とある転生者の受難日記   作:匿名

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原作・魔神族復活編
第31話


 

 

 

 

 

 万古の静寂に沈む幽谷にて、紫苑の光柱が立ち昇る。

 

 その光の中に、人ならざる者がいた。

 肌は紫紺色に染まり、頭部から二つの角が生え、肩甲骨から漆黒の翼が伸びている。

 見ているだけで恐怖し震え上がるその姿は、まさに、古の時代より伝えられている悪の種族──魔神族そのものだった。

 

 

 「永劫の狭間より、忘却の彼方より、無限の眠りより……!」

 

 

 膨大な魔力と光の奔流に身を包まれながら、アレは唱える。

 その光とは女神族由来の魔力。彼ら魔神族にとってそれは毒でしかなく、事実、解呪の詞を紡ぐアレの体は、徐々に崩壊を始めていた。

 しかし、紡ぐ。それでも、紡ぐ。それが己の使命だと理解していたから。

 

 

 「───消えよ!無垢なる呪い!!」

 

 

 そして遂に、三千年の封印が今、厄災の形となって現世に解き放たれた。

 その影響はブリタニア全土に地鳴りとなって周知されていく。

 

 

 「な、なんだこの揺れ……」

 

 

 ある者は驚き。

 

 

 「おいおい、なんだこの揺れは!?

 「まさかヘンドリクセンの野郎がまだ生きていたんじゃ!?」

 「バカを言うな!奴は死んだ」

 

 

 ある者は不審に。

 

 

 「随分長く生きてきたものだが、ここまでの揺れは感じたことがないな」

 

 

 ある者は物珍しさに。

 

 

 「───やっぱり、あいつらか……!!」

 

 

 ある者は焦燥に駆られ。

 

 

 「ん?おいマーリン、何か嬉しいことでもあったのか?」

 「ん?何故だ?ホーク殿」

 「だってよ、マーリン、お前今スッゲー良い笑顔してるぜ?今の揺れにビビって頭おかしくなったのか?」

 「……そうだな。あぁ、そうだとも。私はずっと、頭がおかしくなるほどにずっと、今日という日を待ち侘びていたのかもしれないな」

 「……?」

 

 

 ある者は己が秘めた宿願の達成を夢見て、一人嗤い。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわっ、スッゲー揺れ。震度6強ぐらい?」

 

 

 ある者は、能天気に感想を述べながら駄菓子を頬張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月×日

 

旅を始めて十年が経った。良い機会なので、この十年のことを振り返ろうと思う。

 

この十年間、様々な経験をした。

いろんな食べ物を食べたし、いろんなモンスターを狩ったし、ドラゴンの背中に乗ってみたりもした。

 

それに夜空がすごく綺麗なのよ。

中世ヨーロッパの世界なので、まず高層ビルが存在しない。一番大きい建物は城ぐらいで、他は二階建ての戸建てしかない。

そのおかげかは分からないが、星空がよく見えること。ここ十年で夜空を眺めるのが好きになってしまった。

 

それに、いろんな場所にも行った。

特に興味深いと思ったのは、一夜にして滅んだとされるダナフォール王国の跡地だ。

というのも、あの大穴から今まで感じたことのない魔力が溢れていたのだ。

巷では謎の大厄災で滅んだと憶測が飛び交っているが、なんとなくこれは人為的なものに思えてならない。本当になんとなくだが。

 

そして、歳を取らなくなった。

十年経っても姿がちっとも変わらない。

不老になってしまったのだろうか?だとしたら……少し、いや結構嫌ではある。

 

 

 

 

 

♫月♬日

 

キャメロットの聖騎士長をやめてから、再び冒険者となった俺は、久しぶりにあの手配書を見た。

十年経った今でも、誰一人として居場所が分からないらしい。〈強欲の罪(フォックス・シン)〉は捕まってんだっけ?まぁどっちでもイイけど。

つーか、〈憤怒の罪(ドラゴン・シン)〉メリオダスの顔ってこんなに老けてたか?

 

 

 

 

 

〻月↓ 日

 

今日、夜空を眺めていたら、流星が十字にクロスしていた。いうまでもなく、すごく綺麗だった。

以前いた世界では見たことない現象だった。もしスマホがあったなら、間違いなく写真に収めていたと思えるほどだ。

なんとなく、この先いいことが起こりそうだと思った。

 

 

 

 

 

¢月◎日

 

リオネスでクーデターが起きたってマジ???

 

冒険者の間で噂になっているのですぐに情報を収集できた。

 

主犯は二名──否、ここはあえて二大聖騎士長とでも呼ぼうか。名はヘンドリクセン、及びドレファス。主犯に二人の名前を挙げられて、「あの二人が!?」という驚愕よりも、「あー、なるほど、確かにね」という妙な納得だった。

だってあの二人、十年前からして素質あったし。

 

ヘンドリクセンは悪どい笑み浮かべて、腹の底が全く見えなかった。

悪魔に憑かれていた、とでも言うべきか。この世界に悪魔なんていないけど、この表現が最も似合う。とにかく正気じゃなさそうだったってこと。

 

だけど、ヘンドリクセン以上に怖いと思ったのは、ドレファスのオッサンだった。

今思い出しても鳥肌が立つ。

いや、考えてもみてくれ。初対面で、全く知らないオッサンが、俺の顔を見るなり泣き出して、汚い泣き声を上げながらハグしてきたんだぞ?誰だって怖いでしょ?

 

さらに情報を集めていくと、面白い事実が判明した。

その二人を止めたのが、大罪人であるはずの〈七つの大罪〉だったんだと。

どうやら十年前のクーデターも、あの二人が〈七つの大罪〉に濡れ衣を着せたらしい。当時、最強と謳われた伝説の聖騎士軍団に濡れ衣着せるとか肝据わりすぎやろと思う。やっぱクーデター起こすやつって普通じゃないんだね……

 

というわけで、大罪人から一転して英雄となった〈七つの大罪〉に向けて、今ちょうど目の前でビリビリと剥がされている手配書に向かって乾杯とでもいこうではないか。

まぁ、こちとらアップルジュースだがね。

 

 

 

 

 

◇月◆日

 

駄菓子食ってたら地震が起きた。

そういえば何気にブリタニアで地震を経験するのは初めてか。

多分震度6強ぐらいだと思う。

 

 

 

 

 

◎月∂日

 

最近、鳥が群れになって何処かへ飛んでいく光景をよく見る。

昔、こういうのは不穏な予兆として言い伝えられているって、どこかで見たことがあるような気がする。

 

 

 

 

 

※月↓日

 

巨大な二つの魔力を感知。

二つは全く異なる場所に出現したが、そのうちの一つが向かった先が不味かった。

王都キャメロットだ。アーサーが新王になって、今が国を発展させる絶好の機会だってのに、こんな奴に邪魔されたらたまったもんじゃないだろう。

原作(アーサー王物語)介入はあまりしたくないが、せめて戦いの余波がキャメロットにこない程度のサポートはしてやろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───それで、話とはなんだ?フラウドリン」

 

 エジンバラの丘──現在はダナフォール王国の跡地となった場所──にて休息を取る十体の影の一人、〈敬神〉のゼルドリスは、開口一番、フラウドリンに尋ねた。

 フラウドリンの口角が上がる。しかし、その笑みには邪悪な感情は一切含まれず、あるのは純粋な喜びだけ。その事実が却ってゼルドリスを困惑させた。

 

 「あぁ、それが───」

 「ねぇ、フラウドリン。聞いてもいいかしら?」

 

 十年前から溜めに溜めていた話のタネを明かそうと、意気揚々と語り出すフラウドリン。ところが、その話の出鼻を挫くように、メラスキュラが話に割って入ってくる。

 これまでずっと、ぼんやりと遠くを眺めていた同胞が、明確な意思を持って自身を見つめる。しかし、その夜闇のような瞳に自身の姿は映っていない。その眼差しに、フラウドリンは思わず気圧される。

 

 「……なんだ?」

 「あなた───()()()()()()()に」

 「ッ」

 「……ふふっ、んふふ、ふふふっ、そう、そうなのね。ふふっ、そう、まだあの子は……」

 

 狂ったように、壊れたように嗤いだすメラスキュラの心情を、この場で理解できる者は誰もいない。

 この場で唯一メラスキュラの問いかけの意味を理解しているフラウドリンですら、恐怖のあまり汗が額を伝う。

 

 「ゼルドリス、あのガラクタ、まだある?」

 「ガラクタ……巨獣アルビオンのことか?復活してすぐの段階なら二体まで出せるが……」

 「そう……じゃあそいつら借りるわね」

 「……“目”として活用するつもりか」

 「えぇ、だって、寝起き早々、魔力も空っぽで、お洒落もしないまま、あの子に会いたくなんてないもの」

 「待て。お前たちは一体何を話して───」

 「ごめんなさい、ゼルドリス。今は一秒でも時間が惜しいの」

 

 繭に包まれた死の女神は不敵に、そして妖艶に微笑(わら)う。

 闇の瞳はなにも映さないし、映していない。

 

 その瞳に映る権利を持つ者は、この世でたった一人だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うおおおおおおおお!!!でっっっかぁぁぁ!!!」

 

 約十年ぶりにキャメロットに帰ってきたら山ができていた件。

 いや、山ではない。山のように大きなナニカだった。

 世界中を回ってみたが、ここまでのサイズ感のある生き物は始めて見た。巨人族ですらこのサイズには遠く及ばない。

 

 「流石にアーサーといえどこれ相手は……って、魔法障壁?」

 

 よく見たら国全体に薄くシールドのようなものが張り巡らされていた。その障壁が巨獣の攻撃から国を守っていた。

 なるほど、アーサーめ、よほど腕の良い魔術師を抱え込んだな。

 

 「あとはお空に大きな豚さんが飛んでることにものすごくツッコミを入れたいところだけど、今はあいつをどうにかしないと!」

 

 顔面いっぱいに大砲を作り出し、如何にも大技を繰り出しますよ!とでも言いたげな雰囲気を感じ取り、その場で両脚を踏み締めて───跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨獣アルビオンは、つい先ほど自身の技をそのまま跳ね返した術を学習し、メリオダスの魔力【全反撃(フルカウンター)】では返せないほどの火球を撃つべく、大砲を複数造設する。

 しかし、巨獣アルビオンは気づくことができなかった。メリオダスに与えられた神器『ロストヴェイン』の真価を。

 

 「あれは!?」

 「メリオダス様が、五人……!?」

 

 神器『ロストヴェイン』の特性は実像分身。【全反撃(フルカウンター)】との相性を考えれば、まさに鬼に金棒とも言えるチートアイテムだ。

 

 

 

「「「「「【全反撃(フルカウンター)】!!!」」」」」

 

 

 時間にしてコンマ数秒。巨獣アルビオンはあるものを見ていた。

 自身を戦闘不能に追い込むであろう熱球を?──否。

 何故か増えた謎の金髪の少年を?──否。

 少年の背後で飛んでいる豚を?──否、否、否である。

 

 アルビオンが見ていたのは、さらに向こう側からやってくる小さな人影。

 強風でフードを煽られながらも、顔の全貌を晒さない、背丈からして少年少女と思しき人間。

 アルビオンは──いや、アルビオンを通じて見ている存在は、アルビオンに最後の命令を放つ。

 

 

 『あなたの持てる最大火力、その限界をさらに超えた力で、アレに業火を放ちなさい』

 

 

 自身を生み出した創設者より下される、絶対にして至上の勅命。

 意思を持たない兵器は、その命令を叶えるべく、動き出した。

 

 「スッゲー威力!」

 「これならあの巨獣も……!」

 「にしし、いっちょ上がり───ッ!?」

 

 【全反撃(フルカウンター)】で跳ね返った火球は、確かにアルビオンに直撃した。

 しかし、顔半分、吹き飛ばすことが叶わなかった。

 火球が跳ね返ってくる直前、咄嗟に防御の姿勢を取ったためか。それとも()()()()()僅かに上がった闘級が為せことなのか。真偽は分からないが、ただ一つ明白なことは、目の前の脅威はいまだ健在であるということだけだ。

 

 アルビオンは火球を放つ。

 その威力は、崩壊しかけている自身の体にさらなるヒビを入れるほどのもの。

 その火球は、ただ真っ直ぐに。空中へ放り出されているメリオダス──そのさらに先にいる標的へ向かって飛んでいく。

 

 「あれは、さすがの団長殿といえども、まずいか……!」

 「やべーよやべーよ!メリオダス逃げろぉぉぉ!!」

 「メリオダス様!!」

 

 ちょうど直線上にいるメリオダスに直撃するのは不可避。完全に油断していたため、【全反撃(フルカウンター)】も使うことは叶わない。

 この場にいる誰もが、英雄の失墜を、その脳裡に描いていた。

 

 

 

 

 

 

全反撃(フルカウンター)

 

 

 

 

 

 突然、唯人にはいきなり現れたかのような速度で、火球とメリオダスの間に割って入り込む人影が現れる。

 その者は、その小さな腰に携えている剣を振り、先刻英雄が見せた魔力と酷似した技を繰り出した。

 

 火球は再びアルビオンの元へ。もうこの火球を防げる両腕は残っていない。

 詰み、敗北、死。巨獣の辿る結末はそのどれかのはずなのに、カリバーンの瞳に映るアルビオンは───()()()()()

 半分の顔から見える口角は、これ以上なく上がりきって。ケタケタと、まるで嬉しくて仕方がないと言わんばかりに。

 

 そして、その大きな口は僅かに揺れ動く。

 アルビオンは、今際の際にて唇を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背筋にゾワリと恐怖が伝っていくが、すぐに気のせいだと、たった今見た光景を切り捨てる。

 アルビオンは下半身も残さず消し炭にされた。

 

 「……ふぅ、危なかったですね。お怪我は?」

 「いや、ねぇけど………なぁ、今の技、【全反撃(フルカウンター)】だよな?」

 「え?よく知ってますね!すごく使い勝手のいい技なんですよ!まぁ、なんで使えるのかは知りませんが!」

 

 「ガハハ!」と能天気に笑う少年に対して、メリオダスは警戒を解かない。

 感謝よりも先に疑問が口から溢れ出る。

 それほどまでに、彼にとって目の前の存在は看過できないもので。

 

 「お前、名前は?」

 「名前、ですか?じゃあ改めまして───」

 

 頑なに外さなかったフードが外され、その顔の全貌が明らかになる。

 そして───その場にいた何名かは、無論メリオダスもまた、その顔を目にした瞬間、絶句した。

 

 

 

 

 「俺の名は()()()()()!そこにいるアーサーの師匠です!以後お見知りおきを!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、いまだ人と、人ならざる者の世界が分たれてはいなかった、古の物語。

 そして───三千年の旅路の清算を果たす、罪深い男の物語である。

 

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