親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい   作:スイートズッキー

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11話 肉を切らせて骨を断つ

 

 

 無数の星が散りばめられた夜空の下で、かぐやはスポットライトを当てられながらファンのために歌う。

 とても楽しそうに、とても誇らしそうに。

 

 サプライズで剣戟まで響く卒業ライブとなってしまったが、かぐやはそれが嬉しくて仕方がなかった。

 自分のために全力で戦ってくれる人達がいる。目の前で実際にその姿を見せられれば尚更だ。

 

「──〜〜♪ 〜〜♪」

 

 喉の調子は絶好調、思い通りの声が出る。

 ダンスのキレは最高潮、理想通りの動きが出来る。

 心の熱さは──言うまでもなかった。

 

(ほんと……幸せだなぁ)

 

 涙が出そうになるのをぐっと堪え、応援してくれた者達への感謝を込めて歌と踊りを届ける。

 何もなかった自分がこんなにも多くの人達から愛されているという実感に、かぐやは包み込まれていた。

 

 

(……彩葉。……真司。……ありがとう)

 

 

 最初に自分を拾い、『名前』という大切なプレゼントをくれた大好きな少女。

 ──綺麗な顔と高潔な心に、一目惚れだった。

 

 自分のことを本当の『妹』のように可愛がってくれた、大好きな少年。

 ──温かい背中と優しい声が、とても心地良かった。

 

 戦ってくれている2人を見て、かぐやは心の底から幸せを噛み締めていた。

 

 月に戻ると決めたはずの心が、揺れる。

 もしかしたら、このままこの世界に残れるかもしれない。

 

 大切なファンと、大切な友達と、あの2人と、ずっと一緒にいられるかもしれない。

 

(……なんて、贅沢になったもんだよねぇ。仕事を放り出して来ちゃったのはかぐやなのにさぁ)

 

 ふと、思う。

 仕事から逃げずに、ちゃんと引き継ぎを済ませてから来たのなら、強制送還なんてことにならなかったのではないか、と。

 自分さえしっかりしていたのなら、彼らにこんな戦いをさせずに済んだのではないか、と。

 

 彩葉達だけではない。月からの使者達にも迷惑をかけてしまっている。

 この戦いには善も悪もない。どちらかが正義なんてことはなく、お互い譲れないもののために戦っているだけなのだ。

 原因を挙げるとするなら間違いなく自分ということになってしまうのが、かぐやとしては心苦しいところだった。

 

 それでも、かぐやはこの一瞬を楽しんだ。

 

 自分でハッピーエンドにすると言ったにも関わらず人任せなのは大分情けないが、関係ないと言わんばかりに声を張る。

 自由奔放、天真爛漫、傍若無人。それが自分だ、それがかぐやだ。大好きな人達が認めてくれた、本当の自分なのだ。

 

 

(みんな……大好きっ!)

 

 

 堅苦しいことは考えない。

 そんなもの、イチ抜けあっかんべーである。

 

 

 心拍数を上げて──かぐやは太陽のような眩しさで笑った。

 

 

 

 

 

 

 

(──いける……!)

 

 近くに寄って来た灯籠頭のミニオンを愛用のキーボードブレードで斬り倒しながら、彩葉は自分達の勝利が近いことを感じ取っていた。

 雷と乃依が3体の敵主力達から同情してしまうほどの集中砲火を受けて落とされ、こちら側も残機は残り1となってしまったが、優勢なのは変わらず自分達だ。

 

 何故なら──。

 

「彩葉ッ! 決めろッ!!」

「はあぁぁぁぁああっ!!!」

 

 帝が囮となって決めたワイヤーでの拘束により、身動きが取れなくなった長槍を持つ月人。

 変幻自在の攻撃に苦しめられたが、こうなってしまえばゲームセットだ。帝の声へと応えるように、彩葉はミニオンを踏み台にして跳躍。勢いそのままに長槍の月人を一刀両断した。

 

 本当に肉を斬ったかのような嫌な感触に顔を歪めながらも、消滅した月人を見て小さく拳を握る。これで敵の残機は全て消滅した。

 相手はもう、復活することが出来ない。

 

「ナイス! 彩葉!」

「……はぁ、はぁ、お兄ちゃんもね」

「雷と乃依が3体引き付けてくれてる。アイツらなら同じやられ方はしねぇ。ムラクモが親玉を抑えてくれてる内に、俺らで天守閣を落とすぞ!」

「分かったっ!」

 

 戦力的には5vs6だが、そこは歴戦の猛者達。ハンデをものともせずに、対等に渡り合っていた。

 雷と乃依が3体を足止めすることに徹し、ムラクモが最強を抑え込む。運良くバラけていた残りの2体は帝と彩葉が撃破した。復活までの時間を考えれば、ここで天守閣へ攻め入るのが理想的だ。

 

「行くぞっ!」

「うんっ!」

 

 最初に倒した扇形の武器を持った月人がそろそろ復活してくる頃だが、2人で相手すれば間違いなく勝てる。油断から生まれる慢心ではない、対戦結果による確信だった。

 マップに表示されている敵のアイコンが接近し、戦闘態勢に入る。先程と同じように──仕留められる。

 

「……? ──ッ! 彩葉ッ!!」

「……えっ?」

 

 しかし、そう簡単にいく相手ではない。

 何せ相手は月からの使者。異なる世界からの侵略者なのだから。

 

 彩葉の目の前に現れた扇型の武器を持った月人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()──彩葉に向かって神速の鉄扇を振り抜いた。

 

「させるかよォォオオッ!!!」

「きゃっ! お、お兄ちゃん……!」

 

 妹を蹴り飛ばし、帝が間に割って入った。

 何とか棍棒でガードすることには成功したが勢いを殺し切ることは出来ず、帝は吹き飛ばされ木に激突した。

 

 呆然とそれを見ることしか出来なかった彩葉だったが、すぐに意識を切り替える。動かなければ殺されるだけだ。

 

「彩葉ッ! さっきまでと動きが違う! 無理に攻めるな!」

 

 へし折れた木の上から帝の忠告が飛んでくる。どうやらギリギリのところで生き残ってくれたようだと、彩葉は一瞬だけ安堵を浮かべた。

 だが、気を抜ける場面ではない。相手はそもそも格上。兄と連携しなければ倒せなかった相手だ。そして最悪なことに、本気を出したのか実力が跳ね上がっているときた。戦いを楽しむ戦闘民族ではない彩葉の顔から、一切の余裕が消えた。

 

(奇襲とはいえ、反応すら出来なかった……!)

 

 相手から目を逸らさず、距離を取って様子を見る。

 帝が戻ってくるまでの数秒間を耐えられれば良い。圧倒的な実力差を前に、彩葉の思考は消極的なものへと変えられてしまっていた。

 

「☆☆☆★★★〜ッ!!!」

 

 無感情な電子音が響き渡ると共に、彩葉に向けて鉄扇が投擲された。高速回転しながら襲いかかってくる刃、触れれば瞬く間に身体が真っ二つとなるだろう。

 回避行動はもう遅い。残された選択肢は防御しかないが、彩葉は本能的に悟ってしまった。

 

 ──あっ、()()()

 

 ブレードの上から切断されるイメージが湧いてしまった瞬間、彩葉の足は石のように固まり、動きを止めた。

 迫り来る即死の刃に対して、なす術なく息を呑むことしか出来なくなってしまったのだ。

 

「彩葉ッッッ!!!」

 

 視界の端に捉えたのは──【炎】。

 灼熱をその身に纏った赤鬼が、尋常ではない速度で彩葉の前へと躍り出た。明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()、金棒を一振りすると彩葉を切り裂こうとしていた鉄扇を軽々と弾き返した。

 

「お、お兄ちゃん……?」

 

 絶体絶命の危機を救われた彩葉だったが、兄の姿が変わっていることに気付き、目を見開いた。

 

 髪は伸び、全体的に荒々しさが増した。人からより鬼に近付いた姿、そう表現するのが正しい。

 頼もしさが倍増したのは喜ばしいことだが、彩葉が何よりも気になったのは帝を取り囲むようにして出現した運営からの『警告表示』だった。

 

「──ハッ! しゃらくせぇッ!!」

 

 棍棒の仕込み刀を勢いよく振り抜き、鉄扇の月人を迎撃した。

 警告表示ごと、圧倒的な攻撃力をもって薙ぎ払う。月人も防御したが、煉獄の一閃は武器もろとも相手を焼き消してしまった。

 

「凄いっ……! ……でも、あれって……」

「彩葉っ!」

「──ッ!?」

 

 帝の形態変化に戸惑いを隠せずにいると、彩葉を更なる攻撃が襲った。

 

 先程倒したばかりの長槍を持った月人が復活していたらしく、立ち止まっていた彩葉を討ち取ろうとしていたのだ。移動速度が尋常ではない、リミッターが外れている。

 しかも攻撃方法は長槍による刺突ではなく、長槍の穂先から繰り出された薄緑に輝く『超高速熱線(レーザー)』。残機が0となったことで、月人側も本気にならざるを得なくなっていた。

 

 200m以上離れた場所からの狙撃に対処出来るわけもなく、彩葉は再び無防備なところを帝に救われた。

 刀の側面でレーザーを弾き、その隙に距離を詰めてきた月人と鍔迫り合いの激突。ゲームでも不可能なほどの超速戦闘が巻き起こっていた。

 

「お兄ちゃん! 待ってて! 私が!」

「動くなっ! ……お兄ちゃんに、任せとけっ」

 

 彩葉のサポートを断り、帝が獰猛に笑った。

 妹の前でカッコいいところを見せたいから、というのも少しはあるが、下手に近寄られると巻き込む恐れがあるので全力を出せなくなるのだ。

 

 帝の周りに浮いている警告表示は時間が経つごとに警告音を強くしていき、帝アキラというアバターへ危険を知らせる。

 ──『不正行為(チート)』。帝の攻撃力を底上げした秘密であり、企業がスポンサーについているプロゲーマーとして絶対にやってはならない禁忌(タブー)だ。

 

 彩葉がすぐに気付いたのと同じく、試合を観戦していた者達もすぐにそれに気付いた。

 解説者の忠犬オタ公は信じられないものでも見るかのような驚きを浮かべ、ファン達は心から心配そうに帝を見つめていた。

 

 全てを承知の上で、帝は突き進む。

 

 

 ──全てを捨てても良いってぐらいの戦いなら、迷いなく使うぞ。

 

 

 以前、好敵手(ライバル)に向かって告げた言葉が──嘘ではないと証明するために。

 

 

「『ブラックオニキス』を……帝アキラを舐めんじゃねぇぇえええッッ!!」

 

 

 信じられないほどに重量が増した長槍を力任せに弾き返し、帝が相手の懐へと飛び込んだ。月人もそれに反応し、長槍の持ち手先からレーザーの発射動作に入る。

 どちらの集中力が、どちらの瞬発力が、どちらのプライドが上か。

 

 炎と光。

 

 先に届いたのは──絶対に妹を守るという、兄の信念だった。

 

 

「オラァァァァァアアアアッッ!!!」

 

 

 胴体を焼き斬る灼熱の刃が、月人の身体を2つに分けた。

 

 黒鬼の頭が、その肩書きに恥じない勝利を飾る。

 離れて戦闘中の雷と乃依も、リーダーの大金星に思わずその表情が緩んだ。

 

「●○▼△▼○●……!!」

 

 しかし、負けられないのは月人も同じこと。

 意地を感じさせる電子音を響かせた後、ほとんど消滅しかかっている腕を動かし、発射準備が整っていたレーザーを帝目掛けて()()()()()()()()()

 

「──ッ!! ……この野郎、悪足掻きしやがって。……根性あるじゃねぇか」

 

 直撃こそしなかったが、帝は右肩を吹き飛ばされた。

 緩やかにではあるが、HPが減っていく。即死しなかったのは当たりどころが良かっただけの話で、残り数秒で確実に0となるだろう。帝に対して命懸けで反撃を試みた月人による執念の相打ちだった。

 残機によって帝は復活してしまうが、悪足掻きにしては大きすぎる戦果だ。素直に相手を褒めない帝ですら、賞賛するしかなかった。

 

 これで互いに残機は無し。

 月人側に王冠・刀・棍棒・大剣の4体が残っているのに比べて、彩葉達はかぐやを除いた5人全員が戦闘可能と、プレイヤーの数を逆転させた。

 圧倒的に不利だった状況から一変し、月の使者達を追い詰める形となったわけだ。

 

「くそっ、俺が残機を使うことになるなんてな……ムラクモに馬鹿にされちまうぜ」

「お兄ちゃん……ごめん……! 私のせいで……あうっ」

 

 つまらないことを口にした妹に、兄からのデコピンがお見舞いされた。

 帝はいつものようにキザな笑みを浮かべると、地面に倒れながら彩葉を鼓舞した。

 

「かぐやちゃんを守るんだろ? ……相手の天守閣まではもうすぐだ。──()()()()()()()()()、勝負を決めてこい。俺もすぐに追いかける」

「……うんっ、分かった!」

 

 すぐに頷き、帝を残して天守閣へと駆け出した彩葉。

 責任を感じて立ち止まってる暇などない、生き残った自分にはやるべきことがあるのだ。

 

 帝の言葉通り──真司(親友)は必ず勝つ。

 

 それを信じて、彩葉は振り返ることもなく走り去った。

 遠ざかっていく妹の背中を見つめながら、帝は優しく微笑む。

 

「かぐやちゃんとムラクモに……感謝だな」

 

 守り抜いた妹は、もう昔のような泣き虫ではなくなっていた。

 1人にしてしまった後悔。実家を出てからずっと心に抱えていた罪悪感が、少しだけ晴れた気がした。

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

「──勝てる……!」

 

 王冠野郎との戦闘開始から約8分が経過。

 俺は相手の攻撃を見切り始めたという実感と共に、自分の攻撃が通用するという自信を掴んでいた。

 

 大剣・斧・長槍・刀と武器種は様々だが、攻撃パターンはどれも分かりやすい。まるで、戦闘経験などない()()()()()()()()()()()

 こちらが2本で向こうは4本と得物の数が倍違うにも関わらず、相手が俺に攻撃を当てられないのが良い証拠だ。

 

「月での仕事はデスクワークなんだって? そりゃ武器を振り回したことなんてないよなァッ! かぐやちゃんの言ってた通りだよォッ!!」

「▼△▶︎◁……ッ!!」

 

 斬撃、薙ぎ払い、刺突、一閃。

 上下左右から絶え間ない怒涛の嵐。二刀流でなければ絶対に捌き切れなかった連撃を連撃で相殺し、殺人ラッシュがようやく終わりを迎えた……のだが、図星を突かれ怒ったのか、王冠の月人はすぐに追撃を仕掛けてきた。

 

 真上から大剣での唐竹割り、真横から斧での水平斬り、右上から長槍での刺突、左下から刀での逆袈裟斬りと、4本の腕による4種の武器からの多方面同時攻撃。

 4本の腕を相手にした経験などなかったので慣れるのに少しばかり時間はかかったが、フェイントもなければ特殊な効果を持つ能力(スキル)が付与されているわけでもない。単純な火力の押し付けなら、それはむしろ俺の専売特許だ。

 

 最も早く向かってきた大剣の側面を右手の『天叢雲剣』で弾いて進路変更。右横から迫ってくる斧へとぶつけ、2つの攻撃を同時に潰した。

 刀による逆袈裟斬りは左手の『村正』で防ぎ、長槍の刺突に関しては──()()()()()()()()()()()()()

 

「──▲▲▲▽△!?!?」

「ハハッ、防御どころか回避すらしないのは流石にビビったか? 電子音でも意外と感情が伝わるもんだな」

 

 長槍は俺の身体を容易く貫くと、横腹をえぐり取るようにして外へと払われた。致命傷なのは火を見るよりも明らかだが、俺のHPバーは1という数字を残してギリギリ踏み止まった。

 俺の奥の手である『天叢雲剣』が持つ固有能力(ユニークスキル)──〝絶命回避〟による恩恵だ。HPが満タンの時に受けた攻撃では絶対に死なないという踏ん張りスキル。一手の違いが勝敗を分ける対人戦において、これほど使えるスキルもそうはない。

 

 同時攻撃を捌き、尚且つ生き残ったこの瞬間こそが俺にとっては最大のチャンス。

 武器を振るって無防備となった相手の腕を、回転しながら2本の刃で斬りつけた。

 

 ──()()()、あり。

 

 どしゃあっ、という音を立てながら長槍と大剣を持っていた2つの腕が地面へと落ちた。肉を切らせて骨を断つ作戦は成功だ。普通に初見殺しなので、どんな相手にも一度目は通用する。

 

 切断面から紫色の液体が勢いよく流れ出し、王冠の月人は目に見えて動揺。

 すぐに跳躍で俺から距離を取ると、斬り落とされた自分の腕を確認した。

 

「これでお互い、得物の数が並んだな。気を付けろ? その傷口は塞がらないぞ。『村正』の能力(スキル)〝呪い傷〟のせいでな。欠損への回復を無効にした上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。悠長には戦えなくなったな」

「……●●●○◇◆」

 

 腕を斬り落とせたのはもちろん大きいが、厄介な大剣と長槍を封じられたことの方が有り難かった。

 どれだけ単調な攻撃でも、やはり攻撃面積と長物によるリーチは侮れない。刀と斧の2つなら対処も容易いので、俺としては大分戦いやすくなった。

 

 そして、何十回目かの風が吹く。

 10秒が経過したことで右手に装備している『天野叢雲』の〝完全回復〟が発動。削られたHPは瞬く間に全快した。これで『村正』の攻撃力補正も最大倍率に戻ったというわけだ。

 それに比べて向こうは腕2本を落とされる痛手。流れは完全に、俺の方にあった。

 

「残機も揃って無くなったことだし、死んだら生き返れないぞ? ここでお前を落とせば──()()()()()()

 

 攻めるなら今、落とすなら今。

 

 相手が動揺してくれているというなら結構。

 戦意が多少なりとも削がれてくれたなら行幸。

 一瞬でも敗北を想像してくれたのなら──最高だ。

 

 

「◁▶︎△▼……○○●……」

 

 

 なんだ? 初めて聴くパターンの電子音だ。

 一瞬だけ様子見することも脳内をよぎったが、足を止めずに突き進む。今の集中力なら、相手がどんな動きをしても対応出来ると判断した。

 

 陶器のような顔をしているため視線を読むことは出来ないが、挙動からある程度次の行動推測は立つ。

 

 ──武器の投擲? 

 ──武器種の変更? 

 ──新しく腕を生やす? 

 ──他の仲間への救援要請? 

 

 プロゲーマーとして戦ってきた経験から、あらゆる可能性を考慮。

 そしてその全て、問題無し。

 

「勝たせてもらうぞ……!」

 

 情けは無用。

 奴らにとってかぐやちゃんが必要な存在であるのと同じように、俺達にもかぐやちゃんが必要だ。

 そこに大小があったとしても、優劣はない。強引に奪うと言うなら、こちらもまた強引に叩き潰すだけだ。

 

 踏み込みからの一閃。

 これまでに何度繰り返したか分からない勝ちパターンだ。

 

 武器も、パラメーターも、距離も、状況も、勝ちに必要な条件が全て揃っている。

 ここから負けるはずがない。それを慢心とすら呼べないほどに、勝ち筋は完璧に整えられていた。

 

 だからだろう。

 俺の直感が──()()()()()()()()()

 

 

「──……ぐあッ!! ……ッ!?」

 

 

 直感を信じて左へ飛ぶ。

 その刹那、ダメージエフェクトである桜の花弁が勢いよく舞い散ると──()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんだ? 今、何をされた? 

 

 潜伏していた月人の奇襲? 

 常にマップは確認して敵味方の位置は把握している。それはない。

 

 見えない斬撃? 

 可能性としてはなくはないが、攻撃モーションすらないのはあり得ない。

 

 一瞬混乱しかけた頭だったが、すぐにその答えを視界に捉えた。

 

 俺の腕を切断したであろう──直線的に飛んできた大剣の姿を。

 

 間違いない。

 これは奇襲でもなければ、見えない斬撃でもなかった。大剣の持ち手部分を握っている白い腕が、何よりの証だった。

 

 

「──()()()()()()()()……()()()()()……ッ!!」

 

 

 油断した。目の前に転がされた勝ちに飛びついてしまった。

 馬鹿野郎が。相手は宇宙人だぞ? 斬り落とされた腕を操るぐらいの可能性は考えておいて当然だろうが。

 

 右腕ごと飛んでいった『天叢雲剣』の〝絶命回避〟でHPは1だけ残ったが、回復する手段が無くなった以上は風前の灯だ。

 そしてその隙を見逃してくれるほど甘いはずもなく、王冠の月人は目の色を変えて刀と斧を振り上げた。

 

 踏み込みからの連撃。

 皮肉にも、俺がやろうとしていたことを返された。

 

「ちょっ、マジかよ……!!」

 

 斧と刀の斬り下ろしを避けるため、『村正』の柄に仕込んでおいた鎖分銅を発射。近くにあった木に巻きつけ、鎖を戻す反動で回避行動を取る。

 俺が立っていた場所には満月のような丸いクレーターが出来ており、1秒でも動くのが遅れていればミンチにされていたことを証明していた。

 

「……やべぇな」

 

 思わず、弱音が溢れた。

 あまりにも失ったものが大きすぎる。

 

「……警戒してるな。……当たり前か」

 

 地面に落ちた『天野叢雲』と俺の間に立つようにして、王冠の月人は武器を構えた。拾わせる気はないらしい。

 腕を欠損しようが〝完全回復〟であれば元に戻る。何度も能力(スキル)で回復する様子を見せたせいで、それを封じるために右腕を狙って落としたんだろう。地味に利き腕が使えなくなったのもキツい。体力1だから『村正』の補正倍率も最低値だし、笑えるぐらい絶望だ。

 

「……()()?」

 

 平常心を取り戻すためにマップを確認すると、何故か酒寄が近付いて来ていた。

 一緒にいたはずの帝が天守閣まで戻っていることから、最後の残機を使って復活したらしい。残っている敵の数から察するに、どうやら相打ちとなったようだ。

 

「……やったな。酒寄、帝」

 

 雷と乃依も3体の月人を相手に粘ってくれていた。

 まず間違いない。時代を超えて行われている俺達の竹取物語は──この一騎討ちを制した方が勝つ。

 

 酒寄が帝達ではなく、俺との合流を目指して動いてるということは、俺の勝利を信じているということに他ならない。

 

 負けられない。この戦いにだけは、負けられない。

 

「…………ふぅ」

 

 短く息を整え、相手を見定める。

 

 奴が最も警戒しているのは『天叢雲剣』だ。

 俺が手に取ろうとすれば全力で妨害してくるだろう。最悪、わざと拾わせてその隙を突きにくる可能性もある。

 

「……考えてる暇も、ないか」

 

 酒寄がここまで来るのに、およそ2分。

 それが俺に用意された、王冠野郎を倒す制限時間(タイムリミット)だ。

 

「お互い時間を掛けられなくなったな。──次で決める」

「──……●○●○」

 

 一瞬の静寂が流れた後、俺達は同時に動いた。

 揺れることなく、真正面からぶつかり合うように。

 

 集中しろ、限界の限界の限界まで集中しろ。

 マップの把握とか相手の残りHPとか酒寄の到着時間とか、この瞬間だけは全て捨てろ。目の前の相手だけを見ろ。

 

 脳が焼き切れても良い。

 ここで勝てれば──それで良い。

 

「◁▶︎△▼……○○●……」

「……ッ!!」

 

 先程と同じ電子音を響かせると、王冠野郎が刀を振り上げた。

 

「──騙し(ブラフ)だな」

 

 斬り落とした腕を遠隔操作出来るという能力がゲージを消費して放つ必殺技(ウルト)扱いであれば、連発は出来ない。【ツクヨミ】で『KASSEN』のルールに縛られている以上、どれだけ無茶な攻撃力や能力を持っていようともそこだけは俺達と平等だ。

 見立て通り、地面に落ちている2本の腕はピクリとも動きはしなかった。一丁前に駆け引きをしかけてくるとは生意気だ。流石はかぐやちゃんの身内、新しいことを覚える速度が尋常ではない。

 

 俺が()()()()()()()()()()()()()、王冠野郎が時間差で斧を振るった。絶対に俺を仕留めるという濃厚な殺意が込められた攻撃だ。生半可な受け流しでは意味を成さない。

 ここで必要なのは、勝ちに繋がる一手。それを決めるためには賭けに出るしかない。だからこそ俺は、何の小細工も無しに懐へと飛び込んだ。

 

 先に振り下ろされた刀を『村正』でどうにか逸らし、無防備となったところを斧が襲ってくる。

 王冠野郎の勝ちを確信したような電子音を聞いて──俺は口角を上げた。

 

 最初はただ武器を振り回す事しか出来なかった奴が、こんな駆け引きを使えるようになった。それは何故か? 俺という手本を見て学習したからだ。

 俺を手本にしてくれたのなら、動きの先読みは出来て当たり前。どこをどう狙ってくるかなんて、目を閉じていても分かる。

 

 俺はずっと、1人でゲーム(ソロプレイ)をし続けてきたのだから。

 

 動きをトレースしてくれているかは正直言って賭けだったが、それぐらいしなければ出し抜けなかった。

 振り抜かれた斧を最小の動きで避け、俺ではなく地面を切りつけた刀を踏んで王冠野郎を飛び越えるようにして宙を舞った。そしてそのまま『村正』の鎖分銅を使って地面に落ちている『天叢雲剣』を回収し、空中で入れ替えるようにして右手に装備。

 

 相手の背後を取った状態で、本命の剣を手に入れた。

 

「△▲▲△……!」

 

 首を回して俺の姿を視界に捉えようとする王冠野郎だが、その行動に焦りの色は見えない。

 それも当然だろう、俺と奴との間には5〜6mほどの距離が存在している。完全に攻撃範囲外だ。

 

 そう、これまでに見せた攻撃であればの話だが。

 

「やっぱり……切り札は最後まで取っておくもんだよな」

 

 霊剣を、風が包み込む。

 淡い光と激しい風を纏った『天叢雲剣』を、俺は王冠野郎へ向けて全力で振り抜いた。

 

 

 ──必殺技(ウルト)。【神風刃(しんぷうじん)

 

 

 俺が持っている唯一の遠距離攻撃。

 所謂、()()()()だ。

 

 ゲージの消費量に見合った高威力な技だが、欠点として有効範囲が10mほどしかない。

 それなりに接近しなければ使えないという、遠距離攻撃の定義を考えさせられる技だ。しかし、今回のようにこの技の存在を知らない相手には──文字通り必殺の一撃となる。

 

 背中を向けたまま神速の太刀風を避けられるはずもなく、王冠野郎の首はこれ以上ないほど綺麗に跳ね飛んだ。

 

 

「──悪いな。……俺の勝ちだ」

 

 

 そしてここで『天叢雲剣』を手に取ってから10秒が経過。〝完全回復〟が発動し、HP全快と欠損していた右腕が完治した。

 結果後だけを見れば無傷での勝利だが、本当にギリギリだった。これから更に学習して成長出来るのかと思うと、恐ろしいという言葉しか出てこない。

 

「……勝ったぞ。……みんなっ」

 

 風に包まれていたことで滞空時間が伸びたため、落下し始めるまでの数秒間、少しだけ空中に浮いて気を緩めた。

 酒寄はもう近くに来ているだろうか。良い報告が出来るなと頬を緩ませながらマップを確認しようとした瞬間──()()()()()()()()()()

 

 

「──……は?」

 

 

 明らかに致命傷だが、〝絶命回避〟のお陰で死んではいなかった。今日だけで何度この能力(スキル)に命を救われているか分からない。HP1という数字にも慣れてしまったほどだ。

 

「▽▲▽▲▽〜〜◆◇」

 

 激しく動揺しながら後ろを振り返ってみると、そこにいたのはやはり月人。

 刀を装備していた月人は雷と乃依が抑えていたはずだ。何故こちらに向かって来た? どうして──。

 

「……まさか……!?」

 

 刀に貫かれたまま、消滅寸前となっていた王冠野郎へと視線を向ける。

 俺の予想通り、陶器のくせに()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの電子音は必殺技(ウルト)に見せかけた騙し(ブラフ)ではなく──仲間への指示を送るものだったのだ。

 そうとでも考えなければ、明らかにタイミングが良すぎる。俺を確実に仕留めるために、アイツは()()()()()()()()()

 

 何故、同じ電子音だから同じ意味だなんて楽観的な思い込みをした?

 自分の馬鹿さ加減に本気で怒りを覚えた。

 

 

「──天野ッ!!」

 

 

 そして更に最悪なことに、ここで酒寄が合流した。

 刀で貫かれている俺を見て青ざめた表情を浮かべている。

 

 今の俺に出来ることは、敵の狙いを叫ぶことだけだった。

 

「天守閣に──がはっ!」

「天野ッッ!!!」

 

 胸を貫いていた刀を無理矢理引き抜かれ、そのまま袈裟斬りを喰らってHPは全損した。後3秒で〝完全回復〟が発動したというのに。

 どうやら『天叢雲剣』の能力(スキル)も王冠野郎から伝えられていたらしい。

 

 

「…………天野」

 

 

 消えていく意識の中で最後に見た酒寄の顔を、俺は一生忘れないだろう。

 

 

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