とある転生者の受難日記   作:匿名

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3000年前・妖精族編
第15話


 

 

 

 

 

 「また森か……」

 

 フワフワと温かい木の葉に身を包まれながら、再び二度と開くことのない瞼が動いた。

 何故、死んだらいつも森なのか──とても気になる議題だが、ひとまずここを離れなければと、脳が命令するまでもなく体が動いていた。

 もはや生き返ったことに対して驚きがなくなってきた。慣れって怖い……

 

 あっ、ちなみに、マエルさんに貫かれた体はちゃんと元通り。心臓も動いているし、失くなった片目片腕もある。

 ほんと不思議だ。どうして俺にだけ、たった一度の『生』が何度も与えられ、全て元通りになっているのか。

 もしかしたら、これが俺の魔力だったりして………結構ありそうで怖いわ。

 

 「それにしても………この森、なんか変?」

 

 あぁ、言葉足らずだった。変というのは、別に悪い意味で言ったわけではなく、むしろ良い意味で口から吐露したのだ。

 数々の森を練り歩いた【森マスター】こと俺から言わせてもらえば、この森はかなり異質だ。

 森は生きている。当然だ。木も葉も、根も、土も、動物も、虫も、水も、その全てが生きていて、森の中で暮らしているのだから。

 

 それがどっこい、不思議なことに、この森は()()()()()()()()()()()かのように感じられるんだ。森全体が脈打っているような、新手のホラー映画のような新体験を、たった今肌で感じ取っている。

 

 

 

 

 「すっごい平和や……」

 

 いつもなら、初っ端誰かしらに襲われていたけれど、そんな気配は微塵も感じられない。それどころか、近くに生物の気配すら感じられない程に広大で先の見えない森の中で、切り株の上に跨り小休憩を挟みながら先を進む。

 こんなにも心が平穏なのも久しぶりだ。何やかんやでいつもピリピリしてたからね……

 

 

 そんなこんなで道なき道を歩く。木々は鬱蒼としているのに湿気に侵されているわけでもなく、暗闇に閉ざされているわけでもない。何とも不可思議な空間で、ふと物語に出てくる妖精の森を彷彿とさせられる。

 そんな森林の奥に、うねるようにお互いを絡ませ合う大樹たちが、俺の道を阻むように聳え立っていた。

 地面から脈打つように丈夫な根っこが浮き彫りになっていて、その樹径はおよそ俺の横幅の何十倍。

 そんな木々が一つにまとまるように、お互いで捻らせ合いっこしているのだ。奇妙という他ない。

 

 その時、ふと、木々と木々の間にある大きな空間を発見した。

 恐る恐る中を覗いてみると、これまた自然の奥深さに感嘆の息を吐くのだった。

 

 「綺麗だ……」

 

 この絶景を単純な言い回しでしか表現できない語彙力に深く失望するしかないが、そう表現する他ないほどに、完成された“美”がそこにあった。

 木々と木々の間にあったのは、木々と葉っぱのアスレチックのような階層。天井は突き抜けるように高く、それぞれに階層を補うように敷かれた葉の絨毯。所々で生じた木々の隙間には緑のカーテンが引かれており、木漏れ日と共に優しい薫風を部屋中に満たしてくれている。

 人の手は一切加えられていない、純粋な自然の産物であると、そう伺わせる程の秘めたるパワーを確かに感じ取った。

 そして何より───

 

 「なんか……秘密基地みたいだ!」

 

 男はいつになっても秘密基地に憧れを抱くもんだ。

 ここはまさに、俺が夢見た最高の秘密基地そのもの。私が望んだ世界が目の前に……!

 

 「決めた!ここを俺の第一拠点とする!」

 

 ひとまず今晩はここで夜を明かすとしよう。

 それから、イスタールへと向かうとしますか。

 あれからどれくらい経っているか分からないが、きっと待ちくたびれているに違いない。怒られるだけで済めばいいんだけど……

 

 さて、早速お邪魔しま〜───おっと、大事なことを忘れていた。お邪魔する前に新しい家に名前をつけてあげないと。

 秘密基地に名前なんかいるのかって?むしろ何故つけないんだい?

 うーん、どうしよっかな〜………なんかいい名前は…………そうだ。ユグドラシル、なんてどうよ。神話に出てくる樹から取ったんだけど。どうだ、カッコいいだろ!

 

 ……………誰に話しかけているんだか。

 

 「ん?………水の音?」

 

 久々に【特性:寂しがりや】が発動し、虚しく一人漫才をしていたところ、静まり返った森の奥から、ちょろちょろと静かに流れる水の音が聞こえてくる。

 その事実に驚嘆と、自身の幸福に対する興奮から、一刻も早く確認すべく、ズンズンと奥へ奥へ歩みを進める。

 水の音が聞こえるということは、近くに川がある可能性が高い。川があるということは、水分補給はおろか、身を清めることだってできる。前の世界では随一の清潔さを誇っていた国の出身者としてはすごくありがたい。

 

 

 「って泉か〜〜い!!─────え?

 

 

 「え?」

 

 

 川かと思っていた場所は、広々とした円形状の泉でした──と、ここで話がひと段落できたらどれだけよかったか。

 泉の中央に女の子がいた。淡いゴールド色の髪を下ろし、小柄な体格からは儚さを醸し出しながらも、そこに隠しきれない気品さが見え隠れしており、胸元は寂しげながら世の女性という女性が羨むような美貌を兼ね備えた人物であることは、まず間違いない。

 それだけならばまだいい。問題は───服はそこら辺に脱ぎ捨てられており、文字通り()()()()()()姿()で、魅惑的な四肢を曝け出したまま、俺の眼前にいるということだ。

 

 「────」

 「あ〜……えっとぉ……これはぁ……」

 

 あぁ、なんか既視感あるなって思ったんだけど……これ、以前マーリンの湯上がりにちょうどご対面した時の状況と全く同じなんだ。

 あの後どうなったんだっけか〜………って、言うまでもないか。マーリンの裸体と共によ〜〜く覚えてるもん。

 だって、転生して()()()()()()()()のは、まさにあの時だったのだから─────

 

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 「やっぱそうですね!ってブベシッ!?

 

 

 何も変哲もない土から突如生えてきた蔓がロケットのように飛んできたところで、俺の記憶は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やってしまった……」

 

 先ほど、つい反射的に気絶させてしまった殿方をベッドまで運びこみ、深々とため息を吐いた。

 些か手を出すのが早すぎたというのは自覚している。これが、十中八九事故であろうことも。

 しかし、恥じてしまうのは仕方のないことだ。むしろ、赤の他人に裸体を見られて恥ずかしがらない乙女などいるものか──と、自分で自分を庇い立てようと、自責の念はそう簡単に剥がれてはくれなかった。

 

 「うぅ〜ん………あれ、ここは……」

 「あっ、目覚めたのですね!よかった……!」

 

 殿方がお目覚めになられた。薬草をせっせと塗った甲斐がありました。

 金髪の殿方は辺りをゆっくり見渡し、最後に私の顔を見た途端、布団の上で両脚を畳み込み、手をつけて深々と頭を下げ──って、えぇ!?

 

 「先ほどは申し訳ございませんでした」

 「あ、頭を上げてください!あれは事故で……というか、謝らなきゃいけないのは私の方で……!」

 「いえ、あなたに非などあろうはずもございません。意図せずとはいえ、女性の裸体を覗き見てしまったこと───これは一生を懸けて償う大罪……ってマーリンが言ってた……あなたを傷物にした責任はこの俺が取ります!」

 「せ、責任!?そ、それって……!?!?」

 

 なんということでしょう、私、たった今、愛の告白をされています!

 絵本で読んだことのあるシーンです!兄は『こんなのは絵本の中だけっスよ〜』なんて言っていましたが、たった今現実となっていのです!

 

 「うぅ、その、申し出は嬉しいのですが……私、あなたのことを何もご存知ではないの。だから……」

 「………なるほど、確かに素性の知れないやつなんて信頼なんかできませんよね。俺の名前はカリバーンっていいます。男です。よろしくお願いします!」

 

 カリバーン……いい響きですね。

 

 「私の名はゲラード。妖精王を支える補佐官です。その、よろしくお願いしますね……?」

 

 妙にぎこちない挨拶をしてしまったと自己嫌悪に陥りかけたとき、ふとカリバーンさんが大きく反応を示したことが目についた。

 その目は、納得と疑惑が織り交ぜになったようだ。

 

 「妖精王……ふーん、なるほどなるほど。あの、ゲラードさん?一つ聞きたいことがあって……」

 「えっ!?わ、私の好みの男性ですか!?」

 「それもすごく興味深いから是非とも後でお聞かせ願いたいんですが、その、俺ってもしかして、妖精族だったりします……?」

 

 ……?何を言っているのだろうか。

 

 「その小さな羽が何よりも証拠ではありませんか。あなたは妖精族以外何者でもありませんよ?」

 

 そう言うと、深々とため息を吐いた後、こう告げた。

 

 

 

 

 「あのー、ゲラードさん、日記ってありますか?」

 

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