とある転生者の受難日記   作:匿名

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前回人の心がないと言われまくった作者です。
今回は人の心があるお話をお送りしたいと思います。


第22話

 

 

 

 

 

・月∠日

 

ゲラードが生きてた!すごい美人さんになってた!いや前も美人さんだったけど、なんていうか、大人の落ち着きを得た魅惑的な女性になってたな!

それに、数千年経った後でも、俺のこと覚えてくれていたみたい!

まさかこんなことが起きるなんて……!嬉しい以外ないよ!

 

でも、あの時の後遺症が今も強く残っていたことが唯一の心残りだ。

 

色々聞きたいことがあるけれど、ゲラードはそそくさと妖精界に帰っちゃったから聞けない。そもそも姿見えないから聞くも何もないんだけど。

 

エレインに今度はいつ来てくれるのか聞いてみよう。

 

 

 

 

 

※追記

 

なんか泉近辺が蔓に覆われちゃってるんですけど……

エレインどこ???

 

 

 

 

 

=月$日

 

どうやらエレインは閉じ篭ったらしい。オスローに身振り手振り(ランド・アート)で聞いたら、どうやらそういうことらしい。

 

何故閉じ篭ったのかは教えてくれなかった。ただ、やたら俺を見る目が厳しいというか、非難轟々というかなんというか。

 

え?俺が悪いの?なんかしたっけ?………マジで分からない。

 

まぁ、明日には出てくることでしょう。

気長に待つとしますか。

 

 

 

 

 

★月℃日

 

エレインは今日も出てこなかった。

 

何度か呼びかけても応答なし。ドアのない蔓の壁にひたすらノックをする心情は、さながら某雪の女王の妹のよう。

何年もやっていた彼女は偉いと思う。俺は一日だけで心が折れそうになった。

 

最終的に蔓ごとぶった斬って強引突破してやろうかと思ったが、それはやめた。

それは……なんか違うと思う。上手く説明できないけど、それでは元も子もないというか……

 

とにかく、今はエレインが引き篭もった理由を知る必要がある。

今日はもう遅いし、明日オスローに聞いてみよう。

 

 

 

 

 

=月$日

 

オスロー大先生に土下座(のランド・アート)して頼み込むものの、自分で考えろと言わんばかりのフル無視をかまされた。ドウシテ…ドウシテ…

 

ただ、大先生にもまだ慈悲の心は残されていたらしい。昨日の吊り上げられた般若の目が嘘のように、()()()()()を孕んだ物へと変わっていた。

それが何を意味するのか………正直に言おう、マジで分からん。

 

 

 

 

 

∀月∟日

 

エレインは今日も引き篭もり中〜。

お嬢様!ここをお開けください!お嬢様!

 

試しにエレインの好きな冒険譚の話を聞かせてあげたが無反応。こりゃ重症だ、困ったもんでぇ……

 

 

ここ最近、ずっとエレインのことを考えている気がする。

いや、大切な妹分が引き篭もってるんだから当然といえば当然なんだけど、つい先日ゲラードと再会したばかりだというのに、ゲラードに対して些か薄情ではないか?と思うことはある。

 

………そういえば、エレインが引き篭もり始めたのもゲラードと再会した日からだったか。

あの日に何かあったのだろうか?

 

………よくよく考えなくても、エレインが気分を害した理由は察せられそうだ。

ゲラードの真意は分からないが、数百年誰もいない森にエレインを放置した。そんな彼女が急に戻ってきたとして、気分が良くなるかと言われたら決してそんなことはないだろう。

たまたま俺がいたから良かったものの、本来なら数百年一人っきりだったはずだ。俺だったら気が狂うね。

 

結局真相は闇の中。答えという答えは用意できなかった………が、なんとなく自分のすべきことが分かってきた。

まずは───みんなと作戦会議だ!

 

 

 

 

 

|月〉日

 

オスロー、そしてキノコたちに集まってもらって作戦会議。

 

まぁ案の定俺の作戦にオスローとキノコたちは『そんなんで本当に出てくるの?』と言わんばかりに首を傾げていたが。

大丈夫大丈夫!臍を曲げて引き篭もった子供にはこれが一番効くって古事記にも書かれてたから!

 

決行は明日の夜。

待ってろよ、エレイン。俺は諦めが悪い男で有名なんだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も何も考えず、ぼんやりと泉を見ながら、ただ静寂に身を任せる。

 静寂なんていつぶりだろうか。おそらく、数百年前──カリバーンと出会う前の頃まで遡るだろうか。

 咄嗟に思い出せないほどに久しく味わうことのなかった静寂は、歓迎されるものかといったら全然そんなことなくて。

 

 …………もう()()話せていないのかしら。

 

 そんなことを思いながら、普段使っている暦を見て──絶句する。

 

 

 

()()()

 

 

 数年かと思えた苦渋の期間は、たったの一週間という短い時間だった。

 その事実が面白おかしくて、壊れた人形のように笑みが溢れ出る。

 

 嗚呼、なんて滑稽なのだろうか。

 これまで時間があっという間に過ぎていくと感じたことは多々あれど、ここまで時間の流れが遅いと感じたことは初めてだったから。

 自分から遠ざけておいて、この有り様だとは……情けないにも程がある。

 

 私はすっかり静まり返った泉を見渡す。そういえば、ここ最近オスローの姿を見かけなくなったっけ。

 実は何度かオスローが様子を見に来てくれた。彼のワープに行けない場所はない。たとえ固く閉ざされた蔓の壁の中でも。

 ──ただ来るたびに何故か体を震わせて怯えていたけれど。

 どうして?私はただ、カリバーンのことをもっと知りたくて、オスローの知るカリバーンの()()を教えてもらおうと思っただけなのに……

 

 「……結局、私は何をしたかったのかしら……」

 

 少し時間が欲しかったのは本当だ。

 気持ちの整理のためでもあるけれど──今はまだ、彼の顔を正面から見れるほどの勇気を持ち合わせていなかったから。

 

 あの日、私が見た光景はなんの偽りもなく、確固たる事実として鮮明に脳が記憶している。

 嬉しそうに駆け寄る彼と、彼の名を口ずさみながら涙を流すゲラード。

 二人の関係性は分からない。でも、きっと、何にも代え難い特別な物であったのは間違いない。

 

 その時、その光景を見て、私が抱いたものといえば──()()だった。

 

 カリバーンが誰かと会いたがっていたのは知っていた。

 ただ、ある日を境にぱったりと話をすることもなくなったから、見つかったのか、それとももうこの世にいないのかと勝手に決めつけていた。

 

 もし、その存在がゲラードであるならば、感動の再会を祝して、手を叩いて祝福して然るべきだった──そのはずなのに。

 湧き出たのは、それらとは相反した物である憎悪と嫉妬。どれだけ嘘をついても、心の底から祝福なんて出来やしなかった。

 

 この気持ちの正体は一体なんなのか……私はそれを知りたかった。

 でも、結局それも分からずじまい。

 わざわざ彼と距離を置いて時間をもらったくせに、なんて意味のない時間を過ごしたのだろうか。

 カリバーンも心配しているに違いない。

 

 

 

 

───♪───♫

 

 

 

 

ふと、外から陽気な音楽が聞こえてきた。

 

 

 

 

〜〜〜♩〜〜〜♬

 

 

 

 楽器、手拍子、足を踏む音、笑い声──少しずつ、少しずつ、大きくなっていく。

 まるで暗く沈んだ私の心と相反するように、大きく、大きく。

 

 気にならない方がおかしいだろう。

 苛立たない方が嘘だろう。

 それにどれもこれも私の好みそうな曲調ばかり………下手人は()()()()()()()()()()()()と見た。

 

 私への()()()()ともいえるどんちゃん騒ぎ───私はその挑発に乗っかり、こめかみに血管を浮かばせながら、約一週間ぶりに鉄壁の如く築かれた蔓の隙間から外の様子を覗いた。

 

 

 「これは───」

 

 

 そこには、まさにキノコたちのパラダイスが拡がっていた。

 飲んでは騒ぎ、食べては騒ぎ、踊っては騒ぎ───キノコたちは、森を巡回するという己の職務を綺麗さっぱり忘れて、思いのままに背を伸ばしていた。

 意味不明な光景に目を奪われていると、二つの影が視界に映り込む。

 

 「今だ!引っ張り出せ!!」

 「バフォバフォ!!」

 

 見知った声と共に一斉に囲まれて、蔓を無理矢理こじ開けられ、強引に引っ張り出される。

 その強引さとは違って、私の手首を握り締める手はとても優しくて。

 

 「エレイン!久々!」

 「カリバーン……っ」

 

 燦々と輝く笑顔を向けられて思わず顔を逸らす。

 彼の笑顔を見ていると、自分が惨めに見えて仕方がなかった。

 醜い───そんな私を彼に、彼だけには見てほしくなかった。

 

 でも───

 

 「さぁ踊ろうぜ!今日はお祭りだ!」

 「え?え?」

 

 彼に連れられ森の中へ。

 しかし、延々と続く木々がふと途切れ、視界が緩やかに開けた。そこには鬱蒼とした森の中に息づく、小さくも雄大な憩いの場が拡がっていた。

 その中心地──そこに、木の柱が幾つも折り重なった物体が堂々と建立しており、内部で轟々と炎が屹立する。

 

 「これはキャンプファイヤーっていって、炎を囲いながら踊るんだ」

 

 初めて見る物に困惑している私を気遣ってか、カリバーンは詳細に解説してくれた。目元をくいっとする仕草はよく分からなかったけど。

 

 「えっと、カリバーン、私───」

 「まぁまぁまぁ、細かいことはあと!今は踊ろうぜ!それとも……もしかして踊れないとか?」

 「───いいわ。その挑発乗ってあげる」

 

 ぱちぱちと耳心地の良い音を聞きながらゆったりと踊る。

 テンポ自体は難しくない。リズムも単調で掴みやすい。ただ、少しぎこちない。

 多分、彼と息が合わせられていないのだろう。

 何となくそう感じた。

 

 

 

 

 

 「エレイン……」

 

 しばらく踊り続け、徐々にペースを掴み始めた頃、何か言いたげな容貌を浮かべるカリバーン。

 そのことに気がついて、ようやく顔を合わせた。

 

 「………俺さ、どうしてエレインが引き篭もったのか、ずっと考えてさ。でも、よく分かんなくて……」

 「…………」

 「分かんなくて、ずっと分かんなくて、このままエレインが出てこなかったらどうしようって、ずっと考えてさ……」

 

 周囲の騒めきも、音頭も、あれだけ主張の激しかった炎音も、全てが静寂に移り変わる。

 私はただ、彼の声だけに耳を傾けていた。

 

 「何も分からないし、察してやれない………でも、そんな俺でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『だからどうか一人で抱え込まないでほしい』と、今にも泣き出してしまいそうな声で告げる彼の姿を見て、そこに何となく既視感を覚えた。

 

 ────似ている。

 

 まるで鏡を見せられているような気分だった。

 その姿は如実に()()と、それに付随するように()()()を表していた。

 

 彼も、私も、本質的には似ているのかもしれない。

 自分一人では生きていけない。孤独を背負っていけるほど強くない。どれだけ超人的な力を以てしても、どれだけ長命を与えられようとも、決して抗えぬ生物としての性質(さが)

 

 数百年一緒に過ごしてきたくせに、彼のことを微塵も理解できていなかった。

 彼は特別な人間なのだと、指一つで災害を生み出せる絶対強者であると、太陽の如き心を持っているからと、無意識に壁を作って。

 

 彼も、私と同じだったんだ。

 

 「私の方こそごめんなさい、カリバーン。私が悪いの。全部私が………でも、ありがとう」

 

 彼の気持ちが嬉しくて。

 泣き出してしまいそうになるぐらい嬉しくて。

 ()()()()()()()()、カリバーンの隣にいる()()を想像して───私はこの感情の名前を知った。

 

 淡く未熟な、それでも確かに息吹く()()の蕾。

 まだ咲くことを知らない、初恋の花。

 

 「私、あなたと出会えて良かった」

 「んっ、その、えへへ。どーいたしまして!」

 

 踊り、踊り、踊る。

 

 さっきまであったはずの息のズレは、気づけばなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この時間がずっと続けばいいのに……」

 「うおー!!あのキノコ、ブレイクダンスしてる!スッゲー!ありゃ世界を狙える回転だぜ!ヤッベー!あっ、ごめん聞いてなかった。どしたん?」

 「……………」

 「え、エレインさん?なんか顔が怖い……って痛い痛い痛い!?手が、手が痛いんですけどエレインさん!?」

 

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