とある転生者の受難日記   作:匿名

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第8話

 

 

 

 

 

✖︎月|日

 

ベリアルインの跡地に訪れて数ヶ月経った。

色々考えていたら日記を付けるのも忘れていたので、今日は久々にペンを持つ。

 

ベリアルインは消滅していた。人も、街も、何もかも。

 

あんな惨状を見たら、マーリンだけが生き残れているなんて楽観視は、とてもではないができなかった。

 

マーリンが死んだ……数ヶ月経った今でもその事実を受け入れきれていないし、多分今後も出来やしない。なんならたまに思い出して泣くと思う。

 

でも、頑張って生きようと思う。

 

いや、生きるのは当たり前だし、『彼女は死んでいない、俺の心の中で生きている』、なんて自己満足なセリフを吐く気はないけどね。

それでも、たとえマーリンに会えなくても、思い出すのが辛くても、何度でも思い出して、何度でも彼女を想って泣こうと思う。

それが俺なりの彼女を想う形だと思うから。

 

それはそれとしてメラスキュラの野郎は絶対許さん!

あんの野郎、肩叩いて『ドンマイ☆』だってよ!人の心はないんか!?

 

 

 

 

 

☆月¡日

 

今日も酒癖の悪い二人に絡まれた。

 

最近のお馴染みになりつつある酒場で、またしてもパワハラジジイことガランがやって来て、またしてもメラスキュラと酒のがぶ飲みを始めた───何故か俺の隣に座って。

 

いつもなら、

 

〈ガラン メラスキュラ 俺〉

 

といった席順なんだが、今回は、

 

〈メラスキュラ 俺 ガラン〉

 

になってた。

 

なんでぇ?なんで席順変わったのぉ?

いや、別にいいんだけど……うるさいんよ、酒の入ったあの二人は。変なテンションになるし、酒臭いし。

案の定、『男ならしゃきっとせんかい!』と、バカみたいにうるさい笑い声と意味不明なエールと共に背中をバンバン叩かれて痛いのなんの。痣になったらどうしてくれるんじゃい。

 

メラスキュラもメラスキュラだ。

部下が困ってるっていうのに、隣でケタケタ笑ってるだけだったんだ。

あともう一つ!酔って俺を抱き枕にするのやめろ!胸元に抱き寄せられるせいで、感触やら匂いやらがダイレクトに伝わってくんねん!

 

でも、おかげでちょっと元気もらったわ!ありがとう!それはそれとして酒癖悪いのどうにかしろ!

 

 

 

 

 

※月∞日

 

師匠が珍しくデレた。

 

いつものように師匠がいる修練場に向かうと、最初の一言が『遅い!』ではなく、『飴をやろう』だった。

思わず『あんた誰?』って言っちゃったよね。おかげで俺の愛刀が真っ二つになったけど。

 

理由を聞けば、『お前のコンディション不良を整えるため』だって。

……元気ないことバレてたんかな。

 

 

 

 

 

∃月§日

 

ここ最近は魔法の練習をしている。

 

魔法というのは、マーリンが見せてくれた、あの氷の魔法だ。ベリアルインに行ったあの日から自由自在に出せるようになったんで、色々やっている。

それと、何故か分からないんだけど、もっと他の魔法も出来るんじゃないかって感覚がするんだ。理屈とか確証とかはないけど、なんとなく。

まぁ、考えても仕方ないし、特段気にしていない。今はただ魔法を使えることに感謝だ。

 

メラスキュラは『これで戦場でも足手纏いにはならずに済むわね』なんて言ってきやがった。

……でも、俺としては、戦場でこの魔法は使いたくない。

マーリンが教えてくれた魔法を人殺しのために使いたくない。

 

本当は争うことだってしたくない。

みんな、もしかしたら仲良く出来るかもしれないって思うと、どうしてもね……

 

とにかく、弱者に口出しする権利はなし!立派な理想を語るなら、まずは力をつけないと!

師匠に稽古の強度を高めてくれるようお願いしよっかな。

 

 

 

 

 

⁉︎月✖︎日

 

今日、『魔神族一の真面目』と有名なフラウドリンくんと共にグレイロードさんの研究室に忍び込む予定だ。

理由は、魔神族の中でも一際謎に包まれているグレイロードさんの正体を暴くためだ。

 

真面目なフラウドリンくんにはもちろん反対された。

しかし、『これが〈十戒〉になれる近道かもよ……?』なんて言ったら、あっさり承諾した。チョロいやつ。

 

これから行ってくる。魔界の七不思議──『グレイロードさん実は女性説』……この俺が暴いてやんよ!

 

 

 

 

 

 

 

追記

 

思い出したくもないので、日記には書きません……

今日はもう寝ます……

 

 

 

 

 

∪月}日

 

デリエリ姉妹が許せない件。

 

魔神族にはとびっきりの脳筋がいる。そう、〈十戒〉『純潔』のデリエリである。

彼女はときおり『ケツから言って〜』と言葉を省略して結論しか言わない時がある。

その時は彼女の姉と、ちょび髭おじさんの通訳がないと大変だが、基本的にお喋りなため、コミュニケーションは問題ない。

 

そんな姉妹に男の尊厳が傷つけられている。

 

黙って座っていれば頭を撫でられ、訓練で休憩していたら頭を撫でられ、何もしてない時でも頭を撫でられ………お前らは撫で魔か!!

 

小さいからか!?俺が小さいからなのか!?みんなの前で撫でられるの恥ずかしいからやめてくれよ!

 

 

 

 

 

Å月√日

 

今日は魔物狩りを楽しんだ。

 

同伴者は三名。

魔界一ちょび髭の似合う男こと、モンスピートさん。

撫で魔と化した、デリエリ姉妹。

以上、仲良しトリオである。

 

モンスピートさんとはデリエリ姉妹に絡まれている時に、何となくお互いの波長があって、自然と仲良くなった。

こう言ってはなんだけど、イカれた奴らが多い魔神族の中でも、モンスピートさんは結構普通でさ。常識人と言うべきか。

俺の知り合いなんて、前に俺を殺した腹黒少女と、やることなすこと全て破壊になるパワハラジジイ、化け物師匠、監獄に入れられた魔術師、撫で魔姉妹、その他愉快な仲間たちで占められているからな〜。

 

んで、魔物狩りは結構盛り上がった。

ルールは簡単。固定された位置から遠くにいる標的に目掛けて魔法を放ち、一発で仕留められたらポイントゲット。

前世でいう鷹狩りみたいなものだろうか。にしては物騒だが。

 

だが、何を血迷ったのか、デリエリが『姉さんが大きな獲物取ってくるからな』とか何とか言って魔獣を乱獲して、周辺一帯の魔物がいなくなったのは秘密だ。

ルール違うし、そもそもあんたの弟じゃねーわ!!

 

 

 

 

 

∃月•日

 

もう間も無く、女神族の前線と衝突するらしい。つまり、聖戦の開幕である。

俺もメラスキュラの部隊の一員として参加する予定だ。

 

俺は争いとは無縁な世界に生きていたから、誰かを殺したくはないし、戦いたくもない。

 

でも、この魔界で、少なくない数の友人ができた。

彼らが死ぬ姿は……正直見たくない。

 

だから、みんなを守るために俺は戦おうと思う。

まぁ、九割九部守られる側だろうし、真っ先に死ぬ奴筆頭なんだろうけど!

 

 

 

 

 

*月∀日

 

ゴウセルさんとの会話が一番落ち着く時間かもしれない。

 

ゴウセルくん(人形)を通して、獄中にいるゴウセルさん(本物)と会話することも、もう慣れてきた。

ゴウセルさんは博識だから、どんな話も面白い。特に魔法の話はレベチだ。流石は専門家といったところだろうか。

 

何だか、ゴウセルさんは親戚の叔父さんのような安心感がある。

ゴウセルさんも同じようなことを思っていたらしく、俺のことを『息子のように思っている』と言ってくれた。正直嬉しい。

 

 

 

 

 

★月〜日

 

戦争が近い。

周囲の殺伐とした雰囲気からも、何となく察することが出来た。

 

いつもと変わっていないのは〈十戒〉の面々ぐらいだろうか。喧しいぐらい絡んでくるので捌くのが大変だ。

ガランじいさんに至っては、久々の戦で武者震いしてたからな。そんで、若かりし頃の武勇伝を聞かされる始末。完全に酔いが回っている状態だった。

もうコイツから酒取り上げろよ。それか田舎に隠居させてほしい。

 

 

 

 

 

∬月ゞ日

 

今日の師匠、やけにピリついていたな。

 

なんか、いつも以上に手厳しかった。

『戦場でそんな動きをしていたら、命がいくつあっても足りん!』って、鬼気迫る感じが伝わってきた。

 

なにをそんなに急いでいるんだろうか。

開戦するから稽古をつけてくれる時間がなくなるから?それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかだったりして………って、妄想が過ぎるか。

師匠が誰かを心配する図なんか、ちっとも想像できないわ!ガハハ!

 

 

 

 

 

?月→日

 

メラスキュラから呼び出しをくらったので、この後外出します。

 

全く、戦争が近いっていうのに、うちの上司は何を暢気にしているんでしょうかね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの〜、メラスキュラさん?そろそろ目的地を教えてもらっても……」

 「うるさいわね。もう少しだから黙って着いてきなさい」

 「へいへい……」

 

 真っ黒な帳が落ち、銀色の月に照らされた美しい夜。

 呼び出しを受けたのでメラスキュラを迎えに行けば、突如『ついて来なさい』という命令を受けたので、彼女の三歩後ろをゆったり歩きながらついて回っている。

 

 それにしても、相変わらず殺風景で何もないな、ここ(魔界)は。

 そりゃあ故郷飛び出してもブリタニアの大地欲しいわなって感じ。

 まぁ、欲しいのは大地そのものではなく、そこに宿る豊潤な魔力らしいけど。

 

 「着いたわ」

 

 なんて考え事をしていたら、いつの間にか目的地に到着していたようだ。

 しかし、そこはとても見覚えのある場所で。

 

 「何で修練場に……?」

 「手合わせよ」

 「………え?はい?手合わせって、今ですか?」

 「それ以外なにがあるのよ」

 

 あまりに突拍子がなさすぎる。今何時やと思っとんねん。

 ただ、梃子でも動かなそうな態度を見て、とりあえず腹を括った。

 

 「ふん、後悔しないでくださいよ!」

 「寝言は寝てから言ってちょうだい」

 

 挑発に乗ることもなく──ちょっとだけでピキリとはしたが──いつも帯刀している愛刀を構え、相手の出方を伺う。

 

 剣術には「三つの先」というものが存在している。これは戦場で生き残るために必須であるとされ、師匠に体の節々に叩き込まれた技法だ。

 

 一つ、先の先。

 相手が動き出す瞬間に発生する“起こり”を予測し、それよりも前に先制を取る技法。

 

 一つ、対の先。

 相手とほぼ同タイミングで仕掛けるが、先んじてこちらが早く斬る技法。

 

 一つ、後の先。

 一度後手に回るも、その攻撃を躱し、相手の動作が終わると同時に斬る技法。

 

 これら全てを会得し、完璧に使い分けれるようになれば、おそらく怖い物なしだ。

 まぁ、師匠のように、反則級な魔力を使ってきたら話は変わってくるが……

 

 本当なら先の先で仕留めるのが理想。

 しかし、俺に〈十戒〉を出し抜けるほどの予測力も、速さも、力もないことは重々承知している。

 対の先も同様に、真正面勝負で競り勝つ未来が見えないから却下。

 だから、後の先に意識を割く。カウンター特化の守りの攻めだ!

 

 メラスキュラはその意図に気付かずに、もしくは気付いておきながら()()()乗ってくれたのかは分からないが、黒い靄を人一人分ぐらいの大きさの拳にして、視界で捉えるのもやっとな速さで、俺の身体へと降り注がれる。

 

 しかし、以前は避けるどころか見ることすら叶わなかった拳が、今はちゃんと()()()()()。師匠の剣速の方がよっぽど速い。

 

 体を限界まで捻り、転がり込むように右へと緊急回避をする。

 ほんの僅かに、メラスキュラの顔に驚愕の色が映った。

 

 ───チャンス!!

 

 相手の動揺こそ、隙を突く最大の弱点。

 大きく踏み込み、何の躊躇いもなく、むしろ今までのあれこれの恨みも一緒に乗せて、剣を振り翳す。

 

 「ふふっ、ざ〜〜んねん」

 

 まぁ、そう上手くいかんわな。

 

 俺の決死の攻撃は、先ほどの黒い靄が彼女を守ったことで、難なく防がれた。

 毎回思うんだけど、あの黒い靄便利すぎ。なんでもアリじゃん。

 

 「あなた、見ないうちに少し腕を上げた?」

 「あっ、分かりますか?ゼルドリス師匠から愛ある指導を受けているおかげですよ!」

 「ふーん、そう」

 

 自分で聞いといてあんま興味なさそうなのやめない?

 

 「…………」

 

 メラスキュラは顎に指を添え、真剣に考えている。

 なにを考えているのか分からないが、こんなにも真面目そうな彼女は初めて見た。

 

 「…………いいわ、ひとまず合格をあげる」

 「合格?なんかの試験だったんですか?」

 「えぇ、そうよ。これはね───」

 

 メラスキュラの姿が掻き消える───と、同時に、顔面に強い衝撃が奔る。

 おそらく、『メラスキュラが目の前に現れた』と脳が認識する前に、修練場の壁にまで殴り飛ばされたのだろう。背中がめっちゃ痛い。

 

 「これは、あなたが最後まで戦場に立っていられるか、といったテストよ。実力はまだまだだけど、ひとまず最低ラインのギリギリ及第点ぐらいは上げてもいいわ」

 「……え?じゃあ今殴った理由は?」

 「特にないわ♪」

 

 コイツほんまどないしてくれようかな。

 

 「というか、戦場に立つのに資格なんてあります?」

 「もちろんあるわ。だって……すぐに死んでしまえば肉壁にもなりはしないもの」

 「肉壁!?」

 「うふふっ、冗談よ」

 

 本当に冗談か怪しい口調だったが……

 

 「じゃあ今日はこれでおしまい。早く明日に備えることね」

 「誰が連れ出したと思っているんだか……」

 「何か言った?」

 「いえ、なにも!」

 

 女性って何でこうも地獄耳の方が多いのか……

 お陰で愚痴一つ溢せやしない。

 

 それにしても……肉壁、か。

 殺し合いの戦場である以上、敵味方問わず肉の壁を築いて防壁を組む、なんてことが十分に起こり得る。

 

 実際そうやって教育されている。

 『自分たちは捨て駒に過ぎず、いざとなれば〈十戒〉の盾となれ』と、口酸っぱく言われてきた。

 〈十戒〉とその他魔神族では、途方もない実力差がある。自分たち低級の魔神族の身一つで、一人で戦況を覆せる力を有する〈十戒〉を守れるなら、すごく合理的だと思う。

 

 ……軍人の心構えとして教育され、みんな上官の前では『肉壁になります!』なんて言っているが、内心、誰も肉壁になんてなりたくないんだ。

 当然だ。()()()()()()()()()()()()

 

 ………でも、俺は違う。

 

 運命の悪戯か、はたまた神々の呪いかは知らないが、どうやら俺は何度も『生』を分け与えられている……らしい。

 確信はないし、確証もない。もしかしたら、次はないのかもしれない。

 でも、俺に限って言えば、これでもう二回目の転生だ。一回目と二回目では大きく違う。

 

 今でも死ぬのは怖い──当然だ。生物として『死』を恐れない存在なんていない。

 痛いのも怖い──これも当然だ。嫌だから、怖いから、人は痛みを感じるのだから。

 でも、『次がある』と思うだけで、少し気持ちは楽になるのも事実だ。

 

 もしもの話だ。

 もし、肉壁にならざるを得ない状況に直面したら。こんな自分でも守れる命が一つぐらいあるとするならば……その時は「自分が肉壁になる。だって、自分はまた転生できるかもしれないから………なんて、考えてるでしょ?」

 

 闇。

 思わず顔を上げた時、俺の目の前には闇が広がっていた。

 真っ暗で、光なんて物はない、暗く澱んだ世界。

 しかし、肩や眉にかかる桃色の絹と、嗅ぎなれた匂いが鼻腔を擽るといった不可思議な状況下から──自身が見ているものは、メラスキュラの瞳であると気づいたのは、そう遅くはなかった。

 

 「い、いや、そんなことは……」

 「──目を右に逸らした」

 「え?」

 「あなたが嘘をつくときにやる癖よ。よかったわね?新しい自分を知れて」

 

 あの〜、メラスキュラさん?『よかった』って思うなら、もう少し表情取り繕ってください。めちゃ怖いですよ、今の顔……

 

 「も、もしかして肉壁のことで怒ってんすか?イヤだなー、冗談ですやん。そもそもメラスキュラさんが言い始めたこと──」

 「私はいいけど、あなたはダメ。あなたが言うのは違うわ」

 

 思わず絶句しちまったよ……

 スッゲー面倒くさいじゃん、この人……

 

 「もし、一度でも命の使い捨てを覚えたら───()()()()()()()()、カリバーン」

 「ッ」

 

 ……胸に矢が刺さったような気分だ。

 確かにその通りだと思った。いくら転生するといっても、命を蔑ろにしていいわけがない。

 もし、そんな選択をするようになってしまえば──それはもはや人ではない。ただの()()だ。

 

 「だから、あなたは生きなければならない。何度も何度も輪廻を繰り返すとしても、その人生を死に物狂いで走り続けなさい。どれだけ絶望に見舞われようとも、最後の最後までその胸に希望を灯しなさい。たとえ今際の際だとしても、たとえ死ぬと分かっていても、屈することのない輝き続ける心を持ちなさい。私の知るカリバーンという人間は、そうでなくてはならないの」

 

 最後の一文が気になるが、要するに『希望を抱いたまま溺死しろ』ってことだ。もちろん良い意味で。

 彼女の言うことはもっともだ。反論の余地がないほどに、優れた模範回答だった。

 

 「………癪だけど、ありがとう。もう自分の命を軽く見ないって誓うよ」

 「当然よ。あなたは私が見初めた魂なのだから」

 

 言い方はあれだが、これはつまり『どういたしまして』の言い換え、ということか?分かりづらっ。

 

 ただまぁ、正直驚いた。まさかメラスキュラからこんなこと言われるなんて夢にも思わなかった。

 コイツとも色々あったが、少しずつメラスキュラのことを分かってきたような気が───

 

 

 

 「───それに、あなたの命をどうこう出来るのは……()()()()()()()()

 

 

 

 おっと、流れが変わったぞ?

 

 「ハハハ、メラスキュラさん、ご冗談を。俺の命は俺の物ですよ。それをどうこうするのも俺次第───」

 「いいえ、私のよ」

 

 あっ、地雷踏んだ───あの真っ黒な瞳が俺を映した瞬間、そう悟った。

 『早く逃げろ』と脳内が警告を発するが、それを上回る()()が細胞の微動の一切を許可させなかった。

 

 「勘違いしているようだから言っておくけど、あなたにあなた自身をどうこうする権利なんてものは──()()()()()()()

 

 黒い靄が俺を包み込む。

 決して逃れられぬように、決して目を逸さぬように。

 

 「あなたの魂、感情、気持ち、行動指針、価値、目的、身体、人生、髪の毛爪の端から細胞に至るまで、全部私の物。あなたが私に食べられたあの日から……ずっと」

 

 頬に手が添えられる。

 すでに喉は干上がっており、声を出すことも儘ならない。

 

 ゆっくりと抱きしめられ、背中に腕を回される。

 抱擁のように見えるそれは、頑強な鎖のように思えた。俺を縛り付ける鎖の上で、彼女の艶麗で潤いを帯びた唇が、そっと耳元に添えられる。

 

 「あなたの命の使い所は私が決める。あなたの生きる意味も私が作る。だから、勝手に死ぬことは許さない。それでも、もし、私の許可なく死ぬというのなら────」

 

 

 

 

 

 

 

 

────今すぐ、あなたを殺してあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 「分かった?」

 「────────ひゃ、ひゃい……」

 

 なっさけねぇ声。いやでも、本当に怖いんです……

 

 「それに──私に『ぎゃふん』と言わせるんでしょ?あなたの生きる理由なんてこれだけで十分よ」

 「………さいですか」

 

 ……もしや、メラスキュラに見つかった時点で、俺の人生詰んでたのでは?ボブは訝しんだ。

 

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