とある転生者の受難日記   作:匿名

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第3話

 

 

 

 

 

・月⁂日

 

モ テ 期 到 来 ! !

 

今日、同じ学校の女の子から告白された。

実はそんなに話したことはなく、たまに課題について聞かれる程度の関係だったんだが、今日放課後に呼び出されて告白されちゃった。

 

理由は笑顔が素敵で、いつも頑張ってるところに惹かれたらしい。

うーーん、純粋に嬉しい!照れちゃうよね〜。

 

ただ、返事は保留にした。

相手のこともよく分かってないし、何よりこのまま恋人になっても相手に失礼だと思うから。

 

ということで我が永久の友、マーリンに早速相談!………と思い家に向かったんだけど、なんだか少し変だった。心ここに在らずというか、うわの空というか……

 

何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。

家に来るのが遅れたのがそんなに気に食わないのか?と思って、ちゃんと『その子に告白されて遅れた』と伝えた。それでも全然聞いてくれなかったけど。

 

明日には機嫌が戻ってるといいな。

 

 

 

 

 

♯月¢日

 

俺氏、告白を取り下げられるの巻。

 

昨日告白された子に告白を撤回された。

自分で書いといてあれだけど、改めて文字に起こしてみると、なおさらよく分からん状況だな。

 

ただ、()()()()()()()で『ごめんなさい』と何度も頭を下げられては受け入れる他ない。

 

いったい彼女になにがあったのか、そればかりが気がかりだ。

 

 

 

 

 

◆月!日

 

今朝、偶然あの子と鉢合わせたんで、朝の挨拶と、この前はどうしたんだと尋ねたんだが、何故か『()()()()()()()()()()()()()』なんて言われた。

 

なんの冗談かと思ったが、結構ガチな顔だった。本気で思い出せないみたいだった。

 

とりあえずその場から離れたが、正直今もかなり困惑している。

 

なんだろう、なんか薄寒さを感じる。言いようのない恐怖心が。何故かは分からないけど……

 

 

 

 

 

♩月◎日

 

あの日以降、彼女とは会えていない。

少しでも姿を見せてくれたら安心するんだが、そうもいかないのが現実。探しても見当たらなかった。

 

どうしたものか……と、頼れる大天才美少女ことマーリンに相談を持ちかけたんだが、どうやら先日見かけたらしく、普通に友達と楽しそうに出かけていたとのことだ。そして、俺が杞憂していることは何もないとまで断言してくれた。

 

マーリンが言うんだ、まず間違いない。

ということで、これまでの異常は全部、ただ単に彼女が俺を怖がり、ただ単に振られただけという、無慈悲かつ無惨な結末に行きついた。泣いていいですか?

 

泣きたいのは半分冗談だけど、とりあえず『それはそれ、これはこれ』だ。あの子に何事もなければそれでいい。

 

そういや、マーリンにあの子の容姿について話したことあったっけ?

 

 

 

 

 

$月∋日

 

最近、マーリンがなんだかよそよそしい。

 

会話も出来るし、遊びにも誘ってくれるから、マーリンに嫌われたってワケではないんだろうけど、ふと目が合うと逸らされてしまったり、なんとなくどこか気まずそうな雰囲気を出してる感じがする。

 

何かあったんだろうか。相談してくれれば、いつだって乗ってあげるのに……

 

 

 

 

 

☆月◆日

 

今日、マーリンに変なこと聞かれた。

 

もしかしたら、俺に嫌われるようなことをしてしまうかもしれないって。

 

なんだよ、それ!って感じだ。俺がマーリンを嫌いになることなんてあり得ないのに。

 

そう正直に伝えれば、泣きながら笑ってくれた。

よく分かんないけど、彼女の心の憂いが少しでも取り除くことが出来たならよかった。

 

 

 

 

 

◆月!日

 

最近、マーリンが妙にご機嫌だ。

理由を聞いてみたんだが、まだ秘密との返答がきた。

 

新しい魔法でもできたのだろうか。魔法は見るのも大好きというのもあるが、マーリンが出す魔法はどれも綺麗だから、とても楽しみにしている。

 

 

 

 

 

□月¥日

 

【悲報】マーリンの魔法、よく分かんなかった。

 

いつもの部屋に呼び出されたかと思えば、いきなり対面に座らされて、左胸に手を置かれた。

そして、手を置かれたと思いきや、すぐに手を離し、次にその手をマーリン自身の胸──つまり心臓が位置する場所に手を当て、目を閉じてこう言った───『これでずっと一緒だ』と。

 

その表情ときたら、とても見てられなかった。

絶対にバレない日記だからこそ言うけど、あの子の表情、なんかスッゲー大人っぽかった。

妖艶というか、官能的というか、魅惑的というか……とにかく、すっごい色っぽいんだよ。

 

友達にそんな邪な感情向けられないからね、すぐに目を逸らしたさ。

だと言うのに!マーリンは何を血迷ったのか、俺の手を取り、そのまま胸に抱いたのさ!

 

ほんまワケワカメ。俺でなきゃ我慢できていなかったね。

まだ少女とはいえよ、まだまだツルペタだったとはいえよ、前世の価値観を持つ俺にとっては彼女は十分魅力的な女性に該当するんだ。

なので理性をゴリゴリ削る行為はやめてくださいお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

£月〓日

 

日記を読み返しているんだが、直近の俺はどうかしている。

 

告白されたって何?()()()()()()()()()()()()

 

モテなさすぎてとうとう妄想まで書き始めたのか。今度病院行こ。精神科ないから意味ないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『マーリン聞いて!俺告白されちゃった!』

 

 あの笑顔が忘れられない。

 喜色を滲ませ弾んだ声で、喜びを抑えられない純粋無垢な笑顔が。

 

 あの光景が忘れられない。

 頬を赤らめながら想いを告げる娘と、満更でもなく頬を掻く彼の姿が。

 

 この笑顔は私のものだった。

 その仕草も、その優しさも、全て私のものだった。

 

 それが今、それら全てが、一時的とはいえ私ではなく別のモノに向けられたモノだと気づき、臓腑がひっくり返るほどの怨嗟が腑の中で蟠を巻いた。

 大好きだった笑顔が、今は見たくもないと思うほどに。

 

 

 ─────許せない。

 

 

 彼の笑顔は私のもの。

 

 彼は、私をずっと見てくれると約束した。

 

 なのに、舌の根も乾かぬうちに、別の女に乗り換えようというのか?

 

 

 ─────許せない。

 

 

 だから、()()()

 

 

 あの牝狐の元に訪れ、()()した後、あれは一時の気の迷いであると、愛の告白を撤回させた。

 

 

 その後、彼に関する記憶を全て消去。同時にカリバーンにも、あの女の記憶が、自身でも気付かぬうちにゆったりと消えていくよう魔法をかけた。

 やがてあの二人は互いの存在を思い出せなくなる。

 

 

 『マリえも〜〜ん!告白撤回された〜〜!!』

 『……そうか、酷い女だ』

 

 

 どの口がこのような戯言を吐き捨てたのか。一番の悪女はお前だろうに。

 この時も、口では慰めの言葉を吐いた癖に、その内心は安堵と高揚感に埋め尽くされていたではないか。

 

 あぁ、許しを乞うつもりはない。撤回する気もない。

 ただ、私の独占欲が、彼への愛欲が、私が想定していた以上に強く、悍ましかっただけのこと。

 現に今、私はこれ以上なく満たされていた。

 

 「私にはお前しかいないんだ、カリバーン。お前さえ私を見てくれるのなら、他に何もいらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、とある実験をしている。

 

 それは、私の魔力である『無限(インフィニティ)』が、生命体の老化に対しても有効であるかどうか、といったものだ。

 

 『無限(インフィニティ)』は、私が一度発動させた魔法は、私の意志で解除せぬ限り、永続的に持続させるといった物だ。

 火の海を放てば永久に燃え続け、氷の城を建てれば永久に溶けることはない。私が魔力を解除しない限りな。

 

 私がモルモットにしているのは、遠に寿命を超えているであろうネズミを数十匹。

 それら全員に【時間停止】の魔法をかけ、それに『無限(インフィニティ)』を付与し、経過観察をしている最中だ。

 

 試しに数匹の【時間停止】を解除すると、その場でパタリと倒れ、動かなくなった。

 近しい年齢であるはずの他のモルモットたちはピンピンしているのにも拘わらず、だ。

 

 私の【時間停止】をかけられたモルモットは、寿命を迎えてもなお生命活動を続け、解除されたモルモットは嘘のように眠りにつく。

 

 

 ────つまり、成功だ。

 

 

 私の魔力には()()()()()()()()()()()があることが分かった。

 

 しかし、今私が考えていることは、悪魔の所業を超えた、決して許してはならない行為である。

 これをしてしまえば、如何に彼といえど───

 

 「ッ」

 

 彼に拒絶される──その事実に耐えられそうになかった。

 

 「やめよう、こんなこと。人間のすべきことでは───」

 『散々人の心を弄んでおいて、いまさら人であることに拘るのか?』

 

 誰かが私の耳元で囁く。

 否、これは()()なんじゃない。()だ。脳が都合よく見せる、もう一人の私。ただの幻影だ。

 

 『もしや、まだ自分は大罪人ではないと、本気でそう思っているのかね?一人の少女の想いを蹂躙し、想い人の心に深い傷を残したくせに?』

 「ッ」

 『お前は自分の幸福のために、他者の幸福を喰らったのだ。それなのに、いまさら人道的価値観を持ち出されても───』

 「お前に何が分かる!?彼が私の元からいなくなってしまうかもしれない恐怖が、あの女に対する嫉妬心が!!」

 『分かるさ。何故なら、私はお前であり、お前は私なのだから』

 

 そう言うや否や、もう一人の私は私の手を取る。

 

 『お前()が考えていることは、唯人では実現不可能な願望だ。すでに罪を犯した大罪人ならば、それならいっそ人であることをやめてしまえ。彼と共に永遠を生きたいのだろう?』

 「……」

 『ふっ、最終的に決めるのはお前だ。()ではない……が、私には分かるぞ。お前はきっと、また大罪を犯す』

 「………何故、そう断言できる」

 『言ったであろう。私はお前であり、お前は私だからだ。お前の感情、気持ち、思考も全て分かる』

 

 そう言って消えていく自身の幻を、私はただ眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………カリバーン」

 「ん〜?どったの〜?」

 

 私の部屋でりんごをムシャムシャと食べている彼に声を掛けるも、既のところで言葉が喉に引っ掛かって、再び口を閉ざしてしまう。

 

 聞くのが怖かった。もし、私の望まない答えだったらどうしようか、と。

 私らしくない、ジメジメした乙女のような思考だ。でも、これ以上なく恐ろしいのも、また事実であった。

 

 「……いや、やっぱり何でもな───」

 「マーリン」

 

 割れ物を扱うように、優しく手を取られる。

 空を内包した瞳は、ただ私だけを映していた。

 

 「俺は君の力になりたいよ。何か悩みがあるのなら、俺に聞かせてほしい。だって、俺たち、友達でしょ?」

 

 ───嗚呼、私はどうしようもない女だ。

 

 あれだけ固く閉ざしていた心は、たった一声、たった一言で、いとも簡単に解けたのだから。

 

 「私は……もしかしたら、お前に嫌われてしまうことをしてしまうかもしれない。それでも、お前は私を怒らずに、嫌いでならないでいてくれるか……?」

 

 詳細を省いた、曖昧な言葉。

 これでは何も分かったものではない。でも、カリバーンならきっと答えてくれ───

 

 「いや、普通に怒ると思うけど」

 「えっ」

 「そりゃそうだよ。幾ら友達だとしても、親しき仲にも礼儀ありだからね」

 

 世界が揺らぐような衝撃に襲われる。

 

 いや、彼の言うことは一言一句その通りだ。叱られて然るべき時に叱るのは必然だ。……嫌われて当然だろう。

 

 やはり、私の計画は白紙に────

 

 

 

 「でも、マーリンを嫌いになることは絶対にないかな」

 

 

 

 嬉しそうに、仕方のない奴を見るように、目尻を下げて笑うカリバーンを見て、心の中に棲み着く靄が一気に晴れたような気がした。

 

 「ほ、本当か?でも、さっきは怒るって……」

 「怒るのと嫌いになるのは、また別の話さ。まぁ、事と場合によっては、もしかしたらガチギレするかもしれない。でも……俺がマーリンを嫌いになる未来が想像出来ないんだよね」

 

 『タハーッ』と能天気に笑いながら、照れ隠しで顔を背けるカリバーンは、恐らく私の醜態は見えていないのだろう。だが、都合が良かった。

 

 止めどなく溢れる涙を流した姿など、彼には見られたくなかったから。

 

 「ッ……なら、いい」

 「ハハっ、なに?マーリンちゃん、俺に悪いことする気だったの?」

 「あぁ……とっても悪いことをな」

 「なんだか珍しいや。じゃあ、『一度だけ何でも許してあげる券』を上げちゃいます!一回だけなら怒らないから、何してもいいよ!」

 「………お前は本当に脇が甘いというか何というか……」

 「???」

 

 首を傾げる彼に、堪えきれず笑う私。

 多分、ここ最近で一番笑ったと思う。

 

 

 

 

 覚悟は、決まった。

 

 大罪を背負う、その覚悟が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は彼に呪いをかける。

 決して赦されることのない呪いを、業を、彼に背負わせる。

 それでもやるのだ。どんな罪を背負っても、私はお前と永い時間一緒に生きていたいのだ。

 

 「マーリン?入ってもいい?」

 「あぁ、もちろん」

 

 窓辺から顔を覗かせるカリバーンを部屋に招き入れ、対面に座らせる。

 彼には新たな魔法を見せる名目で招集した。

 魔法を愛するカリバーンのことだ、まず断ることはない。

 

 「楽しみだなぁ!どんな魔法なんだろ!」

 「………そんなにも心踊るものなのか?」

 「もちろん!だって、マーリンの魔法、好きだから!」

 

 良心が痛まないと言えば嘘になる。

 カリバーンは純粋だ。だから、私のような悪い魔法使いの餌食となる。

 

 もう、とっくに覚悟はできている。

 

 「始めるぞ」

 

 そっと、彼の左胸──心臓が位置する場所に手を当て、魔法を発動する。

 

 【時間停止】。

 

 それは文字通り、対象の時間を止めることのできる魔法。通常なら、一時的に相手の動きを止める程度の魔法だが、それを応用すると、対象の生としての時間を数秒止めることが出来る。

 そして、その魔法は私の魔力『無限(インフィニティ)』により、私の意志で解除しない限り永久に継続される。

 つまり、たった今、カリバーンは永遠の命を手にした。

 

 そして────

 

 「えっと……マーリン……?」

 「あぁ、すまない。()()()()()

 「え?」

 

 彼の胸に当てていた右手を、彼に見せつけるようにゆっくりと中空を漂わせ、自身の左胸に当てる。

 

 そして、発動。

 

 これで私も、永遠を生きる権利を得た。

 こんなにもあっさりと、朝食が出来上がるよりも早く、赤子の手を捻るよりも簡単に。

 

 そして、徐々に湧き上がる実感。

 

 「───ふふっ、ふふふっ」

 「マ、マーリンが壊れた……」

 

 壊れた、か。そうだな、確かに私は壊れてしまったのかもしれない。お前を本当の意味で愛してしまった、あの日から。

 

 優しく、彼の手を絡めとる。その手の行先は───自身の左胸。

 

 

 

 

「カリバーン。これで私たちは()()()()()()

 

 

 

 脱力しそうになった手を、より強く握らせる。

 聞こえるか?この心音が。私の心音はこんなにも激しい。

 分かってくれとは言うまい。だが、嬉しいんだ、カリバーン。どうしようもなく、嬉しい。

 

 「マ、マーリン!」

 「ふふっ、悪かった。イタズラがすぎたな」

 「全くもう……!」

 

 どうやら私の意味深な言葉への疑問よりも、胸を触る羞恥心の方が優ったようだ。本当に初心な男だ。

 だけど、そんな純粋無垢なところも、とても愛おしく、嬉しかった。

 

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