とある転生者の受難日記   作:匿名

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700年前・???編
第19話


 

 

 

 

 

 俺の名はカリバーン。ただのカリバーン。しがない転生者さ。

 つい先ほど、通算五度目の死を遂げたばかりなのですが、早くもピンチに見舞われています。

 

 「兄さん……ヘルブラム……みんな……」

 「…………」

 

 この子、誰ぇ……?どこの子ぉ……?

 

 俺の前には、純白のドレスに身を包んだ、華奢で可憐な少女がいた。

 とても小柄で可愛らしい美少女。よくよく考えなくても、明らかに事案であるわけだが、そう断定するには些か状況が特殊すぎる。

 その問題とは、こんな小さな少女が、軽く数百メートルはあるだろう木の上で、一人で泣き喚いていることだ。

 

 この場から見える絶景からも分かる通り、どうやら俺たちは相当デカい木の上にいるようだ。

 それに、妙に見覚えのある景色と雰囲気………なんとなく、ここが何処なのか分かってきた。

 

 さて、そんなことより、まずはこの子だ。

 慰めるにように、あるいは労わるように、哀愁漂う背中に声をかけた。

 

 「どしたん?話聞こか?」

 「───────()()

 

 その瞬間、周囲一帯に風が吹き荒れ、気づけば空中へ放り出されていた。

 何が起こったのかも分からぬまま、自由落下で落ちていく最中、ふと俺を見下ろす少女と目が合った。

 

 その目はひどく濁っていて、憎悪と憤怒、そして寂寞に塗り固められたかのような、恐ろしくも憐れな眼差しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精界──私たち妖精族の故郷であり、身を賭して護らねばならない場所。

 

 妖精王の森は、その妖精界と人間界をつなぐ、唯一にして無二の門であり道。

 故に、最強の守護者である妖精王は、何人たりとも妖精界に足を踏み入れさせないよう、この森を護る必要がある。

 

 しかし、現在、妖精王の森は王の庇護下に置かれてはいなかった。

 私の兄、妖精王ハーレクインは、親友のヘルブラムを救出しに行ったきり、いまだ帰還していないのだから───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、はぁ、ビックリした……」

 

 叫び声を上げながら堕ちていく人間を見ながら、ほうっとため息を漏らす。

 

 兄の代わりを務めて、はや数ヶ月。今回、初めて人間と出会した。

 だけど、兄さんの話を聞いている限り、過去に何度も人間たちが森に侵入しているらしい。でも、生命の泉に辿り着いた人間は誰一人としていなかったらしい。

 それは何も妖精王の能力が起因しているわけじゃない。この森が、悪しき存在を、森の心臓部たる泉に近づかせないようにしているだけ。

 

 なのに、音も、気配すらもなく、私の背後へと擦り寄り、あまつさえ私を心配する始末。守護者が聞いて呆れる。もしゲラードにこの場面を見られていたらネチネチ言われていたに違いない。

 

 それに、あの時は、ほんの少し過去を思い出しただけで、いつも泣いているわけじゃ………─────

 

 「…………誰に言い訳してるのかしら、私」

 

 最近、病気のように独り言を延々と繰り返している。返答してくれる存在なんて、もうこの森にいやしないのに……

 

 とにかく、さっきの人間は遠くへ吹き飛ばした。

 巨木のてっぺんからの墜落。普通は即死、よくて四肢欠損ね。

 

 「それにしても、どうして人間がここまで来れたの?妖精王の森がそんなこと許すわけが……」

 「いやー、それが当の本人にも分からねぇんですわ。目が覚めたらここにいたって感じ」

 

 そうなのね──と納得しかけ、脳の思考という思考が急ブレーキがかかったように止まる。

 背筋が震え上がるのをグッと堪えて、恐る恐る声のした方へ顔を向けた。

 

 

 「や、さっきぶり───」

 「キャアアアアアアアアアアアア!!!!お化けぇえええええええ!!!!」

 「huh!?!?」

 

 

 気づけば、風を吹き上げ、またしても遠く彼方へと吹き飛ばしていた。

 先ほどまで抱いていた憤怒や警戒は何処へやら、今はまたしても突然現れた人間に対して不気味さや恐怖を覚えるほどだ。

 

 「で、でも、これであの人間は───」

 「それがどっこい、生きてるんですね〜、これが」

 「なっ!?」

 

 な、なんなのよ、この人間!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「【そよ風の逆鱗】!」

 「うわぁああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「【そよ風の逆鱗】!!」

 「ぎゃあああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「【そよ風の逆鱗】!!!!」

 「ぐわああああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しつこい!!」

 

 「それはこっちのセリフじゃい!!何回吹き飛ばせば気が済むんだアホンダラ!!」

 

 お互い息を切らせながら、互いを忌々しく睨め付ける。

 何度吹き飛ばしても、何度も登ってくる。まるで意味が分からなかった。

 

 「そもそもなんで生きてるのよ!?人間がこの高さから落ちて無事なはずがない!それに、登ってくるのが早すぎるわ!どういう理屈よ!」

 「知らないね!落ちたら風がブワーって背中を押し上げてくれてんだから!」

 「ッ!?」

 

 この人間の言うことを信じれば、つまり()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 この森が人間を助けるはずがない。でも、そうでなければ、現状を説明できるものがない。

 

 「ま、まさか、そんなこと起こるわけ……」

 「それと一つ訂正。どうやら()()俺は人間と言っていいのか怪しいみたいだ」

 「……?それはどういう───」

 

 言いかけて気づく。

 よくよく見てみれば、彼の体はほんの僅かに透けて見えた。

 内臓やら骨やらが見えるわけではない。先のやり取りから、こちらの攻撃が効かないわけでもないのだろう。

 ただ、霞んで見える。全体的に朧げで、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだった。

 

 「………あなた、何者?」

 「人間さ………元」

 「何よそれ……」

 

 変な人間。こんな人間、見たことも聞いたこともない。

 

 だけど、所詮、()()()()()。あなたの考えなんて透けて見える。

 

 「あなたも生命の泉を奪いに来たの?」

 「生命の泉?何それ」

 

 白々しい……

 ここに来る理由なんて、生命の泉以外ありはしないというのに。

 

 「生命の泉……あなたたち人間が童謡として語り紡いでいることは知っているわ。『一口舐めれば十年長生き 一口飲めば百年長生き 全部飲めば永遠の命』……これらの言い伝えは全て事実よ。だから、あなたは泉の聖女である私を排除し、泉を奪いに来た………違う?」

 「えっ、うん。違う違う。たまたまここで目覚めちゃったのよ、ほんとに」

 

 人間は本当に愚かね。

 自身の欲望のためなら、平然と嘘をつく。

 私たち(妖精族)は人の心を読めるとも知らずに、なんとも滑稽なことね。

 

 きっと、ヘラヘラ笑うその仮面の下には、見るにも堪えない悍ましい感情があるに違いな───

 

 

 

 

 

 『生命の泉ねー。そんなのがあったんだ、知らなかったや。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 …………この人間、嘘をついていない。

 否、それだけならまだ良い。この人間、生命の泉を前にして、欲望を剥き出しにするどころか、早々に興味を失くしている。泉の本質を正しく理解してなお……

 

 それに、この人間の心。

 今も上空に広がる蒼穹のように、広く澄んだ大空のような心。

 温かくて、全てを包み込んでくれる、太陽のような心。

 こんな心象風景を持つ人間は、数多の同胞(妖精族)を含めて初めて出会った。

 

 「そんなことより、君、妖精族だろ?ということは、やっぱりこの森は妖精王の森か!いやー、見覚えあるなーって思ってたんだ!ぜひ案内してくれ!会いたい人もいるんだ!」

 「は、はぁ?」

 「あーっと、その前に自己紹介か。俺、カリバーンっていうんだ。ただのカリバーン。君は?」

 

 本当に不思議な人間。

 私の知っている人間とは、何もかも違う。

 

 でも、何より、そんな人間を前にして穏やかな気持ちになっている自分が、もっと不思議に思えて───

 

 

 

 「───エレイン。ただのエレインよ」

 

 

 

 そして、人間に名を明かしてしまう自分自身が、もっと不思議に思えた。

 




次回詳細に述べますが、今のカリバーンは生者と死者のちょうど境目に位置する存在と化しています。
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