とある転生者の受難日記   作:匿名

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第26話

 

 

 

 

 

★月∝日

 

気のせいだと思いたいが、なんとなくマトローナに避けられているような気がする。

なんでだろ、俺なんかしたっけ……

いや絶対初日のデコピンが原因だろ。逆にそれ以外で避けられる理由ないだろ。

 

一応『無害でプリティなゴーレムですよ!』アピールしているが効果はまるっきり見られない。

この可愛さをもって魅了されないなどあり得ない。どうやら俺が小さすぎて上手くアピールできなかったようだ。

 

 

 

 

 

♫月∮日

 

ディアンヌにマトローナの好きな物を聞いてみたが、『戦い』などと本末転倒な返答がきた。

親しき仲かと思い尋ねてみたが、どうやらディアンヌもマトローナのことはあまり知らなかったようだ。

 

それはそうと、ディアンヌのことを影からこっそりストーキングしている巨人族がいたので声をかけてみた。

名前はドロレス。ぽっちゃり系の優しい女の子だ。

どうやらドロレスも争いごとが苦手らしく、同じく戦いが嫌いなことで有名なディアンヌと仲良くなりたいと思いつつも、声をかける勇気が出ずストーカーしていたらしい。いや乙女か。乙女だったわ。

 

ドロレスのような子ならディアンヌも仲良くなりたいに違いない──そう伝えると勇気が出たのか、声をかける決心がついたようだ。

決心がついた割に明日に延長しているのには目を瞑ってやろうか。

 

 

 

 

 

〒月℃日

 

ディアンヌとドロレスが友達になった。

 

二人が対面した時なんか気が気じゃなかった。

心情はさながら内気な娘が一歩踏み出すのを草葉の陰から見守る父と同じ。

対面して最初の数秒は沈黙が続いた時なんか生きた心地がしなかったけど、ドロレスのなけなしの勇気がディアンヌの心に届いてよかった。

 

着々と友達が増えている。素直に嬉しい。

 

それはそうとマトローナの件は何の進捗もないです。

 

 

 

 

 

※月°日

 

ディアンヌの風邪が長引いている。

ここ最近ずっと咳をしていて、流石に心配になってくる。

近々ディアンヌと妖精王の森に行く予定だったが、この感じしばらく無理そうだ。

 

というワケで、しばらく訓練を休ませる代わりに俺が訓練を受けることになった。なんで???

まぁ、ディアンヌの代理みたいなものだ。ぶっちゃけ俺ってディアンヌの分身みたいなもんだし。だからなんで???

 

というわけで期せずしてマトローナとの接点ができた。

正直、訓練の方はかなり勉強になった。腰の使い方、腕の回し方、蹴りの体勢……流石というか、考え抜かれた技術の結晶のように思えた。

 

しかし、マトローナからしたらかなり意外だったようだ。そりゃ一撃で倒した相手から技術を学び得ているなんて奇妙でしかないだろうけど。

もしかして完璧超人と勘違いされていた?俺ほど情けない男はそういないと思うけどね……

 

 

 

 

 

¿月♯日

 

ディアンヌはいまだ寝込み中なので、今日もマトローナと特訓した。

あと、マトローナから避けられているといった感覚は今日はしなかった。

昨日の今日で何があったんだ???

 

 

 

 

 

∨月$日

 

今日はマトローナのディアンヌに対する想いを聞くことができた。

 

聞いてて思ったんだけど……スッゲー不器用な母親だよ、アンタ……

そりゃ器用な方じゃないことは素行からも見て取れる。だけど、厳しく接することが、マトローナにとっての愛情表現の一つだったのだと気づいた時、マトローナに対する誤解は完全に解けた。

ごめんよ、今までアホみたいに殴りかかる戦闘狂とか思っちゃって……

 

戦闘民族も大変なんだなと分かった一日でした。

 

 

 

 

 

◆月仝日

 

マトローナが俺の魔法に興味を持ってくれた。

 

きっかけは、休憩時間中にいつもの手癖で小指サイズの小さな花火を手のひらで打ち上げていたのが始まりだった。

人に向けて放つ物じゃないよと予め断っておいたが、それでもと言われたので色々見せた。

それがどうだ。あのマトローナが、戦闘以外に興味を示さず、乙女の心を母胎に置いてきたような存在であるマトローナが、俺の花火を見て『綺麗だ』と褒めてくれた。

花火の力、恐るべし……!

 

 

 

 

 

§月∩日

 

マトローナは巨人族らしい巨人族だ。

戦いと共に生きて、戦いと共に死ぬ。誇り高く、されどあまりに儚い生の価値観は、カッコいいとは思うものの手放しに肯定できないのは確かだ。

 

もちろん巨人族だって生命を繋ぐ種族だ。愛する存在を見つけ、家庭を持つ。

愛する存在を見つけた時、彼らの価値観は揺らぐのだろうか。それとも変わらず戦場で命を燃やし続けるのだろうか。

 

弱肉強食絶対主義のマトローナからしたら、俺はまさに理想の戦士だそうで、『それだけの強さがあれば何一つ困難などありはしないだろう』と羨望していたけれど……

 

どれだけ強くなっても、幸せが手元から零れ落ちるなんてこと、ザラにあるというのにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は得体の知れなさに無意識に避けていたのかもしれない。

 術者以上の力を発揮する【土人形】なぞ、恐ろしい以外何物でもないからだ。

 

 しかし、ディアンヌの代理として共に稽古を受けていくにつれ、奴の底知れない強さへの探究心にシンパシーを感じた。

 絶対的強者でありながら学ぶことを忘れぬ姿勢、その強靭な体に見合った鋼の精神力、武に対する畏怖を込めた敬意。

 どうしてなかなか、我々(巨人族)好みのゴーレムであると気づくのに時間はかからなかった。むしろディアンヌにも見習ってほしいまである。

 

 気づけばカリバーンに対する警戒心は薄れており、今や共に切磋琢磨し合う同胞として認め、共に稽古に明け暮れている。

 明け暮れている、はずだった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい」

 「んー、ちょっと待ってよ。今選んでるんだからさ」

 「…………おいっ」

 「もー、なに?そんな無愛想な顔しちゃってさ。可愛い顔が台無しですぞー?」

 「……私にこのような趣味はない」

 「はいはい。かと言ってここ最近ずっと稽古だったでしょ?たまには休まないと〜……よし出来た。はい、どーぞ」

 

 そう言って差し出されたのは───花の冠。

 人間サイズだとしたら少し大きめだが、巨人族サイズではあまりにも小さい。小指に嵌めるのがちょうどいいくらいだろう。

 

 ここは人が足を踏み入れないことで有名な花畑らしい。

 突如ここへ連れ出されたかと思いきや、花を見繕われて為されるがままだ。

 

 「………こんなもの、私には似合わない」

 「そう?すごく似合ってると思うけど」

 「世辞はよせ」

 「そんなんじゃないのに………とにかく、マトローナもディアンヌのお見舞いの花を集めるの手伝ってよ」

 「何故私が……」

 「そりゃディアンヌも喜んでくれるだろうし」

 

 この花畑に来てからずっと疑問だった。何故私なのか、と。何故私が選ばなくてはならないのか、と。

 誰かに贈り物などしたことはないが、私にそういった才能は皆無なことぐらい見当はつく。カリバーンの方がよっぽどセンスがあるだろう。

 

 それに、私からの贈り物など要らないに決まっている。

 ディアンヌの親に奴を託されて数百年。託されたはいいものの、私は誰かの親役を務められるほど器用な女ではなかった。

 ディアンヌには愛の代わりに武を教えてきた。巨人族としての生き方を教えることしかできなかった。故に誰よりも厳しく接してきた自覚がある。嫌われて当然のことをした。

 だから、唯一の友であるお前が選び、贈ればいい。そう思っていたのだが……

 

 「……本当に喜んでくれるだろうか」

 「もちろん。マトローナもディアンヌにとって唯一の存在だからね」

 

 ………嘘ではない、か。

 ふむ、なかなか悪くない気分だ。

 

 「………それで、私を呼んだ()()()理由はなんだ」

 「え?な、なんのこと?お花摘み以外特にないもないけど?」

 「惚けるな。確かにコレも目的の一つだろうが、また別の目的もあったのだろう?」

 「………もしかしてマトローナって心の中読める?」

 「ただの勘だ。お前の言うところの『女の勘』ってやつだ」

 「女の勘こわぁ〜……」

 

 丸わかりだ、バカめ。

 気づいていないようだがココに来てから妙にソワソワしている。

 何かあると身構えるには十分過ぎる証拠が出揃っていた。

 それにしても、この感じ、私が言い出さなければこのまま何も言わずに帰っていたな。そうも言い淀む代物なのか。

 

 カリバーンは何度も何度も口の中で言葉を咀嚼するように頬を動かし、少量のため息と共にゆっくりと吐き出した。

 

 「いや、全然真に受けなくていいんだけど、少し()()()()がしてね……」

 「嫌な予感だと?お前ならたとえどんな理不尽な現象でも殴って消し飛ばせてしまいそうだがな」

 「俺のこと何だとお思いで……?まぁできればそうしたいところだけど……」

 「何か前兆でもあったのか?」

 「いや……ただの勘だよ。スッゲー外れてほしい勘。でも、万が一のことを考えれば、()()()()に言っておきたいんだ」

 

 カリバーンは精巧な顔を向け、私の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 

 「もし俺に何かあったら、その時はディアンヌをよろしく頼みます」

 「………元より、お前が生まれる以前からディアンヌのお目付け役を引き受けてきた身だ。言われるまでもない」

 「………ならよかった」

 「それともう二度と縁起でもないことを言うな。ディアンヌにとってお前は唯一無二の存在なのだから。……………それに私にとっても……───」

 「マトローナさん!カリバーンくん!」

 

 その時、私の言葉を遮るように、遠くから鈍臭く走る同胞の姿が目に映る。

 

 奴の名はドロレス。ディアンヌと同種の巨人族らしからぬ巨人族だ。

 ドロレスがドタドタと花畑鈍く駆け抜ける。

 奴は今日ディアンヌの世話をしていたはず。何故ここに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ディアンヌが……ディアンヌが……血を吐いて……!」

 

 「────は?」

 




Q:ディアンヌの身に一体何が?
A:詳細は次回まで伏せますが、全部大体カリバーンのせいです。
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