しい風体にしてツッコみづらくしている」
その強引すぎる説明に久我が呆気を取られていると、ローブの奥から、その禍々しい外見には到底似つかわしくない、底抜けに明るく親げな声が響き渡った。
「よろしく雫ちゃん、詳しくは知らないけど応援してるよ、頑張ってね!」
あまりのギャップに、久我の張り詰めていた暗黒のオーラが、一瞬にして見えない何かによってかき乱される。
「見た目と裏腹にフレンドリーな明るい声!? あ、ありがとうございます?」
思わず素のトーンで礼を返してしまう久我。あっけに取られてただの久我雫に戻ってしまっているが、可哀想なのでエディはツッコミを差し控えた。
「まぁ、気にするな。聡い読者は次話で分かる」
エディが投げやりな言葉でその場を収めようとした瞬間、巨漢のミステリアス・パートナーが慌てたように身振りを交えて抗議した。
「エディちゃん、メタい言い方はよくないぞ! 読者が困惑するじゃないですか!」
ローブの中で巨漢が必死に腕を振るい、抗議の意を示す様は、もはや滑稽ですらあった。
「お前にだけは言われたくない!」
エディの鋭いツッコミが控室に響く中、久我は静かに混乱していた。
(ミステリアス・パートナー……いったい何者なんだろう……!)
そんな一抹の疑問を脳の片隅に追いやりながら、久我は深く息を吸い込んだ。思考を切り替える。ここから先は、光の届かない漆黒の舞台。オディール久我としての初陣が、いよいよ幕を開けようとしていた。
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熱狂に包まれたアリーナで、太平プロレスとオトギプロレスの合同興行がいよいよ佳境を迎えようとしていた。まばゆい照明がリングを照らし出し、観客たちのざわめきが期待と共に膨れ上がっていく。放送席では、実況アナウンサーが興奮気味に声を張り上げていた。
『さぁ、本日の太平プロとオトギプロの合同興行、次はセミファイナルを迎えます。対戦カードは「オディール久我VSデンジャー・サチ」……変貌したかつてのライジング雫のヒールとしての姿が、ついに太平プロのマットに姿を現します! 解説には松平美樹さんをお招きしております。美樹さん……雫選手、以前とはまるで雰囲気が違いますね?』
解説席に座る松平美樹は、リングを見つめながら少し硬い声でマイクを握った。太平プロレスの社長令嬢であり、自身もリングに上がるほどのプロレスへの情熱を持つ彼女の顔には、かつての仲間への複雑な思いが浮かんでいる。
『……そうですね。ここ最近の試合を見ている方なら、ある程度は予想していたかもしれませんが……それでも、実際に目の前にすると、やはり印象が違います』
『新興団体「ノワール・ゲート」との第二次対抗戦の次鋒戦での敗北を最後に姿を消し、オトギプロへ出向していた彼女がヒールデビューしたのは確かに驚かされました。長く太平プロを見てきたファンの中には、メキシコ帰りで変貌したガータ御子柴の事を思い出す方もいることでしょう。果たしてヒールとなった彼女が何を得て、この太平プロへの襲来で何を為そうとしているのか……注目してまいりましょう!』
実況が流暢に試合の背景を語り上げる中、美樹の視線は入場ゲートから姿を現した漆黒の影――オディール久我の姿に釘付けになっていた。あの真面目で不器用だった雫が、これほどまでに毒々しく、そして痛々しいほどの決意を纏って帰ってきた。その理由を、美樹は痛いほど理解していた。理解しているからこそ、無意識のうちに独り言が口をついて出てしまった。
『……雫ちゃん、本気なんだ……本気で三郎太クンに……』
『あの、マイク入ったままですが大丈夫ですか?』
実況の戸惑った声に、美樹はハッと我に返った。自分の個人的な感情、しかも他人の激重な恋心に関わる部分を、会場中どころか全国のお茶の間に響き渡る電波に乗せてしまったことに気づき、顔を真っ赤にして慌てふためく。
『あっ!? ご、ごめんなさい、今のなしで!』
放送事故すれすれのやり取りが会場に微かな笑いと困惑を生む中、リング上ではすでに対戦相手が待ち構えていた。
太平プロ所属の女子プロレスラー、デンジャー・サチ。茶髪のショートヘアをサイドテールに結んだ彼女は、トリコロールカラーの鮮やかなハイレグワンピースタイプのコスチュームに身を包み、両腕には肘までを覆うリストバンド、足元には青いリングシューズを履いている。雫とは同期でありながら、勝気で生意気なメスガキ的な振る舞いゆえに、悪役を自称したことなどないにも関わらず、観客からはヒールのように見られがちな存在だ。サチはトップロープを掴んで軽く身体を揺らしながら、ゆっくりとリングインしてくるかつての同期を、挑戦的な笑みを浮かべて見下ろしていた。リング中央で対峙する両者。鮮やかなトリコロールと、光を飲み込む漆黒。対照的な二つの魂がぶつかり合う舞台は、完全に整った。
レフェリーが両者の意思を確認し、大きく手を振り下ろす。
会場の空気を切り裂くように、試合開始のゴングがけたたましく鳴り響いた。
太平プロレス所属、デンジャー・サチ。彼女には、かつての同期である雫――いや、目の前の「オディール久我」が纏う異様なプレッシャーをじっくりと観察するつもりなどなかった。そもそもそういう難しい事を考えずに感覚的に戦うのがサチの持ち味でもある。
「いっけええええええッ!」
気合の咆哮と共に、サチはマットを蹴った。様子見など一切考えず、若さと勢いにまかせての猛ダッシュ。彼女は迷うことなく宙を舞い、身体を捻って両脚を揃えてドロップキックを放つ。それは、狙い違わずオディール久我の胸元へと突き刺さった。鈍い衝撃音が響き、久我の華奢な体が後方へと弾け飛ぶ。観客席からどよめきが上がる中、サチは止まらない。倒れた久我を見下ろすと、彼女は挑発的に自らの尻を「パンッ!」と叩いてみせた。
「あははっ! ダッサ~い♡」
言い放つや否や、サチはそのまま勢いよく跳躍した。自らの全体重を、倒れ伏す久我の腹部へと叩きつけるヒップドロップ。空中で丸まったサチの臀部が、久我の呼吸を強制的に吐き出させる。
「ふっ……、……くぅ……!」
吐き出される久我の吐息を背に、その姿を確認すらせずにサチはすぐさま立ち上がった。視線はコーナーポストへと向けられている。彼女は流れるような動きでコーナーを駆け上がった。トップロープの上で一瞬だけバランスを整えると、そこから一気にダイブする。
「いっくぞぉーッ! ローリング・ギロチンドロップ!」
空中で鮮やかに縦回転を加え、遠心力と体重を乗せた太腿を、久我の細い喉元へと叩き落とした。首筋に走る衝撃に久我は、激しく咳き込みながら悶えて身をよじる。会場は太平プロレスの若き力、サチの圧倒的な猛攻に沸き立っていた。しかし、サチ自身の胸中には、言いようのない違和感が芽生え始めていた。
(……おかしい。これだけ入れてるのに、なんで……)
目の前で、連続攻撃を浴びたはずの久我がおもむろに立ち上がった。呼吸を乱してはいる。ダメージがないわけではない。だが、その顔には焦りも恐怖も、あるいは痛みへの憎悪すらも見当たらないのだ。ただ、紫の瞳の奥に冷徹な光を宿し、不気味なほどに静かな笑みを浮かべている。久我は無言のまま、鋭いミドルキックを放った。空気を切り裂くような速度。だが、勢いに乗るサチはそれを冷静に読んでいた。
「見え見えなんだよぉッ!」
サチは久我の蹴り足を両腕でがっちりと受け止めた。久我の唇が、さらに深く歪む。その笑みに不気味さを感じ、サチの背筋を冷たいものが走り抜けた。内心の恐怖を打ち消すように、彼女は叫びながら力を込める。
「な、なに笑ってんだぁ!」
受け止めた久我の軸足を刈るように、抱え込んだ蹴り足を支点にして、身体ごとねじり倒した。豪快なドラゴンスクリュー。久我の体が錐揉み状に回転し、再びマットに叩きつけられる。動きの止まった久我の背後に回り込み、サチは無理やりその身体を引き起こした。逃がさない。サチは久我の腰を両腕で固く抱え込むと、自身の肩で久我の鳩尾を押し上げるようにして渾身の力で絞り上げるベアハッグへと移行した。鯖折りにされた久我の背骨が悲鳴を上げる。サチは勝ち誇ったような、そしてどこか追い詰められたようなメスガキ的な煽り文句を叩きつけた。
「あは、一方的じゃん、ざーこ♡ ざーこ♡ 闇堕ちヒールターンとか言ってなんだよ、弱くなっちゃったんじゃないのぉ? ビビって損した!」
顔を真っ赤にして力を込めるサチ。その光景を、実況席が熱っぽく伝えていた。
『サチ選手、オディール久我をベアハッグに捕らえながら強烈な煽り! これは完全に主導権を握っています!』
実況の熱狂的な声が会場に響く中、解説席の美樹は冷や汗を拭い、眉をひそめてリングを見つめていた。
『……サチちゃん、勢いに乗ってますね。でも……雫ちゃんにしては大人しくやられっぱなしというか……』
解説の美樹は、不安げにリング上の二人を見つめていた。その表情には、サチの優勢を喜ぶ色はない。
『美樹さん、何か気になりますか?』
実況が尋ねるが、美樹の言葉は煮え切らない。
『いえ……ただ、ちょっと「不穏」に見えますね……』
美樹の予感は、次の瞬間に現実のものとなった。
「……ふふ……ふふふ……」
サチの腕の中で、久我が喉の奥で笑った。それは、この世の光をすべて吸い取ったような、暗く深い笑い声だった。
「……その程度の絶望で、黒鳥を墜とせると思ったの?」
「なっ!? 何をわけのわかんない事を……!?」
サチが驚愕に目を見開いた、その直後だった。久我が両腕を高く掲げた。上腕のコスチュームに施された黒い羽根飾りが、まるで巨大な翼を広げたかのように揺れる。その姿は、リングという檻に閉じ込められた鳥ではなく、獲物を前にした捕食者のそれだった。
「……貴女の感じた恐怖は本物よ。……シッ!」
鋭い呼気と共に、掲げられた両腕が手刀の形となって振り下ろされた。左右から、サチの無防備な首筋へと叩き込まれる強烈なモンゴリアンチョップ。
「……っ!? あ、が……っ!」
首を左右から斜めに痛打されたサチは、堪らず久我を拘束していた腕を解いた。呼吸が乱れ、目に涙が浮かぶ。そこへ、久我の冷徹な追撃が続く。彼女はよろめくサチの髪、サイドテールを無慈悲に掴み上げた。
「惨劇を始めましょう」
どこか楽しそうですらある声と共に、久我は自らの腕力だけで、サチをリング中央からコーナーへ向かって放り投げた。反則であるヘアスロー。髪を掴まれ、頭部を無理やり引きずられる苦痛に、サチが悲鳴を上げる。
「いたっ……痛い!? 雫それ、反則……あぁっ!?」
コーナーのマットに背中から激突し、ずり落ちそうになるサチ。だが、久我は間髪入れずに踏み込むと、全体重を乗せた串刺しニーリフトをサチの腹部へと突き刺した。
「そら、どーん♪」
可愛らしい台詞とは裏腹に、その衝撃は容赦なくサチの胃袋を抉った。
「あ……が……ッ!? げほっ……!」
内臓を潰されるような衝撃に、サチの視界がチカチカと明滅する。彼女はコーナーポストに寄りかかったまま、ずるずるとその場に崩れ落ちていった。
だが、そこは安息の場所ではなかった。久我は冷淡な瞳で、自分を見上げる獲物を見下ろした。彼女は両手をセカンドロープにかけ、自らの身体を支えとする。そして、無防備なサチの首筋を、長くしなやかな両脚で絡め取った。
「黒き羽根に巻かれて、泥濘に沈みなさい……」
ロープから手を離し、コーナーを背にした状態で、両脚を首に巻き付け、そのまま背後にのけ反るようにしてサチを引き倒す。マットへと叩きつけられたサチの頭部。久我の脚はさらに深く、強く、サチの頸動脈を圧迫していく。コーナーを背にした、残酷なまでの首四の字固め。
「ぐぇ……あぎ……は、はなせぇ……っ!」
サチはもがき、久我の脚を必死に引き剥がそうとするが、力が入らない。首を締め上げられる苦しさと、頭部への衝撃。そして何より、目の前で冷たく微笑むかつての同期の姿が、彼女の精神をじわじわと削り取っていく。
オディール久我の漆黒の網タイツに包まれた両脚は、サチの頸動脈を無慈悲に圧迫し、彼女の視界をどろどろとした混濁の中に突き落としていた。サチは、脂汗を浮かべながら、首に絡みつく久我の脚を何度も、何度も拳で殴りつけた。呼吸が、肺が、酸素を求めて悲鳴を上げている。もがき、のたうち、自らの身体を強引にねじる。その絶望的な抵抗の果て、サチのつま先が、かすかにロープの硬い感触を捉えた。
「……ブレイクだ、放しなさい」
レフェリーの厳格な声と、サチの脚先がロープに触れている事実が、ようやく久我の拘束を解かせた。久我は、興を削がれたと言わんばかりに、ふっと鼻を鳴らす。
「……まぁ、いいでしょう」
絡めていた脚を解き、久我は悠然と立ち上がった。その所作は優雅でありながら、獲物をいたぶる時間を延ばすことを決めた捕食者の余裕に満ちていた。サチはロープにすがるように寄りかかったまま、激しく咳き込み、肺に空気を送り込む。喉が焼けつくように熱い。
「……っ、ふざ、けんな……!」
よろよろと立ち上がりながら吐き捨てるようなサチの声が漏れる。だが、久我はその怒りすらも糧にするように、一歩、また一歩と距離を詰めていく。逃げ場はない。観客の誰もが、再び久我の一方的な蹂躙が始まると確信した、その瞬間だった。
「このぉっ!」
間隙を突き、サチが弾丸のような速さで久我の懐へと飛び込んだ。それは、これまで受けてきた屈辱を、たった一撃で引っくり返そうとする起死回生の丸め込み――スクールボーイだった。
「……っ!?」
不意を突かれた久我の体が、マットへと崩れる。サチは必死の形相で久我の脚を抱え込み、その肩をマットに押し付けた。レフェリーの掌がマットを叩く。
「ワン! ツー!」
会場のボルテージが最高潮に達した。太平プロレスのファンたちの脳裏に、かつての苦い記憶がフラッシュバックする。ヒールへと転向する前、気負い過ぎて不調を起こしてなお突っ張った雫が、格下の新人によるスクールボーイで無残に敗北し、そのメンタルを決定的に叩き折られたあの試合が。
マットに背中を押し付けられたまま、久我の紫の瞳が驚愕に、そして言いようのない焦燥に揺れた。オディールとしての妖艶な仮面が剥がれ落ち、そこから覗いたのは、過去のトラウマに怯える「雫」の素顔だった。だが、今の彼女は、かつての彼女ではない。
「どいつもこいつも……離れろォッ!」
久我は全身の筋力を爆発させるようにして、サチの身体を強引に跳ね除けた。荒い息を吐きながら、久我は立ち上がる。その顔から、余裕の笑みが消えていた。剥き出しの苛立ちと、自分自身の脆さへの怒りが、彼女の全身から黒いオーラとなって噴き出している。
『カウント2! オディール久我、強引に跳ね除けましたが……ここで初めて笑顔が崩れた、これは惜しかったか!?』
実況席の叫びがアリーナを震わせる。
『スクールボーイで負けた試合の事、やっぱ気になってるんでしょうね。ただ、だから苦手というよりは、意識されて苛立っているような感じに見えますけど』
美樹の分析は正確だった。久我にとって、スクールボーイは単なる技ではない。自分の「正しさ」が否定された象徴なのだ。
『なるほど、オトギプロでの試合でもアサル・ザ・ジニーにデザートクラッチで丸め込まれて慌てていたようですし、これは彼女の逆鱗とでも言うべき所でしょうか。さぁ、両者立ち上がりました!』
『サチちゃん大分息があがってますね。序盤攻めまくって消耗したのが響いてそうです』
事実、サチの体力は限界に近かった。だが、彼女の瞳にはまだ光が宿っている。
「なんだよ……いつも、いつも……っ!」
サチは、ふらつく足取りで久我へと向かっていく。意地とプライドだけで、彼女は久我の細い身体を組み伏せようとした。両者がもつれ合い、力比べが続く。その中で、サチは同期であるが故に久我の動きを読み切って組み合いを制し、彼女の頭部を自らの脇の下へと抱え込んだ。
「サチは雫の同期だってのに、いつもいつも上から目線でサチを見て……格の違いがあるみたいな態度ウザい! 舐めんなぁぁぁああ!!」
絶叫。それはサチがずっと密かに抱えてきた、劣等感という名の咆哮だった。サチは久我の身体を制御下に置き、自らの指導担当であるバッカスの得意技でもあるDDTへと捉えた。渾身の力を込め、久我の後頭部をマットへと突き刺す。鈍い音が響き、久我の体が不自然に跳ねた。ダウン。サチは肩で息をしながら、勝利への道筋を必死に手繰り寄せようとする。もう一度、あのコーナーからのローリング・ギロチンドロップを決めれば。今度こそ、勝てる。
サチは重い足取りでコーナーへと向かった。一歩、二歩。だが、その足首を、マットに這いつくばっていたはずの白い手が、蛇のような速さで掴み取った。
「サチだって……あっ!?」
足元を掬われ、サチは無様にマットへと転倒した。
「フフ……」
冷たい笑い声。ゆっくりと、しかし確実に、久我が立ち上がる。その瞳には、再び妖艶な、そして以前よりも深みのある闇を湛えた笑みが戻っていた。
「……待って、雫、待っ……」
サチが後退しようとする。だが、久我はその長い髪――自慢のサイドテールを乱暴に掴み上げ、自分の方へと引き寄せた。
「貴女の怒りも、慟哭も……ぜんぶ包み込んであげる」
至近距離で、久我の唇が耳元を掠める。
「……暗闇へようこそ」
非情な宣告と共に、久我の指がサチのまぶたのあたりへと突きたてられた。サミングという卑劣な反則行為に、会場から罵声が飛ぶが、久我は意に介さない。
「あああっ!?」
視界を奪われ、痛みに涙をこぼして悶絶するサチ。久我はその隙を逃さず、倒れ込んだサチの胴体の上に跨った。完全なマウントポジション。久我は、馬乗りになった状態でサチを見下ろした。その紫の瞳には、もはやサチの姿は映っていない。彼女が見ているのは、サチというフィルターを通した、かつての「ライジング雫」という名の自分自身だった。
「同期でも」
ドスッ、という重苦しい音が響く。久我の右エルボーが、サチの頬を打った。いや、それはサチを傷つけるためのものではない。かつての自分――正しさを信じ、綺麗事を並べていた過去の自分の顔を、粉砕するための攻撃だった。
「あぐっ!」
サチの顔が横に振れる。だが、久我の連撃は止まらない。
「仲間でも、後輩や、先輩でも」
再び、エルボーが放たれる。一撃ごとに、久我の笑みは深く、妖艶さを増していく。それはまるで、自らの過去という名の虚構を損壊し、その破片を浴びて悦んでいるかのような、狂気じみた嗜虐の美しさだった。
「ぎゃうっ……、あ……っ!」
サチの意識が朦朧としていく。その胸元に、久我は最後の一撃を振るうべく溜めを作る。大きく振りかぶったその姿勢。それは、かつて彼女が憧れ、そして彼女を絶望へと突き落とした男――宮川三郎太の得意技、「ファイナルエルボー」を彷彿とさせる、あまりにも残酷な模倣だった。久我の肘を纏う闘気の淡いオーラの光が黒色じみて見えるのは観客の目の錯覚か。
「今のわたしにはもう関係ない!」
渾身の力と共に、久我の肘がサチの胸元へと突き刺さる。衝撃がサチの戦意を、そして彼女の気力を、粉々に打ち砕いた。
「あ……ぁ……」
サチの口から、空気が漏れ出す。その光景は、もはやプロレスという競技の枠を超えていた。そこにあるのは、一人の少女が、自らの過去という名の卵の殻を徹底的に破壊し、真の「怪物」へと羽化していくための、凄惨な儀式だった。苛烈なマウント・エルボーの連打を受け、デンジャー・サチの意識はすでに断崖絶壁の淵に立たされていた。かつて同期として切磋琢磨し、時には生意気な口を叩き合っていた瑞々しい関係性は、今やリングのマットに飛び散る汗と、無情な打撃音の中に溶けて消えていく。
だが、オディール久我にとって、これはまだ過程……いや幕開けに過ぎなかった。久我は、ぐったりと力なく横たわるサチの胸元から、ゆっくりと身体を起こした。その動きは緩慢で、それでいて獲物の息の根を止める瞬間を愉しむ蛇のような、ねっとりとした妖艶さを纏っている。彼女は乱れた黒髪を無造作に掻き上げると、再び、サチのサイドテールを掴み取った。久我は抵抗する力すら失ったサチを、無理やり引き起こして立ち上がらせる。そして、その背後に回り込み、その細い顎を、黒い手袋を嵌めた指先で強引に掴み上げた。晒し者にされるサチの顔。その虚ろな瞳は、もはや焦点を結んでいない。久我はサチの身体を支えながら、その視線をリングサイド――観客席の最前列、関係者席でこの惨状を凝視している宮川三郎太へと向けさせた。
「見て、先輩……。これが、『わたし』の成れの果てよ」
久我の声は、アリーナの喧騒を突き抜けて三郎太の耳へと届く。彼女は冷徹な微笑を浮かべ、会場全体を、そして何よりも一人の男を挑発するように告げた。
「……もうライジング雫は居ない。これが今のわたし。……堕ちなさい、深淵へ」
宣言と共に、久我はサチの身体を自らの内へと抱え込んだ。それは、オトギプロレスでの地獄のような特訓と、エディ・ダンテスからの冷酷な教えによって磨き上げられ、新たに身に着けた、漆黒の必殺技。
ブラックアウト・フェザードロップ。
サチの背後からその両腕をチキンウイングに極め、のしかかるように両脚をロックして前方へ押し込む。自らの体重を預けての、逃げ場のない絞めと圧迫。サチの全身が激痛に苛まれる複合間接技。
「……っ、……あ、……ぁ……!」
サチの指先が力なく彷徨うが背後で極められていて、久我の身体を叩いてタップする事すら敵わない。二人分の体重を朦朧とした意識で支え切れるはずもなくサチの両脚が膝から崩れるが、そこから先がさらなる地獄の入り口だった。前方へと押しつぶされるようにマットに突っ伏したサチの頬がマットに押し付けられた。だが、久我の腕はさらに深く、容赦なく絞り上げられていく。両手両足の自由を奪われ、顔面をマットに押し付けられ、タップすらできない。みずからギブアップを口にする屈辱を甘受する他無いかに見える、この拷問技は意識を揺らしているサチにとって処刑も同然だった。観客席からは悲鳴に近い怒号と、信じられないものを見るような当惑の声が交錯する。
やがてサチの意識を支えていた最後の糸が、ぷつりと切れた。完全に沈黙し、だらりと垂れ下がったサチの四肢。わずかに残った神経の残滓が、指先を小さく、痙攣させるだけだ。レフェリーが慌てて割って入り、サチの腕を取り上げる。一度、二度。力なく落下するサチの手。レフェリーは即座に、試合続行は不可能と判断した。
「そこまでだ! 離せ! ゴングを鳴らせ!」
けたたましい金属音がアリーナに響き渡る。セミファイナル、オディール久我VSデンジャー・サチ。その結末は、あまりにも一方的で、あまりにも残酷なレフェリーストップによるKO勝利であった。
カーン、カーン、カーン……。
試合終了のゴングが鳴り響く中、久我はゆっくりと、まるで深愛の対象を慈しむように、技を解いた。拘束を解かれたサチは、ぐったりとマットへ突っ伏し、ぴくりとも動かない。久我はその横に立ちあがり、勝利を誇示するように両腕を広げた。黒鳥の羽根を広げるようなその仕草は、闇の女王の戴冠式を思わせるほどに完成されていた。だが、彼女の紫の瞳が見つめているのは、勝利の喜びでも、倒した相手への情けでもなかった。ただ一点。観客席で立ち尽くす、宮川三郎太。
(さあ、先輩……。今のわたしを見て、どう思う? 恐怖? 憤怒? 絶望? それとも、手の届かなくなったわたしへの、耐えがたい渇望かしら?)
久我は荒い呼吸を整えながら、心の中で狂おしく問いかける。彼女にとって、この勝利も、サチの犠牲も、すべては彼への捧げ物だった。自分を直視させ、自分をその魂に深く刻み込ませるための、血塗られたプレゼンテーション。ここからが本番なのだ。久我はリングサイドへ詰め寄る三郎太を、氷のような視線で射抜いたまま、彼がリングに駆け寄ってくるのを、待ち構えていた。
その背後では、リング内が混沌に包まれていた。サチの状態を察知したセコンドのバッカス木桜が、リング内へと滑り込んでいた。
「サチ! おい、サチ! しっかりしろ!」
バッカスの怒号に近い声が響く。練習生や医務スタッフも慌ててリングインし、心拍の確認や応急処置が始まる。バッカスはサチの肩を支え、その顔を覗き込みながら、医者の補助に回った。その顔には、かつての弟子――あるいはそれ以上に目をかけていた少女への、真剣な危惧が張り付いていた。
『これは危険な状態です! セコンドのバッカス選手が救護に入りました!』
放送席の美樹の声は震えていた。
『サ、サチちゃん……大丈夫……? バッカスさん、お願いします……!』
あらかじめて聞かされて想像し、ある程度は覚悟も決めていたはずだが。目の前で見ると衝撃は桁違いだ。雫の変貌と、その手によって無残に散ったサチ。太平プロレスが築いてきた温かな絆が、目の前で粉々に破壊されたような絶望感が彼女を支配していた。
しかし、その混乱の渦中で、ただ一人、異質な空気を纏って動く男がいた。宮川三郎太である。
彼は、観客席とリングサイドを区切る鉄柵を無造作に乗り越えた。練習生の制止を振り切るわけでもなく、ただ、磁石に引き寄せられる鉄屑のように、リングへと歩み寄る。三郎太はリング下まで辿り着くと、マットを掴み、リング上の久我を見上げた。久我は、高みから彼を見下ろす。堕天使の如き冷徹な美しさを湛えた彼女の瞳に、ついに三郎太の姿が、正面から映し出された。
久我の心臓が、歓喜に跳ねる。
(来る……! 今、彼はわたしの『闇』を認める……!)
だが。
三郎太の顔に浮かんでいたのは、久我が予期していたような、畏怖や、憎悪や、ショックによる絶望ではなかった。そこに、あったのは、迷子を見守るような、あるいは理解不能な難解な数式を前にしたような、純粋なまでの「哀れみ」と「困惑」。
「……雫ちゃん……!」
三郎太は、悲痛なほどに真剣な、しかしどこか見当違いな響きを帯びた声を上げた。彼はリング上に横たわるサチの惨状よりも、その上に立つ久我の「言動」と「衣装」に対し、心の底から心配そうに、眉を八の字に下げて叫んだ。
「お願いだ、そんなわけのわからない喋り方はやめて、早く中二病から目を覚ましてくれ!」
アリーナの空気が、一瞬で凍り付いた。それは、久我が命を削って構築してきた暗黒の世界観を、たった一言で木端微塵に粉砕する、無慈悲なまでの「善意」による全否定の刃であった。
その言葉が響き渡った瞬間、アリーナを包み込んでいた熱狂と、先ほどまでの凄惨な空気が、まるで魔法が解けたかのように一瞬にして霧散した。会場全体を支配する、信じられないほどの静寂。オディール久我は、見開かれた紫の瞳のまま、思考が完全に真っ白になっていた。
(……えっ?)
久我の脳が、今の言葉を理解するのを全力で拒絶していた。自分の耳を疑うとはまさにこのことだ。三郎太は今、何と言った? 「中二病から目を覚ましてくれ」? 彼は、久我が全身全霊を懸けて構築した「闇堕ち」のコンセプトを、ただの「イタい言動」として一刀両断したのだ。
清純派であった「ライジング雫」が、黒鳥の羽と危うい網タイツを纏う悪役「オディール久我」へと変貌を遂げた、その決意。かつての同期であるサチを無残に叩き潰した、その凄惨な戦いぶり。三郎太は、そのどれにも一切触れることなく、ただ一点、彼女が心血を注いで絞り出した「決め台詞」の口調だけを本気で心配しているのである。
「衣装も派手になったし、きっと何か悩みがあるんだよね?」
三郎太は、リングのエプロンに手をついて身を乗り出し、まるで道を踏み外しかけた妹を諭すような、どこまでも真っ直ぐで純粋な目を向けてくる。
「悪い宗教とか変な本に騙されてるんじゃいか? 雫ちゃんはもっと、こう……真面目で、素直で、普通に喋る子だったじゃないか!」
(先輩、そこじゃない……! そこじゃないんです……!)
久我の心の中で、悲鳴に近い叫びが木霊する。彼女が望んでいたのは、恐怖でも、絶望でも、あるいは自分への怒りでもよかった。自分の変化を「脅威」として認めてほしかったのだ。だが、現実はあまりにも残酷だった。三郎太の言葉は、オトギプロレスリングでの厳しい特訓と、エディ・ダンテスからの冷酷な教えによって磨き上げられた「オディール」としての矜持を、一撃で粉々に打ち砕いていく。
「さあ、一緒に帰ろう! 大丈夫、今ならまだ間に合うから!」
三郎太は、リング上の久我に向かって、何の衒いもなく手を差し伸べた。その無自覚なまでの善意の暴力。破壊的なデリカシーのなさに、久我は羞恥心で胸が張り裂けそうになる。自分のやっていたことが、愛する人から見て「悪い宗教に騙されたイタい子」のロールプレイに過ぎなかったという事実が、容赦なく彼女の精神を抉っていく。
「……わた……わたしは、オディール……」
どうにかして反論しようと震える声で紡ぐが、極度の羞恥と動揺で喉が引き攣り、言葉にならない。その微かな反抗すらも、三郎太の絶望的なズレた優しさと鈍感さの前には無意味だった。
「ほら! やっぱり喉の調子もおかしいじゃないか! 早くうがいして寝よう!」
(もう、やめて……お願いだから、誰かこの人を止めて……っ!)
一方、放送席でも、この予想外すぎる展開に解説の美樹が絶句していた。
『えぇ……? ……三郎太クン……?』
この凄惨な試合に僅かに涙さえ浮かべていた彼女の感情は、今や完全に置き去りにされていた。そして、空気を読まない実況が、マイクを通して非情な事実をアリーナ全土に響き渡らせる。
『あー……やっぱり中二病だったんですね』
『やめてあげて!?』
美樹の悲痛な叫びがこだまする。それは、もはやプロレスの実況ではなく、一人の少女の黒歴史が公開処刑される瞬間を見守る悲鳴であった。リング上では、久我――いや、雫の顔が、茹でダコのように真っ赤に染まっていた。サチを完封した勝利の喜びも、太平プロレスへの復讐という闇堕ちの達成感も、すべてが彼方へと吹き飛んでいる。今、彼女の心を支配しているのは、ただ「この場から消え去りたい」という猛烈な羞恥心だけであった。
そんな中、リングの端でバッカスに抱えられ、ようやく意識を取り戻したサチが、虚ろな目で現状を把握し、ポツリとぼやいた。
「……アレにボコられたサチの立場ってさぁ……」
自分が命がけで戦い、完膚なきまでに叩き潰された相手が、今や「中二病を心配される痛い子」として扱われている。その事実に対するやり場のない虚無感。サチの呟きに、バッカスは何も言えず、ただそっと目をそらすことしかできなかった。
リング下からは、三郎太がなおも優しく雫に手を伸ばし続けている。その光景は、もはや感動的な救済劇ではなく、質の悪いコメディでしかなかった。
『お、落ち着いて! みんな気を確かに!』
放送席の美樹は、会場の観客たちの一部に発生している「共感性羞恥による悶絶」の連鎖を食い止めようと、必死にマイクで呼びかけている。だが、その声も虚しく、アリーナには言いようのない気まずさと、苦笑にも似たざわめきが広がっていく。
漆黒の羽を広げ、絶望を謳い上げたはずの黒鳥オディール。その華々しいはずの古巣への襲撃は、皮肉にも彼女が最も愛し、最も憎んだ男の「無自覚な善意」という名の凶器によって、早くもKO負けの様相を呈していた。