とある転生者の受難日記   作:匿名

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作者です。
最近リアルの方で結構忙しかったのと、今後の構成を考えていたら執筆が遅れました。


20年前・【土人形】編
第24話


 

 

 

 

 

 ここは巨人族の里──メガドーザ。

 絢爛な装飾など何一つなく、ただ巨大な岩が聳え立つそこは、全ての巨人族の家であり戦場である。

 その無骨すぎる様相はただ武を極めんとする巨人族の種族観そのものを表しているかのようだった。

 

 「はぁ!!」

 「ぐぅ!?」

 

 そのような戦場で鈍い打撃音が響き渡る。相対するのは二つの巨躰。

 片方は純金を頭から被ったような髪の持ち主。その目端は獲物を狙う猛禽類より鋭い。

 もう片方はポニーテールがチャームポイントである少女。彼女も例外なく巨人であるがその背中はあまりに弱々しく、呻き声を上げながら鳩尾辺りを抑えている。

 

 「何をしている!立てディアンヌ!」

 「…………もう嫌だ……もう戦いたくないよぉ……」

 「巨人族が戦いを放棄するとは何事だ!我々は誇り高き巨人族!闘争と共に生き、闘争と共に死ぬことこそが誉れだ!」

 

 殴打され倒れ込む少女の名はディアンヌ。彼女は純粋な巨人族でありながら戦いを好まない。その姿勢や性格は同族からは奇異な存在だと映り、異端児だと罵られ、居心地の悪い日々を過ごしていた。

 しかし戦士長マトローナはそれを許さない。誰よりもディアンヌの才能を認めている彼女だからこそ、その怠慢を許さない。

 

 「誰か……助けて……」

 

 ディアンヌは誰かに届いた試しのない譫言を呟きながら、地面に自身の魔力を注ぎ込む。その魔力の行先は、自身の()()へと注がれる。

 

 ディアンヌは幼少期の頃から一人の時間が多かった。

 何も率先して一人になりたかったわけではない。一人になりたかったわけではないが、先刻の理由から同族と相容れず、里を抜け出した過去があり、必然と一人になる時間ができた。

 孤独は着実に彼女を蝕んだ。そこで彼女は【土人形】を作り、友人を創造した。自分を叱らず、口汚い言葉で罵ることもなく、ただ黙って辛いときにいつもそばに居てくれる、都合の良い友達を。

 それが癖付いて、助けを求める時はいつも【土人形】を創出していた。

 

 所詮は魔法で創造された木偶の坊。喋りもしないし、意思など持たない。

 ただ自身に寄り添ってくれる誰かが欲しくて、戦場において不向きな小さく不出来な【土人形】を無意識に創造する。

 

 「あ、れ………なに、これ……」

 

 ()()()()()()───ディアンヌは自身から流れ出る魔力を見ながらそう感じ取った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。いつもであればごく僅かな魔力で【土人形】を創造していたディアンヌだからこそ、その異常性にいち早く気づいた。

 薄暗い岩の部屋に光が奔る。ディアンヌの手のひらを中心に光の奔流が渦巻き、そして───()()()()

 

 

 「えっ、女の子?てかデカ!?あれ、ここどこ?」

 

 

 精巧に整った岩の顔が眉を曲げながら創造主(ディアンヌ)を見る様を、その場に居合わせる者たちは目を点にして見る他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「…………」

 「???」

 

 めちゃくちゃデカい気の強そうな金髪の女性が一人、めちゃくちゃデカい童顔茶髪ツインテールの女性が一人、チビな俺一人。

 どういう状況っすか?え?エレインはどこ?というか此処はどこ?誰か助けてクレメンス。

 

 「…………お前は……()()()?」

 

 “なんだ”……?まるで何かに恐怖するように声を震わせながら問いかけられた言葉に、僅かに首を傾げる。

 “なんだ”も何も、()()()()()普通の人間ですが?多分彼女たちは巨人族だと思うから、あんまし人間見たことないのかな?

というか俺のこと見えているのか。いよいよ何が起きてるのか分からなく───

 

 思考して、思考して、はたと思う。

 ツインテール少女はよく分からないが、金髪さんは明らかに奇異なものを見るように俺を見てくる。俺の状態は明らかに()()()()()()のだろう。

 気になる。一度気になったらもう止まらない。脳内に蓄積されてきた長年の経験が、おそらく史上最悪となるであろう結論に導き出そうとしてくる。

 

 俺は金髪さんに断って、近くにあった水辺に恐る恐る覗き込む。

 そこには───岩で作られたゴツゴツの顔が映っていた。

 試しに右頬を撫でてみる………固い。水面に映るゴーレムも同じ動きをした。

 頬を抓ってみる…………固い。抓るほど柔らかい頬はなかったが、ゴーレムも同じ動きをした。

 

 ………………………………………

 

 

 「どうなってんだこりゃあああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が霞む。体が鉛のように重く、自慢の二の腕は木の棒のように動かない。

 そんな最悪な体調でも、口は動かせる。ボヤけた視界はただ一点を見つめていた。

 

 「キ、キミは……?」

 

 目の前にいるのはゴーレムだ。ただ、目には生気が宿り、言葉も巧みに扱う不思議なゴーレム。

 ボクが創造した【双子の巨像(フィレアンドロース)】とは比べ物にならないほどの精巧さで、でも紛れもなくボクの魔力から生まれた存在。

 

 「………()()か……

 「え?」

 「い、いや、なんでもない!それより───」

 「()()がお前の秘策か、ディアンヌ!!」

 

 地面が砕かれる音がする。ほんの僅かな土の破片と砂風が頬を撫でる。

 あまりに一瞬の出来事。それでもあの子(ゴーレム)はボクを抱きかかえて遠くへ避難してくれた。誰かに抱かれたことなんてなかったから少しビックリしたけど。

 

 「ディアンヌ……だっけ?あの人って君の知り合い?」

 

 あの人……ってマトローナのことかな。

 おずおずと伸ばされた指に倣うように、顔を向ける。

 マトローナの顔には焦りという焦りが幾重にも塗り重ねられていた。

 その表情が、その様相が、その容貌が、ボクの知るマトローナとあまりにかけ離れていたものだから、一瞬顔を縦に振ることも躊躇った。

 

 「秘策ってなんのこと……?ボクそんなの知らないよ……」

 「惚けるな!でなければ、こんな高度な【土人形】ができるものか!」

 「まぁまぁお二人とも、一旦冷静になりましょうよ。殴っても何かが解決するワケじゃないんですよ?此処は第三者かつ中立の立場であるこの俺に話してみなさい。なんだって解決して差し上げますよ」

 「…………全然そのようには見えないが」

 「ありゃ?」

 

 マトローナの言う通り、口ではこう言っておきながら、ゴーレムはボクを庇うように対峙していた。

 ……多分ボクのせいだ。十中八九この子がボクの魔力から生み出された【土人形】であるとするならば、ボクが願ってしまった通り、この子の最初の目的は“ボクを助ける(守る)こと”にあるはず。

 だから、この子の意思とは関係なしに、体はボクを守るように動いているんだ。

 

 「ひ、一つお願いしてもいいかな。マトローナを眠らせることってできる?」

 「眠らせる……?っていうかマトローナってあの人のこと?うーん、できなくもないだろうけど……ま、今はお互い冷静になる時間が必要なのかな。なら──しょうがないか」

 「何を話して───!?」

 

 消えた。

 そう思えるほどの刹那の間に姿を掻き消し、視界が追いつく頃には既にマトローナの()(まえ)で右拳を翳していた。

 

 「ごめんね、マトローナさん。基本的に暴力反対派の俺だけど、今回ばかりは頭を冷やしてもらって」

 

 右手には小さく握られた拳。その拳をゆっくりと開き、親指と人差し指が特徴的な姿となってお見えになる。

 指先から放たれた一撃は、有無を言わせぬ破壊力をもってマトローナのおでこを打ち抜いた。

 雷が落ちたような音と共に、マトローナの体は打ち上げられて背後にあった壁に激突する。ピクリとも動かなくなった。

 ………大丈夫なの、あれ。

 

 「大丈夫……だよね?死んでないよね?眠らせてってそういう意味で言ったんじゃないよ!?」

 「大丈夫!巨人族は頑丈さが売りだから!……あれ、なんか体が自由に動けるようになった気が……気のせい?」

 

 どうやらボクの予想、というか予感は当たっていたらしい。

 そして、こんな強い子がボクから生まれたという半信半疑な妄想が事実になった瞬間でもあった。

 

 「さて、ディアンヌ。君には色々と聞きたいことが山積みなんだけど、まずは手当てをしないとね」

 「え、う、うん。ありがとう。……ところで、キミの名前なんだけど……」

 「ん?そういやまだ名乗ってなかったっけ。俺の名前はカリバー───」

 「フィレかロース、どっちが良い?」

 「もう決まってる!?というかなんで肉の部位!?」

 

 見たことも聞いたこともない、喋る【土人形】。

 でも、不思議と不気味さはなくて。

 ただ、妙な喜びと興奮に胸を躍らせていた。

 




Q:どうして転生先が巨人族じゃないの?
A:カリバーンにはチビのままでいてもらいたいから。
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