とある転生者の受難日記   作:匿名

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第13話

 

 

 

 

 

§月∇日

 

今日は二人と一緒にガーデニングをやってみた。

“天空でもできるんですね”とか、“魔法を使えばすぐに生やせますよ”とか、そんな野暮なことを言う奴は、この手でぶん殴ってやる。

 

二人と一緒に何かをやれる時間がいいんだろうが!

ガーデニングの上達にはまだまだ時間がかかりそうだけど!

 

 

 

 

 

◉月¥日

 

どうやらマエルさんから、俺が二人を家族のように思っているとのことを聞かされたらしい。

マエルさん……あなたってたまに後ろから刺してきますよね。俺限定ですか?

 

そんな小っ恥ずかしい話を聞いてなお、彼女たちは笑わなかった。むしろ、抱きしめられた。

何も言ってくれなかったけど、何となく大切に思われているということは肌で感じ取った。

愛を感じるのに言葉なんかいらないと、改めて理解したよ。

 

ちなみに、マエルさんは全部ゲロったらしく、『俺が彼女たちを守りますよ(キリッ)』のセリフを散々弄られる結果となった。

マジでマエルさんどうしてくれようかな。

 

 

 

 

 

➖月¢日

 

マエルさんへの怒りのドロップキックの代わりに、修練場で兵士の皆さんに稽古をつけてもらった。

 

そこで、最近の戦況について詳しく聞くことができた。

どうやら、戦況はどっこいどっこいらしい。本来の計画では、〈十戒〉の統率者がいなくなった動揺を突いて、内部から瓦解させようとしたらしいが、全然上手くいかなかったようだ。

特に〈十戒〉の猛攻は凄まじいらしい。なんというか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな狂気にも似た恐さがあったんだって。

 

最後の話は少し不穏だが、流石はみんな(魔神族)というべきか。少数なのによくやってるよ。

できれば、双方納得のいく着地点に持っていけるといいんだが……

 

 

 

 

 

∃月◦日

 

サリーがしょうもない遊びを発明した。

その名も、『そよ風スカートずらし』──彼の恩寵の力を使い、ちょっとした突風を発生させ、女性のスカートをたくし上げるといったものだ。最低以外何物でもない。

それも、ただ“面白そうだから”という好奇心のみで動いているので、なおのことタチが悪い。多分、恩寵を与えた最高神も泣いてると思うよ。

 

ちなみに、その話を聞いたタルさんは思いっきり顔を顰めていた。こんな顔しといてあれだけど、一番の常識人だからね、この人。

 

それと、何故かジェンナとザネリにこっ酷く怒られた。俺がやったわけじゃないのに……

“そういうことはしてはいけない”とか、“将来大変なことになる”とか、“そんなに見たければ私のを見せる”とか、もう色々と。

ちなみに、ザネリのは分からないが、ジェンナのは事故で見てしまったことがあったので、それをバカ正直に伝えたら、バチボコ杖で叩かれた。解せぬ。

 

あと、一人だけ難を逃れて、側で腹抱えてバカみたいに笑ってたクソガキ(サリー)

貴様には『覚えていろ』とだけ言っておく。

 

 

 

 

 

◯月×日

 

やっベェところ見ちゃった……

 

あのマエルさんが、歯を食いしばりながら、物に当たってたんだよ。

あの温厚で優しいマエルさんがだよ?最初見た時は、とうとう俺の目もイカれたかと疑心暗鬼になったものだぜ……

 

その後、案の定捕まった俺は、そのまま酒場に連行され、彼の愚痴に付き合わされた。

凡そ、真昼間とは思えないほどの豪快な飲みっぷりを披露する中、その口はずっと背信者メリオダスの愚痴ばかり。

 

女神族としては裏切ってもらえて良かったんじゃないの?と思っていたんだが、どうやら複雑な事情があるらしい。

マエルさんの口から幾度も出てきた女性の名前──エリザベス。彼女がその要因である。

どうやら、マエルさんは幼い頃からエリザベスさんに好意を抱いていたらしい。しかしあろうことか、自身が嫌いでやまない魔神族のメリオダス相手に彼女を奪われ、現在絶賛BSSで脳を破壊されているというわけである。

 

恋愛系雑談──所謂、恋バナ。正直、俺は好きです。

まぁ、流石にBSSは守備範囲外であるけれど。

 

とりあえず、ジュースを飲みながら黙ってマエルさんの話を聞いていた。

おかげで、よりマエルさんと親密になれたような気がした。

時には、何もしないで、黙って話を聞くだけっていうのも大事だってことさ。

 

 

ただ、マエルさんが『以前、君に似た魔神族を見たことがある』と言われた時は、思わずオレンジジュース吹き出しそうになったが。

『彼ともこうして酒を酌み合いたかった』と寂しそうに言われた時、俺はどんな表情すれば良かったのか分からなかったよ……

 

 

 

 

 

●月♬日

 

サリーとタルさんとガチンコ勝負した。

 

どうしてこうなったのか……正直、俺もよく分からない。

ただ、サリーから誘われたからとしか……

 

結果はもちろん敗北。

一人ですら手も足も出ないのに、二人がかりで寄って集って暴力振るわれたら、それってもうただのイジメなんよ。

 

まぁ、そんな理不尽な暴力相手でも全力は尽くした方だ。何度か攻撃も当てることができたし。

勝負には負けたが、試合には勝った(勝ってない)といったところか。

 

あの後、普通に解散になってどっか行ったけど、今日のアレって結局なんだったん?

 

 

 

 

 

◇月⊥日

 

今日、突然あの長髪糸目野郎が家に入り込んできて、俺に軍に編入するように迫ってきた。

 

何でも、〈四大天使〉()()()の推薦だとか何とかって。

俺はマエルさん以外で〈四大天使〉と()()()()()()()()()ので、多分推薦先の間違いだろうと思って、それはもうご丁寧にお帰り願おうと思ったが、糸目野郎はまったく引く気を見せなかった。

 

とりあえず、何とか家から追い出すことに成功したが、『また来る』などと不穏な言葉を残していったので、多分また不幸に見舞われるのだろう。トホホ……

 

 

 

 

 

÷月➗日

 

糸目野郎が来た。

断った。

 

 

 

 

 

♫月∃日

 

今日も来た。

断った。

 

 

 

 

 

〆月‖日

 

断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⁑月£日

 

やっぱあの糸目野郎は嫌いだ。

あの野郎、とうとうジェンナとザネリを人質にして迫ってきやがった。

『お前が出なければ、あの二人を戦場に引き摺り込むまでだ』だって。俺があの二人を犠牲にできよう筈もないことを知っておいて。お前は人間じゃねぇ!!

 

猶予は一週間。その間に、戦場に立つ覚悟を──みんな(魔神族)と戦う覚悟を決めなければならない。

 

ハァ、ほんまゲスいわ〜。ほんまに嫌いだわ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……カリバーン、何か悩み事でもあるのか?」

 「ギクッ」

 

 いつものように、三人で同じ食卓を囲いながら舌鼓を打っていると、ザネリが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、コンマ数秒早くあの子に尋ねてくれた。

 

 そう、これは何も今日だけの話ではない。ここ数日、どこかうわの空でボーッとしている姿を見て、心配にならない方がおかしいじゃろうて。

 この子から相談してくれるのが一番いい。じゃが、この子は何も言わない。ザネリもそう思って、直接聞くことにしたのじゃろう。

 

 「エッ、ナ、ナニモナイデスケド……」

 「今の反応でそれは些かお粗末な嘘じゃないかの〜?」

 「キ、キノセイデスヨ……」

 「おどれー!」

 

 さっさと吐くよう催促するように、肌身離さず持っている愛杖で頬を突いてみるも、そっぽ見るばかりで何も答えやしない。

 このままでは梃子でも動かない──そんな予感をその態度からヒシヒシと感じながら、ほんの少し様子見をしていると、ザネリがカリバーンの頬を両手で挟み込む。

 “ぷぎゅ”っと何かが潰れる音がその口から漏れ出るが、ザネリは構うことなく、その蒼穹の瞳を覗き込む。

 

 「カリバーン、お前にとって、我らは何だ?」

 「えっ?そ、そりゃあ……家族、ですけど……」

 「そうだな。我らは家族。だからこそ、悲しいぞ。家族に隠し事をされるのは」

 「ッ」

 

 それは、的確にあの子の心を抉るような、容赦のない言葉だった。

 『こう言えばカリバーンは言わざるを得ない』と、この子の心理を逆手に取った問答だった。

 だが、それ全てが嘘偽りなワケでもない。家族であるから、この子が何も言ってくれないことに寂しさを覚えたり、もどかしさすらも感じていたのは、甚だ事実であるのだから。

 

 「…………その、えっと、なんて言えばいいか……」

 「ゆっくりで良い。聞かせてくれるのなら、私たちはいつまでも待ち続けよう」

 

 ほんのひと押し。そう直感した私は、言葉を吐く。

 時間の感覚が曖昧になるような沈黙の中、ほんの僅かに深呼吸をしたカリバーンは、胸に秘めた言霊をゆっくりと紡ぎ出した。

 

 軍隊に編入するよう迫られていること。

 

 〈四大天使〉からの推薦のこと。

 

 戦いたくないこと。

 

 そして───我らが人質に取られていることも。

 

 「だけど、安心してほしい。戦場に出る覚悟はできたし、武器や魔法の練度も問題ない。ちょっと危ないかもだけど、多分なんとかなる。だから───」

 「安心、じゃと?」

 

 思わずカリバーンの肩を強く掴む。

 僅かな呻声が漏れ出て、戸惑いと僅かな恐怖を帯びた目を向けてくるが、それら一切全てを無視して、この子を見る。

 

 その姿、その顔、その声──全てが瓜二つなこの子に、あの時の魔神族の子が重なる。

 

 「───いいワケがない。安心などできるものかッ!もう嫌なんじゃ……もう、遠くに行かないでくれ……っ」

 

 この言葉は、カリバーンに向けたものなのか、それともあの少年に向けたものなのか、自分自身でもよく分からなかった。

 

 そんな私の心情を見透かすように、カリバーンは冷静を宿した目で、私を──私たちを見る。

 

 「……前に言ってたよね。俺が二人の恩人に似ていたから、助けてくれたって。その話、もうちょっと詳しく聞きたいな」

 「…………今か?」

 「うん、今」

 

 突拍子もなく尋ねられたパンドラの箱。しかし、これは時間の問題だと思っていた。

 子供はあらゆる物事に敏感だと聞く。私たちが、この子を通して別の誰かを見ていることに気づけぬほど疎い子ではなかったのだろう。

 そして、たった今、これを尋ねてきた理由。つまるところ、そんな私たちを責めているのだ。

 『お前たちは、自分を通してその幻影に縋り付いているだけではないのか?』と。

 そんなことはない、お前は家族だ──そう声を大にして言えるだろうか。証明できるだろうか。納得してもらえるだろうか。何度も、この子にあの少年の姿を重ねてきた私が。

 

 重苦しく閉じられた口は、予想とは反してスラスラと流れ出た。

 

 過去、戦場で魔神族の子供に救われたこと。

 

 カリバーンが、その子供と瓜二つだったこと。

 

 カリバーンを通して、自分たちの罪滅ぼしをしていたこと。

 

 全てを語った。全てを聞かせた。全てを曝け出した。

 

 予想に反して、言葉はスラスラと流れ出た。

 それはまるで罪を告白する罪人のように、はたまた許しを乞う咎人のように、ただひたすら懺悔と後悔を胸に宿し、沙汰を待つ。

 

 カリバーンは顎に指を添え、何かを考える仕草を取る。

 カリバーンの一挙一動全てが怖い。どんな罵詈雑言も受ける覚悟ではあるが、覚悟が決まっているからと言って大丈夫なワケがない。

 大切な存在に罵倒されて嬉しい者など、いない。

 

 

 カリバーンはゆっくりと我らを見上げた。

 

 

 その目に携えるのは───僅かな()()()()であった。

 

 

 

 「───それ、もしかしなくても俺かも」

 

 

 

 気まずそうに、しかし嬉しそうに頬を掻くカリバーンに、咄嗟に言葉が出てこなかった。

 

 似姿、声が一致しているだけ。

 種族も、宿る聖なる魔力も、以前の彼とは別人だと物語っている。

 魔神族であった彼に【転生への誘い】が施されるワケもない。だから、魂は今もどこかで浮遊をしているか、輪廻の輪の中でも静かに転生の時を待ち侘びている頃だろう。

 

 なのに。

 

 あり得ない。あり得ていい筈がない。こんな奇跡にも満たない現象が、我らに降りかかるなど、決して───

 

 「ほ、本当に……?お主が、あの魔神族の……?」

 「うん……まぁ、本当は最初から『もしかして?』とは思ってたんよ。ただ、女神族って魔神族のこと大っ嫌いじゃん?女神族である二人が魔神族に恩を感じるワケないよな〜って思って……」

 

 『だから今日まで確信できなかったんだよね〜』と朗らかに笑うカリバーン。

 

 あぁ、そうか。そうだったのか。

 つまり、何となくそんな気はしてたけど、ずっと黙っていた──というワケか。

 

 なるほどなるほど……

 

 「この───バカ者がァァァ!!!」

 「イダッ!?イデ、イデデデッ!?え!?こういうのって、なんかこう、あるじゃん!?」

 「うるさいわ!!気づいてたのなら早く言わぬか!!私たちがどれだけ罪悪感に押し潰されそうになったか……!!」

 「ジェンナ、今日のカリバーンの夕飯は抜きにしようぞ」

 「それがいいかもしれんな!折角今日はお主の大好きなアップルパイをデザートに添えていたというのにな!」

 「待って!?それはあまりにもあんまりではありませんか!?」

 

 うるさいわ戯けめ!!それぐらいのことをしたのだと自覚するのじゃ!

 

 「あぁ、そうじゃ!もし、またお主に会えたなら、言いたいことが一つあったんじゃ!のう、ザネリ!」

 「あったぞあったぞ」

 「これ以上何か言われることあるんすか……?」

 

 これ以上ない見事な絶望顔&涙目で、ほんの少し嗜虐心を刺激されるが、今はそれ以上にこの阿呆に伝えねばならんことがある!

 

 「良いか!たった一度しか言わん!心して拝聴するのじゃ!」

 「ハイ……」

 

 ザネリと顔を合わせ、あの日から積もり積もっていた言葉を、ようやく口に出せる。

 

 

 

 

 「「────あの時、私たちを助けてくれて、ありがとう……っ」」

 

 

 

 

 

 二人でカリバーンを抱きしめる。

 

 ずっと、言いたかった言葉。

 ずっと、言いそびれた言葉。

 ずっと、言えないと思っていた言葉。

 

 それを今、新たな姿となった彼の前で、ようやく伝えることができた。

 

 「えっと……どういたしまして……?」

 「なんじゃ、不服そうじゃのう?感謝は受け取りたくないと申すか?」

 「イヤイヤイヤ!?そうじゃなくて、さっきまでとの温度差で、ちょっと戸惑いがあるというか何というか……」

 

 この子は本当に顔に出やすい。困惑したように眉を曲げたかと思えば、次は何かに気づいたかのように眉が跳ね上がった。

 

 「───って、そうじゃなくてぇ!どうすんの!?まだ何にも解決してないじゃん!!」

 「お前が話題を逸らしたんだぞ」

 「…………それはそうだけど!」

 「なんじゃ、()()()()()()。ならもう決めておる」

 「……ん?決めてある……?」

 

 ふふっ、何を驚いておる。お前がこの話を持ち出した時、もう既に覚悟は決めておった。

 カリバーンが話題を逸らしさえしなければ、あのまま提案していたであろうことだ。

 

 以前から──否、この子に助けられたあの日から、我らにとって、同胞と共にいることは安らぎを得るどころか、価値観の相違によって窮屈さしか感じられぬようになった。

 聖戦そのものに対する考え方、同胞たちの考え方、その全てが受け入れられなくなっていた。

 

 狂っているのだ。魔神族も、女神族も、みんな。どうしようもなく狂っていて、このままでは共倒れが関の山じゃ。

 

 だから、今回の件がなくても、この提案をするのは時間の問題だったかもしれんな。

 

 

 

 

 

 「のう、カリバーンよ───我らと共に()()()()()()()()?」

 

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