とある転生者の受難日記   作:匿名

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お久しぶりです。


第33話

 

 

 

 

 

 『貴様、いったいどこへ行っていたのだ。私の許可なく外出するなとあれほど……ん?なんだ、そ(・)れ(・)は。すでに死んでいるではないか。そんなゴ(・)ミ(・)など、さっさと捨てろ。…………いつまで突っ立ているつもりだ。早く席につけ。貴様の一分一秒が人類の成果だと知れ』

 

 

 父は、彼をゴミだと罵った。

 

 

 『◾️◾️◾️殿、聞きましたぞ。ご友人が亡くなられたと……災難でしたな。実は、私にもあなたと同い年の愚息がいるのですが……どうですかな?その子の代わりとして、我が息子を────』

 

 

 大人たちは、彼を踏み台にして、私に取り入ろうとした。

 

 

 『なぁ、聞いたか?カリバーンのやつ死んだらしいぜ』

 『あぁ、なんでも魂を抜き取られたかのようだったと……』

 『ま、あんな能無しが死んだところで、別になんとも思わないけどな!むしろ精々したぜ。魔法も使えない面汚しが』

 

 

 街の子供たちは、彼の死を嘲嗤った。

 

 

 私は、心底この街が、人間が嫌いになった。

 全てが憎くて憎くて仕方がなかった。

 何故お前らではなく、カリバーンが死ななくてはならなかったのだと、あまりの不条理さに世界へ怒りを向けた。

 

 そうして、無意味な憤怒の炎に身を包み、骨の髄まで燃え続けた後──残っていたのは虚無だけだった。

 カリバーンのいない世界で生きたいとは思えなかった。

 私にとって、カリバーン、お前がこの世界で生きる唯一の意味だったのだ。

 

 

 

 

 

 『あぁ、その齢で命を擲つ選択肢を選べるだなんて、嫉妬を通り越して羨望してしまうわ。なんて羨ましくて、贅沢なのかしらって』

 

 誰もいない湖畔で、静かに命を絶とうした、そのときだった。

 今にも首を括ろうとする私を嘲笑うかのように、妙に上機嫌な声色で語りかけてくるナニカが、湖から湧いて出た。

 

 「…………誰だ」

 『私は混沌により生み出されし者。ここを訪れた人間からは「湖の姫」、「混沌の巫女」と呼ばれているわ』

 「湖の姫?混沌の……巫女?」

 

 その女はそう自称した。

 

 あぁ、そういえば、聞いたことがある。ベリアルインから遠く離れた場所に巨大な湖があって、そこに息を呑むほど美しい女人がいる、と。

 そういった類の話に微塵も興味がなかった私に、カリバーンは嬉々として伝え話してくれた。

 そんな話をするものだから、その御伽噺の女人にひどく嫉妬したものだ。そして、その嫉妬した相手が、今私の目の前にいるのだから、人生とは何が起きるか分からないものだ。

 

 「それで、その巫女とやらが私に何の用だ」

 『……あなた、大切な存在をなくしたのね。だから、こんなつまらない場所で命を絶とうとしているのでしょう?』

 「…………」

 『図星かしら?分かるわぁ、えぇ、分かる。あなたの、その濁りきった瞳。憎悪に渦巻く心を写したような目は、とても見覚えがあるもの』

 

 癪に障る。面白半分に逆鱗を逆撫でされているような不快感すらある。

 

 「見せ物じゃないんだ。早く何処かへ行ってくれ。私はもう、この世界にいたくない」

 『そう焦ることはないわ。今日はあなたに一つの道を指し示すためにやってきたの』

 「道?」

 

 

 

 『───もし、その存在が生き返るかもしれないと知ったら、どうする?』

 

 

 

 この巫女の一言により、三千年という、あまりに永い人生の旅路が始まった。

 巫女がなにを考え、そしてなにを目的として、混沌を甦らせようとしているのか、数千年経た今もなお分からない。もしかしたら、世界を滅ぼすための可能性だってある。

 だが、私にとって、そのような瑣末ごとなど、どうでもよかった。たとえ私の選択で世界が滅びようとも、なにも感じない。

 私の世界は、私の時間は、カリバーンを失ったあの日から、何もかも止まってしまった。

 すべてが色褪せ、すべてが空虚に見えて、喜怒哀楽という、人間として備えるべき感情をすべて削ぎ落としてしまった。

 

 カリバーンは、あの日死んだ。そして、彼を失った瞬間、私も死んだ。

 

 私の目的は───カリバーンを生き返らせ、再び彼と生き直す。

 ただ、それだけのために、私は数千年も───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………その結末が、この仕打ちか」

 

 キャメロット王城の客室のベッドの上で、ぐっすり眠るカリバーンの寝顔を眺めながら、独りごちる。カリバーンは、まるで、今この瞬間は、誰よりも幸福を授かっていると言わんばかりの寝顔を堂々と曝け出す。

 懐かしい。なにも変わってない。愛おしい寝顔。

 

 ……あぁ、そうだとも。忘れられた、それが何だというのか。

 目の前に彼がいる。それ以外なにを望もうというのか。なにを欲するというのか。

 

 もっと感じたい。見ているだけだなんて、生殺しだろう。彼が生きているという実感を、もっと。

 

 「……よせ、マーリン」

 

 メリオダスに手首を握られる。

 妨害とも取れるその行為に、無性に腹が立った。

 

 「団長殿、今は其方のくだらぬ揶揄を受け流せるほど、私は冷静ではない。早くこの手を離してはくれないか?」

 「だろうな。お前、今なにを絞(・)め(・)て(・)い(・)る(・)のか、分かってんのか?」

 

 そう諭され、今握り締めているものを見る。

 

 それは───カリバーンの首(・)だった。

 

 「ッ」

 

 すぐさま首から手を離す。カリバーンの顔は息苦しそうに顔を顰めていた。その首には、絞めつけた跡が赤い線となってくっきり残っていた。

 

 「おい、マーリン。大丈夫か?」

 

 メリオダスの言葉も、今だけは耳に入らなかった。

 何故、私はカリバーンの首を絞めていたのか。あのカリバーンの首を。私の大切な、愛してやまない存在の首を。

 何故、何故、何故………どれだけ思考を巡らせても、答えは見つからなかった。

 

 「……こりゃあ、相当重症だな」

 「…………」

 「場所変えようぜ。ここだと、お前も冷静になれないだろ」

 「ッいや───」

 「団長命令」

 

 数年に一度出るか出ないかの団長命令に、メリオダスから見て今の私は相当危うく見えているのだと、そう解釈した。

 

 「……………わかった。従おう」

 

 

 

 

 

 キャメロット城の内部には、私専用の研究室がある。

 そこには幾重もの魔法を張り巡らせているため、盗み聞きや盗み見することは絶対にない。秘密の話をするにはうってつけの場所ということだ。

 

 「………なるほど。じゃあお前はアイツを──カリバーンを生き返らせるために、何千年も旅をしてきたのか」

 「………あぁ」

 「………そうか。似た者同士だな、オレとお前」

 

 から元気に笑うメリオダスの姿はあまりに痛ましかった。

 恋人にかけられた永劫の輪廻(呪い)を解くために旅をして、その過程で何度も恋人の死を看取ってきた男だ。

 ……私には耐えられそうにない。

 

 「……憎(・)い(・)か?カリバーンのことが」

 「ッそんなはずがないだろうっ!?私は彼のことを愛して───」

 「自分は何千年も覚えてるってのに、そいつのためだけに何千年も頑張ってるのに、相手はなに一つ覚えてねぇ。その遣る瀬なさだけは、理解してやれるつもりだ」

 

 碧眼が私を見抜く。

 否定したかった。拒絶したかった。だが、メリオダスの言葉が、あまりに的を得ていたのも、また事実で。

 愛(・)憎(・)───あの瞬間、私の中から溢れ出た感情の正体は、きっとこれだったのだ。

 誰よりも愛おしくて、だからこそ許せなくて。たとえ何ひとつ覚えていないとしても、私のことだけは覚えていてほしかったと、そう切に思わざるを得ない。数千年の想いは、そう軽いものではなかったのだ。

 

 「少しは落ち着いたか?」

 「……あぁ。すまない、団長殿」

 「にししっ、気にすんな!オレとお前の仲だろ?」

 

 ここでメリオダスに話せて良かったと思う。でなければ、この行き場のない感情をどう発散するかも分からず、最悪の場合、カリバーンに向いていたかもしれないから。

 

 「……なぁ、マーリン、ひとついいか?」

 

 さて、話はこれで終いか──そう研究室を後にしようとするも、メリオダスはその場から動かない。何かを思い悩んでいるかのように、渋い顔を作って。

 私としては一刻も早くあの子の元へ戻りたかったが、相談に乗ってもらった手前、無碍にすることも憚られる。

 

 「なんだ?」

 「お前とカリバーンが出会ったのは、三千年前。人間族として、ベリアルインで共に過ごしたんだよな?」

 「……あぁ。とはいえ、奴は碌に魔法も使えなかったから、ベリアルインの中では落ちこぼれ扱いだったが」

 「…………」

 

 この問答の意図が分からない。ついさっき話したことが全てだ。さらになにを追求しようというのか。

 

 その疑問は、メリオダスの次の言葉で、何もかもが吹き飛ばされた。

 

 

 「───オレも、カリバーンに会ったことがある」

 

 

 上手く、その言葉の意味を咀嚼することができなかった。

 声も出せず、反応もできず、ただ目の前で真剣に語る腐れ縁の言葉を耳に入れることしかできない。

 

 「オレがアイツと出会ったのは、妖精王の森だった。アイツは紛れもなく妖精族だった」

 「……………なに、を」

 「オマケに、その力は当代の妖精王グロキシニアを優に超えていた。アイツと手を合わせたことも数知れねぇ。アイツはオレにとっちゃもう一人の弟みてぇなヤツだった」

 「なにを、言って───」

 「だけど、守れなかった。裏切られたんだ、人間族に。死体こそなかったが、その惨状と、自慢気に見せてきた小さな羽が地面に転がってるのを見て、オレは───」

 「なにを言っているんだ、貴様は!!?」

 

 頭がおかしくなりそうだった。メリオダスの言葉を理解しようとして、脳が拒否をする。細胞の産毛に至るまで、嫌な予感を駆り立たせる。

 思えば、ディアンヌもカリバーンのことを知っているような態度だった。最初はあまりに冷静さを欠けていたせいで、あの意味を深く吟味できなかったが、今となってようやく線上に結びつく。それも、最低最悪の事実へと。

 

 「大変だよ団長!ディアンヌが……ってあれ?マーリンと二人っきりでなに話してたの?」

 

 重苦しい雰囲気の中、バンと共に旅に出たと思われていたキングが研究室に乗り込んできた。

 キングであれば、張り巡らされた魔法の突破も容易かったか。改善が必要だな。

 

 「んにゃ。それよりディアンヌがどうした?」

 「あ、そ、そうなんだよ!ディアンヌがオイラどころか〈七つの大罪〉のことも忘れちゃって……!」

 

 ディアンヌの記憶が消えていってるらしい。

 キング曰く、記憶が抜け落ちているかのようだという。

 いつもなら「おもしろい」などと探究心に突き動かされていただろうが、記憶喪失の類の話は地雷のため、探究心など微塵も湧かなかった。

 

 ひとまずディアンヌの容態を診ることになり、現場に向かったのだが。

 

 「ディアンヌ?あぁ、あの巨人族の少女ですよね!!それなら先ほど出ていきましたよ?」

 「出て行った!?どういうこと!?」

 「さぁ?ただ、慌てて飛ぶように出ていきましたけど」

 

 消えているはずの記憶。しかし、ディアンヌは何か目的をもって行動しているように見える。

 一体なにが……

 

 「あぁ、それと、手に小さな男の子を大切そうに握り締めてましたね!それでずっと泣いてるもんだから、どうしたのかと尋ねたら、「カリバーンは絶対に渡さない!」って叫んだ後、ぴゅ〜んって逃げちゃったんですよね〜」

 「────は?」

 

 【瞬間移動(テレポート)】ですぐさま寝室を確認する。

 そこには、カリバーンの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら巨人族の女の子に握り締められ、どこかに連れてかれてた件。

 

 「帰ろう、カリバーン。私たちの家に」

 「???」

 

 真っ黒な目でそんなこと言われても、何ひとつ理解できないんですけど。

 誰か助けてクレメンス。

 




もっと拗れてほしい。
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