親友のスパダリに勝ってハッピーエンドを迎えたい   作:スイートズッキー

4 / 36
4話 月から来た超新星ライバー

 

 

「……本当に、この子があの赤ちゃんなのか」

 

 明後日に終業式を控えた平日水曜の朝、俺は学校に行く前に酒寄のアパートで現実離れした現実に直面していた。

 目の前に立っている少女はどこからどう見ても人間だ。しかし、本人は月から来たと言っているらしいし、数日前まで赤ちゃんだったのは俺が自分の目で確認している。なんならミルクも作ったし、オムツだって変えた。

 

 その赤ちゃんが──()()()()()()()()()()()()()()()

 

 混乱しないはずがなかった。

 

「その赤ちゃんだったかぐやだよっ! 真司っ! これからよろしくね☆」

 

 昨日の夜に【ツクヨミ】で見た姿によく似ていた。

 サラサラの金髪に白すぎる肌。アバターに引けを取らない可愛らしさだった。

 

「よ、陽キャだ……陽キャのかぐや姫だ……!」

「天野、気持ちは分かるよ……」

「やっぱり地球外生命体だったのか……まあ、ゲーミング電柱から出て来た時点である程度は察してたけど」

「そうみたい。……言う必要ないと思うけど、秘密にしてね」

 

 言っても誰も信じてはくれないだろうが、頷いておいた。

 

「初めて世話した赤ん坊だった子が解剖されるなんて、絶対に嫌だしな」

「確かにね。……それはそれとして、昨日のライブで発表された『ヤチヨカップ』に出場する気みたい。やる気に満ち溢れてるもん」

「優勝者はヤチヨとコラボ出来る特典付きのやつだな。言うまでもなく激戦だけど……あの調子じゃ本気で優勝目指してるっぽいな」

 

 優勝するぞーって張り切りながら、企画書みたいなやつを書き込んでいる。そこに無理だとか無茶だとかいう躊躇いは一切なく、見ていて清々しさすら感じる猪突猛進ぶりだった。

 

「ま、まあ? 競うのは総合のファン数じゃなくて、獲得出来た新規ファンの数だもんな。期間は一ヶ月だけど、夏休みに思いっきり被ってるし……ワンチャンあるかもな」

「だよねっ! 真司分かってるぅっ! 彩葉もプロデューサーになってくれたし、絶対優勝するんだーっ!!」

「だから調子に乗せないでよっ! 天野、責任取ってくれるの!?」

「す、すまん。……でもさ、こういうのってやってみなきゃ分からない、じゃん? やらなきゃ何も始まらないっていうか。行動しなきゃ……あれ、なんかブーメランが」

「勝手に自滅しないでよ……はぁ、まあ、天野の言い分もそうなんだけどさ」

 

 何に人気が出るか分からない世界だ。

 あんな波乱万丈の面白生命体が配信なんてしたら──マジでワンチャンあるかもしれない、とは思う。

 

「月から来た新人ライバーのかぐや姫……か」

 

 もしかしたら俺は、伝説誕生の瞬間に立ち会っているのかもしれない。

 そんな高揚感に胸を揺さぶられながら、面白そうなんで俺も協力することにした。

 

「よろしくな。酒寄プロデューサー」

「もう……勘弁してぇぇ」

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 ワンチャンあるかもしれない。

 それはただの予感で、ただの期待で、無意識な気休めにすぎなかったと思う。

 

 しかし、かぐやちゃんの快進撃は俺の想像を遥かに超えるものだった。

 宇宙人だから地球人の常識なんてない。故に、恐れるものなど何もない。面白いと思ったことを片っ端からやり続け、輝くような笑顔を振り撒いた。

 

 パクリだとか、手抜きだとか、そんなことお構いなしの怒涛の配信。

 こういう活動において最も重要なのは()()()()()()。下手な鉄砲で結構、打ちまくれば必ず当たるのだ。

 

 そして幸運なことに人を惹きつける魅力という点において、かぐやちゃんは天才だった。

 楽しそうに、そして嬉しそうに配信する姿に救われる視聴者は少なくない。酒寄のプロデュース力も相当なもので、『かぐや・いろP』コンビは飛ぶ鳥を落とすどころか、空に浮かぶ月にまで届きそうな勢いで人気ライバーへの道を駆け上がって行った。

 

 夏休み中盤の現在、ランキング順位は180位。

 半月で8000位からここまで来たのはとんでもない快挙だが、かぐやちゃんが目指している優勝にはまだ程遠い。

 当然、かぐやちゃんは日に日に焦りを見せており、どうすればもっと数字が伸びるのか考える毎日を過ごしていた。

 

 ──開放的な海に来ても、渋い顔でスマホと睨めっこだ。

 

「天野くん。はい、焼きそば」

「あ、ありがとう。綾紬」

「天野っち〜、芦花の水着姿に鼻の下伸ばしちゃダメだよ〜?」

「ええ〜? そうなの? 天野くん」

「ちっ、ちがっ! そんな目で見てるわけないわけないじゃないかっ!!」

「んーっと……どっち〜?」

「あははっ、天野くん。面白いっ」

 

 砂浜に広げたレジャーシートの上で2人の美少女に揶揄われる。男としては幸せすぎるが、その揶揄い方は心臓に悪いどころの話じゃない。

 いや、本当に見てないぞ? 俺の目に綾紬の水着姿は眩しすぎる。

 

「そういえば感想聞いてないね〜。天野っち〜、我々の水着はどうかね〜?」

「あっ、聞きたい聞きたい。男子の意見を聞ける機会なんてないもんね」

「ひぇっ? あ、綾紬は黒色がすごく似合ってると思う。水着のデザインも、その……可愛いしな」

「えへへっ、ありがとう」

「あれ〜? 私はー?」

 

 よし頑張った。俺はちゃんと言ったぞ。少し噛みそうになったけど、伝えられたぞ。レベルが上がった気がする。

 

「でもさ〜、私より彩葉の方が可愛いんじゃない? ねー、彩葉。天野くんから感想貰っときなよ〜」

「えー、いいよ別に。天野だって困るでしょ?」

「まあ、そうだな。確かなのは可愛いってことぐらいだし、具体的な感想となると……」

「……あ、あのね。そういう恥ずかしいことは……いや、何でもない」

「? 何だよ?」

「何でもないって」

 

 ありきたりすぎる意見しか言えなくて怒らせてしまったのか、酒寄は少しだけ顔を赤くするとビーチパラソルの下に置いたビーチチェアに座り込んでしまった。

 

「……というか、本当に俺もついてきて良かったのか? そこだけが心配なんだけど」

 

 前々から約束していた今回の遊びだが、未だに来て良かったのか不安になってしまう。女子4人に対して男1人だし、場違い感が半端ではない。

 そんな俺の疑問に最初に答えを返してくれたのは、隣に座っている綾紬だった。

 

「え、良いに決まってるじゃん。ねっ? 真実」

「うんうん。男子がいてくれるとナンパもされないしね〜」

「……じゃあ、諌山の彼氏も連れて来てくれたら良かったのに」

「私の彼氏、人見知りするからさ〜。あっ、天野っちのことは説明してあるから平気だよ〜。人畜無害の優しい友達だって」

「その説明で大丈夫……なのか?」

「大丈夫だよ〜。彩葉だって天野っちに来て欲しかったよね〜?」

「むしろ何で来ない発想があるのか分からない。友達と遊びに来るのは当たり前でしょ。マジなエリートは遊びも疎かにしないもんだよ?」

「それで睡眠時間を削ってるのは……でも、そうだな。誘ってくれてありがとう。友達と海に来るのなんて初めてだから、正直めっちゃ楽しい」

 

 なるべく思ったままの考えを伝えると、酒寄は満足そうに頷いてくれた。

 綾紬と諌山も笑いかけてくれるし、なんだこの暖かい場所は。夏の日差しがやけに穏やかに感じてしまった。

 

 

「──ゆ゛う゛じょうじたい゛〜〜〜ッ!!!」

 

 

 美少女の口から出たとは思えないかぐやちゃんの声のせいで、少しだけ冷静になってしまったが。

 

「でもさー、この間の歌配信めっちゃ良かったし〜」

「オリジナル曲も良かったよね〜! 天野くんも協力してるって聞いたけど、ひょっとして?」

「いやいや! あれは酒寄が作ったやつだよ。俺はただ飯を作りに行ったり掃除したり、かぐやちゃんにゲームを教えてるぐらいだからさ。大したことはしてないよ」

 

 そう、マジで大したことはしていない。何かを生み出すなんて才能、俺にはないのだから。

 

「ちょっと天野、余計なこと言わないでっ。……後、めちゃくちゃ助かってるんだからね? 大したことあるから。そこだけは間違えないで」

「わ、悪い。気を付ける」

 

 いつでも酒寄は優しいな。

 勉強にバイトに曲作り、更にはかぐやちゃんの配信にアバターバレ防止のための着ぐるみ付きとはいえ出演しているのだ。

 激務続きなのに俺のことまで気遣ってくれるなんて。どこまで良いやつなんだ、このスパダリは。

 

「でも、やっぱり酒寄は凄いよ。同じ人間とは思えないもんな」

「分かる〜。彩葉、可愛い上に天才すぎ〜」

「やっぱりここは彩葉が着ぐるみを脱いで新たな需要を……あーっ! 今の嘘っ! ごめんなさいぃぃいっ!」

 

 得意気で提案した諌山から焼きそばを取り上げ、酒寄が残っていた分を一瞬で口に放り込んだ。

 ムカついたらしい。容赦ない一気食いに少し笑ってしまった。

 

「諌山、新しいの買って来ようか?」

「ほんとっ!? 天野っち!」

「甘やかしたらダメだよ〜、天野くん。今のは真実が悪いんだからね」

「そ、そうだな。すまん、諌山。今のなし」

「あぅっ……反省します」

 

 げっそりと肩を落とした諌山を見て、綾紬がクスクスと上品に笑った。可愛い、いつまでも見ていられる。ファン数17万人越えの美容系インフルエンサーは伊達じゃないな。

 ちなみに俺のファン数は2万人と比べ物にならないほどに低い。どれだけ実力が高くても、視聴者を楽しませられなければこんなもんだ。俺は別に面白いトークも出来ないし、魅力的な個性もない。こんな俺のファンになってくれた2万人を大切に、これからも頑張っていきたいと思います。

 

「ねぇねぇ、真司ぃーっ! どうすればもっとファンがついてくれるかなー?」

「うおっとっ、ビックリした。……そうだなぁ、やっぱり歌とゲームじゃないか? 人気ライバーとコラボするのが手っ取り早くはあるけどなぁ」

 

 背中から抱きついてきたかぐやちゃんに、パッと思いつく限りの提案をする。やはり需要のある部分で攻めるのが最も効率的だと思う。

 くそっ、俺がもっと人気になれていれば……! 自分のエンターテイメント力の低さが恨めしい。

 

「……天野くん、かぐやちゃんとも仲良いんだね」

「えっ? あ、ああ。そう、かも? よく引っ付いてくるなぁとは思うけど」

「真司の背中ちょうど良い大きさで好きなんだよねぇ〜。真司はかぐやのファン第一号だから超仲良しだよっ! まあ? かぐやと彩葉の仲良しに比べたらボロ負けだけどねっ!」

「はいはい、2人には勝てないよ」

「ふふんっ。分かってれば良いのだよ」

 

 俺の返答を聞いてかぐやちゃんは満足そうに笑った。

 赤ちゃんの頃を知っているからか、妹のようにしか思えない。生意気な口を叩かれても可愛いなという感想しか出てこないぐらいには懐柔されてしまっている。

 

「また天野はそうやってまた甘やかすんだから。たまにはしっかり言わなきゃダメだよ?」

「いやいや、酒寄とかぐやちゃんの仲には敵わないって。一心同体っていうか、運命共同体っていうか」

「うんうんっ! 私達は最強だからっ!」

「ほら調子に乗った。……天野だって、私と仲良いじゃん」

「あははっ、ありがとう。俺だってそこを譲るつもりはないよ」

 

 万が一酒寄に絶縁でもされようものなら……やめよう、考えるのも嫌になる。もしそんなことがあったら間違いなく原因は俺だしな。

 

「やっぱり、仲良いなぁ〜。彩葉と天野くん。……ちょっとだけ、嫉妬しちゃうかも

 

 波の音に掻き消されそうな小声だったが、俺の耳は確かにその声を拾った。こういう時、プロゲーマーの耳は聞かなくて良い音まで拾ってしまう。

 綾紬が酒寄に向けている感情は恐らくだが……『Like』ではなく『Love』の方。好きな人の好きな人と親友になってしまった俺は、とても複雑な立場にいる。綾紬からすれば、俺の存在は目障りなことこの上ないはずだ。

 それでも、それを表には微塵も出さずに仲良くしてくれる綾紬は優しい。俺が好きになった女子は、とてつもなく優しいのだ。

 

「……コラボかぁ。そうだよっ! コラボだっ!」

 

 突如、背中に引っ付いたままのかぐやちゃんが叫んだ。

 どうやら少しの間静かになっていたのは俺がした提案を吟味していたらしい。

 

「芦花! 真実! かぐやとコラボしよ〜? かぐやに色々教えてぇ〜?」

「あたしは良いよ〜」

「私も〜」

 

 なんて、ゆるーくコラボ決定。

 思惑通り、横の繋がりで数字を伸ばしてくれると良いな。

 

「それで! 彩葉!」

「な、何……?」

「お願い、一緒に配信に出て欲しいの。──それから新曲も作って欲しいし、伴奏もして欲しい」

「ぬあっ……」

「ぷっ」

 

 俺の背中越しから放たれた図々しすぎる物言い。絶句した酒寄が面白くて、バレないように笑った。

 流石はかぐやちゃんと言うべきか、ブルドーザー並みに押しが強い。

 

「そ、それは……」

「このままじゃ優勝出来ないよぉ……。彩葉ぁ、かぐやを助けて……?」

 

 トドメの上目遣いが見事に決まった。決め技をしっかりと打ち込めるなんて、かぐやちゃんには格ゲーのセンスもありそうだ。

 そして俺に対して甘やかすなとか言っていた酒寄だが、俺に言わせれば俺より酒寄の方がかぐやちゃんに甘い。本人に自覚はないようだが。

 

 その証拠に──。

 

「…………ま、まあ? ……時間が空いてたら、ね」

「よしゃーっ! もっともっと配信するぞーっ!!」

 

 瞬殺である。

 砂浜に膝から崩れ落ちた酒寄を見ても、〝やっぱりな〟としか思えなかった。

 

「ちょろはー」

「ちょろはだねぇ」

「これで8戦8敗。おねだり戦争での連敗記録はまだまだ伸びそうだな」

 

 ボソッと呟いただけにも関わらず、崩れ落ちていた酒寄に睨まれた。

 いつもなら怯むところだが、今は全然怖くない。むしろ煽るように笑顔を返しておいた。

 

「……天野。ムカつく」

「全敗少女がなんか言ってる。普段は全力少女なのに」

「……かぐや。……やって」

「りょーかいっ!!」

「えっ? どうした?」

 

 酒寄からの指示にビシッと敬礼したかと思えば、かぐやちゃんが立ち上がって俺の手を取り、海に向かって走り出した。

 思わぬ筋力に抵抗も出来ず、されるがままに海へ飛び込むと、悪い顔をして笑うかぐやちゃんに思いっきり海水をぶっかけられた。

 

「ぶはっ!! ちょっ、顔面に……!」

「わははっ! まだまだ喰らえっ!! かぐやちゃんのスペシャルウェーブッ!!」

「かぐや! 左から狙って! 私は右から攻めるっ!!」

「ちょっ、ちょっと待て! 2人がかりは……ぺっ、口に入った! タイムタイム!!」

 

 俺の制止など聞くはずもなく、酒寄とかぐやちゃんは容赦なく水をかけ続けてきた。

 俺は瞬時に戦略的撤退を決め、慌てて海から出ようと砂浜へ向かって走ろうとした。──のだが、酒寄はそれを予想していたらしく、俺の右腕に抱き付いて逃走を阻止してきた。

 

「ゲッ! ちょっ、ちょっと待てっ! 酒寄っ! 今めっちゃ鼻に水が──」

「かぐや! いくよっ!」

「よしきたぁっ! 任せんしゃーいっ!」

 

 そしてすかさず左腕もかぐやちゃんによってロックされた。

 ダブル水着美少女による完全拘束。下手に強く逃げようとすれば爪などで肌を傷つけてしまう恐れがあるため、力任せに振り解くことは絶対に出来ない。つまり、脱出不可能というわけだ。

 

「ま、待ってく」

「問答無用っ!」

「必殺のダブルアターック!!」

「ぐべぇらぁっ!!」

 

 降参の言葉を叫ぶ暇もなく、俺は2人によるバックドロップで背中から海へと叩きつけられた。

 そして夏の空を彩る──高い水飛沫を上げたのだった。

 

 




 主人公プロフィール

 『名前』 天野(あまの)真司(しんじ)
 『身長』 173cm
 『体重』 62kg
 『髪色』 黒
 『趣味』 ゲーム
 『好物』 友達と食べるご飯
 『プレイヤーネーム』 ムラクモ

 書けちゃったので連続投稿で4話目です。
 水着となると『ray』のMVが良すぎて何回でも見ちゃいますね(笑)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。