親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
12月24日、金曜日。
今日は世間一般で言うところの『クリスマスイブ』。
たくさんの人達が家族や恋人といった大切な人との時間を過ごす冬の記念日だ。2週間近く前から多くの宣伝広告の甲斐もあってか、街はクリスマスムード一色となっていた。
去年のクリスマスイブは芦花と一緒に真実の家でお泊まりパーティーをして過ごしたが、今年は違う。2人とも気を遣ってくれたのか、そもそも誘ってはこなかった。
友人達の有り難い気遣いに背中を押され、私は人生初となる──
教室も、学校も、クリスマスイブの雰囲気でどこか浮かれていたように見えた。同級生のカップル達はそれなりにいるし、今日という日を一緒に過ごすんだろうなと野暮な推測を立ててしまう。
しかし、自分もその内の1人であることを自覚すると、どうにも気持ちが落ち着かなかった。
今日はバイトのシフトも入れていないし、ゆっくりとした時間を過ごせるだろう。東京の高校生がどれだけ大人びていても、同棲しているカップルなんて珍しいはずだ。……本当に、珍しい部類なんだろうな、私と真司は。
ホームルームが終わると、多くの生徒達が早足で教室を飛び出した。
私も芦花と真実に一声かけてからその流れに続くと、下駄箱に向かう途中でスマホを確認する。届いていたメッセージによると、真司は先に帰ってしまったようだ。終わるの少し遅かったもんなぁ、こっちのクラス。
出来ることなら一緒に帰りたかったけど、今日はそれよりも優先すべきことがある。パーティーで食べる料理の準備だ。
部屋の飾り付けは昨日までに済ませておいたから問題ない。用意しなければならないのは料理とケーキだけだ。
真司が先に出たってことは予約していたケーキを取りに行っているはずだし、私は急いで帰って料理の準備をしよう。
手の込んだ物を作るつもりはないけど、一応下味を付けて冷蔵庫で寝かせるぐらいのことはしておいた。……美味しいって言ってくれると良いな。真司なら当たり前のように言ってくれるだろうけど。
学校から駅までを走り抜いて、最速で電車に飛び乗る。寒い中を走ったから耳が痛い。早くお風呂に入って温まりたいところだ。
駅から家までは約7分。高い物件に住んでいるだけあって、駅が近い。走れば5分ほどで帰れるだろう。真司が向かっているはずのケーキ屋は家の近くにあるし、私も早く帰らなきゃ。
飛び乗った電車の中でも、外と同じようにクリスマスの空気を感じた。
カップルと思われる男女を視界に入れない方が難しいぐらい。昔は全然気にならなかったのに、いざ自分が同じ立場になると気になってしまうのだから不思議なものだ。
私と真司も、第三者からすればあんな風に見えるのかな。だとしたら……めちゃくちゃ恥ずかしい。
「……」
何となく見上げた先で目に入ったのは『恋人と過ごす聖夜』と書かれた広告だった。
私も17歳の女子高校生だ。まだ大人とは言えないが、幼い子供というわけではない。男女が交際することで何が起こるのか……所謂、肉体関係についてのところも、ちゃんと理解しているつもりだ。
正直、興味はある。
付き合って2ヶ月が経過した今、キス止まりの関係に不満がないと言えば嘘になるからだ。今日は聖なる夜、多くの恋人達が互いの愛を確かめ合うと聞いたことがある。すなわち、
真司は私に対してキス以上のことを何もしてこない。
高校生だし、責任の取れない行為は出来ないと思っているようだ。その気持ちは嬉しい。大事にされていると痛いほどに伝わっている。
……それでも、私にだって欲はある。
大切な人である真司と──
チラリと、カバンに視線を向けてみる。
横のポケットに入っている小さな箱は、私の欲を表す証拠品。早朝に24時間営業のドラッグストアで購入した避妊具の箱だ。
どうして学校に持っていく用のカバンで買いに出かけたのかは私にも分からない。多分、少しパニックになっていたんだと思う。こんな物をカバンに入れたまま登校して、1日を過ごすことになるぐらいには。荷物検査とかが無い高校で本当に助かった。
改めて考えたら恥ずかしすぎるなと、火照ってきた顔をマフラーに埋めて隠す。
「……あ、すみませんっ。降ります」
羞恥心に襲われていると、いつの間にか最寄駅に着いていた。人混みをかき分けてホームに降りる。
改札を出る頃には、顔の火照りも
本当に、理性が働きすぎだと思う。私にそういう魅力がないっていうのもあるだろうけど。
(──っと、早く帰らなきゃ。真司、もう帰ってるかな……?)
もうひとっ走りするかぁと気合いを入れはしたが、そんな私の思いは突然降り出した大雨によって呆気なく打ち消されたのだった。
「……嘘でしょ?」
確かに今日の天気は曇りだったけど、こんな大雨が降るなんて予報にはなかった。
通り雨とかなら止むまで駅で待ちたいけど、生憎と今は時間が惜しい。1秒でも早く帰って料理の準備をしたいところなんだから。
「……っ!!」
数秒で息を整えて、私は雨の中に突撃した。
鞄を頭の上に持っていって傘代わりにしても、当たり前だが本物の傘には遠く及ばない。水溜まりを避ける余裕もないので、靴も靴下もずぶ濡れだ。冬の雨は冷たいと言うより痛かった。
「……はぁ、はぁ、真司、大丈夫かな」
ケーキを庇って濡れている、なんてことがないようにと祈りながら、私は駅から家までの道のりを走り切った。
鞄のおかげで首から上はそこまで濡れなかったけど、それ以外が悲惨なことになっている。学校指定のコートを着ていたのがせめてもの救いだ。スカートの裾を軽く絞ってから、エントランスを通り抜けた。
「た、ただいま。……あれ?」
部屋の中に入ると、電気が付いていなかった。
真司の靴もないので、まだ帰って来ていないことが分かる。どうやら私の方が先に帰って来てしまったようだ。ケーキを受け取るのに思ったより時間がかかってるのかな。
「うわぁ……」
玄関で大量の水を吸った靴下を両方脱ぐと、ずっしりと重たい。
身体が冷えた状態で料理するのも嫌なので、先にお風呂に入ることにした。コートと制服を脱ぎ、雨で濡れてしまった衣類を全て洗濯機に放り込む。
「……はぁ、気持ち良いっ」
高めの温度に設定したシャワーが雨で冷えた身体を芯から温めてくれる。髪と身体を洗い、数分でお風呂を済ませた。
私はそこまで髪が長い方ではないから、10分程度のドライヤーで乾いてくれる。初めて恋人と過ごすクリスマスイブがパジャマ姿というのは流石にどうかと思うので、お気に入りの服に着替えた。前に真司に買ってもらった服だ。
リビングの電気を付けて、エアコンの暖房を入れる。
これでようやく、落ち着つくことが出来た。
「…………真司、まだかな」
最近は本当に、1人でいることに弱くなったと思う。
これも真司に甘えてしまった結果だ。でも、そんな自分を情けないとは思わない。私が真司に逃げたように、真司もまた私に逃げてくれた。彼の逃げ道として、私はもう下を向くわけにはいかないのだ。
「──よしっ、料理作ろ」
ネガティブを振り払い、意識を切り替えた。
真司はもうすぐ帰って来るはずだ。それなのに料理の準備が進んでいないなんて、役割分担をした意味が無い。真司に失望……なんてされないと思うけど、されるような失態は見せたくない。万が一にも愛想を尽かされるようなことだけは絶対に避けたかった。
でも、その前に少しだけ……少しだけ
私は誰に見られているわけでもないのに、こっそりと真司の部屋へ足を踏み入れた。真司は布団で寝ている私と違ってベッド派だ。私も金曜と土曜の夜は大抵このベッドで一緒に寝ている。ふかふかで柔らかいし、隣に真司がいてくれるからか、とてもよく眠れる。
本当は毎日でも一緒に寝たいところなんだけど、流石にそれは甘えすぎだと自制している。真司なら喜んで了承してくれると分かっているからこそ、私は私の意思で最低限の配慮をしなければならないのだ。
ベッドに近付き、倒れ込む。
真司の使っている枕を抱き締め、彼の匂いに包み込まれながら目を閉じた。そのままの状態で30秒ほど充電。緩んだ頬をそのままに、離れがたい誘惑を振り切ってベッドから降りた。
大丈夫、バレないバレない。
……一応、消臭スプレーしとこうか。真司って気付いて欲しいことには気付かないくせに、気付いて欲しくないことにはよく気付くから。
「──……つ、冷たっ!? ……な、何?」
リビングに戻ろうと歩き出したら、何やら冷たいものを踏んでしまった。裸足だったので、ぐにゅりとした嫌な感触と明らかに濡れていると思われる水分がダイレクトに足の裏を襲った。
反射的に足を上げて、一歩退く。電気も付けていないので、床の方は見えにくい。扉付近にあるスイッチを押して電気を付け、改めて『何か』が置いてある場所を確認した。
「…………えっ?」
床に置いてあったのは──
「……これって、真司の……?」
自分が通っている高校の制服を見間違えるはずがない。しかも、その制服は男子生徒用の物だった。考えなくても、誰の物かは一目瞭然だ。この家でこの制服を使っている人なんて、1人しかいないんだから。
私と同じように雨に打たれたからだろう。制服は上も下も酷く濡れていた。床に脱ぎ捨てられたように形を崩すその制服を見て──私は3ヶ月前のことを思い出した。
「……ッ!!!」
フラッシュバックしたのは、
あの日見たかぐやの服も、こんな風に床に落ちていた。
キッチンの扉を開けてもいなくて、でもかぐやがいたっていう証は部屋中にあって、使い切れるはずがない大金がかぐやから送金されて絶望した瞬間を、私はハッキリと思い出してしまった。
足元が崩れるような感覚に襲われて、身体の支えが効かない。
お風呂に入って温まったばかりなのに、寒気がする。
走っていた時よりもずっと早く、心臓が鼓動を刻んだ。
私は震え出した手で自分の腕を掴み、必死に自分を抱き締めて心を落ち着かせようとする。
そんなわけない、そんなはずがない。だって真司はかぐやじゃない。いきなり消えるなんてことが──。
「……あるはずない? ……
言葉にしてしまった。
あり得ないはずの可能性に、自分で疑いを持ってしまった。
かぐやじゃないから消えない?
──そんなこと誰が決めた?
真司は人間だから消えない?
──そんな保証がどこにある?
何かしらの力が働いて人が消える可能性は……0じゃない。
いつだって大切な人は、
「……はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ……!」
身体が、動かない。
汗が、止まらない。
呼吸が、苦しい。
眩暈がして、視界がぐにゃりと歪む。
「……真司、真司ぃ。……どこ? ……私を……置いていかないで」
右に左にフラつきながら、家中を
冷静な判断なんて出来るわけもなく、私は絶望に支配されたまま真司の名前を呼び続けた。
リビングの中央でいよいよ立っていられなくなり、カーペットの上に座り込んだ。自分の足じゃなくなってしまったかのように感覚が無い。もう、立ち上がれる気がしなかった。
膝を抱えて迷子の子供と同じように震えると、堪えられなくなった涙が溢れ出す。部屋の中に響くのは雨音と私が
楽しい記念日になるはずだったのに、どうしてこうなってしまったんだろう。何か悪いことをしたのかな。私がダメだから真司はいなくなっちゃったのかな。時計の針が時間を刻んでいく度に、私はネガティブな思考へと沈んでいった。
「……真司。……真司。……嫌だよぉ……」
いつの間にか、雨音も聞こえなくなっていた。
自分の泣き声以外、何も聞こえない。
恐怖が、後悔が、無力感が、私の身体を重くしていく。押し潰されてしまいそうなほどに、身体が辛い。
「──……ッ!!」
突如、私の身体に衝撃が走った。
自分ではない『誰か』に、強く身体を揺さぶられたのだ。
絶望の底から引き上げられ、意識が戻る。
顔を上げてみるとそこには──真司の顔があった。
「彩葉! どうしたっ!? 体調悪いのかっ? 病院行くかっ?」
青ざめた顔で私の肩に手を置きながら、真司は心配そうに目線を合わせてきた。
……いる。真司が、私の前にいる。
自分の意思で動かせなくなっていた身体が、反射的に真司へ抱き付いた。
外から帰って来たばかりだからか、雨の匂いがする。体温もしっかりと感じられるので、幻なんかじゃない本物の真司だ。
「……よ、良かった……真司、真司だぁ。……いなくなって、ない。……ちゃんと、いる」
「あ、当たり前だろ? 俺が彩葉の前からいなくなるわけない。どうしたんだ……? 何か怖い思いでもしたのか?」
「だって、服が……服だけがあって、真司がいなかったから……私、かぐやが消えた時のこと……思い出しちゃって。……真司も、かぐやみたいにいなくなったって……思ったから」
「──ッ! ……ごめん。ケーキを受け取って一度帰って来たんだけど、クラッカーを買い忘れてたことに気付いて100均に行ってたんだ。雨で制服が濡れたから、慌てて着替えて……本当にごめんっ、彩葉」
……なんだ、私の勘違いだったんだ。
理由が分かった途端に、全身から力が抜けていく。真司が受け止めてくれたので、床に倒れ込むようなことにはならなかった。
「あ、あははっ、私バカだなぁ。真司が、約束を破るわけないのにね。……ごめんっ」
恥ずかしい勘違いをしてしまったと、苦笑いが浮ぶ。
真司はそんな私のことを、力強く抱き締めてきた。
「……謝るのは俺の方だ。本当にごめん。辛いことを思い出させて……ごめんっ。俺はいなくならないから、ずっと彩葉と一緒にいるから……」
真司の声が、とても心地良かった。
胸を苦しめていた痛みは消えていき、身体の震えも止まった。
本当に、我ながら単純だと思う。
「……うん。ずっと一緒にいてね? 私も……真司の側にいるから」
「……彩葉」
自然に顔が近付き、冷えた唇が重なった。
触れるだけの優しいキス。それだけで、身体に少しずつ熱が戻ってきた。2回、3回と、繰り返される口付け。
私の中で──
「……こっち、来て?」
立ち上がり、真司の手を引いて自分の部屋に連れて行く。
真司は抵抗する様子もなく、素直に着いてきてくれた。布団の上に2人で座り、真司を抱き締める。
「い、彩葉……俺、外から帰って来たばかりだから服とか汚いぞ? 布団で話すなら着替えたいんだけど」
「……ダメ。そんなのどうでも良いから、一緒にいて」
「……分かった。一緒に──んぐっ」
真司の言葉を遮るように、私は久しぶりに彼を押し倒した。あの時と違うのは床ではなく柔らかい布団の上にということだ。
身体を密着させて、再び唇を重ねた。
さっきとは違う──より『深く』求めるキスだ。
「んんっ!? ちょっ、彩葉……!」
「逃げないで……」
強引なキスをされたからか、真司が目を見開いて抵抗を見せた。
その反応は予想していたので、私も対処はしやすい。両手を握って押さえ付け、動揺する真司に覆い被さった。
「に、逃げてるわけじゃなくて……ッ!」
「真司……真司……」
「んぐっ、い、彩葉……ちょっと、落ち着いて……」
落ち着けるわけがない。私はもう、大切な人を失いたくないんだ。
真司だけいてくれれば良いから、それだけで良いから。
「……真司が私の前からいなくならないってことは分かってる。……でも、
「……ふ、不安?」
「……うん。……だから、言葉だけじゃなくて、それ以外でも安心させて欲しい」
やり方なんて分からない。やったことないから。
でも、知識としては頭に入ってる。いくら理性が強い真司だって男の子である以上、ここまでされて反応しないとも考えにくい。
……なら、あとは勢いで何とかなるよね? 念の為にと買っておいた『アレ』が早速役に立ってくれそうだ。カバンはすぐ近くにあるし、いつでも取り出せる。学校用のカバンに入れていて良かったと、少しだけ笑えた。
「……真司。……愛してるよ」
真司も私が何を言いたいのか、何をしたいのかを理解したようで、抵抗していた腕から力を抜いた。
自分が不安にさせてしまったから、なんて思ってるんだろうな。自分を責めるような表情をしてる。そんな顔をさせたくなくて、私は真司の耳元で囁いた。
「真司は……私とじゃ、嫌?」
「……嫌じゃない。……俺だって、彩葉と……」
「なら、いいじゃん。……真司の身体、冷たいね」
真司が着ているパーカーの下に手を滑り込ませ、お腹付近を触る。私の手が温かいこともあるだろうけど、冷たい身体だった。
腹筋があるというわけでもない、普通のお腹。すべすべしてて、女の子みたいな肌だ。触り心地が良くて、頬が緩んでしまう。
「……外が寒かったからかな」
されるがままになっている真司が、少しだけ恥ずかしそうに呟いた。
私の恋人、可愛いな。いや、可愛いと言うより愛おしい。彼の全てに、私のことを刻み込みたいと心から思った。
「……なら、温めないとね」
「…………そう、だな」
今度は、真司の方からキスをしてくれた。
唇を重ねたままゆっくりと身体を起こしていき、今度は逆に私が布団に押し倒された。
怖くないわけじゃない。でも、それ以上にもっと深く真司と繋がりたいという思いの方が大きい。私の全部を、彼にあげたいと思ってしまったから。
「……あのね、恥ずかしいんだけど……その、
「…………」
両手で顔を隠しながら白状した私に、真司は何も言わなかった。ノーコメントが1番恥ずかしいんだけど……。
数秒間の静寂が流れた後で、真司の口から大きなため息が溢れた。
「……本当に、彩葉はずるい。……俺も、同じ物……用意してた」
「……えっ? ……本当に?」
こくりと頷いた真司に、私は言葉に出来ない喜びを感じてしまった。
真司が自分と同じ気持ちだったと分かり、不安が安心に変わったのだ。
ちゃんと異性として見られていたのだと分かったことも、自信になった気がした。
「ち、ちなみに……いつから?」
「2週間前……ぐらい」
つまり、真司はそんなに前から私との『そういうこと』を意識していたわけだ。
緊張していた自分がバカらしく思えて、余計な力が抜けた気がした。
「……ふっ、ふふっ……なんだ。……同じ気持ちだったんだね」
「……だな。……何があっても離れないから。俺はずっと、彩葉といたい」
「……うん。……もっと、わがままになって良いんだよ? ──……私、
「……責任は、取るから。……彩葉。……大好きだ」
エアコンも付けていないのに、寒くはなかった。
冷えていた真司の身体も、次第に熱を帯びていく。彩葉の体温が移ったんだよ、なんて言われた時は……少し恥ずかしかった。
それでも、間違いなく言えることがある。これ以上ない程に……幸せだったということだ。
雨音だけが聞こえる部屋で──私達は互いの体温を求め合った。
いつの間にか、雨は止んでいた。
改めてシャワーを浴びた私と、ようやくシャワーを浴びた真司。
私達は2人で肩を寄せ合いながらソファーに座り、手を繋ぎながらボーッとしていた。慣れないことをして疲れたというのもあるけど、今はただ余韻に浸っていたかった。
「……ねぇ、真司」
「……ん? どうした?」
私と同じように疲れたんだろう。真司の声にも元気がない。
少しばかり悪戯心が芽生えたので、私は真司の耳元で初体験の『感想』を伝えてみた。
「……私、
「──ッ!?!?」
耳を押さえながら赤面する真司。うん、良い反応が見られて満足した。
多分、私の顔も負けないぐらい真っ赤になっているだろうけど。
「……は、腹減ったな。……ケーキ、食べようか」
「あははっ。うん、食べよう。私もお腹すいちゃった」
本当は今頃、豪華な料理に囲まれてパーティーをしているはずだったんだ。まさかこんなことになるなんて思わなかったから、予定が大幅に狂ってしまった。
今から料理を作る気力も体力も残ってないし、下準備していた食材の調理は明日に回すことに決めた。
「わ、悪い……。ケーキ屋からの帰り道で雨が降って来たから、焦ってて」
「全然平気だよ? 美味しい。ありがと、真司」
確かに形は少々崩れてしまっているけど、美味しいことには変わりない。
暖房の効いたリビングで苺のショートケーキを一緒に食べながら、真司の淹れてくれたコーヒーを飲む。……幸せだなぁ。
「あっ、そうだ。真司、ちょっと待ってて」
「お、おう」
忘れるところだったと、慌てて部屋から用意していたクリスマスプレゼントを持ってくる。
可愛らしいリボンが結ばれた小箱を真司に差し出し、反応を伺う。
「はい、クリスマスプレゼント。……一応、恋人としてね」
「……」
「な、なんか言ってよ……無言は恥ずかしいじゃん」
「す、すまん。なんか、めっちゃ嬉しくて……開けて良い?」
「……どうぞ」
急に可愛いこと言わないで欲しい。心臓に悪いから。
「……おおっ、腕時計だ。……カッコいいな」
「真司に似合うかなって。……どう? 気に入った?」
「……来週から学校に付けてく。ありがとう、彩葉」
「ど、どういたしまして……」
ストレートに感謝を伝えられると、やはり照れ臭い。
何はともあれ、喜んでもらえたようで良かった。
「……お、俺からも、良いか? プレゼント……渡したいんだけど」
「は、はいっ。……お願いします」
真司の緊張に影響されてか、敬語になってしまった。
私と同じように自分の部屋に置いていたようで、真司はソファーから立ち上がってリビングから出て行く。
戻って来た彼の手には──白色の箱が乗せられていた。
「その、恋人にクリスマスプレゼントを贈った経験なんてないから、喜んでもらえるか分からないんだけど……俺なりに頑張って選んだ。貰ってくれると、嬉しい」
「……ありがとう。有り難く、頂きます」
期待に胸を膨らませながら、箱を開けてみる。
中に入っていたのは、以前に欲しい物はあるかと聞かれて答えた覚えがある──『チョーカー』だった。
「……欲しいって言ったの、覚えててくれたんだ」
「わ、忘れるわけないだろ。そんなの」
「だって、もう2ヶ月ぐらい前のことだし……何も言わないから、忘れてるのかと思ってた」
「さ、探してたんだよっ。彩葉に似合いそうなやつ。……遅くなったのは、ごめんな」
真司がプレゼントしてくれたのは、藍色のチョーカーだった。
デザインはシンプルだけど、普段使いしやすいのでむしろ助かる。
そしてどこか、私のアバター衣装を連想させる色だった。私のことを考えた結果でこの色を選んだのなら……嬉しいな。
「……真司。……付けて、くれない?」
「お、俺が……?」
気恥ずかしいので、頷きだけを返す。
1番最初は真司に付けて欲しかった。
チョーカーが欲しいとお願いした瞬間から、その思いは変わらない。
「……分かった。……髪、上げてくれるか?」
「……うんっ」
言われた通りに髪を上げ、無防備な首を見せる。
真司は少し震えた手でチョーカーを持ちながら、ゆっくりと私の首に当てた。苦しくないかと聞かれたので、大丈夫だと答える。パチリという音がして、金具が止められた。
「……ど、どうかな?」
「に、似合ってる! めちゃくちゃ……似合ってる」
何の捻りもない褒め言葉が、どうしようもなく嬉しい。
大切なのは『どんな言葉なのか』じゃなくて、『誰に言ってもらうか』なんだなと、私は強く実感した。
「……彩葉? ……なんで、泣いてるんだ?」
「……あははっ、わかんない。何でだろ、嬉しいのに、涙が止まらない。……おかしいよね」
急に泣き出した私を、真司は優しく抱き締めてくれた。
頭を撫でてくれて、キスもしてくれた。
首に感じるチョーカーの重量と異物感が、何故か心地良かった。
真司が私にくれた物。
私が真司のものであるという──何よりの証。
私達は、お互いを離さない。
これから先も、一緒に生きていく。
真司の腕の中で、私も真司を抱き締め返した。
もう二度と、あり得ない可能性に怯えないように。
大切な人の存在を、出来る限り強く確かめた。
「……真司。……愛してるよ」
「……彩葉。……愛してる」
私達は──共依存。
生きていくのに、絶対に必要な存在だ。
同じベッドで眠りについて、夜を過ごす。
朝が来ても私達の手は──繋がれたままだった。
まさかの共依存√の特別編でした。
バッドエンド√でも幸せそうなキャラしか出さなかったら重くないのでは?という発想のもと生まれた話です。ヤチヨとかぐやと芦花が泣いてる?それは本当にそう。
満足したぜという方はよろしければ『ふじゅ〜(投げ銭)』と『感想』をぜひよろしくお願いします!!