親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
月の世界に殴り込み、かぐやちゃんを取り戻してから一夜明けた。
勝利の祝いをするために寝ずに酒寄達の家でパーティーしていたので、朝日がとても眩しい。
疲労感からか、コンビニまでの道のりがやけに遠く感じられた。水と軽い朝飯でも買いに行くつもりだったが、中々に辛い。
「……あーっ、頭痛い」
帝達はもう帰ってしまったし、綾紬と諫山は仲良くソファーで寝てしまっている。幸せそうに寝ていたので起こすなんてとても出来なかった。
しかし、俺は1人で歩いているわけではない。
俺の隣には肩を並べて歩いてくれている女子がいる。一番の親友である──酒寄彩葉だ。
「あははっ、はしゃぎすぎだよ。天野」
そう言って笑う酒寄はあまり疲れてはいないようだった。
夜通し騒いだのは同じはずなのに、俺との違いはなんだ? これがスパダリの耐久力というものなのか? 生物としての格の違いを見せつけられた気がした。
「ボードゲームした時なんてかぐやと一緒になって大負けしてさ。フルダイブ型以外のゲームだと、天野って弱いよね」
「う、うるさいな。あんなの運だろ」
確かに、フルダイブ型以外のゲームだと酒寄に一回も勝ったことないんだよな。トランプでも、すごろくでも。
「そうだ。かぐやちゃんは?」
「流石に寝ちゃったみたい。さっきから静かだもん」
酒寄はスマホの画面に指を滑らせながら、優しい表情を浮かべた。
月から取り戻したかぐやちゃんは現実世界での身体を失っており、ヤチヨと同じデータ上での存在になってしまっていた。
今はヤチヨによって用意された特製のアプリ、それをダウンロードした酒寄のスマホにかぐやちゃんは入っている。実体がないのは寂しいが、これでまた一緒にいられるというわけだ。
「……楽しかったね。パーティー」
「そうだな。特に帝が泣き上戸だったのが一番笑えた」
「天野、めっちゃ楽しそうにお兄ちゃんの動画撮ってたもんね」
「まあな。すぐに乃依が買い取りたいって言ってきたから、今度また飯奢ってもらう約束して渡したよ」
前から疑ってはいたが、乃依が帝に向けている感情って重くないか? 野暮だから本人に確かめたりはしないが、あれはどちらかと言うと友情ってよりも愛情──。
「ねぇ、天野」
「ん? どうした?」
悪友の恋愛事情について思考していると、酒寄から声がかけられた。
どこか言い出しにくいことを言う時の声に、少し似ていた。
「あ、あのさ……その……あ、天野の進路ってさ! ……どうするの?」
「へっ? 進路? ……進路かぁ」
いきなり飛んできた現実的な話題。
恥ずかしい話だが、まともに考えた事はまだなかった。
「そうだなぁ。前までの俺ならプロゲーマーとして食って行く道を選んだだろうから、多分就職だったんだよ。でも今はなぁ……」
「そ、そうだよね……変なこと聞いて、ごめん」
「ああっ! 違う違う! 酒寄が謝ることなんて何もないんだって! ──コ、コンビニ着いたしさ! この話は買い物済ませてからにしようか」
「う、うん」
酒寄の顔が沈みかけたので、無理に話題を切り替える。
以前より気にしなくなったとは言え、傷が消えたわけじゃない。マジでミスったな。余計なこと言った。
お詫びの気持ちを込めて、酒寄の分も俺のカゴに入れて会計を済ませる。買い物に付き合ってくれた礼と言えば、酒寄も大人しく奢られてくれた。
朝は少しばかり冷え込むので、暖かいお茶をコンビニの前で開ける。喉を流れていくお茶に身体の中から温められ、一気に体温が上がった気がした。
まだ朝の6時だからか駐車場に車はなく、店内にいた客も俺達だけだった。
都会にしては珍しく、静かな時間が存在するコンビニとなっていた。
「……はぁ、あったかい」
「酒寄はココア買ったんだな。美味い?」
「うん、甘くて美味しい」
コンビニにいる酒寄を見ると、エナジードリンクを飲みまくっていた頃を思い出すな。少ない睡眠時間からくる眠気に打ち勝つため、カフェインに頼りまくっていたからだ。
今はかぐやちゃんにお叱りを受けたからかバイトもそんなに入れていないみたいだし、昔みたいな身体に悪いことも控えてくれている。このまま健康的な生活を送って欲しいところだ。
「それで、進路のことだったよな?」
「あっ……うん」
落ち着いたところで話題を戻してみる。
進路、進路か。さっきは口を滑らせたが、プロゲーマーになろうと思っていたのは事実だ。それがなくなったとなると、やはり。
「……進学、だろうなぁ。幸いなことに、学校では酒寄に次いで成績も良いことだしな。今から猛勉強すれば、結構良い大学も射程圏内だろ」
「や、やっぱりプロゲーマーは……もうやらないの?」
申し訳なさそうな顔で訊ねてくる酒寄。
俺からすればそんな顔をさせること自体が申し訳ないのだが、その道はすでに絶っている。
「やらないよ。前の事務所を無理言って辞めさせてもらったからな。それで他の事務所に所属したんじゃ……なんか恩知らずって感じがしてさ」
「……天野」
一応、他の事務所から誘われてはいる。それも10や20どころではない数の事務所から。
やはり月人達との戦いで派手に暴れすぎたのが原因だろう。断る方も辛いので、そっとしておいて欲しいところだ。
「で、でもさ……私のせいでその、貯金もほとんど使っちゃったみたいだし……いや、お金のためにプロゲーマーやったらどうかって言ってるわけじゃないんだけど!」
「ああ、大丈夫大丈夫。確かに貯金は吹き飛んだけど、またじわじわと貯まりつつあるから。なんかここ1ヶ月でファンの数が80倍ぐらいに跳ね上がってさ。『ふじゅ〜』の収益も凄いことになってるんだよ」
「えっ、そうなの……?」
恐らく、これも月人達との戦いで派手に暴れすぎた影響だろう。
2万人しかいなかったファン数が今じゃ160万人を超えているのだ。『SETSUNA』の連勝配信とかやるだけでも結構な反響があり、懐はとても暖かい。
「だから酒寄が気にする必要はないってことだ。──それに、そもそも俺には向いてなかったんだよ。ゲームはやっぱり、自由にやる方が楽しいしな。だから酒寄、今後はチーム組んで大会に出たりしようぜ。もちろん、かぐやちゃんも一緒にな」
「……なにそれ、めっちゃ楽しそうじゃん」
「だろ?」
酒寄がようやく笑顔を見せてくれたことに安堵しつつ、会話を続けていく。
「でもさ、酒寄も進路は進学……それも『東大』の法学部だろ? やっぱり凄いよな、酒寄は」
いくら俺の成績が良いと言っても、酒寄に比べれば劣る。大学は別々になるだろうし、残された高校生活は必ず有意義なものにしなければならない。
進路の話を考えて、改めてそう思った。
「わ、私は別に凄くないよ。……それに、学部は変えようと思ってるし」
「マジ? 法学部以外にするのか? へぇ、どこにするんだ?」
「…………工学部」
少しだけ言い淀んだ後に、酒寄はそう呟いた。
「へぇ、工学部か。それはまた……ん?」
工学部と言えばゴリゴリの理系だ。
待てよ? 酒寄が元々志望していた法学部って文系だから……この時期に東大を目指したまま理転するってことか? マジで?
「お、思い切ったな。酒寄」
「やっ、やっぱりそう思う?」
「別に無謀だとは思わないけどな、酒寄ならきっと何とかするだろうし。……何かやりたいことでも出来たのか?」
俺の問いかけに、酒寄はこくりと頷いた。
手に持っているココアの缶を掌で転がしながら、どこか恥ずかしそうに口を開いた。
「……か、かぐやに……身体を、作ってあげたくて」
「かぐやちゃんの身体を……?」
確かに今のかぐやちゃんには身体がない。
ヤチヨと同じ電子生命体として、魂だけがネットワークの中に存在している状態だ。そのかぐやちゃんに身体を作ってあげたいとなると──。
「……なるほど。ロボットの身体を作りたいってことか。だから理転してまで工学部を目指すんだな?」
「う、うん。まあ、そういうこと」
「……ぷっ」
「ああっ! いま笑ったでしょっ!?」
「ごめんごめんっ。バカにしたわけじゃないんだ」
本当に、バカにしたつもりで笑ったんじゃない。
親友のスパダリの凄さを再確認させられたからだ。
「愛されてるな、かぐやちゃん。──酒寄なら絶対出来るよ。俺もまた、現実世界でかぐやちゃんに会いたいしさ」
「……そうだよね。天野も、そう思うよね?」
「当たり前だろ? まだまだ色んなところ行きたいよな。免許とか取ったら、旅行とかも行きたい。綾紬と諫山も誘ってさ。……あっ、酒寄の案内で京都旅行とかどうだ? 楽しそうじゃないか?」
「う、うん。それはもちろん良いんだけどさ。──ねぇ、天野。……あのさ、一つだけ、お願いが……あるんだけど」
楽しい未来を想像していると、酒寄がチラチラと横目でこちらを見ながらそんなことを言い出した。
人を頼ろうとしなかった酒寄からすんなり『お願い』なんて言葉が出るようになるなんて、親友としては嬉しい限りだ。もちろん、断るなんて選択肢はない。俺は親友のためなら自分に出来ることを可能な限りやれる男。どんなお願いをされようと、二つ返事で受けてみせる。
そう意気込んで待ち構えた俺だったが、酒寄の口から飛び出してきたのは──ある意味でタワマンを一括購入するよりも難しいお願いだった。
「あ、天野も……
少し怯えたようにそう告げてきた酒寄に、俺はお茶を落としそうになるぐらいの衝撃を受けた。
「え、えーっと……話の流れ的に、かぐやちゃんの身体を作る手伝いをって意味か?」
「そ、そういう意味です。……出来れば、私と一緒に東大の工学部を目指して欲しいんだけど」
「ごほぉっ! ごほっ、ごほっ!」
乾き始めた口を潤そうとお茶に口を付けたが、タイミングが悪かったようだ。
まさか連続でとんでもないお願いが飛び出してくるとは思わなかった。
「それは……いやぁ、キツくないか? 流石に」
「で、でもさっ! 天野って理系じゃん? むしろ私より合格には近いって言うか、私の方が勉強を教えてもらいたいって言うか……」
「いや、それはそうだけどさ。これってそういう次元の話か?」
確かに俺は酒寄と違って元々理系だ。それは事実だ。
でもだからって東大の工学部に合格してくれってのはおかしいだろ。いやまあ、超高性能なロボットを作りたいって話なら、日本で一番の工学部を出た方が良いってのは分かるけどさ。
「……無茶、言ってるよね。なんか私、最近弱くなってるみたいでさ。あははっ、かぐやの影響かな? ……ごめん。今言ったことは忘れ──」
「──弱くなってない」
「あ、天野……?」
危ない。何をやってるんだ俺は。
酒寄が自発的に頼ってきてくれてるんだぞ? それがどんな内容であったとしても、酒寄に頼ったことを後悔させるような態度は取るなよ。
俺はずっと、酒寄に頼って欲しかったんだから。
「……正直、結構キツい。酒寄の期待通りにはならないかもしれない……それでも、やれるだけのことはやりたい」
「それって……」
そうだ、やる前から何を弱気になってんだ。
将来やりたい事なんて特にない俺に、こんな素敵な夢への誘いが来たんだ。乗らない手はない。
「俺も……酒寄と同じだ。またかぐやちゃんと現実の世界で会いたい。そのために出来ることなら、何だってやるさ。俺も──東大受けるよ」
「……ッ! ……うん。ありがと、ありがとね……天野」
緊張から解放されたように笑う酒寄を見て、少しだけ悪戯心が芽生えた。
以前、俺が酒寄の部屋に不法侵入した夜の帰り、寝落ち通話を提案して恋人同士でやるもんだろと揶揄われた時のことを思い出したのだ。
やり返すなら、今しかない。
「でもあれだな? 同じ大学に来て欲しいなんて……恋人が言う台詞なんじゃないか?」
「なっ!」
「かぐやちゃんとヤチヨに言おうかな、酒寄に口説かれたって」
「そ、それは……!!」
「2人との仲を深める前なんだから、浮気は良くないだろ」
「う、浮気……!?」
どんどん赤くなっていく酒寄の顔が面白くて、口角が上がってしまう。
俺に揶揄われていると分かったのか、酒寄はコンビニ前に置いてあるゴミ箱にココアの缶を捨ててから、耳まで赤く染めながら強気に口を開いた。
「だっ、大体、天野だって芦花と進展してないじゃんっ!」
反撃のつもりだろうが、甘いな酒寄。
俺はもう、以前の俺じゃない。
「残念だったな。──今度、2人で水族館に行く約束をした」
「ええっ!? い、いつ!? いつしたのっ!?」
おお、良いリアクションだ。中々見ないぐらいに驚いてくれた。
「昨日の夜、みんなで順番に風呂済ませたじゃん? 男は俺の部屋で、綾紬達は酒寄の部屋で。その時になんかちょうど2人きりになったんだよ。それで水族館行きたいって話になって……なんかこう、流れで? ……てか、なんで約束出来たんだ? 運が良すぎて怖いんだけど」
「分かってないんじゃん……まあ、約束出来て良かったね。もう攻略本が欲しいとか言わなそうで安心した」
息子の成長を喜ぶ母親のような顔をされてしまった。
いやいや、恋愛経験がないのはお互い様だろ。そこだけが酒寄と競えてるって唯一自信を持って言えるところなんだからな。……なんか虚しいな、この自信。俺の胸だけに留めておこう。
「──と、とにかくっ! 話はそれだけっ! 詳しいことはまた今度相談するからっ! ……じゃ、じゃあ私、先に戻るからねっ」
「ああ、分かった。朝飯持って行ってやってくれ。綾紬はともかく、諫山が空腹で起きてる頃かもしれないしな」
「あははっ、そうかも。天野も、早く戻って来てね」
「おう。了解」
レジ袋を揺らしながら走り去って行く酒寄の背中を見送りながら、残っているお茶を飲み干した。
ほっと一息ついてからペットボトルをゴミ箱に捨て、俺はスマホを取り出して電話をかける。連絡相手は現在、夫婦で九州旅行を満喫しているであろう実の母だ。
こんな時間帯に電話をかけるのもどうかと思ったが、至急話しておかなければならないことが出来たのだから仕方ない。
夫婦共に朝が早いため、繋がらないという心配は微塵もしていなかった。案の定、何度かコールした後に通話が開始される。
『──もしもし? どうしたの? あんたから電話なんて珍しいじゃない。お土産に買って来て欲しいものでもあった?』
「いや違うから、そんな要件で朝から電話かけないよ」
『なによぉ、あんたへのお土産考えるの大変なんだからね? お父さんなんて悩みすぎて、結局ルーレットで決めたんだから。それで気に入ったやつじゃない物が当たったけど、ルーレットの結果だからって受け入れて少しがっかりしてたわ』
「じゃあルーレットで決めるなよ……」
朝からよく喋るなぁと、我が母親ながら感心させられる。
このお喋りが俺に遺伝してくれていれば、もう少しコミュ力も付いたのだろうか。いや、そんなこともないな。
「って、用件はそうじゃない。進路のことをさ、話しておこうかと思って」
『……ふーん。あんたが、進路をねぇ?』
「な、なんだよ」
『別に〜、分かった。言ってみな』
どこか含みのある言い方なのは気になるが、いちいち反応していては話が進まない。
俺は意を決して1000km近く離れた場所にいる母親へ言葉を飛ばした。
「……大学に、行こうと思ってさ」
『どこの?』
「…………と、東大」
『学部は?』
「こ、工学部……だけど」
『ふーん、良いじゃん。頑張りなよ』
いや、軽くない?
自分でも結構ぶっ飛んだこと言ってる自覚はあったんだけど、何だこの母親。筋トレ始めようとしてる息子に対しての声かけと同じテンションじゃん。
『──それで? まさかその報告だけってわけじゃないんでしょ?』
その上で本質を見抜いてくるからタチが悪い。
昔から察しの良い母親だった。俺がなにを言いたいのかも既に理解しているんだろう。2人ともが大学教授として働いているうちの両親だが、文系である父親と違って母親は理系だ。やりづらいのは母親の方だが、話が早いのも母親の方だ。
「……あのさ、勉強……教えて欲しいんだけど」
『えっ? なんて?』
「ぐっ……だからっ! ……その、俺に、勉強を教えて……ください」
『おお、逃げなかった。今回は本気みたいね?』
相変わらず、意地が悪い。
普段は放任主義で甘いくせに、こと勉学に関してはどこまでも厳しい。でも、だからこそ頼り甲斐はある。母親以上に成績を伸ばすのが上手い人間を、俺は他に知らないぐらいだ。
「や、やりたいことが……出来たんだ」
『やりたいことって?』
「て、手伝ってやりたい夢が……じゃなくて、一緒に叶えたい夢が出来た。そのために、知識を付ける必要がある。だから……お願いします」
素直に頼んではみたものの、了承してもらえる保証はどこにもない。
それでも、高校2年の後半から東大を目指すのであれば、生半可な覚悟では記念受験になるだけだ。酒寄と同じ立場で同じ夢を追うためには、鬼にでも悪魔にでも頼るしかない。
数秒間の沈黙が流れ、やはり駄目かと悟ったその瞬間。
『──いいわよ』
普通に、受け入れられた。
「……えっ? いいの? 本当に? 嘘じゃない?」
『いや、疑いすぎでしょ。別にいいわよ。息子がやる気みたいだし、母親らしいことなんて今までしてあげられなかったしね』
「で、でも……仕事とか忙しいだろうし、その、旅行とかも今までみたいに行けなくなるだろうし」
『はぁっ? 旅行なんて行ってる暇ないわよ! あんた、東大舐めてんの? あたしが面倒見るからには、あんたにある選択肢は合格するか浪人するかの2択だけ。──覚悟決めな』
「は、はい……」
スマホを挟んで会話している相手は九州だというのに、思わず背筋を正してしまった。
久しぶりに受ける母親からの圧力が、やけに重く感じた。
「あっ、それと父さんには別に言わなくて良いから。多分、余計な心配を──」
『ごめん。実はお父さん、隣で話聞いてたのよ。慌てて帰る準備してる。嬉しそうな顔してね』
「……そ、そう」
『今日の夜には帰るから、詳しい話はそれからね。じゃっ、切るわ』
「ああ、その……ありがと。母さん」
どこか照れ臭かったが、ちゃんと礼は言えた。
俺も、覚悟を決めなければ。
『……ねぇ、あんたさ。──好きな女の子と進展でもあった?』
「はぁっ!? な、なにを急に……意味分からん。好きな……とか、いないわ」
『いや良いわ、あたしは意味分かったから。そうかそうか、息子にもようやく春が来たってわけね』
「ちっ、違う! 東大を目指すのはそんな理由じゃない! それはまた別の理由って言うか……」
『ほぉ、好きな女の子と進展があったのは否定しないんだ? ──あんた、なんか明るくなったもんね』
「…………」
やはり、この人には敵わない。
これ以上話していたら更に墓穴を掘りそうだ。傷が浅い内に撤退しよう。
「じゃ、じゃあ気を付けて帰ってね。また夜に」
『はいはーい。お父さんっ! 真司が好きな女の子と良い感じに──』
ピッ、と指が自分でも驚くぐらい早く通話終了ボタンを押してくれた。
一気に押し寄せて来た疲れに肩を落としながら、酒寄達のところへ戻るために歩き出す。
「…………」
『あ、天野も……
「…………へへっ」
将来やりたいことが出来たからか、親友に頼ってもらえたからなのか、綾紬との距離が縮まったからなのか。
自分でも理由は分からない。
それでも──。
──最高に、気分が良かった。
次回、最終話です!