とある転生者の受難日記   作:匿名

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第18話

 

 

 

 

 

∟月←日

 

ゲラードと出会って、もう数十年が経過した。

数十年だって。ヤバくない?正直、数年程度の感覚なんだけど。

これが長寿種あるある……正直、すごく戦慄した。

 

今日は戦争で疲弊した妖精族、および巨人族、女神族を労うためのお祭りの準備をしに行く。提案者は俺だ。というか、俺以外でこんな平和ボケな提案をできる人間はいないだろう。案の定、周囲から『マジかよ……』と言いたげな視線をいただいた。

でも、いつも気を張ってちゃいけないよ。元の世界でも、クリスマスだけは争わず、一緒に遊んだ日があるぐらいなんだから、たまには息抜きをしないと。

大手を振って賛成してくれたのは、ゲラードとグロキシニア、ドロールくん、そしてメリオダスと()()だけだった。みんなに感謝!

 

それにしても、ここ数十年ですっかりこの森に馴染んでしまった。もはや第二の故郷といっても過言ではないこの場所で、少しでも安らぎを与えられればと思う。

 

 

 

 

 

☆月◉日

 

祭りは順調。

みんな、一時的な休息を謳歌してくれたようだった。

 

ちなみに、祭りはまだ終わらない。

ほら、前の世界でもあったろ?後夜祭みたいなやつ。広場でキャンプファイヤーをして、二人一組になってみんなで踊ろうってやつだ。

妖精王の森が丈夫で助かった。普通の火じゃ燃え移らないってどんな森だよとは思うが。

 

俺は……もし良かったら、ゲラードを誘おうと思う。というか、彼女以上に一緒に踊りたいと思える人がいないし……

もう相手が決まってたらどうしよ……そん時は姉々に頼もうかな。メリオダスに殺される覚悟で。

 

 

 

 

 

※追記

 

ゲラードからOKもらえた!よかった、殺されなくて済む!

 

 

 

 

 

¿月Ω日

 

マジかよ。〈光の聖痕(スティグマ)〉の主導者、あの糸目野郎だったのかよ。全然知らなくてビックリしたわ。

グロキシニア、ドロールくん、メリオダスは連合の主力として活躍しているのは知っていたが、そのリーダーたる女神族の中心人物が誰だったのか考えたことすらなかった。

 

リーダーがリュドシエルだと知った途端、一気にきな臭さを感じるのは何故だろう。

 

ゲラードにも話してみたんだが、ほんの僅かに顔を曇らせていたっけ。

特に具合が悪そうには見えなかったけど……大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 

◇月⌘日

 

今日、不思議だな〜って思うことが一つ。

 

最近、やたら二人から稽古をつけてくれと頼まれるようになったんだ。

あぁ、二人ってグロキシニアとドロールくんね。

二人とも充分お強いのに、まだまだ上を目指そうとする志が立派で素敵だな〜って思うんだけど………ね?分かる?なんで地位も名誉もない一般市民Aである俺が、一種族の王様相手にご指導ご鞭撻できてんのってこと。

 

ただし、メリオダスには負けます。

 

 

 

 

 

@月α日

 

光の聖痕(スティグマ)〉に人間族の皆さんが加わることになりました!!

 

名前はまだ覚えきれていないけど、ただ一人──ロウっていうクソイケメンな好青年だけは覚えたぜ!

ありゃあ世が世ならアイドルで余裕で食っていける顔だぜ。人生勝ち組って感じ。

それに、ゲラードに向ける眼差しが妙にお熱いことで───これはもしかして……“ある”のか?

 

とにかく、元人間族としては彼らが来てくれたのは喜ばしい限りだ。

リュドシエルが主導する〈光の聖痕(怪しい集団)〉だけど、この集まりが、もしかしたら今後種族間の橋渡しをしてくれる土俵になってくれるんじゃないかって……そんな淡い期待を抱いてしまう。

 

そこにいつか、魔神族のみんなも入れたら……なんて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神族のみんなが妖精王の森に大軍引き連れてやって来たとの情報が。

しかも、見知った魔力を幾つも感じられる。

多分、〈十戒〉のみんなだ。

 

今、この情報を掴んで、急いで家から外に出たばかりだ。これから広場に行って情報を集めようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場に着いた。やっぱりみんな困惑してるっぽい。

でも、どうして今になって妖精王の森に……?何か嫌な予感がする。

とりあえず、ゲラードを連れてみんなを避難────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日記は、ここで途切れている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈十戒〉に恩寵の光を占拠されたという凶報を聞き届け、一気に騒めく〈光の聖痕(スティグマ)〉の面々。

 

 「みんな、落ち着いて!今は冷静になって状況の把握を───」

 

 鈍い金属音と肉を割いたような産毛が立つ音と共に、カリバーンの言葉が途絶える。

 反射的に彼の方へ顔を向けて───絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、純粋なまでに赤だった。

 

 彼の胸元から生え出た銀の鋭刀を伝って、翠の大地を絶え間なく汚す血潮は、私に備わる悉くの意識を奪い去った。

 

 

 「───ッ、ゲラ────」

 

 

 頭の半分を切り裂かれる。

 私の名を最後まで告げることもなく、その口は引き裂かれた。

 

 

 次に目を潰された。

 痛みに悶え震えている彼の姿を無視するように、その目から光を奪った。

 

 

 最後に、羽を切り捨てた。

 その頃には、もう彼の体は動いていなかった。

 

 

 「────な、んで」

 

 

 わずか数秒で起きた惨劇を理解するのに、時間も、脳も、何もかもが足りず、ただ現実を直視できずにいた。

 

 

 「あ?あぁ、ウチのリーダーが『コイツには気をつけろ』って言ってたからな、念入りに潰しておいた」

 

 

 下卑な笑みを浮かべながら告げた“リーダー”という言葉───それが指し示す事実。

 

 

 それは────

 

 

 

 

 

 「俺たちの目的はただ一つ────……〈光の聖痕(てめぇら)〉の抹殺だ!!!」

 

 

 

 

 

 溢れ出る憎悪と、抑えきれない憤怒を解放させながら、(きざはし)の上で宣戦布告するロウ殿の雄叫びと共に、最も安全だったはずの場所にこの世の地獄が顕現した─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お願い!!もうこれ以上……これ以上傷つけ合うのはやめて!!!」

 

 届かない絶叫。

 それでも、今はただ叫ぶことしかできなかった。

 

 叫ばなければ、とても正気ではいられないから。

 

 叫ばなければ、正気に戻ってしまうから。

 

 叫ばなければ───彼の死を、直視してしまうから。

 

 「ぺっ………あ?なんでまだ居やがる」

 

 たった今、女神族の戦士を討ち倒したロウ殿は、私を横目で見ながら褐色の唾を吐く。

 彼が愛した平和を壊した張本人は、氷よりも凍てついた目で、私の姿を映した。

 

 「死にたくなきゃとっとと逃げろ。それか───!?」

 「よくも、よくも……弱っちぃ人間のくせに……!!」

 「───へへっ、弱っちぃか……!!」

 「ひっ!?」

 

 ロウ殿が何かを言いかけた、その時、同胞(妖精族)が、大樹の魔法でロウ殿の右太腿を貫く。

 それでも、彼は止まらない。止まることが、できないのだろう。裡に渦巻く憎悪と憤怒に身を任せ、その目に映る全てを壊すまで……───

 

 「止まりなさい、ロウ殿!!止まらないというのなら、私が……」

 

 同胞を庇うように、武器を構えて彼の真正面に立つ。

 ロウ殿は私の顔を見て一笑し、ようやくその足を止めた。

 

 「俺を殺すか。それもいいな、やれよ」

 

 再び歩き出す───しかし、もう既に、彼の中には闘争心や憎しみといったものはなかった。

 彼の心にあるのは───底のない諦観と、焦燥と、後悔ばかりが渦巻いていた。

 まるで、()()()()()と、そう懇願しているかのようで───

 

 「ロウ殿……」

 「ッ、殺れよ!!俺は〈光の聖痕(てめぇら)〉の敵で、お前の大事なモンを奪った人間なんだぞ!!さぁ殺れ!!!」

 

 やはり、その言葉は自死を望むものばかり。

 その歪な心を持つ者と相対し、ほんの僅かに躊躇いが生まれる。

 

 

 

 

────ズッ

 

 

 

 鈍い、鈍い音が聞こえたと同時に、視界の半分が暗転する。

 次いでこの世のものとは思えない激痛が全身に奔り渡る。熱の棒を片目に突っ込まれたような熱が、痛覚となって脳に知らせる。

 片目を斬られた───そう理解するまで時間はかからなかった。

 

 残された半分の目が捉えたのは、カリバーン殿を惨殺した男が下衆な笑みを浮かびながら、剣を振るう姿だった。

 その男が私の元へと歩み寄り、少しずつ、でも確かに私の大切なモノを奪い去っていく。

 

 彼が綺麗だと褒めてくれた羽。

 

 彼と共に歩んだ両足。

 

 夢も、幸福も、思い出も──何もかもを奪われた。

 

 

 ───嗚呼、兄上、これはきっと、報いなのでしょうね。

 

 

 聖戦が早く終わってほしくて、生き餌のことを黙っていたこと。

 

 いつも甘えてばかりで、いざという時に大切な存在を守ることすらできなかったこと。

 

 彼の心にいた女性たちに嫉妬して、永久に彼をここに閉じ込めようとしたこと。

 

 ありとあらゆる後悔と罪が頭を巡って、早く彼に逢いたいと、そう思いながら目を瞑り───

 

 「ゲラードに……手を、出すなァアアアアア!!!!」

 「うおっ!?」

 

 絶叫と共に、何かが私の上に転がり込む。

 その姿を見て、もういないと思っていた存在を確認して、思わず涙を流す。

 

 「カリバーン、殿……!」

 「は、ははっ……ゲ、ラード……そこに、いるの……?真っ暗で、ちっとも見えないや」

 「い、ます……わたしは、ここに……ここにいます、から……!」

 

 差し伸ばされた手を、これでもかと力強く握る。彼は嬉しそうに笑うだけだった。

 嗚呼、よかった。でも、今際の際であることに変わりはない。きっと、もう間も無く、二人一緒に殺されることだろう。

 でも、それでよかった。彼と一緒に死ねるのなら、それ以上に幸せなことなんて、多分ないと思うから───

 

 「オイオイ、誰かと思って見てみれば、さっき仕留めた羽虫じゃねぇか!まだ生きていやがったのか……!いいぜ、そこにいる羽虫ともども地獄へ送り込んで───」

 「もういい、やめろ」

 

 ───ロウ殿が、仲間であるはずの男の胸に剣を刺し込んだ。

 何故、とか、どうして、と思うものの、ロウ殿は何も言わず、ただ私と彼の隣に腰をかけるだけだった。

 

 「ゲラード……大丈、夫?痛いこと、されてない?」

 「───大丈夫ですっ。私は、大丈夫ですから……」

 

 彼に心配をかけたくなくて、目が見えていないことを良いことに、嘘をついてしまった。

 すると、彼は一つ浅い呼吸をして、ほんの少し笑って────

 

 

 

 

「【健やかなれ】」

 

 

 

 ───全身に迸る激痛が、嘘のように消えた。

 

 何をされたのか───正常に戻りつつある脳がすぐに答えを出した。

 

 

 「────なんで。なんでっ、なんで私に、回復を……!」

 

 

 この際、何故彼が女神族の秘術を使えるのか、どうだってよかった。

 回復する術を持っていたのなら、どうして自分自身にではなく私に使ったのか。

 

 彼の体内から急激に魔力が失われつつある。このままでは、彼が死んでしまう。

 

 こんなこと望んでいない。あなたが死ぬのなら、私も死ぬ。あなたがいない世界を、何千年と生きていける自信がない。

 

 「……強がってることぐらい、分かる。何十年、一緒にいたと、思ってるんだか」

 「カリバーン殿……カリバーン……!やだ、いやです……!」

 「ごめんね、ゲラード。いつも、迷惑ばかり、かけて……だから、これはほんの少しの……恩返し……君には、生きていてほしいから……」

 「いやっ……まって、お願い、いや……私を、私を置いていかないで……っ!!」

 

 徐々に呼吸が浅くなっていくのが分かる。死期が、近い。

 

 「ロウ……そこにいるの?」

 「………よく分かったな」

 「まぁ、ね。なんとなく、君は良いやつだって、思ってたから」

 「ハッ、皮肉かよ」

 「そんなんじゃ、ないさ。実際、君は彼女を……助けてくれた……だから、そんな君に、頼みたいことが、あるんだ」

 

 カリバーンはロウがいる方へ顔を向ける。

 

 

 

 「ゲラードを、()()。どうか、彼女を……幸せ、に……────」

 

 

 

 

 

 

 『……あぁ、でも……やっぱり、もっとゲラードと一緒にいたいって、思っちまうよなぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

 「────カリバーン……?」

 

 

 

 その一言を最後に、とうとう息を吹き返すことはなかった。

 

 死んだ。

 たったそれだけの事実を理解するのに、何十秒と時間を費やした。

 

 

 

 ────あぁ。

 

 

 

 心にぽっかり穴が空いたような感覚───世界は色褪せ、得体の知れない底なしの虚無感に冴えなまされる。

 

 

 

 ────あぁっ。

 

 

 

 何よりも大切な存在だった。私にとって特別な人で、命に換えても守りたい人で、ずっと隣にいてほしい人だった。

 そして、ずっとそばにいてくれると、心の底から信じていた人で。彼なしの未来を想像できないほどで。

 

 

 

 ────あぁ………そうか。私は……

 

 

 

 ここでようやく、彼に抱いていた感情の名前を知った。

 

 

 

 「カリバーン………好き。あなたのことが……好き、だったの……っ」

 

 

 

 彼と過ごした全ての記憶が流れ込んでくる。

 

 数十年というとても短い時間。だけど、何にも勝る、大切な時間。

 

 ずっと、自身の気持ちに蓋をしていた。

 いつか知りたいと思っていた。でも、見て見ぬふりをして、正面から受け止めることを拒んできた感情の名前───全てが遅くなった今、ようやく口にすることができた、彼への気持ち。

 

 

 既に息絶えた彼の唇に、そっと口付けをする。

 全てが遅すぎた()。何もかも失ってから、ようやく理解した感情を、きっと何千年経っても忘れられない熱情を、一心に彼の体へと残し───そして、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もかもが、遅かった。

 

 つい先日、みんなで飲んで踊り明かした場所は、真っ赤な血潮に染まっていて、笑い声の残響と温かさが、やけに静かに脳の中で反芻する。

 

 誰だ。誰がやった。誰が───

 

 

 

 「────お前か」

 

 

 

 とある二人の亡骸を前に佇むのは一人の男。

 狼の如き鋭い目を持ち、獅子の如き飢えを携える、獣のような男──ロウは、何一つ語らず、ただ自身をその瞳に映すだけだった。

 

 傍で眠る二人は、自身にとって日常を象徴する存在だった。

 血泥に濡れたこの時代で、平穏という安らぎを与えてくれた二人。

 誰よりも守りたかった存在だった。誰よりも未来の幸福を願い、共に生きてほしいと思う存在だった。

 帰ればいつだってあの二人がいたから、あたしは生きてこれた。あの二人の未来のために、闘い抜いてこれた。

 

 

 それを、お前は───

 

 

 

 「───霊槍バスキアス 第一形態【霊槍(バスキアス)

 

 

 

 言葉はいらない。懺悔も、後悔も、謝罪も、何もかもいらない。

 

 ただ、お前を殺す。

 

 

 

 「…………ったく、厄介な遺言を残して逝きやがって……。でも、そうだな……もし次があるのなら。もし次が赦されるのなら──お前の代わりに、俺がお前の大切なモンを守る。たとえどんな姿になったとしてもな」

 

 

 

 

 ああぁぁあああっぁあああっぁぁああああああ!!!!!!!

 

 

 

 

 途方もない魔力を溜め込んだ聖なる槍は、ロウの上半身を消し飛ばした。

 

 一瞬、誰かの声が鼓膜を揺らすも、もう既にその声は聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨人族にとって、闘争からの逃走は死よりも恐ろしい行いであり、末代まで指を差され嘲笑されて然るべき愚行である。

 闘いから逃げるのなら、いっそその場で死んだ方がマシだ───そう思う同胞も多い。

 巨人の王として、その思考回路を糺すつもりはないし、一個人としても、きっと未来永劫、戦場からの逃走という選択を取ることはないだろうと考えていた。

 

 ───だからこそ、窮地に追い込まれる。

 

 

 「選ぶがいい……巨人王ドロール。ここで死ぬか、我ら〈十戒〉の仲間となるか」

 

 

 自身の小指にも満たないであろう体躯を持つ少年は、不遜にも、傲慢にも、赤子の手をひねるように、巨人の王たる私の胸を踏み躙り、王たる威厳を持って私を見下ろす。

 

 ゼルドリスと名乗った少年は、魔神王の魔力を行使する代理人と称した。それを証明するかのように私の魔力は封じられ、現状魔法を行使できない、ただの木偶の坊と化してしまった。

 つまり、今の私では──否、もし魔力があったとしても、この少年には逆立ちしても決して勝つことができない。

 

 

 よって、私に残された択は──二つ。

 

 

 彼の提案を受け入れ、〈十戒〉に堕ちるか。

 

 

 それとも、勇ましく戦って、巨人族として死ぬか。

 

 

 いくら勇敢な巨人族であっても、死は怖い。

 痛いものは痛いし、死ぬことはもっと怖い。

 どんな生物であれ、真に恐れる最後の変化が──死なのだ。

 

 生きたい。私は、生きたい。

 たとえ魔神族に堕ちたとしても、同胞を裏切ろうとも、友たちを裏切ろうとも、私は───

 

 

 

 

 

 『やっぱすごいんだなぁ、巨人族って』

 

 

 

 『勇敢で、死を恐れず、絶対に逃げない強い心があって……』

 

 

 

 『なんていうか……スッゲー尊敬するよ、ドロールくんみたいな人!』

 

 

 

 

 

 いつか言われた友の言葉を思い出す。

 異形と蔑まれてきた奇異の腕を褒め称え、力が全てと考えていた私に、別の強さを見出してくれた小さな友。

 いつか、あの黄金の少年のような志を持つことができればと、密かに尊敬の念を抱いていた少年だ。

 

 今の私は、彼に誇れるような人間であれているだろうか。

 及び腰になって、甘言に惑わされて、闇から這い出る手を掴み取ろうとする、今の私は。

 

 ……違う。彼が憧れた私は、こんな腑抜けた木偶の坊なんかではない。

 

 魔力がない──それがなんだ。

 

 力量の差は歴然──それがなんだ。

 

 闘いとは常に命懸け。

 簡単な戦闘など何一つない。

 

 「………私は、誉高き巨人族の王、ドロール。その誇りにかけ、はたまた友の期待に応えるため……如何なる要件であっても、あなた方の仲間には───」

 

 私に向けられる底なしの深い闇を帯びた瞳を見て、思わず口を閉ざす。

 まるで道端に落ちている石ころを見ているような目。私の命など、彼の機嫌次第でどうとでもなることを分からされる。

 そして、その機嫌がいつまで保ってくれるか分からない。もしかすれば、今この瞬間、首と胴体が泣き別れするやもしれない───

 

 そこまで思考が行き着いた時、己が口は勝手に開いていた。

 

 

 

 「────……私を、あなた方の仲間に……入れて、ください……」

 

 

 

 嗚呼、友よ。今も私の帰りを待つ優しき隣人よ。

 私は、あなたが期待するほどの強者ではなかった。

 逃げ出す勇気も湧いてこず、戦場で死ぬ覚悟もできない、弱く哀れで、口先だけの、死を恐れる愚王のようでした────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈光の聖痕(スティグマ)〉の内部崩壊により、再び均衡の天秤は正常に戻る。

 

 しかし、ここで予想だにしない一報が、今後の戦争の行方を決定づけた。

 

 

 女神族の最高戦力──〈四大天使〉『太陽』のマエル、死亡。

 

 

 これにより、戦況は一気に魔神族側へと傾く。

 最高戦力を失い、優秀な同胞たち()も失った女神族は、最大にして禁忌の術に触れる。

 

 女神族は自身の体を代償に【常闇の棺】を発動し、魔神族の封印を成功させる。

 ブリタニアの大地から二種族が消え、妖精族は妖精王の森の悲劇から、より一層内向的になり、巨人族は絶対にして崇拝すべき王を失ったことで、誇りを抱いただけの蛮族へと歩みを進めるようになる。最終的に、ブリタニアは人間族の手に渡った。

 

 

 

 

 こうして全種族を巻き込んだ聖戦は、一時的に幕を閉じる。

 

 今後数千年消えることのない傷跡と禍根を残して───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、彼の話をしよう。

 

 ゲラードに回復魔法を唱え、力尽きた彼は、これまで通り、魔力を発動させ、その魂は次の新たな体へと転移する───()()()()()

 

 偶然か、それとも必然か。

 ゲラードの接吻が、彼の魂に魔法をかけた。

 

 それは───()()()()()

 離れゆく魂を、彼女の魔力が発現させる蔓を概念化させ、掴めるはずのない魂をこの地に縛りつけ、永久にこの場に留まらせる、常軌を逸した執着と愛が成した奇跡の魔法だった。

 無論、ゲラードはこの事実に気づいていない。

 

 ならば、彼の魂は、死んだその瞬間から、その場に縫い留められているのか───実際はそう簡単な話ではない。

 彼に宿る魔力(『転生』)は、その存在そのものが異常(イレギュラー)

 魔力(『転生』)は己が役割を全うするために、強引にでも『転生(コンティニュー)』を強行しようとする。

 

 (イレギュラー)異能(イレギュラー)のぶつかり合い。

 

 そして、遂に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「兄さん………私、これからどうしたらいいの……」

 「?????」

 

 死んだと思ったら、目の前で金髪の少女が泣いていてワロス。

 

 ………いや、全く笑えないんだが?

 




────妖精族編、完。


ちなみに、メラスキュラは帰り道で彼の死体を発見して絶望していました。(死体は回収済み)
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