とある転生者の受難日記 作:匿名
⌘月∂日
巨人族の少女──ディアンヌに連れ去られて、早数時間が経過した。
本当なら日記を書いてる暇なんかないと思うけど、色々起こりすぎていたので、情報をまとめるという意味合いも込めて記す。
俺はアーサーのいる王国──キャメロットに未曾有の危機が迫っているのを感じ、吹っ飛んできた。
そして、なんとかあの山の怪物を倒し、さて一安心となったところで、事態が急変した。
あの妖艶な魔女のお姉さんと、俺を肩に乗せて鼻唄歌いながらルンルン走るディアンヌが言い争いを始めたのだ。
最初は「どういうこと?」「二人は仲間じゃないの?」という疑問は当然湧き上がったものの、そんなのお構いなしに一発触発の雰囲気を出す二人に、間に挟まれた赤の他人である俺は、何故か二人の仲裁をかって出る。
そこにさらなるアクシデントを追加。なんかおっかない鎧を着た変人が空から飛来してきた。
もう色々我慢の限界で、思わず叫び散らしてしまったが、気づいたらディアンヌに握り締められて、メガドーザという場所に連れてかれている最中だ。
………改めてどういう状況なん?
いや、もう一つ重要なことを思い出した。
魔女のお姉さん、ディアンヌ、鎧を着た老人、この三人にはとある共通点が存在していたのだ。
それは、何故か俺のことを知っていたこと。揃いも揃って、まるで久方ぶりに再会した旧友のように、親し気に話しかけてきたのだ。
これはつまり、「カリバーンという人間は、この世界で生きていたのかもしれない」という俺の仮定が、ますます現実味を帯びてきたことを意味する。
それ自体はすごく嬉しい。また一つ、「俺」という謎の解明が一歩近づいたのだから。
だが、気になるのは、魔女のお姉さんが言った「三千年前」という年数と、彼女たちの反応。
三人とも、俺のことを知っているくせに、互いに俺と知り合いの関係であったことを知らなかったようだ。でなければあんな言い争いに発展することもないだろうし。
まるで、別々の時間、場所で、それぞれ別の俺と会っていたような……
それに過去の俺は彼女たちに何をしでかしたんだよ。普通じゃないよ、あの目は。意味不明な愛情向けられてる上に、すっごいドロドロしてるの。もうトラウマになっちゃったよ。
⌘月∂日
追記である。
ディアンヌに過去の俺のことを聞いてみた。詳しく言えば、
ディアンヌ曰く、俺は彼女の魔力から生み出された【
ゴーレム!?!?俺って元はゴーレムだったの!?
あとは、習慣というのは記憶を無くしても変わらなかったらしい。今の俺のように、よく日記をつけていたそうだ。日記の内容を見たらしいが、文字が読めなかったそうだ。おそらく日本語で記していたのだろう。
ふむ、ますます俺だな。
⌘月∂日
さらに追記である。
ディアンヌにどうしてそんなことを聞くのか尋ねられたので、改めて記憶がないことを、そしてディアンヌのことも忘れてしまったことを伝えた。
すると、ディアンヌはその場で大泣きしてしまった。
どうすればいいか分からず、彼女の頬を撫でていると、「カリバーンは死んで記憶を無くしちゃったんだ」とかいうトンデモ発言をかましてきた。俺って死んだことになってんの?
ディアンヌ曰く、俺は入水自殺を図ったらしい。体が土で出来ているなら、確かに水は効果覿面だろうけど……
なら、今の俺はなんだ?もしかして、この世界でも、何度も「転生」をしているのか?
⌘月∂日
しばらく岩陰で休息を取った。そこで、彼女のことを色々聞いてみた。世間話みたいなものだ。
結論から言って、心優しい普通の女の子だと分かった。
巨人族って「闘いが命!闘いが生きる意味!」みたいな、極端な性格な人が多いイメージだから、彼女みたいに争いごとが嫌いな子は少し意外だった。
でも、そんなところが彼女の美点だと思うので、手放しに褒めたら、「前も言われたよ」って笑われてしまった。恥ずかしい……
しかし、どれだけ話を聞いても、過去の話ばかりで、彼女の仲間である彼らの話題は一切出てこなかった。
なのでこちらから話題を振ってみたが、「そんな人たち知らない」と一点張り。俺を揶揄うために嘘を吐いていると思ったが、本当に知らなそうな顔をしていた。
…………もしかして、彼女も記憶がなくなっているのだろうか。
⌘月∂日
ゴーレム姿の自分を見たいという俺の願いを汲み取り、ディアンヌが【
ディアンヌが作り出す【
しかし、彼女はこの出来栄えでも満足していないらしい。「こんなのカリバーンじゃない」と言って、すぐに粉々にしてしまった。
彼女は意外にも職人気質であるようだ。
⌘月∂日
もうすぐメガドーザに着くらしい。
正直、ディアンヌの拘束を振り解いて、いつでも逃げ出すことはできたが、ここまで来てしまった。
理由はディアンヌをもう赤の他人だと思えなくなってしまったから。それに、俺が過去暮らしていたであろう場所に行けば、何か思い出せるかもしれない。
今はとにかく、ディアンヌのことを思い出してあげたい。それが俺に対する責任だろうから。
◇◆
ディアンヌの肩は、妙に心地いい。
ここにいると何故か安心してしまうのだ。マイホームでふわふわのベッドで眠りに着くよりも、彼女の顔が見れるこの場所の方が、本当に安心できる。
「どうしたの?ボクの顔に何かついてる?」
「いやいや!……ディアンヌの顔は綺麗だなって、見惚れてただけだよ」
「にゃ!?」
「ディアンヌの肩すごく落ち着く!」なんて変態まがいなこと、うら若き乙女に堂々と言えるメンタリティは持ち合わせていなかったため、咄嗟に誤魔化してしまったが、これもこれで変態チックでマズイか。
ただ、ディアンヌは赤面して顔を隠しているところを見るに、満更でもなさそうだった。
「………夢みたいだよ。またこうしてキミと同じ景色を見られるだなんて」
「前もこんな感じで肩に乗せてもらったことがあるの?」
「うん!というか、いつもそうだった。マトローナとの修行が終わって、二人で散歩して、街ひとつない野原から夕陽を眺めたりして……あの時が一番心が癒された瞬間だったんだ」
「………そっか」
彼女は目を輝かせながら、俺と過ごした日々を語る。
きっと、彼女の記憶の中に宿る思い出は、それはもうすごく輝かしいものなのだろう。
それを分かってあげられないのが、本当にもどかしくて、本当に申し訳なかった。
「ごめんね、覚えてなくて……」
「ううん、いいの!今はただ、キミがそばにいてくれるだけで……ボク、すっごく嬉しいから」
本当に優しい子だ。普通ならブチ切れてもおかしくないのに。
「……本当はね、夕陽見るの、あまり好きじゃなかったんだ」
「え、そうなの?」
「うん。ボク、子供の頃、他の子たちと比べて全然ダメでさ。よく居残りで修行させられてたんだ。いつも夕方までマトローナと一緒に修行してたんだけど……メガドーザから見える夕陽がすごく綺麗だったんだ。でも、その頃のボクにとっては、嫌なものの象徴として見えちゃってさ。夕陽を見ると、いつも修行のことばかり思い出すようになったんだ」
「そんなものを見に行くために、俺はディアンヌを連れ出していたんですね…………大変申し訳ございませんでしたッッッ!!!」
誠心誠意の謝罪だった。記憶があろうとなかろうと、謝っておかねばならないと感じた。
「ふふっ、違うってば。ボクはお礼を言いたくて、話してるんだよ?」
「お礼?」
燃える夕陽を目にしながら、彼女の想いが吐露される。
「嫌いだった夕陽を、好きにさせてくれてありがとう。それだけじゃない、大きいボクをカッコいいって言ってくれたのも、戦いが嫌いなことを肯定してくれたのも、キミだけだった。カリバーンがボクを認めてくれたから、ボクはボク自身を、少しずつ認めることができたんだ」
「カリバーンのことを考えてると心がすっごく温かいんだ。カリバーンのためなら、どこまでも強くなれる気がする。どうしてかは分からないけど………これだけは言える」
夕陽から、俺へと視線を向けられる。
その目は、あの夕陽以上に輝いて見えて───
───ちゅっ。
頬に唇を寄せ、静かに、優しく落とされた。
触れた頬には淡い熱が宿り、胸の奥がひどく騒めく。
見覚えのない景色。見覚えのない姿。そして──見覚えのない、華奢で可憐な少女。
でも、この風景が、目の前にいる人物が、確かに自分の記憶であり、大切な人であると、心のどこかで確信していた。
目の前の少女は天真爛漫に笑っている。
あぁ、そうだ。この子はいつも元気いっぱいで、優しくて、争いを嫌う綺麗な心を持つ少女だった。
彼女との日々は希望に満ち足りていて。こんな日々がずっと続けばいいなと、心から願った。
そう。そうだ。この少女の名前は────
「────
瞬間、空気が軋んだ。
闇よりも深い真っ黒な瞳をするディアンヌを見て、夢から現実に一気に引き戻されるような感覚がした。
「───誰?そのコ」
胴体を掴まれる。
ギチギチと、鳴ってはならない音が、全身から奏でている。
「……なんで?なんで他の子の名前が出てくるの?」
「ぁ、いや、……え、っと……」
俺でも上手く説明できない。
どうしてディアンヌではなく、ゲラードという少女の名を思い出したのか、何も。
説明出来ないから、口を閉ざす他なかった。
「なんで……なんでボクじゃないの?ねぇ、どうして?なんでっ、なんでッ……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……!!」
マズイ。明らかに平常心を失ってる。
どうにかしてディアンヌを宥めようとした、その時────
◇◆
「ホークママ!一旦ストップ!」
ディアンヌとカリバーンを追うメリオダス一行。しかし、突如として、団長であるメリオダスは静止の命令を下す。
「どうしたの団長?早くディアンヌを追わないと……!」
「…………マーリン、これは……」
「あぁ、最悪の状況になった。まさか、こうも動きが早いとは」
「え?それってどういう───」
逸るキングは苦言を呈するも、その言葉は長く続かなかった。
ここから遥か遠方、そこから迸る、ドス黒い魔力の塊が、一斉に放出されているのを、この場にいる誰もが感じ取っていた。
「なんだみんな?腹でも下したか?」
豚一匹を除いては。
「団長、この感じ……この、暴力的なまでの漆黒の魔力の塊は、まさか……!」
「あぁ、そのまさかだ」
◇◆
「どうしたの?ゲラード様?」
「…………」
気のせいかもしれない。何故こんな気持ちになっているのかも理解不能だ。
しかし、たった今、誰かから名を告げられたような気がした。
とても懐かしくて、無条件にもっと聞いていたいと思えるような、温かみのある声で───泣き出してしまいそうになるほど、焦がれるモノで。
「───カリバーン……?」
茫然と、漠然と、壊れた人形のように、愛しき者の名を返すしかなかった。
なんかカリバーンに「好き」って言った人って、だいたい不幸な目に合ってる気がする。
訂正
「七つの影」→「十の影」に訂正しました。
シンプル凡ミスです。気をつけなければ。