とある転生者の受難日記 作:匿名
第28話
◯月×日
どうやら転生したらしいので、今日から日記を付けていこうと思う。
俺の名はカリバーン……というらしい。気づけば森林に放り込まれた転生者である。いや、どちらかといえば転移者?まぁどっちでもいい。
“らしい”というのは、俺の脳がそうであると認識しているからに他ならない。
実に奇妙だ。知らない名前なのに、俺には両親がつけてくれた別の名前があるというのに、何故か元の名前よりこっちの方がしっくりくる。
なので、この世界でもカリバーンを名乗っていこうと思う。
今はまだ森の中だ。歩いてるのに出口が見えない。
一体ここは何処なのだろうか。
★月▼日
転生して一週間経った。あれからずっと森の中を彷徨っているわけだが、なんか俺の体がおかしい。
別に体の何処か痛いとか、幻聴幻覚が見えるとか、マジで死にそうになってるとかでは断じてない。……ないからこそ、なおさらおかしいと思ってしまうのだが。
というのも、俺氏、ここ一週間一切飲み食いをしていないのだ。
食べないだけならまだ分かる。だけど、人間って飲まないと一週間足らずで死んじゃうんだよね?インターネットの知識だけど。
でも、死にそうどころか元気ピンピンなのだ。強がりとかじゃなくて。
それに、何日も歩いているのに足が元気すぎる。まるでマッサージを受けた後の足のようだ。普通乳酸菌でパンパンだと思うんだけど……
俺の体なのに、俺の体ではないようだ。
ま、生きてるからどっちでもいいんだけど!
◆月∃日
お父さん、お母さんへ。
親不孝な息子でごめんなさい。俺は今から巨大なイノシシに食べられて死にます。
バカみたいに大きなイノシシでした。ゾウなんかより大きいイノシシでした。多分この森の主です。
今は岩陰に隠れてやり過ごしていますが、それもどれだけ長く続くか分かりません。
なので、漢カリバーン、あのイノシシに特攻しようと思います。
死ぬかもと言っておきながら、本当は死にたくありません。そりゃそうでしょ。誰が喜んで死にたいと思うのでしょう。
俺はイノシシに食べられに特攻するのではありません。少しでも生存できる確率を上げるために奇襲するのです。
この日記はこの岩陰に置いておきます。
もしも、万が一、奇跡が起こって、この日記が二人に届いたとしたら、その時はどうか笑ってください。
以上
△月♫日
なんか生きてた。
日記書いた後、宣言通り巨大イノシシに特攻したんよ。今まで喧嘩とかしたことなかったから、スッゲー不細工な握り拳作ってイノシシの腹を殴ったんよ。
………めっちゃ吹っ飛んだ。信じられないくらい吹っ飛んだ。なんなら勢いが凄すぎて木々へし折りながら森の外まで吹っ飛んじゃった。おかげで日記拾って出口まで真っ直ぐ進むことができたんだけどね。
……転生してからずっと考えていたことがある。
もしかしたらあるんじゃないかって。でも、俺みたいな奴にそんな幸運が舞い降りるわけがないって、気のせいだと思いながらも心の片隅で何処か期待していて。
もしかして───俺Tsueeeeee転生しちゃった?
×月◉日
転生して数ヶ月経った。
俺は凄腕の冒険者として日々荒稼ぎをしている。
この数ヶ月間で色々分かったことがある。
まず、この世界は元いた世界とは根本から異なるようだ。
例えるなら中世ヨーロッパ風異世界……それも剣と魔法の異世界だ。
巨大イノシシから予感はしていた。だが、どうやらこの世界にはゴブリンやドラゴンといったメジャーなモンスターたちが跋扈しているらしいのだ。
そんな世界に転生して生きるの大変そうと思うかもしれないが、実は全然そんなことない。
───だって、俺Tsueeeeee転生しちゃったからね!
剣を振れば山を斬り、普通は一人ひとつの魔法が何十も使えて、どれだけ殴られても傷つかない体と底なしの体力………どうやら俺は気付かぬうちに神様からギフトを授かってしまったようだ。
こういうのって直接神様に会って、謝罪やらなんやらされてチート授かって、そういうメタ的なことも全部覚えて転生してるもんじゃないの?な〜んも覚えてないんよね、俺。だから原因とか一切分からず俺Tsueeeeee!状態なんよ。
全くもって俺に都合のいい世界だな〜。
いやはや、どうやら俺は
⌘月○日
冒険者稼業もようやく板についてきた。
モンスターの討伐はもちろんのこと、薬草や護衛の任務もあったりと、思っていた以上に多種多様で飽きることなく冒険者を謳歌している。
そこで今日、とある国の騎士団からオファーを受けた。俺の冒険者としての評判を買ってくれたらしい。賃金も破格だし、正直断る理由が見当たらなかった。
だけど、俺には最近やってみたいことができた。それは世界を回ることだ。
世界を回って何がしたいとか……正直よく分からない。だけど、回ってみたいと思ってしまった。どうしようもなく。
───と、そういう事情を話せば、「あっ、全然いいっすよ〜」とのことだったので、その騎士団に籍を置きました。イェイ。
これからは騎士としてみなさんの安全を守ります!
ちなみにお国の名前はキャメロット王国というらしい。
………なんかどっかで聞いたことある名前だな?
☆月⁂日
キャメロット王国はブリタニア南部に位置する新興国だ。
そのため弱小国として見られることが多く、常に野生の蛮族に狙われているらしい。
蛮族だけならまだいい。碌な城壁もないせいで巨大モンスターおよび動物たちが攻め込んでくるというダブルパンチ。むしろよくここまで存続させたなと思う。
そして、変わっている点といえばもう一つ。
この国、王国名乗ってるくせに王様はいないのだ。
何やら『予言』だとか『選ばれし王が』とか言ってるのであんまり触れない。触れたら碌なことにならなそう。
∂月×日
また蛮族たちがやって来た。
追い返した。
なんか功績が讃えられて勲章もらった。
〒月£日
ゴブリンの大軍がやって来た。
追い返した。
また勲章もらった。
√月仝日
めちゃくちゃデカいドラゴンがキャメロットにやって来た。白と赤色のドラゴンだった。
二頭はわざわざキャメロットの上空まで来てドンぱち喧嘩しているようだったので、喧嘩両成敗ということでまとめて拳骨を落としたら、大人しく言うことを聞いて家に帰ってくれた。
めっちゃ物分かりの良い竜だったと思う。他のドラゴンとは少し違うように思えた。
と、一連の騒動を
ごめんだけど、全然いらない……
◦月∂日
今日はリオネス王国に来ている。
意外かもしれないが、今日までブリタニア一番の大国であるリオネスに訪れたことがない。なので結構感動している。
だが、何も観光をしに来たわけではない。
ここ最近、ブリタニア全土を揺らす大事件がリオネス王国で起こっていた。
リオネス事変───王国誕生祭という記念すべき日に歴代最高と名高いリオネスの聖騎士長、ザラトラス殿が暗殺された事件だ。
下手人は七人。リオネスが誇る最強の聖騎士集団である〈七つの大罪〉である。
噂によれば、彼ら一人ひとり一国を滅ぼせる力を有しているらしく、リオネス最強の矛と盾として市井からの評判も高かったようだ。
俺たちキャメロット陣営は荒れに荒れた街の復興の手伝いをしに来たわけだ。
リオネスの人たちの失望は計り知れない。そして蔓延る根も葉もない噂。真実味のない話ばかりが蔓延するも、リオネスの人々は“そうである”と決めつけているかのようだった。
異世界でも人の本質は変わらないらしい。まぁ、こんな街の有様を見たらそう思うのも仕方ないけれど。
さて、そろそろお仕事の時間だ。
弱小国とはいえ一国の聖騎士長、しっかり恩を売らないとね。
◇◆
悲嘆に包まれる街を見渡しながらゆっくりと歩く。
押しつぶされた家、物、人───見ていて気分のいいものではなかった。むしろ最悪の気分だった。
人が死ぬ現場なんて見たことがなかったから、思わず先ほど食べたアップルパイを戻してしまいそうになった。
今は少し慣れてきたが、こんなものに慣れない方がいいとは思う。
「ん?あんなところに子供?」
曇天広がる空の下で、崩壊した街並みをぼーっと見つめる少年がいた。
顔は見えない。だけど、哀愁漂うその後ろ姿が全てを物語っていたように思えた。
「こらこら、子供がこんなところにいたら危ないぞ。早く家に帰りなさい」
「あっ、ご、ごめんなさ──ってあなたも子供ではありませんか!?」
おっと、忘れてた。なんか知らんけど子供の姿のまんまだったわ、自分。
「ふふ、侮ること勿れ!こう見えてもキャメロット王国の聖騎士長なのだよ!」
「えぇ!?せ、聖騎士長様になんたるご無礼を……!?も、申し訳ございませんでした!!」
「…………自分で言うのもあれだけどさ、もうちょっと人のこと疑った方がいいんじゃない?いや聖騎士長なのは事実なんだけどさ」
「……?あなたご自身が聖騎士長と名乗ったのですから、ならば聖騎士長様以外の何者でもないのでは?」
ふーむ、どうやらこの子は人の善性を信じすぎているようだ。
普通こんなガキが聖騎士長って名乗っても嘘を疑うと思うんだが。というか毎度疑われているんだが。
「まぁいいや。ところでこんなところで何してたの?」
「………街を見ていたのです。この荒れ果てた街を」
「…………」
「無辜の民が、幸福を享受すべき人々が、悲嘆に明け暮れている。私は彼らの幸福を奪う存在が許せないのです。ですが、それ以上に、彼らの悲しみを拭えない自身の非力さが許せない」
「……君はどうしたいの?」
「私は……みんなを守りたい。もうこんな悲劇に見舞われることなく、私が全ての人々を守ってみせたい」
傲慢だ、そう吐き捨てられる言葉の数々だった。
君のような子供一人に何ができるというのか。
この少年が語るのは、いわば理想そのものだ。子供らしく、何も知らないまま語るだけの、ただの理想論。
古い鏡を見せられている気分だった。
何故かは分からないけれど、理想ばかり語る目の前の少年が、どうしても自身の姿と重ね合わせてしまう。
「───なら、君に強さを授けようか?」
「え?」
「君に剣術を教えてあげる。そしていつか、強くなった君がみんなを守ってやればいい」
だから、彼のことを放っておけなかったのも仕方のないことなのだろう。
「〜〜〜……!!お願いします!是非!!何卒!!!」
「分かった分かったから!一旦離れてくれ!」
妙に暑苦しいなこの子……
目がキラキラしすぎてる。
「さて、これから君に剣術を教えていくわけだ。つまり俺は君の先生、いや師匠となる。俺のことは師匠と呼びなさい」
「はい師匠!!」
「ところで君の名前は?」
曇天に包まれる天空から一筋の光が差し込む。
それは真っ直ぐ彼の元に降り注ぐ。
まるで、この世界が彼を祝福しているかのように───
「私の名は
………………………………………ゑ?
◇◆
痛かったでしょう。辛かったでしょう。悲しかったでしょう。虚しかったでしょう。だけど、幾度巡る輪廻の中にも、確かな幸せはあったのね。
───
見て見て!これまでの苦労の積み重ねとか、罪悪感とか、辿ってきた軌跡全部忘れてるから、自分が世界から愛されてるって勘違いしちゃってるよ!
どうしようもなく愚かでかわいいね。