【二次小説】機動戦士ガンダムGQuuuuuuX Another side   作:高坂 源五郎

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GQuuuuuuX Another side 第09話 戦域離脱

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

シイコを除いたゴーストザク中隊の面々は、予定時刻を大幅に超過して集合地点に姿を見せた。そして全員が一様に勝利に興奮していた。

 

「捕虜を救出したぞ!」

 

呼応するように、艦内からも戦場には不似合いな歓声が巻き起こる。ハンガーデッキで仁王立ちし、帰還したパイロット達を出迎えたマチルダは不愉快だった。今は作戦行動中なのだ。それも極めて秘匿性の高い、奇襲作戦の任務実行中のはずである。

 

「解放した全員を、医務室へ連れて行って。」

 

手早くリュウとハヤトに指示を与える。顔の広い彼らなら、艦内から人手を集めてマチルダの指示を達成するはずだ。

 

「はい、了解しました。」

 

ハヤトが頼もしげに引き受けてくれる。マチルダは一瞬だけ和んだが、すぐに頭を切り替えた。

 

(ザクはこの様子だと、まだ時間がかかるなぁ)

 

操舵には予備の担当であるバンマスに委ねている。どの道、MS を積み込まないと艦は離昇できない。だが今もマチルダの手には、ヒルドルブとの駆け引きの感触が残っていた。だから、駆り立てられるような切迫感を感じずにはいられない。

 

(今は敵地の中、安穏としていられる状態ではないというのに。)

 

整備兵にザクのライフルへの給弾を指示していた中隊長のギャリー・ロジャースが、マチルダの姿を見てこちらに駆けてきた。

 

「大尉、すぐに離脱しますよ。」

 

マチルダは冷静に、少し冷たさの滲んだ声でそう告げた。

 

「パイロットは、全員帰投しましたか?」

 

明らかにまだ全員ではない。それは周辺警戒にあたっているからだ。だが、マチルダの胸中には厄介事が起きそうな不安があった。だから先制攻撃の意図を込めてそう尋ねたのだが、その不安が的中してしまう。

 

「艦長。ここは攻撃を続行し、成果を拡大すべきだ。」

 

事もあろうにギャリー・ロジャース大尉は、攻撃続行を提案したのだ。

 

「どうしたいのですか?」

 

約束が違う、というマチルダの渋面にギャリー・ロジャース大尉は尚も言い募る。彼は戦果に興奮する様子を隠せていなかった。

 

「向かう所敵なしだ。今ならば、この基地の奪還が狙える。それが叶わずとも生産設備の破壊をすべきだ!」

 

基地の奪還には最低限、歩兵による陸戦隊が必要だ。占領の前提となる歩兵を欠いている現状では、勢い倒れの暴論も良いところである。それだけ、MS隊の成果に酔っている。無理もない、連邦はこれまでMSを集団運用出来ずに負け続けてきたのだから。

 

「いいえ、予定通りすぐに離脱します。」

 

マチルダは冷静にそう断言した。彼女はゴーストザク中隊のパイロットの熱狂には染められていない。マチルダは自分の芯に冷めたものがあるのを自覚した。今の自分は、まるでトロイの滅亡を予言したカッサンドラのようだ。

 

「本艦の役目は陽動です。既に目的を完遂し、捕虜の解放まで成し遂げました。充分でしょう。」

 

「しかし、これは千載一遇の好機なんだ!」

 

そもそもマチルダが見る限り、敵の主力は未だ健在である。キャリフォルニアベースの戦力がこんなもののはずがない。恐らくは霧とミノフスキー粒子の影響で、ちょっとすれ違っているだけだ。それはつまり、新たな敵がいつ顔を出してもおかしくはない事になる。空中にコアファイターを飛ばして索敵を続けていても、今度はこちらが奇襲されない保証はない。

 

「これは、敵の間隙を突いただけのこと。今なら勝って去る事が出来ます。長居すれば、敵の主力が戻る可能性がありますわ。」

 

なるべく柔らかい言葉を選んだが、相手は不快そうに押し黙った。ただ、マチルダの懸念は妥当である。長居すれば、それだけリスクが増大する。沈黙したギャリー・ロジャース大尉に代わり、部下のスレッガー・ロウ少尉が横から口を挟んだ。

 

「中隊長、この艦長さんが正論だ。約束の時間に遅れたのはこちらです。このままだと、我々はこの基地に置いてかれちまいますよ。」

 

冗談めかしてはいるが、場を取り持とうという雰囲気は感じられた。制服を着崩した普段の豪放磊落な様子とは裏腹に、彼は人間関係に配慮出来る繊細さを持つ人物らしい。ギャリー・ロジャース大尉の唇の端が何か言い返そうと釣り上がる。だが何の言葉も発せられなかった。彼も葛藤しているのだ。そしてしばしの沈黙の後、彼の両肩が落ちた。

 

「……承知した。」

 

未だ不満そうではあるが、ギャリーは撤退を了承した。マチルダは緊張を緩め、息を吐いた。その場の全員に向けて声を放つ。

 

「引き上げます。全員、これで撤収!」

 

人々がその掛け声に合わせて動き出す。マチルダは控えていたブライトを手招きし、指示を与えた。

 

「ブライト少尉。貴方がこのまま格納デッキで収容の管理をなさい。誰も置いていかないわ。でもコアファイターは偵察を続行させます。彼女達は空で収容します。」

 

「了解しました!」

 

捕虜を乗せたエレカは既に積み込んだ。第二小隊はザク用の武装の追加回収までしていた。武装を抱えた残るザクを全て積み込み、可能な限り素早く離脱する。マチルダは親指の爪を噛みながら思考を巡らす。

 

(この場を逃げる猶予はありそうだけれど。)

 

ジオンは必ず追跡を仕掛けるはずである。夜が明けるまでに、距離を稼ぐのが大切だった。キャリフォルニアを覆う霧は、少し薄れつつある様にマチルダの目には映っていた。

 

 

 

 

 

—ハワイ基地所属潜水艦〈マッドアングラー〉—

 

マッドアングラー隊、それはキャリフォルニアで拿捕したM型潜水艦を中核として結成されたジオンの潜水艦隊である。当初は水中用ザクの配備のみだったが、現在はゴッグを中心に戦力の充実が図られている。フラナガン・ブーン大尉は今、ゴッグに搭乗して敵の追跡を敢行していた。

 

「捉えたかっ!」

 

フラナガン・ブーン大尉は快哉を叫んだ。目の前には連邦のU型潜水艦が映し出されている。全速でパナマ海域を目指して遁走しているが、その動きはMSの前では鈍重だ。

 

「我がゴッグの敵ではないなっ!」

 

魚雷発射の必要性さえ無い。その巨大なアイアン・ネイルですれ違い様に艦体に打撃を加える。潜水艦は装甲を貫かれ浸水し、水圧によるダメージを受ける。深海であれば、これだけで致命傷だ。

 

「トドメだ!」

 

ブーンは再度接近して、アイアンネイルで艦体に穿たれた傷を押し広げた。ゴッグのパワーとアイアンネイルの鋭さ、そして海水によってU型潜水艦が二つに折れ曲がる。

 

ブーンはゴッグを素早く後退させた。圧壊した潜水艦が魚雷を放つかもしれない。或いはより起こり得る事だが、安全装置を解除された魚雷は誘爆する。これらの危険を警戒したのだ。しかし、敵はなす術なく海底に沈んでいった。ブーンの圧勝である。

 

「任務完了だ。」

 

意気揚々と母艦に凱旋したブーンを待っていたのは、新たな指令である。

 

「太平洋から、大西洋側への移動でありますか?」

 

「そうだ。マ・クベ大佐は、オデッサこそが次の戦場であると命じられた。どうやら北米への攻撃は陽動と読んだようだ。」

 

艦長の説明に、ブーンは頷いた。今回押し寄せてきた連邦軍の規模は小さい。潜水艦は大層な戦力だが、それ単独はさしたる脅威ではない。MSを下ろしたとの推測も出ているが、基地のザクがいれば問題なく対処可能な筈だ。

 

もしもこれが本格侵攻なら、空が埋め尽くされるほどの航空機で攻めてくる筈である。爆撃機の縦断爆撃でもなければ、装甲に優れたゴッグは倒せない。戦車砲はほぼ脅威にならないのだ。

 

「では、大西洋で輸送艦潰しですな。パナマが使えないのが恨めしい。」

 

「おいおい、潜水艦がパナマを通行出来るわけがなかろう。」

 

ブーンの下手な冗談に二人は笑い合った。潜水艦は秘匿性が高いが、それ相応の不便さがある。MSだけなら、ガウで空輸して貰えるのだが。

 

「北回りだからな、少し時間を食うぞ。高速走行で、四日から五日はかかるな。」

 

パナマが通行できない以上、航路は北極海沿いに北回りとなる。地球温暖化で楽に通れるが、距離がある。それでも、北米がジオンの勢力圏である為に連邦の妨害の可能性はほぼない。

 

「では早く移動しましょう。それだけ早く到着するというものでしょう。」

 

ブーンと艦長は笑い合いながら、大西洋での活躍に想いを馳せた。

 

 

 

 

 

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

「艦長、敵の追撃です!ハワイから発したガウ攻撃空母をレーダーが捉えました。」

 

オペレーターの警告に、艦橋に一気に緊張が走る。あの声はオスカーだ。ブライトが焦れた様子でこちらを見てくる。やはり戦闘配置を命じるべきだと、そう考えているのだろう。マチルダは彼を手で合図して押し留めた。ミノフスキー粒子を散布せず、レーダーをクリアに保ったのには理由がある。策があるのだ。

 

「コアファイターの収容は、完了しているわね?」

 

「はい、艦長。」

 

「よろしい。では予定通り高高度、衛星軌道へと離脱します。乗員は体を固定しなさい。猶予は10秒。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。推力全開。離脱開始。」

 

「離脱開始!」

 

オペレーターの復唱と共に姿勢を傾けた〈ペイルホース〉のスラスターが全開となる。ミノフスキークラフトによる、大気圏外への離脱。艦内にはこれまで何度もアナウンス済みである。マチルダの体がシートに押し付けられる。

 

これはスラスターとミノフスキークラフトの併用推進方式による圧倒的な優位だった。ジオンのザンジバル級でさえ、外部ブースターを取り付けなければ大気圏外への離脱は果たせない。だがミノフスキークラフトなら、大気圏外への上昇も容易い。

 

(これまで数度の警告はしてきた。乗組員(クルー)は大丈夫なはずだけれど。)

 

直接見て回る訳にはいかないので、部下の仕事ぶりを信じるしかない。ザクやガンタンクの固定などで不安がないと言えば嘘になる。しかしこの艦は単独で大気圏外への離脱可能に設計されている。そして空気のない大気圏外は、高速で移動可能だ。燃料を消費するとはいえ、拠点間の移動には最適である。この離脱方法がなければ、慎重なマチルダは北米での陽動作戦など引き受けたりはしなかった。元々、本艦には逃げ道が確保されていたのだ。

 

「目標は太平洋の西端、日本の米子ベース!」

 

追撃を図ったガウを空振りさせる。それもまたハワイの戦力を探る作戦の一環でもある。敵を背後に置き去りにして、加速した〈ペイルホース〉は衛星軌道へと脱出を果たした。

 

 

 

 

 

—日本・ヤシマ重工—

 

「お待ちしておりました。ゴップ提督からお話は聞いております。」

 

日本列島の日本海側に用意されたヤシマ重工の生産設備は、連邦軍の大山(だいせん)秘密基地内に設置されている。この基地の通称こそが、『米子ベース』だった。

 

ここは連邦軍のV作戦の主要生産設備である。かつてはそうだった、というべきなのだろう。V作戦の破綻により、今は新兵器の開発が進められている。〈ペイルホース〉は戦力の補充を受ける為にここにいる。

 

「用意したのは追加のガンタンク、そしてコアブースターです。」

 

「コアブースター、それは新型ですね。」

 

「はい。格段に強力になっています。パイロットの方に直接説明しても?」

 

ヤシマの重役らしきその男は、チラチラと待機しているパイロット達に視線を走らせた。

 

「ええ、勿論。」

 

マチルダは笑顔で応えてから、彼らを呼び寄せた。

 

「あなた達、こちらへ。」

 

そしてマチルダはミライの泣きそうな様子に気がついた。

 

(そう言えば、彼女の姓は……)

 

ミライの姓がヤシマである事と共に、ゴップ提督との繋がりを思い出す。なるほど、そういう事だったか。マチルダは今この瞬間まで気がついていなかった。

 

「…お嬢様、お久しぶりです。社長の事は無念です。」

 

「マツダさん。貴方もお元気そうね。それにホンダさんにイシバシさんまで。」

 

「ミライお嬢様。」

 

スーツ姿の男達が、そっとミライに駆け寄る姿からマチルダは視線を外した。セイラもハモンもイセリナも居づらそうにしている。

 

ここは謂わばミライの実家なのだ。だからこそゴップ提督は、数ある候補地の中からここを補給先として指定したに違いない。

 

(ゴップ提督は、優しい人なのね)

 

「やめましょう。ここにはみんな仕事でいるのでしょう。私も戦っているの。早く、この戦争に勝たなければ。」

 

ミライが目を赤くしている。彼女の周囲の男達の視線も潤んでいるが、マチルダは見ないふりをした。イセリナも、もらい泣きをしている。

 

「それで、この機体は何が進化したのですか?」

 

マチルダは何も気が付かない振りをしたままで、近くの男を捕まえて説明を求めた。男はマチルダがミライの再会シーンを見逃したと好意的に考えたのだろう。慌てて顔を拭くと、説明を再開する。

 

「新たにメガ粒子砲を搭載しています。」

 

「メガ粒子砲を。本当に?」

 

かつてのガンダムはメガ粒子砲を小型化したビームライフルを装備していたと聞く。ザクには未だ不可能な装備だ。しかし連邦の技術により成し遂げられたのなら、戦闘機に搭載されても不思議はないかもしれない。

 

「はい。コアファイターより大型化せざるを得ませんが、装甲や出力や推力に至るまで全てが強化されています。」

 

「凄いわ。これならジオンのMSを一撃で仕留められそう。」

 

セイラが機体を見上げて感想を述べる。確か彼女は、ミライに釣られて泣いてなどいなかった。冷たいというよりも、彼女は家族の絆のようなものに少し無頓着なのかもしれない。どこか心の内側を覗かせない為に、人とは距離を置いている所がある。

 

「評価試験では、空中からでもザクを撃破可能でした。」

 

「戦う相手が、ドムならどうかしら?」

 

「北米で目撃報告のある新型ですか。」

 

確かマツダと呼ばれていた男は腕組みして考える。アンキーの報告にあったMSで、こちらは見ていないが情報は共有されているのだろう。

 

「ある程度接近するか、連続射撃すれば破壊可能な筈です。二本のビームを撃てますからね。」

 

「いいわね。」

 

セイラはすっかりこの機体が気に入ったようだ。

 

「いつ量産されるのですか?」

 

「残念ながら量産するのには高コスト過ぎます。量産機はFF-4トリアエーズのままですよ。」

 

「トリアエーズ、それが正式名称?」

 

「いえ、愛称のようなものですかね。“その場しのぎ”という意味です。」

 

「それで“トリアエーズ”……生産現場の皮肉がよく効いているわね。」

 

マチルダは呆れた。ゴップ提督肝煎のFF-4はとんでもない名前で呼ばれているらしい。確かに、マチルダが乗りたいと思える戦闘機ではなかったのだが。軍人としては数字を追求する徹底的なリアリストである反面、人情にも篤い。ゴップ提督はそのような人物であると知れた。

 

「では、コアブースターはこれだけ?」

 

「ええ。コアファイターで訓練しないと乗りこなせないでしょう。ですからV作戦の資材の流用でこれだけですね。いずれ、連邦のMSが開発完了すれば置き換えられます。」

 

「そう、貴重なのね。」

 

「連邦製MSと連動した後継機も開発中です。期待してください。」

 

搬入された機体と資材で〈ペイルホース〉の格納庫は埋め尽くされた。ザクが八機、ガンタンクが四機、コアブースターが四機である。後部ハッチにガンペリーの保管場所は別に存在するが、艦載機用の空間はこれで埋め尽くされた。

 

「では、コアファイターは置いていくしかないのかしら?」

 

やや残念そうにミライがいう。練習機としても使い勝手がいいし、なんなら偵察用に持っていきたいのだろう。

 

「流石に装甲が薄すぎます。武装も貧弱です。お嬢様を乗せる機体ではありませんよ。FF-4と大差ないんですから。」

 

「あら、反応が軽くてFF-4には出せない性能だと思うのだけれど。」

 

「ダメです。ゴップ提督からは、ここでの生産分に対するデータ抽出を命じられていますので。」

 

「それじゃあ、仕方ないわね。」

 

コアファイターの交戦データは、MS開発に流用されるらしい。確かに大元はガンキャノンとゼロヒトガンダムの交戦データだ。きっと、貴重なデータであるのに違いがなかった。

 

 

 

 

 

—サイド3ズムシティ—

 

客室に通されたランバ・ラルは、一礼するとアイナ・サハリンに尋ねた。

 

「ガルマ様のお加減はいかがですか?」

 

「お陰様でだいぶ良く。もう死にたいとは、お考えではないようです。」

 

ラルの訪問先はサハリン家である。現在、『ガルマの赦しを得る為にアイナを頼る』という芝居を継続している。前回叩き出されたことになっているので、こうしてサハリン家に出向いて取りなしを頼んでいるという構図である。

 

「私考えたのですけれど、ラル少佐はご結婚されておりませんわね?」

 

着席をするように促しながら、アイナが尋ねる。

 

「内縁の妻がおりますが、体面上は。」

 

ラル家は名家であり、その妻もまた名家から嫁ぐ必要があるとされる。ラルとしては唾棄すべきカビの生えた話でしかないが、ハモンとの結婚は認められない。地球に亡命すれば話は別だが、名家として責任ある人々を放り出す事になる。ラルは跡取りとして、それだけは出来なかった。

 

「なら、お見合いをなさればよろしいのに。」

 

「この年で独り身です。ご冗談を。」

 

「冗談ではありませんわ。ラル少佐はご自分の立場をもっと良く理解されるべきかと。」

 

アイナの目は真剣である。戦争中である。条件の良い名家の男はより貴重になった。当主ともなれば垂涎の的である。

 

「私でさえ、何かと取り沙汰されるのです。少し上の年代には、ラル家と縁付きたい方も大勢います。今をときめく参謀本部の少佐なら尚のこと。」

 

ラルは押し黙った。

 

(評議会の席を回復した途端に、これか)

 

ハモンとの自由な生活を体験したラルにとって、昔の堅苦しい生活は肌が合わない。相手が好きとか嫌いとかではない。住む世界が違うのだ。しかし、アルテイシアの為には戻らざるを得なかった。

 

「政治とは、理由を作る技術です。」

 

ラルは面食らった。

 

「……と、言いますと?」

 

「万事、好都合という事ですわ。」

 

ラルは眉をひそめた。

 

「ガルマ様への取りなしを理由にすれば、名家を回れます。しかも“頼る側”として。」

 

「しかし、簡単に面会は叶いますまい。」

 

「その為に、お見合いという形式を取るのです。ラル少佐の本心がガルマ様への取りなしである事、知らない者はおりません。」

 

「それはそうでありましょうが、煙たがられましょう。」

 

「いいえ、だからこそ信用されます。それに相手も交流が絶えていたラル家、顔合わせは必要と認めましょう。それこそが、派閥の地固めの契機となりましょう。」

 

ラルは呆気に取られた。目から鱗である。彼はダイクン派を一から立ち上げねばならない。旧ガルマ派を糾合して多数派工作をせねばならないが、軍人であるが故に政治は不得手である。

 

「私もガルマ様も協力します。私は公式はガルマ様の婚約者という立場。ラル少佐はガルマ様への取りなしを私に頼む立場。私がお見合いを仲介しても、関係を誤解される事はないでしょう。」

 

アイナは『むしろラル少佐を見合い相手として仲介して欲しいとの声があるのです』と話を結んだ。

 

「……大義の為であれば、この身を捧げる覚悟はあります。」

 

葛藤したラルが搾り出した言葉がそれである。

 

「そう大袈裟に考えないでください。あくまでもお見合いです。結婚せよとまでは申しません。それにすぐ決めては損ですわ。」

 

アイナは微笑んだ。

 

「長く色々な方と会えば、その分だけ“味方”も増やせますもの。」

 

そしてアイナは『次のお休みはいつですか?』と尋ねる。生き生きとして見えるその様子は、どこか悪女めいた雰囲気がある。

 

「最初は、どなたがよろしいかしら?」

 

清楚な令嬢としての外見とは裏腹に、彼女は案外活発で悪乗りが好きな性格であるらしかった。

 

「あ、当分はお酒はお控えくださいね。男の方の好きな馬鹿騒ぎが、一番評判に響きます。」

 

「いやはや、参りましたな。」

 

ラルとしては、頭を掻くしかなかった。次の休日は久しぶりにクランプ達と酒に溺れる予定を立てていたのだが、どうやら品行方正に過ごすしか他に道はないらしかった。

 

 

 

 

 

—ペガサス級強襲揚陸艦〈ペイルホース〉—

 

「大尉は、本当に米子ベースで降りなくて良かったのですか?」

 

マチルダはバスク・オム大尉に話しかけた。キャリフォルニアで救出した捕虜は、彼を除き米子で降ろしていた。彼はゴーストザク中隊の行き先を知ると、レビル将軍への直訴を考えたのだ。

 

「私はレビル将軍と話をする必要がある。……それより、本当に私の面会については大丈夫なのか?」

 

「ええ。私はレビル将軍の元直属の部下です。アポは問題なく取れます。その際に、大尉が同行される事も可能でしょう。」

 

「感謝する。」

 

マチルダが仲介すれば問題なくレビル将軍との対面が叶うだろう。今はゴップ提督の派閥に移動したとはいえ、その挨拶もある。

 

「それでは、到着まで大人しくして頂けますね?」

 

マチルダはさり気なく尋ねた。彼もまたマチルダより階級は高い。口出しをされては、何かと面倒なのだ。

 

「安心しろ。艦長の指揮に口は出さん。約束する。」

 

レビル将軍との伝手があると知ったバスク・オム大尉は、マチルダには比較的礼儀正しく慇懃である。命の恩人とさえ思っている節がある。それは裏を返せば、他のクルーへの態度が悪すぎるという事なのだが。

 

(彼、どこか薄気味悪い男だけれど。)

 

マチルダは内心を押し隠した。ジオンと連邦という事であれば、彼とは戦争の同じ側だ。それに長く捕虜となれば、性格も荒むだろう。勝利したギャビー大尉は興奮で人変わりしていたが、敗北し虜囚となる事もまた人に変化を強いるに違いない。

 

「海中に敵です。二時の方向。」

 

暫し物思いに耽っていると、オペレーターが警告を発する。

 

「やはり来たわね。高度を上げて。」

 

オペレーターに指示を与えてから、マチルダはブライトに向き直る。

 

「警戒中のコアブースターに通達、対応可能か探らせて。」

 

テスト飛行を兼ねて、コアブースターは展開済みである。ミライとイセリナの組み合わせだ。経験者とルーキーを組み合わせる必要があり、ハモンがセイラを強く希望したのだ。

 

「ミライ少尉、艦長からの指示だ。ゴッグへ対処せよと、やれそうか報告を。」

 

通信を担当するブライトの声が響く。ミライはイセリナの技量には太鼓判を押していた。マチルダとしてはイセリナの技量に若干不安なものを感じていたが、シミュレータの成績は良好である。

 

(パイロット候補生で通すには、出撃させて経験は積ませないと)

 

イセリナもまた戦っている、お客さんでは意味がないのである。

 

『コンタクト!敵MSはゴッグ、四機です!』

 

ミライから通信が入る。

 

「四機も。」

 

マチルダは些か慌てた。精々、一機か二機だと考えていたのだ。

 

「そのままやらせてやれ。空から狙うこちらが有利だろう。」

 

バスク・オム大尉の冷静な声が響く。

 

(彼としては適切な助言、なのでしょうね)

 

マチルダは好意的に判断した。有り難く従う事にする。

 

「可能なら迎撃を。支援が必要ならセイラとハモンを出すわ。」

 

「ミライ、やれるな?」

 

『私達でやれます!』

 

その言葉と共に、ミライはイセリナを従えてゴッグに挑みかかった。ゴッグには魚雷のみでミサイルの類はない。海面に腹部のメガ粒子砲を出している。それは立ち泳ぎのような背泳ぎのような珍妙な格好である。メガ粒子砲を水中で放つ事はできない。そこがミライのつけ目だ。

 

『いけるわ』

 

ゴッグはメガ粒子砲でペガサスを狙う事だけを考えていた。その為に待ち伏せていたのだろう。恐らく、海面スレスレの視界では〈ペイルホース〉しか見えていない。

 

(貴方達には、こちらが見えない。怖くて仕方ないでしょう。だから早く、〈ペイルホース〉を撃つ事だけ考えているのね。)

 

ミライにはゴッグのパイロット達の戸惑いが分かる。ペガサスは見えていても、高速で飛翔するコアブースターはどうか。仮に母艦から存在を知らされていはいても、そう簡単に狙えるはずがない。ゴッグのモノアイが、敵を探そうと激しく動く。だが遅い。既にその無防備な腹を狙って、横合いからコアブースターが襲来している。

 

『そこ!』

 

ミライのコアブースターのメガ粒子砲が放たれた。一撃に留まらず、容赦なく連射される。後続のイセリナのコアブースターも別のゴッグを狙った。コアブースターが通り過ぎた直後に、二機のゴッグが爆散した。ともに撃破である。

 

『呆気ないものね。でも、これならやれる。』

 

残る二機のゴッグは慌てた様子で逃げようとした。しかしその判断は遅い。彼らは急速潜水出来ないのか、或いはそれを思いつきもしなかったのか。海上に居残った為に、忽ちミライとイセリナに狩られた。彼女達は更に一機ずつスコアを伸ばした。それは安全で的確な狩りだった。正にイセリナのような初心者向けである。

 

「装甲に自信がある機体ほど、そこを撃ち抜かれると脆いものだな。」

 

バスク大尉は結果をそう評した。マチルダも同感である。

 

「コアブースター、使える機体ですね。」

 

「空からメガ粒子砲が連射出来るなら、ジオンのMSを地球から駆逐するのも容易いな。」

 

MSは空を飛べない。空を飛べない以上は、これだけの火力を持つ戦闘機が出現したのは脅威だろう。

 

「良くやったわ、二人とも。帰投しなさい。」

 

『まだ、どこかに敵の母艦が潜んでいる筈です!』

 

ミライが珍しく抗弁する。彼女も血に酔ったのだろうか。そこでマチルダは気がついた。違う。実家の為に、少しでもこの海域の安全を確保したいのだと。

 

「潜水艦は海中にいると手が出せないわ。こちらも先を急ぎましょう。」

 

『了解、帰投します。』

 

ミライが戻れば、ミライに付き従うイセリナも戻る筈である。マチルダは息を吐くと、指示を下した。

 

「コアブースターを収容し次第、オデッサ方面へ移動します。離脱の準備を。艦内にも弾道飛行の警告を発して。」

 

「「了解」」

 

オペレーターの返答を耳にしてから、マチルダはバスクに向き直った。そして悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「座席にしっかりと体を固定してください。本艦はこれより衛星軌道へ至る弾道飛行を行います。固定しないと、振り落とされますわ。」

 

 

 

 

—ソロモン要塞・司令室—

 

「来たか、シャア!」

 

シャア・アズナブル大佐が司令部に入室すると、大音声が出迎えた。その声の主も巨漢である。

 

「は。お待たせしました、ドズル閣下。」

 

敬礼してみせる赤い彗星に、ドズルは乱暴に手を振る。

 

「お前は特別だ。そう畏まらんでいい。」

 

そしてドズルは声を潜めた。

 

「北米司令の、ガルシア・ロメロ少将が戦死した。」

 

「ガルマ大佐の後任が、もう戦死されたのですか?」

 

「そうだ。」

 

ドズルは再び声を大きくする。

 

「そこで貴様に北米へ降りて貰う。独立戦隊として暴れて来い。」

 

「北米を、私の遊び場にしてくださると。」

 

「それよ。」

 

ドズルは二ヘラと笑った。その表情にはロメロへの弔意などかけらも無い。

 

「まず戦果を出して味方の士気を挙げろ。北米の弛んだ前線に喝を入れるのだ。」

 

「……それで上司となる北米司令官の後任は、どなたに?」

 

「貴様に権限を与えてやる。ロメロ少将の副官に指示を出す権限だ。その命令は、ロメロ本人の名で発令される。」

 

「その様な越権行為、大佐である自分に許されるのでしょうか?」

 

「参謀本部も承知の話だ。死んだロメロに責任は何もかもおっ被せる。それならいっそ、死人の方が使い勝手が良いだろう。」

 

「では、全てにおいて私の独断専行が許されると?」

 

「北米の戦力活用については、許可する。ただし参謀本部の指示を妨げない限りにおいてだ。つまり、戦術次元に限られるな。」

 

「それで私は、どなたに報告すれば?」

 

「それがな」

 

とドズルは区切った。

 

「キシリアの配下のマ・クベだ。オデッサにいる彼奴がお前の直属の上司となる。」

 

「マ・クベ大佐でありますか。」

 

「キシリアの部下にお前を預けるのは、忸怩たる想いがある。が、地球の指揮権の全部をマ・クベに持っていかれるよりはマシという事だ。これも痛み分けよ。」

 

「了解しました。」

 

「……で、ここからは俺の独り言だがな。」

 

ドズルは再び声を潜めた。

 

「参謀本部は北米に連邦を引き込んで、泥沼化させてから遺棄して荒廃した北米を連邦に押し付ける方針でいる。しかし、それはあまりにも惜しい。貴様もそうは思わんか?」

 

「自分も、むざむざ敵の手にくれてやるのは好みではありません。」

 

「それよ!」

 

我が意を得たとばかりにドズルは吠えた。

 

「ならば、ジャブローの攻略ルートを探ってくれ。」

 

「ジャブローでありますか?攻略作戦は延期されたと聞いておりましたが。」

 

「延期した。しかし北米がジオンの帰属である内に攻略の糸口を見つけておかねばならん。安心しろ。これも俺からギレン総帥に話は通してある。」

 

「その様な意図でありましたか。」

 

シャアとしては、北米を守る責任を負わされるよりジャブローを探る方が余程いい。ドズルの意図も、北米に敵を引き入れるからこそジャブローが手薄になるとの判断だろう。戦略次元の戦術次元への応用である。それはドズルの得意技なのだ。

 

「貴様への花向けに、最新鋭機を用意した。宇宙では使えないが、地球では役に立つはずだ。」

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございます。
今回は構成と味付けに悩んだ回でもありました。

北米は“勝って離脱する”構図とし、ペガサス級の単独大気圏離脱能力を活かしました。ジャブロー離脱時のイメージです。

ゴップ提督、ヤシマ重工、米子ベースといった要素も、この流れの中で自然と組み込まれています。コアファイターからコアブースターへの強化も当初からの構想通りです。

庵野プロットでは軽キャノン輸送機としてGファイターが描かれていますが、本作では時系列との兼ね合いからコアブースターを先行投入しました。

またパンフレット年表では北米はオデッサ後に失陥するため、その流れに繋がるようジオン側をやや不利に描いています。そして、ここで赤い彗星の登場となります。

次はいよいよオデッサ戦へと繋がります。どのように収束していくのか、お楽しみ頂ければ幸いです。

第09話「戦域離脱」の読後の感想や要望に最も近いものを選んでください。

  • マチルダの判断が良い
  • コアブースター強すぎ
  • 海戦描写が良かった
  • 政治パートも面白い
  • シャア登場で期待上昇
  • 戦略描写が好み
  • 戦術の説得力がある
  • 少し情報量が多い
  • 戦闘もっと見たい
  • 会話劇が良い
  • 全体的に満足
  • 【要望】戦闘描写増やして
  • 【要望】シャアの出番増やして
  • 【要望】キャラ心情を増やし
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