とある転生者の受難日記   作:匿名

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3000年前・女神族編
第10話


 

 

 

 

 

 俺って前世で殺された人に会うジンクスでもあるのだろうか。

 

 

 「大丈夫ですか?もう間もなく天界に着きますので、あと少しだけ頑張ってくださいね」

 

 「…………………ハイ」

 

 

 拝啓、我が親愛なる友、マーリンへ。

 

 俺は今、前世で俺を殺した張本人───〈四大天使〉マエルの背中に乗ってます。

 怖くてチビりそうです。助けて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在の状況に至るまでの経緯を、簡潔に整理してみようと思う。

 

・心臓をぶち抜かれて死んだと思ったら、案の定転生していた。

・森の中を歩いていると──何故毎回森なのか──腹を空かせたオオカミが群れでやってきた。

・俺氏、ピンチ──かと思いきや、上空からやって来たとある女神族によって、オオカミたちは追い払われる。

・その女神族が〈四大天使〉マエルだった。

・俺氏、トラウマが発症し気絶。

・目が覚めると背負われていた←今ここ

 

 前世で殺された相手に、今世では甲斐甲斐しくもお世話をされる自分。多分、ライトノベルでもそんな設定は見たことがない。

 

 「深い森の中で一人……大変だったでしょう。無理をなさらず体を預けてもらっても構いませんよ」

 「あは、あはは……じゃあ遠慮なく……」

 

 コワイ。この人、コワイ。

 俺の知ってる『死の天使』とは全く違う。いや、物腰が柔らかい口調はそのまんまだけど、妙に温かみを感じるというか……。『死が救済』を地で行く人とは思えないっていうか……なんか、滅茶苦茶優しくない?

 

 というか、俺って今どこに連れてかれているの?

 

 「マ、マエルさん、俺たちって今どこに向かってるん、ですか?」

 「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。私は〈四大天使〉ではありますが、特段階級相当の礼儀を求める質でもないなので。それと、今向かっているのは、無論我らの故郷──天界ですよ」

 

 いやー、そういうわけじゃなくてですね……───って、今天界って言った?

 

 「お、降ろしてください!!天界はマズイ!!」

 「……?何がマズイのですか?」

 「いや、だって、だっ……て……?」

 

 『だって、魔神族だもん』と言いかけた時、ふと気づいたことがある。

 この人は魔神族でも有名な『魔神族絶対殺すマン』だ。そんな人が、魔神族を背に乗せ、甲斐甲斐しく世話を焼き、あまつさえ最高神のいる天界に連れて行こうとするだろうか。

 

 そうなると、導き出される答えは一つ。

 

 「あの〜……ちなみに、あなたから見て俺ってどんな種族に該当すると思います?」

 「……ふむ、どうやら錯乱されているご様子。あなたのその誇り高き純白の翼は、偉大なる母──最高神様のご加護そのもの。あなたは我々と同じ──()()()ですよ」

 

 嗚呼、やっぱりね。

 

 今度は女神族に転生したらしい。もう、どういうことなの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────天界。

 

 俺が元いた世界では、天国と地獄といった死後の終着点なる場所があった。

 

 生前、良いことをすれば天国へ行けますよ。

 

 生前、悪いことばかりすれば地獄に堕とされますよ。

 

 人々はその教えを信じ、死後天国へ行けるように、今世で善行を積むようになった───というのが、前いた世界で習った宗教観の歴史である

 

 彼らがどんな天国を思い描いていたのかは分からない。

 しかし、どんな想像であれ、失望することはおそらくない──そんな景色が、眼前に広がっていた。

 前まで魔界にいたこともあって、その格差に涙すら出てくる。

 

 「な、何故涙を流しているのですか……!?まだ負傷した場所が痛みますか!?」

 「あっ、いえ、大丈夫です……」

 

 女神族に伝わる秘術──【健やかなれ】を連発するマエルは、俺の心情を全く汲み散ってくれなかった。

 いや、それにしても過保護すぎィ!?あんたら(〈四大天使〉)の回復術なら、どんな怪我でも一瞬で治せるでしょうが。

 むしろ申し訳なさすら感じてきたよ……。だって、勝手に負傷してると思われてるけど、最初から怪我なんてしてないしさ……

 

 「さて、無事天界に着いたのは良いですが、これからどうしましょうか。まさか()()()()だとは……」

 

 ──もちろん、嘘である。

 記憶喪失どころか、アンタにやられた痛みが今も鮮明に思い出せるくらい鮮度のいい記憶が脳内に保管されている。

 しかし、こちらの方が何かと都合がいい。ボロも出にくくなるし、たとえ出たとしても、『まだ記憶が曖昧ですね(汗)』で済ませられるから。

 唯一の欠点は良心が痛むぐらいだ。使わない手はない。

 

 今の俺は、よくある『名前と世間の常識は知っているけど、その他全て忘れてしまった系』の記憶喪失者だ。それを肝に銘じておかないと……

 

 「これでは自身の家にも帰ることが出来ませんね……」

 「そ、そうっすね……(そもそも家なんか持ってねー……)」

 「しかしご安心を!私が責任をもって必ずご家族の元へ送り届けます!まずは周囲への聞き込み調査からですね!」

 「え!?」

 

 やばいやばいやばいやばいやばい。

 

 今は女神族であるが、前までは人間族と魔神族をやってたので、当然ここに俺を知る人間はいない。

 女神族も数が限られている。順当に聞いていけば、いつか底につく。

 

 誰も知らない──そうなった時、確実に怪しまれるのは目に見えている!

 そして、この事態に対する上手い言い訳が何も思い浮かばん!

 

 「い、いやー、流石にそこまで至れり尽くせりだと申し訳が立たないというか……。そ、それに、マエルさんって偉い役職に就いてる人なんですよね?俺みたいな子供に構う時間なんかないんじゃ……」

 「何を言いますか!子は世界の宝であり、世界の恵みです。不浄なる者の存在を除いては、等しく、我らが母──最高神様の庇護下なのです。その子供を導き、守ることこそ、我ら大人の役目!ですので、どうかお気になさらず」

 

 めっちゃいい人だわさ〜……思わず感涙咽び泣くところだったが、今はその親切心が仇となっているのだよ……!

 

 なんか、ないか?上手いこと、この人の元から離れられる方法は……!

 

 「マエル様ッ!ブリタニア西部の戦線にて苦戦を強いられているとの報があり、リュドシエル様から増援の指令を承っておりますッ!」

 

 どこからともなく飛んできた一般兵らしき女神族が、マエルさんの前で傅いて伝えた伝言に、思わず目を輝かす。

 これは天啓だ!『この現状に打ち勝て』というギフトであると、俺は受け取った!

 

 「兄さんが………しかし、今はこの子を──」

 「行ってあげてください、マエルさん。あなたの力を求める人が、この世界にまだまだいるのでしょう?」

 「カリバーンくん……」

 

 神妙な顔を作り、彼を見上げる。

 そこには困惑と、少しばかりの申し訳なさが、その顔に滲んでいた。

 

 「…………分かりました。直ちに、このマエルが向かうとお伝え下さい」

 「ハッ!」

 「申し訳ありません、あんなことを言った手前、このようなことになるとは……」

 「いえいえ、気にしてませんよ。むしろ、ここまで連れてきてもらったことに感謝しています。本当にありがとうございました」

 

 これは本当だ。あのまま森の中を彷徨っていたら、遅かれ早かれ魔神族のみんなに殺されていただろうから。

 

 ん?オオカミの件はどうしたのかって?

 ………お、俺があんな獣に負けるはずがないだろ……(震え)

 

 「すぐに終わらせてきます」

 

 そう言ってすっ飛んで行ったマエルさんの後ろ姿をしばらく眺め、ひとまず第一の危機を回避できたことに安堵のため息が漏れ出る。

 

 しかし、すぐに第二の危機──この後はどうするのか、といった問題にぶち当たるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー……ごめんなさい、ウチもそこまで余裕があるわけじゃないの。他を当たってくれるかしら?」

 

 

 

 「はぁ!?ただでさえ、聖戦のせいで食糧が底を突き始めてるっていうのに、ガキなんか養えるか!どっか行け!」

 

 

 

 「ほう、養ってもらいたいと………ふむふむ、整った顔つき、それに綺麗な羽じゃないか。これなら高く売れそ──オホンッ。さて、養子の話だったね。もちろん歓迎──あれ、どこ行ったんだい……?」

 

 

 

 世間とは世知辛い、それは女神族も同じであるようだった。

 

 聖戦とは、種族の存亡を賭けた戦いであるため、民族総出の国家総動員で戦いに望む。

 よって、ありとあらゆる資源が前線にいる兵士へと送られるわけだが、その割を食うのが、これまで普通に暮らしてきた一般市民の皆々様というわけだ。 

 物価も上昇し、資源も不足していく。戦時中はお金が増えやすくなると聞いたこともあるが、物がないんじゃ、大量にお金を持っていても何も意味がない。ただの紙切れ、鉄屑と同じ扱いになる。

 

 今の期間は、まるで冬眠前に食糧を蓄える熊のオフシーズンに似ている。

 そんな中、ガキ一人の世話を見る余裕なんて、どこの家もないのだろう。

 

 「しくったな〜、まさかこんなことになっていようとは」

 

 誤算も誤算だ。剣と魔法の異世界でも、社会の荒波には耐えられないということなのだろうか……

 

 「うぅ、お腹空いた……」

 

 家もない、食糧もない、身寄りもない。おまけに寒い。

 

 マエルさんを見て、少しばかり期待を抱いていたのは確かだ。

 だが、やはりあの人が外れ値でお人好しだっただけで、女神族みんながマエルさんのようではないということが分かった。

 

 マエルさんを待って、ワンチャンに賭けて、あの人の家にお邪魔するか?

 いや、あの人なら『ご家族が心配しているはずです!必ず見つけ出しましょう!』と、ありもしない幻想の家族を探し回るに違いない。それは流石に申し訳が立たない。

 それに、どうやら彼にも家族がいるみたいだし、その人のことも考えれば、到底ムリな話だった。

 

 「……眠いな」

 

 この眠気は、大丈夫なやつ……だよな?流石に。

 寒い日に眠たいなんて、低体温症を疑っちまうぜ。

 

 ハハっ。こりゃ、今回の『生』も長くないかもな……なーんて──

 

 

 

 「────そこの童。お主、身寄りがないのか?」

 

 

 

 ふと、溌剌な声が鼓膜を揺すった。

 

 声のした方へ顔を向ける。そこには顔の造形が瓜二つの二人の少女がいた。一人は金髪碧眼の活発そうな少女で、もう一人は茶髪碧眼の大人しめな少女。

 声を掛けてきたのは金髪の子で、ただ俺の顔をジーッと見ていた。それと、何故か隠しきれない悪ガキ感が漂っていた。

 

 「見ての通り、僕は金目の物は持ってないので見逃してくださ〜〜い」

 「集りに来たわけじゃないわ!」

 「じゃあ何しに──」

 

 ぐう、と絶妙なタイミングで、お腹が空腹を知らせてきた。

 それに笑いを堪える二人。生恥を晒してしまった俺は顔真っ赤。さっきまで寒かったのに、今や熱いくらいに顔が茹で上がってしまった。

 

 「ほれ、パンじゃ」

 「え……?い、いいの……?」

 「うむ。精々五体投地で感謝するのじゃぞ!」

 「あ、ありがとう……!」

 

 差し出されたパンをムシャムシャ食べる。

 うめぇ、うめぇよ……!俺、ギンの気持ちがよく分かったよ……!

 

 

 「それでじゃな……お主がよければなんじゃが───」

 「わ、我らと共に暮らさぬか?」

 「はい!不束者ですが、末長くよろしくお願いします!!」

 「はやっ!?提案しておいてあれじゃが、もっと考えるべきだと思うぞ?」

 「いや〜、断る理由なんてないし。それに、お二人とも、とても優しい方なんだって分かりますから」

 「………お主を誑かし、他所へ売るつもりかもしれんぞ?」

 「そう言ってる時点でないですよ。知ってます?本物は上から下まで舐め回すように見てくるんですよ」

 「体験済みじゃったか……」

 

 あの目はしばらく忘れられなそうだ……

 

 「ともあれ、これで晴れてウチの厄介者になることが決まったの!いやー、よかったよかった!」

 「はい!本当にありがとうございます………えっと、名前はなんというんですか?」

 「おっと、これは失敬。まだ名乗ってすらいなかったか」

 

 そう言って、金髪のネーチャンは、茶髪のネーチャンの隣に並び、自己紹介を始めた。

 

 

 「私の名はジェンナ!」

 

 「その妹のザネリだぞ」

 

 「ジェンナさんとザネリさん……俺はカリバーンっていいます!よろしくお願いします!」

 

 

 いやー、一時期はどうなることかと思ったが、なんとかなったみたいで良かったぜ。

 

 

 それにしても、この二人──どっかで見たことがあるような……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にあの子の顔を見た時、我の目を疑った。

 

 人気のない路地裏で、空腹で動けず蹲っていた少年が──私を、私たちを救ってくれた、あの魔神族の子供と瓜二つだったから。

 

 だから、この子に彼の姿と重ね合わせてしまった。

 

 あの子は、もうこの世にいないというのに。

 

 あの子は、我らの前で死に絶えたというのに。

 

 私がこの子に施したのは、身寄りのない子供に対する慈悲などでは断じてない。偽善でもなければ、気まぐれでもない、巨悪よりもよっぽどタチの悪い、泥にも似た願望だった。

 

 「ジェンナさん」

 「ジェンナでよい」

 「じゃあ、ジェンナ」

 「躊躇とはこうもすぐになくなるものなのか?」

 「まぁ、いいじゃ〜ん。それより、何で俺を引き取るだなんて言ったの?」

 「…………お主が、我らの恩人に似ていたから──かのう」

 

 果たせなかった恩返しを、生涯に渡り燻り続ける罪悪感を、愚かにもこの子に奉仕することで、それら諸共消そうとしている。

 

 

 そんな私を──どうか許してほしい。

 

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