親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
──高校卒業から、8年後。
2038年7月5日。
今日はかぐやちゃんの8回目の誕生日であり、かぐやちゃんとヤチヨのアバターボディ完成を祝う記念すべき日でもあった。
8年も待たせてごめんと2人に謝ったら、かぐやちゃんからは「信じてたから秒だった」と言われ、ヤチヨからは「8000年に比べれば8年なんて一瞬だよ〜」と一刀両断された。本当に、頑張って良かったと思う。
そしてこんなめでたい日に仕事なんてしていられないと、俺はどうにかして時間を確保した酒寄達と予定を合わせ、何年かぶりに海へ遊びに来ていた。
気心知れた友人達と遊びに出かけられるというだけでテンションが上がってしまう。
青い空、白い雲。夏の日差しを反射して輝く白い砂浜。
プライベートビーチを借りているので俺達以外の人間はおらず、自由に伸び伸びと遊ぶことが出来る最高に開放的な空間だ。そして贅沢なのはそれだけではない。
せっかくビーチに来たのだからバーベキューをしたいというかぐやちゃんとヤチヨからの意見を採用し、俺は今トングを片手に炭火で肉を焼いていた。
まだ食事をする機能と味覚再現プログラムが完成していないので2人からすれば生殺しなのだが、それでも良いからやりたいと強く懇願されてしまったのだ。
食欲を刺激する肉の香りが空腹を加速させ、心の幸福度がどんどん満たされていくのを感じた。
俺達が肉を食ってかぐやちゃんとヤチヨが喜ぶのであれば、いくらでも焼いて食おうと思う。
──ああ、平和だ。
かぐやちゃんとヤチヨ。そして芦花と諫山の4人が海ではしゃいでいる姿を見ながら肉を焼く。
実に平和である。こんな風にのんびりするのは本当に久しぶりだ。アバターボディの完成が近付くにつれて無意識に残業が増えてしまったし、今日は頑張ってくれた身体を思いっきり休めたいと思う。彼女達の楽しそうな笑い声が聞こえてくるたびに、頬が緩んだ。
日頃の疲れは夏の空気に溶けていき、目の前に広がる大海原を見ていると悩みの一つも浮かんではこない。
──わけでも、なかった。
「夫婦になる難易度ってバグってないか? どんなプロポーズをすればいいか……まず、分からないだろ? 何でみんな平然とそれを乗り越えて結婚してるのかマジで分からん。攻略本でも売ってんのか?」
「本屋に売ってるじゃん。芦花を喜ばせるためなんだから、そこは頑張りなよ。──なんか、高校生ぐらいの時に似たような会話した記憶があるんだけど? ふふっ、天野って成長してないね」
可愛らしい笑顔で毒を吐いてきたこの女──酒寄彩葉。
ライムグリーンの水着の上からラッシュガードを着て、頭にはサングラスを乗せている俺の親友にして同じ研究室で働く上司だ。
出会ったのが高校1年の頃なので、彼女とはもう10年の付き合いになる。住んでいる家が隣同士なことに加えて同じ大学を出ているため、必然的に一緒にいる時間が長くなった。そのせいで酒寄との仲に嫉妬する人間から疎まれることもあるが、もう慣れたものだ。
しかし、疎まれる気持ちも理解出来る。健康的な睡眠時間と食生活の改善により目の下を定位置としていた隈は解消され、元々美人だった顔にここ数年で更に磨きがかかったのだ。近くに異性がいたら妬ましく思ってもおかしくはない。
酒寄は高校の頃からモテていたが、社会人になってからは少し引くぐらいにモテまくっている。それも、
告白されないためにという理由で婚約指輪を付けるような女だ、面構えが違う。
「いやいや、成長してるだろ。こう……
「内面の話してなかったっけ? ほら、そこの肉が焦げそうだよ」
「内面だって……成長してるだろ。……多分」
子供の頃に思い描いていた大人とは、もっとしっかりした存在ではなかったか?
理想と現実のギャップを改めて思い知らされ、大人になることの難しさを痛感した。
「……中身は高校の頃から成長してないのかもな。卒業してから8年も経ってるってのにさ」
「私は嬉しいけどなぁ。天野が変わらずにいてくれて」
「出たよ口説き文句。悪いけどもう耐性ついたから、簡単に照れると思うなよ?」
肉を裏返しながら自信満々に断言する。
かぐやちゃんとヤチヨから良くない影響を受けたようで、酒寄はたまに恥ずかしいことを言うようになった。俺が照れるのを面白がって揶揄ってくるのだ。
しかし、まだ揶揄う対象が俺で良かった。
俺以外の男性か女性がこの酒寄を前にすれば、抵抗する間もなく堕とされてしまうだろう。それぐらい大人になった酒寄は顔が良くて頭が良くて気品があって──くそっ、何一つ勝てねぇ。俺は弱い。
「あははっ、本音なんだけどなぁ。……天野がいてくれたから、こんなに早くかぐやとヤチヨに身体を作ってあげられたんだよ?」
「……いや、酒寄なら1人でも完成させてたと思うけどな。同じぐらいの時間でさ」
「それはないね。──上司命令! 素直に褒められることっ!」
俺の髪をわしゃわしゃと撫で回しながら楽しそうに笑う酒寄。
本当、良い笑顔をするようになった。かぐやちゃんを本当の意味で人間にするという夢への第一歩が踏み出せたことで、肩の荷が降りたような気分なんだろうな。
「なんだよ? 楽しそうじゃん。おっ、美味そっ! 肉もらいっ!」
俺が酒寄に撫でられている隙を突き、背後から俺が育てていた肉を奪い取った黒髪のイケメン。
──名を、酒寄朝日。
酒寄の兄にして10年近くトップを走り続けている超人気ライバー、『ブラックオニキス』のリーダーを務める帝アキラの本体だ。
アバターでも現実でもイケメンというムカつく男である。
「おいっ、その肉は俺のだぞっ」
「ケチ臭いこと言うなって。俺のお陰でこのプライベートビーチを使えてるんだからよ」
発言はムカつくが内容は正しい。
妹の頼みなら財布の紐ゆるゆるお兄ちゃんだからな、コイツ。かぐやちゃんとヤチヨのアバターボディ作成の際にも多額の出資をしてくれた。そういうところだけは尊敬している。そういうところだけは。
「成金め。自分で言うから小物なんだよ。小物アキラ」
「帝アキラな?」
「そうだよ天野。
「お、お兄ちゃんだろ? 彩葉」
酒寄から刺されるとは思っていなかったのか、ダメージを受けたようだ。
油断していたところを身内にやられたとあっては、流石の黒鬼でも痛いらしい。
「ちょっと〜? あんま朝日を虐めないでよ〜? 拗ねた時が面倒なんだからさ〜」
次に近付いて来たのは駒沢乃依。
アバターは女装だが、現実では普通に男として振る舞っている。ちなみに兄である雷は今回欠席だ。趣味である世界旅行に行ってしまったらしい。
欠席理由は『独り身』なので肩身が狭いとのこと。
確かに、今回集まっているメンバーで恋人がおらず結婚もしていないのは雷だけだ。酒寄には言うまでもなくかぐやちゃんとヤチヨがいるし、諫山は高校から付き合っていた彼氏と結婚して二児の母親だし、芦花には……俺がいる。
そして
何となく察していたし、左手に光る結婚指輪を見せられた時もおめでとうという感想しか出てこなかった。むしろ納得した部分が大きいぐらいだ。今思えば、お互いに矢印が向いていそうな態度をしていたような気がする。
「なんだよ、嫁に助けてもらうのか?」
「ハッ、悪いかよ?
「おまっ、それは、今は……全然、関係ないだろっ!!」
「効きすぎだろ。なんかすまん」
謝るなよ。余計に深く刺さるわ。
「彩葉ちゃん。俺にも肉ちょうだ〜い。カルビが良いなぁ」
「はいはい。野菜も食べないとダメだよ? 乃依くん。とうもろこしあげる」
「いいねっ。とうもろこしは好き〜♡」
酒寄と乃依が楽しそうに笑い合っている。
2人とも実質家族なので、無駄な力が入っていない自然体の空気だ。そんな様子を見ていると、海にまで来て言い合いしているのが馬鹿らしく思えてしまった。
「……朝日。こっちの肉も焼けてるぞ」
「お、おう。悪いな。クーラーボックスから追加の肉出すわ。美味い肉買って来てやったからよっ。──そうだ。そろそろかぐやちゃん達も呼ぶか」
そう言うと朝日は海で遊んでいた4人に手を振りながら大声で呼びかけた。
真っ先に動いたのは諫山。流石はグルメインフルエンサーと言うべきか、双子の母となってもその食欲が衰えることはなく、今日はバーベキューに本気を出すのだと行きの車の中で張り切っていたのを思い出した。
諫山に続いてかぐやちゃん、ヤチヨ、芦花が海から上がって来る。
本物の海で遊べるのがよっぽど嬉しいようで、かぐやちゃんとヤチヨは興奮冷めやらぬといった様子だ。
かぐやちゃんがオレンジの水着姿なのに対して、ヤチヨは白の水着姿だ。太陽と月を思わせるコンビは仲良く揃ってバーベキューコンロまで駆け出した。
そんな2人に振り回されたからか、芦花は少し疲れた笑顔を浮かべている。抜群のスタイルは高校の頃から更に成長し、黒のビキニという露出度が多めの水着というのも相まって少々目のやり場に困ってしまう。大人気インフルエンサーとしてブランドのアンバサダーを任されるのも納得の美貌だ。最近では街中の広告に芦花の顔が映し出されており、高校生を中心とした若者達から羨望の眼差しを向けられているらしい。
「芦花。はい、お茶。冷えてるからゆっくり飲めよ?」
「あ、ありがとう。真司くん。……はぁ、冷たくておいしっ」
芦花は手渡した麦茶のペットボトルに喜んで口を付けると、満足そうな声を溢した。
可愛い。くっそ可愛い。これが俺の彼女ってマジか。付き合い始めてもう7年ぐらい経つけど未だにこの可愛さに慣れないし飽きない。結婚したい。一生幸せにしたい。この思いがそのままスルッと口から出ていってくれたならどれだけ楽か。
「な、なに……?」
「いや、俺の彼女は可愛いなって」
「……はいはい、変なこと言ってないで……お肉食べよ?」
やはり、俺に酒寄のような真似は無理らしい。
だがしかし、耳が少しだけ赤くなっていることを見逃す俺ではない。やっぱり可愛い。
「ねぇねぇ真司っ! 写真撮ろっ?」
「うおっと、分かったよ」
身体に伝わる衝撃と共に、かぐやちゃんがいつも通り背中へ飛びついてきた。ロボットとしてのボディなので言うまでもなく重いのだが、不思議と辛くはない。またこうしてかぐやちゃんを背負える喜びの方が勝っていた。
伸ばした手に握られているスマホへと視線を向け、パシャリと撮影。とびきりの笑顔を浮かべるかぐやちゃんとのツーショットが完成した。
「うはぁーっ! 良い感じに撮れたっ! 真司、男前だよ〜?」
「かぐやちゃんの撮り方が上手いんだよ」
「にししっ! ねぇっ、ヤチヨも一緒に撮ろ〜?」
「もっちろんっ! 真司〜、ヤッチョも背中に乗せて〜?」
「お、おう。任せろ」
流石に2人分のアバターボディは重量的にしんどいのだが、それを表に出せるはずもない。
男を見せる時だと覚悟を決め、脚に力を込めた。
「「いぇーい♪」」
「い、いぇーい……!」
見るからにぎこちない笑顔となった俺とは違い、2人とも心の底から楽しそうに笑っている。それだけで、8年間の努力が報われた気がした。
歳を取ったからか、最近は昔よりも涙腺が緩くなったように思う。涙が込み上げてきたのを感じ取ったので、かぐやちゃんにトングを渡してから顔を洗ってくると嘘をついてその場を離れた。
「…………ふぅ」
危なかった。酒寄達はともかく、朝日と乃依に泣いてるところなんて見られたら切腹ものだ。
手洗い場で顔を洗って涙を流し、水滴を手で拭いながら軽く息を吐いた。
「泣いてたの? 真司」
「──ッ!? ヤ、ヤチヨ……? な、なんだよ、着いて来てたのか……」
「えっへへっ〜、なんか様子がおかしかったからさぁ。こっそりとねぇ」
「アバターボディが完成してからまだ数日も経ってないのに、随分と身体の扱いが上手くなったな」
「そこはあれだよ。8000年分の経験値と言いますか。年の功と言いますか」
「すげぇ説得力だな。……でも、ヤチヨが8000年分頑張ってくれたから、今があるんだよな。──ありがとう」
ヤチヨがいなければ、今の俺はいない。今の時間はない。
酒寄とも仲良くなれなかっただろうし、芦花と諫山とも知り合えなかったはずだ。【ツクヨミ】もないから帝達とも出会わないし、ずっと独りで過ごすことになっていた可能性があまりにも高い。
10年分の感謝を伝えると、ヤチヨは少し驚いたように口を開け──そして笑った。
「ヤッチョの方こそ、だよ。……真司がいてくれたから、ヤチヨは、私は……今こんなにも幸せなんだからっ」
「……ヤチヨ」
「本当だよ? 心からそう思ってる。……ひょっとしたら真司は、私達の輪廻を断ち切るために生まれて来てくれた
「お、大袈裟だろ」
「いやいや〜、意外とそうでもないかもよ? 名前が真司でしょ? ほらぁ、神様の使いで『
「む、無理矢理がすぎる……」
こじ付けにも程があるヤチヨの言い分に、思わず本音が溢れた。
「あはははっ! 無理があったか〜っ! ──ほらっ、戻ろう? 真司のお肉がなくなっちゃうよ〜?」
それでも、楽しそうに笑っているヤチヨを見ると、自分には本当にそういう役割があったんじゃないかと思ってしまうから不思議だ。
そしてそのことが、何故かとても誇らしかった。
「──あっ、真司くんっ。お肉焼けてるよ。はい、どうぞ」
「ありがとう、芦花。……おおっ、諫山。凄いな、気持ち良いぐらいの食べっぷりだ」
「海でバーベキュー、最高っ! 天野っち、タン塩が美味しいよっ。芦花も〜、食べて食べてっ」
「うん。……本当だ、美味しいっ」
料理上手のかぐやちゃんによる絶妙な火入れによって、肉が文句無しに美味い。
帝が美味い肉と言っていただけのことはあって、噛めば一瞬で溶けるような柔らかさだ。
「天野、取って」
「塩だな? はいよ」
「ありがとっ」
「酒寄」
「
「サンキュー」
うん、やはり美味い。
王道のタレも良いが、やっぱり他の薬味も良いもんだ。
「相変わらず阿吽の呼吸だねぇ。彩葉と天野っち」
「本当だよねぇ、ちょっと嫉妬しちゃうぐらいだよ。いくら彩葉でも、真司くんはあげないからね」
「私にはかぐやとヤチヨがいてくれるから間に合ってまーす。ごめんなさい」
「ちょっと待て、勝手に俺がフラれた感じになってるぞ。俺だけがダメージ受けてるぞ」
「「「……ぷっ」」」
親友と彼女と友達から同時に笑われた。
26歳になった今でも、相変わらずこの3人は仲良しだ。
「一緒に働き出してもう4年近くになるしな。なんとなく分かるって程度だよ」
「あーっ、そんなに経つのかぁ。真司くんと彩葉、頑張ってきたもんね」
「私もよく実験台にされたもんだよぉ〜。電気信号の研究とか言って彩葉に電気流されたりさぁ〜」
「あははっ、その節はお世話になりました」
懐かしい話で盛り上がっていると、唐突にかぐやちゃんが叫び出した。
隣にはヤチヨも並んでおり、何か始めようという雰囲気だ。
「よーしっ! かぐやとヤチヨ! 歌いますっ!」
「みんなのためだけにね〜☆」
推し達によるまさかのゲリラライブの開催。
トングを俺に返したかぐやちゃんは代わりにマイクを握る。
電子の歌姫2人による祭典が始まった。
「〜〜〜♪ 〜〜〜♪」
「──〜〜〜♪」
これまた懐かしい曲だった。
思い返される記憶はかぐやちゃんと酒寄が『ヤチヨカップ』の優勝者としてヤチヨとのコラボライブをした瞬間だ。
あの時と同じ曲を、かぐやちゃんとヤチヨの2人が歌ってくれている。また、目頭が熱くなってきた。
「──〝キミと今見てるこの景色〟……か」
曲が終わると、歌姫達には拍手喝采が送られた。今も昔も、変わらず心を揺さぶってくる歌声だ。
そして焼いていた肉はいつの間にか食べ尽くされていた。恐るべし、諫山。
「めっちゃ良かった! ねっ、真司くん」
「ああ、贅沢すぎるな。かぐやちゃんとヤチヨのミニライブを独占なんてさ」
満足したのか、かぐやちゃんとヤチヨはハイタッチを交わしながら、子供のようにはしゃぎ始めた。
「ねぇねぇ彩葉! せっかくだしさ、現実世界でかぐやとヤチヨと彩葉の3人でライブしようよっ! 名付けて『かぐやの復活ライブ』! 楽しそうじゃないっ?」
「いいね〜☆ヤッチョも賛成〜っ!」
「ええっ!? い、いやぁ、【ツクヨミ】でならまだしも……現実ってなるとなぁ」
「え、なにそれ超見たい。やろう」
「あ、天野!?」
かぐやちゃんからの提案に飛びつき、スケジュールを確認する。
「遅くても1年以内には実現させたいな。──朝日、手を貸してくれ」
「任せろ。せっかくの復活ライブだ。派手に東京ドームといこうぜ。予算は?」
「ケチると思うか?」
「そうこなきゃなっ!」
朝日との協力は取り付けた。
これから東京ドームの確保にスタッフの用意、会場設備の確認にライブの告知と、また忙しくなるぞ。
「な、なんでそういう時だけ息が合うの……?」
「「ファンだから」」
「……はぁ、分かったって。……頑張ってみますか」
「やったーっ! 彩葉大好きーっ!」
「即断即決の女だねぇ〜。カッコいいよ、彩葉」
「べ、別にそんなこと言われたって……嬉しいけどさ」
満更でもなさそうな顔で酒寄が笑った。
それを見て、俺まで口角が上がる。
「
「ヤッチョも水着のMVは作ったことないな〜。新鮮であり!」
「いやいやいやっ! 流石に水着は無理だって! 恥ずかしすぎるからっ!」
復活ライブの決行が確定した事でエンジンがかかったらしく、かぐやちゃんが更なる提案をしてきた。
なるほど、水着衣装でのMVか──めっちゃ見たい。
「……天野。見たいって顔しないで? 26にもなって水着で歌って踊るとか……無理無理っ! 絶対無理だからっ!」
そう、俺達はもう26歳だ。いい大人だ。
しかし、先程の会話でもあったように、外見ばかり成長していて中身は高校の頃から何も変わっていない。それは俺だけでなく、酒寄も同様だ。
何が言いたいかと言うと──無駄な抵抗ということだ。
「彩葉〜、お願い〜! ねっ? 一緒に歌って踊ろっ?」
「ヤッチョも彩葉と水着でMV撮りたいな〜。お願い〜!」
大切な存在からのお願い攻撃。しかも2人同時だ。
かぐやちゃん1人からでも断れなかった酒寄が、このお願いを断れるはずがない。
案の定──。
「…………せ、せめて……現実じゃなくて、アバターにして……」
スパダリは、呆気なく折れた。
「わーいっ! 彩葉大好きっ! 振り付けはめっちゃ可愛いの考えるねっ!」
「ヤッチョも彩葉好き〜っ! 演出はお任せあれ〜っ!」
「……なんで、どうして断れないの……!」
「いつものちょろは〜」
「いつものちょろはだね〜」
もう何度見たか分からないぐらいの敗北だった。
身体がない状態でスマホの中からされるお願いにだって首を横に振れたことがないってのに、一度は抵抗したがるんだよな。結果が目に見えてる分、お決まりのパターンとしか思えなかった。
「また負けたのか、酒寄」
「……天野うるさい。罰としてこの少し焦げた肉を食べて」
「小さい八つ当たりやめろって。……普通に美味い」
復活ライブにMVの作成。これから先もまだまだ推し活が捗りそうだ。
かぐやちゃんとヤチヨが光溢れるステージで一緒に歌っている様子を想像すると、それだけで胸に幸せが込み上げてきた。
「うしっ、じゃあ腹も落ち着いたことだし、どんなMVにするか考えようぜ! なんなら『
「面白そうじゃ〜ん。俺の作画の良さが水着で倍増しちゃうかも」
「いいねいいねっ! かぐやもコラボしたいっ! あっ、そうだっ! 芦花と真実も出てよっ! もちろん真司もっ!」
「ええっ!? わ、私も?」
「う〜む、楽しそうではあるけども〜」
まさか俺にまでお呼びがかかるとは思わなかった。
チャンスと見たのか、ぐったりしていた酒寄がその目に活力を宿し、いい笑顔を浮かべて腕を掴んできた。
「もちろんやるよね? 天野。芦花と真実だって乗り気なんだから、天野だって乗り気でしょ?」
「いや、2人とも乗り気には見えな──」
「おねが〜い♡ 芦花、真実。かぐやのお願い……聞いてぇ?」
「ま、まあ……アバターなら、良いけどさ」
「そ、そだね〜、バックダンサー的なポジションならやりたい〜」
あっ、ダメだ。既に攻略されていた。
かぐやちゃんのお願い攻撃は酒寄に対してのみ有効なものではない。かぐやちゃんと仲が良い全員に対して有効なのだ。やはり恐るべし、かぐやちゃん。
「後は天野だけだよ? やるよね? やってくれるよね?」
「真司は優しいもん。かぐや達と一緒に踊ろ〜?」
「ヤッチョ達の英雄なんだから、断るはずないぞよ〜っ」
俺にだけ3人がかりってズルくないか?
最初から断る気なんてなかったけどさ。
「ああ、やるよ。楽しみだな」
俺の答えを聞き、酒寄とかぐやちゃんとヤチヨは満足したように頷いた。
勝てんわ、この先も一生。
「よっしゃあっ! 海で遊んでイメージ固めるかっ!」
「遊びたいだけでしょ? 付き合うけどさ〜。俺、エイに乗りたいかも〜!」
「かぐやも行くっ! 彩葉とヤチヨも行こっ!!」
「うんっ! ほら、彩葉!」
「わ、分かったって〜っ!」
朝日を先頭に駆け出して行った5人の背中を見ながら、使い終わった皿を重ねておく。
潮風に頬を撫でられ、身体の芯から爽快感が湧き上がった。
「ふふふっ、後は若い2人にお任せして……私も行く〜っ!」
同い年だろというツッコミを入れる前に、諫山も海へと走り出した。
残された俺と芦花は顔を見合わせて笑うと、図らずも同じタイミングで手を繋いだ。どうやら、考えていることは一緒だったらしい。
──今なら、言える気がした。
「なあ、芦花」
「……なに?」
君と今見てるこの景色を、これから先の人生でも同じように見ていきたい。
肩を並べて、君の隣で。
「俺と──結婚してください」
何の捻りもなく、
それでも、俺が絞り出せる全てだった。俺の思いを乗せた、全てだった。
芦花は一瞬驚いたように目を見開くと、昔からの癖である口を手で覆い隠す仕草を見せてから、涙を浮かべてゆっくりと頷いた。
「…………はいっ」
泣きながら笑う芦花の顔が、とてつもなく愛おしかった。
自然と顔の距離は近付き──唇が重なる。
1秒にも満たないキスをしてから、また2人で一緒になって笑った。
「真司〜っ! 芦花〜っ! 早く来なよ〜っ!!」
かぐやちゃんが呼んでいる。
その隣で酒寄とヤチヨも手を振っていた。
「天野っ、芦花っ。お姫様がお呼びだよっ!」
「2人とも急げ〜っ!」
心が温まる。
夏の日差しのせいだろうか。
「行こう、芦花」
「──うんっ!」
芦花の手を引き、砂浜を強く踏み込んだ。
みんなが待つ場所まで、少しでも早く行くために。
これが俺の
これが俺達の
これから先も続いていく──
これにて、本作は完結となります!
一ヶ月にも満たない短い時間ではありましたが、お付き合いありがとうございました!
こうして完結させることが出来たのは全て、お気に入り登録や感想、高評価をしてくださった方々のお陰です。この場を借りてお礼申し上げます!
完結記念によろしければ『ふじゅ〜(投げ銭)』と『感想』をぜひよろしくお願いします!!
そしてそして、『超かぐや姫!』に脳を焼かれた結果、完結してもモチベが高いので蛇足ぅ〜として番外編を書こうと思います!
普段は綺麗に完結させた作品に追加で話を書くことはないんですが、モチベが高いからね、しょうがないね。
そして改めまして、ここまでのご愛読ありがとうございました!!
バッドエンド√の番外編
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オリ主と彩葉の共依存√
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輪廻によるオリ主消失√(17話以降)
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最終決戦でオリ主の死亡