とある転生者の受難日記 作:匿名
※月£日
最近、エレインとの距離が少し縮まったと思う。
最近は“あなた”じゃなく名前で呼ばれるようになったし、散歩について行っても嫌な顔をされなくなった。なんなら誘われるようになった。
この劇的変化は何!?ちょっと怖いんですけど!?
☆月○日
エレインが俺の家(秘密基地)にやって来た!これも初めてのことだ!
どうやらヒマでヒマでしょうがなかったらしいので、偶然通りかかった俺の家にお邪魔しに来たらしい。
…………偶然、ねぇ。
泉の守護を放り投げて──実際は侵入者が現れたら森が教えてくれるらしいから、持ち場を離れても問題ないらしい──わざわざ俺のとこに来るか?………来るのかもしれない。
人間嫌いな彼女が俺のところに通うなんて、それしか理由が思いつかないし……
だとしたら、相当ヒマだったのかもな。で、どうやら俺はそのヒマを潰せる程度の相手ぐらいには昇格することができたらしい。
………まったく、とんだツンデレなんだから〜〜!!
〒月>日
エレインと出会って五十年が経った。
その記念かは知らないけど、エレインから彼女のお兄さんと、その友達の話を聞いた。
すごくヘビーな話ではあったが、この過去が今の彼女を作った核心にあたるものであった。
彼女の友達は人間に興味を抱く変わり者だったらしい。エレインには理解できなかったらしいが、人間の文化を楽しそうに語ってくれて、いつか人間の集落に住むんじゃないかと思うほどにのめり込んでいたらしい。
だけど、数十年前、信じていた人間に騙されて、何処かへ攫われてしまったらしい。ほんま人畜生はよぉ……
お兄さんはその友人を追って森を飛び出して行ったきり帰ってこない。
エレインはこの出来事からさらに人間を嫌悪するようになったそうだ。
そんな、考え得る限り最悪のタイミングで、人間族(諸説あり)の俺と出会ってしまったせいで、憎悪やら怒りやらの感情がてんやわんや湧き上がってしまい、冷たくしてしまったらしい。俺って男はいつも間が悪い……
そのことについて、改めて彼女から謝罪されたが、多分誰だってそうなるだろうし、仕方ないというか……だからあんまり気にしないでほしい。
結局、漫画の主人公のようにイカした言葉を贈ることができず、モヤモヤとした痼を残したまま、帰路についた。
何も思いつかなかった……というより、何も言えなかった、と言った方が正しい。
どちらかといえば、俺も彼女のお兄さんのように、たくさんの人たちの期待を裏切り、禍根を残してきた人間だから……
エレインは、もしお兄さんが帰ってきた時、いつものように接することができるか分からないと言っていた。
百年以上ほったらかしにされている身からすれば、そう思ってしまうのも仕方がないと言えるし、むしろ当然と言える。
△月;日
【悲報】俺氏、またしても正々堂々の覗きをかましてしまう。
なんとも言えない雰囲気で終わった昨日の今日で、まさかこんなことになるなんて誰も思わんて……
意図的ではない。いつも通り泉にやって来ただけだ。ただ、いつもと違う点を挙げるとするならば、その日は色々考え事をしていたせいで目覚めが悪く、ほんの少し早めに家を出たぐらいだろう。
まさか水浴びしている時間だなんて誰も思わんて。
というか思わず見惚れちまったよね。ゲラードと全く同じだわ。細身の体に砂金のように輝く金髪。水に濡れているせいか、より艶かしく見えてしまった。
その後、赤面のエレインにこっ酷く怒られた。数時間の正座は流石に堪えるって……
ただ、昨日までの蟠りは綺麗サッパリ消えたと思う。
やはりラッキースケベ!ラッキースケベが全てを解決する……!
¢月∞日
比較的平穏な生活をしている今世だが、魔法や剣術の鍛錬は欠かさずやっている。
当然だろう。剣と魔法は男のロマンだ。
エレインは俺が使える魔法の多さに驚いていた。
……ごめん、正直俺が一番驚いてる。
ほんと、人生って不思議なものだ。
前までは誰がどう見ても落ちこぼれで、カス以外何者でもなかったのに、今やたくさんの魔法を扱えるようになった。
なんてシンデレラストーリー。マーリンにも成長した俺の姿を見てもらいたかったものだ。魔法好きの彼女なら、きっと泣いて喜ぶだろう。
…………ちゃんと死ぬことができたら、いつかマーリンやみんなとも会うことができるのだろうか。
§月∂ 日
エレインと出会って百年が経った。
百年って……普通に人の一生分なんだが。
なんか、ぶっちゃけ『あっ、もうそんなに経った?』程度だ。人の一生分生きた気がしない。
まぁ、今は生きてんのか死んでんのか分からん状態だけど。
エレインは相変わらずドライだ。ドライではあるが、温かみのあるドライだ。温かいのかドライなのかどっちなんだよ。
要するにツンデレってこと。それがまた可愛くて、我が人生最高の癒しである。
♯月※日
今日はエレインと一日中遊んだ。
泉の守護はどうしたって?いいんだよ、忘れて。
───というのは半分冗談で半分本気。いつまでも仕事ばっかじゃ心が病んじゃうよ!
魔法で滑り台を作り出したり、綺麗な花を咲かせたりと、色々やりたい放題。
エレインも喜んでくれていたし、やっぱりやって良かったと強く思った。
∞月‼︎日
デカい番犬と出会った。
犬かといえば犬だけど犬じゃない。オオカミといえばオオカミだけどオオカミじゃない。
本当に不思議な生物だった。
名前はオスローというらしい。
オスローは俺の姿は見えないらしいが、やたら周辺の匂いを嗅がれたので、何となく俺という存在がいるのは分かっているのだろう。
ただ、不思議なことと言えばもう一つ。
オスローに妙な既視感を覚えてしまうのですが、これは病気か何かですか?
根拠も何もあったもんじゃないけど……なんか、前に一度、オスローと会ったことがある……?
気のせいかな……だって、こんな犬見たことないし……
∩月∇日
【悲報】俺氏、水浴び中に覗き見される。
冗談はさておいて、またしても事件発生。
とはいえ、今回は被害者だ。いや、そもそも前回や今回にも、加害者も被害者もいないんだが……
超簡潔にまとめると、生命の泉で水浴びしていたら見られてしまった。
何故入っていたのかというと、入ったら気持ちよさそうだったから。以上!
しかし、エレインちゃんはウブよの〜。裸一つ見ただけで顔を真っ赤にしちゃうなんてさ〜。
それでも本当に何百年も生きてるんですかって言いたくなる。
せっかくなので水の掛け合いっこをした。(強制)
そん時のエレインのスケスケの服装と赤らめた頬は完全にR18であったことをお前に教える。いや〜、眼福眼福。至高の時間でした。
×月☆日
エレインと寝た。
普通に寝ただけだ。
『何故?』と聞かれたら、『なんでやろな〜』と答えてしまうぐらいには、特にこれといった事情はなかった。
ただ、この日は異常に疲れてたんだ。たくさんの人間がやって来たせいだろうか。
家に帰ることすら億劫。だから、エレインに睡眠の許可を得たんだったっけ。
で、なんやかんやあって、二人仲良く夜空を見ながら寝ました。
ちなみに、その後は特に何もなかったゾ。本当だゾ。
今の俺は幽霊だし、そもそもそういうこと出来ない体だし、何よりエレインは俺にとって妹みたいな存在だし。
だから、如何に無防備な寝姿を晒そうとも、己が欲求に突き動かされる男ではないのだ。
エレインもすぐに眠ったし、お互い意識していないことは確かだ。
ただ、エレインはエレインで注意してほしい。
俺だったから良かったものを、他の悪いオオカミだったらペロリと食べられていたに違いないからな!君可愛いんだから!
というか、めちゃくちゃ耳が赤かったよな〜、昨日のエレイン。
熱でもあったのだろうか。お兄ちゃん、心配です。
∵月◇日
エレインと出会って二百年が過ぎた。
彼女のお兄さんは、依然として帰ってくる気配なし。
だけど、ここ数百年で吹っ切れたのか、お兄さんのことを話題に出すことは滅多になくなった。
よく分かんないけど乗り越えられて良かったよ!
その代わり、外の世界について話をせがまれることが多くなった。
思えば、彼女は妖精王の実の妹にあたるわけだから、妖精族からすれば姫様的な存在だ。つまり箱入り娘ってこと。
元々自閉的な妖精族、その最たる存在に次ぐ存在であるエレインが世界を知らなくても別に驚きはなかった。
今日は人間族時代で体験した学校のお話をしたぜ!
妖精族に学校って制度ないもんな。
興味なさそうにしながらも、耳はしっかりとこちらに傾けていた。
ここでもツンデレが出るのかよ……
➗月°日
今日は久々に離れ離れで寝たんだが、起きたら隣にエレインがいた件。
マジで心臓が止まるかと思った……
聞いても何も答えてくれないし、もうどうしたら良いのやら……
¥月♬日
エレインと出会って三百年経った。
今日も特に変わらない日々を過ごす──かと思いきや、エレインがアップルパイを作ってくれた。
エレインが手料理してるの初めて見た。というか、いつの間に好物を把握されていた……!?
ちなみにアップルパイはめちゃくちゃ美味かったです。完全に胃袋掴まれちゃいました。
★月⁂日
エレインと出会って四百年経った。
今日は森の最西端に成っていた果実を採りに行こうと思う。
エレイン、喜んでくれるかな!
◇◆
兄とヘルブラムがいなくなったあの日から。
静寂だけが残った森で初めて夜を明かしたあの日から───私は、これからずっと、この孤独と戦い続けていくのだと思っていた。
何年、何十年、何百年かは分からない。
だけど、きっと想像を絶するほどの窮愁の念に沈んでいくのだろうと。
「おはよう、エレイン!今日もいい朝だな!」
その予想はものの数ヶ月で破綻したけれど……
何十、何百、何千、何万回と呼ばれた名と、聞き慣れた声に耳を傾けながら顔を向ける。そこにはやはり見慣れた顔と姿があった。
「えぇ、おはよう、カリバーン。相変わらず元気な挨拶ね。あなたってどうしていつも朝からこんなに元気なの?」
「ん?そりゃエレインに会えるからに決まってるじゃん」
「………………はぁ、もういいわ」
「何故か呆れられたでござる。遺憾の意を表明したい」
数百年───その年数は、妖精族である私にとっても決して無視できない。
それだけの年数を過ごせば、たいていのことは全て理解できるだろう。良いところも、悪いところも、彼の色んな部分を見た。
それでもなお、今の彼に対して向ける親愛は嘘偽りのないもの。
私にとってカリバーンとは、良き友人であり、世話を焼く弟であり、そして頼りになる兄のような人だった。
数百年、彼と過ごしてきた日々は、少なくとも孤独とは程遠いものだった。
いつも何かしらに巻き込まれるし、いつも何かしらの問題を引っ提げて帰ってくるし、突発性のある彼の奇行に振り回されるのは日常茶飯事だし……
毎日が騒がしく、でもそんな日々が好きな自分がいることも確かで。
「エレイン、今日は森の最西端に行ってくるから、少し離れるね」
「ほら、またそうやって…………いや、いいわ。いいんだけど、どうして?」
「美味しそうな木の実が成ってたんだ!エレインの分も採ってくるから待っててよ」
「…………」
『置いていかないで』、『私も連れてって』───この気持ちは、我儘なのだろうか。
「…………分かったわ。でも、もし美味しくなかったら今日のアップルパイは抜きね」
「そんな……!?いや、絶対美味い……はずだ!多分!おそらく!メイビー!」
「なら、もし本当に美味しかったら……アップルパイ二つ作ってあげる」
「ッ!!言質取ったりィいいいいいい!!!」
雄叫びを上げながら真っ直ぐに飛び出して行った彼の後ろ姿を見ながら、思わず笑みが溢れる。
これが今の私の日常だ。退屈になるはずがない。
さて、私も支度をしよう。
さっきはああ言ったが、アップルパイは作ってあげるつもりだ。
私の作ったアップルパイを頬張る彼を見るのは好きだし、彼と一緒に食べる時間はもっと好きだから。
重い腰を上げて、さてやりますかと背筋を伸ばした───その時。
「────」
ぐにゃりと。背後にあった空間が激しく歪んだ。
それは異界へと繋がる門。その証拠に、ゲートから覗かせる光景は、懐かしい故郷の姿を映していた。
妖精界から誰かがやって来る──その詳細を詮索する間も無く、奥から人影が現れた。真っ先に目が向かうのは、夜を溶かしたような
「息災だな、エレイン」
「…………ゲラー、ド……」
意外にも意外な人物の登場に、名前を呼ぶのに精一杯で、必死に声の震えを抑える。
ゲラード。初代妖精王の頃から補佐官として仕え、私たちに王族の教育を施した、いわゆるお目付け役。
「数百年ぶりか。抜かりなく己が使命を全うしているようで安心したぞ。これからも森の守護を頼む」
「……………言われなくても」
何故今になって森に帰ってきたのか──すぐに察することができた。
「ところで……王は、ハーレクイン様は……まだお戻りではないのか。まったく、王は一体どこでなにを……」
「…………」
やはり、兄のこと。
ゲラードは妖精王を絶対視しているきらいがある。
それこそ、妖精王か、それとも自分を含めた他の妖精族、どちらの命を選ぶか迫られた時、躊躇いなく妖精王を選ぶくらいには……
昔のゲラードを知る妖精によれば、かつては天真爛漫でよく笑っていたらしいが、とてもではないが信じられない。
ゲラードが笑ったところなんて見たことがない。
そんな彼女に、私は何を期待していたのだろう。
少しだけ、ほんの少しだけでもいいから、気にかけてほしかったと思う自分がいて。そんな淡い期待を勝手に裏切られて、勝手に傷ついて……そんな自分がひどく惨めに思えて、思わず顔を俯かせる。
今、隣に彼がいないことが、こんなにも心許ない。
「エレイ〜〜ン!!これこれ!このりんごみたいな果実がさ〜……────」
待ち望んでいた人が帰ってきた。
あぁ、そうだ。私は一人じゃない。私には彼がいる。
彼は、彼だけは違う。兄やゲラードとは違う。私を、私だけを見てくれる。たった一人の大切な存在。
だから、だから───
彼は手に抱えていた果実を地面へと
「ゲラード!久しぶりだね!元気してた?俺は元気だよ!幽霊だけど超元気!今まで何処にいたんだよ!てっきりもう死んじゃったんじゃないかって………あぁ、妖精はみんな妖精界に帰ってるんだっけ。忘れてた」
「でねでね、エレインがいい子でさ。最初はなんやかんやあったけど、二人きりの生活も悪くないんだ!これもひとえにエレインがいい子のおかげだけどね!いやほんと人に恵まれているっていうか……!」
「…………その、それでさ、その片目と足……そっか、
「………ごめん、ごめんね、守れなくてごめんっ。俺、君になんて詫びればいいのか……っ」
涙を流しながら謝罪をする彼を見て、決して抱いてはならない黒い感情が胸中に宿る。
しかし、その謝罪は決してゲラードには届かない。
だって、私にしか彼を認識できないのだから。
どれだけ言葉を並べ立てようとも、決して───
絶句した。
これまで感情ひとつ見せてこなかったゲラードが、静かに涙を流している。彼の名を口にしながら落涙している。
「───どうして……泣いているの……?」
「………わからない。ただ、何かが込み上げて……どうして、あり得るはずがないのに………彼がそばにいるような気がしてならなくて……っ」
どうやらゲラードは彼の姿を認識してはいないようだ。
しかし、その事実がなおさら、如何に彼ら二人の関係が特別な物であるかを証明しているかのようで。
逃げるように、あるいは現実から目を逸らすように、その場を後にした。
それでもなお、先ほどの光景が、脳裡にべったりとこびり付いて離れなかった。
ぶっちゃけこの話を思いついて本編書き始めました(暴露)
見てくださいよ、この誰も幸せになっていない図。美しくありませんか?