親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい   作:スイートズッキー

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番外編 ブレイクスルーコンビ

 

 

 2040年3月9日。

 その日、酒寄彩葉が所長を務める酒寄研究所は──普段とは違う活気に満ちていた。

 

 所属している職員達は軒並み笑顔でテンションが高く、お互いの努力を労うかのように肩を叩き合っている。

 まるでパーティーでも開いているかのような雰囲気だが、あながち間違ってもいない。慎ましくはあるが、お菓子とジュースが机の上には並べられていた。勤務時間中にも関わらず、職員達は楽しそうに語り合うのをやめない。もちろん、トップである酒寄彩葉からのお咎めもなしだ。

 

 

 では、どうして彼らが騒いでいるのか? 

 

 それは──『味覚再現プログラム』と『温度再現プログラム』の()()()()によるものだった。

 

 

 2年前にプログラムを完成させ、特許庁に申請していた特許願が今日ようやく受理されたのだ。

 数日前から研究所に在籍している誰もがこの知らせを待ち望んでいた。業界異例のホワイト研究所としても知られている酒寄研究所がまた一つ偉業を成し遂げたのだ。

 

 騒ぐべき時には騒ぐという所長からの命令により、職員達は喜びを大いに分かち合っている。

 放っておけばいつまでもラボに残り続けてしまう所長と副所長の苦労が報われたということも、職員達にとっては喜びを爆発させる起爆剤であった。

 

 職員達が歓喜に打ち震えている様子を見て、所長である彩葉と副所長である真司が肩を並べて机にもたれ掛かりながら、満足そうに口角を上げた。

 

「みんな、嬉しそうだね。天野」

「そうだな。特許願を出してから2年か……仕方ないことだけど、やっぱり長いよな」

「ふふっ、だよねっ。……でも、これで胸を張って私達の成果って言える。お金のことに関しても随分楽になるし、頑張ってくれたみんなにはボーナスを出さなきゃね」

 

 実際のところ、彩葉と真司の熱量に影響され、多くの職員が身を削る勢いでプログラム完成に着手していた。

 やらされているのではなく、自発的にやっていたというのが彩葉としても救われる部分だ。特許を取得出来たら特別報酬出すと、彩葉は真司と相談して以前から決めていた。

 

「【ツクヨミ】に最速で実装しておいたのが大きいよな。そのお陰で多くのプレイヤーにプログラムを体験してもらえたし、より良いものにするためのデータも集まった。協力してくれたヤチヨには頭が上がらないな」

 

 言わずと知れた仮想空間──【ツクヨミ】。

 全世界のユーザー数はついに3億人を突破し、老若男女問わずその存在を知らない者はいないほどのVRワールドとなっていた。

 大量のユーザーを有する【ツクヨミ】はまさしく『生きたネットワーク』だ。人から人へ評判はダイレクトに広がっていき、温度再現プログラムと味覚再現プログラムの発明は仮想空間の常識を一変させる大変革となった。

 

 無論、そんな変化に世界各国の大企業達が目を付けないはずもなく、スポンサーに名乗りを上げる企業が次々と現れた。酒寄研究所の名は、一気に世界中に知られることとなったのだ。

 

 技術を盗もうと画策していた者達もいたが、そう易々と盗めるほど甘い技術ではない。

 8000年の情報を脳内にぶち込まれて生き延びた人類のバグ『酒寄彩葉』と、親友のためなら何でも出来る輪廻外から来た世界のバグ『天野真司』の2人が協力したからこそ成し得た偉業なのだ。そこらの凡夫に理解出来るような代物ではない。

 

「……感慨深いなぁ。酒寄と一緒に研究室に入って、がむしゃらに頑張って……もう6年近く経つのか」

「うん、本当にね。……天野がいなかったら、完成させるまでに後2年はかかってたかなぁ〜」

「2年あればいけるのかよっ。……いや、酒寄ならいけるか。でも、2年も縮められたんだ。俺が頑張った意味もあったみたいだな」

「それは当たり前。……ありがとね、天野。手伝ってくれてさ」

 

 彩葉は手に持っていたコーヒーカップを掲げ、柔らかい笑みを浮かべた。真司もそれを見て、同じようにカップを掲げる。

 

「酒寄のためだけじゃない。俺の夢でもあったんだからな? ……お疲れ様、所長」

「うん。そっちもお疲れ、副所長」

 

 キンッという音を響かせながら、乾杯する彩葉と真司。

 微笑ましい光景を作り出した2人を見て、本当に頬を緩めている者達がいた。

 

 酒寄彩葉と天野真司という2人のバグに脳を焼かれまくった──酒寄研究所に所属する職員一同だ。

 

「……ああ〜っ、目の保養だわぁ。所長は顔が良すぎるし、副所長は雰囲気が優しすぎてしゅきぃ〜。視力が上がる〜っ」

「何だろうね、あの2人を見てると心が安らぐよね。コーヒー飲んでるのを見てるだけなのに何で? この現象解明を次の研究目標にしない?」

「白衣着てるだけなのに色気がヤバいんだよな。雑誌の取材依頼来てたけど、今の2人の写真撮って表紙にしてもらおうぜ」

 

 お菓子を口に運びながら、男女関係なく褒め言葉が止まらない。

 特許取得による気の緩みにも原因はあるが、元々が普段から溜め込んでいた言葉ばかりだ。これも一種の『推し』に対する愛とも言える。職員達は1人残らず、所長と副所長に対して憧れの感情を抱いているのだから。

 

「酒寄所長は生体義体と味覚再現プログラムの土台をほぼ1人で完成させたもんな。あれは天才とかそういう次元じゃねぇよ。同じ人間とは思えねぇもん。男からも女からも告白されすぎてることについてもさ」

「魔性の女すぎるんだよなぁ。流石は俺達の所長だぜ……」

「どうしてあの人はこんな短い期間で世界に革命を起こせるんだろう……? 次は味覚再現プログラムを応用して『匂い』の実装も考えてるらしいし、また界隈が目玉飛び出して驚くことになるんだろうね。所長、10年以内には絶対教科書に載ってるよ」

 

 女性職員の言葉に、近くにいた全員が強く頷いた。

 

「てかさ、所長が目立ってるけど、副所長も地味じゃなくて派手にヤバいんだよな。『温度再現プログラム』のほとんどはあの人が完成させたって言っても過言じゃないしよぉ。完成が近くなった頃なんて2日間徹夜して仕上げたみたいだし……執念と言うか、覚悟の重さが違うよ」

「副所長ってさ、優しいし頭も良いし、本当に優良物件だよね〜。前に顔が地味なんだよなとか自虐してたの聞いたけど、マジで自分の良さを分かってないわぁ。超絶美人の奥さんと超可愛いお子さんがいなかったら速攻でアプローチしてフラれてるとこなのに」

「それとなんか知らんけど、副所長ってフルダイブゲームがめっちゃ強いんだよな……。この間チームのみんなと休憩時間に『SETSUNA』やってたんだけどさ、副所長が飛び入り参加した途端に全員フルボッコにされたんだよ。動きが素人じゃないの。あんなに強い人初めて見たってレベル」

 

 お菓子とジュースを消費しながら、お喋りが止まらない。

 まさしく推しに対するファンそのもの。しかもその推し達がトップにいる職場で働いてきた者達だ。面構えが違う。

 

「……ッ! おい、見ろよっ。所長が副所長の腕をポカポカ殴ってるぞ。じゃれてるっ……! じゃれてるぅ……!」

「待って、本気で尊い。目が潰れたわ」

「悪戯っ子みたいに笑う所長が好き。余裕そうに笑ってる副所長も好き」

「あれで付き合ってないんだからビビるよな……」

 

 常日頃から職員達は思っている。

 この2人──()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 もちろん、2人ともが既婚者であることを研究所の全員が知っている。その上で考えずにはいられないのだ。

 距離感の近さ、信頼の厚さ、お互いのことなら言葉にせずともすぐに分かる絆の深さ。どこからどう見ても恋人以上で夫婦以上だ。友達以上恋愛未満という甘酸っぱい段階なんて8段ぐらい飛ばしてしまっている。

 

 高校の頃からの親友だと聞かされてはいるが、親友という枠に当て嵌めるには仲が良すぎるようにしか見えない。

 酒寄研究所の職員達にとって、この2人の関係性だけはいつになっても頭を悩ませてくる難問であった。

 

「男女の友情ってマジであるんだな。あの2人、恋愛にもブレイクスルー起こしてるよ」

「お互いにしか見せない顔してるの良いよね。本当に、良いよね」

「たまにやる飲み会とかもさ、所長が酔い潰れたら絶対に副所長が背負って家まで送り届けてるもんな……。家の場所も知ってるとか、信頼しすぎだろ……」

「絶対にそんなことにはならないって分かってるけど……いや、今の無し。私は絶対にくっつかない異性の親友同士からしか得られない栄養で生きていきたいから」

 

 ──分かる。

 そう呟きながら、職員達は頷いた。

 

 こんな邪な思いを、推しに知られてはならない。

 当人達が幸せならばそれで良いのだ。彼らの下で働ける自分達の幸運に感謝しながら、職員達は寂しさを感じ始めた口にお菓子を放り込むのだった。

 

「……なあ、酒寄。そろそろ良いんじゃないか?」

「ん、そうだね。みんなも十分に喜べたみたいだし」

 

 真司の呼び掛けに、腕時計を確認した彩葉が頷く。

 特許取得記念によるプチパーティーが始まってから約2時間が経過しており、時刻はもうすぐ正午を迎える時間帯となっていた。

 喜びの熱も落ち着いてきた頃合いだと判断し、彩葉が手を叩いて職員達の注目を集める。すぐに静かになった全員に向けて、よく通る声を響かせた。

 

「みんなっ。本日の業務はこれで終了! 今日は金曜だし、半日で上がろうかっ。また来週から、一緒に頑張りましょうっ!」

「お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」

「「「「「──はいっ!!!!!」」」」」

 

 職員達は背筋を正し、声を揃えて返事する。

 ほぼ何もしていない業務時間に加え、金曜での早上がりとくればテンションが上がらない社会人など存在しないのだ。

 

 しかし、誤解のないように説明すると、彼らは働くのが嫌だから喜んでいるわけではない。酒寄彩葉と天野真司というブレイクスルーコンビと共に働けることを、職員達は心の底から誇りに思っているからだ。

 この喜びに無粋な理由は必要ない。金曜に仕事をしなくて良い。それだけで喜んでしまうのが社会人という生き物なのである。

 

「天野、不在着信が入ってたからちょっと連絡してくるね。後は任せて良い? 先に帰ってて良いからさ」

「了解。任せろ」

「ありがと。じゃあみんなも、お疲れ様。気を付けて帰ってね」

 

 手首に付いている銀色のブレスレットを揺らしながら、彩葉は所長室へと入って行った。不在着信という言葉を聞いて、真司は家で待っているかぐやとヤチヨから連絡でもあったのだろうと推測を立てた。

 

「えーっ、早上がりとは言ったけど、退勤の打刻だけしたらしばらくこのままここで話をしていてもらっても構わない。すぐに出て行けってわけじゃないってことだ。それから言うまでもないと思うけど、お菓子のゴミとかジュースのペットボトルは各自で片付けてくれ。それじゃあ……解散っ」

 

 自分の分のゴミを詰め込んだ袋を手に持ち、真司は研究室から出て行った。

 職員達もそれに(なら)ってゴミを袋に入れていく。

 研究所のルールとして片付けが厳しく定められているため職員達の手際も良く、数分で全てのゴミが片付いた。

 

「よっしゃあ〜、帰るか〜っ!」

「お疲れ様でした〜っ!」

「飲みに行っちゃう?」

「いいね〜、行こう行こうっ!」

 

 退勤の打刻をして家に帰る者達もいれば、そのまま飲みに行く者達もいる。

 そして真司から許可が降りたために、このまま研究所に残って会話に花を咲かせる者達もいた。

 

 研究所の扉は全てオートロック機能を有しており、外から中に入るためには所長と副所長だけが所持しているマスターキーが必要になるため、セキュリティの観点から言っても問題は何もない。それでも、自由を許可した裏側にあるのは職員達に対する信頼に他ならない。

 その自覚を持ちながら数人の職員達は一つの机に集まり、まだまだ燃えそうな推しへの想いを語り始めた。

 

「てかさ、聞いて? プログラムの完成間近にさ、所長と副所長が2日間ぐらい徹夜してたじゃん? 私その時、副所長にデータの確認をしてもらおうと思って声をかけたのね。そしたらめっちゃ不機嫌そうな顔と目と声で『──あっ? 何?』って普段の副所長からは考えられないぐらいに冷たい対応されたのっ! すぐに『あっ、ごめんごめんっ! 本当にごめんっ! ありがとうねっ!』って申し訳なさそうに謝ってきたことまで合わせて──完全に沼ったのをさっき思い出した」

「はっ? 何それ? 羨ましいんだが?」

「いつも優しすぎる副所長に睨まれるとか……ご褒美じゃん。迫力ヤバそう」

「俺も所長に聞いたことがある。副所長を怒らせると怖いって。だから所長もマジ顔の時の副所長に言われたことは素直に聞くんだってさ」

「いつもは所長が引っ張ってるのに、本当に助けが必要な時は副所長が引っ張るのも良いんだよねぇ。マジであの2人……推せるなぁ」

 

 次から次に出てくる話題を前に、慌てて淹れた紅茶がどんどんその量を減らしていく。

 このままでは口が渇いてしまうと、新しくお湯を沸かすために席から立ち上がった1人の女性職員。そんな彼女の視界に入ったのは──所長室から出て来た彩葉だった。

 

「あっ、所長。今から帰りですか?」

「うん。みんなはまだ残るの?」

「はいっ! お喋りが止まらなくて……!」

「あははっ、そっか。遅くなりすぎないように気を付けてね。じゃ、お疲れ様」

「お疲れ様でしたっ!」

 

 女性職員は彩葉の背中を見送りながら、ふと疑問を浮かべる。

 所長室から出て来た彩葉の顔が──()()()()()()()()()()()()()()

 

 美しい作り笑いの裏に、僅かな怒りが隠れていたように思う。

 ファンだからこそ気付いた一瞬の違和感だったが、女性職員はすぐに気のせいだと思考を振り払った。

 

 こんなめでたい日に不機嫌になることなど、あるはずがない。

 

 そう結論付けた彼女はお湯が沸くまでの時間も無駄にしないよう、楽しそうに会話している同僚達の近くに駆け寄って行った。

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 酒寄研究所から彩葉と真司が住んでいるタワマンまでは、電車を使って約30分ほどかかる。

 最寄り駅までスムーズに辿り着けた真司はまだ日が高い青空を見上げながら、清々しい気分でポキポキと首を軽く鳴らした。

 腕時計が示す時刻は12時半近く。滅多にない時刻での帰宅に、真司も内心では浮かれていた。

 

 そして更に、真司の浮かれ具合を更に加速させる人物が現れる。

 白の帽子に水色のワンピースを着た最愛の妻──天野芦花の登場だ。

 

「真司くんっ。お疲れ様。……迎えに来たよ」

「芦花……! なんだよ、驚いた。連絡してくれれば良かったのに」

「……えーっと。お、驚かそうと思って。びっくりした?」

「ああ、びっくりした。ありがとな。(はるか)はどうしてる?」

 

 天野(あまの)(はるか)

 真司と芦花の間に生まれた女の子で、現在1歳と4ヶ月。両親に似て大人しい性格をしており、彩葉を筆頭に酒寄家の人間からも深く愛されている。

 

「かぐやちゃんとヤチヨが見てくれてるよ。料理の準備は終わってるから、後は真司くんと彩葉が帰ってくればパーティーの始まりってわけ。……い、彩葉は一緒じゃなかったんだね」

「先に帰って良いって言われたからな。そう遅くならない内に帰ってくると思うよ」

「そ、そう……」

「ん? 酒寄に何か用でもあったのか?」

 

 どこか歯切れの悪い芦花の様子に、真司がすかさず疑問をぶつける。

 芦花は形の良い眉を歪めると、慌てたように真司の手を取って歩き出した。

 

「う、ううんっ! 全然! は、早く帰ろっか……真司くんっ」

「……? お、おう。そうだな」

 

 疑問が解消されることはなかったが、愛しの妻に手を引かれたことで真司も大人しく歩き出す。

 緩んだ頬をそのままに、手を繋ぎながら帰路に着いた。

 

「と、特許取得、おめでとう。努力が認められて良かったね、真司くんっ」

「ありがとう、芦花が応援してくれたお陰だよ。遥の面倒も任せっぱなしにしてごめんな」

「ふふっ、良いんだよ。お仕事を頑張ってる真司くんが……私は好きだから。それに、休日は家事も育児もやってくれてるじゃん。任せっぱなしなんて言わないで?」

「……芦花。……本当に、ありがとう」

 

 指と指を絡ませ、より深く繋がれた手。

 冬の冷えた空気の中では、互いの体温がハッキリと伝わってくる。

 

「諫山は来れそうか?」

「ダメみたい。平日だし、子供の面倒もあるからね」

「そっか、残念だ。また予定を合わせてみんなで飯に行きたいな」

「真実もそう言ってた。近い内に、絶対ね」

 

 芦花の言葉に、真司は強い頷きを返す。

 楽しく会話をしていると、我が家であるマンションがもう目と鼻の先だった。これから楽しいパーティーが始まるかと思うと、真司の心も踊る。そんな夫の顔を見て、芦花は申し訳なさそうに目を閉じた。

 

 そして最後の信号待ちをしている最中で──芦花は観念したように口を開くのだった。

 

「……ごめんっ、真司くん」

「えっ? 急になんだよ?」

 

 突然の謝罪に、真司が首を傾げた。

 青に変わった信号を見て、横断歩道を歩きながら芦花は言葉を続ける。

 

「きょ、今日さ……朝からかぐやちゃんとヤチヨの3人でパーティーの準備をしてたんだけどさ」

「お、おう。それは知ってるけど」

「色々と、その、お喋りが重なった結果と言いますか……口を滑らせてしまったと言いますか」

「……は、はぁ」

「料理してる最中にね? かぐやちゃんが『幸せすぎて死にそう〜っ!』って言ったことが始まりだったんだ。ヤチヨも『幸せで死ねるなら本望だよね〜』みたいなことを言い出してさ」

「ろ、芦花? 話が見えないんだけど……?」

 

 横断歩道を渡り切ったところで、芦花が足を止める。

 マンションのエントランスを目の前に、覚悟を決めたような表情で真司に向かって言葉を放った。

 

 顔面蒼白になること間違いなしの、厳しい一撃を。

 

 

「──()()()()()()。真司くんが……()()()()()()()()()

 

 

「………………へっ?」

 

 言われた言葉の意味を理解するまでの数秒間、真司の思考は停止した。

 その反応を読んでいた芦花はすぐに説明を続行し、何の意味もない過程を並べ始めた。

 

「こ、こんな思いが出来るのも全部彩葉と真司くんのお陰だよね〜とか話が盛り上がっちゃって! かぐやちゃんが改めて自分を月まで迎えに来てくれたことに感謝したり、ヤチヨが命懸けで助けに行った2人を褒めたりしてて……その、なんか、ポロッと遺書のこと……話しちゃって」

 

 真司と目線を合わせることもなく、芦花は冷や汗を流しながら自らの罪を白状した。

 

「わ、私もなんか変なテンションになっちゃってて! そしたら……遺書のことを思い出しちゃって……ご、ごめんなさいっ!!」

「…………」

 

 絶句という言葉がよく似合う顔で、真司の顔から血の気が引いた。

 自業自得ではある。それは間違いない。

 

 それでも、今になってバレるなんて夢にも思うはずがない。

 遺書は芦花に見られた日に処分しているので、真司からすれば過去のことでしかないのだ。

 

 その過去のやらかしが、時を超え『刃』となって襲いかかってきた。

 

「ッ!! さ、酒寄にはっ!? 酒寄に伝わってないよなっ!?」

 

 芦花の両肩に手を置き、必死の形相で確認を取る真司。頼むからそうであってくれと切実な思いが彼の目には込められていた。

 そんな真司に対して芦花は、全てを諦めたような表情で首を横に張った。

 

 その瞬間、真司の脳はとある言葉を思い出す。

 時を遡ること40分ほど前。親友であり上司である酒寄彩葉はこう言っていた。

 

 

『天野、不在着信が入ってたからちょっと連絡してくるね。後は任せて良い? 先に帰ってて良いからさ』

 

 

 ()()()()

 

 それが誰からの着信なのか、考えるまでもなかった。

 

 

「──天野。早かったね。……()()()()

 

「ヒッ」

 

 

 身体の奥から飛び出した恐怖の声と共に、真司がゆっくりと振り返る。

 そこにはタクシーから降りて来た彩葉の姿があり、そのまま真っ直ぐに真司と芦花の目の前にまで近寄って来た。

 

 顔は笑顔だが──笑ってはいない。

 

「さ、酒寄っ! 色々と誤解してることがあると思うんだっ!」

「何が? 私、まだ何も言ってないけど?」

「かぐやちゃんとヤチヨから何を聞いたかは知らないけど、俺は決して酒寄達を悲しませるような──」

「天野。いいから。話はこの後、ゆっくり部屋で聞かせてもらうから。──ねっ?」

「…………はいっ」

「ごめんね……真司くん」

 

 彩葉の手が肩に置かれた瞬間、真司は死んだ目で全てを受け入れた。

 芦花に出来るのは、ただ手を繋いでいることだけだった。

 

「あっ、おかえり〜! ……待ってたよ? 真司♡」

「あははっ、()()()()()()()()()()の真司だ〜っ。お仕事お疲れ様☆ パーティの前に……大事なお話、しようね?」

 

 かぐやとヤチヨに出迎えられ、真司はガタガタと震えながら部屋に入った。

 愛娘である遥は怯えている父の顔を不思議そうに見ている。これから始まる惨劇(お説教)の恐ろしさなど、幼子である彼女が知るはずもない。

 

「……芦花。遥の相手を、してやってくれ。……多分、1時間はかかる」

「……う、うんっ。……ほんっとうに、ごめんね……」

 

 正座した真司を、彩葉・かぐや・ヤチヨの3人が取り囲む。

 芦花は罪悪感に押し潰されそうになりながら、遥を腕に抱いて別室へと移動した。

 

 3人による説教は1時間どころか3時間を超え──真司にこれ以上ないほどのお灸を据えることになったのだった。

 





以上!番外編第9弾でした!

「THE FIRST TAKE」の『ray(超かぐや姫version)』本当に神でした!マジで最高でした!もう一回映画を観たくなっちまった!生きるのは最高だっ!
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