親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい 作:スイートズッキー
7月20日の金曜日。今日は終業式だ。
明日から高校生になって初めての夏休みに入る。
バイトと自習と夏期講習で予定がほぼ埋め尽くされているから、忙しい毎日なのは確定しているけど、私だって『遊びの時間』を作らないわけじゃない。マジなエリートは遊びも疎かにしないものだからだ。
芦花と真実の2人と一緒に出かける約束をしているし、下校中の今だって2週間ほど前に出来たばかりの友達と肩を並べて夏休みの予定を話している最中だ。
私にとって初めて出来た
「天野くん。夏期講習は何日のやつに出るか決めた?」
特に待ち合わせをしているわけじゃないけど、天野くんと友達になってからはたまにこうして下校中に並んで歩くようになった。帰る方向が一緒なので、それなりの時間を過ごすことが出来る。学校じゃとても話しかけられる雰囲気ではないので、この偶然にはちょっとだけ感謝した。
ほとんど私から声を掛けていたんだけど、ここ最近は天野くんからも声を掛けてもらえるようになった。それが何となく、嬉しかった。
話しかけてきたのが私だと分かるとすぐにヘッドフォンを外してくれるのも……なんか可愛い。
心を開き始めてくれているのがよく分かって、ちゃんと友達になれたような気がしたから。
「え、えっと……まだ決めてないよ。宿題終わらせてから考えようかなって」
「あーっ、それもそうだよね。私も早く終わらせないとなぁ。自習の時間とかで進めてたから、明後日ぐらいには全部終わりそうなんだけどね」
夏休みの宿題は早めに終わらせないと、私のやりたい事が出来ない。進学校だから宿題の量も多いし、早めに手を付けるに越したことはないのだ。
夏休み前は授業でも自習の時間が増えてくれて助かった。
「は、早いね……酒寄さん」
「天野くんは? 進み具合はどう?」
「俺は多分……来週ぐらいには終わる、かな?」
「あははっ、天野くんも十分早いよ。……あのさ、夏期講習なんだけど、良かったら一緒に行かない? 予定が合う日だけでも良いからさ」
芦花と真実は夏期講習を受けるつもりがないみたいだし、友達がいてくれるなら私としても居心地が良い。
天野くんは私のテスト学年一位の座を脅かす学年二位の実力者だし、追い抜かれないためにも一緒に勉強しておきたいところだ。……なんて、小狡いことを考えてしまうぐらいには彼を警戒している。この間のテストでも総合の点数差は8点ぐらいだったし、本気で怖い存在だ。
天野くんは私からの提案に驚いた様子で視線を泳がすと、首にかけたヘッドフォンを触りながら小さく頷いた。
「さ、酒寄さんに合わせるよ。……俺は大体、暇してるし」
「本当? ありがとっ。じゃあまた予定が決まったら連絡するね。──あっ、そうだ。今度のミニライブチケット、握手券はどうだった?」
1週間後に行われる予定のヤチヨのミニライブ。
私も天野くんもチケットは確保済みなので、見に行くことは決まっている。それはそれとして気になるのが、『握手券付き』かどうかだ。私は見事に……外れていた。
「……外れたよ。これで12連敗」
「そ、そっか……ちなみに、私も外れてた」
倍率が高いとはいえ、ここまで外れ続きだと流石に可哀想に思えてしまう。
物欲センサーが強すぎるのかな? 彼もまた、私に負けないぐらいの熱量を持った
まあ、だからこそ短時間で仲良くなれたんだけどね。共通の話題、それも最愛の推しとなれば話も弾む。同担拒否ではない者同士、仲良くなるのは必然だった。
「……な、中々当たらないもんだよね」
「本当にね。でもまあ、ライブのチケットが当たっただけでも幸運って考えなきゃ。夏休みに入ってすぐだし、ライブ楽しみだなぁ」
「今回こそはあの曲……『Remember』を歌ってくれると良いね」
「分かるっ。密かに期待してるんだけどね〜」
ヤチヨのデビュー曲である『Remember』。
何故かこの曲だけライブでは一度も歌われたことがないので、今回こそはとライブの度に期待している。
1番好きなヤチヨの曲がこの『Remember』で同じだったことも、天野くんとすぐに仲良くなれた理由の一つだ。
「そうだっ。良かったら一緒にライブ行かない? 【ツクヨミ】で待ち合わせしてさ」
「えっ……」
「あっ、ごめん。ライブは1人で参加したかった?」
「ち、違う……! その、俺……誰かと一緒にライブに行ったことないから……俺のせいで酒寄さんがつまらない思いをしないかなって」
「ええっ!? しないしないっ! ……それに私だって、誰かとライブなんて経験ないよ? 芦花も真実も、ヤチヨ推しってわけじゃないし……天野くんと一緒なら楽しいかなって思っただけ」
「……っ! ……じゃ、じゃあ、一緒に……行きたい」
「うんっ。ライブがもっと楽しみになってきたっ。ありがとね」
まだ2週間程度の付き合いだが、天野くんについて色々と分かってきたことがある。
まず彼は──自己評価が低い。
理由は分からないけど、とにかく自分を下げるような発言をするのだ。
今だって自分のせいで私がつまらない思いをしないかなんて心配をしていたぐらいだし、筋金入りのネガティブと言ってもいい。
私から誘ってるわけだし、そんなこと気にしなくても良いんだけどな。……なんて言っても、すぐには分かってもらえないと思う。
多分、このネガティブは彼が元々持っていたものではなく、これまでの人生で積み上げてしまったものだからだ。
その証拠に会話をしていればよく笑うし、相槌も話題の振り方もスムーズだ。そもそも最初からネガティブな人なら、あんな風に声を掛けた私と友達になってはくれないと思う。
落し物を探す時も真剣に手伝ってくれたし、優しい人であることはよく分かってるつもりだ。
推しについての語り合いという部分は大きいけど、それを差し引いても天野くんとの会話は純粋に楽しい。
なんと言うか、彼と話すのは気楽だ。見栄を張る必要も、取り繕う必要もなくて、自然体の自分でいられる気がした。天野くんが聞き上手というのもあると思う。
だからもっと仲良くなりたくて、ライブにも誘ってみたわけだ。断られなくて良かったと安心したのは、胸の内に留めておくとしよう。
明日から始まる夏休みでも、何か遊びに誘ってみようかな。お金がかかるような遊びは無理だから……やっぱり『スマコン』を使ってゲームとかが候補になる。貧乏学生でも自由に遊べる仮想世界には本当に頭が上がらない。
「天野くんはさ、『KASSEN』とかやってる?」
「ッ! ……い、一応やってるよ。……『SETSUNA』ぐらいしかやったことないから、複数人でプレイする他のモードは素人同然だけど」
おっ、どうやらゲームのお誘いは出来そうだ。『SETSUNA』なら私もそれなりにやれるし、今度対戦してみたいな。他のモードをやったことないってぐらいだし、結構強いのかも。
「じゃあさ、夏休み中に対戦しようよ」
「……いや、それは……」
「言っておくけど、私から誘ってるんだからね? つまらない思いをさせないか、なんて心配は必要ないから」
「……酒寄さんが、良いなら。……俺も、友達とゲームはしたいし」
「うん、決まりっ。安心してよ。『SETSUNA』は年単位でやり込んでるし、天野くんにつまらない思いをさせることはないと思うからさ」
「……ははっ、そっか。それは……楽しみだな」
相変わらず下手な作り笑いを浮かべながら、天野くんは私からの提案を受け入れてくれた。
何となくだけど、相当自信がありそうだ。……時間が空いたら『SETSUNA』の練習をしておくべきだろう。私とてゲーマーの端くれ、ゲームで負けるのは大嫌いだ。
同じ電車に乗り、同じ揺られ方をしながら他愛もない話をする。
数分もしない内に、私が降りる最寄駅が近付いて来た。アナウンスされる駅名を聞いて、少しだけ残念に思う。先に降りるのは、私の方だ。
僅かに、それでも確かに感じた寂しさのせいで、私の中に欲が湧き上がる。
隣に立っている彼と、もっと仲良くなりたい。柄にもなく、素直にそう思った。
「……ねぇ、天野くん」
「ん? な、何?」
「夏休みさ、私の友達とも会ってみない? 芦花と真実っていう子達なんだけど、2人とも良い子だからさ。きっと天野くんとも仲良くなれると思う」
「……えっ?」
「それと『さん付け』もやめて欲しいかな。私も……天野って呼びたいから」
「……ええっ?」
「じゃあね。また連絡するから」
「…………」
最初に聞き間違えたかという顔をして、次に理解した上で驚いた顔をする。そして最後に──天野は絶句した。
表情が豊かな方じゃないのに、何故かどういう感情をしてるのかはよく伝わってきて面白かった。
電車を降りて、ホームから電車内の天野に視線を向ける。
慌てた様子でスマホに指を走らせていたので、恐らくは『友達の友達に会う時』とか『友達 呼び捨て』とかで検索をかけているんだろう。ただの予想だけど、正解な気がしてまた笑えた。
「……夏だなぁ」
駅を出ると、蒸されるような日差しと熱気が襲ってきた。
夕方からはバイトだし、早く家に帰って宿題に手を付けよう。今年の夏休みを上手く使えるかどうかで、来年の夏休みの過ごし方も見えてくる。友達が3人も出来たことだし、なるべく遊びたい。
「……さて、頑張りますか」
中学の時には感じなかった高揚感に突き動かされながら、私は高校生活で初めての夏休みに入った。
忙しくも充実した毎日を過ごし、夏休みも既に半分ほどが消化された。
7月から8月に入り、季節は夏の真っ只中だ。節電のためとは言え、エアコン無しは流石に厳しくなってきた。慣れろ、慣れるんだ私と念を込めながら扇風機で生きる日々。早く身体が適応して欲しいものだ。
暑さ以外に問題は特になく、宿題は終わったしバイトも完璧。
夏期講習も事前に考えていたプラン通りに参加出来ているし、ここまでの夏休みは順調の一言だ。
睡眠時間を削るしかない状況なのが少し不安だけど、まだ若いから平気だろうと無理矢理自分を納得させる。……でも後1時間は多く寝たいなぁ。
私はそんなことを考えながら、トレーの上に置いてあるポテトを手に取って口へと運んだ。揚げたてだからかサクサクしていて美味しい。
誰もが知ってるファーストフード店の2階。イートインの机にて、私は同じ夏期講習に参加していた友達と軽いお疲れ様会をしていた。時刻が午後1時ということもあって、小腹が空いていたのも開催理由の一つだ。
私の目の前に座っている男子生徒──天野は3つのハンバーガーをあっという間に完食すると、まさかの追加注文で2つのハンバーガーとコーラを買ってきた。
男子高校生の食欲が凄いって話は聞くけど、実際に見ると本当に凄いな。ポテトだけで我慢してたのにお腹が減ってきたじゃないか。
「……さ、酒寄。悪いんだけど、バーガー1つ食べてくれないか? いけると思ったんだけど、炭酸で腹が膨れちゃって……」
そう言って天野は申し訳なさそうな顔で、ハンバーガーの入った包装紙を私に差し出してきた。ご丁寧に味が違うからどっちが良い? なんて選択肢まで出してくる。流石の男子高校生でも4つが限界なのか。
「……んーっ、どっちが安かった? あんまりお金ないから、安い方を貰いたいんだけど」
「い、いやいや! お金とか要らないからっ! 俺が頼んで食べてもらうんだしっ」
「でもさ──」
「絶対に受け取らないからっ……!」
「……分かった。じゃあ、テリヤキの方を貰おうかな。有り難く頂きます」
私が折れると、天野は分かりやすく表情を緩めた。
顔に出すぎ。多分、普通に5つ目も食べられるなコイツ。満腹のフリまでして私に奢ろうとするなんて、随分と懐かれたものだ。……いや、最近は本当に懐かれたと思う。事あるごとに食べ物を与えてこようとするし、複数持ってるヤチヨのグッズとかまでプレゼントされそうになっている。
どうやら1週間前に会ってもらった芦花と真実から私の事情を聞いてしまったらしい。
私が学費と生活費を自力で稼いでいる貧乏学生だということを。
頭の良い天野のことだ。私の生活リズムと食生活の乱れをすぐに理解したんだろう。私の親かってぐらいに甘やかそうとしてくる。──いや、甘やかされた記憶がほとんどないから分かんないけどさ。
……そんなつもりで芦花と真実に会わせたわけじゃないんだけどなぁ。
「さ、酒寄……美味い?」
「うんっ、テリヤキって久しぶりに食べると美味しいよね」
「……良かった」
くそう。こんな顔されたら文句も言えない。
そして甘めのテリヤキソースがめちゃくちゃ美味しい。柔らかいパンとお肉とレタスが口の中を幸せにしてくれた。お腹減ってたから余計にだ。天野がここまで計算してたのなら、私の完敗である。黙って奢られるとしよう。
「……ごちそうさま。ありがとね、天野」
「……いや、お礼を言うのは俺の方だし。食べ物を無駄にせずに済んだよ。ありがとう」
まだ下手な芝居で騙せてると思ってるところが、なんか可愛いんだよなぁ。
……なんだろう、この気持ち。
不器用な息子を持った母親?
仲良くなりたいと思った相手と仲良くなれて嬉しい?
普段は控えめなくせに意外と強引なところに驚いてる?
自分でもよく分からないけど、天野との距離が縮まってくれたことは確かだと思う。さん付けもすぐに外してくれたし、芦花と真実とも仲良くしてくれそうだった。
最初の方こそ私の背中に隠れてたけど、最後には連絡先を交換するぐらいにはなってくれたのだ。友達同士が仲良くしてくれるのは、私としても嬉しい。
ヤチヨの話で盛り上がれる貴重な友達だから、1番会話を重ねてるのはやっぱり私なんだけどね。
男の子とメッセージのやり取りなんて家族以外でしたことないのに、もうお兄ちゃんとのトーク履歴の文字数を超えそうな勢いだ。家で勉強中とかも通話を繋げたりしてるし、ちょっと話しすぎか……?
勉強中は静かにしたいタイプだけど、天野はその辺も私と相性が良いんだよなぁ。一区切りつくまで無駄なことは口にしないし、切り替えも早い。
1人静かに机に向き合っていた頃よりも、天野と通話を繋げている時の方が効率的に勉強出来ている気もする。文系の私と違って天野は理系だし、得意分野を教え合えるのも有り難いことだ。
出会ってから約1ヶ月。私の中で天野の存在は、とても大きなものに変わっていた。
「ねぇ、天野。ヤチヨの新曲もう聴いた?」
「聴いたよ。めっっっちゃ……良かった」
「分かるっ。なんか新しいジャンルに挑戦したって感じだよね。最初聴いた時はヤチヨっぽくないかなって思ったんだけど、3回聴いてからは自然に受け入れられたって言うか……とにかく最高だった」
「わ、分かるっ。歌い方も今までのとは少し変えてたよな。荒々しいって言うか、ワイルドって言うかさ。『理不尽な怒り』をイメージして作られた曲っていうのも納得した」
夕暮れの帰り道で、並んで歩きながら推しへの愛を語る。
楽しいなぁ。天野とこうして話してる時だけは、他の大変なことを全部忘れられる気がした。勉強も、バイトも、お金のことも、頭から消えちゃうぐらい話すのが楽しい。
さっきは懐かれたなんて考えたけど、第三者から見れば私も天野に懐いてるように見えるよね。そう思うと、少しだけ恥ずかしい。
それでも、まだたった1ヶ月の付き合いだ。お互いに隠していることはあるし、言えないこともある。私の場合は芦花と真実に一人暮らししていることを暴露されてしまったから、酷い食生活と貧弱な睡眠時間ぐらいしか隠すことはないけども。
天野はなんというか……自分のことをあまり話さない。
自己評価が低い彼にとって、話すべき内容ではないと思い込んでいるのかもしれない。
だからこそ、毎日少しずつではあるけど自分のことを話してくれるようになってきたのは嬉しい変化だ。
その中でも特に驚かされたのは──やはり彼がプロゲーマーだったことだろう。
「……なんか、異常に強いとは思ってたんだよね」
「……黙ってて、ごめん」
もう4回目になる【ツクヨミ】内での天野との『SETSUNA』。
仮想空間での自分──アバターの姿同士で対戦フィールドである野原に座りながら、私は天野と月を見上げて話していた。
ここまでの戦績は16戦中私の13敗。勝ち取った3つの白星ですら、手加減されていたんだろう。さっきの勝負で手を抜かれている確信を持ったので問い詰めたら、プロゲーマーだったことが判明したのだ。
「別に謝ることはないけどさ。自分から言うことでもないと思うし。……でも、手加減されてたのは嫌。ゲームは本気で遊ぶから面白いの。それはもうやめて」
「……本当にごめん」
「負かし続けたら嫌われるとでも思った? なんて、流石にないか」
「…………」
「えっ、そうなの?」
小さく頷いた天野を見て、地雷を踏んだかと反省した。
確かに、友達がいなくなる強さではある。一緒にゲームしてた時はどこか私の顔色を伺う様な様子も見せていたし、過去のトラウマにも関係あるのかもしれない。
でも、そんな風に見られていたとは不本意だ。
私はそこまで子供でもないし、負け続けるから友達をやめるなんて判断をするほど諦めが悪くもない。
「天野。凄いことなんだよ? プロゲーマーになってるってことはさ」
「……でも、勝てなきゃつまらないだろ。……俺、手加減下手だし、すぐにバレる。そしたら……もう嫌われてる」
「私も? 天野を嫌いになるって思ってる?」
「さっ、酒寄は……! いつも、楽しそうに俺とゲームしてくれるから。……初めてなんだ、こんな風に友達と遊ぶの。だから……大切にしたくて」
まるで小さな子供のようだ。
別に怒ってもいないんだけど、私を大切に思ってくれていたというのは十分伝わってきた。
「大切にしてくれるなら、手加減なんてしなくて良いの。私は天野と『対等』な友達でいたいから」
「……対等?」
「そう、対等。だから遠慮なんかしなくていいよ。さっきも言ったでしょ? ゲームは本気で遊ぶから面白いの」
「……ッ!」
「私は天野と、本気で遊びたい。天野は……違う?」
「……お、俺も……同じだよ。酒寄と、本気で遊びたい。……大切な友達だから」
どうやら納得してもらえたようだ。
私は立ち上がって、武器を構える。このままもうひと勝負だ。お金も払わずプロゲーマー直々に相手してもらえるなんて最高じゃないか。少しでも技術を吸収して、腕を上げてやる。
そしたら、天野も本気を出してくれるよね?
「……酒寄」
「ん? なに?」
「…………ありがとうっ」
「どういたしまして。もう二度と手を抜いたりしないでよね?」
「……ああ、もうしない。本気でやる」
こうしてまた一つ、天野と仲良くなれた気がした。
その分、懐かれ具合も加速したんだけど、純度100%の厚意だからとても断りにくい。ご飯を奢ってきたり、使わなくなった家電を渡してきたり、天野はどうにも貢ぐタイプだった。将来、悪い女に騙されないか心配になってしまう。
でも『SETSUNA』の大会で上位入賞を果たしたプレイヤーだけが貰えるヤチヨのレアグッズをプレゼントしてきた時は流石に注意しておいた。それはやりすぎだ。私もつい受け取っちゃいそうになるから、本当にやめて欲しい。
夏休みも終盤に入り、新学期が迫ってくる。
今までの人生で1番楽しい夏休みだった。まだ終わってもないのにこの評価だ。自分でも笑えるぐらいに楽しい日々を送れてた。
……まあ、遊ぶためには最低限のお金が必要なわけで。
その分バイトの量も増やしちゃったから、身体の疲労は常にピークだった。
天野にも芦花にも真実にもバレたくない。余計な心配をかけたくないし、これは私が自分の意志でやっていることの代償だから。
「酒寄っ! おはよう。今日の講習もよろしくなっ」
「……うんっ。よろしく」
天野が楽しそうにしてるのを見ると、私も嬉しかった。
──さあ、踏ん張りどころだ。
友達に心配をかけないためにも、私はいつも通りの私でいなきゃダメ。
どこか
こうして、親友のためなら何でもやるマンが誕生したのであった。
スパダリがこんがり脳を焼いてきたからね、仕方ないね。
生産者は酒寄彩葉です。