親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
2038年12月31日。
一年の終わりを迎える
多くの人が冬の厳しい寒さと共に訪れた今年最後の日を落ち着いた様子で過ごし、新年に思いを馳せていた。
しかし、落ち着いているどころか興奮が抑えられないといった者達も数多く存在する。それに該当する者達は全て例外なくパソコンやタブレット、テレビの前へと張り付いていた。
時計の針が進むごとに、期待と興奮が高まっていく。
仕事納めとなった者達はもう、何にも邪魔されることはない。ただ全ての神経を目の前に映し出されている待機画面へと集中させ、
配信の告知がされたのは1ヶ月前。
突然のビッグサプライズであったにも関わらず、その告知を見た瞬間、多くの人間が大晦日の予定を一度白紙に戻した。
本当に奇跡が起きるのかどうか、半信半疑になりながらも。
そして、指定された時刻である午後8時が訪れた。
夕食を済ませ、入浴を済ませ、完全な自宅モードへと移行した多くの
変わり映えしなかった画面にはカウントダウン開始の文字が勢いよく現れ、10、9、8と、宴開催への期待を最高潮にまで引き上げた。
3……2……1。
カウントが0になった瞬間、画面は一変。
集まった視聴者達はおよそ
左右には『竹』。
画面の奥には『本殿』。
そして真上には──見事なまでの『満月』。
こんな配信画面を使っていたライバーなど、この世にただ1人。
視聴者達は本当に彼女が帰って来たのだと分かり、溢れ出した高揚感に全身を支配された。
身体の奥から奥からじんわりと熱が広がる。期待と興奮で汗が滲む。瞬きすらも忘れて、全員の視線が画面へと固定された。
数秒間続いた静寂は──キュートな
「──かぐやっほ〜っ!!!」
その声を聞いた瞬間、多くの者が涙を流した。
白い肌に橙と黄色の瞳を輝かせ、朱色と若草色の着物に身を包んだ1人の少女。兎をモチーフにした長い耳を揺らしながら、昔と何も変わらない純真無垢な笑顔を浮かべ、画面の向こう側から久しぶりにファン達へ手を振った。
「
8年という月日が流れても、自分達の推しは何も変わっていなかった。
込み上げてくる感情をそのままに、ファン達はかぐや姫の帰還に叫び声を上げた。
・きたぁぁぁあっ!! 10,000ふじゅ〜
・奇跡って起こるんだな 5,000ふじゅ〜
・マジで泣いてる 10,000ふじゅ〜
・かぐやだぁぁぁぁあっ! 4,000ふじゅ〜
・俺達の推しが帰って来たぞー!! 20,000ふじゅ〜
・お前に会いたかったんだよぉっ!! 30,000ふじゅ〜
・今年1番嬉しいわ 10,000ふじゅ〜
・ありがとうしか言えねぇ 8,000ふじゅ〜
・ほんとにかぐやだぁぁぁっ! 10,000ふじゅ〜
・人生最高の大晦日です 20,000ふじゅ〜
その様子はまさに宴。
滝のように流れていくコメントに圧倒されながらも、かぐやは嬉しそうに笑った。少しばかり、照れ臭そうに頬を掻きながら。
「みんな元気そうだね〜。かぐやも元気だよ! またみんなに会えて嬉しい〜っ! 今日は見にきてくれてありがと〜っ!」
ライブ配信の同時接続者数は瞬く間に50万人を超え、1秒毎に増え続けている。
届けられるコメントはかぐやとの再会を喜ぶものばかりであり、彼女の復活を願い続けていたファンの多さを証明していた。
・もういなくならないでぇぇぇっ!
・なんで急にやめちゃったの……?
・寂しかったよぉぉおおおっ! 3,000ふじゅ〜
・俺、マジで泣いてる 20,000ふじゅ〜
・同接やっばwwww
・みんな叫びすぎて草ァァァァ!! 4,000ふじゅ〜
・なんか胸が熱いわ 7,000ふじゅ〜
・相変わらず可愛いです 20,000ふじゅ〜
「あははっ、ごめんね〜っ。あの時は仕事放り出して来ちゃったから、月に強制送還させられてたんだ〜っ。でも、もう出張は終わり!
かぐやの言葉を聞いても、その本当の意味を理解出来る視聴者はいない。ただの設定による発言としか捉えることはないからだ。
それでも、自分達の推しが帰って来てくれた。ファン達はそれ以上を求めない。またこの笑顔を見ることが出来ただけで、彼らの心は感謝で埋め尽くされているのだから。
・出張お疲れ様! 30,000ふじゅ〜
・助けてもらえて良かったぁぁぁっ! 20,000ふじゅ〜
・寂しかったよぉぉおおおっ! 3,000ふじゅ〜
・かぐやちゃん、好きだ 10,000ふじゅ〜
・ふじゅ〜の嵐で草 20,000ふじゅ〜
・数年ぶりに泣いてる 30,000ふじゅ〜
・かぐやを助けてくれた人ありがとうっ!! 3,000ふじゅ〜
・初恋を思い出しました 8,000ふじゅ〜
・とんでもねぇ、待ってたんだ! 40,000ふじゅ〜
「うおっ、止まんないなぁ。みんなかぐやのこと好きすぎでしょ〜。ありがとっ!」
かぐやが向けた太陽のような笑顔に、ファン達の心は打ち抜かれた。
コメントは更に加速していき、投げられるふじゅ〜によって
「……よしっ。じゃあそろそろ、かぐやのパートナーを呼んじゃおうかなっ。みんなも会いたいでしょ〜?」
久しぶりの配信ということで、いかにかぐやと言えど緊張はしている。
1人で画面に映ることに限界を迎えたので、かぐやは画面外で待機していた相方へ手招きと共に声をかけた。
・かぐやのパートナー……くるぞっ! おまえらっ!
・まさか、揃うのか
・チャンネル名を見ましょう 10,000ふじゅ〜
・泣きすぎて三点倒立してる 40,000ふじゅ〜
・パートナァァァァァアっ!!
・一瞬でわかるやん 6,000ふじゅ〜
・奴が、くる 4,000ふじゅ〜
・暴れすぎてデスクに膝ぶつけたわ 20,000ふじゅ〜
「えへへっ〜、そりゃあ分かるよね。ではではっ! かぐやの大好きなパートナーッ! ──いろPの登場でぇーすっ!!」
「……い、いろっぴー。いろPでーす。どうも〜」
狐耳を揺らしながら不器用な笑顔で手を振り、画面に入ってきた女性。
酒寄彩葉のアバターであるいろPを見た瞬間──視聴者達の興奮は更に一段階上昇することとなった。
・知 っ て た 10,000ふじゅ〜
・いろPだぁぁぁぁっ!! 20,000ふじゅ〜
・ヤチヨとコラボしてた時以来か?
・髪長くなってていいね 7,000ふじゅ〜
・いろPきたぁぁぁあっ! 10,000ふじゅ〜
・めっちゃ久しぶりやんっ! 4,000ふじゅ〜
・いろPのポニーテールとか俺を殺す気か? 20,000ふじゅ〜
・大人っぽくなっててマジで女神
・この挨拶と恥ずかしそうな顔が俺を狂わせる 20,000ふじゅ〜
・三点倒立したら足つった 50,000ふじゅ〜
昔より伸びた髪をポニーテールでまとめ、少し恥ずかしそうに手を振るいろPこと彩葉。
フード付きの着物というストリート風の装いから、年相応に純粋な着物へと衣装チェンジを果たしていた。
凛々しいという言葉をその身に宿しているかのような顔の良さと雰囲気に、ファン達の心は再び打ち抜かれる。
「うはーっ、いろPも大人気だねぇ。かぐやも鼻が高いよぉ」
「2人揃うのはそれこそ8年ぶりだからね。みなさん、お待たせして申し訳ありませんでした。見ての通り、私達は元気ですよ〜」
・大人いろPかわいすぎんか?
・またこの2人が並んでるとこを見られるなんて……
・可愛いと綺麗が同居してる
・マジで変な声出た
・好きだぁぁぁあっ! 20,000ふじゅ〜
・いろP、結婚しよう 20,000ふじゅ〜
「ふふーんっ! ダメでーすっ! いろPはかぐやのだから〜っ!」
「ちょっとかぐや……引っ付かないでよ」
嬉しそうな顔で彩葉へと抱き付いたかぐや。
そんな2人の様子を見て、コメント欄は幸福に包まれた。
・あら^~
・あら^~
・あら^~
・てぇてぇ……
・かぐやガチ恋勢といろPガチ恋勢を同時に潰す一撃
・天国やん。俺死んだ? 10,000ふじゅ〜
・これが見たかったんだよこれが 30,000ふじゅ〜
・いろP嬉しそうだなぁ
「んじゃっ、みんなへの挨拶も済んだところで、今日の復活配信について説明するよーっ! はい! いろP!」
「はいはい。……えーっと、今日は集まってくださったみなさんに私達から重要なお知らせがたくさんあります。喜んでもらえるものばかりだと思うので、最後までお付き合いくださいね〜」
「そういうことっ! じゃあ景気付けに一曲! かぐや、歌います! いろP! 伴奏よろしくぅっ!」
「言うと思った。用意は出来てるよ」
かぐやの宣言と共に音が流れ始めた。
彼女を推していた者達であれば、イントロを聴くだけで何の曲かはすぐに分かる。8年間待ち続けていた古参ファン達は思わず目に涙を浮かべた。
「──〜〜♪ 〜〜♪」
あの頃と変わらず、楽しそうな歌声だった。
歌うことが好きでたまらない。歌わずにはいられない。そんな思いが電子の波となって伝わっていく。
思わずコメントすることも忘れて、視聴者達は歌姫の声を耳に焼き付けた。
「……はぁーっ、楽しい〜っ!」
「良かったよ。お疲れ様、かぐや」
「ふっふっふ、練習してきたもんね〜! 2人は最強っ!」
「当然でしょ?」
・泣いた
・最高ぉぉおおおっ!
・かぐやいろP最強っ!!!
・この日を何度夢見たか 20,000ふじゅ〜
・歌うっま
・やっぱかぐやの歌いいよなぁ 10,000ふじゅ〜
・疲れ吹き飛んだわ 30,000ふじゅ〜
・かぐやぁぁぁあっ! 7,000ふじゅ〜
・耳が絶頂した 10,000ふじゅ〜
・練習してて偉い 30,000ふじゅ〜
・いろPもかっこいいよぉぉ 7,000ふじゅ〜
・やっぱこの2人だよな
待ち望まれていたかぐやの歌ということもあり、視聴者達は大興奮。
かぐやと彩葉もそれを見て手応えを感じ、ようやく配信の『空気感』を掴むことが出来た。
それからしばらくは雑談タイムに入り、かぐやと彩葉によるボケとツッコミのやり取りが繰り広げられた。2人のイチャイチャを摂取出来る機会とあって、コメント欄も盛り上がる。配信開始から僅か30分で同接は100万人を突破した。
「あっ、100万人超えてるじゃん。ほんならそろそろ、最初のお知らせといきますか〜っ!」
「そうだね。良いタイミングだと思う」
「ではでは! お知らせ第一弾! 来年、2039年の7月5日! かぐやの復活を記念して──
・!?!?
・来年っ!?
・半年ぐらいやんけっ!
・ライブ!?
・東京ドームかよ、ガチやん
・マジ?
・第一弾でこれなんか
「あははっ、驚いてる驚いてる。ちゃんといろPも出るからね〜!」
「……はい。お願いします」
・マジで神
・いろPがっ!?
・かぐやいろPチャンネルの復活やっ!
・予定確認しなきゃ
・生きる理由ができた
・照れてるいろPかわいすぎん?
「更に言えば、ヤチヨともコラボするから! どう? 驚いた? 多分今頃、ヤチヨの方の配信でも似たようなこと言ってるんじゃないかなぁ」
・うっそだろ
・10秒で与えられる情報濃すぎるだろ
・伝説の組み合わせじゃねぇかっ!
・やばすぎるわ
・ヤチヨまで出るのっ!?
・向こうの配信覗いてきたけどマジだったわ
・大晦日に響くの除夜の鐘じゃなくてオタクの阿鼻叫喚だろ
・驚きすぎて舌噛んだわ
いきなり出された情報に戸惑いながらも、割とすぐに受け入れている辺りかぐやのファンと言ったところか。
そもそもかぐやがそんなつまらない嘘をつくはずがないという、信頼に裏付けされた納得でもあった。
「ライブは現実で行うけど、【ツクヨミ】からでも見られるようにするから!」
「ライブ会場に参加するためのチケットは抽選とさせて頂きますが、2033年までにファン登録をしてくれた人達全員に、【ツクヨミ】でのライブチケットを無料で提供することにしました。かぐやの帰りを待ってくれていた方達へ、私達からのお礼です」
・神神神神!!
・俺、古参です
・ありがとぉぉぉおっ!!
・なんでもっと早くファンにならなかったんだ……
・4年前の自分が許せねぇよぉぉぉっ!!
・かぐやいろPのこういうとこ大好き
・文句なし
・卒業ライブしたライバーを推し続けてたもんな
「ちなみにぃ〜、この復活ライブの企画と運営をしてくれてる人はみんなも知ってる人だよっ! いろPと一緒に月までかぐやを助けに来てくれた大好きな人なんだ〜っ! ねっ? いろP」
「だから、抱き付かないでよ……。でもまあ、かぐやの言う通り、その人には本当に助けられてます。こうしてかぐやが戻って来られたのは、その人のお陰ですから」
・あっ
・誰だ?
・言い方的にヤチヨじゃないよな
・みんな知ってる人らしい
・かぐやいろPのためにそこまでする人……あっ
・この2人のためにプロゲーマー辞めようとした人がいましたねぇ
最初こそ様々な人物の名前が飛び交っていたが、1分ほどで大本命へと予想は集約された。
それを見たかぐやは嬉しそうに頬を緩ませ、彩葉へと耳打ち。優しく頷いた彩葉からの許可の下、ファン達へ呼びかけた。
「実は〜、今日ここにその人を呼んでまーすっ! でもねぇ、出たくないって断られてるんだ〜っ。せっかくの復活配信に自分が出るわけにはいかないとか言ってさ〜っ。かぐやがこうして配信出来てるのもその人のお陰なのにねぇ〜」
「それもあるけど、泣きまくってて出られないんだと思うよ。さっきからコメント欄を見て号泣してるもん」
少し呆れたように語る彩葉。
かぐやは悪童に相応しい悪どい笑みを浮かべると、目当ての人物を引きずり出すために外堀を埋めにかかった。
「
・会いたいー!
・多分大体の奴が正体わかってる
・泣いてんのかいww
・早よ出てこーいっ!
・お礼を言わせてほしいんじゃ
・百合の間に挟まることを許された唯一の男
・マジで? 来るのか?
「うんうん、やっぱみんなも会いたいよねーっ! というわけで、みんなからのオッケーも貰えたので、無理矢理出てもらいまーすっ! いろP、手伝ってぇ?」
「はいはい。ほら、こうなったかぐやは止めらんないよ? 観念してこっち来て」
「ちょっ……マジで……無理だって」
2人揃って画面外へと歩いていき、待つこと数秒。かぐやと彩葉に引っ張られ、1人の男性アバターが画面内に顔を見せた。
黒を基調としながら桜色のラインが入った着物に身を包み、アバターとは思えないほどに泣き腫らした顔をしている茶髪の剣士。
アバター名『ムラクモ』──天野真司が登場した。
「……ど、どうも……ムラクモです。……みなさん、今日はかぐやちゃんといろPのために……お集まり、頂きまして……」
・親友兼保護者枠きたぁぁぁっ!! 50,000ふじゅ〜
・ムラクモォォォォッ! 20,000ふじゅ〜
・マジのガチ勢来たな
・本当に号泣してて草
・古参勢の頂点やん 10,000ふじゅ〜
・泣きすぎやろww 3,000ふじゅ〜
・親友のためにプロゲーマー辞める男きたぁぁぁっ!
・俺より泣いてて草 50,000ふじゅ〜
・黒の着物も似合うなぁ 7,000ふじゅ〜
・あの動画思い出して笑える
・大人のガチ泣きワロタ 30,000ふじゅ〜
・こんなに歓迎される男を他に知らんわ 50,000ふじゅ〜
「あははっ! ほら〜、みんな喜んでるじゃん〜。だから泣き止んでよ、真……ムラクモ〜」
「うわぁ、凄いね。ムラクモ大人気じゃん。『かぐやといろPを助けてくれてありがとーっ!』とか『伝説の男がきた』とか、ちゃんとコメント見てあげなよ」
「いや、本当に出るつもりなかったから……。100万人も、2人のために……やばい、ちょ、マジで無理。……皆さんありがとうございました! 自分はここで失礼させて頂きます!」
涙の勢いが強まった真司が、かぐやと彩葉の手を振り払って逃走。
その速度は
・逃げたwwww
・許されてるのに百合の間に挟まらない男
・はっやww
・戻ってきてぇぇぇぇっ!
・速くて草
・草
・ムラクモ、結婚しよう 20,000ふじゅ〜
・なんかイメージ変わったわ。良い方に
・本当に親友兼保護者枠なんだよなぁww
「あははっ、逃げられちゃった〜」
「まあ紹介は出来たし、良いんじゃない?」
「そだね〜。……おっ? なんかムラクモにも求婚者が現れてるねぇ。でも残念! ムラクモにはもう芦花っていうお嫁さんが──」
「ちょいっ! かぐやっ!」
「あっ、やべっ」
・ろかって言ったぞ
・ROKAだぁぁぁぁっ!
・あの動画のコンビやん
・マジか、横になるわ……
・結婚したのか、俺以外のやつと……
・ムラクモ、既婚者だった
・暴露系ライバーかぐや
・身内に刺されてて草
・ROKAとムラクモかぁ、お似合いっすわ
「あ〜、口が滑ったぁ。ム、ムラクモに怒られる……」
「……画面外で凄い睨んでるよ。これは流石に叱られるね」
「ごっ、ごめんっ! つい言っちゃって……ごめんね?」
「……あっ、ちょっと顔が緩んだ。許したな、あれは。それで恥ずかしくなって部屋から出て行ったと」
・ちょっろ
・ちょろくて草
・瞬殺やん
・甘すぎるやろwww
・ちょろクモだったか……
・かぐやにだけは勝てない男
・この顔で謝られたらしゃーない
「本当にかぐやには甘いんだから……ちゃんと叱らないとダメだって」
「えへへっ〜、ムラクモはかぐやのこと大好きだからねぇ。かぐやが1番仲良しですからっ!」
胸を張って堂々と言い切ったかぐや。
コメント欄もそれに同調する声、小学生のように冷やかす声で溢れかえった。
しかし、そんなかぐやの言葉に意を唱える者が現れる。
隣で発言を聞いていた──
「いやいや、天……じゃなくて、ムラクモと1番仲が良いのは私でしょ? 親友なんだから」
保護者枠と親友枠を比べるのであれば、彩葉の言い分が正しい。
コメント欄も手の平を返したかのようにいろPに加勢し始めた。
「えーっ! かぐやだよぉっ!」
「私だね」
「そこまで言うなら勝負する? 『ムラクモのことを1番分かってるのは誰?』選手権! オタクってこういうの好きでしょ?」
「オタク言うな」
・好きです
・オタク好きです
・私のために争わないでってやれるやん。ムラクモが
・ムラクモはヒロインだった……?
・なんだろう、羨ましいより微笑ましい
・かぐや正解
・いーや、ムラクモのこと1番分かってるのは俺だね
・自分ファン数2万の時からのムラクモ古参です
「……まあ、別に良いけどね? どうせ勝つのは私だし」
「よっし、じゃあ勝負だ! ──問題! ムラクモの好きな食べ物は?」
「オムライス。それと、友達と食べるご飯」
「正解〜!」
「次は私ね。問題、ムラクモの趣味は?」
「ゲーム! それから、猫カフェに行くことっ!」
「正解」
こうして始まったムラクモについての問題対決。
最初こそありきたりな問題が続いたが、10問目を超えた辺りからかぐやと彩葉のエンジンがかかる。
配信中ということも忘れて、自分達以外には分からないような内輪ネタに全力で走り始めた。
「ムラクモは最高で何回連続『UNO!』と言い忘れたでしょうっ!」
「3回!」
「がーっ、正解!」
「トランプでババ抜きをする時、ムラクモがジョーカーを置く場所はどこでしょう?」
「左端!」
「やるじゃん。正解」
「ムラクモが人生ゲームで勝った回数は!?」
「0!」
「ですがっ! オセロで勝った回数は!?」
「0!」
「ぐぬぬっ……正解!」
次から次へと繰り広げられる激しい攻防。
かぐやと彩葉は共に一歩も退かず、どちらが真司のことを知っているかを競い合った。その行為自体が、彼の尊厳に傷を付けているとも知らずに。
・こ れ は ひ ど い
・ムラクモ弱くて草
・身内からオーバーキルされる男
・フルタイブ型以外のゲームは苦手なのね
・追い討ちの0好き
・ジョーカーの位置バレてるやんww
・いろP迫真の0で笑う
・人生ゲームだけなら運負けって言えたのに……
・真剣にやってんのが余計に笑えるw
・UNO言い忘れるのわかるわ
・ボコボコにされとるなwww
コメント欄に同情されてしまったムラクモこと、天野真司。
これ以上恥を晒されないように部屋へ突撃すると、かぐやと彩葉の間に割って入り、首を絞められているかのような声で選手権中止を呼びかけた。
「──待ってぇっ!? もうこれ以上はやめてっ!? 100万人が見てるからッッ!!!」
悲痛としか表現出来ない叫びに、コメント欄が爆笑の渦に包まれた。
・流石に草
・100万人が見てるよ〜ww
・帰って来たw
・草
・ムラクモがきたぁぁぁぁっ!!
・泣きっ面に蜂ってやつだな
・これで戻ってくるのは草
・オセロ勝ったことないんですか?
・別の意味で泣かされてて草
・かぐやといろP気まずそうwww
真司の乱入によって強制終了となった選手権。
かぐやと彩葉は調子に乗りすぎたと反省し、素直に謝罪した。
そしてこの短い時間で見せられた濃すぎる内容に視聴者は大満足。再びふじゅ〜の嵐が巻き起こった。
結局、真司はそのままの流れで居座ることになってしまい、3人での配信となる。かぐやと彩葉をどうにか真ん中に置こうと、真司が必死に隅へ寄ってはいたが。
そんなこんなで、配信開始から2時間が経過。
時刻は午後9時。話の区切りがついたところで、かぐやが改めて口を開いた。
「──さてさて、今日の配信はこの辺でお開きかな〜っ。みんな! 今日は楽しかった? かぐや達にまた会えて嬉しかった〜?」
コメント欄は当然のように肯定の意見で溢れかえる。
かぐやはそれを見て満足そうに笑うと、彩葉と真司の腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。
「本日最後のお知らせだよっ! 明日、1月1日の午後8時! 【ツクヨミ】でミニライブを行いまーすっ! しかもただのミニライブじゃなくて、
「イベント内容は5vs5で行う『KASSEN』です。参加メンバーは私、ムラクモ、そして『ブラックオニキス』の帝アキラ、雷、乃依の計5人。そして対戦相手は──月からの使者達。かぐやの卒業ライブに現れた『月人』達です。私達が挑む8年ぶりの
「観客席はファン登録している方のみでの抽選となりますので、お気を付けて。抽選開始は現時点からで、結果発表は正午となります。抽選に外れても【ツクヨミ】内に流れる中継映像を見て、ぜひ応援してくださいね」
3人による急な告知に、ファン達の落ち着きかけていた興奮が再熱。
開催まで24時間を切っているビッグイベントの存在を知り、何度目かも分からない叫びを上げた。
・サラッとやべぇこと言い過ぎだろww
・この配信見てると脳が疲れるんだが?
・明日やんけっ!!
・元旦から幸せだわ
・熱すぎる展開きたぁぁぁあっ!
・絶対見ます
・難易度ルナティックの化け物NPCか
・アイツらちょっとトラウマなんよな。強すぎて
・黒鬼も参戦とかあっつ
・マジのリベンジやん
「みんな安心してねっ! かぐやはもういなくならないし、いろP達は絶対に負けないからっ! 新年一発目のかぐやのライブと大勝負、見逃しちゃダメだよ〜っ! ……あっ、そうだ。6月ぐらいに出す予定のMVも作ってるから、楽しみにしててねっ!」
「かぐやっ! それはまだ言っちゃダメなやつッ!」
「あっ、やばっ! またやっちゃったぁぁぁっ!」
「……もう遅いな」
「うわぁぁぁっ! ごめんごめんっ! 今日はこれでおしまいっ! じゃあみんな! また明日ねっ!! 良いお年をっ!!」
・脳の処理が……追い付かん
・ポロポロ溢すやんww
・良いお年をぉぉぉぉっ!!
・マジで感謝感激雨アラモードだわ
・ライブの1ヶ月前に新規MVとか最高すぎる
・致死量の涙を流してる
・お前が良い年にしてくれるんだよぉっ!!
・俺達を笑顔にして食う年越し蕎麦は美味いか?
・かぐやエンターテイナーすぎるだろwww
・めっちゃくちゃで草
・本当に帰って来たって感じだ
こうして、伝説的ライバー・かぐやによる大晦日の復活配信は幕を下ろした。
多くの期待と興奮を──ファン達の胸に刻み込みながら。
「……んーっ! ……はぁ、懐かしいなぁ。この景色」
ぐいーっと伸びをしてから、柄にもなく
思い出したのは8年前のこと。
みんなが集まってくれた──卒業ライブのことだった。
「……ていうか、この特設ステージまだあったんだ。盛り上がったなぁ、あのライブ」
天守閣の上から見下ろす景色は相変わらず広くて、どこまでも行けそうな気持ちが湧き上がってくる。
今は明かりがないから暗いけど、月だけに照らされた景色も結構好きだ。後1時間もすれば、ここは派手なライブ会場に変わる。昨日の配信で告知した『KASSEN』付きミニライブが始まるのだ。
そう思うと、少しだけ緊張した。
「──かぐやちゃん」
心を落ち着けていると、後ろから声がした。
優しくて、温かい声だった。かぐやのことを大切に思ってくれているのが、聴くだけで分かるような声。
誰が来たのかはすぐに分かった。彩葉とヤチヨの2人と同じぐらい、
「真司っ。どうしたの?」
「いや、緊張でもしてるかと思ってさ。久しぶりのライブだし」
「……えへへっ、バレた?」
「まあな。保護者枠ですから」
ずるいなぁ。本当にすぐバレちゃうんだから。
彩葉に甘える時とも、ヤチヨに甘える時とも違う。真司に甘える時だけは、なんか違うんだ。
「ねぇねぇ、真司。……おんぶしてっ?」
「えぇ〜、良いけどさ」
「やりっ! よいしょっ!」
「──っと、乗り心地はいかがですか? お姫様」
「あははっ! もっと高くなった! 気持ち〜っ!」
下から吹いてくる風が気持ち良かった。
真司と彩葉のお陰で【ツクヨミ】に温度が実装されたから冷たい風だけど、それ以上に真司の背中が温かかった。
子供みたいに背中に顔を押し付けて、思いっきり甘えてみる。
「なんだよ? 今日はいつにも増して甘えん坊だな」
「う〜ん、なんかねぇ。なんだろうなぁ」
卒業ライブのことを思い出して緊張しているわけでも、怖いわけでもない。
これから真司達と戦う月人達は全て、ヤチヨが作り出した完全なNPCだ。戦闘能力以外、月のみんなと同じところはない。かぐやも作るのを手伝ったから、それはよく分かってる。
何が不安なんだろう?
考えても、すぐに答えは出てこなかった。
「──大丈夫だよ」
「……えっ?」
自分でも不思議に思っていると、真司が笑いながらそんなことを言ってきた。
「
「……真司」
自分でもバカだなぁと思った。
平気だと思い込んでいただけで、やっぱりあの日のことはちゃんと悲しかったんだと気付いた。
彩葉とお別れして、真司とお別れして、みんなとお別れして。
あの日のことが──かぐやはちゃんと悲しかったんだ。
だからきっと、寂しかったのかな。
「……えへへっ、負けたらダメだよ?」
「勝つよ。この日のために仕事を休んで調整してきたんだ。新しい刀も間に合ったし、負ける気がしない」
そう言って真司は腰にある2本の刀の柄に手を置いた。
確か名前は……『
橙色と白色の鞘が、とても眩しく見えた。
「──あぁ〜、かぐやが真司に甘えてる〜。いいな〜、ヤッチョもおんぶしてもらいたいな〜☆」
真司を抱き締めながら安心感に包まれていると、ヤチヨがやって来た。
交代して欲しそうな目で見てきたので、すぐに首を横に張る。
「今はかぐやの番だもーん。変わってあげなーいっ」
「ヨヨヨ〜。……真司、ヤッチョもおんぶしてくれないかい?」
「分かった」
「あっ、ずるいっ! 真司が断れないの分かってるからって!」
「いや、それはかぐやちゃんブーメランだろ」
そう言われると確かに言い返せない。
大人しく左に身体を寄せて、ヤチヨが掴まれるだけのスペースを空ける。
ヤチヨが飛び乗ってきたことで、もっと温かくなった。なんか悔しくて、文句を言ってみる。
「うぅー、かぐやが独り占めしてたのにぃ」
「よいではないか〜。……あったかいねぇ〜。真司、重くない?」
「2人とも羽のように軽い」
真面目なトーンでそんなこと言われたから、ちょっと笑っちゃった。
ヤチヨも肩を震わせているので、やっぱり笑いのツボが同じらしい。
「感慨深いねぇ。真司、覚えてる? 卒業ライブの日にヤッチョとここで話したこと」
「ああ、覚えてるよ。あの時もこうして、ヤチヨをおんぶしたっけ」
「えっ? なにそれ、かぐや知らない」
「そりゃな。かぐやちゃんが月に帰った後のことだし」
なるほど。それなら知らなくて当然か。
「そうだヤチヨ。今な、かぐやちゃんが珍しく緊張してたんだぞ? 激レアだ」
「ええ〜、それは見たかったなぁ。本当? かぐや」
「うぇっ!? そ、そんなことは……まあ、あったけどさ」
でも、もう平気。
真司がちゃんと──『大丈夫』って言ってくれたから。
「かぐやなら大丈夫だよ〜。ヤッチョが保証しちゃうっ!」
「もう真司に保証してもらったから平気です〜」
「あははっ、遅かったか〜」
大袈裟なリアクションをするヤチヨを見て、無駄な力が抜けた気がした。私はやっぱり、この人達が好きなんだなぁ。
真司の背中にしがみついていると、また後ろから声が聞こえた。
「──天野。私のお姫様達とイチャつかないでくれる?」
私とヤチヨが世界で1番大好きな人、彩葉だった。
責めるような口調だったけど、顔は笑ってる。
真司は少しだけ優越感に浸るような表情をしてから言葉を返した。
「おう、酒寄。お姫様達を独り占め中だ。悪いな」
「えへへっ〜、独り占めされてる〜っ! 真司が甘えてくるんだもん〜っ」
「ヤッチョ達を離してくれないんだヨ〜☆」
「いやいや、元々はかぐやちゃん達の方から……まあ、何でもいいか。酒寄に怒られたくないから、そろそろ降りてもらえる?」
「「はーいっ」」
言われた通りに背中から降りると、さっきまで感じていた寂しさは綺麗さっぱり消えていた。
真司の背中すごいな、今度からライブの前に乗せてもらおっと。
「準備はどうだ? 酒寄」
「当然。今回はかぐや抜きの5vs5だからね。強くなったってことを、ちゃんと見せるつもり」
「うんうん、流石は彩葉。やっぱりヤッチョも参加すれば良かったかな〜。お姉ちゃん的ポジションとしてかぐやを守る! みたいな?」
「ヤチヨはお姉ちゃんって感じしないけどね。それより、むしろ……妹?」
「なんでぇっ!?」
「お互いがお互いを下に見てるの面白いな」
「分かる。かぐやとヤチヨのこういうところ好きなんだよね」
なんか真司と彩葉から失礼な視線を感じた。
いやいや、どう考えてもかぐやの方が落ち着きがあるでしょ。……いや、そんなに自信があるわけでもないけど。
「そもそも、ヤチヨは『守る側』じゃなくて『守られる側』だろ? 俺としては今回の
真司の言葉に、ヤチヨが目を丸くした。
多分、私も似たような顔をしていたと思う。
「……えっ、そんなこと考えてたの?」
「私も初耳……そうなの? 天野」
「考えてたよ? だからヤチヨをメンバーに誘わなかったんだ。かぐやちゃんと一緒に、ヤチヨのことも守れるって証明しなきゃな」
「「「…………」」」
「えっ……俺、なんか変なこと言った?」
……なんかなぁ。本当にずるいよなぁ。
かぐやに向けて言われたわけじゃないのに、
「そ、そろそろ時間だ。準備しようか。行こう、酒寄」
「……天野。カッコつけすぎ」
「えっ!? い、いやいや、別にそんなつもりで言ったわけじゃなくて……」
「芦花に報告だね。天野がヤチヨを口説いてたって」
「ちょっ、口説いてねぇからっ!」
階段を降りていく真司との彩葉の背中を見送って、ヤチヨと2人になった。
なんとなく顔を合わせて、視線をぶつける。きっと今のかぐや達の顔は鏡に映った顔ぐらい似ているんだろうな。
「……なに笑ってんの、ヤチヨ」
「おやおや〜? 今日のかぐやはブーメランを投げるのが好きだねぇ〜」
分かってるよ。自分の顔が緩みまくってることぐらい。
でも、それで良いじゃん。それが助けてもらったかぐやに出来る、真司と彩葉に対する最高の恩返しだと思うから。
「……うっし、最高のライブにするぞーっ! あっ、最後の方ヤチヨも飛び入り参加する?」
「おお〜っ、いいねぇ〜。お言葉に甘えようかな。せっかく真司が嬉しいこと言ってくれたもんね」
「うんっ。……ねぇ、ヤチヨ。ありがとね」
「ん〜? なんだいなんだい? 藪から棒に」
結構前に、ヤチヨから聞いた話がある。
ヤチヨが『かぐや』だった時、そこに真司はいなかったって。
「ヤチヨが頑張ってくれたから『今』がある。……だから、真司とも出会えたんだよ」
「……かぐや」
「これからはいっぱい楽しいことしようね。──みんなでっ!」
「……あのさぁ、良くないよ? さっきの真司もだけど、お婆ちゃんを泣かすのはさぁ。……本当に、嬉し涙が出ちゃうから」
ヤチヨが幸せだと、かぐやも幸せな気持ちになる。
この気持ちを、溢れ出した想いを、言葉に出さずにはいられなかった。私達を救ってくれた
「彩葉、真司。…………大好きっ!」
どんな時でも、どんな一瞬でも、最高のパーティーだ。
かぐや達の生きていく未来は──超が付くハッピーエンドなんだから。
以上!番外編第7弾でした!
クラファンも4000%を超えるという快挙。とんでもねぇな『超かぐや姫!』。めでたいことだぁ。