とある転生者の受難日記 作:匿名
℃月√日
アーサーは他所から来た子供であり、聖騎士の家系である家に里子としてお世話になっているそうだ。
剣の振り方からして普通の家じゃないと思っていたが、結構ちゃんとした家の人間だったということだ。
アーサーには義兄がいるらしい。その義兄はことあるごとにアーサーにちょっかいをかけているみたいだ。この“ちょっかい”もだいぶマイルドに言い換えた表現だ。
構ってほしさ故に……ならまだいいが、アーサーにとってはたまったもんじゃないだろう。
かといって、俺から何かしてやることは何もない。他所の家庭の事情に首突っ込んで良いことなど何もない。
何もしてやれない……が、この子を導いてあげることはできる。
だから俺はこう言ってやった。「兄にも疎まれないぐらい、強い男になれ」って。
ぶっちゃけこの世界、強いヤツが正義だ。
強ければなんだってできる。自身の尊厳も、大切な者も、何ひとつ奪われはしないだろう。
…月Å日
街中でアーサーと一緒に歩いていると、アーサーと同年代らしき少女たちが花を持って渡してくれた────俺にではなくアーサーにだけど。
あぁ、
アーサーはどうすればいいか分からないといった様子で、助けを求めるような目で俺を見た時は、マジで破門にしてやろうかと本気で考えたほどだ。
いや、アーサーは誰にだって優しいし、努力家だし、品性もあるし、イケメンだし、家の格もある。ぶっちゃけモテる要素しかないのは分かるんだが……
ケッ、ケッ!モテる男はツラいですねーってか!少しはモテないヤツの気持ちも考えろ!
♫月♫日
アーサーの勧めで、最近巷でよく当たると噂の占いを受けてみた。
元々、そういったものを信じない質なのだが、アーサーがしつこいぐらい誘ってきたことと、魔法がある世界だし、もしかしたらと思って受けてみた──が、結局どの世界でも占いはまやかしの類だと分からされただけだった。
占い師であるおばあちゃん曰く、俺は空前絶後の
その時点で意味不明なわけだが、おばあちゃんは如何にもな感じの水晶を覗き込んで、「くわばらくわばら」と言いながらガタガタと肩を震わせ、必死に目を覆っていたのだ。まるで見たくないと言わんばかりに。
何を見たのかは教えてくれなかった。いや、とてもそんな状態ではなかったといった方が正しいか。ただ、「お主には生まれてきたことを後悔するような地獄が待っている」とだけ告げられた。
……思わず笑っちゃったよね。
現段階で女の影がひとつもない男の何処に女難の相があるというのか。
もう占いの類は受けない、そう心に決めた。
♫月◯日
各国の協力を経て、荒れ果てた街は大方元通りになった。
しかし、それはあくまで表面からそう見えるだけで、中身は必ずしもそうではない。
〈英雄〉と称えられた〈七つの大罪〉による国家転覆未遂、そして聖騎士長ザラトラスの死去。
この二つの出来事は人々に決して小さくない傷跡を残した。そして、その傷は魔法では治すことができないものだ。いくら万能で敵なしの俺でも、心の傷までは癒せないのだ。
今はただ、懸命に生きるこの国の人たちを見習って、俺は俺にできることを精一杯頑張ろうと思う。
》月《日
アーサーが興味深い本を持ってきた。
『ブリタニア史』。この世界における歴史書のようなものだ。その本にはこう書かれていた。
約三〇〇〇年前、この地は五つの種族によって混沌を極めていたそうだ。
女神族、魔神族、妖精族、巨人族、そして人間族。その中でも魔神族は特に冷酷で残虐であったとされ、大勢の種族たちが命を悪戯に奪われたという。
そこで女神族は、魔神族を除く四つの種族をまとめ上げ、史上初となる多種族連合軍を結成し聖戦で投じた。
その末に、ようやく魔神族を封じ込めることに成功したそうだ。
要するに、魔神族は絶対悪!女神族は救世主!って感じの歴史がこの本にビッシリ残っている。
なんて血生臭い歴史なのだろうか。血で血を洗う過去が、この地で実際に起こっていたのだ。
しかし、こういった類の話を聞いて真っ先に思うのは「あぁ、この時代に生まれなくて良かった」……である。
俺だったら真っ先に死んじゃってたかも………なんちゃってね。
‼︎月□日
アーサーとの別れが近い。
いや、彼が辿る
リオネス王国の復興も終わり、我らキャメロット陣営はお役御免となった。
国王陛下の計らいでしばらく滞在を許されたが、ずっとただ飯を喰らうのも心苦しい。
残された期間は、あと一週間ってところか。
それまで、俺の持つ技術を全てアーサーに教えるとしよう。
少なくとも義兄に勝てるぐらいには、ね。
◇◆
「はぁ、はぁ……」
「よーし、今日はこれで終わりだな。お疲れさん」
「ありがとう、ございました……」
夕陽が地面に吸い込まれていくのを見て、早朝以来ずっと抜き身で肩に担いでいた剣を、ようやく鞘に仕舞い込んだ。
四つん這いになって、恋人と見つめ合っているのではないかと勘繰ってしまうほどに地面と向き合うアーサーのそばにそっと座り込み、彼の小さな背中を摩る。
「いや〜、強くなったね、アーサー。最初と比べたら見違えるほどだよ。最終日でよくここまで仕上げたといえる」
「しかし……私は、まだ、師匠から一本も取れて、いません……」
「そりゃあね。弟子に一本取られでもしたら、それこそ師匠の名折れだ」
「そう……ですかね」
少しずつ息が整ってきたのか、顔を起き上がらせて、その茶色の瞳に僕の姿を映す。どうやら地面の彼女とはお別れを告げれたらしい。
「前から思っていたのですが、何故師匠はそんなにもお強いのですか?」
「さぁね。生まれ持った才能とか?」
「……確かにそれもあるかもしれませんが、それだけじゃないと思います。師匠の剣には果てのない努力の重みがありましたから」
「って、偉そうなこと言ってすみません」と苦笑いしながら謝罪するアーサーであったが、なんとなく、彼の言葉が胸に響いた。
前世では剣を握ったことすらない俺が、何故か剣術に努力の形跡が見られる……それが意味することとは。
以前から考えていた。
俺は──
俺は転生者だ。それは間違いない。
今の俺には前世と今の記憶しかない。だけど、本当はもっと前からこの世界に存在していて、そのことを自分が忘れてるだけなんじゃないかって、不思議だけどそう思う。
初めて見るはずの光景に既視感を感じる瞬間がある。
ふと頬を撫でた風に懐かしさを覚える瞬間がある。
初めて見る魔法に寂寥感で心を揺さぶられる瞬間がある。
これらの不可思議な現象を説明するには、もはやこれ以外考えられない。
カリバーンという人間は、この世界で生きていたのかもしれない。
──知りたい。もし、俺の仮定が本当に正しいというのなら、俺は俺を知りたい。今までどこかで感じていた疎外感。知って初めて、俺はこの世界で生きているのだと実感を得れる気がした。
「うし、決めた」
「何をですか?」
「ちょっくら世界旅してくる」
「────はい!?」
アーサーは素っ頓狂な顔で俺を見つめる。
突然だもんな、そりゃそんな顔になるか。
「俺にも夢が出来たってこと。一生を費やしてでも、世界を回ってでも見つけたい問いが。ありがとう、アーサー」
「い、いえいえ!私は何も……ただ、師匠の夢や幸福に少しでも助力できたというなら、これ以上なく嬉しいです」
裏表のない純粋無垢な笑顔。謙虚で他者の幸福をいの一番に願う美しい心。なるほどこれは誰もが認める王の器だ。
……こういうところがモテるんだろうなぁ。俺もアーサーを見習おう。
「とはいえ、基本的な剣技は全て教えたつもりだ。俺としか相手してこなかったから実感し難いかもだけど、段違いに強くなってる」
「そ、そうですかね……」
「試しにお兄ちゃんボコしてきたら?」
「や、やめてくださいよ……!」
冗談冗談。
あぁ、それと、最後に言っておくことがあった。
「なんか近々うちの国で催し物が開かれるみたい。よかったら行ってみたら?」
「催し物、ですか?一体どんな?」
「岩に突き刺さった剣を引き抜く大会。景品は超豪華。どう?腕試しに」
「……師匠からのお心遣いを無下にするわけにはいきません。是非参加させていただきます!」
腕試しも何も、アーサーにしか引き抜けない剣だから、八百長してないのに八百長してる気分になる。いつか真実を知るであろうアーサーの心情を考えると胸が痛い。
だが、これで物語の舞台に上がり、彼の伝説が動き出すはずだ。世界で最も偉大な王──アーサー・ペンドラゴンの物語が。
「アーサー、よく聞け。この先、困難や苦悩が数多く降りかかることだろう。迷うこともあるだろう。だけど、そんな時は一回立ち止まって、己の心に問え。君が“
さて、もう教えることは何ひとつない。
後腐れなく別れられる。
「じゃあね、アーサー。今度会った時は、もっと強くなってることを期待してる」
「………はいっ」
師匠との別れ程度で目を潤すこの子の未来がほんの少し不安だ。だって、こんな別れなんて屁でもないぐらいの困難が彼に待ち受けているのだから。
でも、今はまだただの一人の少年。王としての責務も責任もない、ただの弟子だ。
俺はそんな彼を労うように、または『頑張れよ』と激励するように、アーサーの胸にグータッチをする─────
何かが解錠した音が聞こえた。
おかしな話だ、周囲に人が入り込むような家々などないというのに。
幻聴というにはハッキリと聞こえた鍵の音色は、何事もなかったように、それ以降静寂を貫くだけだった。
───カリバーン編、完。
いよいよ原作に入りますね。魔法の世界を全力で楽しんだり、チートしたり、美少女たちと交流を持ったりと、かなり順風満帆な異世界生活を送っているカリバーンですが、これからはそう上手くいかないでしょう。
しかし、ご安心ください。私はハピエン厨なので、完膚なきまでのハピエンを目指したいと思います!