とある転生者の受難日記 作:匿名
☆月¢日
ジェンナとザネリから逃亡計画を聞かされて翌日になった。
最初は『正気か』と思ったが、
俺の返答はもちろん『YES』。みんなが行くって言うなら俺も行くさ。
あの後、正体を明かしても、二人はいつも通り“カリバーン”として接してくれた。むしろ『どうやって産まれ直したんだ?』と興味津々で詰問される羽目になった。
ごめん、それは俺もよく分からん……!
とりあえず、決行はタイムリミット前日の夜!
向かう先は、ブリタニア辺境にある土地──イスタール!
そこが俺たちの新しい家になりまーす!
⌘月▼日
決行当日。今はまだ昼だ。
今夜、いよいよ亡命する。
緊張しないと言えば嘘になる。だけど、以前より確実に力を付けている自分なら、きっと二人を守りきれる──そんな確信があった。
というか、そう思っていないとやってられない。自己暗示みたいなもんだ。
天界からの距離は、徒歩で凡そ数ヶ月。車がない時代は不便極まりないが、まぁこんなもんだろう。
空での移動は厳禁だ。今は聖戦中。今やブリタニア各地で戦火は広がっているのだ。空を飛べば、普通に
それに、おそらくこれから女神族の中でもお尋ね者になるから、わざわざ見つかるような目立つヘマはしない。
とりあえず、無事天界から抜け出せたら、また日記を書くとしよう。
♀月Å日
無事に朝を迎えた。
今は木の上で休憩中だ。リスとかキツツキとか挨拶しに来てくれるので、癒されながら日記を書いている。
天界から抜け出すのは、予想の何百倍も簡単だった。
おそらく、門番の人数が足りていなかったのだろう。みんな戦場に駆り出されているということか。
ここに来て深刻的な人手不足がこちらに味方してくれるとは……ありがたやありがたや……
〻月覉日
今日は人間族の村で一晩過ごすことになった。
魔神族ならこうはいかないけど、人類種の味方である女神族なら結構歓迎されるらしい。
久しぶりのベッドだぜ〜!俺窓際のベッドな!
───そんな主張が通るわけもなく、何故か一つのベッドに三人で寝ることになった。
めちゃくちゃ狭そう……というか、絶対狭い……
三つベッドあるのに、どうして一つしか使わないのか……コレガワカラナイ。
追記
両サイドからの感触やら匂いやらで寝れません。誰か助けてください。
℃月*日
亡命から一ヶ月経った。
イスタールに近づくにつれ、戦争の跡地が見えてくるようになった。なんなら、この一ヶ月の間でも、戦争の真っ最中に出くわしたこともあったし。
その時はなんとかやり過ごしたり、全力で逃げたりしていたが、これからもそれが通用するとは限らない。
これからはより一層身を引き締めていかないと……
それと、ここ最近、上空で女神族が飛び回る姿をよく見るようになった。
魔神族と戦っているようには見えず、何かを探しているような仕草だった。
……おそらく、天界からの追っ手だ。
たかが三人、天界から家出しただけというのに、最高神様は随分と器量の小さい御方だと伺えるぜ。ホンマやめてほしい……
⇔月■日
紆余曲折を経て、イスタールまであともう少しのところまで来た。
距離が近づくにつれ、魔神族や女神族の数も増えていく。
ここ最近では気が休まらない日々が続いたけど、あともう少しの辛抱だと思えば、意外となんとかなりそうだ。
今日は三人で川の字になりながら、満点の夜空を見上げて、これからのことについて語り合った。
イスタールに着いたら何がしたいか、あれがしたい、これがしたいとか、色々。
俺はな〜、転生してからずっと酷い死に方しかしていなかったから、平穏な日々を過ごし、立派な魔法使いになって、寿命で死ねたらそれでいいや(寿命で死んだらどうなるか分からないけど)───といった願望を、少しマイルドにして伝えたら、二人とも泣き出してしまった。何故に???
そこから殆どは俺の話題になった。転生のこととか、どんな風に生きてきたのかを、根掘り葉掘り聞かれた。
死にまくってる半生なので、語ることも少なく、自分で言うのもアレだが『つまらない』と思うのに、二人は真剣に聞いてくれたのがちょっと嬉しかった。
あともう少しで目的地に着く。頑張ろう。
&月°日
最悪だ。イスタール付近で女神族の大軍に見つかった。
今は森に逃げ込んで、姿を隠している。
どうして女神族がこんなに……
俺たちの捜索か?それとも、たまたまここの付近で戦争が行われるだけ?分からないが、このままでは見つかるのも時間の問題だ。
…………覚悟を決めるしかないようだ。
俺が囮になって、二人をイスタールに向かわせるしかない。
……反対、されるんだろうなぁ。
でも、俺だって死ぬつもりは毛頭ない。
二人と一緒にのんびり暮らす夢だってあるんだ。
その夢のために、こうすることがベストだ。
◇◆
イスタールに向かう道から真反対に、見晴らしの良い丘がある。
辺境という土地柄ゆえに、周囲には不自然な人工物は一切なく、ただ素朴な大樹が一本反り立っているだけだ。
そんな取り立てて述べることのない、至って平凡な小山で、カリバーンは、碧空の一帯を我が物のように占める天使の大群を眺めていた。
「何人ぐらいだろう………大体百人ぐらい?なんでそんなにいるんですかね……」
デカデカと、盛大にため息を吐く。
しかし、そこに諦観は一切なく、憐れにも逃げ惑う
いよいよ作戦開始の時が刻一刻と迫り来る中、カリバーンは、つい先ほどのやり取りを思い出していた。
『カリバーン、約束するのじゃ。必ず、必ずや、我らの下に帰ってくると』
「……もちろんさ」
此処にはいない、おそらく、今もまだ近くで隠れているであろう二人に向けて、言葉を残す。
「さて………いっちょやりますか」
彼には算段があった。
あそこにのさばる女神族全員を、
彼自身も気づいていない、彼本来の魔力の概要。
『
しかし、今世で使えないだけで、
そして、カリバーン本人も無意識ながらに、その魔力を行使できることを、感覚で理解していた。
通常ならあり得ない現象。
しかし、彼ならあり得る。
何故なら、彼はこの世界の
有史きっての異能が、闇を引き連れて古戦場に舞い降りた。
◇◆
凡そ百数名派遣された内の一人である、とある女神族は、今回の配備に少しばかり疑問を抱いていた。
配備の理由は事前に通達があった通り、天界から脱走した三名の捕縛。
自民族中心主義が色濃い女神族の中で亡命者が出たこと自体、彼らにとって驚嘆に値すべき事項。種族の恥として連れ戻すのか、あるいは少しでも敵になり得る危険因子を消しておきたいのか──その女神族は、特に優秀でも何でもない頭で、こう予想立てた。
しかし、そうであっても、
何かきな臭さを感じながらも、末端も末端な兵士である彼に異議申し立てなど出来る筈もなく、“軍”という巨大な装置における一つの“部品”として、今回の作戦も全うしよう、そう意識を切り替えかけた───その時、南の方角から、途方もない魔力の高まりを肌で感じ取った。
「これは──闇の魔力ッ!?」
全身の肌という肌が粟立つような、強大で悍ましい魔力に、戦場経験が深い彼であっても、ほんの数秒呼吸を忘れるほどだった。
そして──その魔力を発しているのは、あろうことか、女神族でありながらお尋ね者である、かの少年。
「くそっ、一体何がどうなってんだ!!」
状況の不明さに翻弄されながらも、徐々に遠くへと離れていく女神族の少年を追うように、一人、また一人と、穢れなき白い翼を羽ばたかせるのであった。
それはまるで、光に集る蛾のように───
◇◆
ぎゃああああああああ助けてぇええええええええええええええ!!!!!
追われてるゥ!?めちゃくちゃ魔法撃ってくるゥ!?
あっ、服に掠った!
「テメェ……俺の服に何してくれてんだ!!【獄炎鳥】!!」
『グワァアアア!!』
大丈夫、モンスピートさんのならいざ知らず、俺如きの【獄炎鳥】なら気を失う程度で済んでる筈だ!
久々に闇の翼を広げ大空を舞いながら、女神族の軍隊を相手取るのも、なかなか骨が折れる……
「【
「ムッ」
背後から聞き馴染みのある呪文が唱えられたと思ったら、次の瞬間には白い光に包まれた。
闇の魔力を行使している影響か、ジリジリと肌を焼く感覚がする。
───だが、所詮その程度。
「な、何故効かない!?」
「うーん、よく分かんないけど、多分俺の魂が
「嘯くな!!女神族が闇の力を行使するなどあり得ない!!」
いや、そう言われましても……
その後もワーワーギャーギャー言われて、なんかまだまだうるさくなりそうだったので、【
しかし、本当にキリがない。今は距離を離しながら魔法で迎撃しているから何とかなっているが、囲まれたら苦戦は必須だ。
いや、普通にみんな強いんだもん。常日頃戦場に身を置いてるんだから当たり前だけどさ!
ジリ貧──この三文字が頭を何度も過る。この状況に陥れば、俺は負ける。
『───なに?
その時──ふと、師匠との何気ない会話が蘇った。
『はい!今の“ビューン”って吸い込むやつ!すごかったです!なんていう魔法ですか?』
『魔法ではない、魔力だ』
『魔力?』
『あぁ。このゼルドリス本来の魔力の名は『
『えっと、それじゃあ、その『
『そういうことだ』
『そんな〜……!』
魔力と魔法の関係は、今もイマイチよく分かっていない。
ただ、俺はあの時、紛れもなく
だって、人を引き寄せるって明らかに魔法じゃん。全人類憧れの的なんだよ?誰だって一度は扱ってみたいじゃんね?
師匠のアレは──心の底からカッコいいと思った。
何故、今になって思い出したのかは分からない。
だけど、何となく、師匠の御導きなのかなって──そう思った。
「────」
剣を構える。
両手で柄を握りしめ、刃先は下へ向ける。
その刃先は時計回りで回し、そのまま頭上へ。
あの日、あの時、目の前で見た光景をありのまま模倣する。
師匠、借りますよ!あなたの
「がっ!?な、か、体が……吸い寄せられ──」
「なにがどうなって───」
「終わりだ」
自身の間合いに入った全ての物体を、自身の感覚に身を委ねるままに、半自動的に叩き斬る。
安心しろ、峰打ちだ──って、誰も聞いてないか……
とにかく、今ので粗方片付いた。あとは二人と合流して───
「ッかはっ……!はぁ、はぁ……!う、腕が……!」
技の反動か、それとも別の要因か、腕の痙攣が酷い。眩暈もだ。動悸もすごい。
今までこんなことは起きなかった。これが魔力と魔法の違いか?それとも、俺の体が耐えきれなかっただけなのか?
くそっ、全く分からん……!
「と、とりあえず……しばらく、は、休んだ方が、いいかも───」
その時、あまりにも見覚えのある魔力に、思わず閉口する。
見覚え、というよりも、馴染みあるというべきか。かつて俺自身にも宿っていた魔力が、徐々に近づきつつあることに、内心冷や汗と悪態が止まらない。
「めがみぞく、いる…………カリバーン?」
マジか。マジかマジかマジか。
ここで、今ここで───魔神族に出くわすのかよ……!
「カリバーンだ」
「カリバーン」
「でも、あいつシんだ」
上空から舞い降りたのは三種の魔神族だった。
しかし、彼らは
会話は……聞き取れない。以前なら聞き取れた言語が、朧げになって聞こえなくなっていた。多分、女神族の体になってしまったからだろう。
………いや、待て。この三人、やはり見覚えがある。
俺の知り合いだ。そうだ、一緒にメラスキュラに扱かれた。いつもバカばっかやって、上官に怒られたよな。特に
あぁ、知っている。覚えているとも。お前たちも俺の顔を見て、攻撃をしてこないんだろう?
「や、やぁ!久しぶり、だな!俺のこと覚えてる?」
「………ナニか、イってる?」
「コトバ、ワからない」
「アヤしい」
分からない。何を言ってるのか、全く分からない……けど、きっと、
「コロそう」
「ヒレツなメガミゾク。オレたちのナカマ、イツワった」
「ユルさない」
「コロす」
「シね」
「コロす」
「カリバーン、カエせ。イモウト、カエせ」
───闇の光線が肩を貫いた。
最初に何が起きたのか分からなかった。しかし、緩やかに深まる痛覚が、静かに零れ落ちる血潮が、やがて現実を教えてくれた。
咄嗟に、その場から転げ落ちるように逃げ出す。
今も体調は万全ではないが、あのままいたら、多分殺される──信じたくない事実と、決して超えられない種族の壁を痛感しながら、駆け出した。
とんだ幻想だった。
俺が分かったんだから、あっちも分かるだろう──そんな信憑性のない信頼に身を委ねてしまった。
まだ追ってきている。凄まじい執念だ。
多分、この怪我の状態だと、直に追いつかれる。
ならば、俺に彼らを殺せるのか───?
「───ッ無理だろっ、んなこと……!」
「はぁ……はぁ……」
あの後、何とか逃げ切ることに成功した。
その代償に、片目片腕は持っていかれたけど。ま、死ぬことに比べたら安いもんでしょ。
「早く……帰らない、と。早く……」
もう疲れた。本当に、疲れた──けど、もう少しで、平穏な生活が待っているんだ。
二人が待ってる……家族が、待って───
目の前に音もなく舞い降りたのは、小さな死の天使。尊く穢れのない淡緑を被り、小柄で無邪気な少年に見えて、その実誰よりも嗜虐性のある、最も天使らしい天使。
サリー──またの名をサリエル。
嗚呼、想像できちまうなチクショウ。きっと今頃、俺を見下げてムカつく笑みを浮かべているに違いない。
そう思って見上げても、そこにはいつもの憎たらしい笑みはなかった。
………何でこういうときは笑ってねぇのよ。
「は、はは……お前が来るなんて、ついてないや……」
「なら、そんな君にさらなる悲報だ」
その直後、上空から巨大な三つの魔力がこちらに向かって降りてくる。
もはや笑うしかない。まるでこの状況を見ている神なる存在が、俺が生き残るルートを一つずつ、丁寧に潰しているかのようだ。
「タルさん、
「ほんとに今更ね〜」
「あぁ、バカだよ、君は……本当に救いようのないバカだ。なんで逃げ出すような真似を……」
「まぁ……色々とね」
ひどい言われよう……でも、あんだけ強かったら〈四大天使〉なのも納得だわ。
「でも、君にはまだチャンスが残されてる」
「えぇ、そうよ。いくらおバカでも、このチャンスをモノにしないなんてあり得ないわ〜」
……チャンス?何を言っているんだろう。
「お前と共に逃亡した同胞の居場所を教えろ。さすれば、この度の件は不問とすると、御君は仰せになられている」
「最高神が……?なんで……?」
「様を付けろ不敬者が。全く、最高神様もどうしてこんなみそっかすの分際であるガキ一人に、こうもご執心なのだ……!」
言い過ぎやろ。
というか待て、重要なことを聞いていない。
「話せば、
「無論、処刑だ。最高神様に背信して生かす義理も道理もない。それに、貴様のような闇の魔力を持つ者を庇っていたのだから当然の帰結といえよう」
……やっぱり知っていたのか。
「さて、貴様に残されているのは二つ。口を割るか、死か。まぁ、結果は目に見えているが───」
「言うわけないだろ、すっとこどっこい!この際言わせてもらうけど、お前いっつも怪しいんだよ!声も怪しい!いつもヒヤヒヤしてたんだよ、いつか裏切るんじゃねぇかってな!」
「なっ!?〈四大天使〉長であるこの私に、『裏切りそう』だとぉ……!」
リュドシエルは結構挑発に乗りやすいタイプか。……いや、プライドが高すぎて、見下されることが我慢ならないタイプだな。
他の三人は意外にも冷静沈着タイプ。俺の話を聞いて、『やっぱりか』といった風なため息を吐いている。付き合いの長さも関係あるかもだけど……
「俺は……死ぬ気は、ないよ。必ず二人のところに戻るんだ。でも、君たちを逃せば、彼女たちに危害が出るかもしれない。だから……戦う」
「…………負けると分かっていてもですか?」
俄然の実力差は絶望的なのは分かってる。
片目片手のない人間がやっていい虚勢ではないことも、分かってる。
それでも───
「ここで引いたら………男じゃないでしょ」
一度でも、“守る”と決めたのだから。
「二人を追いたくば、この俺を倒してからにするんだな!」
精一杯に強がれ。たとえそれが虚勢でも、少しでも時間を稼ぐんだ。
「ッやっぱり君は大バカ者だ。何故みすみす命を捨てるような真似を───」
「もういい」
サリーの言葉を遮るように、筋骨隆々の優男が、表情に影を落としたまま、俺の前に現る。
その、どこか
「いいでしょう。あなたの望みどおり、このマエル自ら葬ってあげましょう」
「………マエル、しゃしゃり出てこないでくれるかな?今コイツから二人の情報を引き出しているからさ」
「彼はたった一度与えられた機会を拒否しました。これ以上の理由が必要ですか?」
「あれはコイツのほんのちょっとした気の迷いさ。あと数秒後には喜んで情報を吐いて───」
「こうなった彼を屈服させるのは不可能に近い───彼と親交の深かったサリエルなら分かっている筈」
「…………」
そうそう、だから俺から情報を引き出すのは諦めな。
あんたらは俺に引きつけられ、みすみす二人を逃すんだ。
「この一件の全ては、元を辿ればあなたを連れてきた私の責任です。ならば、私が後始末をつけるのは当然の摂理」
「…………ごめんね、マエルさん」
彼と対面し、溢れ出たのは罵倒でも命乞いでもなく、心からの謝罪だった。
最初は彼に殺されたところからの再会でビビり散らかしていたし、警戒もしていた。だけど、今ではもう過去のトラウマなんかどうでも良くなるぐらい良くしてもらって、感謝の気持ちで胸が一杯だった。
───ほんの少し後悔がある。
否、俺がこの場にいること自体に後悔はないし、二人を逃すために彼らと敵対することにも後悔はないが、誰よりも優しい彼に“殺人”を強制させてしまうことに申し訳なさを感じてしまうのは、一種の心残りとして痼のように残っていた。
「あなたは俺にとって、良き師であり、良き相談相手であり、良き隣人であり──良き友人だった」
「…………」
まぁ、今から殺す奴に“師”だの“友人”だの言われたくないだろうが───
「───私もですよ、カリバーン」
「あなたは、
その一言を最後に、この世のありとあらゆる音が途絶える。
最後に見た光景は──涙を流しながら拳を突き出す、『死の天使』の姿だった。
◇◆
「なぁ、お前らって女神族だろ?なんで【常闇の棺】に巻き込まれてねぇんだ?」
ドルイドの里に住み着いたトロルを討伐しに、リオネス王国から〈七つの大罪〉とかいう輩が来て数日。その輩の長であるメリオダスとかいう魔神族に、このようなことを尋ねられた。
「なんじゃ、気になるのか?じゃが、少女の過去をそうそう詮索するものではない。手痛いしっぺ返しを喰らう羽目になるぞ?」
「いや、お前らもう乙女って歳じゃ──」
「フンッ!!」
失礼なガキじゃ。一発ぶん殴ってやったわ。
「イテテっ……いや、でも普通に気になってんだ。女神族は魔神族を封印するために【常闇の棺】を使い、力を使い果たして実体を失ったはずだ。なのに、お前らはピンピンしてやがる」
我らとしては魔神族であるお主がどうしてピンピンしているのか気になっているところじゃが……
「その答えは簡単じゃ!女神族が術を発動する前に、すでにこの土地に引きこもっていたからに他ならない!」
「引きこもってたって……天界から逃げ出したのか?」
「そうだぞ。色々あってな」
ム、ザネリも来たか。過去の話をすると喰いつきが良くなるの、お主の悪い癖じゃな……
「ふーん、じゃあお前ら、そのまま数千年生きてるってことだろ?なんのために?」
「…………とある者を、待っているからじゃ」
三千年経っても忘れない──忘れたことなど一度もない、我らが生きる理由。
どれだけ泣き叫ぼうとも、どれだけ悪夢に魘されても、どれだけあの日の選択を後悔しても、決して手放さなかった想いが、我らを現生に引き留めている。
「…………つらくねぇのか?」
メリオダスは憐れみと、ほんの少しの同情を宿した寂しげな瞳で我らを見る。
……此奴は此奴で複雑そうな事情を持っているようじゃな。
「辛いぞ。これ以上なく、辛い」
「当然じゃろ。とても正気などいられぬわ。でも───あの子は必ず我らの元に帰ってくる。その時に、また抱きしめてあげれるように、あの子の帰る場所になってあげたいのじゃ」
そう言うと、メリオダスはどこか納得したような顔をして、鼻を鳴らして笑う。
それは、どこか確信を得たような表情で。
「お前ら、よっぽど好きなんだな、そいつのこと」
───違うな。
『────
三千年待ち侘びている待ち人は未だ来ず。しかし、いつか来るその日まで、我らは生き続ける。
そして、いつかまた会えたなら、その時は。
「────もう決して離さないと、そう決めたのじゃ」
────女神族編、完。
※ストックが切れました。続きが書けたら投稿します。