とある転生者の受難日記 作:匿名
◇月◉日
俺という男はつくづく間の悪い人間だと思う。
毎度の如く、またしても転生してしまったらしい。
誰かに魂を喰われたわけでもない。誰かに胸を貫かれたわけでもない。誰かに刺されたわけでもない。本当に、本当に唐突だった。
七百年何もなきゃ普通終わりだろ。どうして“ある”と思えるんだよ。しかもなんでゴーレムなんだよカッコいいじゃねぇかふざけんなバカやろー!!
さて、不満タラタラもここまでにしよう。日記とは日々の記録を残すもの、愚痴を書くために存在していない。
とはいえ、今日は巨人族の家の大きさに驚いたこと以外特に何もなかった。
以前ドロールくんを見ながら『そういや巨人族の家ってどうなってんだろ』と色々想像を膨らませていたこともあったが、まさかそれを未来の──さらに女の子の家にご案内されたことで叶うとは夢にも思わなかった。
俺を生み出した張本人である彼女──ディアンヌは何の躊躇いもなく俺を家に上げた。
“もう少し危機感持った方がいいんじゃ?”と思うが、“そういや俺ゴーレムだったわ”と考えを改め直して真顔になった。
というわけで、もう終わりかと思っていた『転生』リスタートゲームはっじまるよー!この力寄越したやつは覚えてろ。
※月§日
今日はディアンヌに連れられて拠点の外に出てみた。
周囲に緑はなく、茶色の岩石と砂ばかりが辺り一帯を占めていた。
魔界と比べたらマシだけど、魔界と比べられる時点で可笑しいってことに気づいてほしい。
とはいえ、普通に周辺探索してみたかったからディアンヌに頼んで肩に乗せられたまま何回か巡回した。やっぱデカいっていいなぁ。俺も巨人族になれてればなー。
でも逆にディアンヌは小さくなりたいそうだ。勿体無い、折角カッコいいのにね。
そんなこと言ったら少し照れてた。マジで歳相応の女の子って感じ。幾つなのか知らないけど。
?月⌘日
ディアンヌは巨人族の中では変わり者らしい。
確かにあの子には巨人族特有の闘争心が備わっていないように思える。俺の知る巨人族はみんな戦闘狂だったな。そう考えると、なるほど確かにディアンヌは“違って”見えるかもしれない。
でも、それの何がいけないのか。
人は十人十色。それは人だけじゃない。戦いが好きな巨人族もいれば、平穏を望む巨人族がいても良いだろう。
川岸でイジケてるディアンヌに励ましも含めて豚の丸焼きをあげたらほんの少し機嫌が治った。ついでに少し仲良くなれたような気がした。
♀月∫日
今日面白い話を小耳に挟んだ。話というかお伽話の類、いわば伝説だ。
今から数千年前、俺が各方面に散々迷惑をかけ続けた時代──聖戦時代に巨人族の知り合いがいたことを覚えているだろうか。そう、ドロールくんである。
『大地の神』、『巨人の祖』、『独眼の神』──今の時代ではそう呼ばれているらしい。多分本人が聞いたら吹き出すと思う。
彼の最期も聞いた。
悲しくないといえば嘘になる。友達の死に様を聞いて喜べる奴はそういない。
でも、どうしてか、彼が後悔しながら逝ったとは微塵も思えなかった。いつだって戦いと共にいた人だったから。やはり俺とは違って立派な奴だよ。
それに……俺にとっちゃただの友達なのに、後世でこうも伝説的な存在に崇められていることが可笑しく見えて仕方ない。同時になんだか遠くの存在になったように思えて……でも、やっぱり嬉しくって……正直よく分からない感情になっている。
伝説といえば、巷で『マーリン』という名をよく耳にする。
曰く、誰もが憧れる伝説的な魔術師だそうだ。
………いかんな、雨が降ってきた。
★月◆日
ディアンヌにはあまり友達がいないらしい。
聞けば一時期メガドーザを飛び出して外の世界で暮らしていた過去があったんだと。
初耳も初耳なもんだからもう少し聞きたかったんだが、所々で頭を抑える仕草をしていたので止した。
辛い過去でもあったのだろう、無神経に聞いちゃったな。今度謝ろう。
∀月∧日
ディアンヌから友達になって欲しいと頼まれた。
結構ガチだった。断ったりでもしたらその場で地団駄踏んで泣き出すやもしれないと思えるぐらいには。
しかし、俺の心情を言い表すのであれば、今日の出来事は甚だ遺憾であると言わざるを得ない。
どうやらその時その瞬間まで、
ディアンヌは改めて友達になれたことに喜んでいたが、俺としては不満ばかり溜まる日だった。
÷月¢日
ディアンヌから“友達同士がすること”──通称“友達あるある”を強請られたので、腕相撲勝負をすることになった。
かつての世界で友人たちと腕相撲した日々が懐かしい。
相手は女の子といえど巨人族、そもそも勝負が成立するのかも怪しげだったが、意外となんとかなった。
しかし、このボディに意外にも意外な弱点を発見した。
それは意外と脆いということだ。
本気を出そうとしたら腕が爆散するとか目も当てられないだろう。
ディアンヌにも悪いことをした。スッゲー取り乱してたもん。『ボクのせいで……』って半狂乱状態から立ち直らせるのに苦労した。
腕はディアンヌが新しく作ってくれたおかげでスッカリ元通り。なんか前よりもゴツくなっているのは気のせいだろうか。
∂月∂日
最近、体が妙だ。
特に外見が変わったわけじゃない。ただ、
その話をしていたら、ディアンヌは何故かニコニコしながら聞いていた。
何がそんなに面白いんだろうか。
〻月■日
ようやく新生活にも落ち着きが出てきたので、ずっと心の中にあるモヤモヤを記させてほしい。
俺の中にある心残り、それはエレインだ。あの森に一人残してしまった少女のことだ。
あれから何年の月日が経っているのか分からないが、今も一人で森で帰りを待っていると思うと心苦しい。
でも、迂闊に動けない。エレインと似た境遇の子がこのメガドーザにいたから。
ディアンヌを見ていると、何故かエレインの顔が浮かぶ。種族も性格も全然違うのに。
そんな子を、初めての友達と言って笑ってくれた子を置いて行けるほど、心の無い人間にはなれなかった。
でも、いつか必ず森に帰らないといけない。
……聞きたいんだ。エレインが、
「───◾️◾️。◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️、◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️」
音声は何かに阻まれるようにノイズがかかり、何一つ聞こえなかった。
ただ分かることは、彼女の言霊は悍ましい魔力を帯びていたことぐらい。もしかしたら、今回の転生はエレインが原因なのかもしれない。
でも、あの顔がどうにも忘れられない。
今まで見たことのないような、あんな顔。
きっと大事なことを伝えようとしていたんだ。
聞かなくては。そのためにも、いつか戻らなくては。
◇◆
『え?友達になってくださいって………
当たり前のように、至極当然のように、何の躊躇いもなく言ってくれたあの子の言葉が、涙が出るくらい嬉しくて。
ボクに友達はいない。
ううん、いるにはいる。でも、
マトローナのことも友達だと思っているけど……多分そう思っているのはボクだけで、マトローナは何とも思っていないように見える。
だから、今までずっと、胸を張って友達だと言える存在がいなかった。
でも、これからは違う。
「ん?どしたん?」
「えへへ♪なーんにも♪」
ボクにも胸を張って友達といえる存在ができたんだ。
ボクの肩に乗れちゃうくらいちっちゃな友達だけどね。
「しっかし、
「“ちへいせん”ってなに?」
「ん〜……ほら、空と大地がくっついて見えるだろ?あれが地平線」
「へぇ……!あれってそんな名前だったんだ!カリバーンは物知りなんだね!」
「いや〜それほどでも……エヘエヘ……」
カリバーンの心が手に取るように分かる。
もちろん、元々カリバーンは顔に出易いから顔を見ればすぐに分かっちゃうっていうのもあるけど、
最近、カリバーンの感情一つ一つが手に取るように分かるようになった。嬉しかったこと、悲しかったこと、照れていること……その全部を何を見ずとも感知できるようになった。
多分、カリバーンとの魔力の繋がりがより深まったのが原因なんだと思う。魔力が及ぼす事象とか全然からきしだけど、自分の魔力だからか、なんとなく分かった。
見たところカリバーンはその恩恵を授かっていないらしい。つまりボクだけが感知できるんだ。
………嬉しくないと言ったら大嘘になっちゃうよね。
でも、同時に申し訳なさもある。ボクだけが彼の気持ちを覗き込めるわけなんだから。
友達ってみんな平等だよね。だから、早くカリバーンにもボクの心を読み取れるようになって欲しい。
不思議と恥ずかしい気持ちはなかった。今はとにかくカリバーンと一緒に共有したい──その一心だけだったから。
その時、カリバーンからまた感情が送られてきた。
それは───
気になって、急いで肩に乗っかるカリバーンの顔を見ると、そこには侘しさだったり悲しみが交互に塗り固められたような哀愁漂う表情が貼られていた。
「ど、どうしたの?どうしてそんなに悲しそうなの?」
ボクが隣にいるのに、どうして。
「ん、いやまぁ……少し
どうして、そんなの探してるの。
「………森なんだ。大きくて、雄大な森。そこに
「…………」
どうして。
「…………どうして。ボクが、いるのに……ボクにはキミしかいないのに……」
「ディアンヌ?」
「そんな子忘れてよ!キミはボクの友達なんだからさ!」
「…………」
どうして。
「どうしてもダメなの……?」
「………うん。でも、ディアンヌと同じくらいその子のことが大切で──」
「ボクの方がその子よりずっとカリバーンと友達だもん……!」
「う〜〜ん……」
困ったように眉を顰めるカリバーンに苛立ちが抑えられない。
どうしてボクが一番だって言ってくれないの?ボクにとってカリバーンは一番の友達なのに。
「ボクを……ボクを置いていかないで……!もう一人は嫌、嫌なの……!」
「ッ」
重たい沈黙。
だけど、カリバーンの心は不思議と温かくて。
「じゃあ一緒に行こう」
「……え?」
「近いうちに二人でここを出てさ、一緒に会いに行こう」
「でも……」
「まぁそんな簡単じゃないことは分かって──」
「その子と会ったら……ボク、喧嘩しちゃうかも……」
「そこ!?ま、まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うし、不良漫画でも河川敷の殴り合いで仲良くなるなんて定番だし……」
「?」
「と、とにかく、俺としても友達同士仲良くやってほしいと思ってるんだ。合わないなら合わないでいいんだけど、一度だけでも会ってくれないかな」
…………しょうがないなぁ。
「いいよ。どっちがカリバーンの一番の友達か知らしめてやる!」
「なんでこうも敵対的なの……」
カリバーンとボクは唯一無二の友達だからね!それを奪おうとする奴なんか、絶対に仲良くならないんだから!
………でも、カリバーンにも言われたし、本当にいい奴だったら仲良くなってあげなくもないけど?
こうして近いうちに旅立つことが決まった。
それにしても、久しぶりの旅だなぁ。幼少期の頃以来だよね。あの時は一人だったから大変で大変で、よく◾️◾️◾️◾️◾️◾️を困らせてたっけ…………ん?◾️◾️◾️◾️◾️◾️って誰のこと?ボクはずっと一人だったはずなのに……
まぁ今はそんなことどうでもいいや。ボクにはカリバーンがいるんだから。
「ねぇねぇ、カリバーン。ボクたち、
「─────」
見え透いた未来だった。予想せずとも、『もちろん』という言葉が返ってくるはずだった。
なのに、返答がない。
カリバーンは普段通り朗らかに笑っていた。その顔を見て安心する。何も言わずとも『もちろん』と言ってくれているように思えた。
でも、見ちゃったんだ。見てしまったんだ。
ほんの一瞬、何かを堪えるように口を結ぶカリバーンを。
ボクを見てというより、
あの顔が脳裏に灼きついて離れなかった。
「───ケホっケホっ」
「ん?大丈夫?風邪でも引いた?」
「……ううん、大丈夫。なんでもないよ」
一方その頃、妖精王の森絶賛大炎上中。