とある転生者の受難日記 作:匿名
◇月◆日
俺は異世界転生者・カリバーン。
魔神族として戦場に行き、女神族の軍隊と衝突した。
そこで二人の少女に気を取られていた俺は、背後から近づいてくる一人の男に気づかなかった。
そして、心臓を貫かれ、目が覚めたら──女神族になっていた!
元魔神族とバレたら、また命を狙われる。
正体を隠しながらも、自身を家に泊めてくれる人を探し回る中、とある二人の少女と出会う。
食料を分け与えてもらっただけでなく、一緒に暮らさないかと提案された俺は、遠慮なく彼女たちの家に転がり込むことにした。
たった一つの真実を見抜く!
見た目は子供、頭脳は大人(?)!
その名は、転生者カリバーン!
というのが、大体のあらすじである。
この日記帳も彼女たちにおねだりして譲ってもらった物だし、本当に優しい人たちに拾ってもらってよかったと思う。
俺を拾ってくれた恩人の名はジェンナとザネリ。姉妹だそうだ。道理で顔が似ていると思った。
∵月♪日
今日は服を買いに行った。
女神族の服装は白色を基調としたシンプルで清楚感ある物が多い。赤とか黒とか、色々と混沌とした服装を好む魔神族とは正反対だ。なんなら、闇の力を使って大事なところ隠してるような奴もいるし。痴女か何か?
その点、女神族の服装は常識的で良かったと思う。
そんで、次に武器を買いに行った。ただ、この時一悶着あって……
どうやら二人は俺に武器を持ってほしくないらしい。傷ついてほしくないとか、それが原因でトラブルに巻き込まれたらどうする気だとか、色々言われた。
『過保護すぎやしやせん?』とも思ったが、思えばここまで過保護にされた経験がなかったので、案外悪くないなと思っちゃったのデス。
でも、このご時世、自身を守れる得物はあったほうがいいじゃん?──と根気強く説得し続けた結果、なんとか許しを得た。
もちろん購入したのは片手剣。本当は魔神族時代で使い慣れたあの剣が良かったんだけど、アレは過去の俺と共に紛失したし……
でも、なんとなくすぐに使い熟せるような気がする。
これは何も楽観的で適当な予感ではない。柄を掴んだ瞬間、感覚的にそう思ったのだ。………じゃあ楽観的か。
とりあえず、多分なんとかなるだろう!の精神なので、そこまで気負ってはない。
ただ、俺の片手剣を見た二人の顔が、僅かに曇っていたような気がするんだけど……あれってどういう感情だったんだ?
そんなに武器持って欲しくないのか……
?月@日
剣振るの楽しぃいいいいいい!!!!!
いやー、めちゃくちゃ気持ちよかった!魔界みたいに空気中に毒素が撒かれていないせいかな?めちゃくちゃ空気が美味くて、風も心地良いのなんの!
ただ、ちょっと嫌なこともあった。
誰だよ、あの黒髪長髪糸目野郎。急にやって来て、『振り方がなってない』だの『まだまだですね』だの『その剣技を見てると何故か無性にムカつきます』だの愚痴を言うだけ言って帰って行きやがった。とても胡散臭そうなお兄さんだった。
俺と師匠の剣技をバカにするなよ!サイコロステーキにされたいかってんだ!
というか、なんかあの人そのうち裏切りそう。糸目だし。声も裏切りそうな感じしてたし。
Å月∇日
今日はジェンナとザネリと一緒に天界の郊外に行ってみた。ただの散歩だ。ちょっと外の景色を見てみたくて。
本当は俺だけで行くつもりだったんだけど、二人もついて行くって聞かなくて……
そんなに心配されるようなことしたっけ?
郊外は綺麗でした。あと空気が美味かった。
∵月∞日
マエルさんが稽古をつけてくれた。
今は、悲しいけど、魔神族と戦争中で忙しいだろうからって遠慮したんだけど、マエルさんが意外とノリ気だったので、逆に押し切られてしまった。
マエルさんは剣を使わない。使うのは──ただ、拳のみ。
詳細に言えば、剣なんて得物が必要がないほどの、超圧倒的パワーが彼の武器であるからだ。
えぇえぇ、知ってますとも。あなたのパンチの威力は、よ〜〜〜〜〜くね……
ただ、気になったのは、俺を見るマエルさんの眼差しが、何かを懐かしむような目をしていた、ということだ。
最近やたらこういう視線を向けられている気がする……
●月〆日
起きたらザネリが俺の体に抱きつきながら眠っていた件について。
予め言っておくが、男女の一夜の過ちといった類は何一つ犯していないということだけは言っていきたい。最高神に誓っていい。
というか、俺の体は
話を戻すと、今も抱きつかれており、こういう場合どうすればいいのか分からないので、とりあえず日記を書いて、自身を落ち着かせている最中だ。
いや、ほんとどうしよう。しかもめっちゃ薄着や。白のネグリジェで、白磁のような腕を惜しみなく曝け出している。何なら谷間も見えるし。大丈夫?寒くない?風邪ひいちゃうよ?
というかあんまりザネリと話したことないんだよね……
なんていうか、遠慮気味というか、無意識に避けられているというか……
だから、今の状況になおさら困惑してるんだよね。
こんなんジェンナに見られたら釈明のしようがない。
脱出しようにも脱出できないし……あっ、ノックが聞こえ────
追記
あの後、しっかり怒られました。もちろんザネリが。
俺には逆に謝罪されました。いやいや、いいですって。誰にだって事故はありますよ。だから決して“役得だったな〜”とか思ってませんとも。
◇◆
今も、夢に見る。
朧げで、でもハッキリと見えた、あの子の顔を。
冷たい戦場とは真反対の、泣きたくなるほどに優しくて、温かな眼差しが。
そして───胸を貫かれ、心臓を抉り取られた、その姿を。
魔神族は“悪”であると教わってきた。
アレらは、ただ悪意のみで形成された、虫ケラにも劣る塵芥である、と。
だからこそ、魔神族といった害獣を
私も、姉であるジェンナも、その教えを寸分たりとも疑わず、何も考えずに魔神族を忌み嫌い、恨んできた。
思えば、あれは一種の洗脳、刷り込みであった。魔神族に何かをされたワケでも、大切な者を奪われたワケでもないのに、どうしてあんなに憎悪を膨らませていたのか……今思えば全てが異常だった。
でも、あの時の私はそれが全てだった。
全てが正義、全てが道理であると、そう信じていた。
───彼と出会うまでは。
あの子だけだった。
辛うじて意識があった中、朦朧として霧の中にいるような曇った眼差しでも見えた──あの子の瞳の輝き。あの狂った戦場で、真に平和を求める心を持つ者は、彼だけだった。
魔神族も、同胞である女神族すらも、鬱積した怨念に身を委ね、ただ血に酔いしれるだけだったのに、あの子は──その剣を止めた。
あの日から、この戦争の全てに懐疑的な目を向けるようになった。
そして、今まで是としてきた、同胞の悪辣で残虐な所業にも、不快感と疑心を抱くようになった。
だから、我らは前線から降りた。もう戦う意味も、その意義も見出せなくなってしまったから。
生きるべきは私ではなくあの子だった。彼なら、このくだらない戦争に幕引きを下せたはず。
でも、あの子は私の命と引き換えに、無惨にもその命を奪われた。
申し訳が立たなかった。でも、それ以上に感謝を伝えたかった。恩を返したかった。
そんな想いも果たせぬことは知っていたのに、前線から離脱した今も、ずっと抱え込んで……
そんな日々が続いていた頃──カリバーンと出会った。
自分たちを救ってくれた彼と瓜二つの顔。
話し方も、どことなく記憶の中にいる彼と似ている。
重ねないわけがない。
それが申し訳なくて申し訳なくて──今もあの子の目を見て、まともに喋ることすらままならないのだ。
「さて、ザネリよ、何か弁明があるのなら聞いてやっても良いが?」
「…………」
朝、姉のジェンナに正座をさせられ、詰問を受けている。
こめかみに血管が浮き出ており、相当お冠であることが伺える。
「弁明する気はない。ただ……」
「ただ?」
「……とても温かかったぞ」
「ふん!!」
頭を叩かれた。言い訳してないのに……
「でも、あの子も気持ちよさそうに寝てたぞ。そうであろう?カリバーン」
「えっ?……確かにいつもより快眠できた気が……」
「ほら」
「カリバーン!!」
何をそんなに怒っているのだろうか。私はただ、またあの夢を見て、無性にあの子の顔を見たくなってしまって、部屋に入り込んだらそのまま眠ってしまっただけだというのに……
「お主な、如何に子供といえど、この子も立派な
「………すまない」
「私ではなく、カリバーンに言うのじゃ」
改めて、彼の方へと顔を向ける。
綺麗な顔だと思った。あの日のような血濡れの顔じゃない、朝露を宿した白い花のような顔。
そして、何より───
「……………お前は、本当に眩しい目をしているぞ」
「ふぇ?」
「ザネリ!!!」
ジェンナにいつも手にする杖で頬をド突かれながら、なんとなく、ずっとあの子の顔を眺めていた。
思えば、この子の顔を正面から眺め、目を見て話すのはこれが初めてか。
いつも夜中に忍び込んで顔を眺めているだけだったから、とても新鮮なようで、なんだか懐かしいようで……
「だ、大丈夫、ジェンナ。むしろ
「む?良かった、とな?」
「うん、まぁ……こうやってザネリと目を合わせて話したことがなかったから、もしかしたら嫌われているんじゃないかって思って……でも、そんなことないって思えて、何だか安心したっていうか……」
「ッ」
……あぁ、そうだったのか。
私は、自分勝手なエゴのせいで、この子に不安を押し付けていたのか。
「それに、色々マジマジ見てしまって、むしろこっちが申し訳ないというかムグッ!?」
私は彼をそっと抱きしめた。胸元でジタバタしているが、より強く抱きしめると大人しくなった。
「すまない、カリバーン。不安にさせてしまって……」
「いや〜、不安って程でもないんだけど……それより早く放して───」
「これからは毎日一緒に寝よう。お風呂も一緒に入ろう。私は常にお前のそばにいるぞ」
「えっ…………ジェンナ、ジェンナッ。ヘルプミー、ジェンナッ……!」
「ザネリ……お主だけズルいぞ!カリバーンが良いと言うのなら私も遠慮などせん!カリバーン、これからは毎日一緒に寝ようぞ!」
「ジェンナさん!?」
恩人と瓜二つな少年は、とても愛いらしい顔で頬を赤らめるのであった。
その瞳の奥に帯びた光は、今も爛々と輝いて──
この日から、あの夢を見ることはなくなった。
代わりに、この子と我ら三人が、誰もいない辺境の隠れた土地で、密かに暮らす夢を見るようになった。
夢ではあるが、あんな未来を目指すのも悪くないと、心から思った。