親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
2030年9月12日。
この日、仮想空間【ツクヨミ】では多くのプレイヤー達が涙を流しながら、とあるライブの開始を今か今かと待ち望んでいた。
一ヶ月ほどの期間でトップにまで駆け上がった伝説のライバー『かぐや』による最後の大祭り──卒業ライブだ。
「……いよいよ、か」
自室にて、ゲーミングチェアにもたれながら目を閉じ、集中力を高めていく。
昨日は酒寄の家で派手に事前祝勝パーティーもやったことだし、次に控えている本命祝勝パーティーの予定も既に決定済みだ。帝の奢りで高級焼肉なので、今から楽しみで待ちきれない。
大事な試合前のルーティンとして、いつも通りヤチヨの歌を聴く。いつ聴いても、何度聴いても、この安らぎに衰えがくることはない。
準備は完了した。
体全体から余計な力を抜き、ゲーミングチェアへと深く体を沈めた。この体勢が俺の中では最も力を発揮しやすい体勢だ。
調整は万全だし、体調も良い。不安要素は何一つない。今ならどんな奴が相手だろうと負ける気がしない。それほどまでに、絶好調と言う他ないコンディションだ。
「──……さて、行くか」
最後に深呼吸をしてから、スマコンを起動する。
世界大会に臨んだ時以上の覚悟と共に、俺は【ツクヨミ】へとログインした。
「……うわ、最後かよ」
メンバーの待ち合わせ場所とした控え室には既に、俺以外の全員が揃っていた。どうやら重役出勤をしてしまったらしい。
帝辺りに小言を言われそうだなと思っていると、案の定と言うべきか赤鬼が突っかかってきた。
「おーおー、主役は遅れて登場ってか? 俺好みの演出してくれるじゃねぇの」
「半裸変態キザナルシスト野郎と一緒にすんな」
「え、そこまで言う?」
「すまん、バトル用にメンタル整えてきたから口が悪くなった」
「悪すぎるだろ。びっくりしたわ」
とりあえず帝に平謝りしながら、集結したメンバー達を確認する。
それぞれが気合の入った顔と装備をしており、負ける気など毛頭ないという雰囲気が溢れ出ていた。見ているだけで口角の上がる緊張感だ。
「天野くん……」
「い、いよいよ、勝負だね」
声をかけてきたのは綾紬と諫山。
この2人も俺達と同様にかぐやちゃんを守るための『SENGOKU』に参戦する意志を持っていたのだが、心を鬼にして俺が断った。正直に言って実力が足りていない。
月からの使者達がどれほど強いのか正確には分からないが、確実なのは弱いはずがないということだけだ。簡単に倒される味方がいるだけでこちら側が不利となってしまう。
これは必ず勝たなければならない勝負だ。
申し訳ないが、2人には見守ってもらうことにした。
「私達は何も出来ないけど……応援してるからっ」
「かぐやちゃんを、守ってね〜っ。天野っち……!」
「ああ、分かってる。俺達が絶対に、かぐやちゃんを守り抜いてみせるよ。だから2人は、かぐやちゃんのライブを全力で楽しんできて」
俺の言葉に笑いながら頷いた後で、綾紬と諫山は控え室から出て行った。
友達から涙目で頼まれたことで、より一層気合が入った。
相手がどんな奴でも斬る。どんな能力を使ってきても勝つ。
かぐやちゃんがライバーからは卒業しても、俺達の前から卒業してもらっては困る。
「──酒寄。調子は?」
誰とも話さずに目を閉じていた酒寄に声をかける。
かぐやちゃんのライブ開始まで残り1分を切った。つまり、後1分で大暴れの時間が始まるというわけだ。歌と剣戟に埋め尽くされた異例の卒業ライブが。
「……うん、悪くないよ。天野の方は?」
「絶好調すぎて怖いぐらいだ。今だったら水の上とか走れそうな気がする」
「ふふっ、頼もしいじゃん。……やっぱり、辞めたんだよね?」
改めて確認といった様子で、酒寄がそんなことを訊いてきた。
プロゲーマーとして契約を結んでいた事務所との関係なら、想像通りだ。
「辞めたよ。一昨日、正式に脱退メール出しといた。電話かかってきたから一回事務所に顔を出して話した、そんで終わった。気持ちは変わりませんってゴリ押したら諦めてくれたよ。俺の頑固さは事務所もよく知ってるからな。4年間のプロゲーマー生活もこれで引退だ。胸を張って、この戦いに参加出来る」
「……確かに、天野は頑固だよね」
笑いながらそう返すと、酒寄も困ったように笑ってくれた。
「……絶対、勝とうね」
「おっ、てっきりまた謝られるのかと思った」
「謝んないよ。天野に悪いもん」
「それで良い。それでこそ、酒寄だ」
迷いのない瞳に覚悟を宿す親友を見て、何故か嬉しくなった。
余計な鎖は無くなり、誰にも邪魔されることなく一緒に戦える。俺は友達のために、ようやく刀を振えるようになったのだ。
「全員、転送開始するぞ」
「了解」
「はーいっ」
「うんっ」
「分かった」
帝の合図によって、俺達5人は戦場へと転送された。
転送先は酒寄がヤチヨに頼んで作り上げてもらった『KASSEN』フィールド内の特設ライブ会場だ。
観客席も完備され、当然のように押しかけたファン達で全席満員。
それぞれがかぐやちゃんへの思いを叫びながら、ライブの開始を見守っていた。
『──なんという急展開だっ! 超新星かぐやのラストライブにこの5人が駆けつけたっ! まずはかぐやの相方にしてプロデューサー、いろP! そしてかつて鎬を削った黒鬼こと、ブラックオニキスッ! 最後の1人はかぐや・いろPの親友兼保護者枠として【ツクヨミ】を騒がせた男──ムラクモだぁぁあっ!!』
実はかぐやちゃんを初期の頃から推してくれていた最古参を名乗れるファン、【ツクヨミ】の公式解説者こと忠犬オタ公が丁寧に状況を説明してくれた。
流石の実況ぶりに会場のボルテージは爆発的に上がり、まさに祭りといった雰囲気が会場中を包み込んだ。
『たった今ヤチヨから入ってきた情報によると! かぐやの卒業ライブを盛り上げるための余興として、今登場したメンバー達による特別ルールのKASSENがライブと同時進行で繰り広げられるとのことだぁぁあっ!』
戦いに集中する配慮として、ヤチヨに頼んでいた仕込みがしっかりと機能した。
これで観客達は心からライブを楽しめるだろうし、俺達は余計なことを気にせずに戦える。
『ルールは6vs6のバトルロワイヤル形式!
楽しそうでなによりだ。
あれだけ騒いでくれれば狙い通り。
「それにしても、このルール本当に分かりやすいよな」
各チームには総じて3つの残機が与えられ、復活するためにはこの残機が必要となる。
この残機はチームメンバー全員で共有されるため、誰か1人でも落とされれば必然的に敗北が近付く。ベストメンバーで固めたのはこのルールのためだ。
「最高じゃねぇか。かぐやちゃんを守りながら相手を全滅させりゃ勝ちなんてよ。姫を奪おうとする輩にはきっちり退場してもらわなきゃな」
「違いない。──どんな手を使ってもな」
「おっ、ズルいの持ってきてんじゃん」
「ははっ、まあな」
帝が面白そうな顔で『ズルい』と評したのは、俺が装備している刀だ。
鞘から引き抜くと、隠れていたのは血に濡れたような赤い刀身。禍々しいオーラを放つ妖刀のカテゴリに分類される問題児だ。
その名を──『
装備しているプレイヤーの残りHPによって攻撃力に補正をかける特殊能力を持ち、HP満タン時の最大補正は攻撃力を3.7564倍にまで引き上げるという誰が見ても分かるブッ壊れ武器だ。
作成難易度が異常ほど高いくせに、性能が強すぎるため公式大会などでは使用が禁じられている刀だ。作成出来ても自慢用にしかならない、お飾りの刀とも呼ばれている。
ライブの余興とはいえ、プロゲーマーがこんな刀を使って戦えば悪い印象を抱く者も少なくないだろう。だが、今の俺には関係ない。事務所にもスポンサーにも迷惑をかけずにやりたい放題やれるというものだ。
卑怯? なんとでも言え。
正々堂々にこだわって守りたいものを守れなかったら意味がない。
俺達の背中に
「……みんなっ、どうして……?」
思った通り戸惑っていた。
無理もない、何も話していないのだから。
「ライブの余興! ……かぐや、私達は私達で、精一杯やるからさ。万が一勝っちゃったらその時は……ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろうっ!」
酒寄が優しい顔と声でかぐやちゃんに語りかける。
やはり、この役目は酒寄以外には務まらない。
「万が一じゃねぇ……だろ? ムラクモ」
「当たり前だ。祝勝会は帝の奢りで高級焼肉なんだからな。俺はかぐやちゃんと一緒に高い肉食いまくるって決めてんだよ」
こちらを見下ろしているかぐやちゃんに、軽く手を振りながら笑いかけた。
ライブはしっかり見られないけど、君の歌はちゃんと聴いてるから。
そんな思いを表情に込めて、自分なりに伝えた。
「……そっか……そっか……
会場全体に響き渡ったかぐやちゃんの声が引き金となったのか──対戦相手がやって来た。
何もない夜空に集まる無数の光。それらが集まると、歪なほど美しい月に姿を変えた。
赤、青、黄、緑、白と、次々に色を変えていき、目が回るような変色の暴力を経てから、
空気が震え、次元が歪む。
光が圧縮され、膨張し、解放される。そうして穴の先に見えたのは、無数の星を抱える──宇宙だった。
「……ファンタジーだな」
思わずそう呟いてしまうほどに、目の前にある光景は常識から逸脱していた。
広がった穴から【ツクヨミ】へ侵入して来た月の使者は、そのほとんどがライブ会場で見た灯籠頭の人型と同じ姿。数が多いことから量産型と見て間違いない。戦闘力で言えば雑魚の部類だろう。
警戒するべきは……その後ろから入って来た6体だ。
身体の大きさも放っている威圧感も、雑魚なんかとは比べ物にならないほど強い。一丁前に専用の武器まで装備しており、見るからに一筋縄ではいかなそうな連中だ。
特に真ん中にいる1番デカい奴。王冠みたいなものを被っているし、間違いなくアイツが向こうの大将だろう。目測だが、大きさは優に30mは超えている。他の5体が2〜3mぐらいなので、分かりやすくデカい。
そして奴らの頭の上には『KASSEN』の残機表示が出ていた。
どうやらこちらのルールに従ってやり合ってくれるようだ。不思議とそこに驚きはなかった。かぐやちゃんの身内だから、ある程度は信用していたのかもしれない。
「疑ってたわけじゃないけど、本当に【ツクヨミ】に来るんだな。どういう原理だ?」
「かぐや曰く、仮想の世界って
「……へぇ。……月と、近いのか」
そういう理由があるわけね。
そりゃ、近い方から来るのが道理か。
「よっしゃあっ! 盛り上げていこうぜっ!」
「相手にとって不足はない」
「俺の引き立て役にしてあげるよ〜♡」
「……かぐやは絶対に渡さない」
全員が武器を取り、月人を迎え撃つ構えとなった。
向こうの主力は6人いるが、こちらはかぐやちゃんを入れて6人だ。つまり、戦えるプレイヤーが1人分少ない。そのハンデを背負ったまま、俺達は勝たなければならないのだ。
──
やっと、かぐやちゃんと酒寄のために戦うことが出来る。
そう考えると、脳が焼き切れそうなほど、全てが鮮明に映った。
仮想の身体であるはずのアバターが現実の身体よりも繊細に動かせるようだ。フルダイブ適性が高いとはよく言われるが、いくらなんでもシンクロしすぎな気もした。
それぐらい、今の俺は調子が良い。
「悪い、酒寄。先に行く」
「えっ、天野? 何か言っ──」
隣に立っている酒寄に一声掛けてから、俺は地面を踏み壊す勢いで戦場へ飛び込んだ。
「──ええっ!? あ、天野っ!?」
隣から爆音が聞こえたかと思えば、次の瞬間には影も形も残ってはいなかった。
風を切り裂き、土埃を巻き上げながら、
「……は、速っ……!」
「彩葉、俺らも行くぞっ。ボーッとしてるとムラクモに全部持ってかれるっ」
「う、うん……!」
流石にそれはないだろう。兄からの言葉にそう反論しかけたが、彩葉はすぐに頷いて走り出した。
あの状態ならやりかねない。頼もしさと僅かばかりの恐怖を覚えながら、彩葉は兄と共に親友の背中を追いかけた。
敵チームより戦力が1人分少ないことに対して、彩葉達が立てた策はペアを組んで互いをフォローし合うという至ってシンプルなものだった。
狙う勝利条件は無論、天守閣の占領だ。
しかし、それはあくまでも彩葉&帝と雷&乃依だけが目指す条件に過ぎない。ただ1人の例外である真司、その最大の目的は──とにかく敵の残機を減らすこと。
3つの残機さえ消し飛ばせば、相手はもう復活することが出来ない。そうなれば一気に天守閣の守りは緩み、勝利への道が出来上がる。
真司に与えられた役割は敵を減らすこと。
強さ故に戦場で自由を許された男は──身を焦がす衝動のままに会敵した。
「ムラクモが敵の主力と当たるな。彩葉、油断すんなよ?」
「分かってるっ」
森の中を走りながら、中継モニターを横目で確認する。
雑魚敵を豆腐のように切り裂きながら敵陣へ突撃していく真司。一般的な見方をすれば
溢れ出る闘争心を抑えられないため、視界に入った敵を片っ端から斬りまくっているだけだと。
目の前に立ち塞がった主力の1人、棍棒のような武器を携えた月人と向かい合っても、真司は一切足を止めなかった。
普段の顔からは想像が出来ないほどに獰猛な笑みを浮かべ、抜き身の刀を水平に。振り下ろされた棍棒を刀で弾いて紙一重に躱わすと──すれ違い様に
一瞬の攻防。3秒にも満たない戦闘だった。
どしゃりっ、と崩れ落ちる月人を一瞥すらせずに、真司は更に敵陣深くへと切り込んで行く。
「……えーっ、瞬殺……?」
「負けてらんねぇな。行くぞ、彩葉!」
「わ、分かった!」
別の場所で雷と乃依も会敵した。
自分達もそろそろ出会う頃合いだと、彩葉はブレードを握る両手に力を込めた。森を抜けると、その先には数えられないほどの灯籠頭のミニオンが進軍して来ていた。帝と息を合わせ、最短で仕留めていく。
「昔を思い出すな、彩葉。小さい頃もこうやって、2人で遊んだこと」
「急に何!? 集中したいんだけどっ!?」
「──可愛い妹とゲーム出来て、幸せやって言ったんよっ!」
「な、なんやの急にっ!? 変なこと言わんといてっ!」
集中を乱してくるようなことを言ってくる兄に叫び返す。
味方のくせに動揺させないでもらいたいと、彩葉は不満そうに、そして少しだけ嬉しそうに笑った。
『──〜〜♪ 〜〜〜♪』
走りながら、かぐやの歌声が耳に届く。
この歌声を守るため、彩葉は目の前の敵に刃を突き立てていった。
一週間程度の練習時間しかなかったとは思えないほどの連携で、帝と彩葉は100体以上のミニオンを撃破。
効率良く
これで敵の残機は早くも残り1。こちらの残機はまだ3のままだ。誰が見ても分かる通り、彩葉達が月人達を押している。理不尽な強さを有する月人達を相手に、圧倒的なアドバンテージを取ったのだ。
かぐやの歌に興奮しながら最高峰の戦いに歓喜する観客達の熱も、上限なく高まり続けていった。
『ヤチヨによって用意された難易度ルナティックのNPC達が次々に撃破されていくぞッ! 中でもムラクモが止まらない〜ッ! ソロ最強の呼び声通り、たった1人で敵チームを壊滅させる勢いだァァアッ! かぐやを奪おうとする奴らを親友兼保護者枠は許さないぃぃぃいっ!!』
かぐや推しとして、忠犬オタ公が叫んだ。
解説としての平等さは欠片もなく、100%の偏りを見せながら。
「……? ──ッ!!」
相手の天守閣を目指して一直線に走っていた真司だったが、上空から自分目掛けて飛来する『何か』の気配を察知。
本能が発した危険信号に従うまま、刀を頭上に構えて防御姿勢を取る。その刹那、真司を切り裂かんがためにとてつもない大剣が振り下ろされた。
「ッ! 天野ッ──!」
真司の体力ゲージが一気に半分ほどにまで減ったことを視界の端で確認し、彩葉が青ざめながら叫ぶ。
モニターを見れば、刀一本で防げるとは思えない大剣に襲われていた。片膝を着きながらどうにか生き残ってはいるが、このまま押し潰されてしまいそうな質量差だ。
「待て、彩葉。落ち着け」
「なんでっ!? 助けに行かなきゃっ!」
援護に向かおうとした彩葉を帝が呼び止める。
棍棒を振り回しながらミニオン達を吹き飛ばし、話せる状況を作ってから説明に入った。
「──
「……えっ?」
放たれたのはたった一言。
それも、説明とは言えないような簡潔なものだった。そこに理屈はなく、ただ単純な事実を述べているような口調で帝は告げた。
確かに、こちらにはまだ残機がある。落とされても復活出来るのだから無駄な消耗は避けるべき、そう言われれば否定はしにくい。
しかし、それはあまりにも楽観的な考えだと彩葉は断言出来た。敵の手の内が分からない以上、迂闊に残機を減らすべきではないと。
「でっ、でも! 最前線で戦ってる天野が落とされたら、私達は一気に不利になるっ! そうなったら──」
「落とされねぇって言ったんだ。よく見てみ?」
帝に促されるままに彩葉が再びモニターを確認すると、押し潰されそうになっていた真司が──少しずつ立ち上がり始めていた。
大剣を真正面から刀で受け止め、力任せに押し返す。質量差も体重差も関係ないと言わんばかりに、ソロ最強の男は奇襲をものともしていなかった。
「良いもん見られるぜ。ムラクモの奴、
「お、奥の手……?」
あの馬鹿げた怪力は奥の手ではないのかと訊ねたくなった彩葉だが、帝の言葉の意味をすぐに理解させられることとなる。
真司を叩き斬ろうと振るわれていた大剣が──完全に弾き返されたのだ。
「あ、あれは……!」
「トラウマもんだ。あれが味方にいることに感謝しなきゃな」
舞い上がった土埃が薄まり、真司の姿がモニターに映し出される。
左手に握られているのは月明かりに照らされ、怪しくも美しい真紅の輝きを放つ妖刀──『村正』。
そして右手には新たに
鈍い銀色の片手剣。刀身には焔のような波紋が浮き上がり、見る者の目を惹きつける不思議な引力を持っていた。
真司が『SETSUNA』の全国大会で優勝した時に受け取った剣であり、特別に製造された世界に一本しか存在しない〝
名を──『霊剣・
草を薙ぎ、蛇を斬る。
その一振りは天地を揺るがし、世の理すらも容易く断ち切る。
三種の神器にも数えられる霊剣が──
「あ、あれが……天野の奥の手……!」
「すまん、あれは知らん」
「はぁっ!?」
叫び通しの彩葉に、帝は若干引き気味な顔で謝った。
ドヤ顔で見抜いたと思っていた分、羞恥の感情が抑えられなかったらしい。
「俺が言った奥の手ってのは
「嬉しそうじゃんっ! トラウマとか言ってたくせにさっ!」
「久しぶりに本気のアイツが見られて嬉しいだけだよっ!」
互いの背中を庇い合い、兄と妹がプライドをかけて武器を振るう。
無限に生み出されていく敵兵を減らし続け、最強の鉄砲玉を追うようにして敵陣を斬り進んでいく。
「遅れるなよ? 彩葉!」
「お兄ちゃんこそっ!」
離れていた時間を取り戻すかのように。
楽しくゲームをする、仲の良い兄妹の顔をして。
天守閣を目指して爆走していた真司だったが、思わぬ壁に阻まれたことで足を止めさせられていた。強行突破と行きたいところだが、そう簡単にもいかない。
何故なら、真司を目掛けて飛来してきた月人は天から戦況を見下ろしていた大将格──
「さっきまでの余裕はどこへ消えた? わざわざ大将が飛んでくるなんて、よっぽど焦ったのか?」
対戦用に整えて来たメンタルから繰り出される煽り。
相手が人間であれば効果を期待出来ただろうが、生憎と目の前にいるのは月人。言葉自体が通じないのでは意味もない。──わけでもなかった。
「──☆★▽▲〜☆★☆」
真司の煽りへ反応したかのように電子音が響いた。
何の感情も読み取れない、冷たい音だった。
「何言ってるかは分からんけど、俺を潰しに来たってことは間違いないよな?
30mを超える巨大さを有していた王冠の月人だったが、真司の目の前に来てからは他の敵主力と同サイズにまで身体の大きさを縮めていた。
これが相手との条件を平等にするための礼儀なのか、はたまたサイズを縮めた方が近接戦闘で本気を出せるのかは分からない。
一つだけ分かるのは、真司を危険だと判断し──
敵の大将から直接狙われる。
普通のプレイヤーが聞けば文句の一つでも出るような悪夢だが、真司からすれば願ったり叶ったりという状況だった。最高戦力を自分1人で相手出来れば、それだけ他のメンバーが楽になる。集団戦が素人の真司にとって、これが自分に出来る最大の役割だと確信していた。
「丁度良かった、お前は俺が相手しようと思ってたんだ。こっちから向かう手間が省けたよ」
「○●△──▲★〜◇◆!」
真司が『天叢雲剣』と『村正』を構えたと見るや、王冠の月人も同じように大剣を構えた。そしてそのまま
しかし、真司はその絶望的なまでの完全武装を見ても、浮かべた笑みを消しはしなかった。むしろその逆、十分に燃えていた闘志に油を注がれた気分だった。
「そっちにも色々と事情はあるんだろうが、こっちもこっちで譲れないんでね。悪いけど、敗戦して帰ってもらうぞ」
主人の覚悟に応えるかのようにして、『天叢雲剣』から激しい風が巻き起こった。霊剣の
装備しているだけで10秒ごとに体力を全回復し、あらゆる状態異常を無効にするという頭の可笑しいスキルであり、これにより『村正』の攻撃力に補正をかける
更に『天叢雲剣』には〝絶命回避〟という
圧倒的な反射神経と世界最高峰のプレイヤースキル。
二刀流という手数の暴力によって生み出される高火力。
ゲーマーとしてのプライドを捨てたブッ壊れ武器の装備。
まさに──
「……☆★☆★▲▽△▼◆◇」
目の前の脅威を感じ取り、王冠の月人が警戒を高めた。
陶器のような顔を引き締め、自身が相手をするべき最大の障害だと真司を認めたのだ。
「
己の全身全霊をもって、
大切な者達が、ハッピーエンドを迎えられるように。
祝!10話到達!
応援してくださった読者様方のお陰です。ありがとうございます。
そして本日、映画館で『超かぐや姫!』を観てきました!
当たり前のように全席埋まってて「人気やべぇっ……」ってなってから、グッズが最初から売り切れてて「人気やべぇ……(絶望)」ってなりました。
しかし、映画を観たお陰でモチベ上がったので、完結まで駆け抜けたいと思います!