とある転生者の受難日記   作:匿名

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第16話

 

 

 

 

 

※月§日

 

転生も早四回目。今回は妖精族だったようだ。

 

妖精族ね……こう言ってはあれだが、結構想像と違った。

俺の想像する妖精とは、豆粒サイズのちっこい体と羽を懸命に動かしているか弱い生物なのだ。それか体を持たない魂といった幻想的な存在。

 

しかし、この世界での妖精族は、ちっこいのもいるにはいるが、ほとんどが人と変わらないサイズ感で、パタパタではなくバサバサと羽を動かして空を飛ぶらしい。

 

しかし、その可憐さは前の世界と比較できるほど──否、それ以上に麗しいと胸を張って言えるのは間違いない。

 

ここ──妖精王の森での第一村人であるゲラードはそんな女性だった。

ビックリするぐらい可愛いんだ。ド肝を抜くぐらいだ。

思うんだが、この世界の女性って顔面偏差値高くない?俺の知り合いだけかな?

 

というわけで、ちょっとしたアクシデント(覗き事件)があったが、どうにか赦しを得て、()()に許可をもらって秘密基地に住んでいる。

そう、あの大樹、元はゲラードが彼女のお兄さんと共に作った隠れ家だったらしい。

長い間使っていなかったみたいだが、久々に訪れようと思った矢先、俺と出くわしたらしい。

 

それと、時折様子を見に来るんだってさ。

多分、監視のためだと思ってる。だって、見たことのない妖精が家に住まわせてほしいと懇願してきたんだぞ?怪しい他ない。それに、事故とはいえ、彼女の清めの場も覗き込んでしまったのだ、私怨の一つや二つぐらいあるだろう。

 

今はとりあえず、特に変な行動を起こさないことだ。そうすれば、そのうち疑いも晴れることだろう。

 

 

 

 

 

★月∈日

 

ゲラードに怒られた。

理由は部屋を散らかしていたから。

 

でも聞いてくれ。こんな部屋にしといてあれだが、確かに俺は部屋を掃除していたんだ。だけど、気づいたら散らかっていたんだ。何故???

そこで思い出したんだけど、俺って家事が壊滅的にできないんよね。ほんと自分でもビックリしちゃうぐらい。

 

部屋はゲラードによって元通り。

帰り際に、次回は掃除の仕方を教えると言われて今日を終えた。

………あれ、さりげなく掃除の授業組み込まれた?

 

 

 

 

 

Å月ゞ日

 

ゲラードに怒られた。

理由は掃除の仕方がなってないとのことだ。

 

おかしい……ただ力加減を間違えて箒をへし折り、ゴミを増やして、面倒だからと風の魔法を使ってゴミを集めていただけなのに……

 

ゲラードは、魔法は森を傷ませるからダメだとし、また森に感謝を伝えるべく、自らの手で森を綺麗にするのが良いと教えてくれた。

 

なるほど、これはありとあらゆる万物に魂が宿るというアニミズムの思考に近しいものを感じる。

それに、その考え方も好きだ。明日から実践していこう。

 

 

 

 

 

➖月℃日

 

ゲラードが言うに、今もまだ聖戦の真っ只中だそうだ。

彼女の兄も、妖精の王様として戦場に出ることも多く、妹としては心配する夜が続いているそうだ。

 

……そりゃそうだろう。血のつながった家族が戦場でいつ命を落とすか不安になるのは仕方ないとも言える。

 

だからといって気の利いた言葉なんて出てくるはずもなく、当たり障りのない、何もイカしてない、ありふれた言葉しか送ることができなかった。

 

ハァ〜ア、つまんねぇ男。そんなんだからモテないんだよと言ってやりたい。

あれ、目から汗が……

 

 

 

 

 

♫月◉日

 

そろそろイスタールに向かおうとするも、ゲラードに全力で止められた。

どうやら、彼女の兄である妖精王が、よっぽどの理由がない限り、妖精王の森にいる妖精族はブリタニアに向かうことを禁じられているそうだ。

その“よっぽどの理由”なんですと必死に伝えても、一切聞く耳を持ってくれなかった。

日頃の信頼の積み重ねが出てますね、こりゃ……

 

 

 

 

 

◇月∇日

 

ゲラードに怒られた。

どうやら食べたキノコに毒キノコが紛れ込んでいたらしい。

 

最近、ちょっとずつだが自炊をするようになって、森に生えているキノコや薬草、そして自然と共に生きる動物たちの命を恵んでもらっているのだが、どうにもその中にヤベーキノコがあったらしいのだ。

ぶっちゃけ何回も食べてるし、体に何も異常もないから全然気づかなかった。

この毒キノコよりもやばい肉を魔神族時代で何回も食べてきてるから舌が麻痺したのだろうか?だとしたら、終わりです。

 

しかし、そんな意味不明な状況を知らないゲラードに、俺の弁明は一切届かず、今度から彼女が食生活を管理するとまで言われてしまった。

悲しい……と同時に、ゲラードのご飯を食べれてラッキーと思った。

 

 

 

 

 

‖月…日

 

ゲラードに怒られた。

何故かは分からない。

 

ただ、彼女が作ってくれたキノコ炒めのスープと、加熱抜群の肉を食べて、めちゃくちゃ美味しいと正直で純粋な褒め言葉しか言ってなかったのに……

『そ、そんなの当たり前です!』と顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまった。

 

イカン、女性に対して『料理上手ですね!』は褒め言葉ではなかったのか。できて当然と思っているなら、なるほど確かに俺の言葉が悪かったと認めよう。

認めた上で、やっぱり美味しいので、どうせ考えるより先に口が動いてしまうんだろうが。

 

思えば、彼女と出会ってしばらく経つが、いつも怒られてばかりだ。そろそろ縁を切られて、この家から出て行けと言われても仕方ないかもしれないな……

 

 

 

 

 

・月∂日

 

今日もゲラードに怒られた。

 

『どうして(俺のこと嫌いなはずなのに)来るの?』って言ったらまた怒られました。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は、ほんのちょっとした出来心だった。

 

 ほんの少し様子を確認して、特に何もなさそうなら、もうこちらからは干渉しないような、浅い関係で留まるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 「───それが今や毎日通うことになろうとは……」

 

 彼の隣で服を畳みながら深いため息を一つ吐く。

 彼と出会ってここ数ヶ月、徐々に、しかし確実に、この隠れ家に通う回数が多くなったように思える。

 最近、腹に一物どころか二物、三物ありそうな女神族らから我らに〈光の聖痕(スティグマ)〉なる組織の結成を持ち出されて以降、これまで以上に忙しそうな兄上と比べても、カリバーンと一緒にいる時間の方が長いと感じるほどに。

 

 「できましたか?」

 「うぅ……あとちょっと……」

 

 彼も私を倣いながら、一所懸命に服を畳む。

 やる気を感じられるのは良いことなのですが……

 

 「まったくもう……ほら、貸してください」

 「面目ねぇ……」

 

 彼から衣類を受け取ろうとした──その時、彼の手の平と私の手の甲が重なり合う。

 意図的でないとはいえ、異性との接触にほんの少し肩をびくつかせる……が、相手(カリバーン殿)の反応はというと、全くと言っていいほど無関心で、むしろ当たったことすら気づいていなさそうだったので、たった今起きた出来事は脳内の片隅に追いやってなかったことにした。

 

 「もう……私がいなかったらどうするつもりだったのか、小一時間問い詰めてやりたいです」

 「一時間って…………ゲラードなら本気でやりそうだから、なお怖い───」

 「なにか?」

 「なーんてね!冗談ですや〜ん!そんな本気にならんといて〜や!」

 

 彼はお調子者だ。煽てればすぐに調子に乗るし、逆に怒ればすぐに気を落とす。

 よもや、この純粋さでよく戦乱の時代の中で生き残れたものだ。

 

 とまぁ、()ではこんなことを言ってはいますが、()()はというと───

 

 

 『いや〜、でも、ゲラードがいてくれて助かったな〜。感謝してもしきれないよ、ほんと』

 

 

 なんて言っているので、悪い気はしない。

 

 妖精族には相手の心を読み取る力がある。

 野蛮で強欲な種族がこの能力を持ったら、その時点で種として破綻になる可能性があるが、私利私欲もなく、森を守り、森と共に生きることが使命である妖精族であれば、不便なことは何一つない。

 

 「……はい、できました。あとはこの前教えたクローゼットに仕舞い込むだけです。それじゃあ夕飯の用意をしてくるので」

 「お、俺が作るよ!」

 「この前もそう言って手伝ってくれた結果、ダークマターが完成したことは忘れてませんよね?」

 「ぐぐぐっ……」

 

 心を読まずとも分かる。彼が、私一人に全てを押し付けてしまっていることに罪悪感と申し訳なさを感じていることぐらい。

 

 「大丈夫ですよ。家事はよくしていますし、むしろ得意な方ですから」

 「うん、それは見れば分かるんだけど……」

 

 『それとこれとは話が別なんだよね……』と、心の中で補完する彼の真意に、くすりと軽く笑みが溢れた。

 彼には私の心が読めないのだろうか。もし読めるのなら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……以前、私には兄がいるとお伝えしましたよね」

 「え?うん、妖精の王様なんだよね?」

 「はい。妖精王とは、いわば妖精界最強の守護者。我らの故郷である妖精界を守るのはもちろんのこと、妖精界と外界をつなぐ妖精王の森を守り、我ら妖精族を守る──それが生まれながらに与えられた役割であり、民から求められる役目であり、果たすべき義務なのです」

 「………なんだか大変そう」

 「ふふっ、そうですね。実際大変なのだと思います。普段はズボラで、職務じゃないものに関しては常に適当な人ですが、補佐をする傍らで見るあの人は、いつだって“みんなの王様”に徹していたように見えたから」

 

 それが王なのだろう。誰にも心を見せず、ただ国と民のために己すらも捨て去ることを求められる存在。

 生まれながらに守護者の任を与えられているから、本人としてはそこまで苦じゃないかもしれないけれど、()としては、優しくも優秀な兄に対する寂しさや、家族として支えられることの少なさに不甲斐なさを感じていた。

 

 「最近は兄ともあまり話せていないんです。今は戦時中ですので、王としての務めを果たしているから……」

 「…………」

 「私は戦闘に関してはからきしですので、戦場で兄を支えることができません。むしろ足手纏いになってしまう。だから、自然と妖精王の森で内務に就くことが多くなりました。周囲に同胞はいますし、みんな優しいです。それでも、時折一人だと思うことが増えて、言いようのない寂しさや空虚感があって、未来に対する不安に押しつぶされそうになって……………そんな時にカリバーン殿と出会いました」

 

 そこまで言い切って、顔を上げる。

 カリバーン殿が我が事のように心配そうに見つめてくるので、喉の奥で小さく笑ってしまった。

 

 「私、カリバーン殿のお世話をする時間が好きなんです。この時間だけは、いろんなことを忘れられる気がして……」

 

 『だから、どうか気にしないでください』と、遠回しに伝えると、彼はただ難しい顔をして顰め面を作るだけだった。

 ……ここまで聞いておいて、何が不満なのだろうか?

 

 「じゃあ、もっと教えてほしい!そんで、()()()()()()ご飯を作ろう!きっとそっちの方が楽しいよ!」

 

 ………それはそれでいいかもしれませんね。

 

 「ですが、今日は大人しくしていてください」

 「ハイ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『それにしても、ゲラードのご飯ってなんでこんなに美味しいんだろう。きっといいお嫁さんになれるだろうなぁ。ゲラードと結婚できる人が羨ましいぜ』

 「………………」

 「あれ、顔真っ赤だけど───」

 「うるさいですよッ!?」

 

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