親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
「えーっ!? 天野っちが女子と一緒にどっか行っちゃった……?」
「それ本当なの? 芦花」
「……うん」
真実と彩葉の信じられないといった声に、芦花は悲しそうな顔をして頷いた。
目の前で見た光景なのだから、事実であることに変わりはない。
勇気を出して誘いにいった結果がこれだったので、芦花の足は教室へと逆戻り。
まだメイド服姿の真実と彩葉に話を聞いてもらっていた。
「や、やっぱり、真実の言う通りだったんだよ。私がもたもたしてたから、天野くんも、他の女の子に……」
「いや、それはないでしょ」
「それはないと思うな〜」
「……えっ?」
じわりと涙が浮かび始めた芦花に、彩葉と真実が真顔で首を横に振る。
絶対にあり得ないとでも言いたそうな表情だ。
「と、とにかく……ちょっと休んでたら〜? ねっ? 芦花〜」
「……分かった。ごめんねっ」
真実に手を引かれ、芦花がパーテーションの奥へと姿を消す。
戻って来た真実は彩葉に身体を寄せ、小声で状況確認に入った。
「ど、どう思う〜?」
「いや、あり得ないでしょ。仮に告白されるとしても、天野は芦花以外を選ばないと思うよ」
「だよね〜。天野っち、相当前から芦花にベタ惚れだもんね〜。見てるこっちがニヤけちゃうぐらいにさ。あれに気付いてなかったの芦花だけだったし」
「そうそう。それに……私が天野を
「本人には分からないか。も〜、天野っちは何考えてるのさ〜っ」
「取り敢えず、天野が休憩から戻って来たら聞いてみよ?」
「そうだね〜」
陰ながら応援していた恋に一抹の不安。
彩葉と真実は落ち込んでいる芦花のフォローをしつつ、メイドとしての役割を果たした。
そして1時間後。
──
文化祭2日目。
今日は1日目とは違い、外部に向けた一般公開日となっている。
生徒達の家族はもちろんのこと、招待状を受け取った同学年の友人なども足を運ぶため、1日目よりも多くの人で溢れるのが毎年の光景だ。
売上も1日目とは比べ物にならないほど稼げるため、力の入れ時とも言える。
そのため全てのクラスがやる気に満ちており、巻き返しを狙って様々な工夫を凝らしていた。
1日目で売上トップに輝いた真司達の所属する3年2組も、昨日に引き続き気合が入っている。
他のクラスとは違って新しいことをやろうとはしていないが、油断しているわけではない。1日目の反響を見て、必要ないと判断しただけだ。無理に新しいことをやろうとすればその分ミスも増えてしまう。同じことをやるだけなら、昨日の経験値があるため更にスムーズに店を回せるのだ。
確実に勝ちにいくための戦術は──見事にハマった。
「さあさあっ! クサナギが50人斬りだ〜っ! 次の挑戦者は誰だ〜っ!」
「……ふ、奮ってご応募くださーいっ」
上機嫌で声を上げる真実と、やはり恥ずかしそうにしながら続く彩葉。
2人のメイドからの煽りを受けて、店中の男達が勢いよく手を上げた。
そして──散っていった。
「……凄いなぁ。天野くんは」
挑戦者達を次々と蹴散らしていく真司を見ながら、芦花は形の良い眉を困ったように歪めた。
自分なんかとは違う。そんな思いを押し殺すかのように、スカートを少しだけ握り締めた。
今日も昨日と同じように、真司は午前の部が終わった後の休憩で足早に教室を去って行った。
また他の女子生徒に呼び出されているのかと考えるだけで、芦花の心に雲がかかった。
そして時刻は既に午後3時。もうすぐ文化祭が終わりを迎える。
結局、自分は何も出来なかった。勇気を出そうと決めるのが遅かったせいで、何も行動を起こせなかった。そんな自分が、また嫌いになる。
「……休憩、行ってくるね」
1人になりたいと、芦花は教室を出た。
メイド服から制服に着替え、人のいない場所を探して校内を
夕焼けに照らされたグラウンドが一望出来るその場所にもたれかかると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。穴場を見つけた高揚感とでも言うのか、得したような気分になったのだ。
「……天野くん。……やっぱり、告白とか、されてるよね」
1人になりたいと思ったにも関わらず、いざ1人になるとネガティブなことばかりが脳内に浮かんでくる。
芦花はそんな思考を振り払うかのように頭を振った。いつまでも成長しない自分に嫌気が差しながら。
黄昏ている芦花の耳に届いてくるのは楽しそうな声ばかりだ。
こんな日に自分は何をやっているんだと、何度目かも分からないため息をついた。
「…………はぁ」
後悔が重さとなって襲ってくる。
何故もっと早く行動しなかったのか。芦花は先程からそのことばかり考えていた。
今頃、真司は何をしているだろうか。昨日見た女子生徒と仲良くしているのだろうか。そんなことを考えてしまえば──やはり辛い。
「……ほんと、私ってだめだなぁ」
身体全体が熱くなり、目に涙が溜まり始める。
どうにか堪えようとする芦花だったが、すぐに我慢は決壊。ポロポロと大粒の涙が溢れ出してきた。
「……あーあ、メイク落ちちゃうよ」
少しでも可愛い自分を見てもらいたいと、朝から気合を入れたメイクが涙によって流されていく。
芦花は諦めにも似た笑いを浮かべると、取り出したハンカチで涙を拭った。
──ちょうど、そんなタイミングだった。
「……えっ?」
背中側からガタンッと、何かが落ちた音がした。
芦花が反射的に振り返ると、そこにいたのはコーラの缶を2本落としたと思われる──真司だった。
「あ、天野くん……!? な、なんでここに……」
「いや、綾紬を探してたんだけど……その、どうしたんだ? 何か嫌なことでもあったのか?」
そこでようやく、芦花は泣き顔を見られてしまったことに気付いた。
慌てて目にハンカチを押し当てるが、既に手遅れ。真司は落としたコーラを階段の端に立ててから、芦花へ詰め寄った。
「あ、綾紬! 大丈夫か? お腹でも痛いのか? ほ、保健室行くか?」
「……ううんっ。大丈夫。ごめんね、ごめんねっ」
芦花はまた溢れ出してきた涙を手で隠しながら、後退りして真司との距離を遠ざけた。
こんな情けない姿を見られたくないという思いからの行動だったが、真司からすれば弱っているようにしか見えない。むしろ心配を加速させるだけの逆効果だった。
「謝らなくて良いから。落ち着いて。俺以外に、誰も見てないから」
「…………うんっ、うんっ」
優しく声をかけられただけで、どうしようもなく嬉しい。自分の単純さに呆れながら、芦花は気持ちを落ち着けようと努力した。
いつの間にか真司に握られていた右手に伝わる熱を、心地良く思いながら。
「……ありがと。ちょっと、落ち着いてきたかな」
「良かった。本当にどこか痛いとかじゃないんだな?」
小さく頷きを返し、芦花は指で涙を拭う。
ここまでしっかり見られてしまった以上、何も言い訳は立たない。芦花は羞恥によって顔を赤く染めながら、残された勇気を振り絞って口を開いた。
「あ、天野くん……その……昨日の、ことなんだけどさ」
「昨日の?」
「う、うん。……お、女の子と、一緒に歩いて行ったよね? 何だったのかなって……気になってさ」
「あっ、あれは……! ……えーっと」
言いにくそうに視線を泳がせながら、真司は頭を掻いた。
芦花はその姿を見て、更に嫌な予感を深める。早く事実を知りたい。もうどうにでもなれと、芦花はストレートな言葉をぶつけた。
「こ、告白とか……されたのかなって」
全ての勇気を使い果たした結果──返ってきたのは予想外の反応だった。
「──……へ? 告白?」
裏返った声を出しながら、本当に覚えがなさそうな顔で首を傾げた真司。
数秒間固まった後でようやく芦花の言いたいことを理解したのか、慌てて首を振り始めた。
「ちっ、違う違うっ! あの子はそんなんじゃなくて! ただあの子のクラスの出し物を手伝っていただけなんだっ!」
「……出し物を、手伝う?」
今度は芦花が首を傾げる番だった。
どうして真司が他のクラスの出し物を手伝う必要があるのか、それが分からなかったからだ。
芦花の当然の疑問に、真司は目線を逸らして言葉を止めた。
何度か芦花に視線を向けるのを繰り返すと、真司は覚悟を決めたような表情でポケットから小さな赤色の箱を取り出した。
「こ、これは……?」
「出し物に協力した報酬、かな。──これを、綾紬に渡したかったんだ」
「……私に?」
「うん。綾紬が欲しがってたやつだったからさ」
真司は軽く頷くと、小箱を開けて中を見せる。
芦花の視界に映ったのは──『ピアス』だった。
それも、芦花にとって見覚えがあるデザインの物。思わず顔を寄せて、驚きが隠せない様子で口に手を当てた。
「こ、これって、私の好きなブランドの
値段は5000円程度と決して高価ではないが、手に入れる難易度は非常に高い。
芦花のように若い女性達からの人気が高いブランドの限定品ということもあり、抽選に当たる確率が言うまでもなく低いからだ。
芦花も当然応募はしていたが、ハズレを引いて悔しい思いをさせられていた。自分の配信でサラッと悔しさを吐露するぐらいには未練のある品だったのだ。
「な、なんで天野くんが……このピアスを?」
「えーっと、昨日一緒に歩いてた女子なんだけどさ、なんか『SETSUNA』の……というか、俺のファンだったみたいで。声をかけられたんだよね」
「ファンって……ムラクモくんのってこと?」
一瞬変な勘違いをしそうになった芦花だったが、冷静に考えて予想を立てる。
案の定、正解を導き出していた。
「そうそう。前から何となく疑われてたみたいで、文化祭前に呼び出されて正体がバレてさ。それでクラスの出し物に協力してくれないかって言われて……」
「その出し物って?」
「『SENGOKU』の参加型バトルロイヤルみたいな? そこで解説をしてくれって頼まれてさ。最初は断ろうかと思ったんだけど、彼女が報酬として出せる物の中にこのピアスがあったから……つい、引き受けちゃって。あっ、ちゃんと代金は渡してあるからな?」
恥ずかしそうに笑う真司に、芦花は疑問を深めた。
ピアスをプレゼントしようと思ってくれたこと自体は素直に嬉しい。
しかし、何故自分がこのピアスを欲しがっていたことを真司が知っているのかが芦花には分からなかった。
抽選に応募したことも外れたことも、少しだけ泣きそうになってしまったぐらいに悔しかったことも、芦花は誰にも話してはいない。彩葉や真美にですら話してはいないのだ。
「……な、何で知ってたの? 私がこのピアスを欲しがってたって……私、誰にも言ってないのに」
「あっ……」
やらかした時のお手本のような声を上げながら、真司が動きを止めた。
顔は更に赤く染まっていき、目を隠すように手を当てる。
「……いや、あの……
「……私の配信、見てくれてるの?」
「ま、まあ……はい、見てます。だから、良ければこのピアス……綾紬に貰って欲しいんだけど」
その瞬間、緊張の糸が切れたかのように芦花が崩れ落ちる。
真司が慌てて駆け寄り、ふらつく身体を支えた。
「ちょっ、綾紬! 大丈夫か!?」
「よ、良かったぁ……。なんだ、私の勘違いだったんだ」
「ん? 勘違いって?」
「天野くんがあの女の子に告白されたのかと思って……私、天野くんが取られちゃうって思っ……──〜〜〜っ!?!?」
今日1番の羞恥と共に、芦花の顔が耳の先まで赤くなる。
夕日のせいだという言い訳が出来ないほどに赤くなった顔で、芦花は破裂してしまわないかと心配になるぐらいに大きな心臓の鼓動を感じた。
「あっ、い、今のは……」
違う、そう続けるつもりだった芦花の口が止まった。
視界に映る真司の顔が──自分と同じくらいに赤くなっていたからだ。
触れられている肩が、熱い。
相手の顔から、目が離せない。
少し顔を近付けるだけで、これまでの関係が一変してしまう。
そんな確信が──芦花に最後の一押しを与えた。
目線を合わせてしゃがんでいる真司の服を指で掴み、溢れ出した想いをそのまま言葉にして伝えた。
「…………好きです」
決して大きくはない声が、真司の表情を変える。
少女の勇気を振り絞った一言は、確かに想い人へ届いたのだ。
触らずとも分かるほどに顔が熱い。
芦花はすぐにでもこの場から逃げ出したい衝動に駆られながらも、真司の目を真っ直ぐに見て答えを待った。
自分の想いを伝えるのがここまで怖いことだとは知らなかった。芦花は改めて自分に告白してくれた真司の凄さを実感した。
永遠にも感じる数秒が流れ、真司が口を開いた。
嬉しそうに、そしてどこか──悔しそうに。
「俺も……綾紬が好きだ。……本当は俺の方から告白するつもりだったのになぁ。先に言われたよ」
「……ほ、本当に? いや、天野くんを疑ってるわけじゃないんだけど……」
「1年で気持ちが変わるほど、俺は綾紬に軽く惚れてないよ。──あの日からもずっと……君が好きだ」
「…………うんっ。……ありがとう。天野くん」
不安で流していた涙は止まり、喜びで流す涙へと変わった。
芦花は信じられないといった様子で笑い泣きしながら、勇気を出した自分に花丸を送る。
「立てるか? 綾紬」
「うん。……ねぇ、天野くん。ピアス、付けても良いかな?」
「も、もちろんっ!」
右耳に付けていたピアスを外し、渡されたピアスを穴に通していく。
上手く付けられないということもなく、ピアスは綺麗に芦花の右耳で光り輝いた。桃色の装飾が夕日に反射し、とても美しい。
「……どう、かな?」
恥ずかしそうに訊ねる芦花に、真司は胸を貫かれた。
自分が惚れた女子は、やはり可愛いのだと再認識しながら。
「に、似合ってる! めちゃくちゃ可愛いっ!」
「……そんなに大声で言われると、恥ずかしいよ」
「わ、悪いっ! つい、その……すまんっ」
「あははっ、謝らなくてもいいよ。……嬉しい。ありがとう、天野くん」
ピアスを指で触りながら、芦花は優しく微笑んだ。
真司はいよいよ直視することが出来なくなり、顔を逸らした。
「お、俺も……大学に入ったらピアスとか、開けてみようかな」
「いいね〜っ。じゃあ……お揃いにしちゃう?」
「あ、綾紬さん? テンションが変じゃないですかね」
「えへへっ、だよね。好きな男の子と両想いになれて……浮かれてるのかな?」
「ちょっ……それは、ズルくない?」
「……浮かれてるから、もう一つお願い。……これからは『芦花』って、
「──……〜〜〜ッ!!」
芦花の前でなければ、真司は壁を殴っていた。
それほどまでに浮かれている彼女は可愛らしく、そして愛おしかった。
「……本当はね。受験を控えてる大事な時期だから、告白はしないつもりだったんだ。……でも、なんか、口から出ちゃって」
「そ、そっか。気を遣ってくれてたんだな。……確かに、まだまだ気は抜けない。安心出来るまではデートとか全然出来ないと思うけど、絶対に合格するから。──だから、俺の彼女になってください」
「…………はいっ。よろしくお願いしますっ」
法的な縛りは何もない、言葉だけの関係。
それでも確かに、2人は恋人同士となった。愛情という絆で結ばれた、かけがえのない関係に。
「……ヤバい、泣きそう。……本当に、嬉しい」
「あははっ、ちょっとやめてよ〜。私まで泣きそうになるじゃん」
「だってさぁ、恋敵が強すぎたし……マジで恋人になれるなんて思わなくて……」
それもこれも、全て
真司は心からの幸せを噛み締めながら、思いっきりガッツポーズを決めた。
「あっ、そうだ。俺、コーラ買ってきたんだ。綾紬……じゃなくて……ろ、芦花。一緒に……飲もうか」
「う、うん……ありがと」
恋人を名前で呼んだだけでこの反応。先が思いやられるカップルだが、それも無理はない。なにせお互い、初彼女と初彼氏だ。
恋人関係に至っては素人同然。何をするにしても新鮮で、未発見の事ばかりだ。
「こんなとこ初めて来たけど、結構良い景色だな。夕日が綺麗に見える」
「そうだね。人のいないとこなら何処でも良かったんだけど、ここで良かったかも」
清々しい顔で景色を眺めながら、真司と芦花がコーラを開けるためにタブへ指をかける。
力を込める一歩前で、芦花がとあることを思い出した。
「そういえばこのコーラ、さっき落として──」
プシュウウゥッと、芦花の言葉を遮るように炭酸の弾ける音が響いた。
泡の噴水は勢いよく打ち上がり、真司の顔面を直撃。水も滴るいい男──ではなく、コーラが滴る泡男となった。
「…………」
「…………」
「「…………ぷっ」」
真司と芦花は同時に吹き出し、腹を抱えて笑い合う。
あまりにも見事なやらかしっぷりに、笑いが堪えられなくなっていた。
「うわ〜、ベタベタだ〜っ。真司くん、ちょっと目を閉じて?」
「あ、ありがとう。うわぁ、マジでやらかした。せっかく芦花が気付いてくれたってのに……甘っ! 口にコーラ入った」
「あははっ、後で水で洗おうね〜」
芦花はハンカチで真司の顔を拭きながら、クスクスと笑い声を溢す。
真司はそんな彼女を見て、優しい表情で口角を上げた。
「……ねぇ、真司くん」
「ん? なに?」
「もうすぐ、文化祭が終わっちゃうね」
「そうだな。なんか、あっという間だった」
肩を並べて校舎を見下ろせば、自然と2人の手は繋がれていた。
指と指が絡み合い、お互いの体温を伝え合う。
「今からでも、誘って良いかな? 真司くん。私と一緒に文化祭……回ってもらえませんか?」
「……もちろん。──行こう。芦花」
「うんっ!」
花のような笑顔を咲かせた芦花の手を引き、真司が階段を降り始める。
「どこから見るかな」
「真司くんと一緒なら、何でも楽しいよ」
「……俺も、芦花と一緒ならそれで良い」
繋いだ手を離さないまま、2人は校舎へと入って行った。
好きな相手と肩を並べ──とても幸せそうな顔をしながら。
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