とある転生者の受難日記   作:匿名

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第20話

 

 

 

 

 

〒月∬日

 

俺といえば日記、日記といえば俺。ならば日記を書くのは、半ば義務といえる。たとえ半透明人間みたいな状態になったとしてもな。

 

というわけで、今世も日記を書いていくぜ!

今回は人間族でもなければ魔神族でも、女神族でも、妖精族でもない!

半透明人間──つまるところ幽霊に生まれ変わったぜ!もうワケわかめ!

 

今回はなかなかに特殊な転生だ。なんせ、実体を持たない体に転生してしまったわけですしおすし……

場所は妖精王の森。これまで同じ場所で転生はなかったから、これについても特殊と言わざるを得ない。

 

そこで出会ったのは、生命の泉という泉を守る妖精族──エレインという少女だ。

生命の泉とは、妖精王の森の核にあたる場所だ。なんでも、生命の泉が枯れたとき、妖精王の森は朽ち果てるだとかなんとか。

正直に言いましょう、知らんかった……。妖精王の森で数十年暮らしていたが、そんな重要な場所を知らなかったとは……バカが露呈して困るね。

 

とまぁ、なんやかんや色々あって、この森に居座る許可をもらった。スッゲー嫌そうな顔されたけど……

 

というか、俺って妖精王の森から出られるんかな?

明日試してみよう。

 

 

 

 

 

羲月…日

 

何度か試してみたがダメだった。

 

いざ妖精王の森から出ようとしたら、見えない壁に阻まれているかのように、一歩たりとも外へ出られなかった。

 

これには流石のエレインさんも驚愕。試しに背中を押してもらっても全然ダメで、危うく板挟みになってペラペラになるところだった。

 

それと、もう一つ衝撃的な事実が判明した。

 

 

【悲報】俺氏、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───である。

 

 

この森、どうしてか妖精一人っ子も見かけず、ただキノコだけが散歩して回ってるという、なんとも不思議な状況なのだ。

おかしいよね。妖精王の森なのに、妖精王どころか、エレインを除いて妖精族の一人も見ないなんて。

 

この件は後ほど聞くとして、妖精がいないだけで、生物は存在しているのだ。

それが先ほど少しだけ触れた歩くキノコ。言葉も通じるみたい。

そんなキノコであるが………なんと俺の姿を認識できていないのだ。エレインのことはちゃんと認識できるのに。

 

いや、ぶっちゃけそんな予感はしていた。してはいたが……

エレインには見えて、他には見えない……なんなんだろうね、この差は。

 

 

 

 

 

ちなみに、エレインから『これじゃあ本物の悪霊じゃない』と言われた時は本気で落ち込みました。誰が悪霊じゃ!!

 

 

 

 

 

↓月∃日

 

やはり、エレインが言うに、この妖精王の森には彼女と俺以外、誰一人としていないそうだ。あっ、キノコは除いてね。

どうやら、みんな妖精界に帰っちゃったらしい。

なんかやけに薄情やな……とは思うものの、他所は他所、ウチはウチであるため、口出しする気はない。

………元妖精族だった俺には口を出す権利があるのでは?ボブは訝しんだ。

 

ちなみに、聖戦は疾うの昔に終戦しているらしい。なんなら終戦したのは数千年前になるそうだ。

 

数千年前マ???

 

 

 

 

 

☆月℃日

 

エレインのためにご飯を作った。

最初は『人間が作ったものなんて誰が口にするのよ!』と断固拒否の姿勢だったが、湧き立てられる食欲には抗えず、一口食べれば虜になってくれたぜ。

 

ゲラードから教わっておいてよかったと心底思うぜ。おかげでエレインとの距離を縮められた……ような気がする。縮まっててほしい。縮まってくれないかなぁ?

 

ゲラード………もう数千年経っちゃった。

妖精族の寿命は長いって聞いているけれど、数千年は流石に……

 

魔神族は封印され、女神族は体を消失。巨人族と妖精族、人間族はまだ存在しているけれど……俺の知るみんなは、もうこの世にいないのだろうか。

 

寂しい……

 

 

 

 

 

+月÷日

 

エレインに出会って一年経った。

今日もエレインの後を追って妖精王の森を探索する。その心情はさながらストーカー。しかし、その胸には燃え焦がす使命を宿しています。なのでストーカーなどではない!

数ヶ月前までは『付いてこないで』と+αありとあらゆる罵倒をもらったものだが、最近はため息を吐くだけだ。オラの粘りが勝ったァ!!

 

ちなみに、まだ人間とは出会していない。

 

 

 

 

 

〆月\日

 

エレインに出会って数年経った。

最近、散歩で暇つぶしするのにも限界が見え始めてきたらしく、浮かない顔してばかりだ。

 

なので、前世の知識を利用し、エレインにお手製のリバーシとトランプを持って行ってあげた。

初めて役に立った現代知識チート、ちょっと嬉しい。

 

リバーシもトランプも大好きだ。ぶっちゃけかなり得意と言ってもいい。

 

これで少しは暇が解消できれば良いんだけど……と思うのも束の間、ここでとんでもないしくじりに気づく。

俺が持ってきた物、どれも二人以上いないとできないやつだ……

これってボッチの彼女に対する恥辱以外何物でもないのでは?死ぬ?幽霊だけど殺されるんじゃないのか?

その挙句、人間族(諸説あり)の俺とやる羽目になるしさ。嫌で嫌でしょうがなかっただろうにね。

内心愚痴を千通り並べたてているかもしれない。くわばらくわばら……

 

ちなみに圧勝した。

ムキになったエレインが可愛かったです。

 

 

 

 

 

¿月∂日

 

初めて人間と遭遇した。

めちゃくちゃおっかない顔で、The 悪人!って感じの、世紀末にいそうなイカついおじさんだった。

 

居候させてもらってる身、俺がただの料理番長じゃないってところを見せつけたくて、盗賊をボッコボコのフルボッコにして帰した。

 

エレインは何か言いたげな顔をしていたが、まさかの小言なに一つ言われなかった。

 

嘘みたいだろ?あのエレインから説教どころか小言嫌味一つ言われなかったんだぜ。明日は槍でも降ってくるんじゃないか?

 

 

 

 

 

◇月⌘日

 

今日も人間がやって来た。

盗賊と名乗っていた。

目的はもちろん生命の泉。

 

イカした立て髪ヘアーをもじゃもじゃのアフロにして帰してやった。

 

というか最近、やけに人間たちが森を訪れるようになった。

どこからか王様の不在を知ったのかな。

 

 

 

 

 

〒月Å日

 

今日も人間がやって来た。

冒険者と名乗っていた。見るからに駆け出しではなかったので、おそらく野心だけは一級の万年中級冒険者だ。

 

ただ、冒険者という、転生者なら誰もが憧れるであろう職業に就いている人を目の前にして、好奇心を抑えられなかった。

 

まず身包みを全部剥いで──エレインのお目を汚させないため下着だけは見逃した──武器も没収し、エレインの魔法で拘束した後、(エレインを通して)この世界の冒険者について尋ねちゃった!

 

いやー、やっぱり良いよね、冒険者。

こよなく自由を愛する無法者のバカどもって感じがしてさ!

熱弁する彼の話に思わず拳を握りしめてしまった……!

 

もうちょっと話を聞いていたかったが……後ろでニコニコな聖女様を見てすぐお開きとなった。

エレインって怒ると笑うタイプだよ、多分……

 

あのおじさん、また来てくれないかな……とか思ってるけど、多分望み薄だなぁ。

だって、エレインの笑顔を見て、めちゃくちゃ怖がってたし……

 

 

 

 

 

¥月¡日

 

今日も人間がやって来た……が、今回は少し事情が異なる。

 

やって来たのは人畜無害そうなお爺さんだった。

(エレインを通して)何しにここへ来たのかと尋ねたら、もうすぐで誕生日になる孫に贈る綺麗な花を探していたら、森に迷い込んでしまったらしい。

嘘を吐いているように思えなかった。そう信じたいという、自分の気持ちが多分に入っていることは否めないけれど、それ以上にエレインが警戒を解いていたのが何よりの証拠だった。

お爺さんは白い花を抱えて家に帰った。ここから近いと言っていたので、多分無事に辿り着けるはずだ。

 

あのお爺さんを見ていると、じいちゃんのことを思い出す。

もう、じいちゃんと一緒に暮らした時間より長く生きているけれど、色濃く残る思い出は鮮明に脳裏の片隅に大切に保管されている。

あのお爺さんに愛されているお孫さんが、ほんの少し羨ましいと思った。

 

 

 

 

 

※追記

 

森の入り口に墓標が建てられていた。

誰が入っているのかは直接見ていないので定かではないが、なんとなくあのお爺さんの物だと思った。

 

 

 

 

 

☆月£日

 

今日も人間がやって来た。

恰好やら口ぶりから察するに、どこかの小国の軍隊かと思われる。

王様が生命の泉をご所望だとかなんとかって。

 

そん時のエレインの顔はすごかったな……

ある特定の性癖を持つ人にはご褒美になるような顔をこれでもかと晒していらっしゃった。

 

ちなみに、俺にそんな趣味はないので、かような紳士のお気持ちは微塵も理解できません。

 

 

 

 

 

♫月⁑日

 

エレインに出会って十年経った。

そして、初めて人間が来てから数年経った。

 

あのヒャッハー系世紀末男がやって来たのを境に、頻繁に訪れるようになった人間たち。

もちろん負けることはないし、なんなら魔法の試し撃ちをして、無礼な輩どもを面白おかしい恰好にしているんだが、それにしたって際限がない。

 

ほんと、人って欲望には忠実なんだから〜……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『良いか、エレイン。お前の使命はこの森と泉を守り、人間たちに恐怖を植え付けることだ。ハーレクイン様がそうしてきたように、()()()()()()()を以てしてな……』

 

 森と泉の守護を仰せつかったあの日、ゲラードに言われた言葉が脳裏を過ぎる。

 

 私の役割は、兄が帰ってくるその時まで、この森と泉を守ること。

 そして、泉や羽根目当てで森に侵入してきた人間たちを、()()()()()()()()

 『森に侵入した者は、何人たりとも生きて帰れない』──その恐怖を人間たちに植え付けなければならない。

 

 でなければ、人間たちは何度でもやって来る。何年、何十年、何百年と。

 

 底のない欲望。

 それを手に入れるためなら、どこまでも残忍かつ狡猾になれる。

 人間とはそういう種族なのだから。

 

 ─────だからこそ、彼の行動に苛立ちを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 「え?な、なんのことかな……」

 「バレていないと思ってたの?あなた、あえて争いごとに首を突っ込んでいるでしょ?私から戦闘を遠ざけるために」

 「う、うーん……」

 

 彼は私の問いかけに答えず、口を噤む。

 その反応だけで、彼が意図的にしていたことが確定となった。

 

 「それに、あなたのやり方ではダメ。生きて帰られたら、人間たちに恐怖を植え付けることができないじゃない」

 「……そんな野蛮な手段を用いなくても、十分分かってもらえるよ」

 「分かってない。あなたは人間のことを何ひとつ分かってないのよ」

 

 彼には心の声が聞こえないから、そんなことが言えるのよ。

 彼らが帰り際に呟いた言葉を教えましょうか?『次はどう出し抜いてやろうか』、『次はどう泉を奪い取ってやろうか』……そればかり。

 

 だから、私にはどうしても、彼の行動が同じ種族に対する憐れみからくるもので、あえて見逃しているようにしか見えなかった。

 

 「じゃあエレインはどうなのさ」

 「……え?」

 「エレインだって、人間の全てを理解できるほど、人間に会ったの?」

 「……えぇ、ここ数十年でよく理解したわ。お行儀よく挨拶しに森に侵入してきた人間たちが教えてくれたもの。誰も彼も、欲望に濡れているって!」

 「でも、必ずしもそんな人ばかりじゃなかったろ?」

 

 ──心当たりがないと言えば嘘になる。

 数年前の花を探しに来た老人然り、目の前にいる彼然り……

 だが、それは例外中の例外だ。誰も彼もが同じなはずがない。

 

 「それに……俺は君に人を殺してほしくない」

 「どうして?やっぱり、あなたが人間を庇いたいだけなんじゃないの?」

 「そ、そんなつもりはないよ!ただ、殺すだけじゃなんの解決にもならないんじゃないかって思うんだ。今は憎しみ合うことしかできなくても、『いつの日か』って、そう信じていたいからさ……」

 

 その言葉には、何処か寂しさがあった。

 いつも輝いている蒼い瞳は、ここではない何処か遠くを眺めているようだった。

 

 「それに……君は、()()()()()()()()()()()()()。違う?」

 「────」

 

 鋼鉄のベールを引かれた心の隙間に針を通された気分だった。

 身に覚えのない、しかし無意識に避けていた核心を容赦なく撫でられたような、そんな気分。

 

 「そ、そんなことないわ。だって、私は───」

 「妖精王の代理を務めている者なのだから──かな。妖精王もそうしてきたから……だから、お兄さんに倣おうとした。でも、本当はそんな役目、引き受けたくないんだろ?」

 「ッ」

 「だから、止まってほしかったんだ。嫌なことを強要させたくなかった。人を殺して、傷つく君を見たくなかったから……」

 

 彼は壊れ物を触るように優しく、優しく、両の手を包み込む。

 申し訳なさを含んだ哀愁漂う笑みが、何故か妙に心に残る。

 

 嘘はついていない。全て本心だ。

 ………だからこそ、彼の思いやりや温かみを直に感じ取ることができた。

 

 「…………身勝手よ。何も知らないくせに、心も読めないくせに……」

 「うん、身勝手だ。君らのことは何も知らないし、超能力じみた(心を読む)ことも出来ない。ただの憶測で、君の考えも聞かずに、俺のエゴばかり押し付けてしまって……」

 「…………でも、どうしてかしらね。あなたの言葉を聞いて、悪い気はしないの。変かしら?」

 

 その時の、意外そうに、または物珍しそうに私を見る彼の顔が面白くて、つい吹き出してしまった。

 その姿を、どうしてか、実の兄の姿に重ねてしまう。

 

 「でも、あなたばかり任せられない」

 「うぅ、やっぱりそうだよね……部外者で、人間の俺には……」

 「そういう意味じゃなくて──()()()、この森を守りましょう?それならいいでしょ?」

 「──うん!」

 

 どうしてそうも嬉しそうに笑うのか理解できなかったけど、やはり悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、彼と二人で星空を見上げながら、いつか兄に尋ねられた問いを思い出す。

 

 

 

 『エレインはさ、将来の夢とかってあるの?』

 

 

 

 その問いかけを、彼に直接聞いてみたくなった。

 

 「ねぇ、カリバーン。夢って、ある?将来どんな人物になっていたい……とか」

 「え?将来の夢?んー………立派な魔法使いとか!でも、歴史に名を残したいってわけじゃなくて、鬱蒼とした森の奥深くに小屋を立てて、一人篭って魔法の研究をしているような魔法使いになりたいかも。あっ、それと冒険者になってみるのもいいかもしれない。ソロで世界をゆっくり見て回るんだ!それから、それから……」

 「将来の夢って一つだけじゃないの?」

 「何言ってんのさ!夢は多い方が楽しいに決まってる!」

 

 それは私たち(妖精族)のように長寿であればの話。

 短命な人間では、いつかその膨大な夢の量に押しつぶされてしまうのが目に見えている。

 

 身の程知らずで身の丈に合わない夢を抱えようとする強欲さ……やっぱり、彼も人間なのね。

 ただ、不相応な夢の話を聞いていても、不快な気分にはならなかった。

 

 「えーっと、あとはね………あぁ、肝心なのを忘れてた」

 

 カリバーンは立ち上がり、両手を広げて、妖精王の森全土を──否、その先にある世界そのものを見ていた。

 

 

 「いつか、種族の隔たりを超えて、みんなが仲良く暮らしている世界───俺が生きているうちに見てみたいよね!」

 

 

 まさしく理想。御伽話のような、甘く青い願望。

 

 だけど、()()()()()()()()()

 いつ実現できるか分からないし、そんな未来想像もつかないけれど、もし実現したら、それはどんなに素晴らしいことかと思わずにはいられない。

 その夢が叶った時、彼はどんな表情をするのだろう。

 そして、その瞬間を、彼の隣で眺めているのが、もし私なら……────

 

 「叶うといいわね、その夢」

 「うん!エレインの夢は?」

 「私?………あまり考えたことがなかったの、そういうの。だから、これから探してみることにするわ」

 「いいね!俺も手伝うぜ!」

 

 屈託のない笑みを向けてくれるカリバーンを直視できない。

 心臓の脈打つ音が早くなって、とてもではないが正気ではいられない。

 

 でも、今はいい。

 今はまだ、この心地よい感情に身を委ねていたいから───

 




ワクワク
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