親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい   作:スイートズッキー

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 極限の集中状態──所謂『ゾーン』に入っているとでも言うのか、自分の調子が異常なほど良いのが分かる。

 向かってくる敵の動きは鮮明に視え、()()()()()()()()()()まで手に取るようにイメージ出来た。

 

 隣を走っている酒寄についても同様だ。思考が接続(リンク)しているんじゃないかと思うほどに、彼女の行動が予測出来た。

 それ故に、酒寄の進路を妨害しようとする敵をどう斬ればいいのか──悩む必要は皆無だった。

 

「ッ! 天野ッ! 穴が見えたよっ!」

「し、真司すげ〜っ……!」

 

 残り時間は1分を切っている。俺の役割は現実世界へと繋がる穴まで酒寄とかぐやちゃんを最優先で届けることだ。

 俺が穴に飛び込むのは最後でいい。まずは2人を確実に送り返す。

 

「──邪魔だ」

 

 輪廻による嫌がらせによって出現したと思われる、闇を纏った大型の竹兎。

 流石に小型とは違って一撃で仕留め切れはしないが、馬鹿正直に倒す必要はない。腕か足を斬り飛ばしてバランスを崩させ、酒寄の妨害を出来なくすればそれで良い。

 

 後方から追って来ている闇兎どもは王冠野郎と月人達の協力でなんとかなっているため、俺は前方で待ち構えている奴らにだけ集中することが出来る。

 かぐやちゃんを自由にしてあげたいという思いは俺達と同じらしく、月人達は反撃を受けても攻撃の手を止めることはなかった。その覚悟に応えるべく、俺は眼前の敵を斬り捨てる。

 

 

 ここで、残り時間が『30秒』となったことを知らせるアラームが鳴り響いた。

 

 

「行けっ! 酒寄っ!!」

「分かったッ!」

 

 昔の俺が今の俺を見たら、なんて言うだろう。

 こんな必死になって誰かのために戦っている姿を、俺はダサいと笑うんだろうか。

 自分が孤独であることを自分以外のせいにしていたあの頃の俺なら、笑うかもしれない。でも、それで良いと思った。今の俺は違うから。

 

 酒寄に救われて、綾紬に恋をして、諫山と仲良くなって、帝達と悪友になって、かぐやちゃんに出会えた。

 その全てが、今の俺を作っている。伝えられる方法があるのなら、あの頃の俺に伝えてやりたい。

 

 

 お前には──大切な友達がたくさん出来るんだぞって。

 

 

「真司ッ! 彩葉がっ!」

 

 かぐやちゃんの口から悲鳴にも似た叫びが上がる。

 穴まで残り僅かといったところで、木槌を振り上げた竹兎が酒寄へと襲いかかったのだ。走って助けに行くのでは間に合わない。俺は右手に持っていた『天叢雲剣』を躊躇なくぶん投げた。──見事、命中。

 

 額を貫通して竹兎を消滅させた『天叢雲剣』はそのまま穴へと吸い込まれ、俺達の中で誰よりも早い帰還を果たしたのだった。

 

「……ッ! ──天野っ! 急いでっ!!」

 

 酒寄が穴の前で俺達に向かって手を伸ばしている。

 これで酒寄は大丈夫だ。 

 

 

 残り──20秒。

 

 

「真司ッ! 後ろっ!!」

「チッ! このクソ兎がっ! 邪魔だって言ってんだろッ!」

 

 俺に勝てないと踏んだのか、竹兎達がかぐやちゃんへ狙いを変更してきた。せこい知恵は多少回るらしい。

 右手に持ち替えた『村正』を滑り込ませ、木槌による一撃を防御。そのまま回転斬りで首を落とした。

 

 穴までの距離はもう一息と言ったところだ。

 かぐやちゃんを背負ったままでも十分間に合う。このまま突っ切って酒寄ごと穴に飛び込む。

 

 そのつもりだった。

 

「──ゴオァァァァァァァァアアッ!!」

 

 すぐ後ろから咆哮が上がった。

 視線を向けてみると、闇を纏った竹兎達が次々と合体。2〜3倍に巨大化した特殊個体が俺達を睨んでいた。

 

 身体に合わせて、装備されている木槌も巨大化。当たり前のように投擲モーションに入っているが、本気でいい加減にしろ。あんな物を投げられて穴にでもぶつかったら流石にヤバい。帰り道を潰させるわけにはいかないので、仕方なく足を止めて迎撃体勢を取る。

 

 回転しながら飛んできた大木槌を、『村正』で受け止めた。

 火花を散らしながら多少押し込まれはしたが、勢いを止めることには成功。しかし、その隙をついて他の竹兎が爪を振るい、左腕が斬り落とされた。生意気にも連携を披露してきやがった。よほど俺達を生きて帰したくはないらしい。すぐに反撃して真っ二つにしたが、2秒奪われた。

 

 

 残り──10秒。

 

 

「天野ッ!」

 

 心配するな、酒寄。

 こんな攻撃じゃ、お前の親友は殺せない。

 

「真司ッ!」

 

 そんな顔するな、かぐやちゃん。

 今度こそは、何があっても君を守る。

 

 俺は右手に持っていた『村正』を手放し、肩にかかっている紐を外してから──()()()()()()()()()()()()

 

「しっかり掴まってろよ?」

「えっ……? 真司、何を──」

 

 戸惑うかぐやちゃんに笑いかけてから、俺は籠を酒寄に向かって全力で投げた。

 

 

「いっけぇぇぇえええっ!!!」

 

 

 残り──5、4、3。

 

 

「あ、天野ッ!!」

「真司ぃっ!!」

 

 飛んできた籠に吹き飛ばされ、酒寄がかぐやちゃんと共に穴へと吸い込まれていく。

 自分の役割が果たせたのを確認したことで、俺はようやく心から笑えた気がした。

 

 

「先に行っててくれ。──俺もすぐに帰る」

 

 

 泣きそうな顔をしている2人を笑顔で見送ってから、地面に落とした『村正』を拾い上げる。

 そして閉じていく穴に背を向けて、迫り来る竹兎達へ向き直った。

 

「安心しろよ。お前らを片付けるまで、俺も帰るつもりはないからさ」

 

 ここからは、何も気にせず戦える。

 ただ相手を倒すことだけに集中出来る。

 

 今度こそ2人を守り抜いたという達成感と高揚感に背中を押されながら、俺は緩む口角をそのままに、刃を振り上げて駆け出した。

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

「──きゃあっ!」

「──ぐひゃあっ!!」

 

 可愛らしい悲鳴を上げた彩葉と、可愛らしくない呻き声を上げたかぐやが穴から放り出される。

 籠の中でコロコロと転がっているかぐやの姿が以前と同じものになっているため、身体のデータを【ツクヨミ】仕様に戻す試みは成功したようだ。

 

「彩葉! かぐやちゃんっ!」

 

 地面に転がされた2人へ血相を変えて真っ先に駆け寄ったのは芦花。

 そして彼女の後を追って、真実、帝、雷、乃依と、彩葉達の帰還を待ち望んでいた者達が次々に近寄って来た。

 

「彩葉! かぐやちゃんっ! 大丈夫!? 怪我とかしてないっ!?」

「うぇ〜んっ! ふ、2人ともぉ、ぶ、無事で良がった〜っ!!」

 

 制限時間ギリギリでの帰還となったからか、芦花と真実の目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。

 

 月の世界では8分しか経過していないが、こちらの世界では8時間ほどの時間が流れていたのだ。こうなるのも無理はない。

 兄である帝も例外ではなく、嬉しそうな表情で涙を流していた。

 

 ようやく意識が落ち着いてきた彩葉とかぐやだったが、すぐに穴へと視線を向け、大声でまだ全てが解決していないことを叫んだ。

 

「天野がっ! まだ向こうの世界にいるのっ!!」

「し、真司がねっ! かぐや達を助けて……!!」

 

 2人の言葉に、祝勝ムードだった全員の表情が曇った。

 どうせ彩葉とかぐやを優先して穴に飛び込ませたんだろう。後からすぐに追いついて来るんだろう。そんな芦花達の考えを吹き飛ばしながら、彩葉は再び穴へと駆け出した。

 

「──ダメだよ。彩葉」

「ヤチヨッ! だってまだ天野がっ!!」

 

 穴へ近付こうとした彩葉をヤチヨが止める。

 その手には、真司によって投擲された『天叢雲剣』が抱えられていた。

 

「もう間に合わない。この穴は──()()()()()()()()()』」

「そ、そんな……!」

 

 ヤチヨの言葉通り、七色に光る穴がなんの前触れもなく消滅する。

 初めから何もなかったかのような、静寂だけを残して。

 

「あっ……天野……!」

「嘘、でしょ? ねぇ、嘘だよね? 真司が、帰って来られないわけ、ないよね?」

 

 膝から崩れ落ちた彩葉と、籠から出て呆然と空を見上げたかぐや。

 どちらも現実を受け入れられずに、思考を放棄したいという思いに支配されていた。

 

「……天野くん。……約束、したじゃん」

「……天野っち。なんでぇ……!」

 

 両手で顔を覆いながら泣き始めた芦花と、立ち尽くすかぐやに抱きついて目を背ける真実。

 

「クソッ!! ムラクモの野郎ッ! ……勝ち逃げとか、してんじゃねぇよ」

 

 帝は苛立ちを隠せないかのように地面を踏みつけ、手で髪を掻きむしる。

 そんなリーダーの荒れる様子に、雷と乃依は静かに目を閉じた。

 

「ヤ、ヤチヨ……! 天野を、天野を助けて……! もう一度、穴を開けて? 私達が、助けに行かなきゃ!」

 

 絞り出すかのような彩葉からの要求に対して、ヤチヨは厳しい顔で首を横に振った。

 明確な、否定の意思表示だった。

 

「な、なんで……! まだ天野は戦ってるっ! こっちでの時間が月の世界より早いなら、まだ間に合うっ! そうでしょっ!?」

「違うよ、彩葉。もっと根本的な問題。月の世界へ続く穴を開けるためには、()()()()()()()()()()()()()。連続で開けることは……出来ない」

 

 それは彩葉も重々承知していた事実。わざわざヤチヨに言われずとも分かっていたはずのことだ。

 それでも、言わずにはいられなかった。助けに行かなければと、叫ばずにはいられなかったのだ。

 

「じゃ、じゃあ……天野を助けることは……」

「残念だけど……出来ない」

「──ッ!」

 

 ヤチヨによる絶望の介錯で、彩葉の心が折れる。

 気合いと根性でどうにかなる状況ではない。圧倒的に離れた物理的な『距離』というどうしようもない無理難題の前に、自分達が出来ることは何一つなかった。

 

「い、彩葉ぁ……ごめんねっ。か、かぐやのせいで、真司が……!」

「……泣かないでよ、かぐや。私達、かぐやを取り返すために頑張ったんだから。天野だって、泣かないでって……言うはずだから」

「ひっ、ひっく、だ、だってぇ、彩葉ぁ……嫌だよぉ。真司に、会いたいよぉ……!」

「……かぐや。……私も、天野に会いたい」

 

 抱き合った瞬間、2人の我慢は決壊する。

 子供のように大声を上げて、彩葉とかぐやは泣いた。

 

 どれだけ涙を流しても、どれだけ己の無力を嘆いても、自分達が求めている少年が帰って来ることはない。

 頭では分かっていても、涙が止まらなかった。

 

 

 

「…………あのぉ」

 

 

 

 もしかすると、この傷が癒える事はないかもしれない。

 それでも、自分達は立ち止まるわけにはいかない。

 

 

 

「…………マジか、全然気付いてくれねぇ」

 

 

 

 天野真司が残してくれた思いを胸に──前に進んで行くのだから。

 

 

 

「ところで……()()()()()? ()()。早く彩葉達に声を掛けなよ」

 

 

 ふと、ヤチヨがそんな言葉を落とした。

 

 大声でなくてもよく通るその声は彩葉達の耳にも届き、一瞬思考を停止させる。聞き間違いではない、ヤチヨは確かに『真司』と口にした。

 自分達が失ってしまったと嘆いてる最中である、少年の名前を。

 

 流れ出る涙をそのままに彩葉とかぐやがヤチヨの方へ顔を向けると──その隣には1人の少年が気不味そうに立っていた。

 

 

「……えーっと、ただいま?」

 

 

 首を傾げながらそう呟いた真司に、彩葉とかぐやが目を丸くする。

 いるはずがない、帰って来られるはずがない。しかし、目の前にいる。矛盾した事実を見せられて、2人の脳は完全に処理落ち状態となってしまった。

 

「──いや、あのさっ! 色々あってさ! 月人の奴らが力を貸してくれて、俺をこっちの世界に送ってくれたんだ。ご丁寧に転送する時間まで合わせてくれてさぁっ。相変わらず言葉とかは分かんなかったけど、良い奴らだったよ。……なんて、はい、そんな感じです」

「だってさ。ヤッチョが保証するよ。真司はちゃんと、無事に帰って来たってね☆」

「「…………」」

 

 言葉が出て来なかった。

 何を言えば良いのか、分からなかった。

 

 それでも──。

 

「あ、天野……天野っ!!」

「うわぁぁぁんっ! 真司ぃぃいっ!!」

「ぐおっ!」

 

 数多の攻撃を捌いてきた真司にとって、唯一避けられないタックルが繰り出された。

 自分の帰還に涙を流して喜んでくれている友達からのタックルなのだ。避けられるはずがなかった。

 

「天野っ! 天野っ! 無事で……良かったぁっ!」

「バカっ! 真司のバカっ! うわぁぁああんっ!!」

 

 彩葉とかぐやによって地面に押し倒された真司。

 親友達との再会に頬を緩ませるが、一つだけ問題があった。

 

「か、かぐやちゃん。今の俺、結構HPが危ないから……あんま叩かれると削られて……死ぬっ! 死んじゃうっ! あ、綾紬っ! た、助け──」

「天野くんっ……天野くんっ。……私、やっぱりバカだなぁ。……天野くんがいなくなってから、ようやく気付くなんてさ」

「いやっ! いるからっ! 帰って来てるからっ!」

 

 助けを求められた綾紬だったが、未だに真司の帰還には気付いていなかった。であるならばと真美に手を伸ばしたが、彼女は普段見せないような冷たい目でしゃがみながらこう告げた。

 

「……心配かけた罰だよ。天野っち」

 

 まさかの、救助拒否。

 優しい彼女に断られたことがショックだったのか、真司は口を開けたまま絶望した。このままでは本当にかぐやによって叩き殺されることになると。

 

「良いご身分じゃねぇか、ムラクモ。美少女2人に抱き付かれてよぉ。ニヤけてんじゃねぇぞコラ」

「あっ、てめっ帝っ! 足を蹴ってくんなっ! ちょっ、マジでヤバいんだって! 雷! 乃依! 見てないで俺に協力してくれっ!」

 

 見守っていた2人に叫ぶ真司だったが、今回ばかりは2人も帝の味方だった。顔を見合わせてから頷くと、兄弟揃って帝が蹴っている足とは反対の足を蹴り始めた。

 

「誰が俺を蹴るのに協力しろって言ったんだよっ!? てか乃依! (すね)を蹴るんじゃねぇよっ! なんかダメージが大きい気がするだろうが!」

「すまんな。リーダーは絶対だ」

「抵抗出来ない状態で蹴られるってどんな気分? 教えてよ、個人(ソロ)最強のムラクモ様♡」

「お、お前ら……!!」

 

 動きを彩葉とかぐやの2人によって封じられ、芦花と真実による救助もなし。

 それに加えて両足をトップライバーである『ブラックオニキス』のメンバー全員から蹴られるというカオス。

 

 真司は最後の希望である最推し──ヤチヨに助けを求めた。

 

「ヤ、ヤチヨ……助けて」

「うんうん、真司は大変だね〜」

「いや、そんな呑気に言ってないで……マジで死ぬ寸前なんだけど?」

「そっかそっか、じゃあ、HPが0になる前にヤッチョも言いたいことを言わせてもらうね?」

「あの、出来るならHPが0にならないようにして欲しいんだけど……」

 

 ヤチヨが真司の顔を覗き込むようにして体勢を低くすると、真司の頬に両手を当てて輝くような笑みを浮かべた。

 

 

「──助けてくれて……ありがとうっ!」

 

 

 真司の目に映った笑顔。それは『月見(るなみ)ヤチヨ』のものでもなければ、かぐやのものとも違った。

 ただ、1人の女の子としての、純粋な感謝だった。

 

 

「…………ど、どういたし──あっ」

 

 

 感謝への礼儀を返す前に、ピーッという電子音が真司の頭に響く。

 涙と鼻水にまみれたかぐやの頭突きによって、真司のHPが0となったのだ。

 

 輪廻を断ち切った英雄は、英雄に相応しくない間の抜けた声を上げて──復帰(リスポーン)することとなった。

 

 

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